その矢印の色は   作:恋音

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「誰かが失礼な事を言った気がする」

 

 

「サボが死んだって…なんだよそれ」

 

 ゴア王国で行われた世界貴族を迎える聖典。そこで見たドグラから告げられた衝撃的な言葉にエースは呆然とするしか無かった。

 事態を飲み込めないルフィもだ。

 

「冗談言うんじゃねぇよ!サボが死んだなんて信じられるかッ!」

「だけど、エース!この目で見たって言ってるじゃニーか!」

 

 殴り掛かる勢いでエースがドグラを掴みかかる。ドグラとて自分の目で見たことを信じたくないが、船が燃えながら海に沈んでいく絶望を目にしてしまったのだ。万が一、億が一。そんな事を信じていた。でも、実際に起こった事を伝える事が唯一自分にできる事。

 

 

「どうしましょう…」

 

 ルビーは喧騒に参加せず、ひとり静かに部屋の隅でこれからの事を考えていた。サボが死んだと()()()事によって、物語が動き始める。ここから麦わらのルフィはあっという間に成長するのだ。

 物語から置いていかれるなんて流石に悲し過ぎる。バタフライエフェクト。それはほんの少しの違いで未来が大きく変わってしまうのだ。過度な原作崩壊はすべきで無い、そう判断したはいいが原作に関わらないなど推し作品で生きているのに勿体ない。

 

「───ッルビーも何とか言えよ!」

「え、あ、えぇ。そうね。なんとか、です?」

「違ぇよ!!!」

 

 エースの怒鳴り声でルビーの意識が浮上する。どうやらルビーの反応はお気に召さなかった様で、益々怒りが湧いていた。

 

「何でそんなに落ち着いてるんだ!」

「だって…サボは生きていましてよ!」

「だからって心配すらしねぇのかよ、お前は!」

 

 薄情な奴だと怒り狂うエースにムッとする。

 

 ──心配しているに決まっている!こんなにもこれからどうしていこうか考えて…!

 

「あ、れ…?」

「……なんだよ」

 

「私は、彼らが死なないと何故言いきれますの…?」

 

 自分の発したその言葉に色が加わる。その代わりに、顔の色が失われていった。ルビーはガタガタと身体を震わせ、顔を青くする。どこか物語のキャラだと決めつけて、勝手に死なないと安心していたのだ。

 

 ……ルビーの生きる世界は、一コマ後に無傷に戻る様な2次元の世界ではない。彼女自身がその生き証人だと言うのに。

 

「エース!答えて!」

「はァ!?」

「貴方の傷は痛い!?」

「傷なら痛むに決まってんだろ!殴るぞ!」

 

 死なない証拠なんてない。

 

 打ち所が悪ければ、ドラゴンがサボを拾わなさったら、たらればを考えればいくらでも最悪の事態が想像つく。なのに何故大丈夫だと慢心していたんだ。

 

「サボが死ぬかもしれない……」

 

 ルビーは咄嗟にエースの服を引っ張った。縋るような視線を感じ、思わずエースは不快感に眉を顰める。

 

「エース…、サボは、生きて…ぃます、わ…よね…?」

「……ッ知るかよ」

 

 エースは冷たく手を振り払った。

 失望したのだ、同居人のその盲目さには。

 

「お前は、本当に、心底馬鹿だな」

「……。そうね、世の中の事を何も知らない、呆れるほど馬鹿ですわ」

「……お前なんて、大っ嫌いだ」

「私だって、嫌いでしてよ」

 

 絞り出す様に呟いた言葉に、同じような言葉を返す。

 紅く染まった宝石はピキリとヒビを入れた。

 

 

 ==========

 

 

 

 ルフィは心底困った。

 空気を読むことは苦手とする人種だが、空気を読まなくても分かる兄の雰囲気に。

 

 元よりルフィは兄に懐いていた。同居人とどちらを取るか、と問われれば兄に着いていく事を選んだ。ダダンの頑張れ的な視線が今ならわかる。無言がきつい。帰りたい。

 

 

