オーバーワールドを移動中のことだった。
木星の辺りに差し掛かる頃、けたたましい警報が鳴り響く。
何事かと皆が顔をあげるなか。艦長のブランドが指示を飛ばしていた。
なんと、木星区域における大規模戦闘に巻き込まれたようだった。
レーダーには忙しなくMAが宇宙を駆け抜けているのが映っていた。
戦況は混戦している。識別信号は……二機のMSとMAが連邦軍、その他母艦が識別不能、小型MSも識別不能。
何がどうなっているのか。ブランドが食堂で夕食を食べていたアリアに考えを問う。
「データ、拝見します」
早速戦闘に巻き込まれているのに悠長に夕飯を食べながら確認するアリア。
隣ではアンヌとマリーがあわあわしながら食器を片付けて戦闘の準備。
アリアはというと、呑気に餃子を頭から丸のみして、目を通す。
「……ああ、とうとう来ましたか。ヴェイガンです、皆様。出撃準備を。全力で迎え撃ちましょう」
木星の辺りまで勢力を伸ばしていた例の化け物集団だった。
しかも数が凄まじく多いのに、敵の母艦が見当たらない。
ざっと確認できるだけで300は最低でも戦っている。
対して大型MA一隻と母艦一隻、MS三機では多勢に無勢。
母艦から少し小型機が出てくるも、焼け石に水だった。
「……これは、付近に隠れている可能性ありますかね。さて、少し食後の運動かねて行ってきますか」
「アリアちゃん少しは動じようね!?」
「呑気すぎるんじゃない!?」
マイペースに片付けをして、艦長に第一戦闘配備を命じて、食堂にいたパイロットたちに軽く言った。
「相手はヴェイガンですよ。はっきりいって勝率は今までのどの戦いよりも低いです。敵は質も量もすべて上。ですから、一騎当千で対抗しましょう。……全力出撃を命じます。最期の晩餐が嫌なら死に物狂いで戦ってきなさい」
アリアが決戦と言える規模というと、表情を引き締めるパイロット。
各個撃破が基本のアリアが、命令をしっかり出すのが本気だという証だった。
「部隊規模で動いて、互いにフォローしてください。連中の機体は並大抵じゃ壊れません。全力で叩き込んで、補給に戻って最悪機体を乗り換えても構いません。兎に角、全力です。これから詳細を手早く説明します」
的確に配置を説明するアリア。捕虜たちも無論、初出撃にしていきなりの決戦だった。
母艦を守るのに部隊を残し、遊撃と迎撃をメインとする。
母艦も戦うし、戦力になるのなら全部使う。
『ちょっと、速くして頂戴!! お客さんが待ちわびているわよ!!』
艦内放送でブランドが怒鳴る。
アリアは今まで改良してきたMSが通用するか、テストする気だった。
最悪、破壊したジャンクを使って再生できないかとか考えている辺り余裕である。
駆け足で皆が格納庫に向かっていく。アリアは整備士に作業準備を言いつけて、自分も向かっていった。
宇宙に混沌が出来上がっていた。
右も見ても左を見ても、ヴェイガンヴェイガン。
ドラゴンが走り回り、暴れまくり、好き勝手にしている光景だった。
「然しまあ、相も変わらず凄まじい機動性だな……」
『同感だ。……背後は任せるぞ、ヴァイスよ。しくるなよ』
『分かってますって。援護は俺がやりますんで』
先ず、黒仮面の部隊は出撃して早々、近寄ってきた敵を片っ端から凪ぎ払う。
練度の低いのと高いのが混ざり会う仮面部隊は、母艦及び支援機体の護衛についている。
何かアリアが、陸戦仕様のガンダムをめちゃくちゃに改造しておいたので今回はこれ使えと無茶ぶりしてきた。
(フッ……ジム乗りの俺が、遂にはガンダムか……。人生、生きていると分からんもんだな)
DDは自嘲するように笑った。アリアの太っ腹には度肝を毎回抜かされる。
陸戦型を宇宙用にいじくり回して挙げ句には専用チューンアップもしておいて、突然渡す。
知っているとも。この機体、今までのデータを基盤に改良されていることぐらい。
ガンダム・ピクシー。妖精の名を冠する格闘を視野に入れた軽量高機動MS。
武器がマシンガンと頭部バルカン、高出力のビームダガーのみというシンプルな武装で、シールドも持たない。
そのぶん、全身にバーニアやらスラスターやらが増設されており、凄まじい機動性を発揮していた。
軽い。機体が扱いやすく、手足のようにスムーズに動く。
黒仮面の技量もあって、アリアが送ってきたコックピットの位置を援護ありで的確に貫いて破壊していた。
装甲のビームコーティングなど最早意味がない。
威嚇のマシンガン連射をしつつ近づいて、反応する前にダガーで貫き沈黙させる。
(うわぁ、黒仮面半端じゃねえ……。俺も仕事しないと、な!!)
