魔法科高校のアトラス院生   作:きりさき

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九校戦へ突入です!


九校戦編Ⅰ

「何のつもりだ。――達也」

 

四条は驚愕と冷静さが入り交じった顔で問いかける。しかしそれに対する達也の行動はまるで機械かのように淡々としていた。

 

「それはこちらのセリフだ。そろそろ正体を明かしてもらおうか」

「本当に何のことを」

 

パキ、と達也の後ろ。即ちそれまで黙って控えていた深雪の足元から氷結されていく。

溢れ出るほどの事象干渉力が無意識の内に魔法を発動させているのだ。そしてその暴威の主は、その感情を隠そうとすることもなく冷徹な眼差しを四条へ向ける。

 

「この後に及んでまだ言い逃れするのですか。私や先輩方の選手だけではなく、お兄様すら標的にして私が見逃すとでも思ったのですか?」

「さっきのことで確信が持てた。秀次――お前はどこか外部から送り込まれてきたスパイだな」

 

突きつけられたCADの銃口は、四条の額を貫いていた。

 

 

 

 

 

 

時は数時間前へ遡る。

 

八月一日。

九校戦へと出発するバス、その技術スタッフ用の車両に四条は乗り込んでいた。

ある日突然十文字会頭に呼び出されたと思えば、技術スタッフとして九校戦への出場を言い渡されたのだ。

 

九校戦とは正確には全国魔法科高校親善魔法競技大会という名前で、魔法師の卵達が行う大会。己の学校の威信をかけて優勝を掴み取ろうと必死に争うものだ。

 

魔法実技は一科生としての平均的な成績を超えていないが、理論に関しては少し覚えのある四条はまさにうってつけの人材だったのだろう。

だが四条としても教えを受けるなどではなく、同程度の技術の中でわざわざ力を競うことに対して意味を見い出せず断ろうとしていた。が。

 

「自信がないのか? 己の技術に」

 

普段の十文字ならばこんなことは絶対に言わないだろう、つまり四条をこの大会に引っ張り出すためにわざとけしかけているのだ。

しかしあえて四条はそれに乗った。

こんなことを言われて引き下がるわけにもいかなかったということもあるが、十文字の言葉に少し納得してしまった。

達也という大きすぎる壁を知り、自分の能力に自信が持てなくなってしまっている。それを回復させるにはやはり、正面から達也を超えるしかない。

 

「そろそろこっちの世界に完全に染まりつつあるな、これは」

 

薄らと、しかし楽しそうに四条は呟いた。

 

「ん? 何か言ったか?」

「何でもないよ、達也」

 

肩を竦めて誤魔化す四条。

技術スタッフ用の車両は多くの機材が詰め込まれており、バスというよりはトラックの荷台に放り込まれているような気分だった。

狭い車内の中、肩を寄せあって皆がそれぞれ端末と睨めっこをしている。四条と達也も隣に座りながら端末を弄っている。

 

「それにしても秀次、凄いクマだが昨日何かしていたのか? 睡眠不足はパフォーマンスを下げる、特に魔法師にはそれが致命的になるぞ」

「あぁすまない、ちょっとな。学校襲撃事件があっただろ、その時にちょっと閃いたものがあってな。調整に時間はかかったが、それに見合うものが出来た。きっと達也も驚くはずだ」

「俺達が戦ってるわけじゃないんだが••••••まぁ秀次なら言わなくても分かっているか」

 

技術スタッフとして達也は一年女子を、四条は一年男子をそれぞれ担当している。

だが一高代表として出場している以上、全てを総合した成績が一高の成績となる。

 

「分かってる。俺は全力で森崎達、そしてこの一高を勝たせるために動く、だろ?」

 

それでいい、というように頷く達也。

しかし互いに一高の代表として出るということは分かっているものの、達也を驚かせてやりたいという思いが消えることは無い。

その秘策は今四条の手の中にある。驚く達也の顔を思い浮かべて、四条の端末を動かす指は踊っていた。

 

――突如として轟音と甲高いブレーキ音が鳴り響く。

 

「なんだ、何が!」

 

激しい車両の揺れに揺られながら車両の窓から見えたのは、急制動により道路に対して横になった選手達が乗っている先頭バス。

そして正面から炎を纏いながら猛スピードで迫ってくる大破した車だった。

迫る車はブレーキを踏む様子すら見えないことから、このままいけば衝突は必至。そうなれば中に乗っている選手達も無事では済まない。

 

「やばい、このままじゃ選手達が!」

「大丈夫だ! あそこには七草生徒会長も十文字会頭も乗ってる、一高の精鋭達が乗ってるんだ!」

 

向かいに座っていた一年のスタッフがそう叫んだ。しかし四条は静かに胸元のCADへ手を伸ばす。

 

