ハイスクールFaiz〜赤い閃光の救世主〜   作:シグナル!

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今作はこの作品で最も描きたかった所の一つです。
あの名台詞が遂に…っ!!

それとお気に入りの人数の多さに驚きばかりです。
感想をくださると励みになりますので、是非お願いします!!


夢の守り人

レーティングゲーム終了から三日が経った。

幸い休日による三連休だった為、巧と小猫はゆっくりと休みを取る…ことはなかった。

兵藤夫妻にはアーシアが友達の家にお泊りに行ってると巧の口から伝えられ、夫妻もそれを信じている。

実際は二人を除いたグレモリー眷属は冥界にて療養中。リアスはライザーとの今夜行われる婚約パーティーの為に冥界にて待機。

 

 

 

 

「何処に行くんですか…先輩」

 

その日の夜、巧はオートバジンの手入れをオカルト研究部室内で行っていた。

そんな巧に背後から声をかける小猫。

 

「リアスを助けに行く」

「無茶です…私も行きます」

 

巧の意見を軽く否定して、自分の同行を提案する。

リアスの救出に行くのは巧だけではなく、自分の役目でもある。小猫はそう考えていた。

あのゲームで祐斗が残っていれば状況は変わっていたかもしれない。

最後にライザーの攻撃からリアスが自分たちの盾になろうとしなかったかもしれない。

いくつもの可能性が小猫の頭の中を巡り、思考をかき乱す。

 

「危険すぎる、お前はここに残れ」

「嫌です。 それに先輩…冥界への行き方分かっているんですか…?」

 

小猫の疑問に巧は苦虫を噛んだ顔をする。

そこが巧の一番の難点だった。魔力による移動としか考えていなかった為、答えに戸惑う。

しかし、それは小猫も同じだ。

行き方などは知っていても、それを行うだけの魔法陣がない。

二人ともそこから先の言葉が出なかった。

このままでは間に合わない、そんな焦りと不安が巧と小猫に生まれつつあった。

そんな時、オカルト研究部室の扉をノックする音が聞こえる。

突然の来客だったが、心当たりがない。

リアスや祐斗たちは冥界で待機しており、ライザーがわざわざ来るとも思えない。

 

「失礼します」

 

突然の来客がドア越しに入室の許可を問う。

思考を巡らせていた巧と小猫は返事をしなかった。けれど来客が沈黙を肯定として、扉を開く。

そこから現れた来客に巧は何処か見覚えを感じた。

 

「副会長…神羅椿姫先輩」

 

小猫が来客の名をつぶやき、椿姫は巧と小猫の前まで歩み寄る。

二歩手前程の距離で立ち止まり、制服の内ポケットから何やら小さな紙を取り出し、巧と小猫に差し出す。

 

「これは婚約パーティー会場とここを繋ぐ魔法陣です。会長は会場に向かっている為、私が代理でこれを」

 

淡々とした説明口調だったが、今はこれが会場に乗り込む為の最後の希望だ。

 

「会長と…この紙を託したあるお方からの伝言です。『私の親友を頼みます』と『妹を連れ戻したくば会場まで乗り込んできなさい』だそうです。 それでは」

 

椿姫はそれだけを言って、最後に小さくご健闘を、と応援とも取れる声を掛け、部室を後にした。

巧は手のひらにある魔法陣の描かれた紙を見つめる。

 

「……行くぞ」

 

巧は紙を懐に入れ、オートバジンに跨る。

小猫も何も言わず、後を追い巧の後ろに乗り、腰に手を回す。

二人と一台のバイクは紙にかかれた魔法陣が放つ大きな光に包まれ…冥界へ移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なら夢を持つ先輩として…一言。夢を持つと時々凄く切なるけど、時々すごく熱くなるの。知ってた?』

『ああ…とても知ってるよ』

 

 

ーー巧さん、貴方は私にとって…とてもとても大切な

 

「大切な人…」

 

白いウェディングドレスに身を包んだリアスがただ一言そう呟いた。

リアスは今、ライザーとの婚約パーティーの出番を待っているところだった。

自分の負けは自分の負け。

その勝敗で自分の夢が潰えることも覚悟の上だった。

けれど、感情は納得していない。

理性では分かっているつもりだった、それなのに…。

 

