魔法科高校のアトラス院生   作:きりさき

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ほんとに滅茶苦茶設定なので、後悔はありませんね?


プロローグ

 アトラス院。

 世界を救うために世界を7回滅ぼすと言われる兵器を作り上げ、滅ぼせるが故にそれを封印した禁忌の穴倉。

 

 そこで少年、四条秀次は毎日研究に明け暮れていた。

 

 ここでは日本人の血が流れているのは珍しいらしいが、自分の工房から外へ出ることはほとんど無いので問題はなかった。

 生まれた時から太陽なんて見たことがない、1度も外へ出たこともないし出たいと思ったこともなかった。

 ただ根源へ至るため、親の研究を継いで毎日を過ごしていた。

 

 幸いにも自分は平均的な魔術回路と、思考分割技術の才能は持っていた。

 しかしその程度の才能では根源へはあまりにも遠すぎる、その影さえ見えない。

 

 だから四条は自らをさらに上の存在へと変えようと考えた。

 今までの錬金術の研究を用いて、自分自身を錬成する。

 大丈夫、失敗するはずがない。

 自分を分解し、流転させ、根源を通ってくることでさらに上位の存在へと組み替えてこの世界に戻ってくるのだ。

 

「錬成!」

 

 一ヶ月かけて工房一杯に描かれた魔法陣が起動し、必要な魔力を吸い上げていく。

 自分の存在そのものが分解されていく感触を感じながら、成功を確信して目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 瞼の上が明るい。それだけじゃない、皮膚が焼けていくようだ。

 既に錬成が完成しているのか分からず、四条は恐る恐るゆっくりと目を開いた。

 

「……なんだ、これは」

 

 そこは地表。青い空の下で、人々がそこら中を歩いている。

 初めて見る太陽は情報で聞いた以上に明るく熱く、全てを照らさんとするようだった。

 

「どこなんだ、ここは……!」

 

 理解が追いついていない四条に、派手にクラクションが鳴らされた。

 

「なんだ急に人が、危ないぞどけぇぇぇぇぇ!」

「っ……!」

 

 振り向いた時には既に金切り声をあげた車がスリップしながら四条に突撃してきていた。

 どうやら四条は十字交差点の中心に突っ立っていたようだ。

 車の制動距離は圧倒的に足りない、衝突は必至、避けるにも時間が足りない。

 だが四条は焦ることなく睨み返す。

 

「魔術を使うまでもないか。礼装起動」

 

 元よりアトラス院の者が車程度で怪我をするわけがない。

 紫を基調としたスーツのようなものに黒いコートを羽織ったもの、研究に行き詰まった気休めに作った礼装だったが今は充分だった。

 

「障壁展開、オシリスの塵」

 

 今こんな人目が多いところで車の破壊など大々的に魔術など使えない、神秘の秘匿は絶対事項だ。

 なのでこのまま礼装がショックを吸収するのに身を任せようとしたその時。

 四条は目を見開いた。

 

「礼装が、魔力が上手く回らない――!」

 

 魔力が上手く通らず、礼装の中で弾けたり詰まったり歪んだりして本来の力が発動しない。

 そんな四条に容赦なく、車は正面から叩きつけた。

 声を出す暇もなく軽そうな華奢な体は簡単に吹き飛び、数10メートル飛んだ後アスファルトに転がった。

 

「キャアアアア!」

「おい、誰か轢かれたぞ! 救急車を呼べ!」

 

 周囲から悲鳴があがり混乱に陥る。だが四条は何事も無かったかのようにむくりと起き上がった。

 

「強化の魔術と併用してこれか。くそ、魔術基盤が安定していない。どうなっているんだここは、ここは本当にどこなんだ?」

「あの、君大丈夫なのかい?」

「あぁ、気にしないでくれ。その救急車とやらも不要だ」

 

 そう言って一人ふらふらと街の中へ消えていったのだった。

 裏路地へ入った瞬間、偽装礼装を起動させて魔術的に姿を眩ませる。これ以上姿を不用意に見られるのは避けたかった。

 

