ハイスクールFaiz〜赤い閃光の救世主〜   作:シグナル!

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今日も二話投稿しますよ。


決着

『リアス様の騎士一名、戦闘不能』

 

自分の大切な眷属の戦闘不能を告げる審判の声がリアスの耳に届いた。

その事実を聞くと無意識のうちに歯をくいしばり、その痛みに耐えていたリアス。

 

「ぶ、部長さん」

 

隣でソファーに座るアーシアが心配そうに自分の手をリアスに重ね、落ち着かせる為に声をかける。

 

「ありがとう、アーシア。 そうよね、祐斗の為にもここで私が止まるわけにはいかないわね」

 

不安そうに見つめるアーシアが目に入り、沸騰しそうになっていた自分の怒りから熱が抜けていく。

今はここで怒りを燃やすよりも、祐斗の為に、そして自分の為にライザーを倒す事を考えなければならない。

その為に自分が出来る事…。

リアスは思考を巡らせ、自分のやるべき事を確認した。

 

ーー祐斗がいなくなった所を一気に攻めるのならば…。私が直接、ライザーを叩く!

 

普通、チェスで王が自ら攻める事は中々しない。

何故なら、王が倒されればそのまま負けとなるからだ。

そのルールがこのレーティング・ゲームにも採用されている。敢えてそこを突く。

それがリアスの狙い目だった。

 

「アーシア、動きましょう。 私と一緒についてきて」

「分かりました!」

 

リアスとアーシアはその場から立ち上がり、ライザーの本陣である本校舎に向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「リアスは後女王(クイーン)僧侶(ビジョップ)戦車(ルーク)にあのガキが残ってるのか」

 

 

本校舎の一室、ライザーはソファーに座りながら情報伝達の為に帰ってきたユーベルーナの報告を受けていた。

その傍には自分の眷属である女性二人がいて、ライザーは女性たちの肌に慣れた手つきで触れる。

 

「クックックッ、このゲームで勝てばあの我儘姫に雷の巫女が俺の物になるのか。そういえば後二人、女がいたな。 まだまだ楽しめそうなぁ」

 

リアスや朱乃が自分の物になると考えると口元を緩めずにはいられず、そのまま声を漏らす。

この男、ライザー・フェニックスはこういう男だ。

美しい女性であれば誰であろうと欲しがり、そこにお互いの気持ちは存在しない。

自分に抱かれるのが女の幸せと考えると典型的なダメ男。

そしてリアスを抱く自分を想像して、余韻に浸っていると一筋の不安がライザーの気持ちを変えた。

 

「先ほど…一気にこちらが四人ほどやられたな。あれはあのガキか?」

 

その質問にユーベルーナはすぐに返事はしなかったが、そのからだは明らかに動揺を示していた。

 

「はい。 正直に言うと何をされたのか分かりませんでした。 あの坊やがいきなり物凄い魔力に似た物を発したかと思うと私以外の者は全てその場に倒れてしまって」

 

「なに?」

 

ユーベルーナの答えに眉をひそめるライザー。

一瞬、目の前の女王を疑いかけたが、体の震えを見ると疑いは感じなかった。

 

「あの坊やは…悪魔以上の何かなのかもしれません。私たちの知らない新しい何か」

 

「……」

 

普段のライザーならば大笑いをする場面であったが、巧の秘めたる力を目の当たりにしている為に否定の言葉が出せなかった。

けれど、巧を倒さずともいいのだ…結局は。

 

「報告ご苦労だ、ユーベルーナ。 お前は外の掃除をするといい。 ミィ、ニィ、お前らもその掃除だ」

 

ライザーは眷属に指令を出し、そのまま部屋を出る。

向かっているのは新校舎の入り口で、口元が徐々に三日月形に近づいていく。

 

ーーさぁ…俺が相手をしようリアス。

 

これから戦うリアスに向けて、一言告げてそのまま足音は響いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『イッセー、小猫、朱乃。 私とアーシアはこれからライザーに奇襲をかけるわ』

 

体育倉庫の中に逃げ込んだ三人は、リアスから通信を聞いて、各々別の表情を見せる。

巧はいつも通りの仏頂面、朱乃はリアスに対して反対の意見を告げて、小猫は指示ならと受け止めていた。

 

 

『相手は貴方たちを倒す為に全ての戦力を投入してくる筈よ。 そこを狙って、私の奇襲。いくら不死といってもライザー自身は強い心を持ってはいない。だから…私がライザーの心をへし折ってやるわ』

 

通信機越しに聞こえるリアスの声。

固い意思があり、何者にも動かせない物に思えた。巧は何も言わずにそのまま倉庫から出た。

小猫もそれに続き、朱乃は我儘な弟や妹を持った姉のような目をして二人の後を追った。

 

 

 

「…敵の匂い」

 

