晴れていようが、雨が降ろうが、嵐になろうが、大荒れだろうが。
変わらないものがある。
「やっぱ親父すげーよなぁ」
「でしょうでしょう、この世界の人間はとても素晴らしくてよ。まぁやはり1番はサボなのですけど」
「お前ワノ国での話聞いたか?」
「和服のサボを想像するだけでヨダレものですわよね」
「すげーよなぁ!」
目を輝かせ、頬を染め。
傍から見れば恋の話題で盛り上がる様だが内容はどう考えても『推しラブ』な話だ。
片方はエース。物の見事に親父沼に突き落とされてしまった。
彼の反対の椅子に座るのはルビー。留まること、衰える事を知らない発作は今日も通常運転だ。
変わらないもの、それは推しへの揺るぎない愛である。
「はぁ、お嫁に行きたいわ」
「親父に全てを捧げる俺、つまり嫁いだも同然……?」
「それは素晴らしい考えね、見直したわ」
「へっ、よせやい、照れるじゃねぇか」
親友と言っても過言ではない白ひげ海賊団の1番隊と4番隊の隊長2人は、微妙に噛み合わない会話をする幼馴染み2人を眺めて呟いた。
「……アイツら、絶対馬鹿だろい」
「だな」
愚直。又は単細胞とも言う。
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「俺、なんか今なら鳥になれる気がする」
「──そう言って海に飛び込んで結局私が拾い上げた1年前をお忘れで?」
同居人の指摘にゔ、と息を詰まらせるエース。そのやり取りを見て長男マルコは安心した様に笑みを浮かべていた。
ここ最近の悩みの種であったエースは船の隔たりなど関係なく溶け込むように笑顔を増やしていたからだ。本当に落ち着いてくれて良かったとしみじみと思う。
しかし、もう1つ、些細な事ではあるが悩み事はある。
「姫さーん」
「はい?」
どうしました、と言いながら無防備に近付いてくるお姫様の件だ。
「姫さんって、まだ王女だろい?」
「えぇ。ゴア王国を統治するサリー家の第1王女、つまり次の国王を娶る立場にいますわ。まぁ、流石に縁は切れていると思うのですけど……お母様もお父様も頭が少々残念ですので」
実の親に対してこの物言いである。
似たような事情を抱えた人間はこの船にゴロゴロ居るため特に触れず、軽く呆れた表情をして本題に入り込んだ。
「姫さんが王族除籍されてないんなら、この船では人質扱いって事になるんだけど、どうしたい?」
ルビーの口振りから察するに除籍されていない可能性は捨て切れない。それに彼女は白ひげ海賊団の一員となる事を拒否している。
船に乗る以上立ち位置というものを決めておく必要があった。
「1人で海には出られない、だから船に乗る、しかし海賊にはなりたくない。我ながらなんて迷惑な存在なのかしら」
額に手を当てて深くため息を吐く少女を見てマルコはこっそり顔を引き攣らせた。
自分を客観的に見る事が出来るクセにそれ欠点を直そうともしないその態度はある意味賞賛に値する。
「とりあえず同居人という訳にはいきませんの?」
「……優先度は低くなるけど、いいのか?」
「構いませんわ」
その即答に、マルコは目を見開いた。
「戦いに巻き込まれても二の次だ」
「当然ですわね」
「優先は仲間で、同居人なんて扱いは物置だ」
「当の昔に海の過酷さは覚悟していますわ」
一切の迷いも無い返事に、少し評価を改めた。ああ、ほんの少しだけだ。本当に少しだけだ。大事なことなので3回言った。
「姫さん、確か好いた奴に会うために船に乗ってんだっけか」
「えぇ! 彼のお嫁さんになるのが昔からの夢なの!」
ニコニコと楽しげに笑う姿は微笑ましい。
しかし、ルビーはその笑顔をずっと保っていなかった。
いつの間にやら、幸せをアピールする様な笑みから攻撃するかの様な笑みに変わっていたのだ。
なまじ顔が整っている分、その威力は底知れない。
まつ毛の隙間から宝石と見間違うほど美しい紅玉の瞳がマルコを捕捉している。上がった口角は妖しげな雰囲気をより一層醸し出していた。
「──私の覚悟は、愛は、その程度だと仰りたいんですの?」
ゾクリと思わず背筋が凍った。
これはアレだ、獲物を取り合う島の女達と同じ目だ。
マルコは思わず遠い目をした。こういった女性には下手な事を言わない方が身の為だ。
「ガキでも女なんだねい……」
「何か仰いまして?」
「ナンデモゴザイマセンデスワヨイ」
いかにも棒読みですといった様子で言う。
するとルビーはくすくすと笑い始めた。ホッ、と密かに安堵の息を吐く。女性というのは扱いが非常に難しいのだ。
「ま、優先度が低くなる事は無いから安心してくれよい」