ヴァイスは、ザフトの新型を借りていた。ザク・ウォーリア。それのブレイズ装備だった。
ビーム突撃銃を連射して威喝しつつ、隙をついて弱った敵機を破壊する。
ミサイルをばら蒔き、ハンドグレネードを投擲して惑わせつつ、不用意に近寄ってきた相手をビームアックスでコーティングごと切り伏せた。
アリアがガンダムの随伴には十分追い付けると言うだけあった。
一応量産型らしいが、スペックはガンダムに匹敵する。
全てにおいて、ハイスペック。一般にも扱いきれる高性能さだった。
(晩飯のあとにこれは少々キツいが……四の五の言ってられんか!)
ヴォルフは、長年の相方であるフラッグを没収された。
こっちは変態過ぎる加速に胃袋が絶叫している。
何せ、今までで尤も激しい機体に乗っているのだ。
なんと、彼のフラッグは某魔女の魔の手にかかり解体、分解されたのち改造をされてしまった。
その名も、GNフラッグ。
ヴォルフの先日の訓練の成果を見て、これはもうビームサーベルだけで戦えるんじゃないというアリアの無謀すぎる改造案を受けた結果生まれたヴォルフぐらいしか使い手のいない変態機体だった。
武装、GNビームサーベル。以上。武器はサーベル。以上。
大切なので二回言った。
(最初はどうなるかと思ったが……使えている辺り、俺も末期だな……)
戦闘中でも、そんなことを考える余裕があるほど、ジェネレーションのパワーアップは成功だった。
あまりにも無謀なチャレンジだった。接近しないと戦えない欠陥機体。
ビームコーティングや実弾を弾く新型軽量装甲に加えて、どっから持ってきたのか本物のGNドライヴまで乗っけやがった、謎のロマンの出来上がり。
しかもオーバードライブであるトランザムまで使える、アリアの趣味全開だった。
そんな、機動力とロマンに極振りなヴォルフのフラッグだったが、意外と戦えた。
ビームコーティング? そんなもん、出力あげて敵機ごと全部纏めて蒸発させれば問題ないぜと言わんばかりに火器に回されたバカみたいな出力のせいで、相手の新型――いわく、装甲の分厚いバクトとかいうらしい――を、一刀両断出来ていた。
振るっただけで敵の機体が真っ二つになるのはある種の爽快感すら感じてしまう。
これで、まだリミッターをかけている状態。機動力あるわりには食後に乗っても気持ち悪くなるだけ。
アリアの本気を見た気がした。
『ピクシー……ふむ、上々な仕上がりだな。これならば、ジムと併用しても問題ないだろう』
黒仮面も満足しているようで、上機嫌で敵を葬っていた。
『すんません、ミサイルとグレネード切れたんで補給してきます!』
「了解だ」
この部隊唯一の射撃をするヴァイスが一時撤退。
援護のない状態でも、この超加速と頼もしい相方がいれば持ちこたえは可能と判断する。
『ヴォルフ、あいつが戻るまで戦線を維持するぞ』
「ああ。やってみせよう!」
ガンダムと変態フラッグによるインファイター共の護衛は、結構な速度でスコアを加算させていくのだった……。
一方。母艦の上で、母艦のエネルギー直結で援護をするジオン組は。
前線を任せるにも初戦。あと信用がないなら後ろで援護していろとアリアが命じた。
目の前で解体された相棒たちは……何とか、元通りにはなっていた。
一名、損傷が激しいので新品に交換されたが。
狙撃ライフルを装備する初期型のゲルググ。
中身が別物と化したザクlスナイパー。
親衛隊どころか妙な性能の良さのギラ・ズール。
(……何が、起きてる?)
