魔法科高校のアトラス院生   作:きりさき

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入学編

 生徒会長と話し込んでしまったせいで二人が講堂に入った時にはすでに席はほとんど埋まっていた。

 

「適当な席に座ろうか」

 

 空いていた最後列の席に座る。

 

「……いいのか?」

「何が?」

「いや、いいのなら別に俺は構わないんだが」

 

 言いづらそうに言葉を濁らせる達也。それは席を前列は一科生、後列は二科生と分かれていることに対するものだった。

 それは決まりではないが、生徒達の暗黙のルールだ。

 

「お隣、いいですか?」

 

 見れば女子生徒のグループ。恐らく横に並んで座れる場所を探していたのだろう。

 

「えぇどうぞ」

「ありがとうございます」

 

 最後尾の席に座っているので、当然というべきか声をかけてきた二人も左胸に花はない二科生だった。

 

「私、柴田美月っていいます」

「あたしは千葉エリカ。よろしくね」

 

 エリカと名乗る方はまたも美少女でスレンダーなスタイルと明るい髪色が特徴だった。

 美月の方は癒し系のようなおっとりとした雰囲気で、なによりこの世界ではあまり見かけない眼鏡をかけていた。

 四条はその眼鏡が伊達やファッションでないことは一目見ただけでも気がついた、魔術師の勘のようなものだ。

 一年前の四条なら探究心に任せて質問攻めにしていたか、もしくは最悪奪い取っていただろうが、1年で学んだ常識は無駄ではなかったようだ。

 何も追求などはせず、気づかないフリをして流す。

 

「俺は司波達也だ」

「俺は四条秀次。よろしく」

「司波くんに四条くんね。でも面白いね、私以外し、から始まる名前じゃない? 司波、柴田、四条って」

「……なるほど」

 

 達也は微妙な返答だったが、そんなことは歯牙にもかけずエリカは次々と話を広げていた。

 そしてやはりというべきか、出来る限り気配を消していた四条にもエリカの手は伸びてくる。

 

「そう言われれば四条くんって一科生だよね?」

「一応そうだな」

 

 サックリと回答して終わらせよう。

 

「ブルームなのに、四条くんは前に行かなくていいの?」

 

 瞬間、話していた何人かの生徒が凍りついた。皆あえて触れていなかった部分に触ったエリカに、いや……、あの……、のようなまごついた声がかかる。

 が、エリカの目に悪意のようなものは一切なく純粋なる好奇心しかないことは四条からすれば見れば分かる。

 なにより――。

 

「なに? ブルームって」

「……え?」

 

 今度は四条の言葉で周りが固まった。ただ達也だけが納得したような顔で頷いていたが。

 その周囲の反応を見て四条は内心かなり焦る。

 

(やばい。そんな常識なのか? だって入学案内にだって書かれてなかったし、直訳したって意味がわからん)

 

 全力でこちらの世界に溶け込もうとする四条にとって、些細な認識のズレも危険なのだ。

 

「ええっと……」

「四条、ブルームとウィードっていうのは一科生と二科生の別称だ」

 

 言いずらそうにするエリカの代わりに達也が説明を始める。

 

「なるほど、それでブルームは前列って決められてると。それなら行かないといけないな」

「いや決められてはいない。だがその分け方から一科生は二科生より魔法力的に勝っている。その心理がこうして勝手に仕切りを作っているだけだ」

「ふーん……つまり見せしめとかそういうのか」

 

 通路で仕切られた別々の空間で、一科生と二科生が混じり合うことなく話している様子を見つめる。

 そういえば時計塔の方では権力闘争などがかなり激しいらしい、そういうものかと四条は解釈。

 

「つまらんな」

 

 そしてそれを一蹴した。

 

「そんなもの勝っていても何の価値もない、才能を持って何も成し遂げられない者だって大勢知っている。他人のことなんて見ている暇があったら、自分の研究にその力を費やすべきだな」

 

 自分たちの研究をひたすら研鑽しそれを秘匿、協力などなく互いに監視するだけの存在であった魔術師らしい言葉だった。

 だがそれはこの世界では少し変わり種ではあったが。

 

「へぇなるほど」

 

 エリカの目つきが少し変わり、さらに周りの生徒達から好奇の目線を向けられていることに気がついた四条は、これで話は終わりだと言いたげに背もたれに深くもたれた。

 幸いすぐに話題は変わる。

 

