「月村起きなさい!朝ごはん出来たから早く!!」
耳元で甲高い声が響いている。うるさいわね……
「ねぇ!朝!あーさ!」
「うるさい!!!」
「うるさいとまで言わなくていいじゃん!せっかく起こしてあげたのに!月村のバカ!」
ホントに朝から騒々しいわね……
「寝起き悪いのよ許して頂戴。それで今何時なの?」
「え?6時だよ。丁度朝ごはんの準備出来たからソフィが月村起こして来いって」
「はぁ!?今日休みよね?なんでそんな朝早く起きなきゃいけないのよ……」
「うちでは休みだろうが休みじゃなくても9時寝6時起きが基本だもん。ほら早く早く」
そう言ってジェシカは、私の掛け布団をいきなりひっぺがして、右手を引っ張ってきた。なんで休みの日にこんな早くに起きなきゃ行けないのよ……まぁ客人として来てる以上文句は言えないわね。
「わかったわよ……今起きるわ」
「って!なんで服着てないの!?もしかしてドMだけじゃなくて露出癖もあるの!?っていったぁ!!!なんで叩くのよ!」
私は、変な事を口走ったジェシカの頭を引っぱたくと無言で前日用意しておいた着替えに袖を通した。
「あるわけないでしょ。私寝る時は何も着ないのよ」
「この時期なのに?」
「暖房MAXにしてるからね。特に気にならないのよ」
「そっか!胸もないから形が崩れるとか考えなくていいもんね!」
「ジェシカ。またボコボコにして欲しいのかしら?」
私は精一杯の笑顔をジェシカに向けながら言い放った。
「それだけはやめて……とにかく服着たなら私に着いてきて。お父様とお母様もいるから」
「わかったわ」
そっか……そうだよね。普通の家には両親が一緒に住んでるもんね。私と楓が基準になっていたわ。長いこと2人だと感覚が麻痺しそうになるわね。最近は詩織も増えて3人になったけど。
部屋の外に出ると、昨日は気にならなかったが、私のお屋敷よりも大きい家だなと思った。これを家と言っていいのかはわからないけどね。さっきまで私が使っていた客間は推定だけど20畳程の広さにトイレ付き。そういう部屋が30室はあった。いったいどういう構造をしているのかはわからないが、とにかく馬鹿みたいに広い。通路には何かあったとき用のためだろうか、常に二人体制でメイドさんがついていた。しばらく歩いた後、ようやくリビングだろうか?ジェシカの足が止まり扉が開いた。
「お父様、お母様。友人の月村さんです」
丁寧に両親に向けて私を紹介してくれた。父親が日本人で母がロシア人らしい。ジェシカの母親は、ジェシカと違って出るところは出ていてスタイルがとてもよかった。その辺にはジェシカに遺伝しなかったらしい。それに挨拶をする時は流石のロシアの姫だ。いつものジェシカと180°違って少しだけびっくりしたが、私も気を引き締めお嬢様らしく挨拶を返すことにした。
「月村エレナと申します。この度は突然お邪魔してしまって申し訳ありません。手厚い歓迎に感謝致します」
私は、ジェシカの両親に向かって深々と頭を下げた。
「そんなに畏まらなくても大丈夫よ。ジェシカがお友達を連れてくるって言って、私も父も楽しみにしてたのよ。ね?お父さん」
「月村さんって言ったかな?ジェシカと遊んでくれてありがとうね。この子はやかましいところは多いと思うが根はいい子だと思ってるから今後とも仲良くしてあげてくれるかな」
父親も母親も柔らかい顔をして私に向けて話してくれた。このぐらい楽な話し方をしてもらえると私としてもとても助かった。
「もちろんです。ジェシカさんとは今後も仲良くさせて頂きたいと思っております」
「もー!パパもママもそんなこと言わなくていいよ!ほら月村座って座って!ご飯冷めちゃうよ」
「さっきのお父様、お母様はどこにいったのよ……そうね。失礼します」
テーブルには、日本人に合わせてくれたのかはわからないが、シンプルに焼き鮭、わかめと油揚げのお味噌汁、生野菜、納豆、白飯が綺麗に並べられていた。
「では揃ったようだね。ソフィも座りなさい。頂きます」
一同「頂きます」
ご飯はどれを食べても美味しかった。日本人に合わせた味付けなのかはわからないが、薄味で朝食にぴったりだった。
「月村さんのお口にあったかしら?」
私の前の席に座っているジェシカの母親から声をかけられた。
「はい。とっても美味しかったです。ごちそうさまでした」
「ならよかったわ。ご飯も食べ終わった事だし、ちょっと質問してもいいかしら?」
「大丈夫ですよ」
質問?もしかして前うちの娘にヘッドロックかけて落としたのは貴方かしら?なんて言われないよね。
