山羊と羊の輪舞   作:山羊厨

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第13話

 

大図書館(アッシュールバニパル)で会った爺さんは経験を交えて話す内容も面白いし、何か考え事をしたり悩んだりするたびに髭を撫でる仕草も親近感を覚える。何より魔法馬鹿っぽいところが話も合いそうだし、側に仕えるNPCの態度に目を白黒させる姿も面白い。

 

うんうん、気持ち分かるぜ。

俺もなんでこいつらがいつまでたっても態度変わらないのか分からないんだから。

異形種と人間種ってホント相容れないよなぁ。遊戯(ゲーム)でも争ってたんだから現実(リアル)だと尚更だろうしなぁ。

 

なーんて思いながら目の前の髭爺さんを愛でていたのが悪かったのか、デクリメントとティトゥスの視線が不穏だ。となると見えないが護衛の為にモモンガさんがつけてくれたはずの八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)も…まずい、見過ぎたらしい。

 

落ち着けー、お前ら落ち着けー。

大丈夫だ、気に入ったからって付いてったりしないから心配ないぞー…。

 

ナザリックへ戻った日に感じていたNPCのヤンデレ感的中にウンザリしつつ、手を振って彼等の不穏な視線を霧散させる。

 

よし、デクリメント茶菓子持ってこい。俺は今茶菓子が食いたい気分になった。

ティトゥスは手帳持ってこい。書棚に突っ込んどいたはず…閉架書庫?なんでそんなとこに入っ…いや、責めてない。大丈夫だ、気にしてない、自害しなくていい。持って来てくれればいいだけだから行ってこい、な?

八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)、二人が離れるからお前らが俺を護れ。姿見せるだけで抑止力になるだろ。

…モモンガさん、つけすぎじゃないか?10体って…まさか、まだ隠密で隠れたりしないだろうな?

よしよーし、お前らはちゃんと役に立ってるぞー、良い子だなー…。

 

デクリメントが張り切って準備した茶菓子を口に放り込みつつ溜息を押し殺す。

俺が気を使わなくちゃならないとか、どういうことだ…。

モモンガさんの苦労が偲ばれて涙が出そうだ。そのうち悟りの境地を開くかもしれないな、骸骨だけに。

 

自己紹介の後に茶菓子をすすめつつモモンガさんの保護下にあることを伝えれば納得していない顔をする。何故だ?

 

「魔道王陛下におかれましては無駄なことを一切行わない方だと…失礼ですが、あなたは腕の立つ戦士か騎士いらっしゃる?」

「いや」

「では盗賊や斥候などの任務をこなしておいでですか?」

「いいや?」

「では気配遮断の指輪をされておいででしょうか?」

「いや、していないが?」

「…大変失礼ですが、その、魔道王陛下が興味を持たれるには…些か…」

 

なるほど。段々と言葉尻が小さくなったが、俺では不相応だと言いたいらしい。モモンガさんのコレクター魂を知っているとはなかなか見所があるな。

殺気あてられて冷や汗かいてろ、助けてやらん。

 

魔法詠唱者(マジックキャスター)だとは思わないのかと聞けば生まれながらの異能(タレント)を持っているという。相手が何位階まで使えるかを見破ることができると。

爺さん、生まれながらの異能(タレント)持ちか!

聞いてはいたが便利そうだ。使用してても傍目には分からないし、かなり使えそうな生まれながらの異能(タレント)だ。だから俺を見て魔法詠唱者(マジックキャスター)じゃないと判断したと。

 

「俺は魔法を全く使えないってことか」

「はぁ、その、身共には全く感じられず…」

 

ダラッダラ冷や汗流しながら答える髭爺に深々と溜息をつけば、更に顔色を青白くさせる。下僕(シモベ)からのプレッシャーが相当キツイようだ。

髭爺には魔法が使える使えないに関わらず相手の力が目に形として見えるらしい。

村人が使う第零位階生活魔法すら見えるのに、俺からは全く!これっぽっちも!!見えないと。つまり俺は村人以下ってことか。

 