 それに加えて席順は左から、通路、四条、司波、柴田、千葉。

 これがもし四条と達也が逆だったなら、恐らく四条の持つ対人キャパシティはとっくにオーバーし、心無い適当な相槌を打っていたことだろう。

 ならば余計な波風を立てる必要はない。達也には悪いが、このまま防波堤になっておいてもらおうと四条は耳だけを傾けつつ気配と影を消したのだった。

 

 

 新入生代表の答辞は滞りなく終わった。

 初々しくも堂々と、そしてその可憐さはなるほどこれが自分たちの代表かと思わせるに十分なものだった。

 

「じゃあ、IDカードの交付に行こっか!」

 

 式の終了と共にエリカが立ち上がる。

 

「あれ? 四条くんは?」

 

 達也の隣にいたはずの四条の姿が忽然と消えていた。

 

「四条なら、式が終わる数秒前にちょっと行ってくる、って言って消えていった」

「司波くん見てたなら止めてよ!」

「流石に用事があるという人を無理やり止める気にはなれなかった。それに四条は一科生だ、クラスは絶対に同じにはならないさ」

「まぁそれはそうだけど……」

 

 一塊となって窓口へ移動を始めつつも、未だ納得しない様子で口を尖らせるエリカ。

 

「そんなに四条が気に入ったのか?」

「うーん、なんていうか気になるっていうか。面白そうだし」

「それが大部分じゃないのか?」

「当たり!」

 

 全く躊躇いなく返答したエリカに、達也は困ったような顔でため息をついたのだった。

 それから二科生の三人、達也とエリカと美月は同じクラスとなり、もう一人西城レオンハルトという少年と知り合っていた。

 

 

 場面は変わり、達也たちの集団から脱出した四条は一科生の方へそれとなく紛れ込んでいた。

 あのエリカという女子生徒の気が強そうな感じか、どことなく苦手なノリだったのである。なによりあのまま行けば人混みの中心に放り込まれそうでもあったので、単独行動を選んだのだ。

 

「クラスはA、か。まぁ顔だけでも出しにいくか……」

 

 この世界においてホームルームや担任教師などとうの昔にほとんどの意味は無くしているらしいが、それでも一年間同じ教室で過ごすのだから顔くらい見ておくべきだ。

 人だかりが多い通路を酔いそうになりながらすり抜けて進む。

 

「この席か」

 

 専用の個人用デバイスが設置されていた。特にすることもなさそうなのでデバイスを起動させ、諸事項のチェックやカリキュラムの確認、学校規則なども必要ないとは思うが一応覚えることにした。

 6個のウィンドウを画面を六等分して全て表示させ、それぞれに違う内容が書かれているものを同時進行でスクロールする。

 思考分割をこんなことに使うのもどうかと思われるかもしれないが、使えるのだから使わないともったいない。

 単純計算に普通の6倍の速度で必要事項を確認し終わり、一人下校しようと席を立った。

 

「……」

 

 隣の席に座っていた女子生徒が、ジッと四条の画面を覗き込んでいた。

 しかし見るだけで何も言わない少女との間に気まずい時間が流れ、それに耐えかねた四条は恐る恐る話しかける。

 

「……何か?」

「六つの画面を一気に見てたの?」

 

 無表情で唐突にそんなことを聞かれた。

 別に見られて困るようなものではなかったが、それ以前にすでに対人会話で疲れていたのも相まってその不躾な少女につい不機嫌な目線を向けてしまった。

 

「駄目じゃない雫! ちゃんと自己紹介もしないでそんなぶっきらぼうに」

「ごめん……」

 

 もう一人雫と呼ばれた女子生徒を窘める茶色がかった髪をもつ女子生徒が走り寄る。

 

「雫が失礼しました! 私は光井ほのかです、ほら雫も」

「北山雫です」

「……俺は四条秀次。別に気にしてないから安心してくれ」

 

 ほのかの過剰な反応も自分の険悪な目のせいだろうと遅れて気がつき、四条も少し罪悪感を感じないでもなかった。

 

「で、さっきの質問だけど俺は並列処理が得意でな。この方が効率的だろ?」

「……すごい、それって先天的なもの?」

「まぁそうだな、その部類だ」

 