「監視装置は誤魔化せたが、やはり魔術が安定しないな。魔力がかなり持っていかれる。ペルシー」

 

 懐から刻印が刻まれた布を取り出す。錬金術のホムンクルス技術の応用で、魔力を通すことで一時的に使い魔のように行使が可能なものだ。

 布は魔力を通されると自動的に折りたたまれ、やがて折り紙の鳥のようになった。

 これは幻惑を使うことで一般人には本物の鳥のように見えているだろう。

 

「ピィー!」

「空からこの街の情報を探ってこい。言語的に日本だとは思うが、地理が知りたい」

「ピィ!」

 

 布の使い魔は本物の鳥のように空へと舞い上がっていった。

 

「こっちはこっちで調べるか」

 

 通りを歩く適当な男を見つけると、四条は魅了の魔術を発動させた。

 魔術師なら簡単に弾くようなものだが、いとも容易く掛かりそのまま路地へと入らせる。

 

「おいここはどこで今は西暦何年だ」

「ここは日本西暦2094年です」

 

 魅了により朧気な声で男は答えた。

 それは四条を驚愕させるに値する内容だった。

 

「やはり日本か、アトラス院はエジプトだというのに。それに2094年だと!?」

 

 場所どころか時代まで違う。これはもはや簡単な転移事故なんていう話ではなくなっていた。

 

「時間的転移? いや、そんなことが出来ているのなら俺は根源に近づいているはず。だがそんなものは全く感じない」

 

 むしろ根源、魔術そのものから遠ざかっているような、切り離されたような見放されたようなものを感じていた。

 

「ひとまず使い魔経由で様子を見るべきか」

 

 使い魔の視点を同調し、空から街の様子を見る。

 あまり詳しくはないが建築様式の変化などから比較すると、やはり四条のいた頃の日本から様々な進化を遂げているようだった。

 つまり未来のようなところに来たのは間違いがないということだ。

 

 そのまましばらく偵察を続ける。

 

「ん? いや待てなんだあれは」

 

 とあるところで四条の目が止まった。

 市街地とは少し違う、一括りの広大な敷地を保有する場所だ。

 大人が極端に少なく、子供たちが同じ服を着て生活しているそこで、四条の目は釘付けになった。

 

「あれは……魔術か?」

 

 閃光が煌めき、手も触れることなく物体を浮かせてみせる子供たち。

 物理法則を嘲笑うようなそれは、四条が知るところでは少し違うものにも感じられたが魔術のようなものとしか定義できないものだった。

 

「おい、ここでは魔術が知られているのか!」

 

 未だ魅了が掛けられていた男に問いかける。

 

「魔術……魔法ならあります。それを扱う魔法師という奴らも、不気味な連中ですが」

「魔法と呼んでいるのか? だが一般人にも知られているとは、神秘の秘匿はどうした!」

 

 壁に拳を叩きつける。知れば知るほど今の状況の不明さに頭が混乱していく。

 

「……いや魔術協会がこんな極東であろうと神秘の公開なんてものを見逃すはずがない。この年代のズレの間に魔術協会が神秘を秘匿しなくなった? いや方針の転換なんてありえない、なによりアトラス院がそんなこと看過するはずがない」

 

 様々な思考を巡らせ、四条はある仮説に行き着いた。

 

「ならば――魔術協会が存在しない?」

 

 自分で言って馬鹿馬鹿しいとは思ったが、考えれば考えるほどその説が正しく思えてくる。

 更なる思考と議論の果て、四条は自分でも信じられないとんでもない結論に至った。

 

「ここは平行世界、またはそれに準じる別世界なのか……?」

 

 魔術によく似た、しかし異なる魔法という力が一般人にも普及し、魔術協会も聖堂教会も彷徨海もない世界。

 一体なぜこうなったかは分からないが、そう思えば全ての歯車が噛み合っていった。

 

「は、ははは、ハハハハ!」

 

 思わず笑いが零れ出た。

 だがそれはヤケになったとか自暴自棄になったとかではない。

 

