ハイスクールFaiz〜赤い閃光の救世主〜   作:シグナル!

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長かったです。

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届く想い

「イッセー!!」

 

 リアスは、目の前で起きた爆発の中心にいる少年の名を叫んだ。周囲にいたメンバーは、叫びこそしないが言葉を失う。爆発から数秒が経った頃、爆発の煙の中からベルトと少年ーー巧が吹き飛んで来る。

 

「うっ!」

 

 地面に叩きつけられ、痛みが現れているのが表情からも伺える。そんな彼から少し離れた所に、ファイズドライバーとファイズフォンが転がっている。あの爆発の際にベルトが外れて、変身が解除してしまい、巧の体は生身の状態に戻ってしまった。リアスやアーシアは、巧にすぐさま近寄る。

 

「イッセー!大丈夫?」

「すぐに治しますから!!」

「いや、いい。…それよりも、アイツは」

 

 アイツ。巧の視線の先に居たのは、翼を広げたコカビエル。しかし、その様子は巧とは異なる。多少の傷と服の乱れだけが見受けられただけだった。

 

 それは、つまり。

 

 巧の不意打ちは、失敗に終わったのだ。

 

「気落ちするな、ファイズよ。あの女から聞いた以上だ。何百年振りだよ。この俺が、肝を冷やしたのは。貴様の攻撃を受けた瞬間、戦争を思い出した。…そうだ、これこそが俺の求めているものだッ!闘争、殺戮…その果てにある勝利。あぁ…心地がいいぞ。お前なら、俺を満たしてくれるかもなぁ、ファイズ」

 

 目の前の戦いを、純粋にーー心底楽しんでいた。この男は、殺しに魅了されたのではなく、闘争。自分の全てをぶつけ、そして勝利する。その心地よさに魅了された堕天使。

 

 

 それが、コカビエル。

 

 過去の大戦で、魔王や神との戦いを生き残った存在。

 

 そんな存在を前に、巧は尚も立ち上がる。

 

「さぁな。お前の気持ち悪い戦闘趣味に付き合うつもりはないね」

「…ふっ。聞いていた通りの男だ」

 

 もはや威圧感すら感じられるコカビエルの視線に、アーシアは崩れ落ちそうになるが、それでも隣の巧を支えんとし…共に、コカビエルをしっかりとその目で捉える。

 否、その場に居る者が、巧同様にコカビエルを睨みつける。勿論、絶対に止めるという決意の篭る瞳だ。

 

「面白い。魔王の妹たちよ、そしてその眷属共!!そんな目をして居るならば、俺を止めてみろ!戦場に来ることができたならば!」

 

 そう言い残して、コカビエルは姿を消した。その瞬間、紫と青の入り混じった様な色だった空は、オレンジ色の空へ。奇妙な空間から、本当の駒王町に戻った事を示す。

 

「リアス。…私たちも早く学園に」

「そうね。みんな、魔法陣で…って、どうしたのイッセー」

 

 ソーナとリアスが、その場に居る全員を集めて、魔法陣での移動を試みようとしたが、巧はその声を無視した。一人、公園の森林方向に視線を向ける。その表情は、嫌な予感が当たってしまった、といった表情。

 

 巧は、コカビエルの言葉を思い出して、周囲を警戒した。そして、気付いた。リアスやソーナは、コカビエルの襲来と学園…いや、街の危機に少し集中を欠き、気付かなかった。

 

 

 自分達の周囲を覆う程の何かの気配を。

 

 

「会長!!」

 

 匙は、それを目の前にして、思わずソーナの名前を呼ぶ。振り向いたソーナ、いやその場にいた全員ーー巧を除いたーーが驚愕。

 

 

 その視線の先には、自身たちに迫り来る何十体ものオルフェノク。

 

「……」

 

 リアスから話を聞いていたソーナは、その迫力と誤魔化しの効かない存在感に息を飲む。その場に居た全員が、一瞬気圧されるものの、次の瞬間にはスイッチを切り替えーー戦闘態勢に。

 

 けれど、そんな皆を巧は止めた。

 

「お前らは、先に行け」

 

 それは、この街に向かうかもしれない50体以上のオルフェノクを自分が引き受ける、という言葉だ。

 

「ダメよ、一人じゃ危険すぎる」

「それじゃ、アイツの思うツボじゃねぇのかよ」

 

 ここでリアスは巧の真意に気づく。

 

 このオルフェノクが、自分たち…ひいては、街に向かう可能性を考えれば、ここで食い止めるのは必須。けれど、彼らに時間と人員は割けない。

 

 だからこそ、自分が一人で残り、他のメンバーを学園に行かせる。それでもコカビエル相手にどこまで通用するかは、分からない。

 

