ハイスクールFaiz〜赤い閃光の救世主〜   作:シグナル!

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意味の無い死など無い

「この戦い…見届けよう」

 

相棒のゼノヴィアからの提案に間を開ける事なく、頷いて肯定の意を示すイリナ。

彼女も突然変わった自分の幼なじみを見定めたくなった。

一誠が何故悪魔になったのか、その理由を知らずしてイリナは一誠を敵と定める事は出来なかった。

 

もし仮に彼が望んでそうなった訳ではなかったのなら…。

何かの理由で悪魔になったのだとすれば、それを知らずに一誠を拒絶するのは決して飲み込んではならない。否、飲む込まないと心に決めて、イリナもまた相棒のゼノヴィアに並び立つようにして巧と祐斗の後をついていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ…いいね」

「ああ」

 

旧校舎を出てすぐに広がる芝生。

西部劇に出てくるガンマンの決闘のようにして、なおかつ侍同士の斬り合いを連想させる殺伐とした空気を祐斗と巧を中心に醸し出していた。

 

「あの二人ったら…もう」

「ですが、今の祐斗君にはイッセー君のようなやり方でしか止められないかもしれません…部長」

「なんでこんな事に…?」

「祐斗先輩も…意外と男子っぽい」

 

リアスは右手で頭を抱え、嘆息をする。

朱乃は二人の男子らしさを見て、納得したような顔をする。

アーシアは先程までは自分の所為で決闘が起こりそうになったが、その行き先は逆方向に向かい首を傾げる。

ちなみに小猫は片手で袋から新しい煎餅をとりだして、口に入れる。

 

そして渦中の二人はーー

 

「いいのかい?変身しなくて」

「ああ、今のお前に必要ないね」

「そうか…なら、後悔するよっ!!」

 

巧の言葉に額に青筋を立てつつも、それらを押し止めて、なんとか自分を律する。

 

ーー落ち着け…いくら変身してなくても、彼を倒すには冷静さが必要なんだ

 

巧と自分の戦力を鑑みても、自分が勝てる可能性は五分以下とみて十分。それが祐斗の下した判断だった。

エレファントオルフェノク、ダウンフォールオルフェノク、そしてライザー・フェニックスとの激闘を全て乗り越えて来た巧。

そんな巧を前にしても、祐斗は勝つ可能性を模索し、突くべき隙を探し続ける。

自分は正攻法で勝てないのならば、奇策でしか勝つ術はない、そう決めて。

 

「おい…もう、始めようぜ」

 

決闘の始まりを急かすように又は、祐斗の動きに対応すべきか、巧は腰を低くして、”待つ姿勢”を取った。

それは祐斗にとっては、先手を譲られたと言っても過言ではなかった。

 

剣を持つ祐斗と素手の巧。

普通ならば間合いや攻撃力では祐斗が勝る。そう判断される状況だ。

しかし、乾巧という男はそんな普遍的な男ではない。

ファイズという鎧を纏い、武器を持ったオルフェノクに素手で挑む事も幾度かあった。

その際には時折、”待つ姿勢”を取って、カウンターを狙う。

 

ーーふざけるな…ッッ!! 君は、僕をバカにしてるのか!

 

けれども今の巧の行動に祐斗は自分の感情の蓋を剥ぎ取り、それらを表に引きずり出した。

祐斗にしてみれば決闘の場において先手を譲られたのは自分を下に見てる、と言われたのと同義だった。

 

「ふざけるなぁぁぁッッ!!」

 

咆哮。

片手に持つ魔剣は煌びやかな輝きから、妖しい光へ。

騎士の特質である圧倒的スピードを現時点で引き出せる最高速度で巧に向けて、真正面から突貫。

打ち出された感情は祐斗の体と同調し、彼の体を弾丸へと変貌させた。

 

真正面からの突貫に対しても巧は動じる事なく、ただひたすら”待った”。

祐斗の突貫から自分への接触までが永遠に感じられる程に。そして、巧はそこから”動いた”。

 

「らぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

「祐斗っ!!」

 

リアスは今までに聞いた事のない、獣のような咆哮を見せた祐斗の様子に思わず、決闘に口を出してしまいそうになる。祐斗がリアスに見せたのは最高速の速さ。

自分が見た事のない速さで、巧に突貫していく。

その姿はまるで終わりを知って、撃ち抜く事のできない鉄の壁に向けて発砲された弾丸の様に儚い。

 