 感謝と喜びのものだった。

 

「これが神の導きというやつか! ここには誰も知り得なかった未知の技術がある!」

 

 手を振りあげ、太陽に重ねて掴み取るように拳を握りしめる。

 

「あぁ、ならばなんだってやってやろう。この世界の知識全てを吸収し、根源へと手をかける」

 

 アトラス院は人類の滅びを回避させることを目的としているが、四条本人はどちらかと言えば自身の根源への到達を第一に考える時計塔寄りの考えだった。

 ならばアトラス院も消えた今、自身の目的のために全力を注げるというのならやる気に満ち溢れるのも道理。

 

「そのためにまずは、この世界の魔法というものを学ぼう。何か手がかりになるかもしれない。今からだって、ゼロからだって追いついて見せる――この世界に!」

 

 

 

 

 ※※※※※

 

 

 

 四条がこちらの世界に来てから1年ほどが経過した。

 ひとまず戸籍は市役所で魅了の魔術でなんとかし、金は錬金術で貴金属を作り出して売り捌いた。

 犯罪行為なのかもしれないが、元より魔術師とは目的のために人殺しだって辞さない集団。

 四条はこれでもまだ常識のある方である。

 

 そして独学で四条はこの世界の常識と魔法というものを学んでいた。

 

 魔法師のみが持ち、その才能を左右する魔法演算領域。当然四条が持っているわけも使えるわけもなかったので、アトラス院生なら全員が使える思考分割と高速思考で代用した。

 本来無意識領域で行うものを無理やり行っているが、思考分割には天才的素養を持っていた四条はそれを可能にした。

 

 そしてCADという術式補助演算機のメンテナンスなどは、元より兵器を作ることを得意とするアトラス院生にとってはそれほど難しいものでもなかった。

 

 しかし四条は同時に独学での限界も感じ始めていた。

 ならば学校というものに入学してみようと決定したのである。

 入るのは当然一流でなくては意味がない、国立魔法大学付属第一高等学校のみ。

 

 ※※※※※

 

 桜も舞い散る季節、新しい学校に胸踊らせる新入生の姿は今はない。それもそのはず。

 四条は入学式二時間前に校門の前に立っているのだから。

 そして身に纏う八枚花弁のエンブレムがついた制服は第一高校生であることの証である。

 

「魔法実技はまだ慣れなかったが、まぁ総合なら余裕だったな」

 

 軽く笑い、敷居を踏み越えた。こんなに朝早く来たことには理由がある。

 まずこれからの学舎となる場所の把握、そして単に人が多いところが好きではないからだった。

 今まで工房に引きこもり続けていた四条が急に人だかりに放り込まれるなど、面倒にしか感じない。

 叶うなら一人で教育を受けられればいいのにと思わずにはいられなかった。

 

「……何故お兄様さまが補欠なのですか?……」

「……おれの実技能力は……」

 

 何やら講堂の前で揉めている二人の男女。口ぶりとお兄様と呼んでいる様子から兄妹だろう。

 

「朝に来ても煩かったな」

 

 二人を鬱陶しそうに見ながら、四条は適当に校内の散策を始めた。

 天気も良く、ただ静かな中を歩いているだけで気分が落ち着く。

 

 時折忙しなく走り回る在校生たちと会釈を交わしながらある程度校内を把握し終わり、ベンチで休憩でもしようとしたその時だった。

 先客としてベンチに座り、携帯端末を見つめる男子生徒がいた。

 四条が近づくと、その男子生徒は顔を上げて目が合う。

 

「あの時の喧嘩兄妹か……」

「そんな風に言われたのは始めてだ、さっきのを見られてたのかな」

「あぁ聞こえたならすまない、悪気はないんだ」

 

 その落ち着いたというか、自分とどこか似たような雰囲気をもつその男子生徒との会話にストレスがあまりないことに気がつく四条。

 その男子生徒に少し興味をもった。

 

「隣、いいか?」

「あぁ構わない」

 