「分かったわ。…なら、イッセー。絶対に帰ってきていいわね」

「あぁ」

 

 リアスの言葉に、短いけれど力強く、確かに巧は答えた。隣にいたアーシアは、そっとファイズドライバーとファイズフォンを差し出す。

 いつもと変わらない優しい笑顔で。

 

「イッセーさん、先に待ってます」

 

 小さくうなづいて、アーシアから受け取ったドライバーを腰に勢いよく巻きつけて、ファイズフォンを開く。いつもの様にコードを入力。

 

『Standying By』

 

「変身ッ!」

 

『Complete』

 

 すぐさまファイズへ変身を完了させて、リアスとソーナに目線を向ける。ソーナを中心に、メンバーが集まり移動用の魔法陣を展開させる。 一瞬のうちに彼らは学園へと向かう。

 後は、自分の役目だ。ここで、街へ向かうであろうオルフェノクを倒す。

「ふぅ…」

 

 仮面の下で、一呼吸。ここからは、自分がいかに早くこの敵らを倒し、彼らに合流出来るかだ。

 

 

 今、自分のやるべき事を、しっかりと確認してからファイズはいつも通りに右手をスナップをさせる。カシャという音と共にファイズは勢いよく、オルフェノクの群れに突貫していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「リアス…」

 

 ソーナは、目の前で俯く友人にどんな言葉を掛けれはいいのか分からずにいた。

 オルフェノク。ソーナは、その存在をリアスから話だけは聞いていた。けれども、その存在は何処か空想上の生き物について語られている気でいた。

 たった数分前に目撃した存在は、ソーナの認識を根底から変えていた。目の前に現れた存在の放つプレッシャーは、悪魔の持つ魔力といったものとは異なる。それでも、気圧されてしまった。

 そんな敵の集団に、たった一人で立ち向かおうとした巧にも負けないくらいに驚愕はしていたが。

 

「…ふぅ。ごめんなさい、ソーナ。それで、学園の状況は?」

 

 下を俯いていたリアスも何とか心の整理をつけたのか、覚悟を決めた顔つきで、ソーナに訊ねる。そんな親友の様子を見て、一安心してから伝えるべき情報を言葉にした。

 

「紫藤イリナさんの保護を確認した後に、コカビエルの存在を感知した使い魔からの情報で、私の下僕が学園に結界を張りました。しかし、あのコカビエルになると被害は免れません。…堪え難い事ですが」

 

 どうしようもない事実に、唇を噛み締めるソーナ。

 彼女は悔しかった。自分の愛する学園を戦場にしてしまった事が。そんなソーナの心境を慮り、リアスも掛ける言葉を探す。

 

「ソーナ。……悔しいけれど、お兄様に…いえ、魔王サーゼクス様に頼りましょう」

「……っ!?分かりました。私からもお願いします。サーゼクス様なら、私の所より話がはやいでしょうから」

 

 リアスの提案に一瞬の驚きを見せるものの、その判断を肯定。ソーナも同様の考えを示した。リアスは朱乃に視線を向ける。朱乃もまた王の考えを受け止め、その場を離れる。

 

「リアス、これからは私は学園を覆う結界を張る方に回ります」

「ええ。分かってるわ…私達が時間を稼ぐ」

 

 親友二人は、それ以上の言葉を交わさずにお互いに背を向けるように歩き出す。

 

 言葉にせずとも分かっていた。お互いが何をすべきなのかを。

 

 

 

 

 

 

「朱乃、魔王様への連絡は?」

「繋がりました。魔王様の部隊は1時間で到着されるようです」

 

 1時間。それは、今の状況を鑑みればあまりにも辛く、長い。こっちの戦力は、回復役であるアーシアを除いて3人。それも騎士の祐斗とーー最大の希望の巧を欠いている。それでも、祐斗も巧も、死んだ訳ではない。そう、まだ希望は消えてない。

 

「…小猫、どうしたの?」

 

 コカビエルが待ち構えている校舎に向かおうとするリアスの目に、小猫が映り込んだ。

 緊張と不安の入り混じった表情を浮かべていた。

 

「私…イッセー先輩に、酷い事を言ってしまいました。…結局、謝れませんでした。それなのに、また先輩に頼って…」

「…私もよ。私も王なのに、イッセーに頼ってしまった。困らせてしまった。だから、謝りましょう。この戦いを生き残って」

 

 小猫を、後ろから抱きしめる。口にした言葉は、小猫にもそしてリアス自身にも向けられてるのかもしれない。そんな事を思いながら、リアスの指は小猫の白く柔らかな髪をゆっくりと撫でる。

 

「さぁ、行きましょう。私達の学園を守るために!」

 

 4人の少女は並び立ち、校庭へと向かっていく。

 この学園を、そしてこの街に住まう人々を守り抜く為にーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら、負け戦に本気になっちゃって」

