山羊と羊の輪舞   作:山羊厨

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第18話

転移罠。

起動させた者を指定された場所に落とす単純な罠である。

 

押されたら、落とす。これだけだ。

だからこそ使いやすく、設置しやすく、かつ探知されにくい。起動するまでは危険性すらないから安価で手に入る使い捨てアイテム。

だが、そんなアイテムがナザリック地下大墳墓では即死級の罠になることもある。

 

何の耐性も装備もなく覚悟もない状態で突如己が居る環境を劇的に変えられたら、どうなるか。

 

第四階層の地底湖に放り込まれれば、水に関連する魔法やスキルがなければ溺れて沈むことになる。

第五階層の雪原に放り出されれば、数十分も経たずに寒さに凍えて動けなくなり氷柱になる。

第七階層の溶岩地帯に放り出されれば、耐えることさえ出来ないまま体の芯から燃え上がり欠片も残さず燃え尽きる。

 

もともとナザリック地下大墳墓は低レベルの人間種が生き残れるような環境ではない。

だからモモンガは許可を出さないのだとウルベルトは知っていた。

 

歩けるようになってからウルベルトは第九・第十階層以外の階層に行ったことはない。

第九階層から上の階層へ行くには転移門を通らなくてはならないし、彼が触れても起動しない。誰か伴を連れて行かない限り管理者であるオーレオール・オメガは転移門を開かないのだ。

 

現実世界の体であることで、彼女は俺を知覚出来ない。

 

遊戯世界の山羊頭の悪魔(アバター)なら持っているはずのギルドメンバーたる気配が存在しないから感知出来ない。

伝言(メッセージ)も使えず、念話(テレパシー)も使用できない。魔法を込めた羊皮紙(スクロール)を持っていても、何の効果も発揮しない。

 

そんな俺がナザリックの中で好き勝手に散歩に出たら、どうなるか。

火を見るよりも明らかだ。

 

何も知らず知性もない自動湧きの(ポップ)モンスターや、新たに加わった全盛期以降(俺を知らない)のNPCに捕まって貪り喰われて死ぬことになる。俺が人間種だからこそ確定と言える結末だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんせ俺達(ギルドメンバー)は、徹底的にPKする(俺達を殺す)人間種(プレイヤー)共を嫌い、憎み、(反撃)していたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

踏みしめた足元。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よろけながらも何とかバランスをとって倒れ込むことなく済んだ。手元に抱える温もりは変わらず、柔らかな感触を伝えてくる。こちらも落とさずに済んだようだ。

 

視界は黒一色。

全て闇に覆われている。

 

呼吸出来ている。

身体は燃えず、寒さも感じない。

 

この時点で第四、第五、第七階層ではないことが分かった。

考える時間もないまま溺れているか、囚われているか、死に絶えているからだ。

 

次いでしゃがみ込み、失ってもまだマシだと判断した利き手以外の掌で足元に触れる。

微かに湿った感触。

これは何かは分からないが沈み込むこともなく、喰われることもなく、蠢くモノもない。第二階層でもないようだ。

 

「ウ、ウルベルト様。ここは…」

「黙れ」

 

告げた言葉に過剰反応し、腕の中の温もりが硬直する。

レベル1の感知能力など知れたもの、通常の人間と対して変わりはしない。聞こえる範囲、見る範囲、感じる範囲も現実世界の俺達と大差ないのがレベル1。

 

 

 

だがレベル100は文字通り桁が違う。

 

 

 

漏らした声一つ、言葉一つを聞く。

隠したつもりの姿を見つけ、現実であれば遥か遠く認めることすら出来ない距離を軽々と見通す。

 

鷹の目(ホークアイ)を唱えれば、ただでさえ広い視界に更に上乗せされた景色の確保が可能だ。

己が感知する領域すら通常の人間であれば分からない範囲を知る。空気を感知し、振動を察し、現れた相手の体温により上昇する温度すら感知するのだ。

 

知られる要素は出来る限り下げたいと考えるのは必定。

 

 

 

「エクレア」

「はい!」

「魔法は使えるか?」

「侍従ならば使用できますが…」

 

自分は使えないということか、と選択肢の一つを塗り潰す。

 

微かな希望?

ひょっとしてという観測?

そんなものは、この墳墓には存在しない。

 

今あるものが全て、(つちか)い己が血肉になるまで練度を上げていないスキルなど無用の長物でしかない。

 

 ただ、ただ己が持つ純粋な力のみが意味を持つ世界を体現したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「文献にも記載してありますし。これ、作れば面白くないですかね!」

「どれですー?」

「これ、無理じゃない?攻略的に」

「アリアドネに引っかかりそうじゃありませんか?」

「成せば為る、為さねば成らぬって奴ですよ!俺達なら出来ますって」

「ええ?確かに面白そうではありますけどぉ…」

 

 

 

「はいはい!

  迷ったときは多数決です。ウルベルトさんの意見に賛成の方は手を挙げて下さいねー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして創造(つく)った、地獄なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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