「盃を交わすと兄弟になれるんだ」
「兄弟〜?ホントかよー!」
ある
「海賊になる時同じ船の仲間にはなれねェかもしれねェけど俺達4人の絆は兄弟として繋ぐ!」
木々に囲まれ世の中から切り離されたような空間で盃を手に取った。
「どこで何をやろうとこの絆は切れねェ!」
少年は笑う。麦わら帽子の少年も、シルクハットを被った少年もそれに倣うように盃を手に取ると音頭をとって居た少年が動かない1人の少女に声をかけた。
「……──お前も早く取れよ」
深紅の髪に光を浴びながら少女が顔を上げる。
艶っぽさは無いがほんのり染まった頬と透明感のある肌、そしてぱっちりとした目。その姿は物語に出てくる恋する乙女の様な少女だった。
ぷっくりと膨らんだ形の良い唇をゆっくりと開きながら鈴のような声で少女は少年達に告げる。
「あ、兄弟盃要りませんわ」
少年達は声を揃えて叫んだ。
「「「なんでだよ!!!」」」
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その少女は生まれた頃から勝ち組の人生を歩んで居た。いや、生まれる前からと言った方が正しいかもしれない。
少女は煌びやかな王宮の一室で泣きながら目を開いた。喉が焼ける様な大声を出して、母親の体からこの世に生まれて来たのだ。
「(……転生キタコレ)」
そう、少女は前世の記憶を持って。
少女はルビーという名を貰い、健康に育った。見目麗しく、すくすくと。
王女という立場だと理解したのは妹が生まれた頃だった。わずか1,2歳差で生まれた妹にはナントカネットという奇抜な名が付けられた。
そして気付いてしまったのだ。
この世界が前世でとことんまで愛した作品、『ONE PIECE』の世界だと言うことに!
サリーという家名自体はどこにでもあるかもしれない。だがフルネームはどうだ。
サリー・ナントカネット、だと…?その奇抜な名前は
勝ち組だった。尊い推しを知った前世と、尊い推しが近くにいる今世。完璧勝ち組路線まっしぐらだった。
そして気付いてしまった。
死んでからもう一度、というか完璧生身で推しに会えるこの幸福と、推しを苦しめる一因となる王族の立場に…!
「(会いに行くしか、無いよね!)」
ビバ!幼少期ターイム!と屋敷を飛び出す事約30回目、ようやく脱走出来たのは計画し始めた2歳の頃から6年も年月を重ねた頃だった。警備兵は学んだ、脱走癖のある王女に最大限気を配る事に。
考え無しの行動が確実に自分の首を絞めていたわけだが彼女はそんな事気にしない程浮かれていた。心の中で叫んでいた。「(サボのお嫁さんに、俺はなる!──いやむしろ推しが嫁!)」と。
さっさと街を抜け出してコルボ山でさ迷う事2日、彼女はとうとう山賊の家を見つけた。元々王宮内で過ごす体力のない小娘が2日もろくな準備なしで山を歩き回ったらどうなるだろうか───倒れた。
エースと言う少年に拾われ、必死にサボの元へ行きたいが為にエースに付いていく日々が続くこと約3ヶ月。遂に彼女は辿り着いた。
『神様ありがとう!!!』
教育で身につけた礼儀作法?そんなものは忘れて感動に打ち震えた。同居人の唐突な発作にエースは思わず引いたが。
1人の
1年、また1年と年月を重ねていった頃には少年達は少女の発作に慣れていく。そんな中新たな少年が現れた。
モンキー・D・ルフィ。
どこかの誰かと同じようにエースを追いかけるその姿は既視感を覚えてしまう。おかしい、どこかで見た事あるぞこの光景…。
ルビーは彼らの行動に口を出さなかった。せいぜいサボに対して愛をこぼしたり逆プロポーズを仕掛けたりするくらいで。そう、せいぜいそのくらい。戦いもしなければ海賊貯金を貯めるわけでもなく。
一悶着あれどルフィを受け入れる頃にはルフィも同居人のルビーの行動をそういうものだと認識しだしていた。唐突に何かをし始めるのも、一種の発作だと。
流れは彼女の言う原作と同じように流れた。そうして今日この日、兄弟盃を交わす日へと辿り着いたのだ、が。
「……おいルビ〜さんよォ…テメェ何を言った…?」
ピクピクと青筋を立てながらエースがルビーに向く。ルビーは得に思い詰めた様子も無く答えた。
「だから、兄弟盃は要りませんと」