体育倉庫を出て目の前にある運動場。

駒王学園の運動場にはトラックが書いてあり、上空から見れば右上に当たる場所から歩いている。

小猫は巧と朱乃よりも数歩早めに歩き、ゆっくりと二人を先導している。

巧は主に警戒してるのはユーベルーナの爆破だ。

魔力の為に実体がないから防ぎようがない…わけではないが、防ぐことは難しい。

突然、巧、小猫、朱乃の足が止まった。

三人の視点はただ一点に向かう。

その先には先ほどとは違い紫の髪を揺らしながら、巧たちを見下ろしていたユーベルーナがいた。

 

「あら、この状況でまだ続けるのかしら?」

 

煽りも気にせずに朱乃は背中から黒い悪魔の羽を生やし、ユーベルーナと同じ高さにまで上昇する。

一瞬で上昇を終えて、相対する二人。

両者にらみ合いが続き、西部劇さながの場面だ。

 

「はぁっ!!」

 

先手を打ったのは朱乃だった。

ピストルを抜くが如き速さで腕を前に突き出し、一瞬で魔力の雷を形成し、その細い雷は真っ直ぐに目の前の敵を貫く為だけに進む。

対しユーベルーナはその雷の接近を許さず、両手で魔力結界を張り片腕で三本の魔力結界を作り、合計六個の盾を作り出し、朱乃の雷を受け止める。

盾と雷がぶつかる寸前、ユーベルーナは笑みを浮かべた。

 

ーーさっきと同じ結果ね。 貴方の背後に魔力の爆弾を作ってあげるわ

 

そのまま両者の盾と矛はぶつかり合い、ガラスが割れる音を立てて、そのまま勢いを失った雷は消え、ユーベルーナは魔力の爆弾を作ろうと杖を朱乃に向けようと腕を動かす前に痛みが彼女の体を襲った。

 

「なにっ!??」

 

雷が自分の体を襲っていることに気づき、苦々しく顔を歪める。

先ほどまで左手を構えていた朱乃の手が逆になっていた。

 

「あらあら、私も馬鹿じゃありませんの。 雷のコントロールくらいできますわ」

 

一回目の雷をフェイクとして扱い、本命は二回目の雷。

それを食らった後に気が付いたユーベルーナ。

 

「場所を変えましょう? それくらいの気遣いはあってもいいでしょう?」

 

朱乃の提案にユーベルーナはうなづき、懐に忍ばせた一本の瓶に手を添えた。

 

ーー油断大敵ね、雷の巫女さん。 敵がなにをもってるのかを考えないなんて。

 

 

朱乃との勝負をすることよりも巧から距離を取れることを心のどこかで安堵している自分を感じていた自分を消して、朱乃を倒すことに集中する。

二人はそのままテニスコートまで移動を行った。

それから…二人の女王の魔力対決は火蓋を切って落とされた。

 

 

 

 

「塔城、下がってろ」

「嫌です。先輩の方こそ下がっていてください」

 

巧と小猫の前には残ったライザーの眷属全てが集中していた。

特に不利と言えるのが、騎士が二人も生き残っているという事実。

 

ーー二人も騎士がいるなんて…。

祐斗先輩がいてくれたら…。

 

あの時自分をかばって戦闘不能となった祐斗を思い、小猫は顔を少し伏せる。

けれどそんなことをしている内に一歩一歩、確実に迫ってくるライザー眷属。

 

「あの双子の猫は任せた…」

 

巧は言葉短くそう告げると、ライザー眷属に突進するように突っ込んでいった。

その巧に合わせ、ジーンズの片足部分の布が何故かなく、顔を仮面で覆われている女性が前に出る。

それを見ても全く速度を落とさずに真っ直ぐに駆け抜け、自分の持つ全ての勢いを右腕に込め、前に突き出す。

勢いと重さを持った拳、それを受け、仮面の女性ーーイザベラは両腕をクロスさせ、防御の体制をとる。

それから一瞬の間も待たずに巧の拳とイザベラの両腕はぶつかりあった。

快音を響かせ、両者はそのまま対峙する。

巧の拳を正面から受けたイザベラはその判断を正解であることにした。

今…自分の足が地面に亀裂を入れているのに気がつき、下手に避けたら巧の拳が体に入ることを考えてしまい、背中に悪寒が走る。

 

「カーラマイン、シーリス。その兵士を沈めなさい!!」

 

円形の包囲網においては少し外側に位置するポジションでライザーと同じ金髪をもつお嬢様然の少女は騎士二人に攻撃の指示を出す。

指示を受けた二人の騎士はその巧の真上に向かって跳躍。

腰に収めた剣を抜き、カーラマインは自らの剣に炎を灯し、チーリスは身の丈はあるであろう大剣を持ち、そのまま真下にいる巧に向けて刀身を振り下ろす。

 