これ本当にザクなのか。旧式の皮をかぶったジェカンか何かか。
何で表示されているジェネレータの数値がおかしい。
何でコックピット内部に何でスコープが追加されている。
何でライフルの貫通力が何でコーティングしている筈の重厚MSを易々と破壊できる。
何で接近されたときのサーベルが腰にマウントされている。
何でOSが高性能学習型に変更されている。
何でライフルの型番がガンダム系統のライフルになっている。
何で規格違うのに何で連動して問題なく動いている。
何でそもそも機体が丸ごと見た目だけ同じになって中身が別物になった。
結論。これザクか?
『……私のズールに何があった……?』
ガルマも困惑している様子だった。
冷静に追加されたスコープを覗いてトリガーを引くスズキ。
OSが勝手に補正して面白いように近づく敵を落としていく。
鋭いビームの流星が、改良されていると聞いていた敵を簡単にぶっ壊すのはなぜだ。
(おかしい。ザクが何だか別人になってる……)
総合した性能は特化ゆえに低いのだろう。
言い換えれば特化した部分は当然勝っているという意味か。
ガルマも、大型のビームキャノンを放ちながら戸惑っていた。
(待て……。ギラ・ズールにビームマグナムどころか、こんな超火力な武装は装備できないはずだ。あの規格外リゼルとは違うはず。なのに……かすっただけで対策をしているMSが消し飛んだだとぉっ!?)
ガルマは決して、己の技量は高くないと客観的に判断している。
狙い撃ちなど慣れていない。
なのにスコープの覗いた先の世界では、己が放つ一閃が間違いなく敵を倒しているのだ。
敵の反応は早い。手練れなのだろうが……何でかズールが勝手に先読みして銃口を補正して放つ。
結果、数をどんどん減らしていく。アウトレンジで一方的に蹂躙する様は戦争ではなく虐殺に等しい。
一体、自分の機体に接続されたこの武装は……何を求めて開発されたものだろうか……?
リューンは割りとお気楽だった。ザクが壊れて限界だったから、与えられたこのゲルググ。
悪くない。しっくりくる、この手触り。この肌触り。好きな部類の機体の仕上がり。
「うっし。お仕事しますかねえ」
無論、初戦と言えど手は抜かない。これでも、長いこと戦争で食い繋いできた。
彼は与えられた力に動揺せずに己の仕事を果たしていた。特性は知っている。
ゲルググ。古い機体とは言え、上物をくれたものだ。近代化改修も済ませてある。
(俺がジオンでも関係ないみたいだしなぁ。一応でも、同じ何でも屋の身内って扱いでいいのかね。信用は戦果で勝ち取れって事なら、ご期待に添えるようにいっちょやったるか!)
前向きなリューンは、先ずは新人らしくやることをやると決めた。
信用は仕事をすれば後からつくものだ。細かいことは後回し。
今は、敵を倒し、新しい居場所を守ろうと思う。
隣の少し頼りない、ジオンのチームメイトと共に。
伊織ー。あいつら、何か気持ち悪いのー。
「気持ち悪い……?」
一方。
母艦周辺の迎撃に回っている三人のうち、二人が違和感を感じていた。
伊織はSガンダムに搭載されるアリスが訴えかけてきていた。
「一体何が……?」
分かんないけどー。アリアに似てるのー。
アリスはアリアがたくさんいるみたいな感覚がして気持ち悪いと戦いながらずっと伊織に訴える。
スマートガンで敵を撃墜すると、言い様のない不快感をアリスは感じるのだという。
「くっそォ……!! 相棒、なんだこの声……頭が割れるッ!!」
ミチアは酷い偏頭痛に襲われていた。
出撃してからと言うもの、そこらじゅうから男女の様々な叫びが聞こえるのだ。
死にたくない、殺してやる、くたばれ地球人、我らの悲願はきっと……!!
