その矢印の色は   作:恋音

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「海へ出ました」

 エース、ルビー。17歳。

 2人は今、王の椅子に最も近い場所で陣取る四皇の1人である〝白ひげ〟エドワード・ニューゲートの船に乗っていた。

 

 

 

 サボの死亡報告からしばらく仲違いをしていたが無事に和解をし、今では親友──

 

「ルゥゥビィィイ!」

「なんですのうじうじおバカさん」

「余計な口を開くなって言っただろーが!」

 

 ──な訳がなく。

 子供同然の言い争いをしていた。全く成長してない。

 

「嫌ですわ、ローグタウンに寄ってくれない自称鬼の血を引く野郎さんの言葉に従う謂れはございませんの」

「お、前ェッ」

 

 知られたくない事柄を平気で口に出す同居人。

 エースは無遠慮に肩に担ぎあげ、船に居る『敵』から距離を離した。これ以上余計な事を言われないように、と。物理的な距離を。

 

 

「なにッ! 言ってッ! くれてんだッ! よッ!」

「あうっ」

 

 額に何度か地味に痛い攻撃が加えられ、ルビーは両手で額を押さえる。

 

 涙目で見上げる姿は、健全な男であれば庇護欲と征服欲に駆られるだろう。中身を知らなければ。

 

「いい加減、あなたの反抗期にも飽きてきましてよ」

 

 少し怒りを見せたようにルビーは腕を組む。

 宝石の様な深紅の髪が太陽と海を反射してキラキラと光る。腰まで伸びた美しい髪は彼女の自慢の1つだ。白く蝋や陶器を連想させる様なすべすべとした肌にはほんのり赤みがかって艶がある。

 尖り気味の小さな口元は不満をこれでもかと言わんばかりに表現していた。

 

 本人が自称するだけある美貌の持ち主。それだけでなく品のある作法も身に付けている。年頃の娘であるので引く手あまただろう。

 

 

 エースは長年同居人であった彼女に対し、怒りを通り越して呆れを見せた。

 

「反抗期つーな……! 大体なぁ、白ひげを殺すためにここに居るのに、テメェは馴れ合うどころか俺の話を広めんなよ……」

「あら、黒歴史を残す方が悪いのですわ。早い事絆されてしまいなさい」

「お姫様は平和で何よりですぅー」

 

 

 ドーン島を統治するサリー家の第1王女、サリー・ルビー。

 彼女について、エースは海に出て分かったことが幾つかある。

 

 お金は知っている、しかし物価や払い方を知らない。

 文字の書き方やニュースクーは知っている、しかし手紙の出し方や呼び方を知らない。

 船の言葉は知っている、しかし舵の取り方などは全く知らない。

 

 まるで書物でのみ世界を知ってる様な。

 当時はそこまで考えてこいつ箱入りの世間知らずだったな、と思い出して考えに蓋をしたのだ。

 

「はぁー……やっぱりお前嫌いだわ……」

 

 人生で何度目かのセリフを呟く。

 もはや口癖同然。互いに気にした様子はない。

 

「ルフィの船に乗りたかったですわ、それなら王道中の王道、まさにファンタジーな出来事と聖地が……!」

 

 暴走癖持ちの同居人はブツブツと呟き出す。

 言葉自体聞こえてはいるが脳が理解を拒んでいる。エースは密かに己の判断を褒めた。

 

 推しという謎の発作付きの同居人はいつのまにやらエースの船の居候になっていた。手紙でサボから任されたのもあるが、ルフィの残るコルボ山に置いておくとどうなるか分からないと心配した。ルフィの。

 

「あァ、でも外は楽しいわね」

 

 それに外の世界に憧れるお姫様を連れ出したかったのもある。

 正直後悔したが。過去に戻れるならの自分にやめておけと言いたい。多分すぐ納得出来るはずだ。

 

 ちなみにルビーはスペード海賊団では無い。

 本人達革命軍に入ることをずっと望んでいるのでまたしても『同居人』だ。何故革命軍なのかは分からないが。

 

 どうせサボ関連だということは分かっている。エースは考えるのを放棄していた。

 

「——それにしても、本当に早く和解した方がよろしくてよ?」

「……うっせぇ」

 

 2人はここまで来るのに順風満帆……とはいかないが、それなりに平和でやってきた。無人島に遭難したり、エースが悪魔の実の能力者になったり、時に海軍と衝突し、七武海勧誘を蹴り。

 エースにとってそれらより同居人の発作(別名:推し不足)をルビー慣れしてない仲間と共に落ち着かせる方が大変だったが。

 

 数日前、四皇とぶつかり、何やかんやあって船に乗る事になったわけだ。どこが気に入られたのか分からない。

 しかし気に要らないのはエース本人だ。未だに子供の如く抵抗し続けている。

 

「デュースの手当て回数が無駄に増えるだけじゃないの、自然系(ロギア)な癖に怪我増やしやがって、と愚痴を……」

「だァァあ! お前ほんと口閉じろ!」

「あら、失礼。筆談に致しますわね」

「ルビーッ!」

 