 本当は思考分割なのだが、他人からそれを見分ける術はないだろう。

 それに思考分割数は才能に左右されるものだ、嘘はない。

 

「そういえば聞きたいことがあったんだが、俺の後ろの席の人を見かけなくてな。欠席なのか?」

「あぁ、その席は司波さんですね。今日答辞してた人です。今も多分色々と忙しいんじゃないでしょうか」

「司波、司波さんね。そういえばあの二科生も司波だったな……」

 

 だが兄弟にしては顔が似ても似つかない。絶世の美少女と言われても不思議はない女司波と、目つきの鋭さ以外特に特徴のない男司波は兄妹には到底見えない。

 だが、雰囲気というか纏うオーラのようなものは確かに似たところもあると感じていた。

 

「光井さーん!」

「あ、呼ばれてる。四条さんは……」

「俺は今日は帰るとするよ。じゃあ光井さん北山さん、また明日」

「そうですか? じゃあまた明日」

「うん」

 

 一科生のグループに呼ばれるほのかと雫を横目に見ながら、これ以上集団の中にいると発狂する気がする四条はさっさと退散した。

 

 ※※※

 

 四条は家に帰った途端ベッドの上に体を放り出す。

 

「やばいな学校って。あんな中で学ぶだと?」

 

 家系のなかでのみ研究を続ける魔術師、なかでも地底に引きこもり続けるアトラス院生にとっては未だに慣れないことの一つだった。

 

 だが神秘の秘匿を重要視する魔術とは違い、軍事目的や魔法師の大量生産を目標とするこちらの世界なら、この集団的教育機関で体系化された技術や知識を学ぶことが効率的なことも理解出来ていた。

 理解出来るからこそ、四条は心の中で叫ぶしかなかった。

 

(人多いの無理!)

 

 確かに人を跳ね除け孤独の中で学ぶこともできるのだがそれでは学校に通う意味がない。

 故に四条は明日の登校の準備をしてから、こちらでも続けている錬金術の研究を開始した。

 

 ※※※

 

 入学二日目にしてナイーブになろうとは、四条も考えてすらいなかった。

 この数日は授業もなく良いことといえば、国立学校だけあってかなりの蔵書数をもつ図書館とサーバ、閲覧規定のある蔵書まで自由に使い放題見放題ということだろうか。

 

 この時間は普通見学のために用意された時間だが読書で時間を潰していた四条は携帯端末に表示された時計を確認し、昼食を食べるために一人学食へと向かう。

 

 そこからだ、四条に次々と不幸が舞い込んだのは。

 

 まず一人で昼食を食べていると、仕切りを挟んだすぐ後ろの席で一科生と二科生の席の取り合いが始まった。気まず過ぎる。

 その次は散策ついでに寄った遠隔魔法用実習室でちょうど三年生が実技していたので覗いていると、後ろから二科生一科生混じりあった他の新入生たちが押しかけてあれよあれよと言う間に揉みくちゃにされた。

 

 そして今、事務室からCADを返却してもらい帰ろうとしたところで何故か言い争う新入生たちに出くわしている。

 普通なら空気を読んで遠目に見ているのだろうが、正直心身ともに疲労が限界値を上回っている四条にとって最優先なのは帰宅だ。

 

「深雪さんはお兄さんと帰るって言ってるんです!」

「うるさい! ウィードごときが僕達ブルームに口出しするな!」

 

 校門のすぐ横に陣取っているせいで凄く邪魔だ。

 

「あなたたちブルームがどれだけ優れていると言うんですかっ?」

「……どれだけ優れているか、教えてやろうか?」

「おもしれぇ! 見せてみろよ!」

「だったら教えてやる!」

 

 一科生の生徒が拳銃型の特化CADを抜き放ち、二科生の生徒へと突きつけたのだ。

 緊張が走り、見物人からの悲鳴があがる。CADを相手に向けるなど、それは明確とした敵対行為であり攻撃的な魔法の起動式が多く組み込まれた特化型なら尚更だ。

 だがその悲鳴の半分は確かにCADを向けたことに対する驚きだったろうが、もう半分は別の人物に向けてのものだった。

 

「ちょっとそこ、退いてくれる?」

 

 CADを向けている一科生森崎と、それを向けられている二科生レオの間にふらっと割って入った少年がいたのだ。

 何の緊張感もなく周囲が呆然とするなかCADの射線上に入ったのだ。

 

