「楓ちゃんクリスマスツリーの位置だけどどうしようか?端っこに置く?それともリビングのど真ん中に目立つように置く?」
「そうですね……当日たくさんの人が来ますし、ちょっとツリーが可哀想だけど邪魔にならないように端っこに置いた方がいいかもですね」
時刻は、朝の9時。私と詩織さんは、明日のクリスマスパーティの準備の為にお屋敷の、特にリビングの装飾をしていた。ツリーを飾ったり、イルミネーションを付けたり、普段はリビングに1つしかないテーブルを、倉庫から持ってきて4つ並べていた。流石にお嬢様のお屋敷だけあってこれだけ並べてもスペースは余っていて、何一つスペースに関しては、苦労する事はなさそうだ。
prrrrrr……prrrrr
ん?電話?詩織さんの携帯かな。
「詩織さん携帯鳴ってますよ」
「ん?あぁ!ごめんちょっと席外すね!」
「わかりました」
なんか詩織さんの様子が変だ。私に聞かれたくない話なんだろうか。いつもなら普通に私の前で電話してたけどなぁ……もしかして彼氏さんとかかな?
そんな事を考えていると5分もしないうちに詩織さんは、戻ってきた。
「ごめんちょっと出てくる。夕方には帰ると思うから。装飾大変だと思うけど少しだけ任せてもいいかな?」
「全然大丈夫ですよ。昨日私何もしてませんし、ゆっくりしてきてください」
「ありがとね!じゃあちょっと出てくるから!あ!もしもし!」
詩織さんは忙しそうに電話をかけながら外へと出ていった。詩織さんの愛車のR35のエンジン音が聞こえてきたという事はそれなりに遠出だろうか。とにかく私も終わらせて明日着るドレスの試着でもしよっと。
私は、残りの装飾をそれなりのスピードで終わらせ14時には全ての準備を整えた。後は、明日の12時のクリスマスパーティ開始に合わせて料理を並べるだけだ。
「んー!終わったぁ。皆楽しんでくれるといいなぁ。全員で集まるのも久しぶりになるもんね。エレナもよく分からないけど準備してるみたいだし、このクリスマスパーティがちゃんと成功したらいいな」
ブォンブォン!!
エキゾースト音。詩織さんも丁度帰ってきたかな。
「ただいま」
「おかえりなさい。ってなんか顔色悪いですよ。大丈夫ですか?」
「ちょっと色々あってね……あ、綺麗に出来たみたいだね。ありがとう」
「いえ……今何か温かいもの入れますよ」
「いや、大丈夫よ。でもちょっと横になろうかな。ごめんね帰ってきたばかりなのに」
「全然大丈夫ですよ!ホントに何があったんですか?話ぐらいなら私で良ければ聞きますよ」
「ううん。ホントに大丈夫だから。ごめんね気使わせて。それじゃちょっと寝てくる。このまま朝まで起きないかもだからクリスマスパーティの料理もあるし朝8時になったら起こしてもらってもいい?」
「わかりました……」
そう言うと、フラフラしながら詩織さんは自室へと向かって行った。
ホントに何があったんだろう……詩織さんのあんな表情を見たのは初めてだった。悲しみに溢れてるっていうか、とにかく辛そうだった。外出先で何があったかはわからないが、明日になったらそれも忘れて楽しんでくれたらいいな……
「私もドレスの試着したらお風呂入って寝ちゃおうかな。万が一にでも寝坊なんてしたら洒落にならないもんね」
私は、自室に戻るとさゆりと出かける前に2着まで選択肢を絞ったドレスを手に取りどちらにしようか決めかねていた。
「んー……赤も悪くないしオレンジも悪くないんだよね。でもエレナはきっと黒だから2人で並んだ時映える色がいいよね。なら赤かなぁ。ちょっと胸元空いてて大胆だけどこんな時ぐらいにしか着ないしいいよね」
悩んだ結果私は、赤のロングドレスに決めた。胸元が少し空いていてちょっとセクシーなものだったがこのぐらないなら支障はないだろう。
「エレナに綺麗とか可愛いって言って欲しいな……やっぱり好きな人から言われる可愛いとかって他の人とは違うよね。それにしても向こうに行ってからなんの連絡も無しはちょっと酷いと思うな。まぁそれだけ忙しいのかもしれないけどさ」
ドレスを決めた私は、ハンガーにそのドレスをかけ、軽い夕飯を取ってお風呂に入り明日に備えた。
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迎えたクリスマスパーティ当日の朝。私は、目覚ましがなる前に目を覚ました。時刻は朝の7時。
「んーー!!よし!準備しよっと!」
私は、布団から飛び起きると、すぐにリビングへと向かうことにした。
「あれ、楓ちゃんおはよ。早いんだね」