「どうしてこんなに苦しいのかしら。夢って…呪いなのかもしれないわね」

 

かつての巧の仲間、海堂直也もリアスと同じことを口にした。

 

『夢は呪いと同じ…途中で挫折したものは呪われたまんまだ』

 

この言葉は彼の仲間、木場勇次の中に残り続けていた。

リアスもまた夢を諦め、その呪いに苛まれそうになりかけている。

俯き続けるリアス。

突如、リアスのいる待合室の床に巨大な炎が発生する。

巨大な炎は部屋全体を覆うことはなかったが、数秒間燃え盛り、一人の男をこの部屋に運んだ仕事を終え、すぐに鎮火していく。

 

「よく似合ってるじゃないか…リアス」

「何のつもり? ライザー」

「お待ちください、ライザー様! この部屋は男子禁制です」

 

現れたライザーはリアスの不快感を煽る様な笑みを浮かべ、あの女に歩み寄る。

その際に、メイドの一人がライザーの歩みを止めようとする。

 

「堅いこと言うなよ、俺は今日の主役じゃ、ないな。今日の主役は花嫁だったな、ハッハッハッ!!」

 

自分の言葉を途中で区切り、花嫁という単語を強調してその場で笑い出す。

リアスは目の前の男を張っ倒したい気持ちを抑え、ライザーを止めようとしてくれたメイドたちに視線を向け、辞めるように促す。

 

「まだ花嫁のつもりはないわ、それに…なんなのこのドレス。まるでーー」

 

「ウェディングドレスだろぉ? いいじゃないか、もう結婚は決まっているんだから。まさか、今更結婚が無くなるなんて甘い考えが君の中にあるわけでもないだろう?それとも…あのガキがなんとかしてくれるとでも?」

 

リアスの言葉を潰しにかかるライザー。

今のままのリアスが自分と結婚したところで、自分の物になるとは思えない。

それは…巧の存在が心の中にあるからだ。

まだ希望が残っている為、自分に振り向かない。

しかし、その希望をへし折ってやる、そう言わんばかりに巧を嘲笑うような言葉をぶつける。

 

「…まぁ、君も早く諦めて、俺の花嫁になる覚悟を決めるんだ。 毎晩、楽しみしているからな」

 

最後に今までで一番不快になるような笑みを見せ、ライザーは部屋を出た。

思わずその場で膝をつきたくなる気持ちをこらえ、両足で地に立つ。

涙を見せることなく、リアスは自分を呼ぶ声をドア越しから聞いて、そのまま歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先日のゲーム、申し訳ありません…」

 

レイヴェル・フェニックスはグレモリー眷属の皆に深々と頭を下げる。

普段のお嬢様らしいら風貌からはイメージのつかないほどにしっかりとした謝罪を行う。

 

「いえ、気にする必要はありませんわ」

 

朱乃はこの場にグレモリー眷属を代表して、返答する。

気に止む必要はない…その言葉はグレモリー眷属の総意だったが、それがレイヴェルの罪悪感を駆り立てる。

 

ここで罵られた方がどれだけ良かったか、断罪される方がどれだけ良かったか。

こうやって、自分に優しい言葉をかけられるのが一番辛い。

その気持ちに気付いていた朱乃だったが、彼女を責めても何の解決にもならない、そのことをわかっている上で先ほどの言葉をかけた。

 

「僕たちもゲームの様子は見てたけど、貴方が謝る必要はありませんよ」

 

祐斗は治療空間からゲームの様子を観戦していた。

画面越しに戦う自分の仲間と何もできない自分。

ただ、唇を噛み締めているだけの自分に怒りが湧いていた。

けれど、自分にできるのは見届けること。

そう信じ、祐斗はゲームの行方を見届けた。

その祐斗の脳裏に浮かぶのは、ファイズとして戦う巧の姿だった。

あのライザー・フェニックスにあんなやり方をさせたという事はつまり、巧がそこまでライザー・フェニックスを追い詰めた事になる。

それが誇らしく思い、それと同時に何もできない自分との差を痛感する限りであった。

 