 本来のルフィには有り得ない事だが、史上最強に機嫌の悪い兄相手に黙ったままだった。火傷は痛まないのにキリキリと痛む胃が不思議でたまらない。

 沈黙に耐えられず、自分の帽子の赤いリボンをいじり始めた。何と情けない姿だろうか。

 

「………」

 

 それに対してエースは独立する為に作った小屋の中で泣き腫らした目はそのままに不機嫌な表情をしていた。包帯が所々に巻かれた右手には涙の跡でインクが少々滲んだ手紙が。

 

「(ルビーの馬鹿野郎…)」

 

 同居人の言う愛しのサボからの手紙。彼女だけがそれを見ていなかったのだ。

 絶賛大喧嘩中のエースとルビーは目を合わせる所か顔すら合わせない。ここ1週間、ずっとそのままだ。

 

 エースは癖のある髪をぐしゃぐしゃと掻き毟る。

 

「(なんで俺があいつなんかをずっと気にかけなくちゃならねぇんだよ…ッ!)」

 

 たとえ喧嘩だとしても頭の中をしめる人物にルビーが登場するのは気に食わなかった。生死不明のサボでも、着いて来てくれるルフィでもなく、心から腹を立てるルビーなのが。

 

 思えば出会った頃から腹を立てる相手だったが、不快に思った事は無かった。どこか大人びていて、世間知らずで、自己中心的な少女。でも彼女は決して曲がらず、いつも真っ直ぐな目をしていた。

 信じると決めたらとことんまで信じる彼女らしいが、今のエースには真っ直ぐ過ぎた。真っ直ぐ過ぎて、胸に突き刺さる。

 

 曲がりくねったエースの心はいとも簡単に壊れる。海賊王という世界で一番大きな重しに潰されかけている幼い心は。

 

「(羨ましい、羨ましい…! なんで少しの疑いなく生きてるって言えんだよ…!)」

 

 心のどこかで死んだと思ってしまったエースには、あの宝石の様な真っ直ぐな目が羨ましいと感じた。そして妬ましいと。

 心配してるだとか、死んでるかもしれないとか、後々になって浮かんでくるその思考が妬ましい。不快に感じたのは、彼女の希望的楽観では無く………純粋な信頼に。

 

 自分の方が──そばに居たのに。

 

「なぁ、ルフィ」

「なっ、なななななんだ?」

 

 焦ったルフィの返事など気にせずにエースは続ける。

 

「サボは死んでると思うか?」

 

 生きていて欲しいけど死んでいるらしい。

 真実を確かめることなど出来ずに、遺言の様な手紙を握りしめながら問う。

 

 目が合うとルフィはちょっとだけ大人びた表情で答えた。

 

「生きてると、思う。だって…──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ルビーが謎の発作起こしてない」

「ああ……」

 

 どうやらルフィの中で、同居人は人知を超えたナニカらしい。若干合ってそうだから困るのだ。

 

 謎の説得力に負けた気がして、エースは頭を押さえた。

 

 

 ==========

 

 

 俺の大事な兄弟へ

 

 火事だと聞いたけど、お前ら大丈夫か?いや、多分大丈夫なんだろうな。厄介な同居人残してお前らが死ぬわけねぇ、これは絶対合ってる自信がある

 

 お前らには悪いけど俺は先に海に出る。取り返そうと頑張ってくれたけどゴメンな。スッゲェ嬉しかった

 

 本当は、もう少しお前らに向けて色々書いておきたいけど、一番不安な事あるから伝えておく

 

 

 ルビーを、絶対守ってくれ

 

 

 あいつはまだゴア王国の第一王女らしいんだ。昔から脱走グセが酷かったらしく、今も生存してると思われている

 お前らも分かってると思うけど、ルビーってアレだろ?ルフィよりも不安だから特に頼んだ。

 

 エース、喧嘩するなよ?

 ルフィ、困った同居人は任せたぞ?

 

 

 お前らと海で逢うのを楽しみにしてる

 

 

 

 追伸

 もう一つの手紙はルビーに渡しておいてくれ

 

 




久しぶりに更新。
長らく、ほんとに長らくお待たせしました。
まだまだ更新スローペースでしょうが、良かったら首をカクみたいに長くしていただければ嬉しいです。
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