「エレナ、ホントは疲れてるでしょ。休まなくていいの?」
「天音には隠し通せないわね。正直めちゃくちゃ疲れたわよ……体あんなに動かしたのも久々だったしね」
楓達と別れ、私達は球場の中にあるブルペンへと向かっていた。天音に指摘された通り、ドッジボールでの疲労は相当のものだった。コート内で走り回り、ボールを投げての繰り返しは、結構体に無茶をさせていたらしい。楓の前では強がっていたが、少し座って休みたいのは紛れもない事実だった。
「とりあえず30分は着替えと休憩にしようよ。疲れてて本気出せませんでした。じゃ洒落にならないでしょう?」
「そうね……ちょっとだけ横にならせて頂戴」
「それじゃ私は先に着替えてるから」
そういうと天音は、更衣室の方へと消えていった。
それにしてもさっきの試合……ホントに危なかったな。少し綾小路さん舐めすぎてたかな。最後の場面、絶対捕れるとふんで私は、ジェシカと楓を下げた。しかし結果は、ジェシカのファインプレーが無ければ、第2種目の野球をやるまでもなく負けが決まっていたと思うと、ホントにやってしまったなと思った。完全に自分の力を過信しすぎてしまっていた。思っている以上に綾小路さんは手強い。それだけはさっきのドッジボールで分かったかな。しかも、次は向こうの土俵である野球。全国レベルに私の両親に教えて貰っただけのピッチングが通用するのかとても不安で仕方がなかった。こういう時楓がいたら、「エレナ大丈夫だよ!」なんて笑顔で言ってくれるのかな……
「消極的になっても仕方ないわね。少し横になろ……天音が帰ってきたら起こしてくれるだろうし」
私は、ベンチで横になると意識はすぐに闇の中へと消えていった。
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時刻はエレナがブルペンに入る少し前。楓と別れたばかりへと戻る。
「うひゃあ、泥で腕とかぐちゃぐちゃになっちゃったよ」
「学校にシャワールームがあってホントに良かったね。でもあの時のジェシカホントにカッコよかったよ!私、悔しいけど全く反応出来なかったもん」
「えへへ、じゃあ今度1日だけ2人でデートとかダメかな?」
少し顔を赤くしながらジェシカは、話していた。ホントにこの子は真っ直ぐで素敵だなと思う。お嬢様助けてもらったお礼もしたいし今回ぐらいは許してねお嬢様。
「いいよ。エレナ助けてもらったんだもんそれぐらいならエレナも許してくれると思う」
「やっぱりダメだよね、え!?いいの!?ホントに!?やったー!!!私野球でも頑張るからね!」
今日は、ポニーテールにしている水色の髪をぴょんぴょんと跳ねさせて嬉しそうにジェシカは、笑っていた。分かりやすいなぁ。
「うん!私も頑張るから絶対に勝とうね!」
「私も今度は天音の手助け出来るぐらいに頑張らなきゃ。ドッジボールでは、ほとんど何も出来なかったもん。見ててね楓。私だって野球なら少し出来るんだから」
一緒に歩いているさゆりも野球に向けて意気込んでいるようだった。
「あ、ここだねシャワールーム」
「そーだね」
話しているうちにグラウンド傍のシャワールームへと辿り着いた。思っているより施設は綺麗に使われているようだった。
「私いっちばーん!」
「ジェシカ走らないの!」
泥んこまみれのジェシカが我先にと、走ってシャワールームへと入っていった。私達がこういう行動をしたらいい歳して何してるんだろう……ってなるけれどジェシカがそれをやっていると何故だか微笑ましいっていうか可愛いなって思えた。
「気持ちいい!楓、そっちは?」
「私も気持ちいいよー。やっぱり汗流した後のシャワーはいいよね。さゆりは?」
「なんか疲れ抜けるって感じがする。1時間の休憩あってよかったね」
各々ゆっくりしているようだった。でもやっぱり私は……
「ごめん皆。やっぱり先に行くね。エレナ見てくる」
「ふふ、そう言うと思ってた。じゃあジェシカと休憩したら行くね」
「わかったー」
私は、一足先にシャワーを浴びて着替えると、急ぎ足でエレナがいるブルペンへと向かった。
「えっと……ブルペンは……球場入って、私達は一塁側のベンチだからそこから室内にあるんだ。野球場の中なんて初めて入ったからわからないや」
誰もいないグラウンドの中を一塁側のベンチから見るなんて人生で初めてだった。テレビで見る野球も満員の応援席にプロ野球選手が試合をしていたからね。まさか私がこんな本格的な球場で試合をやるなんて夢にも思わなかったな。
「ここかな」
球場の中を少し歩いた先にブルペン室と書かれた扉があった。
「エレナ、天音様いますか?あれ?まだ始めてないのかな……あ!エレナ……?やっぱり疲れてたんじゃん」
ブルペンの中に入ると、ベンチですやすやと眠っているお嬢様を見つけた。
「そんなとこで寝たら体痛めちゃうよ。そーだ。ちょっと恥ずかしいけど今なら誰もいないしいいよね……?」
私はお嬢様の頭を起こさないようにそっと持ち上げると自分の膝の上へと乗せた。
「ホントにお疲れ様。次の試合もエレナ頼りになっちゃうかもだけど頑張ってね」
私は、汗で少し濡れているお嬢様の髪を撫でながら先程の試合を思い出していた。元外野から戻って、直ぐに狙われちゃったけど最後までお嬢様は、私を守ってくれた。最後は、危なかったけれどお嬢様が守ってくれなければ私が狙われて試合に負けていたかもしれない。ホントにお嬢様の背中を見ていると安心出来た。ホントにこの人になら私の全てを預けられる。そんな気がした。
「大好きだよエレナ。球技大会が終わったらお屋敷戻ってゆっくりしようね」