現実の身体だ。魔法が使えないのは当たり前なんだが、せっかく剣も魔法もモンスターもいる世界なんだから使って見たかったというのが本音。大厄災だって現実ならどうなるのか見たかった、切実に。

…あー…使いたかったなぁ…。

 

未練がましい思いが頭をグルグルと回っているうちにティトゥスが戻り、手帳を受け取ってパラパラとめくる。別に必要だったわけじゃない、場を治めるのに思いついただけなんだが…

 

「これ、なんで書庫入りになったんだ?」

「御方直々の手記でございますので」

 

ギルドメンバーが書いたってだけで重要書物扱いってことか。俺の手帳よりぷにっと萌えやベルリバー達が持ち込んだ書物データの方が貴重だと思うんだが、価値観が違うのか…。

 

手帳の中には懐かしいメモが沢山詰まっている。

すっかり忘れてたイベントアイテムの取得方法や魔法の効果範囲、より威力を上げる方法を模索した跡など様々なことを書きつけた覚えがある。

 

字、汚いな。お、ここ間違ってる…直しとこ。

時間あるし、ちょっと字の練習とかした方がいいかもなぁ。この世界、キーボードも音声や脳波入力もないから面倒臭いが記して残しときたいし…?

 

添え付けて置いたペンで間違いを直そうとして、髭爺からの強い視線に気付く。

 

なんで涎垂らしそうな形相でこっちを凝視してるんだ?

なんかあったか?

 

「…なんだ?」

「そ、それを見せていただけまいか…?」

「手帳なんて見せるもんじゃないだろ」

「へ、閉架書庫の書物ですぞ!?是非、是非読ませていただきたい!」

「いや、無理だって。興奮しすぎだ爺さん」

 

なんで個人の私物を初めて会った爺さんに見せなきゃならん、恥ずかしい。

大図書館(アッシュールバニパル)なんて来る奴は決まってたし、隠し場所にいいかと思って放り込んだだけだ。まさかNPCが整理するとか思わなかったんだよ。

 

だが心の中で言い訳している間にも目の前の髭爺のテンションは上がっていく。

なんだこの爺さん、魔法上昇(オーバーマジック)混乱(コンフュージョン)常時効果(パッシブ)なのか?

 

「そもそも、その書物を手帳と申されておりますが、その紋章を御存知なら書かれた方のことも御存知のはず!」

 

待て、落ち着けお前ら!

違うから、この爺さんちょっと興奮してるだけで害そうとかしてるわけじゃねぇから!

 

「この紋章はかつて魔道王様の盟友であられ、最強の魔法詠唱者(マジックキャスター)であられた方の紋章!その方の書かれた書物とは即ち最深淵にある叡智が詰まった書物!」

 

おおおおぉぉい、武器を置け!

待てだ、待て!じっとしてろ、動くな!

デクリメント!?茶器を武器にしちゃいけません!

武器は置けって言っただろおぉぉっっ!?

 

「その書物にあろうことか追記しようとするなどっ!冒涜にもほどがはぁっ!?」

「御方に対する無礼は!絶対っ、許しません!!」

「ああぁぁ…あんなに置けって言ったのに…」

 

八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)死の支配者(オーバーロード)抑えるのに精一杯。興奮しすぎて無闇に近づく爺さんはデクリメントに撃退され、床で痛みに悶えている。

 

流れるようにワゴンへと茶器を置く動作から一転、勢いよく振りかぶってのトレイ投擲で前頭部を的確に捉えるとは。なんてトレイ捌きだ、恐るべし一般メイド。

近距離とはいえ寸分も的を外さぬ正確な投擲技術、ペロロンチーノにも無理ではないかと思えるほどの躊躇のなさとと技の冴え。メイド服は決戦兵器って意味、確かに理解したぜホワイトブリム(違)

 

だがしかし一般メイドの攻撃による髭爺の被ダメージは気絶状態には至らなかったようだ。直ぐ近くまで興奮しながらにじり寄って来ていたところを倒された為、より距離が近くなっていたらしい。

下僕(シモベ)を嗜めようと近づく俺の左足を握り込み、動きを阻まれて。

 