真上から、熱と自分の髪が風に揺れているのに気づき、真上に視線を向け、自分に攻撃してくる二人の存在に気がついた巧は腰を落とし、体の重心を右にずらす。

巧と拳と腕のぶつかり合いをしていたイザベラはいきなり、力が抜けた事でバランスを崩し、前のめりになる。

タイミングを見計らって、そのまま足を真横に向けて蹴りたて、真上からの剣戟を躱す。

けれど人息つく間もなく、巧の視界には自分に向けて放たれた魔力弾が写り込む。

それは速さこそあるが目測のみで拳で弾ける事を判断し、裏拳の要領でその魔力弾を弾きかえす。

 

「きゃっ!」

 

弾いた魔力弾の弾道上にいた先ほどの指示を出していた金髪の少女は慣れない様子で自分に向かってきた魔力弾を躱す。

その際に悪魔の翼とは違った、炎で形作られた翼が巧の目を奪う。

一目見て巧には理解できた。

目の前の少女は明らかに戦闘慣れしてない。

自分よりも幼い少女を殴るのは気が引けたが今はそんな悠長な事を言ってる場合ではない。

最悪、殴られる前に彼女が自分からリタイアする事を願いつつ、その場から前に駆け出し、一瞬で、彼女は巧の間合いに入る。

あとはここで拳を振るうだけだが…。

 

「きゃっ!」

 

明らかにおびえた様子をした少女に巧の動きは止まる。

両手で体を覆い、目からは少しだけ涙を流す。

 

ーーなんだよこいつ…。

 

とてもでないが殴る気のなくなった巧は拳を収め、背を向けながら金髪の少女に向けて一言。

 

「やる気がないなら帰れ」

 

これをそのまま受け取ると嫌な意味になるが、この状況では金髪少女もその真意を受け取り、巧から距離を取る。

するとイザベラは一歩前に出て、巧に視線を向ける。

 

「すまないな。 彼女…いや、彼の方はレイヴェル・フェニックス。 ライザー様の妹君であらせられるお方だ」

 

「…別に話してほしいなんて言ってねえぞ」

 

ライザーの妹であることを聞いて、一瞬の戸惑いはあったが事実を聞いて、その場で納得する限りであった。

あそこまで戦闘慣れしてないこと。

自分が拳を向けたら涙目になったこと。

けれどそんな説明は求めていない巧はイザベラに少しだけ悪態をついた。

 

「いや、貴様は今我々の敵だ。 それにも関わらず、彼女に対して拳を収めてくれたことに一言礼を言いたくてねっ!!」

 

語尾が強くなり、巧とイザベラの距離は一瞬で変わる。

足を振り上げ、そのまま巧の顎を狙い、振り抜く。

空気を裂き、まっすぐと狙い澄ました一撃は巧の腕の中で勢いを殺される。

 

「…行くぞ」

 

掴んだ足を離し、足を一歩前に踏み込んで体をイザベラの正面に持っていく。

そこから巧の中での正拳突きがイザベラの腹部にまっすぐと突き刺さる。

その衝撃は皮膚だけでなく、体の内側にまで響き、五臓六腑に染み渡る。

 

「うっ…ぐぅぁ……っ!!」

 

体から吐瀉物を吐き出しそうになるのを我慢にして、その場で膝をつく。

その瞬間、巧は勝負に終わりを決めた。

 

「トドメ…を刺さないのか?」

 

「もう一発食らいたいならな」

 

巧は振り向かずにイザベラから距離を取る。

イザベラにはそれが次の敵が自分と戦う際にこの場に倒れている自分自身が邪魔になることを防ぐためであろうと考察を立てる。

それに気づいた瞬間、イザベラは意識を失った。

 

『ライザー様の戦車一名、戦闘不能』

 

ここで巧は周りを見わたし、状況を確認。

小猫が相手をしている双子の猫擬き姉妹に加え、チーリスが二人に加勢しようとしているのを発見した。

けれど巧はそれに加勢することはなかった。

すでに彼女の近くに自分の相棒が向かっていたからだ。

 

『Battle Mode』

 

いつも通りの電子音声が流れ、オートバジンの体をバイクから戦闘用マシンに変身させる。

この一連の流れを見ていた、ライザー眷属は全員残らずその変形に釘付けになっていた。

 

「…ありがとう、バジンくん」

 

自分が不利になったのを感じて、体育倉庫から加勢に来てくれたバジンに向け、感謝の言葉を告げる。

言葉なきバジンは返答こそしないが、指を立ててサムズアップを小猫に向ける。

 

あの三人の相手を小猫とバジンに任せ、残りの相手を全て巧が引き受ける事となったが…。

 

「くっ…」

 

「はぁぁぁ!!!」

 

先ほどの魔力弾を放った僧侶の少女とカーラマインの二人は別々の反応を示していた。

カーラマインは声をあげ、気合いとともに巧を標的と捉えら剣を構え、巧に向かって行く。

巧もそれに対応すべく、体を構えるが…。

 

ドォォォォォンッ!!!