「••••••だからこそやばいんだ」

 

瞬間、迫る車に展開される多数の魔法式。四条が認識できるほどの余剰想子量の多さから、皆の焦りが伝わってくる。

魔法式は通常、一つの物体に同時に展開されると効果が失われるか予測不可能な事象が起こるかの二択となる。

一つ程度ならば十文字会頭が上から強引に上書きできるだろうが、こうも大量に展開されるとそうもいかない。選手達の優秀さが裏目となっているのだ。

 

「まだ最終調整が済んでいないが••••••しょうがない。一か八か、やるしかないか」

 

取り出したのは銀色に光る拳銃形態の特化型CAD。

とある一つのことをするためだけに四条が調整した一点物。

前回の学校襲撃事件の時の経験から、今回の九校戦での切り札として森崎達に提供するはずだったもの、そしてこの状況において唯一想子流が渦巻く車へ干渉できる手段だった。

CADの銃口の先は迫る車ではない。選手達が乗るバスへ向けてトリガーを引く。

 

「――キャスト・ジャミング」

 

迫る車へと向けられていた発動前の魔法式は、四条によって放たれた無意味な想子波によって干渉を妨害され、乱され、やがて魔法式そのものすらも無意味な想子へと散っていく。

それを見届けると、四条は急いでトリガーから指を離してキャスト・ジャミングを停止させる。

直後燃え盛っていた車両は鎮火され、バスに衝突するギリギリのところで不可視の障壁に阻まれた。

バンパーはひしゃげ、部品を周囲に飛び散らせながら車は完全に停止した。

 

「何とかなったか••••••」

 

四条は安堵の息を吐いた。

キャスト・ジャミングで一旦魔法式を除去してから再度防壁をつくるのが間に合うかどうかの賭けだった。

それを十文字の魔法は、バスに多少接触するという四条の予想を遥かに上回る速さで展開された。

 

「何とか無事そうで良かったな、達也」

「あぁ••••••」

 

しかしいつもの達也ならば光のような速度で深雪の元へかけ寄りそうなものだったが、この時の達也の反応はどこか冷たかった。

なにより不自然だったのは、達也がその後もCADを離そうとはしなかったことだ。

 

 

 

 

 

 

「それがまさか、こんなことになるとは」

 

九校戦の会場に到着。バスを降りると達也と深雪に呼ばれて裏路地の方へ連れて来られた、と思った時にはもう遅かった。

CADを突きつける達也の顔を見ては、冗談ではないかという一抹の願いすら浮かばない。

四条は何とか敵対の意志がないことを伝えようと笑みを浮かべようとするが、それすらも引き攣ってしまう。

 

「一応聞かせてくれ、一体何を根拠に俺がスパイだと思ったのか」

「前々から秀次のことは警戒していた。だがどう調べても何も情報が出てこない、まるで突然現れたかのように数年前からの記録があるだけだった。

そして今日のキャスト・ジャミング。あれは明らかに選手が乗っているバスを標的にしたものだった。魔法を妨害して確実に事故へ繋げるために」

「――っ!」

 

確かにキャスト・ジャミングは敵味方の区別などなく全ての魔法を打ち消す。

しかしあの状況においての最善手はあれしかなかった。あの想子の渦の中で魔法を使える魔法師などいる訳がない。

そう、このことをしっかりと説明すれば達也が分からないはずがない。

 

「違うんだ、あれは多重にかけられた魔法式同士が互いに阻害するのを防ごうと••••••」

「貴重な軍事物資であるアンティナイトを使って? 一般人という言い訳は通じないぞ」

「いや違うんだ! 俺はアンティナイトは使っていない、自分の演算領域で想子波を作れば」

「それは出来ない」

 

しかし四条の反論は無慈悲に切って捨てられた。

 

「魔法師は無意識の内に自身の魔法を阻害するノイズをつくることを拒否してしまう。だからこそアンティナイトという鉱石を使っているんだ」

「いや、そんな馬鹿な••••••じゃあ、俺は••••••」

 

だが考えてみれば当たり前だ、こんな簡単なことを他の魔法師が思いつかない訳が無い。四条の魔法演算領域が意識的に強引に演算しているものだからこそ出来たことなのだ。

自分の理論が実現したことに浮かれて、周りのことを考えることをしなかった。

ここに来てまだ忘れていたのだ、自分がこの世界において異質な存在であると。

 

「あの時にお兄様が手を貸してくださらなければ魔法を使えず、あのまま事故へ繋がっていました」

「••••••また」

 

四条の予想を遥かに上回る速さでの鎮火と防御だったのは、こういうことだった。

 

「また達也••••••なのか」

「さぁ、詳しく吐いてもらうぞ。深雪に手を出した罰は償ってもらう」

 