ーーパキキィィィィ

 

まるで金属が折れた様な金属音。

ただ折れたのではなく、純粋な力でへし折られた様な悲しい響き。

祐斗と巧の接触、そこから連想されるどちらかがどちらかを傷つける風景。リアスにとってはそれが何よりも辛かった。

 

巧がファイズに変身しないと言った時は心中で胸騒ぎがしたが、巧ならば祐斗を無力化出来ると信じ、この場は見守ると決めたリアスだった。けれど、裕斗の咆哮と目に宿る狂気は本物だった。

 

あんな目をして、祐斗が仲間を斬る…。

その風景から逃げる様にして、目を閉じていた。

どうやら隣にいたアーシアも同様で、目を閉じたまま自身の腕を掴んでいた。

 

「部長…あれを!」

 

隣の朱乃に急かされ、思わず目を開ける。

 

 

「うぐ…ッ!!」

 

リアスの目には地面に蹲り、砕けた魔剣を苦々しそうに見つめる祐斗。先ほどの場所から全く動いておらず、リアスが最後に見た時と同じ姿勢の巧だった。

 

 

 

 

 

「イッセー君、凄い」

「ああ、君の幼なじみは…バケモノだな」

 

軒並みな感想を漏らすイリナの隣でゼノヴィアは巧をバケモノと表現した。

騎士として現時点で引き出せる最高速度を引き出した祐斗をただの蹴りの一発で沈めた巧をどう表現すべきか迷ったからだった。

こんなところで少しは教養をつけるべきか、などと考えるゼノヴィアだったが、先ほどの光景がフラッシュバックする。

 

 

 

巧は目にも映らぬ速さ、を実感した事がある。

ファイズの強化フォームであるアクセルフォームの高速移動に加えて、巧本来の姿でもあるウルフオルフェノクはアクセルフォームには劣るがスピードに長けた力を持つ。そんな巧にとって祐斗の動きを見切るのは容易ではないが、困難でもなかった。

尚且つ、今の祐斗は策の一つも持たずにただ真っ直ぐに向かって来るだけ。そんな相手に自分から動く事なく、間合いを見計らい、祐斗が自分との間合いを確認し、剣を振りおろす瞬間を完璧に、ここしかないタイミングで蹴りを撃ち込んだ。

 

祐斗は迫り来る巧の蹴りをいなす事も、躱すこともできなかった。

それを行うにはあまりにも自分は加速しすぎた。

僅かばかりの対応として、攻撃の為の剣を巧の蹴りを防ぐ為の盾に利用したが、自分の速さと巧本来の蹴りに威力が加算された巧の蹴りは祐斗の魔剣を紙のように散らせ、祐斗の体に深々と突き刺さった。

 

 

 

 

 

「兵藤一誠、いいものを見せてもらったよ。それでは、私達はここで」

 

ゼノヴィアは二人の対決を見終わると肩に聖剣を掛けて、その場を立ち去ろうとする。

隣のイリナは未だに巧の強さに惚けていた。

 

「ちょっと待って。 一つだけ聞かせて、今回の聖剣事件の首謀者は誰なの?」

「コカビエル。神の子を見張る者の幹部」

 

それだけ答え、ゼノヴィアはイリナの肩を引っ張りながら、最後に祐斗を一瞬だけ瞳に捉え、その場を後にした。

 

「くそっ…!! 僕はまたっっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「何を言ってるの、祐斗!!」

 

ゼノヴィアとイリナが去ってから、オカルト研究部室にまたもやリアスの声が轟く。

何故なら…。

 

「僕は行かなければならないんです。 聖剣を破壊する為に、そしてみんなの無念を果たす為にも」

 

祐斗はゼノヴィアとイリナからの不介入を忠告されてから一時間も経っていないのに、それを破ろうとした。そして自分がグレモリー眷属から外れるように提案した。

 

今度ばかりは黙っていられないと朱乃も言葉は出さないが、反対の意を顔に滲ませる。

けれども祐斗は止まることなく、そのまま部室を後にしようと歩き出す。

そこからは表情が抜け落ち、能面のように造られた顔になってしまったのかと小猫は下から祐斗の顔を覗き見て、背中に冷たい汗を感じた。

 

ドアノブに手を掛け、部室を出て行こうとする祐斗に巧が一言、声を掛けた。

 