「はぁ〜〜〜??」
エースがルビーに対して喧嘩腰なのは出会った頃からずっとなので他2人も特に気にした様子は無い。
サボに会わせてしまった頃からサボのセコムを務めているエースが盃を交わそうと提案しているのにも関わらず、だ。ルビーはキョトンとした顔でエースを見た。
「お聞きなさい死にたがりのネガティブ野郎」
「お前って奴はぁあ!」
「私の夢が何かご存じ?」
ルビーはザッと肩幅に足を広げて胸を張り堂々と宣言する。
「私の夢はサボのお嫁さんになる事よ!!」
鳴呼、いつもの発作が始まった。
話題の張本人のサボでさえ苦笑いを浮かべてなるべく関わらないようにしている。これで嫌われてないだけ奇跡だろう。
「兄弟になれば結婚出来ないのでは無くて?」
「乾杯ッッッ!」
エースはやけくそ気味に叫んでサボとルフィと兄弟になった。頭が少し…いやだいぶ……かなりイカレてる同居人を無視して。
ゴア王国の第一王女サリー・ルビーは今日も推しの笑顔を見れた世界一の幸せ者である。
==========
山の中を走り回る程の体力は無いルビーは一足早く家に戻っており、三つの足音が聞こえた瞬間扉を開けて微笑んだ。
「おかえりなさいサボ!ご飯にする?お風呂にする?それともわ・た──耳がいたいいいい!」
「なぁ…ルビーって学ばないのか?」
帰るなり戯言を抜かすルビーにセコムが動く。耳を引っ張られた痛みに叫ぶがこれも日常の風景。
思わず言った最年少ルフィからの純粋な言葉に想像以上のダメージを受け、ルビーはヨロヨロと立ち上がりながらエースに向かって吠えた。
「フフフ…邪魔をするのね私の恋敵」
「やめろ、その変な設定に俺を巻き込むなッ」
「だがしかし!私は負けなくてよ!そう、それが、この私だから!」
「うるせぇよ!」
「私はサボエーもエーサボも認めないわ!せいぜいマルエーになる事ね!」
「あァ? 1度王宮に戻って勉強し直してこい!この国の言葉で喋ってくださいー!」
「生まれてこの方他国と交流はしていなくてよ!」
二人の喧嘩をBGMにサボとルフィが夕飯の支度をする。キッチンから運ばれてくる大皿には油っこい肉の塊がいくつも積んでいた。
「これだから、これだから王女って奴は…!」
「これが人気投票上位に入り込むのだから驚きだわ…。こんな子供に票を入れるくらいなら主人公やサボに入れれば良いのに…」
「また始まった意味不明語」
「卑屈男は黙っていらして」
「アァン?」
「お前ら飯だぞ」
「サボが言うのなら仕方ないわ愛しています」
サボが一声かければルビーはちょこんと正座する。エースは無駄にイライラしただけで終わり、サボに同情される事となる。いつもの事だ。
「──しかし毎回お肉の焼いた食事…些か健康面に対して配慮が足りてないのでは?」
「王族の食事と比べてもらっちゃ困るんだが」
「このままではサボの肌や髪が痛むことに…」
「そっちかい!」
天然というか呑気というか人を無意識に苛立たせることに才能を全振りした様な少女に、山賊の長ダダンが思わずツッコミを入れる。
男3人や山賊達と違い『これは私の花嫁修業よ!』などと言いながら家事を手伝ってくれるのは重宝した。時々とんでもない失敗があれど家事を担うルビーの意見を無下には出来ないが王女ってなんだっけ、と考え込まないといけない事がしばしばある。
ルビーの身分を聞いた時は驚き悩んだが今では突拍子も無い行動に悩む方が多い。
「お前は悩みなさそうで良いよなぁ…」
思わずポツリとこぼしたエースの言葉にルビーは反応した。心外だ、と。
「私にも悩みくらいありましてよ?」
「ハイハイ…どうせ『どうやったらサボのお嫁さんになれるのかしら』……ってぇ悩みだろ」
「それが大半を占めていますけれど他にもありますわ、全く…親などで悩んでいるのが貴方だけと思わないことよ」
その言葉に思わずエースが固まった。
「お、や……だと?」
「あら?私はご存知の通り王族を親に持って──」
「違ぇよ!俺がどうして親の事で悩んでるって」
「エースの親が海賊王なのは知っているわ」
何で、という視線がルビーに突き刺さる。
エースは言ったことが無かった。自分の弱みを(自分のと言うよりサボの)敵に晒すことを嫌っていたからだ。