自室から出ると詩織さんとばったり遭遇した。詩織さんは下着にトレーナーを羽織っただけの格好をしていた。
「おはようございます。なんだか目が覚めちゃったので」
「私これからお風呂入るけど楓ちゃんもどう?寒いから温まってから色々やろうかなって思ってたんだけど」
「いいですね。たまには詩織さんと一緒にお風呂入りたいです」
「じゃあ行こっか」
「はい!」
私は、詩織さんの後を追うようについていった。たまには朝風呂もいいよね。
「あったまるわぁ……エレナから何か連絡きた?」
「それが何一つ連絡が無くて……少しぐらい連絡寄越してくれてもいいと思いません?まぁ忙しいのかも知れないですけど」
「ふふ、ホントにエレナも楓ちゃんも変わったよね。気がついたら大きくなっててホントにびっくりしたもん。楓ちゃんこっちおいで」
詩織さんがぽんぽんと自分の膝を叩いていた。ここに座ってということなんだろうか。
「流石にもうそんな歳じゃないですよ」
私は、苦笑いで詩織さんに返答した。
「堅いこと言わないの!懐かしいなぁこの感じ……楓ちゃん小さい時は私から離れなかったんだからね?」
強引に詩織さんの膝の上に乗せられてしまった。なんていうか、とても恥ずかしかった。確かに小さい頃は、詩織さん!詩織さん!ってくっついていたっけ。
「強引なんですから……副業が決まった時もこうしましたよね。やっぱり詩織さんの腕の中にいると安心します」
「私はちょっとだけ寂しいよ。大事に育ててきた娘が旅立っちゃうってこんな気持ちなんだろうな……楓ちゃんもエレナも大きくなってこれから旅立って行くんだなって思うとほんのちょっとだけ寂しいよ」
詩織さんらしくない弱音だった。でもそれほど私、いや私達は大切にされていたんだなって改めて実感した気がした。
「私もエレナも何処にも行きませんよ。詩織さんも何処にも行かないで下さいね。こんなに安心出来る場所なんてそうそうないんですから」
私は、詩織さんに寄りかかりながらそう言った。小さい頃から寄りかかってきた大きな胸。これほど安心出来る場所なんてないと思う。実の親ではないけど、ホントに詩織さんには感謝しきれないぐらいだ。
「そうだよね。ありがと。まさか私が慰められる時が来るなんてね。なんか悔しい!エレナにあげたくない」
詩織さんは、私を後ろから強く抱きしめながら、笑っていた。良かった。やっといつもの詩織さんの顔が見れた。
「もー!何言ってるんですか。そろそろ準備しましょうよ」
「もう少しだけこうさせて。たまには甘えてもいいでしょ」
「後5分だけですからね」
詩織さんは、しばらく私を抱き抱えて離さなかった。やっぱり昨日のことがよほど応えていたらしい。原因は分からずじまいだけど私なんかで力になれたらそれでよかったかな。
「よし!それじゃ準備しよっか!」
「はい!」
お風呂から出ると私達はキッチンに向かい、予め下ごしらえをしていた料理と対面していた。分かってはいたけどこうしてみると凄い量……私、エレナ、詩織さん、天音様、さゆり、ジェシカ、紅葉お母さん、佳奈お母さん、若菜ちゃんで9人分。昨日下準備をしてなかったら到底間に合わなかった。
「揚げ物からやっちゃいますか?」
「1番時間かかるしそうしようか」
「了解です」
昨日から味を染み込ませていた唐揚げの袋に手をつけた時だった。
ピンポーンピンポーン
誰だろうか。まだ約束の時間には早いはず。
「はい、月村ですが」
「あ、楓?手伝いに来たよ!9人分の準備するの大変かなって。天音は後から来るから」
「ホントに!?助かるよありがとう」
さゆりが手伝いに来てくれたみたいだ。1人でも人手が増えるのはホントにありがたい。
「よし!じゃあ私盛り付けしてテーブルに並べちゃうね。サラダとかも、もう並べていいよね?」
「大丈夫!後1時間ちょいだし丁度いいと思う」
それから時間がすぎるのはあっという間だった。料理をして、テーブルに並べての作業を繰り返していたら時刻はあっという間に11:30となった。
「終わったぁ……後は皆待つだけだね。ホントに助かったよさゆり」
「気にしないで。私もすんごく今日楽しみにしてたんだ。楓も詩織さんも着替えますよね?私細かいところやっておくので着替えてきてく大丈夫ですよ」
「ありがと!詩織さん行きましょ」
「そうだね」
私は、1度自室に戻り、昨晩決めたパーティドレスへと着替えた。
「楓綺麗……ってか結構大胆なドレスにしたんだね。楓にしては珍しいんじゃない?」
「ありがと。たまにはいいかなって思ったの。こういうの着る機会なんてそんなにないしね」