意味の見えない不快な声が、ずっと聞こえて堪らない。
サイコフレームを全身に使い、バイオ・コンピューターを通じてリゼルと繋がるミチア。
その敏感すぎる機体が、いらぬ声まで集めて彼に届けていた。
庇っているようにコンピューターもカットはしていた。
然し、流れてくる声の量が圧倒的すぎて防ぎきれない。
「苦しいか、相棒よ……。俺も苦しい。けどよぉ、こんな事で……怯んでられねえよなぁ!?」
ただ、幸いなことに。
ミチルという男のメンタルは、NTと呼ばれる人種よりも遥かにタフだった。
普通、こんな断末魔を戦場で聞き続ければ精神の許容を越えてオーバーフローを起こす。
結果、発狂して暴走するかそのまま動けず撃墜され死ぬ。
だが、ミチアは違った。相棒を通して感じる謎の声。
彼が我慢できないのは、機体が同時に呻き声をあげていることだった。
さっきから動きが雑だ。
無理矢理な急加速、急停止を繰り返してはミチアに精神的にも肉体的にも負荷を与えている。
この挙動は……リゼルが苦しんでいるとミチアは感じ取った。
ミチアが命を預ける相棒を苦しめるのは、本意ではない。
不愉快な頭痛がなんだ。響く嫌な声がなんだ。
それよりも、今は。相棒と共に生き残り、あの場所に帰ることこそが戦う理由のはずだろう。
「俺達は死なねえ……。死ぬもんかよぉ!!」
ビームマグナムを構える。ノイズが走る頭でも、ミチアには迷いがない。
敵機を狙ってぶち抜く。蒸発する敵機。
機動力があろうとも、頭にジャミングされようとも。
その先が、何となくでもリゼルが教えてくれる。
相棒がいる限り、ミチアには敗北の文字はない。
気力は邪魔な声にねじ伏せて抑えていた。
「無茶はしないで下さいね、ミチア!」
前衛でガンダムに乗るアンダーソンと、それを支援する伊織は話す。
『アリスが、自分にアリアさんがたくさんいるみたいなこといってるんですが……』
困惑する伊織に、新型のソードカラミティを操るアンダーソンは言う。
「一種の強化人間がいる、という事でしょう。気をつけて、敵は危険な相手です」
両手のアンカーを飛ばして、逃げ出す相手を捕獲して引っ張る。
抵抗するのを押さえつけて、両の腕でしっかりと引き寄せた相手を組み付いた。
アンダーソンは呟く。
「この距離ならば……自慢の装甲も無意味でしょうね!」
胸に搭載された、威力の高いビーム、スキュラの接近射撃。
ビームは拡散することなく、爆発。こっちにも自慢の装甲がある。
爆発程度では無傷だ。
敵討ちに来たのか、ライフルで狙撃するのを、アリスが察知。
なんとスマートガンのビームで飛んできたビームを相殺した。
挙げ句には頭部のインコムをその間に伊織が操り射出。
相手の手足に頭までビームで狙って動きを止める。
低い出力では流れてしまってダメージはないが、それでもいい。
「今ッス、アンダーソンさんっ!」
伊織が叫ぶ前に突撃。
防御の姿勢を取る相手に、背中のゲベールを二つとも連結して、大きな一つにするのを上段で構えて。
「……ハァッ!」
気合いの込めた一撃で、防御の姿勢ごと両断して破壊した。
縦に真っ二つにされた新型のバクト。やはり純粋な大質量の武器には弱いと見る。
「助かります、伊織。アリスもありがとう」
アンダーソンは深呼吸して礼を言う。
『アリスが気にしないでいい、と言ってます。自分もおきになさらず』
伊織もそういって、次の相手に対応する。
手一杯だが、隙を見てミチアの援護に回ろう。
あんなスピードで駆け回っていると流石に追い付けないが、うまくやる。
ヴェイガンとの激戦を続けるパイロットたち。
母艦を守るべく、懸命に不利な状況でも足掻いていた。
そんな中。アリアの部隊は、先に戦っていたMAとMSの所に、合流しているのだった……。