「しょ、書物を…」

 

と執念が力を込めさせたのだろうが今の俺には強すぎる。砕ける!と痛みを覚悟し。

 

『動くな』

 

騒がしい大図書館(アッシュールバニパル)が瞬時に静まり返る。

 

『御方に触れる汚らわしい指を即座に離し』

 

言葉一つで左足を握り込んでいた手が弾かれるように離される。

 

(ぬか)づき、赦しを請いたまえ』

「も、申し訳ございませんでした!お赦しください!!」

 

大図書館(アッシュールバニパル)内に響く深みのある声は、思い描いた通りの良い音色。

正面広間に接する通路に目を向ければ、俺に対しては効果を激減させる呪言を操る朱のスーツを着た悪魔が苛らただしげに銀の尾を立てている。

 

「デミウルゴス」

「大事ございませんか?御身足に怪我を負われては…」

 

ないとばかりに左足で床を数度踏みしめれば、厳しく固まっていた口角を緩やかに上げて片腕を胸に当て優雅に腰を折る。

 

「第七階層守護者、デミウルゴス。御身の前に」

「…ご苦労。お帰り、デミウルゴス」

 

たった一声、一節の労いの言葉に立てていた尾を緩やかに落とした後、それはそれは嬉しそうに左右に振り始める。なんて分かりやすい奴だろう。

それだけ飢えていたのだろうと察せられて後ろめたい気になるが、悪魔が親に飢えることなんてあるのか?という一抹の疑問を覚えつつ歩み寄る被造物を迎える。

 

これが今の俺の日常。

友に庇護され、友の遺した子等に護られ、己が被造物に養われる大厄災の魔(グランドカタストロフ・デビル)とか、もう嗤うしかない。

 

「ティトゥス」

「は…」

「説明をお願いできますかね?何故御方の身に害が及ぶような事態になったのか」

「畏まりました」

 

被造物に寝椅子の上まで誘導されて腰かければ、再度周囲を下僕(シモベ)固める。銀の尾を俺の側で揺らしつつ安全を確認してから始められた会話に耳を傾ける。爺さんは床に額づいたままだ。

 

もう老年だってのに、屈辱だろうなぁ。

申し訳ない。うちの子、俺に害意を向けるモノに容赦なくて…。

なんでこんなに過保護なのか俺にも分からんから対処のしようがなくてな。諦めて欲しい。

 

「なるほど、そういうことですか」

 

え?何がそういうことなんだ?

頭の中は疑問符でいっぱいだが、「お赦し願えますか?」と宣う悪魔を赦さぬ道理がない。むしろ助けてもらった側の俺が赦さんとか、何様だ。いやいや、そういえば至高の御方(笑)だったな、俺。

 

『面を上げることを赦す』

 

ようやく支配の呪言から解き放たれた髭爺はへたり込んで震えている。

これはレベル差を実感したのか、屈辱を覚えているのか難しいとこだなぁ…。

 

「己の分を弁えていますか?」

「は、申し訳ございませんでした…」

「口だけの謝罪など必要ありません。弁えているかどうかを私は尋ねているのですがね?」

 

あ、謝ればいいんじゃないのか…?

厳しい表情を崩さない被造物を見上げて震える髭爺と、同じく被造物を寝椅子の上から眺めながら震える俺。なんだろう、俺が造ったのにやまいこさんを彷彿とさせる…説教怖い。

 

一礼して拝借の旨を伝える被造物に頷いてやれば、机に置いた手帳を手に取る。そしてくたびれた表紙に刻印された紋章をゆっくりと指で撫で始めた。

 

「記された御方は最強魔法詠唱者(マジックキャスター)であり他の者が追記するなどもっての他と?」

「はっ、申しました」

「よろしい。大変正論だと思います。御方が記された品を御方々以外が触れることすら私達にとっては赦されないことです、御方自身の許可がない限り。この事も理解していますか?」

「はっ、唯一無二の書物ですから当然かと…」

「ふむ。そこまで理解しておきながら、何故分からないのかが理解に苦しむのですが…いいでしょう」

 

分かっていない髭爺を嘲るように悲しむように最上位悪魔(アーチデビル)が首を振る。お前、その仕草似合うな。そんなモーション組んでもらったっけ?