 

その場にいた全員の耳が捉えた爆発音。

音源は……新校舎の屋上。

そこからは二酸化炭素を含んだ黒い煙が立ち込め、爆発によるものでは、と考えるものもいたであろう状況。

けれどこの状況を作り出したのは二人の男女。

 

「ふぅ…もっと楽しませてもらえると思ったんだがな」

 

スーツを着崩し、何事もなかったかのように煙から出てきたのはライザー・フェニックス。

そこからは余裕も持っているのがよく分かる。

 

「黙りなさいっ!!」

 

対してはリアス・グレモリー。

ライザー同様に怪我はないが、ライザーの言葉一つ一つに対して、怒りを募らせたいる。

この屋上にいるのは、リアスの背後にいるアーシアを入れ三人だった。

正直に言えば巧がライザーを倒すはずだった。

けれど相手も巧の真価に気づき、巧よりも勝つ可能性のあるリアスを攻め始めた…。

そうリアスは解釈していた。

 

ーーわたしじゃライザーには勝てない…けど、巧さんならっ!!

 

ライザーに怒りを燃やしているのは事実だが、ここで怒りに身を任せ、敗北を選ぶよりも、ライザーに時間を取らせ、残った戦力を全て潰した後に巧がファイズに変身してからライザーを叩く。

リアスの中でライザーを倒すための道筋が生まれる。

手のひらで魔力を広げ、いつでも自分の魔力で繋がる場所にファイズギアを置いてある。

その事を知ってるのはリアスと巧だけ。

 

『巧さん、私は時間稼ぎしかできないわ。

その後もアーシアの力は怪我を治せるけど、魔力と体力の回復はできない。 つまり…私は戦えない。だけどお願い、勝って』

 

リアスの願い、それは彼女自身の持つ夢の為。

ここでそれを断る事はできない。

口にはしなかったが、巧はそのままリアスからの通信を一旦切り、目の前の相手に集中する。

一太刀目を見て、躱して、間合いに入ろうとするも体の通り道を消すようにしてカーラマインの刺突が繰り出される。

足を軸にして、体を独楽のようにして回転させ、刺突を受け流す。

受け流す際に巧とカーラマインの体は交差し、巧は回転の勢いをつけた拳を鎧越しに叩きつける!!

 

「ぐはぁぁ!!」

 

腹部への拳により、口を広げ酸素を外に漏らすほどでありそのまま後ろに後退せざるをえないものだった。

一瞬、意識が飛びかけた事を鑑みて、もう一撃食らえば確実にーーーー負ける

その決定的事実をカーラマインが悟るのに一秒足らず。

されど、逃げるなどの選択肢はない。

目の前の敵に背を向けるなどカーラマインの一人の戦士としてプライドが許さない、そして目の前で戦う男への侮辱になる。

改めて自分の対峙している男の圧力に押し負けそうになるが、体全てに力を込め、一つ間を置く。

一瞬の静寂を切り裂いて、カーラマインは前に足を踏み出す。

その一歩の勢いが彼女に味方し、今までで一番の初速となった事を彼女自身も自覚した。

剣を振り上げ…上段からの斬り落とし。

カーラマインが目を凝らすと先ほどまで巧のいた場所にその姿はない。

一瞬の戸惑いが生じ、一筋の乱れが生まれる。

その後、カーラマインの腹部に二度目の衝撃が走り、その意味に気づく。

 

ーー私の負け…だな。

 

巧の拳は一撃目よりも勢いがなかった事から、すでに自分が限界に近い事に気づいていた。

その上での威力であった。

地面に倒れながら、自分を倒した男の姿を捉える。

見た目からしてまだ16歳程度である事は伺えるが、自分たちを圧倒するあの動きを見せるには戦場にいたはず。

それも常に生死を賭けた本当の戦場に。

カーラマインは最後まで巧の真相に行き着く事はなかったが、心中で巧がライザーに勝ってもおかしくない。

そんな風に考えながら、淡い光に包まれていった。

 

 

「なるほど…やはりただのガキじゃないな、貴様」

 

新校舎の屋上から、自分の眷属を圧倒する巧の姿に思わず声を漏らす。

ライザーは朱乃やリアスよりもマークしていた巧が自分の想像以上であった事に驚いていた。

 

「ライザー、余所見をするなんて私の事を舐めてるのかしら?」

 

リアスも巧と小猫、そして突如現るバジンの奮闘に感謝しつつ、ライザーに目を向ける。

 

「いいや、君の事を侮っていたつもりはない。 でも、あのガキが思った以上だからなぁ」

 

「当たり前じゃない、イッセーは、いえあの子たちは私の大切な下僕よ、貴方のハーレムなんかに負けるわけないわ」

 

リアスの言葉には小猫をかばって戦闘不能となった祐斗への思いも込められていた。

ここに祐斗はいないけれど彼もまた大切な下僕であり、家族でもあるのだから。

 

「言うじゃないか、リアス。 確かに、あの雷の巫女といいそこの僧侶、戦車たちや君が俺のハーレムに加わるのは確かに楽しみだ…がっ!」

 