ちなみにさゆりは黄色のパーティドレスを着ていた。腰にリボンを巻いていてとても可愛らしかった。
「まぁ確かにそうだね。エレナ様もびっくりするかもね」
「そうかも」
ピンポーンピンポーン
「誰か来たみたいだね」
「だね。月村です。あー!すみません今受け取りに行きますので!」
ピンポンした人は、どうやらこの間買ったアクセサリー店の人みたいだった。そう言えばこのぐらいの時間に来るって言ってたっけ。
私は、急いでアクセサリーを受け取ると、エレナが来る前に急いで自室の机の中にプレゼントを隠した。
「エレナ様へのプレゼント?」
「うん。間に合って良かったよ。早く皆来ないかな」
ピンポーンピンポーン
今度こそ来たかな。
「はーい」
「お待たせ!皆いるよ!!!」
インターホンのカメラから皆の姿が確認出来た。どうやらどこかで待ち合わせをしていたみたいだった。
「今開けるね」
「うわぁ!!!すんごい綺麗!これ楓と詩織がやったの!?」
「そーだよ」
部屋のイルミネーションやツリーを見るとジェシカがとても驚いていた。喜んでくれたみたいでよかった。
「楓ちゃん久しぶりね」
「佳奈お母さんもいらっしゃい。紅葉お母さんとは喧嘩してない?」
「もちろんよ。ほら、紅葉来て」
「ドレス似合ってるわよ楓。私の若い頃にそっくり」
「ふふ、ありがと紅葉お母さん。紅葉お母さんも綺麗だよ」
佳奈お母さんと紅葉お母さんは、紺のドレスを着ていた。どうやら2人で合わせてきたみたいだ。
「まんま!まんま!」
紅葉お母さんの背中の方から赤ん坊の声がした。若菜ちゃんだ。会うの久しぶりだから楽しみにしてたんだよね。
「若菜ちゃん久しぶり!お姉ちゃんの事わかるかな?」
背中の若菜ちゃんに声をかけてみたが、ぷいっとそっぽを向かれてしまった。どうも初対面の時から私を苦手にしているらしい……
「あらあら、さっきまでエレナちゃんが抱っこしてた時は笑顔だったんだけどね。後で抱っこさせてあげるから来なさいな」
「なんでエレナだけ……わかった!後で行くね!」
そう言うと2人のお母さんは、テーブルの方へと向かって行った。
「私も可愛い?今日の為にママに買ってもらったんだ!」
声を掛けてきたのはジェシカ。ジェシカは、水色のミニスカートのドレスだった。周りが皆ロングスカートだからとても目立っていた。ツインテールの髪にも星の髪飾りがついていてとても可愛らしかった。
「ジェシカも可愛いよ」
「ありがと!ねぇ!早くパーティ始めようよ!お腹すいちゃった」
「ジェシカったらいつも以上に子供だね。そう思わない?楓ちゃんさゆりは役に立った?」
次に声をかけてきたのは天音様。天音様にしては珍しく、明るい色のドレスではなく茶色のパーティドレスに身を包んでいた。
「ホントに子供みたいですね。はい。ホントに助かりました」
「ならよかった。パーティ楽しもうね!」
「はい!」
「楓」
透き通るように綺麗な声。エレナだと直ぐにわかった。
「少しは連絡してきても良かったんじゃないのエレナ」
「ごめんなさい。連絡しようか悩んだんだけど忙しかったら迷惑になるかなって」
申し訳なさそうに謝るエレナを見て、私の怒りはどこかへ消えていった。私もホントにエレナに対して甘いと思うけど仕方ないよね。
「気使ってたんなら許してあげる。やっぱり黒なんだね」
「ありがと。そうね。やっぱり黒が落ち着くもの。楓は、赤なのね。とても似合っているわよ。でもちょっと胸元開けすぎじゃないの?」
「たまにはいいかなって思ったの。ダメだったかな?」
「ううん。ホントによく似合ってるし、綺麗だと思うわ。そろそろ席に着きましょうか。料理が冷めたらもったいないし」
「そーだね。じゃあエレナ皆に言って。月村家の代表なんだから今日は仕切っちゃってよ」
「わかったわ。皆そろそろ席につきましょうか。テーブル4個に椅子が適当にあると思うから適当に座って頂戴」
「適当ばっかじゃん!」
「うるさいわよ天音。どんなふうに分けていいか分からなかったんだから仕方ないでしょ」
「まぁ確かにそれはあるね。じゃあ適当に座っちゃうね」
結局席はこうなった。
第1テーブルには私とエレナとジェシカ
第2テーブルには天音様とさゆり
第3テーブルには紅葉お母さんと佳奈お母さん、若菜ちゃん、詩織さんが座った。
「じゃあ第1回月村家主催のクリスマスパーティを始めたいと思います。皆さんグラスを手に持ってください。乾杯!」
一同「乾杯!」
ついに待ちに待ったクリスマスパーティが始まった。皆楽しんでくれるといいな。