 踵を返しその場を去ろうとしたルビーを、自由にさせてたまるかと言った様子でエースが腰を掴む。捕獲だ。スペード海賊団でよく見る光景だが、残念ながら白ひげ海賊団では見ない光景。

 1番隊の隊長であるマルコはボソリと呟いた。

 

「随分仲良いねい……?」

 

「嘘だろ。お前、絶対、目、悪い」

「随分とお目が節穴でございますのね」

 

 山育ちは耳は良いが口が悪い。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 ドゴン!と、毎日1度は聞く衝撃音に元スペード海賊団の面々と同居人のルビーは顔を合わせた。誰かがポンと副船長+事実上船医であったデュースの肩を叩く。さぁ、治療の開始だ。

 

「姫さん……。エースどうにかならないか?」

「私たちが何かをしてエースが変わる可能性は、貴方の文章力程度しかございませんわ」

「「「絶望的か……」」」

 

「………………覚えてろよ姫さん」

 

 声を揃えていた仲間を蹴り倒したデュースは恨めしそうな目でルビーを睨んだ。

 

「あーもう!エース!ちょっとそこに直ってろ!」

 

 気絶しているから直りたくとも直れないと思う、と白ひげ海賊団の船員はデュースに伝える。

 

 

 平和な一幕を見て、こっそりルビーは笑みを零した。元スペード海賊団の屍に囲まれて。

 

 

「姫さん姫さん」

「あら。如何致しました、マルコ」

 

 ちょいちょい、と手を動かしルビーを呼ぶ。

 無防備にもホイホイ着いていくルビーもルビーだが、この際都合がいいと思いながらマルコは笑みを深めた。

 

「エースをどうにかして欲しいんだよい」

「貴方もですの?」

 

 呆れた、という様子でため息を吐くルビー。

 彼女は彼こそがエースをどうにかする存在だと分かっている。だからこその落胆だ。

 

「姫さん、エースと1番長いだろい?」

「臆面もなく言い合える仲だとは思いますけれど」

「それだ。年頃のお嬢様が身近にいながらあの朴念仁は魅力に見向きもしない。さながら男兄弟の様子だ」

「……お続けして」

「姫さんはとっても魅力的だ。それに気付かないなんて勿体ないことしてるだろい?そこでだ、いっそ分からせちまえば──」

「貴方の言いたいことは分かりました」

 

 目を伏せてルビーは一息つく。

 期待を寄せてマルコは返事を待った。

 

御為倒(おためごか)しに意見をおっしゃっても私には見通しですわよ。素直に言えばよろしいですのに、『親父とられて悔しい』と。さながら弟に母親を取られた男子(おのこ)の様ですわ」

 

 ニッコリ笑顔を作っていたマルコはその言葉を聞いて舌打ちをした。

 

「アレが馬鹿だから同類だと思ったよい」

「お力落としなさいません事よ。なぜなら私はこれでも王女ですもの!」

「あ、同類だわ」

 

 評価を改めようとしたが取り止めた。

 

「……お手隙の際、エースとお話なさって。彼は恐らく、家族という船の仕組みに困惑していると思いますの」

「ヘェ」

「類は友を呼ぶ、類を友にする。いいえ、逆ですわ。友を類にする。親父沼に突き落としてしまいなさい」

「……姫さんの扱い方をたった今理解した」

「まぁ、どんな?」

「100%真面目に話してると途中で被害を食うから、半分くらいの親切さを持って扱う事にした」

「……もう何も言いませんわ」

 

 失礼な話だ。

 マルコは適当は感謝をルビーに送ると背を向け去って行く。

 

 

 

 ──別の世界から来た者は、この世界の者と心を通わせる事が出来ないというのに……。

 

 心の内を暴いている書物を読んでいた。その書物通りの気持ちなのではないかと心が思っている。実際はどうなのだろうかと、考えても答えは出ない。

 キャラクターだ。ルビーにとってこの世界の人間はキャラクターなのだ。だから人として関わるのが難しい。一人の人間だと分かっているのに、心ではキャラクターだと決めている。

 

 界線はバッチリ引かれている。

 

 そんな事を考えながらポツリと言葉を零した。

 

 

 

 

「サボに会いたいですわ……」

 

 推しとてキャラクターなのだから。

 

 同居人の耐えきれぬ発作は、今日も無事彼らの顔を引き攣らせた。恐らく白ひげ海賊団も否応がなしに慣らされるのだろう。

 そんな未来を想像して密かに合掌した。




novelAが手に入らないのでかんっっっぺき捏造ばっかり! 公式で答えが出ているのに書ける図太さは持ち合わせてないけど! 連載自体をやめる繊細さも持ち合わせてない!
はい。お久しぶりです。他の作品は連載しているのでお久しぶりじゃない方もいると思いますが『矢印』ではお久しぶりです。
展開一気に進んでますが読み飛ばしはしてませんよ。安心してください。
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