リアスと向き合っていたライザーは、突如運動場に向けて半径だけで十五メートルはあろう火球を飛ばした。

 

 

「イッセー、小猫逃げてっー!!!」

 

「バジンくーんっ!!!」

 

突然の奇襲。

ライザーが攻撃を仕掛ける様子を見ていたリアスとアーシアは無意識的に叫んだ。

今からあの火球を止める事は出来ないが、この危機を知らせる事くらいは出来る。

その思いと共に声を張り上げ、危機を伝える思いは飛んで行った。

 

 

火球が勢いよく地面に着くと、その場で大爆発を引き起こした。

その爆発はテニスコート付近で対決している朱乃とユーベルーナにまで被害をもたらした。

朱乃は突然の炎の来襲に気を取られ、ユーベルーナの爆発がその身に直撃する。

爆発により生じた風で体は浮き上がり、そのまま火の海に飲まれてしまう。

朱乃同様に炎の海に巻き込まれたユーベルーナは傷を負ったが懐から取り出した瓶の栓を開け、その中身の液体を頭から被った。

すると朱乃との戦闘の際の傷、ライザーの作り出した炎の海での傷は何事もなかったかのように塞がり、まさに完全回復をしていた。

 

 

 

 

 

「…あっあ…どうして、こんな…」

 

アーシアは目の前の光景に怯えたような声しか出せなかった。

 

ーーどうして、自分の眷属の皆さんを傷つけるのでしょうか?

 

生まれた疑問はそれだけだった。

火の海に飲まれるライザーの眷属を見て、思わず自分の神器を使い、治療を施そうと考えてしまうほどだった。

アーシアの目に移るのは苦しそうにしているライザーたちの眷属の顔だった。

自分に流れる血が冷たくなるのを感じ、ショックによって気を失ってしまう。

リアスは慌てて倒れるアーシアの体を支える。

一瞬、聖母のような優しい目をしたリアスは気を失ってしまったアーシアを労わるように金の髪を撫でる。

アーシアの体を寝かせたまま、一秒前までとは全く逆の憤怒の表情を見せ、ライザーにぶつける。

 

「…こんなやり方で勝って嬉しい? 今すぐ炎を消しなさいっっ!!」

 

「…まぁ、取り敢えずはあのガキも消せた事だろうしな」

 

ライザーは魔力で作った火の海から魔力を抜くと、一瞬で鎮火し、運動場一面は黒焦げになっていた。

けれどその中で一つだけ疑問だったのが、そこにいたはずのライザー眷属や巧たちの姿が何一つ見当たらないことだった。

 

「…お前、兄貴なら妹をビビらせんなよ」

 

新校舎の屋上に響いた気だるそうで、不機嫌そうな声。

 

『ライザー様の兵士二名、僧侶一名、騎士二名、リアス様の女王一名戦闘不能』

 

グレイフィアの声と共に巧が抱えていた二人、小猫が抱えていた二人、バジンが抱えていた二人、計六名の体が淡い光と共に医療用の空間に転移された。

 

「きっ…貴様っ!!」

 

ライザーは思わず顔を歪める。

その視線の先にいたのは、先ほどの炎の海によってライザーが自分の眷属ごと消したはずの巧がいて、その隣にはしっかりと小猫とバジンが傷のない状態でリアスの共に集まっていたからだった。

 

 

 

「イッセー! 小猫、良かったわ…二人が無事で…」

 

 

リアスは巧と小猫が無事であった事を心から喜び二人の体を抱きしめようと二人の体に手を回そうとするも…。

 

「…やめろよ、たくっ」

 

人付き合いもできない巧にしてみれば肉体接触などさらに出来ないことであるため、物理的にリアスから距離を置く。

 

「お兄さまっ! 一体を何を考えいますの!?」

 

次にライザーの目に飛び込んだのは自分の妹でもあるレイヴェルの姿。

先ほどのライザーが行った自分の眷属を含めた攻撃に対して怒りを燃やしている。

今までも似たような手を使ってきたが、今回は度が過ぎている。

最悪の場合、死者さえも出たほどであった。巧と小猫とバジンが手を貸してくれなければ。

同じフェニックスであるレイヴェルにとってはあまり危険ではなかったが、自分以外のものにとってはライザーの作った火の海はまさに地獄といっても過言ではない。

相手チームへの攻撃ならまだしもこんなにも味方が多い状態であんな攻撃をすれば死者が出てきても不思議ではない。

火の海の中で焦るレイヴェルを現実に引き戻したのは、突然隣に現れた小猫だった。

 

『校舎に逃げるから…来るなら付いてきて』

 

火の海の中で巧は数名のライザー眷属を助け出し、火の及ばない新校舎に逃げ込んだ。

小猫やバジンらの手助けによりテニスコート付近で倒れていた朱乃を助け出すことに成功した。

思った以上のけが人は居なかったので安心をしたレイヴェル。けれど今の彼女は怒りをライザーにぶつけるのみとなっていた。

 