「なんだお前、ブルームか?」

「あぁそうだよ。いいからどけ、校門の近くで邪魔だろ」

 

 クラスの違う森崎とは面識がなかったが、その先にいた人物と目が合う。

 

「司波?」

「はやく避けた方がいいぞ四条」

「四条くんじゃんいいところに! いい? あなた達一科生の中にだって二科生だからって差別しない人だっているんだから!」

「なに?」

 

 都合良く四条を巻き込むエリカ。それによって森崎たち一科生は眉を顰めたり目つきを変えたり、各々だが少なくとも悪いイメージへと傾いていく。

 

「本当かお前、ウィードの肩を持つのか!」

 

 森崎は吠えるように問いかけるが、今の四条はそれどころではない。

 帰りたいという欲望と、知り合いだし一応一緒に帰るべきなのかという理性がせめぎあっているのだ。

 その脳内議論は結果的に森崎を無視したことになってしまい、それが更に苛立たせることになってしまう。

 

「おいどうなんだ、答えろよ!」

 

 森崎が特化型CADの銃口を、二科生の男子から四条へと変えた。

 

「……お前それ、人に向けることがどういうことか分かってんのか?」

「あ、あぁもちろん。家の家業はボディガードなんだ、実戦経験だってある」

「そうか」

 

 その瞬間、それまで黙りしていた四条が態度を急変させて半身を振り向かせ、人差し指を森崎へと突きつけた。

 CADだって持っていないただの人差し指。にも関わらず謎の気配と圧迫感が森崎を襲い、たじろぐ。

 

「な、なんだよ。何のつもりだ?」

「これだけだ」

「は?」

 

 何を言っているのか森崎には分からない。だが四条にすればこれは牽制。魔術師にとって指さされるなど、すぐに魔術を行使されてもおかしくない状態なのだから。

 

「これだけで足りる、お前を倒すにはこれだけで足りる」

「何をいって――」

「つまらない事は止めておけ。他の人にも迷惑がかかってるだろ」

 

 この言葉は嘘ではない。礼装により北欧の魔術の一つガンドを再現することが出来る。

 シングルアクションの魔術ならCADより早く発動できる自信もあった。

 魔術師にとって命の奪い合いなんて日常茶飯事、アトラス院内でもいくつも行われていた倫理観なんて崩壊した実験を目にしてきたのだ。

 

 しかしそんなことが森崎に分かるわけもなく、四条の言葉を完全な侮りと捉え我慢の限界を超えた森崎がついにCADの引き金を引いたその瞬間だった。

 

「止めなさい! 自衛目的以外の魔法による対人攻撃は犯罪行為ですよ!」

「君たち新入生だな。事情を聞く、ついてきなさい」

 

 森崎の起動式が破壊され、次いでその隣の女子生徒――よく見れば四条のクラスメイトのほのかだった――の起動式も消し飛ばされた。

 CADを構えて現れたのは入学式で出会った七草会長と、三年生。

 

「すいません、悪ふざけが過ぎました」

 

 雰囲気に萎縮する新入生の中から前に出たのは達也だった。

 その後しばらくの問答の後、達也が上手く言いくるめたのか三年生の方が引いたのかは分からないがひとまず場は収まったようだ。

 

 ならばこれ以上無関係の自分が留まる理由もない帰ろう、とそそくさと校門を出ようとした四条。

 

「待ちたまえそこの君」

「はい?」

 

 まだ何かあるのかと、苛立ちから少しぞんざいな口調になってしまった。

 

「CADや武力を使うことなく仲裁しようとするのは良いことだが、それで刺激してしまっては意味がない。出来れば次はもう少し君にとっても安全な方法をとってほしいな」

 

 風紀委員長を名乗る渡辺摩利という人だった。

 

「すいません。でも多分次はないので」

 

 出来る限り手早く済ませたい四条の受け答えはかなり礼節に欠いたものだったが、摩利はそれを咎めることもなく値踏みするような眼差し。

 

「それはどうかな? 一応名前を聞いておこう」

「……四条秀次です」

「君のことも覚えておこう」

 

 嫌な予感がし、結構ですと反射的に答えそうになった口を何とか紡いだのだった。

 そして先輩方の姿が見えなくなった後の森崎の達也への認めないぞ宣言と捨て台詞、そしてついでに四条も一睨みされた。

 

