山羊と羊の輪舞   作:山羊厨

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第17話

青い羽根を全身に纏い、金髪を頭上に戴いた、腹に白い羽毛を持つペンギン。

動いて喋って掃除する、セバスに次ぐ副執事長という高位につく身だと三角の腕?を胸元にあてて自慢げに胸を張るぬいぐるみ…もとい、エクレアという名のペンギン型NPC。

 

デミウルゴスが管轄する第七階層の悪魔達なら知っているし、人造人間やアンデッドなら巨大最古図書館で最早見慣れたが、完全獣型のNPCは初めてだ。

近くで見ようと屈めばメイドはおろかエクレア自身が両腕を上げてアワアワと頭を上げて欲しいと懇願する。

 

間近で見ることも出来ないのか、至高の御方って奴はと落胆していると覆面を被った侍従達がエクレアを抱え上げてくれる。

おお、御苦労。これならよく見えるな。

 

「ウルベルト・アレイン・オードル様がこのナザリックにお戻りになられたと耳に」

「ウルベルトで構わん」

「よ、よろしいのですか?」

「長いだろう、いちいちフルネームで呼ぶ必要はない」

「な、なんたる光栄…!」

 

ペラリ、と小刻みに震えるペンギン型ぬいぐるみの片腕をめくってみる。

やけに艶やかだな。

濡れてるのか?と撫でてみる。

ヒンヤリとはしているが濡れてはいない。

もともと光沢のある羽根をしているらしい、興味深い。

 

「ウ、ウルベルト様がお戻りになられたと耳にした時には、ついにこの時が来たと私は確信致しました!」

「そうか」

 

これ、何で出来てるんだ?

素材はなんだろう?

どんなクリスタルぶち込んで課金したら、こんな生き物が創つくれるんだ。誰が創ったっけ?

 

「ついに、この私が!」

「うん?」

「ナザリックを支配する時が訪れたと…っ!」

「ふーん…」

 

抱え上げる侍従の掌の下から掬い上げるように持ってみる。

 

へぇ、あたたかいな。

動くだけでなくて体温もあるんだな。

NPCに直に触れるなんてデミウルゴス以外はしたことがなかったからなぁ、気づかなかった。影の悪魔には体温なんてないし。

デミウルゴスは二つ名にふさわしく炎系のスキルを持ったの最上位悪魔だからか触れれば熱いくらいなのは知ってるが、普通のNPCは触ったことないからなぁ。

でも、こいつは普通って言えるのか?

 

疑問を覚えつつ撫でくり回す。

なんだか癖になる撫で具合というか、体感温度というか、柔らかさというか…。

 

人型でなくても温かいとなると、アンデッド系は冷たくなるのか?

レイス系統は魂を云々とかいう人間種にとっては物騒極まりないフレーバーテキストがあったはずだから、スケルトンとか危険性の少ない奴を触らせて欲しいと今度モモンガさんに頼んでみようか。

いや待て、スケルトン系ならモモンガさんも当てはまる。それはセクハラだ、心臓掌握(グラスプハート)されてしまう。

 

「ウルベルト様には是非、我がナザリック簒奪計画に加担いただきたく…」

「なるほど。お前の言い分は分かった」

「おお!御理解頂けましたか!!」

 

取り上げたペンギンを手に戻そうと侍従が慌てているが、それを強引に抑えつけペンギンを抱えてみる。

 

ほーう、なかなか重いな。

ずっしりしてる。

これ、良い筋力トレーニングになるんじゃないのか?

 

「だが、俺に願うには対価が足りないとは思わないか?」

「た、対価…でございますか」

「そうだ」

 

羽根が生えているのにムニムニとした触り心地とは何がはいってるんだろう、これ。

拷問の悪魔に頼んだら知らせてくれないかなー…ダメかなー…。

創ったギルドメンバーに怒られそうだな。

 

部屋に戻ったら誰が創造主か調べておこうと心に決める。

頼めそうな奴だったら拝み倒して中身調べてもらおう、そうしよう。気になって仕方ない。

 

「悪魔に対価が必要なことなど、このナザリック地下大墳墓の栄えある副執事なのだから知っていて当然であり必須。にもかかわらず・・・」

 

両腕に抱えたエクレアを目線まで持ち上げれば、怯えた表情を作るペンギン。

 

お前。

誰に、何を、願ったか。

分かっているのか?