「イッセーさんや小猫ちゃん…大丈夫でしょうか」

 

アーシアはぽつりと呟き、この場にはいない巧と小猫の身を案じた。

どんよりとした雰囲気になる四人であったが、その後ろから声をかける女性がいた。

 

「ですが…実力は拮抗、いえそれ以上の物であったと感じています…私だけでなく、多くの者が」

 

現れたのはリアスの友人、そして巧と小猫にこの場に通じる魔法陣を椿姫に託した一人、ソーナ・シトリー。

 

「それにまだ諦めるのは早いのでは?」

 

「えっ?」

 

ソーナの何かを投げかけるような言葉に祐斗は漏れた声で反応する。

一瞬の間が生まれるが、三人は同じような顔を浮かべる。

 

「そうですね…まだ、終わってませんね」

 

「ええ、彼ならきっと…」

 

「部長さんを助けてくれます…私の時みたいに」

 

三人の脳裏に浮かんだ、不器用で猫舌でワガママな青年が誰かを見捨てるような男ではない事を知ってる。三人は巧がこの場に来るのを待ち望んでいる顔を見せる。

 

「冥界に名だたる貴族の皆様、御集まりいただき、光栄に思います」

 

会場の中心に、炎と共に現れたライザーは白い礼服にも似た物を着用していた。

会場の視線が一気に集まり、心なしが心の高ぶりを見せる。

 

「今日、皆様にお集まりいただいのは、私と名家グレモリー家の次期当主、リアス・グレモリーとの婚約という歴史的瞬間に立ち会っていただきたく思いました。それでは…登場していただきましょう、我が妃…リアス・グレモリー!!!」

 

ライザーがその名を呼ぶと、白いウェディングドレスに身を包んだリアスが魔法陣と共に転移される。

リアスの姿を見て、多くの男性は唾を飲み込む…。

しかし、パーティ会場には似合わないようなバイクのエンジン音が聞こえていた。

それは徐々に強くなり…婚約パーティー会場の出入り口を何かが突き破る。

現れたのは銀色のバイク(オートバジン)に跨る巧とその背に手を回す小猫であった。

 

 

「き、貴様…なぜここにいる!!」

 

ライザーは巧がこの場にいる事に対し、狼狽し、自信に満ち溢れていた声は擦れている。

ライザーの声を聞いても、巧も小猫とその声を無視して、突然の来客に呆然としているギャラリーではなくリアスに近づく。

 

「な、何をしている衛兵! こいつらをつまみ出せ!」

 

鎧を着て、簡易的な槍を構えた兵士達が巧と小猫に近寄ろうとするが…。

 

『Battle Mode』

 

主人である巧に近づく衛兵をバトルモードに変形したオートバジンがファイズ以上の馬力を駆使して押しのける。

それを見て、新たな衛兵達が巧と小猫を止めようとするが…。

 

「待ちたまえ、ライザー君。 彼らは侵入者ではない、リアスの眷属だ。 ここにいるのは当然の義務のはずだ」

 

「でっ…ですが」

 

他の悪魔とは違う装いをして、リアスと同じ紅の髪を持つ二十代半ば程度の男性がライザーに待ったをかける。

普段は他人を見下し続けるライザーもこの男性には逆らおうとはせず、反論のために出した言葉は徐々に小さくなっていく。

 

「それにそこの青年、兵藤一誠君の力にすこし興味があってね。これは私が考えた催しさ」

 

会話どころか初対面の者にいきなり、用があると言われたがこの男性が何を考えているのか分からないが、この場を収めてくれるのなら口を出す意味もないと判断し、暫し男性の言葉に耳を傾ける。

この男性がリアスの兄である事には気づく事のない巧だった。

 

「兵藤一誠君…君のあの力、もう一度私や上級悪魔の方々の前で披露してもらえないだろうか?」

 

「あっ、はい」

 

珍しく言い淀む巧であったが、隣の小猫に脇を軽く殴られてから返事をする。

 

「相手は…ライザー君、お願いできるかな?」

 

男性は周りを見渡してから、ライザーに視線を向け、巧の相手を依頼する。

ライザーは一瞬の戸惑いがあったが、隣で巧の事を想うリアスを思い出して、承諾の返事をする。

 