 

で、何々?爺さんは何を分かってないんだ?

んで、俺は何を理解出来てないんだ?

全然分からんのだが。

 

「周りをよく見なさい」

 

そう示されてグルリと見渡す書棚。この辺り一帯の書棚は俺が集めた書物データで埋まっている。これがどうかしたか?

 

「棚から書物に至るまで全て同じ紋章が刻まれています、即ちこれら全てが一人の御方の所有物」

 

素直に頷く髭爺さんをデミウルゴスの背後で眺めながら自分も頷く。

そりゃ俺が集めたから俺の物って認識なんだろうが、それがどうした?

 

「御方の所有物を御方が如何様にしようと我等如きが口を挟むべきではない、ということです」

 

色々すっ飛ばして結論来た!?

俺の物を俺がどうしようが口出しすんじゃねぇよ、ってことか?

それで分かるのか?そもそも爺さんは何をわかってなかったんだ?

 

「そ、それはつまり…おおおぉぉぉ!」

『動きを止めよ。御方へ無礼を働くな』

 

何に気づいたのか頬を上気させて膝立ちになりにじり寄ろうとする爺さんに護衛が殺気立つが、瞬時に呪言によって止められる。

強制的に止められているというのに興奮が治まらない様子にデミウルゴスも少々引いているようだ。

気持ちはわかる。涎垂らして目がいってるからな、中毒者がラリってるようにしか見えない。

 

「全く、君はもう少し落ち着きを持つべきではないかね?」

 

床に投げ出していた足を、そっと寝椅子の上に引き上げて胡坐を組む。何するか分からん爺だな、獲物を狙うような眼光が向けられてくるのが怖い。

 

「至高の御方とは存じませず!何卒、何卒お赦し下さい!儂は魔法の深淵を目指しておりまして、どうか!どうかその叡智を儂に授けては下さいませんかあぁぁぁぁぁ!!」

『落ち着きたまえ』

 

支配の呪言に抗い全身を震えさせながら言い募る爺怖い。そして呪言連発するデミウルゴスも落ち着け。

お前、呆れはじめてるだろう。殺した方が手間がなくて良いんじゃないかとか考えてるだろう。最上位悪魔(アーチデビル)の名が廃るから、せめて利用方法を検討するくらいはしてくれ。

 

「申し訳ございません、ウルベルト様。栄えあるナザリックに属するものとしての教育が行き届かず。この罪、如何様にも…」

「いや、何も気にしてない。だからお前が責任を取る必要もない」

「寛大な御言葉、感謝致します」

 

いやいや、お前らのおかげで実質被害無いし、現地人に引退した奴を知っとけとか不可能だろ。引退したら居ないも同然なんだし。

再び動きどころか口すら封じられた爺さんを見れば、懇願の視線を向けてくる。

 

本当に魔法が好きらしい。より多くの魔法を、より威力のある魔法を使いたいという気持ちは良く分かる。

ユグドラシルを始めた頃に夢中で調べたもんなぁ。どんな効果で、どんな威力で、どんなエフェクトか、初めて使う時にはワクワクしたもんだ。

 

しかし教えてほしいと言われても、爺さんの生まれながらの異能(タレント)のおかげで今の俺が魔法を使える可能性はゼロだと分かった。

爺さんは第六位階まで使えるそうだし魔法詠唱者(マジックキャスター)としては今の俺より遥かに優秀なんだが。

 

その旨を伝えようと、今の俺には魔法が使えないと言葉にすると下僕(シモベ)の様子が激変する。

メイド達は泣き崩れ、司書達は御労しいと天井を仰ぎながら嗚咽を漏らし、護衛は無言で全身をガタガタと残像が見えるほど大きく震わせている。デミウルゴスに至っては尾の先まで硬直し、微動だにしない。

 

な、泣き崩れるな!

しょうがないだろ、使えないもんは使えないんだって!