「……なんで俺が睨まれなきゃならんのだ」

 

 だがこれで、これでやっと帰れるのだ。深く考えたり悩むことはあるまい。

 そう、一人ふらふらと帰るのだ。

 

「あ、四条くん! 助かったよ、あの状況で入ってくれなきゃこの馬鹿が何かやらかしたかもしんない」

「馬鹿とはなんだ馬鹿とは! ……でもあんたが止めてくれなきゃどうなってたか分からないのは本当だ、ありがとな」

 

 神は我を見放したり。と四条は心の中で三回唱えた。

 エリカと四条の知らない二科生の男子生徒がまず駆け寄り、その後離れて話していた達也たちも四条の方へ集まってくる。

 

「四条くん、今回の件はありがとうございます。お陰で比較的穏便に済ませることが出来ました」

「私からもありがとうございました!」

「私からも……」

 

 何故か司波妹と光井と雫にまでお礼を言われた。

 

「いやほんとに俺なんにもしてないし、お礼なら全部司波につけといてくれ。……あぁ司波兄のほうな」

「言い難いなら達也でいいぞ」

 

 そこから、じゃあ私も! という声が止まらず最終的に全員名前で呼ぶことが決定してしまった。

 

「そうだ! ちょうど全員知り合いみたいなんだし、秀次くんいい感じに間取り持ってよ!」

 

 エリカの悪意なき無茶ぶりだった。確かに一科生のほのか達と二科生の達也たちを両方知っているのは四条だけ、そして一人で帰ろうとしていたのだから他の連れがいるなんて嘘はつけない。

 断る理由がみつけられなかった。

 

「あぁ分かった。じゃあ皆で帰るか!」

 

 半ばヤケクソ気味にテンションを上げて、四条は初めての集団下校というミッションを開始したのだった。

 

 初めは不可能かと思われたミッションだったが、四条が取り持ったのは初めの紹介だけで後は勝手に話が盛り上がってくれた。

 それに意外にも四条の興味をそそるような話題が多かったことも助けになった。

 

「秀次、さっきのあれなんだが」

「あれ? どれだ」

 

 四条と同じく少し話の輪から引いたところにいた達也から、突然話がふられる。

 ちなみに呼ばれ方もいつの間にか四条から秀次へとチェンジしていた。

 

「森崎に指をさしてたあれだ」

「あれ凄かったよね! なんかこう目が本気だったっていうか、殺気だってたっていうか」

 

 周りからもエリカに同意するような声があがるが、四条は苦虫でも噛み潰したような顔だった。

 実際に魔術は使っていないが、魔力を通すところまでは行っていた。

 四条が想子というこちらの魔法師なら感じ取れるものを感じられないように、こちらの世界の人間が魔力が感知できないのは確認済みではあった。

 しかしそんな予兆だけでも見せるべきではなかったと、今は後悔している。

 

「あれはハッタリだ。気迫と演技で押し切っただけさ」

「そうなんですか? あの時秀次さんの指に精霊に似たような光が集まってたので、てっきり何かしていたのかと」

 

 なんとか取り繕った表情の下で、四条は驚きというよりもショックと焦りを受けていた。

 

「へぇ美月は精霊なんて見えるのか」

「はい、普段はこの眼鏡をかけて制限していますが。それでも見えるほどだったので」

 

 そう言われれば、初対面の時眼鏡に違和感を覚えていたことを思い出した。

 あの時ちゃんと聞いていれば、という自責にかられる。だが今はそんなことより誤魔化すことだ。

 

「なんだろう。もしかしたら想子が暴走したのかも」

「なるほど! 秀次さんは一科生ですもんね、魔法力だってお強いはずです」

「あ、あぁ」

 

 とにかく美月の前では魔術は使えない。魔力を通すだけでもバレてしまう可能性がある、自分がこの世界の存在ではないことを。

 

「……」

 

 そして四条を注意深く見つめる視線がもう一つ。

 精霊の眼というイデアにアクセスできる能力をもつ達也もまた、その正体までは分析はできなかったが四条の指に何かが集中する様子は視えていた。そしてそれを隠しているということも。

 心の中で達也は四条に対する警戒レベルを少し引き上げたのだった。

 

 

 

 

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