「いいでしょう…このライザー・フェニックス、身を固める前に最後の炎をお見せしましょう!」

 

巧とライザーの再決闘が決定したが、周囲の悪魔はそうではなかった。

何故なら、巧が勝利した際には願いを叶えるという条件が付いていたからだ。

その事を聞き、多くの上級悪魔は批判的な声をあげる。

 

「そんな下級悪魔如きに、何故!?」

 

「黙れ…。 彼は私の願いに応えるため、この場にいる。そして私は彼に願いを頼んでいる側だ、文句は言えまい」

 

全ては鶴の一声で片付いた。

男性の見せる覇気とも思える一言で…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まったく、懲りないな貴様は』

 

巧とライザーが決闘を繰り広げるのはレーティング・ゲームで使われた異空間と同様の物。

そこはコロシアムのように円形に広がり、巧にとってもライザーにとっても逃げ場のない場所だった。

 

「イッセー」

 

リアスは映像越しにライザーとにらみ合う、巧を思い声を漏らす。

傷ついて欲しくはなかった。

しかしもう止められない…自分には。

こうして見守る事しか出来ない。

 

『せっかくの婚約パーティーを邪魔するとは無粋な男だなぁ!!』

 

ライザーの怒号が異空間に響き、背中から炎の翼が出現し、その羽を噴射させ、勢いをつけて加速。

巧の目の前で手のひらを翳し、炎が噴出される。

勢いよく噴出した炎は巧やその周囲を炎に包む。

 

会場にいる誰もが、この程度か、と諦めた声を漏らす。

ライザー自身も完全に、勝利を予感していた。

 

「ぬぐぅ!」

 

突如、自分の背後から脇腹に蹴りを入れられた。

その蹴りは勢いよく突き刺さり、思わぬ攻撃に足を前に出す。

攻撃を加えた者ーー巧がいるであろう背後に勢いよく振り向く。

何事もなかったような巧が銀色のベルトを見せつける。

 

『おい、知ってるか? 夢を持つとな…時々すっごい切なくなるが、時々すっごい熱くなる…らしいぜ』

 

巧は攻撃を仕掛けるではなく、正面からライザーに問いかける。

その言葉を聞いたライザーは首を傾げ、会場から試合観戦をしていた多くの上級悪魔もライザー同様の反応をする。

 

『俺には夢はない。でもな…夢を守る事は出来る』

 

けれどリアスは違った。

巧が懐からファイズフォンを取り出す仕草を見て、思わず涙が溢れるのが止まらない。

 

ーー巧さん…貴方はっ!

 

リアスは気づいてしまった。

彼は…巧は自分の持った我儘な『夢』を守る為にこの場に立って、不死であるライザーに立ち向かっている、その理由を。

 

『Stundying By』

 

ーーー変身っ!!

 

ファイズフォンを空高く掲げ、ドライバーに換装し、横に倒す。

 

『Complete』

 

赤い光を身に纏い、赤い閃光の救世主は冥界の地に一人の少女の夢を守る為に舞い降りた。

 

 

 

 

 

 

左手首をスナッブさせると、カシャという金属音が鳴る。

それが開戦の狼煙となった。

二人は同時に駆け出し、互いの胸に全力の拳を叩き込む。

二人の速さは一緒だった、けれど後ろにより多く後退したのはライザーだった。

 

「はぁ…はぁ!! ぬうぁぁあ!!」

 

ライザーは右足を地につけ、勢いよく左足を振り上げる。

魔力のない物理攻撃であったが、ファイズはこの蹴りを膝を立て、受け止める。真正面からの攻撃を受け止められたライザーは、体のバランスを崩し、思わぬ形で後ろに後退する。

背筋が曲がり、地面に倒れる。

そんな無様な真似を見せまいと筋肉が、脳が最大の力を背筋に送る。

体を持ち直し、頭は元の位置に戻ろうとゆっくりと上昇していくが…その先にはすでにライザーの顔目掛けて、放たれた拳が置いてあり、ライザーの顔とファイズの拳は正面衝突を起こした。

 

 

ファイズのパンチ力は2.5t。それほどの力で殴られればライザーの顔など痛みがのたうちまわって当然。

しかし、傷ついたライザーの顔を覆うように炎が噴出され、数秒で顔の傷は全治する。

 

ーーなんだこのガキ…この前とはまるで違う!