 

「この私、ウルベルト・アレイン・オードルに、このナザリックを手中にする為、力を貸せと。願ったのだぞ?」

「・・・!」

「相応の対価を払ってもらわねばなぁ」

 

ニヤリと嗤えば羽毛があるにも関わらず、真っ青になったのが分かる。

ほんとモモンガさんと言い、エクレアといい、実に器用でからかいがいがあるなぁ。

 

ま、しないけど。

モモンガさんを裏切るとか、頼まれてもお断りだ。

彼に対する嘘は一回で懲り懲りだよ。

 

青ざめて震えるぬいぐるみは、これ以上言葉を紡ぐことは難しそうだと判断し、小脇に抱える。

 

なんというジャストフィットサイズ。まるで抱えてくださいと言わんばかりの抱え心地に戦慄する。こいつの創造主は・・・先々まで見据えすぎていると断言できる!

どんだけ心地よさを追求してんだ、ありがとう!

 

もふっとした心地よさを小脇に抱えつつ下僕達を振り返れば、付いていたメイドもエクレアを支えていた侍従も呆気にとられた顔をしていた。

なんだ?礼を失したアルベドより失礼だって自覚、あるか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小脇に抱えたエクレアはそのままにメイドが開いた巨大最古図書館(アッシュールパニバル)の大扉を抜ければ、伝言で連絡を受けていた司書達が勢揃いで出迎える。

毎日の事だから必要ないと言っても、仕事を止めてまで従わなくて良いと言っても、放っておけと言っても付き従う。

下僕の性質と言うべきか、管理領域にギルドメンバーが訪れるのは誉れであり、従うことが無上の歓びだと嬉々として説明する彼らを見て悟った。これは抗うだけ無駄だと。

 

最近諦めてばかりだな。

ダメだ、気にするな。

気にしたら負けな気がする。俺は負けたわけじゃない、たぶん、きっと、おそらく。

自身の役目について嬉々として語る下僕には勝てない気がするとか思っちゃいけない…。

 

ペンギン…もといエクレアに始終付いている覆面侍従には今日は休みと言い渡し、今日一日このペンギンは俺が連れ回すと伝えてある。

彼らの役目は整理整頓清掃世話。

ブラック企業ですら真っ青の二十四時間勤務だというのだから当然取るべきだろうと強制的に休みを押し付けた。モモンガさんも推奨しているし、ギルド長の指示に従わない下僕は仲間内でも反発をくらうはず。

 

何故そんな勤務形態なんだと問えば、このペンギン、扉一つ開くことが出来ない上に移動にも時間がかかり、その補助をする役目があると…そりゃ、この短い手足じゃ届かないだろうよ…。

それに扉一つ開けられないのは俺も同じ身、なら俺が連れて歩けば手間もかからないし筋力アップにもなると連れて来た。決して撫で具合が気に入ったわけじゃない。そう、気に入ったわけじゃ…撫で撫で。

 

ペンギン片手に目的の書棚から一冊の本を抜き取り、メイドに渡して寝椅子へと戻る。

 

今日も今日とて連絡を受けた司書達が魔力無駄遣いの代表と言っても差し支えない書棚大移動で設けた俺専用の読書スペース。

毎日作っては戻し、作っては戻しを繰り返している呆れ果てたこの空間、俺の気分によって移動すらするという巨大最古図書館(アッシュールパニバル)作製者ですら考えたことのないような贅沢極まりない使い方をしている。

 

司書長のティトゥスに至っては寝椅子自体を創造して魔力消耗しながら提供しっぱなしっていう…違うんだ。俺は普通に共同スペースで読もうと思ってただけなんだ。

ただ初日にちょっと疲れたから溜息ついただけで。

使えない下僕だなんて意図はこれっぽっちも含んでなかったのに、なんでこんなことに…。

 

過去の経緯を振り返り、思わず小脇に力を込めれば柔らかく温かい感触。ああ、癒される。

 

「あ、あの、ウルベルト様…」

「なんだ?」

「副執事長は私共が持ち運びますので」

「そ、それが良いと思いますぞ!私を持ち運ぶのは下僕の仕」

「必要ない、俺が取り上げたしな」

 