「女性同士で結婚するというのは本当なの?ジェシカから聞いてとてもびっくりしましたわ。悪い意味に取らないで下さいね。単純な私個人の興味本位なので」
「ちょっとママ」
「ジェシカ、別に構わないわよ」
「月村がそう言うなら……」
きっと私に悪いと思ったのだろう。お母さんの言葉を聞いたジェシカが、すぐに止めに入ろうとしてくれた。
「本当です。クリスマスパーティの時にプロポーズをしようと思っています。ここに泊まらせて貰おうと思った理由も、私のメイドが、私の態度がよそよそしすぎてクリスマスパーティ前にバレてしまうんじゃないか?という心遣いから泊まりに来ています。本当にご迷惑をおかけしてしまって申し訳ありません」
私は、今回泊まった理由を包み隠さずジェシカのお母さんに話した。
「そうなのね。とっても素敵だと思うわ。そうだわ!ソフィ!私の結婚式に使ったウェディングドレスってまだあったかしら?」
「それでしたら、ニーナ様のお部屋のクローゼットの中にあるかと」
「ここに持ってきて頂戴。ロシアでの結婚式と日本での結婚式の2着ね」
「承知致しました」
そう言うとソフィは、数人のメイドを引き連れてリビングから出て行った。
「話の流れで分かったと思うけど良かったら私のウェディングドレスを貰ってくれないかしら。もう20年前の物だけど、素材はそこら辺のものよりは優れていると思うわ。厳重に保管させていたから新品と代わらないぐらい綺麗にもなってるわ」
「そんな大切な物を頂けませんよ。ジェシカさんの結婚式の時に残して置いてあげてください」
バッティ家のそんなものを貰えるわけがない。1国のお姫様が使っていたウェディングドレスなんて私なんかが着ていい代物じゃないことは明らかだった。
「ジェシカに私も上げようとしたんだけどね。その子どうにも水色って色にこだわってるみたいで白のウェディングドレスなんて着ない!って言い張って聞かなかったのよ。1年前ぐらいから、そろそろ捨てちゃおうか?って悩んでたから、月村さんと楓さんでどうかなって?」
ジェシカ……水色のウェディングドレスなんて聞いたこともないけど。でもやっぱりお姫様なんだな……もう結婚の話とかもしてるみたいだし。お見合いとかも大変なんだろうな。
「なるほど……ジェシカもいいの?」
「私も月村と楓に着て貰えたら嬉しいよ!ママとパパの思い出が次の人の思い出になるってとっても素敵だと思う」
「ジェシカ……そうね。分かりました。私には本当にもったいないぐらいですが、ウェディングドレス2着譲って貰っても大丈夫でしょうか?」
「もちろんよ。ねぇ貴方?」
「もちろんだとも。月村さんと言ったかな。昔娘が大変失礼したみたいでその時はすまなかったね。そのお返しって言うわけでもないが、困ったことがあったら何でも言ってくるといい。若い女性2人だけだと色々大変だろうからな」
やっぱりバレてたかぁ……よくお泊まりOKしてくれたなほんとに。
「ありがとうございます」
コンコンコン
「ソフィです。ウェディングドレス2着用意出来ました」
「ありがとう。入っていいわよ」
リビングの扉を開けて入ってきたソフィを含めた数人のメイドさんの手には、マネキンに着せられているウェディングドレスが2着しっかりとそこにあった。
「綺麗……これホントに貰ってもいいんですか?」
「もちろんよ」
純白という言葉通りの透き通った白がそこにはあった。20年前に使っているはずなのに新品同様に輝いていた。装飾などは2着とも何も無く、一つだけ違いがあったのは胸の所に装飾があるかないかだった。片方は何も無く、もう片方は胸の辺りに花の刺繍がしてあった。
「本当にありがとうございます。絶対結婚して幸せになってみせます」
「その意気よ。きっと楓さんだって喜んでくれるわよ。それじゃ話はおしまい。後は適当にくつろいで頂戴。何かあればお屋敷のメイドに言ってもらえれば対応出来ると思うから」
「ありがとうございます」
そう言うと、ジェシカのお母さんはリビングから出て行った。
「月村、この後予定あるの?」
「特にはないわね。ウェディングドレス見ようと思ってたんだけどジェシカのお母さんのお陰でそれも解決したし」
「じゃあ私の部屋に来てよ。ゲームしよ!暇でしょ!」
「あんたはホントにいつも通りね……まぁいいわ。息抜きだと思って付き合うわよ」
その後夕方近くまでゲームをして楽しんだ私達はそれだけで一日を終えた。クリスマスパーティまで残り2日となった。