 

ライザーは先日のゲームで喰らった一撃とも重さの違いをこの一瞬で気付いた。

ベルトの使用者が変わったように。

壁の瓦礫が、ライザーに乗りかかるが立ち上がり、羽を広げ空が高く舞う。

これはライザーの狙いでもあった。

 

「貴様は見たところ空も飛べない様だな…いくら地上戦が強くても、空を飛べなければ意味はない!」

 

両手を前に突き出し、地面に向けて火の弾丸を無数に撃ち出す。

両指合わせて、計十本の指から弾丸は発砲される。

玉の大きさは小さいが、当たれば確実にダメージを残すという物で、これでファイズを葬る、そう決めて炎の弾丸をさらに撃ち続ける。

 

「チッ…」

 

仮面の下で巧は思わず舌打ちをする。

ライザーの推測通りノーマルファイズでは空を飛ぶことは出来ない。

最終形態のブラスターフォームでならばそれも可能であったが、今はファイズブラスターもそして、超加速状態への変化を可能とするツール、ファイズアクセルも巧の元には存在し得ない。

無い物ねだりをしても意味など無い為、ドライバーからファイズフォンを抜き取り、コードを入力。

 

『Single Mode』

 

ファイズフォンを開いたまま、右に倒し、拳銃の形に変化させる。

ファイズフォンには左側の側面に銃に形態変化した際の為の引き金が存在する。

この炎の弾丸を避けながら、ライザーに当てるのは至難の技だ。

けれど、ライザーにも付け入る隙がある。

今、炎の弾丸により、軽く地面には炎が広がり、ライザー自身の視界も対象は遮られている。

今、自分のいるこの場所から数歩下がり、勢いよく踏み切りをつけ、勢いよく跳躍する。

 

「何っ!?」

 

ライザーの停滞地点は45メートル、ファイズのひと飛びは35メートルと10メートルの差はあるが、ライザーの足元に向けて飛んだ為、ライザーの反応も少し遅れ、巧には充分な程に簡単な射撃だ。

 

「ぐっ! 」

 

ファイズフォンの引き金を三回引き、フォトンブラットで形成された弾丸はライザーの体を下から貫いた。

そのうちの一発が炎の羽に直撃し、空に浮遊していたライザーの体を落下させ、地面に叩きつける。

一方のファイズは、確実に着地を決める。

 

「舐めやがって…この俺がぁ…こんなガキに…っ!」

 

地面に落下して、数秒が立つが、ライザーの傷は先程とは違いと少しばかりの時間と魔力を消費する。

フォトンブラットの恐ろしさを隠すため、顔を歪めファイズを睨むが仮面の下の表情が見えないため、ライザーは巧がどんな表情で自分を見ているのかが分からない。

それがライザーの恐怖を煽る。それが数秒続いたが体の傷が治ったな事を感じて立ち上がる。

今度は手のひらで炎を形成し、一本の剣を作り出す。

レーティングゲームでも使用した炎で固形化させた大剣である。

 

「おらぁぁ!」

 

上段からの振り下ろしに後退して避ける。

振り下ろした地面にはヒビが入りっており、その力の強さを示していた。

次に大剣を引きずる様に駆け出す。

地面と刀身が擦れ、火花を散らす。

 

「はぁぁ!!」

 

大剣の間合いにファイズが入った瞬間に、下から掬い上げる形で持ち上げる。

当然、ステップを踏み、後ろに下がり、大剣を避けたはずのファイズの体を炎が襲う。

 

「くっ!!」

 

よく見ると、大剣の刀身は熱で溶けていたかの様に赤に染まっていた。

あの剣は元は炎により作られた物。

つまり、固形化をといて炎に戻す事もまた容易。

一撃目を避けた後に二撃目は固形化を解いて、炎がファイズを襲った。

武器こそ無いが、それでも負けるわけにいかない。

ファイズは地面に膝をつけていたが、勢いよく立ち上がり、両手を振って駆け出す。

 

「どうした!? 怖いか!」

 

剣の間合いに入ると先ほどの一撃を思い出し、加速が止まる。

それを見たライザーは思わず、声を荒げ巧を挑発する。

 

ーーこの野郎…っ!