「…おい、焼き鳥。 行くぞ」

 

レイヴェルに対して、何を言うべきか戸惑っているライザーは巧の忠告など目に入っていなかった。

その時には既に巧の腰にはファイズドライバーが装着してあり、ファイズフォンを握りしめている事を知らずにいた。

 

『Stundying By』

 

「変身っ!!!!」

 

『Complete』

 

ファイズフォンを高く掲げ、ファイズドライバーに換装、ベルトの縁からフォトンストリームが放出、巧の体を赤い閃光が覆う。

巧の体全てを覆うと一際眩しい光が放たれ、正面に立っていたライザーとレイヴェルはその激しい光に耐えられず目を瞑る。

目を開けたライザーの目に映るのは、一人の戦士。

金属のベルトを腰に巻きつけ、先ほどの赤い光が通っているであろうライン。

顔の部分は仮面で覆われ、表情は読み取れない。けれどその立ち振る舞いでわかる実力。

ここに来てライザーは自分の足が震えている事に気がついた。

けれど、それを無理やり打ち消し、自らを叱咤する。

 

ーーふざけるなっ! なぜ俺が…不死であるこの俺があんなガキ一人に怯えているんだっ!

 

ライザーの心中を気にすることなく、ファイズの拳は今まで倒れていった祐斗や朱乃、そして突然の主からの奇襲によって戦闘不能となった、ライザー眷属の想いが込められているかと感じるほどに重く、そして深くライザーの腹部に突き刺さった。

 

 

「ぐほぉ…ハァ…ハァ…舐めるなぁぁ!!」

 

ファイズの拳により肺からの酸素の供給は一瞬止まり、巧に対する恐怖感が体を支配する。

けれど、ライザーの中にある自尊心と誇りがそれに勝り、体を動かす原動力となる。

立ち上がり、声を荒げ、自分の背中から炎の羽を生やし、低空飛行の姿勢をとり、地面を強く蹴る。

ライザーの突進に対応すべく、腰を屈める前傾姿勢をとる。

後ろにいるリアスたちに攻撃がいかないようにする為だ。

今のリアスは魔力を使い果たし、息も切れている。

その上、体力を回復させてくれるアーシアは先ほどの光景に心が耐えられずに気を失っている。

ここで巧がライザーを圧倒してもリアスが倒れてしまえば意味はない。

 

 

空気を裂き、ライザーとの距離が残り四メートルに迫ったと同時にファイズはクラウチングスタートのような姿勢から走り出した。

 

「らぁぁぁぁ!!!」

 

「死ねぇぇぇぇ!!!」

 

炎の羽をロケット噴射のようにして、加速し、勢いは最高潮に達したライザー。

走り出した勢いしかない、ファイズ。

これだけならば、ライザーが力で勝る。

が、交差する二人の影の片方がその場から吹き飛び、黒焦げとなった運動場に叩きつけられた。

 

 

「おのれぇ……貴様ぁぁ!!」

 

地面に伏しているのは、ライザー。

巧はライザーと交差する寸前で動きを止め、ライザーを待つ姿勢をとった。

そのまま加速し続け、巧みに向けて炎を纏った拳を撃ち込もうと前に突き出したライザーを待っていたのは巧が腹部に向けて前に出した、右足だった。

慣性の法則に従って、ライザーは加速して続けた分、自らの腹部に入った蹴りの威力に押し負け、新校舎の屋上から投げ出され、地面に伏したのだ。

地面に降りた、ライザーを視界に捉えつつ、ファイズフォンについてあるファイズの顔を催したメモリーに手を掛け、抜き取る。

 

『Ready』

 

抜き取ったミッション・メモリーを握りしめ、オートバジンに近づき、左ハンドルにある窪みに差し込む。

ファイズショットやファイズポインター同様の電子音声が流れる。

手首を返し、ハンドルを抜き取る。

ファイズの手には赤い光を纏う剣が収められていた。

 

「剣になった…すごいわね、バジンって」

 

「なんでもあり…」

 

「冥界でも見たことありませんわ…」

 

リアス、小猫、レイヴェルは三者とも同じような反応を見せる。

巧はその反応に応えることなく、新校舎の屋上から飛び降りる。

 

「…貴様ッッ!!!」

 

自分を待つような態勢をとる、ファイズに向け、ライザーはその場から走り出す。

ファイズは左手首をスナッブさせ、それを迎え撃つ。

ここでライザーは手のひらで炎を形成する。

それを長く伸ばし、一本の剣の形にした。

魔力の才能を持つライザーならば造作もない事である。

 

「ふんっ!!」

 

身の丈はあろうかという巨大な大剣を炎で作りだし、その刀身を巧みに向けて、振るい落とす!!