メイドとの会話に口を挟むペンギンのくちばしを片手で握り込んで黙らせ、寝椅子に転がす。

ボテッと音が出そうな落ち方をしたペンギンが畏まりながらも後ずさって逃げ出そうとするのを肘で抑え込み、そのまま肘掛がわりにしてメイドから受け取った本を開く。

肘の下でジタバタしているが人の身である俺に遠慮しているのか弱々しいもの、本気で嫌なら弾き飛ばせるのに。

つまり嫌がってはいないと勝手に判断してページをめくっていく。

 

その間にメイドはティータイムの準備を始め、司書達は俺が持ってきた本の開いているページに関連する文献を巨大最古図書館(アッシュールパニバル)中から集め出す。俺が気になった時に直ぐ差し出せるよう準備をしてくれているのだ。

そうして先日髭爺さんが目を剥いた状態になるわけだが、もう爺さんに驚かれることもない。

 

モモンガさんによると下僕達の懇願により俺がここにいる間は立入禁止と申し渡されたらしい…すまん、本当にすまない爺さん…。

下僕の過保護ぶりが何かあるたびに加速度的に増している気がするのは気のせいだろうか。

 

若干遠い目になりながら肘下の温もりを持ち上げて膝に抱え上げる。

 

「ひえ!?」

 

机に開いたままの本を置き、膝に抱えた物体に顎を載せて文字を追う。

ふーん、暗殺虫はこんなスキル構成してたのかぁ…。ドロップアイテムは何々?アイテム図鑑は…お、ありがとう。

 

ドロップアイテムの使い方や効果を合わせて読みたいと視線を流せば、目的のページを開いた図鑑が差し出される。

差し出したのは当然ティトゥスだったが、その眼窩の灯火が俺の目線の下に固定されている。

俺の膝上にはペンギンのぬいぐる…違った、エクレアだ。

 

何とも言えない複雑な表情を浮かべて側に控える司書長。誰も彼も複雑な顔をしているのは俺がエクレアをやたらと構うかららしい。

 

そんなに下僕を構うのが珍しいのか?

俺はよくデミウルゴスの調整や第七階層の改造の際にキャラを弄ったり配置を変えたりしに行っていたんだが。

 

抱きしめていた両腕から力を抜けば、青いペンギンは簡単に膝上から抜け出た。

そこをしっかりと捕まえて再び膝上に抱えれば、膝に乗せた瞬間微動だにしないペンギン…どうした?

 

「お、御方の!膝に乗せていただける光栄に感謝を!!」

「…?」

 

うーん…?

つまり、俺の膝の上に乗るという事態は栄誉…てことか?

 

「はっ、下僕にとってこの上のない栄誉かと!」

 

周囲に侍る下僕達に確認を取るように視線を合わせれば、頷く下僕多数。

マジか。

デミウルゴスを膝に載せたこともないのに、まさか第一号がペンギン型NPCとか…悪くない。

自身の膝にそんな価値があろうとは驚きだが、エクレアの造形を考えれば接触は不可避じゃないかとウルベルトは首を傾げる。

 

どう考えてもエクレアの創造主は自身が彼を持ち運ぶ気満々で作っているようにしか思えないのだ。

サイズ・感触・外見、全てが「可愛い」を基本に創造されているように見える。だから覚えていなかったのだろう。

ひとまず渋い顔をする下僕達を宥めてエクレアには話相手を務めるように言い渡す。

なんせ彼を世話する従僕達に休みを言い渡したのは自分だ、今日一日しっかりと面倒をみるつもりでいる。

 

「ウルベルト様が私の計画に加担下されれば、計画は必ずや成ります!」

「ほぅ…」

 

本の続きをめくりながら、エクレアが滔滔(とうとう)と語るナザリック簒奪計画を聞き流しつつ適当に相槌を打つ。

 

そんな話をするエクレアをメイドや司書達が嫌がり、それとなく離そうとしているがエクレアはウルベルトの肘の下、許可なく強制的に連れ出すことも出来ず苦言を呈すことも出来ない。仕方なく嫌悪を含んだ視線をエクレアへと向けるだけ。

それに気づいて苦笑しつつ、また一枚ページをめくる。

 

途中のティータイムでは出されたミニサンドイッチの欠片をくちばしの中に押し込んでみたり、紅茶を分けてみたりと餌付けもしてみる。目を白黒させながら口に詰められた食べ物を咀嚼しているペンギンはなるほど癒される生き物だ。

 