 三人がけのベンチなので間に妙な空間が生まれるが、それもまた程よく四条には良い。

 

「同じ新入生だろう? 俺は四条秀次だ」

「俺は司波達也。しかしこんな早くに来るなんて、四条は何かの代表とかなのか?」

「いや? ただこの学校の散策だよ。それと人が多いところが苦手なんだ」

「あぁ、もう今頃校門は新入生と親で溢れるだろうからな」

 

 本当は地脈や霊脈の調査がメインだったが、それを言う必要はないだろう。

 四条は魔術は人前では絶対に使わないと決めているのだから。

 

「そういう司波は何してるんだ?」

「俺は妹の……」

「新入生ですね? 開場の時間ですよ」

 

 二人に唐突に声がかけられた。まず目についたのは制服のスカート。

 

「ありがとうございます。すぐに行きます」

「すいません。俺もすぐに」

 

 ベンチから立ち上がると分かる、女性としても小柄な身長。

 美少女なルックスと小柄ながらも均整のとれたプロポーションと相まって、高校生になったばかりの男子生徒が勘違いしても仕方がない蠱惑的な雰囲気を持っていた。

 にも関わらず、二人の新入生男子生徒の目に一切の揺らぎも感じられなかったが。

 

「それにしても感心ですね、この早朝にもう友人を作ってしまうなんて。このための早起きですか?」

「ご冗談を。たまたま四条から話しかけてきてくれただけで、自分は恥ずかしながら一人でした」

「あら、あなたから?」

 

 その目には少し驚きが含まれていた。

 それは一科生が二科生に自主的に話しかけたということへの驚きだが、四条はそれを全く理解できていないので何故驚いているのか分からないでいた。

 四条にとっては自分の興味外のことは等しくどうでもいいことなのだから。

 

「へぇ、それは素晴らしいことね!」

 

 なんとも人懐っこそうで親しみやすい先輩だと思った四条だったが、達也は正反対だったようで微妙な距離を保っていた。

 

「あっ、申し遅れました。私は第一高校の生徒会長を務めています、七草真由美です。ななくさ、と書いて、さえぐさ、と読みます。よろしくね」

 

 最後にウインクでも添えられていても不思議のない口調で締めくくった。

 それに対して達也はより一層顔を顰めそうになっていた。

 

「俺、いえ、自分は司波達也です」

「俺は四条秀次です。よろしくお願いします」

「司波達也くんに四条秀次くん……そう、あなた達が……似たもの同士って引かれるのかしらね」

 

 事情の分からない二人を置き去りにして、真由美は楽しそうな含み笑いをした。

 顔を見合わせる二人に、真由美は笑顔で話す。

 

「司波くんは入学試験、七教科平均九十六点。特に魔法理論と魔法工学は両教科とも小論文を含めて文句無しの満点! 前代未聞の高得点だったのよ」

「司波、本当か?」

 

 目を丸くして驚く四条に無言で答え、しかし達也は一歩引いて真由美に答えた。

 

「ペーパーテストの成績です。情報システムの中だけならの話ですよ、評価されるのは実技の方でしょう」

 

 そう言って苦い愛想笑いで自らの左胸を指さした。しかし真由美は笑顔で顔を左右に振る。

 

「そんな凄い点数私には取れないわ。それと凄いといえば四条くんもね」

「俺ですか?」

「七教科は平均八十六点。更に魔法理論と魔法工学は司波くんに次いで二位だったわ。それも今までに見たこともない切り口からの小論文だったって」

「……なんか司波の後だとイマイチに聞こえますね」

 

 今度は四条が苦い愛想笑いを浮かべる番だった。

 

「そんなことないわ。私が入学試験と同じ問題を出されても絶対に二人みたいな点数は取れないと思うなぁ」

「そろそろ時間ですので……失礼します」

「あ、司波。すいません、では俺も。またどこかで機会があれば」

 

 達也はまだ何か話したそうにしている真由美にそう告げて、返事を待たずに背を向けて講堂へと入っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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