その矢印の色は   作:恋音

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「いつもお元気ですわね」

 

「ナース!ルビー嬢ちゃんが倒れた!!」

 

 その一言で甲板が一瞬でパニックに陥った。

 

 

 見張り台にいた男は動揺で滑り落ち、椅子に座って酔いどれていい気分だった男は転倒、マルコが慌てて羽ばたき、何人かの男は聞き返した。ルビーの元に向かおうとして転んだ男を踏み抜き、武器の手入れをしていたイゾウはうっかり分解したパーツをベッドの下まで転がしたし、

 

 

 

 海賊船と言うのはバカの集まりで、肉体が頑丈なものしかいない。

 

 しかも、ここは白ひげ海賊団。

 後半の海を支配する四皇の一角で、船員も並外れた身体能力を持っている。

 

 船医はいるが外科の内容が全てで、馬鹿やったり馬鹿やったり、死ぬほど馬鹿をやった怪我の手当がほとんど。

 他の海賊船に比べてナースがいるけれど、全て白ひげのためのもの。

 

 よって船医としてのマルコは『クルーの怪我治療』か『白ひげの病』二種類のみ仕事をする。

 

 

 つまり何が言いたいかと言うと。

 

「脈! 脈あんのか!? 誰か触ってみろ!!」

「触ってる!……あ、これ自分の脈だ!!」

「血!血出てる!?どっか怪我してねぇか!?」

「血出てねぇ!どうしよう!なんでだ!!!」

 

「おい水もってこい! いや待て、水はダメだ! 溺れる!」

「じゃあ火!? 火であっためようぜ!!」

「やめろ燃やすなぁぁぁ!!!」

 

「心臓動いてるか!??」

「……聞こえない!!!」

「そんな馬鹿な……っ!いやお前そっち逆!!!」

 

 

 完全に混乱の極みである。

 戦争慣れした白ひげ海賊団の猛者たちが、たった一人の少女が倒れたというだけでこの有様である。

 

 

 そう、彼らにとって倒れるという言葉は無縁の言葉。しかも怪我もなく、原因不明。

 血を失ってるだとか、脳震盪だとか。そういう分かりやすい原因があるのではなく原因不明の昏倒。

 

 疲労?何それ知らない子。そんな男たちは、同居人の女の子が倒れた事実に錯乱していた。

 

 

「──さぁ、男ども。聞くわよ」

 

 ナースのキャシーが腕を組み、ルビーの部屋から追い出した男共を廊下に正座させた。

 

「ルビー、昨日、何回海に潜った?」

「エース2回ブラメンコ1回」

「そう、3回。ふっっっっっっざけてんじゃ無いわよこのスットコドッコイのデコ助野郎共」

 

 看護師達は冷ややかな視線を向け、コソコソと悪口を口にしている。特にブラメンコは、名前を告げ口されたからか気配を消すように視線を逸らした。

 

「風邪よ。典型的な風邪。海に何回も潜って体力を使って濡れた体、疲労から風邪になったって何もおかしくないってのよ……聞いてんのエース!特にあんたよ!」

「はい!聞いてます!!!」

 

「か、風邪って……死ぬんですか……?」

「死なないわよ!!!」

「病?そうか、これが病ってやつなのか……」

「初めて聞いたな……そんな恐ろしいもんが……」

 

 キャシーは頭を抱えた。

 

「……この船、教育の必要があるわね」

 

 そして再び、鋭い視線をエースに向ける。

 

「特にエース!!」

「ひっ……はい!」

「海で2回も拾わせて! 挙句にお姫様まで風邪ひかせて! バカなの!? 火属性の癖に周り冷やしてんじゃないわよ!!!」

「すんませんッッッ!!!」

 

 マルコが後ろでそっと手を挙げた。

 

「……キャシーさん、そのくらいで」

「あんたたち全員、酒辞めなさい!!ドクターストップよ!!!」

 

 怒号響く中、ルビーの部屋の内側から扉が開かれた。

 

「皆様、あの……」

 

 ルビーだ。

 赤い髪の毛とそう変わらないくらい顔を赤くして、咳をしながら毛布にくるまっている姿。

 

「ルビー!」

「いつもお元気ですわね……。そこまで心配せずともゲホッ、大丈夫ですので、通常業務に戻られてもよろしくてよ?」

「…………いま悪口言ったか?」

「いいえ? ゲホゲホッ、あー、咳が出ますわ、ゴホゴホ」

 

 多分ナチュラルに馬鹿にしたんだろうなと誰もが思ったが、馬鹿なので真意には気付けず沈んだ。

 

「食欲はありませんので、栄養剤をおぶち込みあそばして……。大丈夫ですわ、点滴しながら寝るのは慣れてますから。ゲホッ、あと喉の痛みがありますので、喉関係のお薬も、処方していただけると……」

「姫さん、分かったから早く横になりなよい」

「えぇ」

 

「ルビー、その、大丈夫、か?」

「もちろんですわ。このくらいなら軽いものよ」

「でもお前!今まで熱とか出したことないじゃねぇか!」

 

 エースの言葉に、ルビーは宝石の輝きのように笑った。

 

「ええ、奇跡のような日々ですわ」

 

 本当に本当に幸せそうに笑うルビーの目は蕩けるような熱を持っていた。

 

 どこか溶けて消えてしまいそうな、傷付いて溢れ出てしまいそうな。

 

 エースは思わずその手を伸ばした。

 

 

「──出禁よ!このスカポンタン!女の子の身体のやわさをその身に叩き込んでやるわ!」

「ナース長!勘弁してくれよぉ……!」

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