「淑女の嗜みよ」
「ンなわけあるか!」
呆然とする間も無く告げられた言葉にツッコミを入れる。今で秘密にしていた事を簡単に気付かれた理由が淑女の嗜みだと!?ふざけてる!と。
「ここにいる子供の親は普通では無くてよ」
「ハァ?」
「私、どうにも気遣いというものが苦手なの。せいぜい苦労する事ね」
「もう充分苦労してるよ」
思わず遠い目をしたエースにルビーは告げる。
「そして私はサボと結婚したいわ!」
「うるせぇな!させるかよ!」
思わず背中にサボを庇ったエースにこの泥棒猫!と叫んでいるが出会った年数的にお前の方が泥棒猫だと言い返す。
「ルビーはなんでそんなにサボが好きなんだ?」
「バッ…!」
「よくぞ聞いてくれたわルフィ!──御褒美に私のお肉をプレゼントよ」
「ダメだ!ルビーはいっつもあんまり食わねぇから自分で食べろ!」
「……………チッ」
私には多すぎるのよ、とブツブツ呟きくとルビーは語り始めた。己の推し愛を。
「まずはその兄弟に対する優しさね、差別意識も持たない姿はこの国の腐った大人に爪の垢を煎じて飲ませたい位…いえ、飲ませるのすら勿体ないわ!もはや崇めるべきよ!そして優しさだけでなく冷静さも群を抜いているのよサボは…!謙遜することが多いけれど仲間を大切にする熱い想いを秘めた真っ直ぐな瞳に幼いながらも私は夢中になったわ!敵対者に対して容赦がないところも素敵よね!はぁ…髪を伸ばしている姿も捨てがたいわ…、そのキラキラ太陽に反射する黄金色の髪を梳いてみた」
「「「ダダンおやすみ!」」」
「に、逃げるんじゃ無いよ!話振ったんならアンタら自分でなんとかしな!」
「ん?ナントカネットはこの私の妹よ!」
「誰でも良いからこのガキどうにかしておくれ…」
夜更かしは美貌の大敵、シンデレラタイムよ!などと言いながら食器を片付けに行くルビーにダダンは思わず遠い目をする。
精神的に鬼の子やガープの孫より疲れる、これが王族なのだからこの国終わったな、と。
「アンタが王女だって聞いた時は驚いたけどなんだって高町からこんな森の中まで来たんだ…そんなに向こうの生活は劣悪な環境だったのかい?」
気まぐれで聞いてみると珍しい事にルビーは真っ直ぐな目でダダンに向き合った。
「勉学などに不満はありませんでしたし苦労もして無かったわ、私が天才だからね」
あくまでも前世の基礎知識の産物なのだが本当の事を言えるはずも無く、ルビーは堂々とした態度で答える。
「しかし日夜視線に晒されて窮屈と感じた事はいくらでもありましたわ。ですが、些細な問題よ。ボア・ハンコックレベル等という事は言いませんけども顔だけは自信を持って言えますの、美形だと!」
「あ、うん……まぁそうだけど」
ダダンは思わず呆れた声で返事をした。周りで聞いている他の山賊もボソボソと残念な美形だ、などと口にしている。
「将来性の不安、この国の仕組みへ不満、それを無視すれば特に問題もない生活…。ですが私の好きな言葉が一つありますの」
「どうでもいいけど問題だらけじゃないか……」
「『恋はいつでもハリケーン!』と!」
「やっぱりな。読めてたよ」
ルビーはニッコリ笑った。
「私はサボを愛していますわ。ですが、本来私はサボの隣に居れるような人間じゃありませんの」
「そりゃ身分がね」
「身分、といより存在が。しかし私はこの世界の流れが少し壊れようとも大きく壊れようとも止まりませんわ」
お互いの考えてる事が少しズレてる事に気付いたダダンは首をかしげる。
「壊されたく無いのなら私をこの世界に産まなければ良かったのですから」
おやすみなさいとルビーが言って子供部屋に入る姿を見送った。
「ルビーも寝るのか?」
「あなた方は起きてるのね、私は寝るわよ」
「おう、おやすみ」
まだまだ元気が有り余ってる3人に一声かけてルビーは布団にくるまり決意を固める。
「サボは、必ず守ってみせますわ……」
彼女の最優先は昔からずっとサボだ。
原作はなるべく守るつもりだが元々ここにいる時点で壊れている。なら、原作に触れない部分で優先する。
「おやすみなさい…主人公達」
恋愛ものも書けるんだぞって自己主張する為のナルシスト系世間知らず主人公恋愛ギャグ小説。
評価それなりにあれば本格連載