明日ありと思う心の仇桜   作:たまたま(pixiv共通)

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いちゃいちゃ回の筈です。
ただ単に原宿でデートさせたかったのです。


#2

 

「ターニャは何が食べたいですか?」

「うむ、クレープだな。」

名を呼ばれるのは慣れていなくてこそばゆいものだ。

いいや慣れねばなるまい。

 

そう、今はクレープだ。

原宿を知らなくとも、外してはならぬ鉄板アイテム。これは何としても食さねばなるまい。

甘い物が好きなヴァ…マテウスもきっと喜ぶはずだ。

 

私とマテウスは恥ずかしながらも所謂『恋人繋ぎ』にチャレンジをしてみたのだ。

しかし、私の手が小さすぎる上にこの身長差である。出来上がったそれが、正しい繋ぎ方なのかもよく分からなかった。とてもアンバランスで歩きにくく、結局はマテウスが私の手を掴むような形になったのだ。

 

これでは彼が私を引率する保護者の様になってる気もするが、これで妥協するしかなかった。まあいい、どんな繋ぎ方でも彼は嬉しそうにしているのだから。

 

祖国では日常が戦争で、私達はそこで戦う魔導師。

恋人同士となってから、体の関係はあってもまともにデートなどした記憶は無かった。

 

そう、今日は私も相当に浮かれているようでなのである。

 

………

 

「しかし、まずはその服装……。」

「はぁ!?」

「いえ!すみません!お似合いです!」

 

私の口からは決して彼の言葉への反論の声が出たのではない。

マテウスは私を怒らせたのかとあたふたしているのたが、決してそんな事は無い。

ただ単に私の頭の中はクレープの事でいっぱいだったのだ。

 

服か、そうか…。忘れていた。私の軍服姿は確かに何とかせねばならない。先程の様な事は二度と御免だ。軍服姿を写真に撮られるなども他国での規律上、良い事でも無い。うん。

 

「いや、マテウス。服のことはそう、分かっている。」

そう返事をしたものの、困った……。

軍隊生活しか知らない私は、確かに肉体の性別は女だ。しかし、女物の服の事など分からない。そうまったく。ましてやこの国の服など一体どうしたら……。

 

「マテウス、どうしたら良いと思うか?」肝心のマテウスは顔を複雑な表情に変えながら、

「ターニャはなんでもお似合いかと……。」と言ったきり黙ってしまっていた。

頼りにしていたのに……。

 

仕方ない。まずは適当に店に入ってみるしかない。

 

通りを見渡しながら歩いていれば、同じ看板がいくつも目に付いた。人気の店なのだろう。そうならきっと無難な物が見つかるかもしれない。

 

意気込みつつ、とりあえず入店はしてみたものの、ここからどうするかである。私と見た目だけが同年齢に近い者達がせっせと黄色い声をあげながら選んでいるのを横目に、私もマテウスもその種類の多さに唸っているだけであった。

 

呆然と2人で立ち尽くしていた。店員は忙しく右往左往していて、尋ねようにもそんな隙も無い。

 

いかん、このままではクレープがいつまで経っても食べられないではないか。何か参考になるものはと目と顔をきょろきょろと右往左往させて、店に飾られていたマネキンに私は目を光らせた。こいつは何とか私が着れそうな格好をしている。……気がする。

 

意識が飛んでいる男の服の端を軽く引っ張りながら、

「マテウス。ああいったのはどうだろうか」ビクッと反応した後、私が指差すマネキンに顔を動かして、まじまじと見つめた。

 

少し間を置いてから、彼からは「良いと思います。」と返ってきた。無表情にのまま意識が飛んでいた彼はほっとした顔になっていた。やれやれ。良かった。現実に帰ってきた。

 

ニットに短いめのスカート。流石に足を出すのは慣れていないのでタイツを履いた。

試着の済んだ私を、店員とマテウスは褒めちぎっていた。私はうんざりだったが、まぁいい、これなら問題はなかろう。そのまま服はまとめて購入する事にして着ていた軍服はまとめて貰った。

 

よし!準備ができた所でようやく甘い物と行こうではないか。こればかりは楽しみで仕方ないのだ。

 

小さい交差点には数件の似たような店があった。どの店も行列でそれをみたマテウスは気を利かせたつもりだろうが、自分だけ並んで買ってくる。という言葉を私は無視して一緒に列へ潜り込んだ。

 

仕方ないと笑うマテウス。

「ターニャは何がいいですか?」と2人で決めながら長い列を並ぶのもまたいいものだ。

 

………

 

ターニャのお勧めのクレープという何とも魅惑的なスイーツを2人で食べながら、ぶらぶらしていると、大きな公園へたどり着いた。

とても甘くこの素晴らしい食べ物を自分はじっくりと味わいたい。

「少し休みましょう」とターニャを誘いベンチに座った。

 

薄い生地にクリームや生のフルーツ。そして上にかかったチョコレートソース。

甘味好きな自分には堪らなく、歩きながらも随分と食べてしまった。

こんな物は帝国では滅多に食べられない。

 

残りのクレープを食べ終わる頃には彼女の顔はあちこちクリームで汚れてしまっていて、親指でそれを拭き取ろうとする。大人しくはしていたが不満そうに自分を睨め付けていた。子供扱いするなと怒っている姿が年相応に可愛らしかった。

 

待ち合わせの効果か、彼女の初めて見る私服姿の所為だろうか。今日はまるで普通の男女のデートの様だった。自分は兎にも角にもこんな風に過ごせるのが嬉しくて堪らない。夢にまで見た光景は傾いてきた太陽が

彼女を紅く染めている。

 

仕事とは違う顔は2人きりでいてもなかなか見せたがらない彼女。なんだかこの国に入国してからは自分が彼女に感じているピリピリとした警戒感も薄らいでいるかにも見えた。

「クリーム。とれましたよ。」

「うむ、そうか。」

 

仕事中は自分や部下達に一から十まで事細やかに指導をしてくれる彼女だが、2人の時は意外と交わす言葉は意外と少ない。

今日はかなり多い方で、楽しんでくれたのだと勝手に思っていた。

 

「この国は人が多いですね。活気もある」

「そうだな。」

更に盛り上げ様と何気無い会話のつもりなのに、何故かムスッとして答える彼女を理解する事は出来なかった。

 

 

公園の木々に咲く花がとても美しいと言うと、「桜」という花だと教えてくれた。

彼女の博識にはいつも自分は舌を巻いてしまう。

 

風が吹き花が散っていた。

彼女の髪にそのピンク色の花が一房落ちるとそれを取り除く為に自分は金の髪に手を伸ばした。

 

「マテウス。どうした?」

上目遣いの彼女と自分の目線がすれ違う。

その碧い、碧い瞳に見つめられていた。

「花が…その、髪に…。」

自分は何気なくその花を彼女の手に乗せた。

 

「ん………」

花を見つめるその碧い瞳に先程まではなかった影がそこにはあった。

 

「ターニャ、先程からどうかされましたか。」

「なんでもない」

俯いた彼女は何も答えてはくれなかった。

自分は握ったその小さい手に花を載せると彼女はそれを暫く見つめていた。

 

………

 

「マテウス、今日はありがとう。」

再び起こした彼女のその顔は微笑んでいて、夕陽に赤くなった瞳もまた美しかった。

「いいえ。楽しんでいただけたのならそれで」

 

滅多に見られない優しい笑顔。

自然と唇は彼女のそれと重なっていた。

 

2018.04.09.

2章




次話は少し間が空きます
すみません

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