 

ライザーの挑発に反応する事もなかったが、腰のホルダーからファイズショットを取り出し、ミッションメモリーを取り付ける。

拳に取り付ける、横倒しになっているファイズフォンを開き、Enterキーを押す。

 

『Exceed Charge』

 

ファイズドライバーからフォトンブラットがファイズショットに伝わり、充填が完了する。

余裕をひけらかすライザーも二度もフォトンブラットの恐ろしさを経験してる為、ファイズショットを目にし、体に打ち込ませまいと炎の大剣を盾として自分の体を守るように前に突き出す。

 

「うらぁぁ!!」

 

巧の叫びが響き渡り、ライザーが大剣を前に突き出した一瞬後にグランインパクトは発動し、赤い光を纏った拳は炎により作られた大剣とぶつかりあい、火花を散らす。

ファイズのグランインパクトを剣を利用して受け止めるライザー、体のすべての力を利用してもなお、その勢いは衰えることはない。

 

「負けるかぁぁぁ!!!」

 

その叫びに呼応するように背中から、先ほどの何倍もの炎が背中に灯る。

巨大な羽となった炎はライザーの力そのものを表す。

ファイズも全神経を拳一点に集中させる。

フォトンブラット以上に込められた負けられない思いが、リアスの夢を守るという自分の意思が巧の背中を押す。

 

 

二人の突撃はエネルギーの衝突による、爆発で終わる。

爆発により生じた威力と風圧が二人の体を引き剥がし、その場から吹き飛ばす。

互いに20メートル以上は離れていた壁に叩きつけられ、呼吸が乱れる。

 

「ハァ…ハァ…」

 

「…はぁ…はぁ…!!」

 

呼吸を整え、足に力を込めて、左足を前に出す。

ひと飛び35メートルのファイズは飛ぶ方向を真上ではなく、正面を突き破る様にして、飛び出す。

ライザーもファイズが飛び出すのと同時に体を前に出す。

炎の羽がなくとも、体がファイズに向かう。

 

「ぐふぅ!!」

 

最初に入ったファイズの拳はライザーの胸を貫く。

拳の勢いはライザーが今まで喰らったどんな攻撃よりも重い。

魔力もフォトンブラットも何もない筈の物理攻撃。

対してライザーが放ったのは自分の体の一部でもあり、魔力で作り出した炎を纏う拳。

炎の拳はフルメタルラングに凹みを加える。

それは以前、凹みを入れたダウンフォールオルフェノクの物より、さらに深い。

 

左手でライザーの肩を掴み、右手で一発、逃げる間を与えぬように二発と乱打を打ち込む。

 

「らぁ!!」

 

気合いを入れ、放った拳はライザーの顔に深く突き刺さり、その体をふわりと浮遊させ、地面に倒す。

大の字に地面に倒れ、殴られ、怪我をした部分は再生の炎が灯る。

けれど…先ほどとは再生にかかる時間も炎の量も圧倒的に違う。

 

「俺が倒れるか、貴様が力尽きるか。一体どっちが早いんだろうな…?」

 

「知るかよ…っ!!」

 

立ち上がったライザーは至近距離で、炎の弾丸をファイズの腹部に打ち込む。

思わぬ攻撃に、体は後ろに後退し、その場で膝をつく。

 

「ハァ…ハァ」

 

ここで巧は自分の疲労を認識した。

これまでの戦闘では巧は大したダメージを負ってこなかったが、その疲れは明らかだった。レーティングゲームが終わってからもまともに体を休める事をしてなかったのだから。

けれど…負けるわけにもいかない。

リアスの夢の為に、そして巧自身の誓いのため。

 

「まだ立つか…だがっ!!」

 