私は、お嬢様の頬に軽く口づけをして、自分もベンチの背もたれに体を預けて少しだけ眠ることにした。
「楓、楓そろそろ時間よ。起きなさいな」
「ん………エレナ?」
気付かない間に熟睡していたらしい。知らない間にお嬢様は、私の膝の上からいなくなっていて膝にはどこからか持ってきたのだろう膝掛けがそっとかけてあった。
「おはよ楓。後15分もしたら試合開始になるから貴方も軽くウォーミングアップしときなさいね。後、膝枕ありがとうね。お陰で体の調子は絶好調よ」
笑顔でお嬢様は、私に向けて話す。少しでも疲れが取れたのならそれだけで良かったなと思った。
「それなら良かった。ほかの皆は?」
「天音ならさっきまで私との投球練習に付き合ってくれてたわよ。多分今は、トイレにでも行ってるんじゃないかしら。ジェシカとさゆりちゃんならウォーミングアップ終えて、球場の中なんて滅多に見れないから見てくるってはしゃいでたわよ」
なんていうか、よくこの状況でジェシカとさゆりは、球場の中見てくるね!なんて言えたな……きっとジェシカの案だろうけど肝が座っているというかなんというか……
「わかった!試合開始前には私もベンチの中入るね!」
「頼んだわよ。厳密に言えば試合開始3分前ね。なんか濱田先生張り切ってて、プロ野球のウグイス嬢するような人をわざわざ呼んだらしいわよ」
「流石のお嬢様学校だね……それじゃちょっと走ってくるね」
「行ってらっしゃい」
とにかく次勝てば全てが丸く収まるんだ。絶対綾小路さん達には負けないんだから。私は、改めて自分の中で目的を明確にし、気合を入れ直し、アップに入った。
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『試合開始前のシートノックを行います。両チームベンチ前に集合して下さい』
球場の外を軽く走っていたらアナウンスが入った。まだ試合開始10分前なんだけど!?聞いてた話と違うじゃん!
私は、急いでベンチへと戻った。
「ごめんなさい遅れました!!!」
「大丈夫よ。今は向こうのシートノックだからね」
ベンチへ戻ると、どうやら綾小路さんのチームが試合前のノックをしているみたいだった。お嬢様を除いた3人は、私の到着に気付かず、相手の守備練習をじっと見ているようだった。
「あ、楓戻ったんだね」
「遅いよぉ楓!何処か行ったのかと思ったじゃん」
「ごめんね。それでどう?相手のチームの人やっぱり上手なの?」
野球着に着替えたさゆりとジェシカは、ようやく私がベンチ内にいる事を気付いたらしい。
「上手いとかそういうレベルじゃないよ。少し野球やってる人なら分かるけど、守備は、レフト、ライトは初心者だけどそれ以外は経験者。ううん。経験者って言うより全国に近いレベルの人もゴロゴロいるよ。全くなんでこんなに上手い人がいるかな……配球も今更考えたって……それにいくら抑えても私が打てる保証なんてないし……やっぱり最低でもタイブレークまで持ち込んで……「天音!!しっかりしなさい!」
きっと野球をやっていた天音様の目には分かったのだろう。到底適う相手じゃないと。天音様がここまで悩んでいる姿なんて私も始めてみた。
「何よ!今必死に考えてるんじゃない!」
「今更考えてどーこーなるような相手じゃないってことも分かってるでしょ?なら出たとこ勝負でやるしかないわよ。そんなに悩んでたら尚更普段の調子出ないわよ」
「っ!だってこれに負けたらあんたどーなるか分かってるの?あいつらの奴隷になるも同然なのよ!?」
「分かってるわよ。でも私は負けるだなんて思ってないわ。皆集まって、急遽だけどシフトを変えるわ」
天音様は、まだ納得仕切っていないのか、少しだけ表情を曇らせていた。お嬢様の事を考えてるからこそここまで悩んでいるんだなと思った。私も、もう少し野球がわかっていれば力になれたのに……
私達はお嬢様に言われた通り、お嬢様を囲うようにしてベンチの中に輪を作った。
「突然ごめんね。流石に内野だけじゃこれはきつそうだわ。だからセカンドのジェシカをセンターに、それで楓は、セカンドよりにポジションを大きく取って頂戴。外野に打球が飛ぶケースが無いとは100%頭に出来ないわ。ジェシカにはたくさん走り回ってもらうことになるかもしれない。それでもいいかしら?」
「任せて!絶対後ろにはやらないから!」
「ありがとう。天音もいいわね?」
「あーもーわかったわよ!私らしくもなかったごめん!当たって砕けろだもんね!それに負けてもエレナが綾小路さんに尻尾振るだけだもんね!それじゃ皆しばってこー!」
「全く……勝つわよ!!!」
一同「おーーー!!!」
「おーい、月村ちゃん達はシートノックやらないの?」
どうやら主審は濱田先生みたいだった。審判用具に身を包んだ先生が、スパイクの音をカチャカチャと響かせながら私達のベンチへ入ってきた。
「大丈夫です。皆大会前にボールの感覚は掴めてますので。それより相手に守備力を見せたくないので」
「おっけー!じゃあすぐに整列させちゃうね!ケガだけはしないようにね!」
「ありがとうございます」
そして、濱田先生がホームベースの後ろに陣取り、塁審3人を集めた瞬間だった……
「整列!!!」
「行くわよ!!!」
一同「おおおおお!!!!」
いよいよ、第2種目となる野球が幕を開けようとしていた。
次回からいよいよ野球のスタートです!何で野球にしたかは、作者が野球をやっていたのもありますし、甲子園シーズンだったからなんて理由ですが、楽しんで頂けたらなと思います。
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