ボンクレーが『ときメモ2』の世界に転生したようです   作:越後屋大輔

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ある日のSunnylight

 Sunnylightの朝は結構早くAM9:00には開店する、店長の忍の出勤は大体その前から翌0:00の閉店後の後片付けまでだが毎日という訳ではない。朝は兼業主婦で副店長の夕子に一任して午後から出勤する事もあれば、朝から出勤して夜を信頼できるバイトリーダーに託して夕方には帰宅する日もある。

 

 その日は遅番で出勤した忍、明日が平日の為か今日のバータイムはお客が少ない。日が落ちた頃に訪れたやや長めの髪に切れ長の目をしたイケメンが一人、カウンターの端でチビチビと呑んでいるだけである。しかも

 「注文する時以外話しかけないでいただけますか?」と言われた。だから忍一人でも充分店が回っている、そこへカランコロンと来客を伝えるカウベルが鳴った。

 「よぉ忍、一杯いいか?」高校時代からの友人、早乙女好雄が来店してきた。忍とは違う高校出身だが当時従姉妹の詩織らを通じて知り合い、以降は良い友人関係を築いて今に至る。

 「好雄?アンタが来るなんて珍しいじゃない、ほむらと何かあった?」忍はカクテルを差し出しながら尋ねる。

 「イヤ何、ちょっとした夫婦喧嘩でな」バツが悪そうに答える好雄。何でも某業者から赤井果樹園にきんかんの発注を貰えたのはいいがほむらが八キロと百キロを聞き間違えて収穫したモノが大量に余ってしまい、その件で好雄が注意すると逆ギレされて殴る蹴るの暴力を奮われここへ逃げてきたとの事だった。

 「全くあのバカは…」呆れ返る忍、そこへ再びカウベルが鳴り高見詩織が店に入ってきた。

 「忍ちゃんこんばんは、あら好雄君?」

 「詩織ちゃん一人か?公人はほったらかしかい?」

 「今日と明日は公人が休日よ、だから子供任せて呑みに来ちゃった」

 「夫婦で畑違いの職ってのも大変よね」忍が果実酒をサーヴしながら話に入ってきた。公人は博物館で学芸員を詩織はデパートの美容部員と全く違う職種の仕事なので休日が中々合わないようだ。

 「まあ、私なんていい方よ。ああいう仕事って離職率高いし、意外に結婚とは縁遠いもの」

 「確かに既婚者のイメージないわね」

 「そういえば忍ちゃんってお化粧しないのよね」

 「似合わないの解ってるからよ、オカマだけどゲイじゃないしね」

 「そうでもないわよ、今度メイクしてあげよっか?」

 「アンタねぇ、あちしこれでも一児の父親なのよ」

 「お二人さん、俺を忘れてないか?」さっきからいとこ同士の気兼ねない会話に入れなかった好雄がようやく突っ込む。

 「あら、まだいたの?好雄君」

 「酷いな詩織ちゃん(泣)」

 「冗談よ」イタズラっぽく笑う詩織。

 「そういえば好雄、さっきの話だけど」忍が真面目な表情になって詩織が来る前の話題を掘り返す。

 「ああ、きんかんの余剰分の件か」

 「四、五キロだったらあちしが買い取ってもいいわよ」

 「ホントか?」思わずカウンターの椅子から立ち上がる好雄。

 「ええ。果実酒作りに必要だし、ウチ以外のバーや居酒屋にも多少コネがあるからそこにも話してみるわ。こっちは確約できないけど」

 「イヤ。少しでも捌ければ助かる、ありがとう忍!」好雄は忍の手をとり感謝してグラスに残っていた酒を一気に煽り帰宅していった。

 「あいつ大丈夫かしら?帰った途端またDV食らわなきゃいいわね」

 「それなら心配ないでしょう」先程のイケメンがボソッと呟いた気がした。

 「お客さん、何かおっしゃいました?放っておいてスミません、つい話し込んじゃって」詫びる忍にそのお客は

 「いいえ、それは私からお願いしたのですからお気になさらず。それよりこれと同じカクテルのお代わりをお願いします」

 「はい、少々お待ちを」男からグラスを受けとり再びカクテルの準備をする忍の耳に自動車の停止する音が聞こえた。窓越しにその方向を見ると公人の自動車である、詩織を迎えに来たらしい。

 「私も帰るわね、幾らだったかしら?」

 「身内料金でいいわよ。今度は昼間、家族で来てちょうだい」

 「ええ、そうするわ」詩織は自動車に乗り込んでSunnylightを去っていった。

 

 帰宅した好雄を待っていたほむらは玄関先で土下座するという意外な態度に出た。

 「オ、オイほむら。ど、どうしたんだよ一体?」

 「好雄すまねぇ!悪いのはあたしなのについ、カッとなっちまって」平身低頭を繰り返すほむらを好雄は責める気にならなかった、というより始めから責める気などない。

 「けど、どんな風の吹き回しなんだ?」

 「さっき寝てたらバアちゃんが夢に出てきてスッゲェ叱られた、今度やったら地獄に引き摺り下ろすって!あたしこれからはいい妻になるから。マジ離婚とか勘弁してくれ!」

 「しねぇよ!それよりお婆さんに謝らないと」二人で仏壇に手を合わせてほむらの祖母、ひとみに詫びを入れる夫婦だった。

 

 「鬼灯(ほうずき)様、お待たせして申し訳ありませんでした」

 「私は一向に構いませんよ、現世のお酒もオツなものですから」この日閻魔大王の第一補佐官、鬼灯はほむらの祖母である部下の赤井ひとみとこちらの世界で破嵐万丈と対面を果たしてきた。当初の目的が思いの外、早く達成できたので孫の様子を窺いたいというひとみの頼みを聞き入れてその間鬼灯はSunnylightで呑んでいたのだ。

 「今思い出しましたが、孫の結婚式の邪魔をしたのもあいつらの仲間でしたね」

 「つくづく厄介な連中ですよ。一刻も早く現世から消して地獄で処分しましょう」二人が話しているのは勿論メガノイドの事である、奴らが比喩ではなく地獄に堕ちる時もそう遅くないのかもしれない。

 

 

 

 

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