体を起こすファイズにライザーは褒め称えるような、言葉を送るも束の間。

立ち上がった瞬間を狙い、足を水平に蹴り出す。

自分の視界にライザーの蹴りが迫っている事を気づき、肘を立て、その蹴りを受け止める。

体に伝わる振動がその蹴りの重みを知らせる。

ファイズは蹴りを受け止めた肘を大きく降るい、ライザーの蹴りを吹き飛ばす。

思わぬ防御に体はバランスを崩し、後ろに重心が向かう。

 

「はぁ!」

 

「ぐふぅ!!」

 

ライザーの鳩尾を襲う、膝蹴り。

あまりのラフファイトに一瞬、意識が遠のくがなんとか止まり、ファイズにフックパンチを放つ。

腰を屈め、水平移動しながら避け、隙だらけの腹部に移動しながらの横蹴りでカウンター。

横倒しがうまく入り、10メートルほど飛ばされる。

腰のホルダーに手をかけ、ファイズポインターの側面の窪みにミッションメモリーを差し込む。

 

『Ready』

 

いつも通りの音声が聞こえ、右足にセット。

ファイズフォンを開き、Enterキーを押す。

いつも通りの姿勢でフォトンブラットの充填を待つ。

 

 

『Exceed Charge』

 

フォトンブラットが右足のファイズポインターに充填されて、左足から前に出し、その場から駆け抜ける。

5メートル程進んだ場所で勢いよく踏み切り、跳躍。

空中での一回転をして、右足を前に突き出す。

ファイズポインターからは赤いポインティングマーカーがライザーの体を突き刺す。

一瞬にして円錐状の形に展開する。

この瞬間、ライザーは思わぬ笑みをこぼす。

狂ったからではない。自分をここまで追い詰め、そして勝利した男に向けての礼だった。

 

ーー今更になって…お前に俺が負ける理由が分かるなんてな…。

 

 

ーー己の為だけの拳よりも、自分とそれ以外の何かを背負う者の拳はそれ以上に重い。

 

 

「お前の…勝ち…だ」

 

「やぁぁぁ!!!!!」

 

ファイズのクリムゾンスマッシュは、リアスの夢に巻きつく呪いを焼き尽くし、ライザーを貫いた。

 

『ライザー様、戦闘不能。 この勝負、兵藤一誠様の勝利となります』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兵藤一誠くん、ありがとう。 さて、報酬は何が良いかな? 絶世の美女かい、爵位、お金どれかな?」

 

この勝負を提案した男…リアスの兄、サーゼクス・ルシファーは笑みを浮かべながら、戦闘フィールドから転移された巧に尋ねた。

この時、自分の近くにライザーがいない事に気づき、少し周りを見渡す。

 

「ライザーなら心配は無い。 フェニックス家の男はあれくらいで死にはしないさ。兵藤一誠君、息子に挫折を与えてくれた事を感謝する。

君のおかけでライザーはまた一つ大きくなってくれる」

 

ライザーよりも年齢はあるが、それでも兄か父親の区別がつかなかった巧は不器用ながらの会釈で対応し、一人の女性の元に向かう。

上級悪魔達をかき分け…今回の主役でもある花嫁の元へ。

 

「巧さん…」

 

人前だというのに自分の本名を口にするリアス。

今はそれを咎める理由はない、巧は何も言わずにそっと右手を差し出す。

差し出された右手を左手を伸ばす事で掴む。

二人は何も言わずに…この会場から出て行こうとするが…。

 

 

多くの上級悪魔。

この場にいる一部の男性が道を阻む。

リアスの兄であるサーゼクスは魔王として有名で、リアス自身もその美貌と才能により、冥界では名が知れ渡っていた。

そんなリアスが有望視されていたライザーとの婚約をする事を聞いて涙を飲んだ男性悪魔は少なからず存在していた。

実力ではライザーに勝てないため、婚約者に名乗りをあげる事を半ば諦めかけていたが、いきなり現れたリアスの兵士である巧がライザーを倒した事で、新たな婚約者に名乗りをあげようとする者がこの場にいた。

 

 

そしてまた、婚約者狙いでは無いが貴族ーー純血の血を重んじる者もいる。この婚約を破談にする事をよく思わない者もいた。

この場には第二、第三のライザーになりうる者が多くいた。そして彼らは巧に目を向け、言葉をぶつけようと口を開こうとするが…。

 