「あら、よろしいの?」
「よろしいんだよ。ちょっとした確認してただけだから安心してくれ」
「……つまり、海賊でない立場の私が必要となる可能性があると?」
マルコはニヤリと笑った。
「色仕掛け、してこい」
「…………はい?」
予想外の言葉にルビーは首を傾げ、よく分からないからひとまず殴ってみた。愛を抱く女性に色仕掛けさせるとはどういう了見だ、と。
余裕で避けられた。
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『最近縄張りの島に海軍大将が出没してるらしい。姫さんは立場を利用してもいいし素知らぬ顔をしてでもいいから目的を聞き取り出してくれよい』
『姫さんは賞金首じゃないし海賊じゃない、と言う事は捕縛されずに安全に戻ることは出来る』
『ナースは手が離せないし権力つー武器も使える姫さんが有力、ってわけだ。頼むよい』
ルビーは島に溶け込むように村娘の格好をしてフラフラしていた。
しかし、溶け込むことは決してなかった。
その姿は通りかかる人物、男女問わず目を奪う。ルビーは目立ってしまっていた。悲しい事に。
なんせ面白がったナースの本気だ。水を得た魚の様にウキウキしながらお人形とも言える美形を着飾ったのだから。日頃すっぴんだからこそ化粧ノリが良く、宝石がさらに磨かれた。
「にしても……」
コツリコツリとゆっくり足を動かしながらルビーは考える。
『大将』という話だったが、誰なのか聞いていない。マルコが伝達ミスなどする筈が無いから、恐らく彼も分からないのだろう。
マルコの言葉を思い出しながらルビーは外の世界を眺めた。
「そう言えば、1人でフラつくのは初めてかもしれないわ」
いつもエースと共に居た。世間知らずのルビーが1人になれば問題しか起こさないだろうと思ってのことだったが。
結局は世間知らずのままである。
今頃ルビーが1人で出掛けた事に気付いたエースがマルコに詰め寄っている頃だろう。『アレを1人にすると持ち前の意味の分からない発想力でとんでもないことやらかすぞ!』と。
「まァ、四皇の縄張りでふらつく様な大将なんて」
1人しか知識に無い。
「あ、居ましたわ」
「ん?」
ルビーは仰天した表情で小さく声を漏らした。気配がこちらに向いている、と分かった男がルビーを見た。
「んん〜? わっしに用かね〜?」
「ごきげんよう、まさか青雉じゃなくて黄猿だったなんて思いもしませんでしたわ」
一般の出とはいえ、数年は王宮で礼儀作法を詰め込んだルビーのカーテシーはそんじょそこらでお目にかかれない美しさだ。見惚れるとまではいかずとも、ボルサリーノは町娘ではないなと確信出来る挨拶だった。
ひくりと頬が攣る。あぁ、この子はごまかせない。自分を海軍大将だと確信して言っている、と。
髪を染め眼鏡を掛け、街に溶け込むようにしたというのに。
蛇足だがルビーがボルサリーノだと分かった理由はオタクが良く持つ『あっコイツキーキャラクターだわ』と確信するなんか念的なやつとかオーラ的なやつを見極める観察眼と、純粋に溶け込めなかった身長だった。紙やすりでその脚削ってこい。徹頭徹尾身長のせいだ。
「…………白ひげはなんて?」
「あら、綺麗なレディを目の前にしてそれを言うだなんて。随分と仕事熱心なのね」
ニコリと笑みを浮かべて頬に手を当てる『お姫様』にボルサリーノはやりにくそうな表情を見せたが、咳き込んで手を差し出した。
「お嬢さん、よろしければわっしとお茶でも如何かな?」
「まぁ! ステキなお誘いですこと……──お断りですわ!」
ルビーは黄猿は普通に好きだが別に推しではなかった。ボルサリーノはもう既に相手をするのがめちゃくちゃ疲れてしまったのだった。誰だこんなやつ寄越した幹部は。不死鳥だな(確信)。
「あ、色仕掛けを忘れてましたわ。あはん。お兄さんお茶でも如何かしら?」
片目をバチーンとつむり腰を逸らす。なんか、綺麗なはずなのに見ているこちらが情けなってくる色仕掛……これは色仕掛けと言ってもいいのだろうか。ボルサリーノは過去一悩んだ。女性のプライドを折ることはできない。めちゃくちゃ悩んだ。
「お嬢さん会話はドッジボールしか出来ないのかい?」
「ドッジボールじゃなくてよ」
スルーを決めたボルサリーノに向け、まだ幼さの残る美女がドヤ顔で言い放った。
「雪合戦よ」
──不死鳥゛ッ(キレ気味)
この展開を生み出したマルコ(確信犯)に恨みが止まらない王族だと分かってるタイプのボルサリーノさん。
…………この後の展開は未来の私に任せた(血涙)(吐血)