「お前さ、それでこいつらが喜ぶと思ってんのか?偶にいるんだよなぁ、そういう馬鹿が」

 

巧が祐斗に掛けたのはまたしても、怒りを煽るような言葉。

二度目の態度に、思わずてを伸ばす。

胸倉を掴みあげ、自分と同じ位の身長の巧を勢いよく壁に叩きつける。

二人の距離が一気に近くなり、目に宿る怒りの炎が巧には酷く儚く見えていた。

 

「それじゃ、僕は一体どうすればいいんだ!!聖剣計画の生き残りは僕だけ…ならば、この命を捧げても聖剣を全て破壊すること以外、何も出来ないんだ!」

「そうかもな。お前がやることに俺は口出ししないし、したくもないね。でもな、残されたこいつらはどうなんだ?今のお前が抱えてるもんと同じ物を胸の中に抱えちまう」

 

巧が示したのは、祐斗の後ろにいて、その背中を…いつ壊れてもおかしくない姿を捉え、この場に留まって欲しいと願うリアス達だった。

 

「それでも…ッッ! 僕は…ッッ!」

 

リアス達の姿を見ても、その気持ちを変える事のない祐斗を見て、巧は拳を祐斗の頬に撃ち込む。

衝撃から地面に倒れる祐斗に、巧はいつの間にか、乾巧として接している事に無意識の内である為に気が付かない。

 

「お前の行動が、お前を助けようとした奴らの死を…無意味にしているんじゃねえのかよ」

「君に…何が分かるっ!! 平穏で家族がいて、友達がいる、そんな…普通の生活をしてきた君に僕の何が!!」

「知るかよ。 俺はな、お前じゃねえんだ。だから、お前の過去について理解出来るなんて、これっぽっちも思っちゃいない。でもな、これだけは分かる。意味なく…死んでいった奴は一人もいないってな」

 

祐斗は声が出なかった。

巧の目が全てを語っていた。多くの死を見てきた事を、そして多くの仲間を失ってきた事を、それら全てをその目が物語っていた事を理解してしまった。

 

「君は一体…何者なんだ?」

「さぁな…一応は、リアスの下僕、みたいだな」

 

祐斗の視線を奪っていた巧の目は、先ほどの何もかもを見通すような目から一転して、いつもの気だるそうな、不機嫌さを露わにする目となっていた。

その変貌に自分は何か幻覚を見ていたのか、などと心中で考えながらも、地面から立ち上がる。

 

ーー君のあの目は…この前まで、普通の男子高校生をしていた人の目じゃない。ファイズである事が…君の何かを変えたのだろうか?

 

巧の正体にリアス以外の者が初めて、触れた瞬間であった事にリアスは勿論、巧も気がつく事はなかった。

祐斗は先程までと比べて落ち着いた様子を見せたが、それでも部屋を出る事を止めはしなかった。そのまま単独行動を開始し、リアス達も今日はここで解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセー、お前を男と見込んで頼みがある!」

「やだね。なんで俺がそんな事しなきゃならないんだよ」

「返答が早すぎるぞ! せめて内容を聞いてからにしろ!」

 

一日が経ったが、日常はこうして回り続ける。

今朝から、巧は松田と元浜の二人に絡まれ、自らの防衛反応に従って、二人の頼みを要件を聞く前に却下した。

 

流石にこれには二人も怒り、せめて内容だけでもっ!と頭を下げる為に一応は話を聞く事になった。

 

「お前、女子の下着を盗むヌベラっっ!!」

 

前半を聞いて、聞く事を拒否した巧は机の中にある教科書の角で松田の頭を真っ直ぐに叩く。

獅子脅しを喰らったように頭の痛みにのたうち回り、地面を転がる。

 

「いったぁぁぁ!!何すんだよ!!」

 

オルフェノクであり、悪魔でもある巧の腕力を持って、放たれた一撃は人間の身体にはかなりのダメージとなった。

1パーセントの慈悲をくれる事もなく、のたうち回る松田を元浜が笑いながら見ている際にも、反対側を向き、時折視線を向ける程度しかしなかった。

 

「ん?」

 

先程から、巧の視界の端にちょこちょこと何が映る。

最初は気にならなかったが、好奇心を止められず、思わず目で追うと…教室のドアから小さい体の小猫が手招きをしていた。

巧の机はドアから離れているために小猫が口を動かしても声が届く事はないが、このタイミングからして…目的は祐斗に関する事であるのは明白だった。

 