恐らく達也に一片の慈悲も躊躇いもありはしない。

それほどにこの場に溢れている殺意は、それこそ地獄すら生温いものになるだろうと四条に感じさせるものだった。

説得の余地はなく、ここまで全てを隠してきたツケが回ってきたのだ。

 

「••••••なぁ達也。別の世界、異世界ってあると思うか?」

 

ポツリと、言葉が零れ出た。

 

「別の技術体系があって、そこでただただ研究をしていたら、突然運悪く異世界に飛ばされる」

 

何故こんなことを喋っているのか四条自身にも分からなかった。ただ理解されることなどないと知っていても、言葉は止まらず迸る。

 

「その世界で戸惑いながら過ごして、新しいものに触れて。やっと馴染んできたと思ったら、ちょっとした誤解から殺されるっていう話さ」

「何を言っているのですか。お兄様、耳を貸す必要などありません。ここは私が」

「深雪――」

 

深雪がCADを操作しようと指を動かした瞬間、四条はギリッと歯を噛み締めた。

そして同時に起動する、高速思考と分割思考六本中の四本の併用。

深雪を侮っている訳では無い。分割思考のフル稼働は負担が大きいということもあるが、それ以前に深雪相手ならば――魔法が使えない二人を相手に逃走ならばこれで足りると冷静に判断した結果だ。

 

「キャスト・ジャミング!」

 

キャスト・ジャミングは魔法式がエイドスに作用する働きを妨害する。

つまり起動原理の違う魔術ならば関係がない。どうせもう二度と会うこともないのだ、隠す必要も無い。

 

「強化。プラス、オシリスの砂塵」

 

一蹴りで後ろへ大きく飛び上がりながら、同時に礼装を用いて目くらましの魔術を使用する。

体全体に魔力を通し、身体能力を向上させる基礎的な魔術。しかしそれすら一部が上手く作動せず弾けたような光が生まれた。

 

「魔術基盤が薄すぎるか••••••! だが、大丈夫。達也達は魔法を使えない、一度視界から外れてしまえば――」

 

直後、何の前触れもなく四条の右足が穿たれた。

唐突に現れた痛みに目を見開き、バランスを崩して数メートルほどの高さから地面へと落下する。

土埃を上げて顔面からコンクリートと叩きつけられた。

 

「••••••何故、まだキャスト・ジャミングの有効射程内のはずだろうが••••••」

 

強化の魔術が発動していた部分はともかく、展開が出来ていなかった部分は数メートルの高さから防具なしで叩きつけられたのだ。

無事で済むはずもなく、肉は打ち付けられ骨は粉砕している場所すらあるだろう。

それでも地面にうつ伏せで倒れながらずるっと顔を上げると、滲む視界に映るのは変わらずの無表情でCADを四条へ向ける達也の姿。

 

「そうか。事故の時に達也が手を貸したっていうのはこういう事か」

 

魔法師への限られた対抗策であるキャスト・ジャミング。軍でも使用されるほどのそれを簡単に無効化してしまうそれは、もはやエリート魔法師などと言われるものですらなく。

 

「畜生、この化物め」

 

悲鳴をあげる体に鞭を打ち、何とか両足で立ち上がる。

しかし策はない。

アトラス院の魔術師であった四条は魔術回路が時計塔の魔術師達と比べて極端に少ない。故に達也達に致命的なダメージを与えられるほどの自然干渉系のような魔術は全く使えない。

 

「詰み、か」

 

そう口には出しながら、四条はもう一つの可能性を模索する。

 

まさか、魔術師だったはずの俺がとれる今一番の最適解が魔術じゃなく魔法なんてな――。

 

そう心で笑いながら、キャストジャミングを切った。

と同時に撃つのは、思考分割六本、高速思考を使った四条ができる最大最速の魔法。

時が止まったような錯覚を感じながら他のどの魔法師すらも追いつけないだろう展開速度で、先手どころか対抗魔法さえ打たせない速さの一撃。

深雪の驚く顔がチラリと映る。

その刹那に、ゼロコンマ以下で四条の魔法式は展開される――。

 

「術式解散」

 

そしてその魔法式は、エイドスに干渉する前に塵となって消し去られた。

震える手からCADが滑り落ち、カランと虚しく転がった。

 

「••••••ったく達也、お前ちょっと可笑しいだろ••••••」

 

集中力もぷっつりと途絶え、もう立っている気力すらない四条はそのまま前に倒れ込んでいく。

 

「ガン••••••ド••••••」

 

そして最後の抵抗とばかりに、フィンの一撃と呼ばれる物理的な効果すらない、体調を崩す程度の嫌がらせのような弱々しいガンドを放って、四条の意識は途絶えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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