ライザーからすればファイズの持つ、剣は細いため、この巨大な大剣をもってすれば簡単に折れる、と予想を立てていた。

が、現実は違った。

 

「……はぁ!」

 

ファイズエッジを横に倒して、大剣を受け止めた、ファイズはそのまま刀身を滑らせるようにして、攻撃を受け流す。

巨大な刀身が地面に落ち、ライザーの体はバランスを崩した。

その隙を見逃さず、足を前に踏み込んだ、ファイズは左手を後ろに回し、勢いをつけてから、斜め上からライザーの体を斬り裂いた。

ついで、二撃目はそこから、腹部を突き刺す刺突。

ファイズエッジはライザーの体を貫き、体を崩壊させる。

φの赤い文字が浮かび、その場で倒れる体。

勝負がついた。そう思ったファイズは脱力の姿勢を見せる。

ファイズの勝利を感じたリアスや小猫だったが、違和感を感じる。

ライザーであった肉塊が集まり出し、それらを徐々に形を成していく。

十秒ほどして、バラバラだった物はライザーに再生した。

 

「はぁ…ハァ…貴様、何をしたっ!?」

 

額や僅かに見える肌からは玉のような汗を帯びていた。

 

ーー何なんだ今のは!? 何故、あんなにも再生に魔力がかかる!?

 

ライザーいや、フェニックスとはどんな攻撃を受けても受けてすぐに回復する仕組みとなっている。

けれど、巧…ファイズの攻撃はそうではなかった。

回復に大量の魔力と十秒もの時間を要した。

この時、ライザーはファイズが持つフォトンブラッドの恐ろしさを体で感じていた。

一方の巧も、この目で見るまでは不死なんてものを信じてはいなかった。過去にも、複数の命を持ったオルフェノクはいた。けれども、数に限りがあった。けれど、今目の前にいるのは、文字通りの死なない存在。

 

儚くも短い生を全うした巧と、永遠とも言える時間を不死として生きるライザー。

相反する存在は、ぶつかり合うしかないのかもしれない。

 

 

「ぬおおらぁぁあ!!!」

 

再び、炎の大剣を形成し、横薙ぎでの一撃。

背後からの攻撃ではあったものの、ライザーの復活を見ていたファイズはステップを踏みながら、後ろに下がり、ライザーとの距離を取っていた。

 

大剣を肩で担ぐような構えを取り、右手を前に突き出す。

手のひらから四角形の頂点のようにして四つの火の玉が形成され、それらを弾丸のように打ち出した。

ファイズはそれを仮面越しに見て、避ける事を考えずに、そのまま前に駆け出す。

火の玉は鉛玉程度の大きさを持ち、速さは弾丸よりも遅い速さだった。

一発目の火の玉は巧の真正面から向かってくる。

 

「らぁ!!!」

 

気合いと共にファイズエッジを横に薙ぎ、火の玉は真っ二つに割れる。

続いて、二発目、三発目の火の玉は同じ弾道上に乗ってファイズに向かっていく。

右にファイズエッジを薙ぎ、切り返すように左に薙ぐ。

が、二発目は弾いたが三発目の存在に気づいたのは火の玉がフルメタルラングと接触し、小さな爆発を起こした時だった。

 

「うぅ…」

 

思いがけぬ二段撃ちに声を漏らす。

ライザーはこれを好機にファイズに近づいてくる。

その顔から油断があることに気づき、ドライバーに横向きで換装されているファイズフォンを開き、Enterキーを押す。

 

『Exceed Charge』

 

フォトンブラットがラインを通じて、ファイズエッジに伝わる。

仮面の下の表情は見えない為、ファイズの行動に気づかないライザーは余裕を持って距離を詰める。

 

「らぁ!!」

 

立ち上がったファイズはファイズエッジを下から掬い上げるように、振り抜く。

刀身からは先ほどの伝わった大量のフォトンブラットが弾け飛び、波となってライザーに向かっていく。

 

「しまった!!」

 

炎の翼を広げ、その場から飛び立とうとするライザーの体を確実に固定して動くことを許さないフォトンブラット。

これを勝機と見て、ファイズエッジを片手で持ったまま、ライザーまでの距離を詰める。

ファイズエッジの間合いがライザーに届いた瞬間のことだった。

突如、ライザーの体が爆発した。

上半身が爆発したことにより、フォトンブラットの拘束を解かれ、下半身は地面に倒れる。

この光景にファイズのみならず、リアスや小猫やレイヴェルも呆然としていた。

が、リアスがここでこの場にはいないが、まだゲームで戦闘不能になっていない者の名を口にする。

 

「ユーベルーナよ! 気をつけて、さっきの爆発はあなたの攻撃からライザーを助ける為の物なの!何故ならーー」

 

「俺は不死、フェニックスだからな」

 

上半身の再生を終えた、ライザーがリアスの言葉を繋げた。

ファイズは振り向くやいなや、至近距離でライザーの攻撃を受け、後ろに後退する。

ファイズの位置は先ほどまではリアスたちに背を向けていた状態であったが、ライザーの攻撃により、位置が逆転してしまった。

この状況を待っていた、そう言わんばかりにライザーはほくそ笑む。

 