簒奪計画を誰にはばかることなく延々と語り誘い続ける根性も見上げたもの、それを強引に止めたり排除しようとする下僕がいないのは創造主が設定しているからだろう。

その内容がどんなものであっても、ギルドメンバーが設定したものである限りナザリックに所属する下僕はその存在意義を否定しない。設定されている被造物を否定することは、創造したギルドメンバーを否定することになるからだ。至高と崇める存在を無条件で肯定するのだ、そうあれと設定されない限り。

 

「インクリメント、これを」

「畏まりました。すぐ戻ります」

 

なかなか面白い本だったな、次はどの本にしようか。

読み終わった本を今日の担当メイドであるインクリメントに手渡せば、笑顔で受け取り大事そうに胸に抱きしめて元あった棚へと返却に行く。

 

その姿を見送りつつ寝椅子に転がし肘下にキープしていたエクレアを小脇に抱え直して席を立つ。

次は誰の書棚にしようかと歩き出せば背後に司書達が続く。もう慣れたから止めもせず小脇に抱えたエクレアに目を向ければ、青いペンギンは手足をダラリと垂れたまま諦めたように揺られていた。

 

「それで?」

「はっ、それで…とは?」

「延々と聞いたが、その簒奪計画を実行に移しているのか?」

「勿論でございます!」

 

え、実行してるのか?

それはマズいな、モモンガさんに教えとかないと。

設定による妄言かと思って聞き流していたが実行しているとなると看過できない。ちょっと聞いといた方がいいか?

 

「具体的には何をしているんだ?」

「このナザリック地下大墳墓を簒奪するため、私は常から行動に移してまいりました!」

「ほう。余念がないな」

「はい!我が悲願を果たすため、毎日の行動が大切かと」

 

俺が歩くたびに小刻みに揺らされながらも短いフリッパーを丸め、決意を込めた瞳をこちらに向けるエクレア。

 

「日々!完璧な掃除を行っております!!」

「…」

 

堂々と宣言したエクレアの真摯な瞳が本人の本気を語り、思わず足を止めて腕の中のペンギンを凝視する。

きっと御理解いただける!

そう、ペンギンの表情に溢れる信頼を見た。

 

「…掃除、か」

「はい、『掃除』でございます!」

「そうか…」

 

それから彼の口から語られる言葉の数々。

彼は真剣に簒奪計画を語っているのだろうが、俺の耳が悪いんだろうか?掃除の仕方の蘊蓄(うんちく)にしか聞こえない。

 

如何にして隅に残された汚れを落とすか。

こびりついた汚れの性質によって使う道具や洗剤をどのように見極めるか。

また最終手段として魔法の使用も視野に入れ、日夜新たな簒奪計画としての掃除の仕方を研究し邁進していると語るペンギンの全身からはやる気が(みなぎ)っていた。

数々の書棚を過ぎていても、このペンギン型異形種の語りは止まらない。なんて情熱だ。

 

え?

それでお前、俺に代償支払って簒奪計画に加担させた上で…何をさせるつもりなんだ?

掃除?掃除なのか?

仮にも大厄災の魔だった俺が、(ほうき)片手にゴミ集めなきゃならんのか?

それはそれで面白そうだが…せめてハタキにしてくれないか?

まさか、落ちない汚れの最終手段として俺を使おうとか考えてたりしないよな!?

嫌だぞ、そんな使い方!今は見る影もないが、かつてはギルドで最強を誇る魔法詠唱者だったのに!

 

夕食に同席すると宣言していたモモンガさんに訴える愚痴リスト第一行目に堂々とランクインさせつつ、語るエクレアをそのままに足を向ける棚に対する意識はなかった。

むしろエクレアの語る内容に興味がありすぎて見ていなかったという方が正しいか。

 

 

 

エクレアに向けていた視線の下、輝く床面を見る。

 

 

 

自身が設定して回った階層。

それは第七階層だけではない。

如何に悪を極めるか。

極めた悪は何をなすべきかを考えては提案し実行に移してきた己を思い出す。

 

悪ふざけして極端な設定をしたNPC。

如何に生きとし生ける者が最悪だと叫ぶ環境を創れるか。

生きる為に必要なあらゆる要素を削り、最低限以下の生活を送りながらも課金を繰り返して成した数々を振り返る。

 

これ、どこに繋がってんだろうなぁ…。

あいつめ、顔見たら絶対に殴るからな。

 

そう心に刻みつつ、小脇に抱えた温もりだけを抱きしめて転移罠に身を委ね。

 

諦めの溜息を吐いた。

 

 

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