その矢印の色は   作:恋音

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「消去法です」

 

 サボが兄弟の元を去って早くも5ヶ月の月日が経過した。相も変わらずエースとルビーは喧嘩をしたままだ。

 

 無邪気な弟路線を無理矢理変更せざるを得なかったコルボ山最大の苦労人ルフィは「(いい加減にして欲しい…)」と心の中で何度も訴えまくっていた。かなり無駄な徒労で終わるが。

 ルフィがたった少しの周囲の変化で色々変わってしまっている事をルビーが知らないので、誰も何もツッコミを入れない。

 ……たまに怒りで表情がストンと抜け落ちるルフィにエースがビビるだけだ。

 

 そう、現在に焦点を当てた場合のみ基本は無害だ。未来の話など知ったこっちゃないが。

 

「なぁエース」

「なんだ、ルフィ」

「ルビーの事なんだけど…」

「……」

 

 たまに出す話題にエースが苦虫を大量に噛み潰した様な顔をする。ルフィはそんな事もう気にしないぞという強固な意思の下、一つの司令を言い渡す。

 

「仲直りしろ、とは言わねぇ!1回きちんと考えながら話せ!」

 

 童顔の助けもあり、頬を膨らませながら怒るルフィに覇気は無い。それでもエースはルフィに弱かった。必死に訴える様子に折れたのは当たり前だが兄の方。

 

「分かった、分かったって」

「約束だからな!」

 

 下手な約束をしてしまったと深くため息を吐くが現実は変わらない。エースは頭を掻きながら立ち上がる。

 

「どこ行くんだ?」

「海」

 

 大きな青を見て落ち着きたかったのもあってそう言った。俺も行く!とルフィも続けて立ち上がると、エースはその様子に少し笑みをこぼす。

 

 ──大丈夫…

 

 ほっ、と一安心した。多分、ルフィはどんな自分だろうと変わらず兄と慕ってくれるだろう。味方が居るという事はとても心強いことで、少し無茶に見えることでもやれる気がする。

 

 だからきっと、この現状だって変えられる。

 

 

 もし悪い方向へ行っても、ルフィは味方。

 

 

「(じゃあ、ルビーは……?)」

 

 

 同居人の味方は、誰なんだ。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 海に辿り着くなりエースは大きく息を吸い込んだ。崖の上からでも潮の香りは漂ってくる。

 

「気持ちーな…」

「そうだな…」

 

 なんでもない適当な話をする。

 エースはふと海面に深紅の何かを見た。

 

「ッ、ルビー!」

 

 同居人の燃える炎の様なルビー色の髪。

 浮かんだ赤は青い海に沈んでいった。

 

「(サボ…!)」

 

 やめろ、連れていくな。

 思わずそんな事を叫んだ。

 

 ルフィも咄嗟にその姿を確認したが青い海に沈んだ後だった。その青はサボの瞳とそっくりだ。

 

 エースは走った。

 走って海に向かって思いっきり飛び込んだ。

 

 悪魔の実を食べている弟が暴走して海に落ちないとも限らない、ならば自分しか助ける人間はいない。そもそもルビーは王女で泳ぎの経験なんて無いのだから、と。

 海は恐ろしい、陸とは違い身体中に水が纏うと動く事は容易ではない筈だ。

 

「(くそ…っ、だからってどうして俺が…!)」

 

 あの深紅を探してエースは泳いだ。水にいきなり入ったせいで耳がゴポリと音を鳴らし不快感に襲われた。

 

 なぜ自分が喧嘩をしている同居人の為にここまで必死になっているのか。

 

 ──イライラする。

 

「……!」

 

 後ろ姿が見えた。

 必死に手足をばたつかせているが、その姿はどう見ても泳いでいるように見えない。

 

 やっと見つけたんだと必死に手を伸ばして引っ張り上げるように腰を掴んだ。

 ゴポリとルビーの口から空気が出る。

 

「ぶはっ!」

「ゲホッゲホッ…!」

 

 海面から顔を出し息をする。

 海水を飲み込んでしまったルビーは咳き込んでいた。また溺れてしまわない様にとエースはルビーを掴んで離さない。そしてキッと目を釣り上げた。お説教の時間だ。

 

「お前ッ、何して…──」

「──一体何をしますのエース!」

 

 ……叱ろうと思ったら叱られた。解せぬ。

 息を切らし涙目で睨みつけるルビーにエースは思わず怯んだ。いやなんでお前が怒るんだよ、という言葉はぐっと飲み込んだ。

 

「やっと上手く泳げる様になったというのに…ッ!また邪魔をするのね!」

 

 あの溺れていると思った動きはどうやら彼女にとって必死に泳いでいたらしい。

 わなわなと怒りに打ち震えているルビーに対して、エースは心をひとまず落ち着かせる。

 