「おい、どこに行くんだよイッセー?」

「…ちょっと用ができた。すぐに戻る」

 

いつになく真剣な表情の巧に松田や元浜もそれ以上は問いただせずに教室を出ようとする巧の背中を見送る事しか出来なかった。

 

 

 

「それで…なんの真似だ」

「イッセー先輩…私と祐斗先輩と一緒に教会の人に共同戦線を持ちかけましょう」

 

小猫が密会に選んだのは、まさに人通りの少ない校舎裏。

そこで小猫は巧に提案を持ちかけた。

勿論、小猫は巧が二つ言葉で承諾してくれるとは考えていなかっが、断るとも考えていなかった。

 

仲間の危機に駆けつける、絶対に誰も死なせない。

それが小猫から見た、巧の印象であり、願望だった。

堕天使に囚われたアーシアを救い出し、ほぼ絶望的だったリアスの夢を守り抜いた巧ならば、きっと祐斗の事を救ってくれると、そう信じていた。

 

しかし、巧の返答は小猫の期待を粉々に砕いた。

 

「やだね。そもそも、俺たちはあいつらに関わるなって言われたんだぞ。その意味分かってんのか?」

 

返答を聞いた小猫の目は丸くなっていた。

 

ーーそんな事ない、あの人は…イッセー先輩は、お姉さまと違う!!

 

『意味なく…死んでいった奴は一人もいないってな』

 

あの時、小猫は巧の背中がとても大きく思えた。

だからこそ、信じたいと思った。

何処か”姉”に似ている巧をーー

 

「もうっ…いいです。 イッセー先輩がそんな人なんて…最低です」

 

小猫は巧に向けて言葉を吐き捨てその場を去った。一人残された巧はファイズフォンを取り出し、時間を確認。

今の時間は一時間目がとっくに開始されている時間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁやぁ、悪魔くん。 今日も俺の夜釣りに付き合ってもらうよ」

 

深夜零時を回った頃。

巧はいつも通り、悪魔の召喚に応え、最近ではお得意様となりつつある、謎の雰囲気を持つ男性に夜釣りのお供を頼まれた。

 

「勿論、こっちからのお願いだからな、釣竿や餌なら用意してある」

 

男性が呼び出したのは、いつもの自宅ではなく、駒王町にある堤防だった。

いつもの和服で釣りに臨むその姿に、ブレない男と感じながら、用意された釣りセットを手に取る。

隣の男性が器用に釣竿を操り、浮きと釣り針を遠くまで飛ばす様子を見て、あれを自分にはできないと判断し、そのまま糸を海に沈める形で釣りは開始となった。

 

「今日はまた、一段と不機嫌そうな顔じゃないか。何かあったのか?」

「いや…別に何も」

 

目の前の男性に話してもしょうがない事なので、口を閉じようと決めていたが、突き刺さる視線。

どうやら男性は話を聞きたくてしょうがないようであった。

 

「かつて自分を助けようとして多くの仲間を失った奴がいて。そいつは今、復讐に目が眩みそうになりかけてる。かつて俺の仲間にも似た奴が居たんだ。もう御免だ…誰かが犠牲になるのは」

 

関係のない人間にだからこそ、話せる事もある。

巧は自分の今の悩みを隣で釣りに勤しむ男性に打ち明け、この疑問から抜け出す道を教えてもらいたかった。

 

「なら…復讐をさせちまえばいいのさ。 無理に止めようとするのは悪手。復讐を終えた後は案外スッキリするもんだろうよ。自分の抱えてる嫌な荷物が無くなるんだからな。もし仮に犠牲になりそうになってんのなら…そいつは悪魔くんが止めてやればいいんだろうよ」

「そうっ…すか」

 

隣の男性の答えに、型崩れした敬語で返答し。

巧は自分の竿に反応がない事を確認し…魚が食いつくのを待ちわびた。

 

 

 

 

 

 

「あれがアザゼルの言っていた面白い男か」

 

 




というわけで、たっくんは木場きゅんよりも強かったんです。
はぁ、そろそろ書き溜めも尽きる…。
それよりもお気に入りと評価の高さに驚く今日この頃。

最後に出て来たのは何龍皇なんでしょうねぇ?

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