ボンクレーが『ときメモ2』の世界に転生したようです 作:越後屋大輔
さて、この喧騒を一人冷めた目で見ているお客がいた。ファルダニアである、ねこやのパンは材料に牛乳も使っているのでエルフという種族柄、徹底した
「ご馳走さま、今日も美味しかったわ」
「ありがとうございます」
「ところでこの店、ライスの持ち帰りはないの?」
「まあ、メニューには載せてませんがあるにはあります」
「…あるの?」
「焼おにぎりでしたら持ち帰り用にお出しできると思います」
「じゃあそれちょうだい、今いる町の料理ってどれもあまり美味しくないの」店主は常に余るくらい炊いてあるご飯とパンを準備しながら苦笑する、こんな日は大抵いつも以上に料理が出るのを長年の経験で知っているからだ。
その頃どちらの世界でもない、いわば第三の異世界に数年前転移した
仕事が一段落した昼頃だった。駅舎にある元宿直室で今は自分と妻の住居スペースのど真ん中にいきなり現れた例の扉、この世界には魔法が殆ど普及していない為匠自身どうしていいか見当がつかない。そこで唯一自分の出自を知っていて、いつも何かと世話になっている駅長に相談する事にした。
「ふむ、悪いモノではなさそうじゃな」駅長は扉を一瞥して匠にこう告げる
「タクミ殿、私は扉の先へ行ってくる。いざという時の手続きは既に済ませてあるからな、後は頼むよ」
「危険ですよ、駅長」匠は制しようとしたが
「ナーニ、心配せんでもいい。悪いモノではないと言ったろう、これでも私の勘はよく当たるんじゃよ」駅長は扉を開けてその中に入っていく、そして扉は閉まると同時に消え失せた…。
「いらっしゃい」扉の先は料理屋であった、駅長はテーブルを見渡す。お客らしき人々の中には馴染みのある獣耳の亜人もいたが一方でおとぎ話にしかでてこないようなエルフやドワーフ、
「失礼、私はハーパータウンの駅長です。実は駅舎に突然現れた扉を開けてきたのですが」駅長は店主と思わしき料理人に自らの事情を説明する、駅長と聞いてアレッタと常連達は?顔になりあれだけの騒ぎが収まった。
「ハーパータウンとかいうのは聞いた事ないのう。そこのお前さん、駅とは一体何じゃ?」お客を代表してアルトリウスが駅長に尋ねる。すると全員の頭の中にこの店のウェイトレス、クロの声が響く。
(駅とは公共の乗り物の停留所らしい、店主達の世界にも存在する。その男は私達とは別の世界からきたと思われる)初めての感覚に戸惑う駅長を座らせた店主は扉と店の秘密を駅長に明かす。
「そうですか、つまり私は第三の世界からやってきたようですな。ときに店主、『ナゴヤ』という言葉に覚えはありませんかな?」
「名古屋ですか?この国にある地名の一つですがそれが何か?」
「イエ、大した事では。それより私が来た時、皆さん何やらモメていらしたような…」
「そうなんです、ホンット下らないんですけど」茜はさっきまでの騒動の原因を駅長に愚痴る、全て話すと少しは溜飲が下がったようだ。
「そうですか、では私も用意して頂きたいサンドイッチがあります」
「何を差し上げましょうか?」
「オグラサンドイッチというのですが、ございますかな?」
「う~ん、作れはしますがパンに挟む材料は買いに行かないと」
「じゃボクがひとっ走り行ってくるよ」茜は店の裏口にむかう。
「茜ちゃん、悪いね。もう従業員じゃないのに」手を合わせて茜に詫びる店主。
「いいって、いいって。ついでに人手も連れてくるから」そう告げて茜は一先ず店を出ていった、彼らが互いの事情を話し合っている内に騒動が復活した為である。
「ああもう!食べれば分かるわよ。アレッタ、このわからず屋にメンチカツサンドをお願い!」
「ならばこっちはエビカツサンドだ!この小娘に渡してやってくれ!」
「オーイ、テリヤキのサンドとやらを頼む」
「こっちはロースカツサンドだ、どうせテリヤキサンドの方が旨いに決まっとろうがな」
「僕には焼きそばパンを下さい、ソース味の麺とは興味深い」
「では拙者はナポリタンドッグを貰おう、
「ええ、是非に」
「…そこまでいうなら食べ比べてみればいい、そうすればハッキリする」
「望むところです!すみません、フルウツサンドをカスタアドと生クリイムで一皿ずつ下さいな」次々にに注文が入る、予想の範囲内とはいえアレッタもクロも料理は苦手なので今のところ店主一人しか作り手はいない。
「だから、何であちしが厨房手伝わにゃならんのよ?自分の店だってあるのよ!」
「そう言わないでよ、これも緊急事態って事でさぁ」元ねこやの従業員、藤崎忍は茜にボヤいている。今の彼は自分の店を持っていて今日も営業していたのだがよりによって、一番忙しいランチタイムに茜が無理やり引っ張ってきた。最後は忍も折れて副店長の夕子に店を任すと連絡を入れた後、久し振りに茜と三人でねこやの厨房にて腕を奮う事となった。
ようやくサンドイッチ戦争が終わり、忍は自分の店へ、茜は夫や子供と暮らす家へそれぞれ去っていく。駅長はとりあえず自分達の世界の通貨で代金を支払い、扉からでて元いた駅舎に帰ってきた。
「駅長!ご無事でしたか。あ~よかったあ」匠は駅長の姿を見て安心してホッと胸を撫で下ろす。
「タクミ殿、ご迷惑をおかけした。詳しい話はツバメの店内でしましょう、それとコーヒーを淹れてくれんか?ちょうどお土産もあるのでな」駅長は匠に小倉サンドを振る舞いつつ扉の向こうの異世界食堂について話して聞かせる、そこは正に彼が以前いた世界にある店だった。
「して、タクミ殿は帰りたくなったかね?」
「いえ、ニャーチの事もありますし…」匠の妻、
「じゃ七日後にあの扉はまたここに現れるんですね」
「ウム。次回はタクミ殿も訪れたらよかろう、ロランド君も最近では営業中のツバメを切り盛りできるようじゃしな」そして七日後、匠一行はツバメを閉店してからねこやにやってきたが、それはまた別の話。