修学旅行空けの連休も終わり私達は学校へと向かっていた。
「今日からまた授業始まると思うと憂鬱だよ……」
「そう?別にいいじゃない話聞いてるだけなんだし」
「まぁそうだけどさ」
お嬢様は話聞いてるだけで勉強頭に入ってくるけど私はそうもいかないからノートとかちゃんと取らなきゃだし……
「おっはよー楓ちゃん!」
「あ、おはようございます天音様。って……このセクハラはいつも通りなんですね……」
天音様はこちらに走ってきてそのまま私に抱きついてきた。これもいつも通り。ってことはこの後は。
「だから私の楓にセクハラすんなっての!」
「いったぁ!たまにはいいじゃん!少しは目瞑ってよねエレナ」
「私が瞑るわけないじゃない。くだらないことしてないで早く行くわよ」
まぁそうなるよね。ほんといつも通りだよ。
今日もこんな感じでいつも通りの日常が始まるとこの時は思っていた楓だった。
学校につくと連休空けのせいかクラスメイトも普段にましてだるそうな顔をしていた。やっぱり連休空けの授業ってヤル気にならないよね。
「はーい、じゃあ皆席ついて。ホームルーム始めるよ……」
「なんかつかさちゃん眠そうだね、どうしたんだろ」
「せんせーねむいの?」
前の席の子がつかさちゃんの変化に気付いて早速質問をしていた。
「連休空けってだるいじゃん……」
「あー……」
大したことのない理由で私達皆は肩の荷を下ろした。いきなりテストだとか学校に問題があったとかだったら面倒だからね。
ホームルームが終わると1時間目は英語だったのでそのまま教室から出ることもなく準備をしていた時だった。
『橘楓さん、至急応接室まで来てください。繰り返します。橘楓さん、至急応接室まで来てください』
え?私?誰だろう……
「楓に来客?心当たりある?」
「いや全然ないです……」
「うん……まさか……」
「どうかしましたかお嬢様?」
「ううん、何でもない、行ってらっしゃい」
お嬢様の考え込むような表情が少し気になったけど私はその来客を待たせるわけには行かないと思ったから応接室まで早足で向かった。
私は応接室につくと一呼吸置いて声をかけた。
「橘です、入っても宜しいでしょうか?」
「どうぞ」
「失礼します」
応接室に入ると年齢は30代後半といったところだろうか。スーツを着た女性がちょこんと座っていた。
「じゃあ私はこれで失礼します」
担任のつかさちゃんが応接室から出ていくと私はその人と二人っきりになった。
しばらくお互い何も言葉を発さずその沈黙に耐えられなくなった私は口を開いた。
「あ、あの……私をどうして呼んだんですか?初対面だと思うんですけど……何処かで会ってて覚えてないとかならほんと申し訳ないんですが」
「ほんとごめんなさい。私が貴方にした仕打ちは謝って許されないことぐらいわかってるけどとにかく謝らせて下さい。ほんとごめんなさい」
突然スーツの女性は応接室のソファーから降りて応接室の床に土下座をして私に頭を下げてきた。いきなり謝られて本当にわけがわからない。どういうことなの?私は頭がパニックになっていた。
「あ、あの!いきなり謝られても困りますよ!貴方は一体どちら様なんですか!とにかく頭をあげてください」
このままだと埒が明かないと判断した私は女性に語りかけた。本当にわけがわからない。この人は私に一体何をしたというんだろう。
「そうよね……覚えてるわけないもんね……楓。私は実の貴方の母親よ。10年以上前に貴方を捨てた親。私の名前は橘紅葉。私がここに来たのは、って楓!誰か!楓が!楓が!!」
「橘さん!?大丈夫ですか!橘さん!?」
お母さん?なんで今更?もう会うことなんてないと思ってたのに……どうし……て……
私の意識はそこで途絶えた。
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「ここは……そっか、私応接室で倒れちゃったのか……」
まさかお母さんが来るなんて……でもなんで突然……今はもう幸せなんだよ私。私の幸せ壊すつもりなの。
「橘さん身体の調子はどうですか?」
白衣に身を包んだ恐らく、看護師さんだろう。その人が私に話しかけてきた。
「大丈夫です。ここは病院ですか?」
「そうですか……はい、学校で気を失った橘さんを救急車でこちらまで搬送しました」
「あの、スーツを着た女の人はどうしたかわかりますか?」
あえて私はお母さんとは言わなかった。お母さんなんていないと思っていたのだから当然だろう。
「あー、その方ならもう1人の付き添いの方と病院の外で話されてましたよ」
もう1人の付き添い……まさか!?
「あの、その付き添いの方ってどんな方かわかりますか?」
「えっと、長い黒髪の綺麗な方でしたよ。橘さんと同じ制服を着ていました」
お嬢様だ……一体何の話をしてるんだろう……
話は気になるが今の状況では病室から出させてはくれないだろう。どうしようもないと思ったその時だった。
コンコンコン
「付き添いのものです。入って大丈夫ですか?」
お嬢様の声だった。私はそれを聞いただけで泣きそうになった。
「大丈夫ですよ」
看護師さんが扉を開けると……
「楓!」
「お姉ちゃん……」
「ごめんね!ほんとあの時一瞬思ったから私もついていってあげればよかった……辛い思いさせたよね……」
ほんとにこの人は……どれだけ優しくしてくれるんだろう……気付けば私は涙を流していた。
「ううん……ほんと来てくれただけで嬉しいよ……ありがとうお姉ちゃん……」
「ほんと強い子だよ楓は……絶対私がそばにいるからね」
「それはお姉ちゃんがいてくれるからだよ。私だけだったらきっとまだ病室で泣いてたり混乱してたと思う。お姉ちゃんが来てくれたからしっかりした意識持って話せてるんだよ。本当にありがとうお姉ちゃん」
「全く……あの人には私からきつく言っといたから。突然連絡も無しなんておかしいって。もしもだよ、楓が連絡取りたくなったら言って。一応連絡先は貰ったから」
「ありがと、ちゃんと話すよ。絶対解決しなきゃいけない問題だろうし。明日には退院出来るから明後日話すよ」
「ほんとに?大丈夫なの……?」
「だからお姉ちゃん、ううん、エレナお嬢様にお願いがあります」
「何よ畏まって、何でも聞くわよ」
「私一人じゃとてもじゃないけど話せないと思うの。だから一緒にその場所にいてもらえませんか?」
私は右手をお嬢様の前に差し出した。
「いいに決まってるでしょ、そんなんでかしこまらないの。じゃあ私はお屋敷に戻るね、寂しくなったらいつでも連絡してね」
お嬢様はしっかりと両手で私の右手を優しく包んでくれた。
「ありがとお姉ちゃん。うん、それじゃまたね」
ちゃんとした話し合い。絶対超えなきゃ行けない壁だし解決しなきゃいけない問題だもんね……