「お前は強い。その奇妙な道具もそうだがな。 貴様の自力は下級悪魔のレベルを大きく超える。正直に言おう、末恐ろしい男だ。

それでも勝つのは俺だ。 お前は俺を倒せば勝つが俺は違う。 俺はお前を倒さなくてもいい。俺は…リアスを倒せば勝つんだからな」

 

ファイズはその言葉の真意を読み取ることは出来なかったが、無意識のうちにその場から走り出した。

ライザーはリアスたちに体を向けて、左手を新校舎に翳す。

一瞬にして、先ほどの火の海を作り出した物よりは幾分か小さいがそれなりの大きさを持った火球を作り出した。

 

「バジンくんっ! 」

 

「バジンっ!」

 

リアスと小猫の声が聞こえる。

ユーベルーナはリアスに向けて、爆発を引き起こそうとしたがバジンがそれを身を呈して庇い、運動場に落下した。

思わず言葉を失いかけたファイズだったが、ライザーを止めるべく、背後からの攻撃を仕掛けようとするが…。

 

「うわぁ!!」

 

小さな爆発がファイズを襲った。

けれどそれはファイズを戦闘不能にするには弱かったが、意識を逸らすことは出来た。

 

 

「ライザー様の勝ちね…坊や」

 

空に浮かぶ、ユーベルーナは先ほどの自分の傷を癒した液体、フェニックスの涙の入った小瓶にそっと口付けをする。

 

「リアスっっ!!!!」

 

ファイズの攻撃は間に合わず、ライザーの手のひらから火球は離れていった。

 

 

 

「部長…!!」

 

レイヴェルは自分の近くで主人の名を呼びながら、自らの体を盾にして炎から守ろうとする小猫の姿が自分の視界を捉えているのが分かった。

自分たちに迫る火球。

それは先ほど、火の海を作った火球よりは大きさでは小さいがその質はとても高い。

先ほどの火の海に恐怖は抱かなかった。

自分を助けてくれた存在がいたからだ。

けれどこの場にはいない。

背中に炎の羽を生やそうにも魔力を練られずいて、逃げられない。

この時、自分がどうなるのかを無意識のうちに悟っていた。

 

「小猫…レイヴェル」

 

諦め掛けていたその時、レイヴェルの目は美しい紅の髪を捉えていた。

自分と小猫の体を強く抱きしめ、優しく名前を呟き、その手で自分の髪を撫でた存在がいた。

この時、レイヴェルは自分と小猫を抱きしめた存在がリアスであることに気づいた。

 

三人はそのまま巨大な炎に包まれる。

けれど、リアスが残り僅かな魔力を二人の身を守る為の結界を作る為に使い果たし、リアスのみがライザーの炎を受けた。

 

『リアス・グレモリー様、戦闘不能。 このゲーム、ライザー・フェニックス様の勝利となります』

 

聞きたくないアナウンスがファイズの耳に届いた。

そのままリアスの元に駆けつけ、変身を解除する。

 

「ねぇ…巧さん。 ごめんなさい、負けてしまったわね…」

 

「…おい、ふざけんなよ。目を覚ませよ、リアスッ!!」

 

リアスは満面の笑みを浮かべ、その目からは自分の『夢』が叶わないものになってしまった、事実に耐えられずに頬を伝う涙が流れていた。

それは頬から巧の手に伝わる。

リアスの体は徐々に淡い光となり、そのまま医療の空間に転移された……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レーティング・ゲームが終わり、治療の必要のある祐斗と朱乃とリアス。気を失ってしまったアーシアは念の為に治療空間に残ったまま。

オートバジンはそのままオカルト研究部に転移された。

 

「先輩…。部長」

 

小猫はその場でこの部屋にいない者たちを呼ぶ。

返事のない呼びかけに虚しさが募る。

巧はその場でソファーに座り込んだ。

脱力しきった様子で、天井を見上げていた。

 

ーー俺に何が出来んだよ…。 俺はアイツに何をしてやりたいんだよ。

 

最初は自分の世話をしてくれるリアスに借りを返す意味で眷属として側にいた。

けれど、かつての真里と同じように夢を持つ一人の少女であることを知ったその時から巧には”借り”などという言葉では片付けられない感情が生まれていた。

自分に何が出来るのか、その答えは簡単には出てこない。

 

ーー夢を応援してやる事…いや、違う。

夢を持っていない俺にできるのは………。

 

巧の脳裏に出来事が浮かび上がる。

夢のない自分何が出来るのか、それを思い悩んだ末に出した答えは

 

「夢を守る事…だよな。真里、啓太郎」

 

巧はその答えを導き出させてくれた仲間の名を口にする。

その目はかつて自分の出した答え時と全く同じ色をしていた。

 

 




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