 

 

 

 

「退け、俺の歩く道だ」

 

 

 

 

言うなれば王の一言。

たった一言でこの二人がこのまま去る事を許さぬ者の敵意は消え去った。

道を阻んでいた者たちは無意識のうちにその場から退いていた。

巧は、ようやく道が空き貴族のトンネルを抜け、パーティ会場の出入り口に向けて歩く。

 

 

 

「お疲れ様、イッセー君」

 

出入り口では祐斗が開口一番に巧に告げる。

その隣には小猫や朱乃やアーシア、グレモリー眷属だけでなく、ソーナやレイヴェルらが二人を待っていた。

その傍にはオートバジンが主人の帰りを今か今かと待ちわびているように見えた。

 

「…バジン君を使って、これで帰ってください」

 

小猫が巧に渡したのは行きに使った魔法陣入りの紙。

それを受け取り、巧はオートバジンに跨る。

リアスもその後ろから二人乗りをしようとするが…。

 

「流石にその服では難しいですわね」

 

朱乃に止められ、魔力で形作ったいつもの制服に一瞬で着替えを行う。

準備も済み、ようやくと言わんばかりに勢い良く巧の腰に手を回し、二人乗りを行う。

するとソーナが一言。

 

「兵藤君…免許は持ってるのですか?」

 

ここに来て最大の問題を提起され、何も答えぬまま、逃げるようにしてオートバジンは発進する。

アクセルを踏み込む前にリアスは…。

 

「ごめんなさいアーシア。私も彼を好きになって…」

 

何かを言い切ると巧の腰に入る力がより一層強くなる。

何も聞かずにそのまま走り続ける巧。

その言葉がアクセルの音で掻き消されていたのかは誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前なぁ…」

 

呆れたような声を出す巧の視線の先には、兵藤夫妻に頭を下げ、ホームステイの依頼をするリアスが居た。

壁に寄りかかる巧の隣には頬を膨らませているアーシア。

 

「任せなさいっ!」

 

「ええっ! こんな可愛い子が私の息子を好きなわけがない!と以前なら言えたけど…今なら嬉しいかぎりね!」

 

家の家主でもある兵藤夫妻はあっさりとOKを出してしまい、巧の望まぬところでリアスは兵藤家のホームステイが決定した。

 

 

 

「ねぇ、イッセー今から私買い物に行きたいの、バジンに乗って二人で行きましょう?」

 

「わ、私も同じです! イッセーさん、わ、私もバジン君に乗っていきたいです!」

 

 

休日の昼間から二人に迫られ、巧は面倒そうにあしらう。

普通の男子高校生から見れば血の涙を流すような光景だ。

 

「普段はあいつ使うなって言ったのはお前だろ。それになんで俺がそんなことしなきゃならないんだよ」

 

今日も今日とて兵藤一誠こと乾巧の日々は続いていく。

そして新たなる不穏な影は確実に迫りつつあった…。

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく…実験の完成ね。でもまだ改良の余地はありそうね」

 

とある場所、とある時間。

何かの実験室のような場所で、一人の女は艶かしい笑顔を見せる。

彼女の足には数人の男たちが縋り付いていた。

 

「俺に、俺にもう一度”ーーー”の力をくれ!!」

 

「あの力は…俺の物だぁ!!!」

 

複数の男たちは立ち上がり、何かを求めるように手を伸ばす。そこから赤い光が発生するが…。

女性の隣にいた青年が手に持ったベルトを腰に巻きつける。

狂った様に、おもちゃを手にした子供の様に笑みを浮かべていた。

 

「変、身ッ!」

 

『Stundying By』『Complete』

 

青年の姿が変わり…数秒の間に男たちは赤い炎と共に灰と化していた。




というわけで2巻も終わりました!

今回は第7話の夢の守り人からの名ゼリフとパラダイスロストからのセリフを引用しました。

個人的には、俺は冷奴食う、絶対にな!とか鍋焼きうどんは猫舌の天敵なんだぞ!も使いたいなぁ。

そして、ライダーはファイズだけではありません!!
誰がメイン装着者になることやら…。

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