 ──そうだ、コイツは人のペースを乱す事が大得意で腹を立てさせるのが特技だった。

 

「なんで海に潜ってたんだ世間知らずの王女」

「……消去法を、考えましたの」

「消去法ゥ?」

 

 その言葉に首を傾げる。

 何をどう消去したら溺れかけのスイムになるのか頭をかち割って思考回路を覗いてみたい。

 

 当のルビーは気まずげな表情で視線を逸らしながらエースの腕の中で呟いた。

 

「……海の中に、サボの死体が無ければ。それはつまり生きているという事、ですわ」

 

 だから海に潜ったのだ、と控えめに言った。

 

「この海がどれだけ広いと思ってんだ!もしかしたら流されているかもしれないだろッ!?」

 

 落ち着かせたはずの感情は馬鹿すぎる理由に再び爆発を起こした。

 

 どれ程途方もない事なのか。

 どれ程時間のかかる事なのか。

 どれ程愚かな事なのか。

 

 どれ程。

 

「だって…ッ!」

 

 反論しようとするルビーを、エースは憎んだ。

 

「どれ程、心配したと思ってんだッ!」

 

 ルビーが憎い。心から憎い。

 

 宝石みたいな瞳を向けてくる所。

 後先考えない行動をする所。

 目の前の事しか見えなくなる所。

 傷付いても決して挫けない所。

 サボの為に必死になれる所。

 

「頼むから…心臓に悪い事しないでくれ…」

「でも、そうでもしないと私は怖くて」

 

 漠然とした恐怖。具体的に言えない、わけのわからない恐怖が襲うのだ、と。ルビーは震える声で訴えた。

 

「1人で…行くなよ…」

 

 エースは弱々しく呟くと、ルビーの肩に頭をぽすりと置いた。

 

 ──憎い、憎いんだ…

 

「ルビー…」

 

 出会った頃からルビーはサボが優先だった。言う事も行動も想いも。何故こうにも執着するのか分から無い。

 

「エース…──」

 

 鈴のような声はエースの心を揺さぶる。

 

「──流石に、溺れそうよ」

「だァッ!陸に引き上げてやるからちょっと黙って掴まってろ!空気を読め!俺は保護者かッ!」

「足の付かない海面で体重をかけられて浮かんで居られる程器用じゃありませんわ!」

 

 そう、揺さぶる。

 主に怒りなどの感情を盛大に。

 

 我が道を貫く同居人がそれはもう楽しそうに笑うので、エースは悩んでいた事や(くすぶ)っていた事を思考回路の中から放り投げた。

 

「(コイツって馬鹿だったな、うん)」

 

 ついでに目が死んだ。

 自分も大概読めないがもっと空気が読めない人間が確かに居た。……そうだよな、兄弟盃蹴った奴だもんな。

 

 無性に悔しい。

 

「それにしても海の中って凄い綺麗なのね、環境汚染とか全くなくてどこまでも透き通って!あ、でもゴア王国は汚れていますわ…ひょっとして世界の海はもっと綺麗な…!」

「お前心からうるさい」

「……うっ、目が、シパシパしますわ」

「海水で目を開けるからだろ」

「水の中で目を開けること自体初めてよ」

「それで潜るとか本気で馬鹿だろ」

「まずは泳ぎの練習からね!」

「諦めるわけないよなぁ…」

「もちろんですわ!サボの生存確率を高める為に、私は海を泳いでみせますの!」

 

 エースは掴まっている能天気なルビーの言葉を聞きながら、陸の上でオロオロしているルフィを見つける。ルフィが飛び込んだら余計な手間なのでその判断は有難い。

 

 

「(あー……憎い)」

 

 サボが、サボを、サボと、サボの為に。

 

 

 

「(…──俺の為にって、言えよ)」

 

 

 

 

 

 

 相関図。

 物語の登場人物の相関関係を矢印や記号などを用いて簡潔に表す図形。

 

 隠れていた一方通行の矢印は浮き彫りになる。

 その色は果たして何色か。

 

 

 ──案外、情熱の石の色かもしれない。




是非とも『ルビー』という宝石を調べてほしい所だが、折角なのでここらで豆知識入れておきましょう。

ルビーの語源は赤で最高評価の色は『ピジョンブラッド(ハトの血)』
モース硬度はなんと9でダイヤモンドの次に高い上に、耐熱性はダイアモンドより高い
石言葉は様々ありますが『情熱』『純愛』『勇気』など。ここら辺は沢山あるのでサリー・ルビーが体現してくれるといいな(願望)
宝石の女王とか勝利の石とか炎の石など言われています
大概、火や血を象徴とされます
火炎溶融法などで合成(人工ルビー)されたりもします

なんせ物質やら何やらを詳しく習ってない身なので所詮ネット知識ですがね。面白い情報が有ったらこっそり教えてね
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