 

失望させたかと様子を見守っているとデミウルゴスが一つ背を震わせて硬直していた銀の尾をゆらりと下ろし、こちらを向くと(おもむろ)に傅いて頭を下げる。

 

「ウルベルト様。御方が御方であられるのに変わりはありません。御方を我ら下僕(シモベ)が御守りするのは当然のこと。更なる忠誠を捧げ、御方の憂いを払う所存にございます」

 

決意を新たにし、表情を引き締め尚一層の忠誠を誓う被造物に言葉を失う。

 

「我らは御方々に一から造っていただいた身、我等を形作る全てが御方々の所有物。どうぞ我ら下僕(シモベ)を存分に御使い下さい」

「御方の為、一層の働きを誓います」

「「「誓います」」」

 

影に潜んでいた(おびただ)しい数の影の悪魔(シャドウデーモン)すら這い出し、この場にいる全ての下僕(シモベ)が傅く様は圧巻の一言。髭爺さんも目を丸めてこちらを凝視している。

 

こ、ここで俺が出来ることなど頷くくらいしかないんだが…なんだこれ、なんだこれ。

何このハードモード、凌げる気がしないんだが。

ペロロンチーノ、今すぐ還れ。捕まらずに回避するルート開拓して即教えてくれ、頼む。

 

頷き一つで下僕(シモベ)の表情は輝き、深々と礼をして各々の持ち場へと戻っていく。

精神的に疲れ切った俺の様子に、部屋へ戻ることをすすめてくるデミウルゴスを留めて爺さんへと顔を向けるが、微動だにしない爺さん。あー、そっか。

 

「デミウルゴス」

「畏まりました…『自由にして良い』ただし、御方に失礼は許さないからこころするように」

「あ、ありがとうございます…」

 

全身の力が抜けてようやく身を起こすことが出来た爺さんの目の前、寝椅子に胡坐をかいたまま手帳をめくっていく。

 

「ってことで、今の俺が教えることは難しいんだが俺も魔法には興味があってな」

「は、はい」

「爺さんが俺の実験に協力してくれ」

 

実験の協力であれば我等がと申し出るデミウルゴスを抑え、下僕(シモベ)でなく現地人がいいんだと説き伏せる。

お、あったあった。

見つけたページを破り取って爺さんの前に滑らせれば、俺と紙片を交互に見直して震える指で拾い上げる。

 

「それをやる。読み込んでこい」

「は…こ、これは?」

「第七位階連鎖する龍雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)の俺なりの解釈だ。別に使えなくても構わん、理解しておけば使えるようになるかもしれんしな」

「お、おおおおぉぉ…」

「かわりに俺に魔法を見せてくれ。どんな感じになっているのか見てみたい」

 

パタリと手帳を閉じてティトゥスへ渡せば、オロオロと掌にのせられた手帳と爺さんの手元にある紙片を見交わしている。

 

「どうした?」

「お、御方の手記を人間種などに譲って良いのでしょうか…?」

 

構わないと肩をすくめて寝椅子から足を下せば、当然のように被造物の腕が目の前にある。自力で立ち上がるのは力がいるから介助が必要だと知っていて、率先して補助しようと手を貸してくれるのだ。相変わらず出来た子である。

 

「俺が居るんだから、また書き直せば良いだけのことだ」

 

ここ特有の効果があるのなら新たに書くのも面白い、と続ければ納得したのか引き下がる。

爺さんに読めるかどうか聞いてみれば、単語は読めているようだが繋ぎと解釈が今一のようだ。司書に翻訳を頼めば快く引き受けてくれる。うん、有能揃いだな。

 

「では、楽しみにしている。都合の良い日を連絡してくれればいい」

「承りました、ありがとうございます!」

 

床に伏して礼を述べる爺さんに頷いて回廊へと歩き始めれば、周囲の警戒と先触れに護衛とメイドが御辞儀をして去ってゆく。

視界の端にチラチラと映る銀の尾が機嫌よく振られているのを確認しながら、魔法使わせるならモモンガさんに円形闘技場(コロッセウム)貸してもらわないとと思いつき、ゆっくりと部屋への道を辿り始めた。

 

 

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