 

 フリード・セルゼンは、目の前の光景を静かに嗤った。駒王学園の校庭の中心部分には、彼ともう一人の男性ーーバルパー・ガリレイが居た。彼らの足元からは、眩しい光が発光。

 

 強い光の元に4本の聖剣ーーエクスカリバーが並び立ち、その時を待っていた。

 

「もう少しだ。もう少しで私の悲願は達成される」

 

 そう言ったバルパーの瞳には、純粋に夢を追う者の光がある。…その為に多くの命を犠牲にした事を抜きに考えれば、この男は夢に、理想に生きた男なのかもしれない。

 

 いや、この男は夢に呪われてしまったのだ。

 悪魔を滅する正義の剣ーー聖剣を、自分は使えない。それならば、使える者を生み出そう。その為に、多くの命を犠牲にした。

 

 夢に呪われた男の隣で、冷めた目で戦場を見つめる。

 

「あらあら、お仲間が二人も増えたみたいざんすね。…っ。また、出てきやがった」

 

 空高い場所に浮かんだ玉座に座したコカビエルの放った地獄の番犬ーーケルベロスと戦うリアス達。当初は、四人だったがいつのまにか、二人増えていた。

 フリードは、合流した一人ーーゼノヴィアを視界に捉えた瞬間に、この数日間で何度目かの頭痛に襲われる。膝から崩れ落ちそうになるも何とかその場で耐える。

 

「あのビッチがそんなに大切ですかい」

 

 ーー黙れ…。お前は、消えろ

 

 頭の中に響く、もう一人の声。いや、この体の本当の人格の声。

 

「ほぉ、まだ抵抗する気力があるか。あれから薬を投与したが、余程あの娘…ゼノヴィアとやらが大切らしい」

 

 その隣にいたバルパーは、感心した様な声こそ出すがその目に優しさはない。

 

「へぇ…。そんじゃ、あの聖剣のお嬢さんを斬り殺したら、コイツもいい加減にしてくれちゃうでございますか?」

 

 愉悦に満ちた笑みを浮かべるフリードの背後から、より一層の強い光が。その意味を理解するバルパーは、大きく笑った。

 

「完成だっ!!4本のエクスカリバーは、今、一つになったッ!!行け、フリード。あの小娘を殺し、お前がその体を手にしろっ!」

 

 バルパーの残酷な指令に、フリードは彼に負けない歪んだ笑顔で応じる。

 

「はいヨォ〜。バルパーのおじさん」

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁ!!!!」

 

 気合いと共に、ゼノヴィアは破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)を振り下ろす。

 文字通りの破壊力を見せつけて、ゼノヴィアの目の前にいたケルベロスの一体は、胴体を切り裂かれて絶命。

 

 彼女は、コカビエルに襲撃された際に何とか難を逃れ、街の外れにいた。けれど、駒王学園を中心に流れる不穏なオーラを感じて、その場に向かって、リアス達との共闘を決めた。神の信徒として、なんて言ってる場合ではなかった。目の前の敵を倒す為ならば、と覚悟を決めて彼女は聖剣を振るう。

 

 魔物に対して絶大な攻撃力を持つエクスカリバーを持つゼノヴィアではあるが、他のメンバーは異なる。加勢の為にも次の敵を探そうと周囲を見渡す。しかし既にコカビエルの放ったケルベロス達は、全滅していた。ならば残る敵はーー。

 

「危ないっ!」

「ーーっ!!」

 

 突然、嫌な気配を感じて背後に向けて全力で聖剣を振るう。それと同時にリアスの声が聞こえた。振り向くように薙いだ聖剣は、キィィィンという金属音と共に止まった。

 

「あら、いい反応しちゃてるなぁ〜。ゼノヴィアちゃん☆」

「黙れぇ…!!お前は、一体何者なんだっ!一体なぜ、アレンと同じ顔をしている!!」

 

 ゼノヴィアの一撃は、受け止められた。同じエクスカリバーを持ったフリードによって。その表情は、余裕と愉しみに満ちていた。それがまたゼノヴィアの怒りと謎を駆り立てる。

 

 ーーゼノヴィア!!

 

 彼女の頭の中に浮かんでくるのは、優しく微笑む幼馴染の姿。まだ幼かった自分の隣で微笑んでくれた少年。

 

「アレン…ねぇ。もうそろそろ居なくなるよ。…あんたが死ぬからね!」

 

 ゼノヴィアの視界から、フリードの姿は消えた。一瞬、呆気を取られて反応に遅れた。その一瞬だけで、今のフリードには十分過ぎた。

 

「…死ねぇ…」

 

 だが、背後から突き立てられたフリードの持つエクスカリバーがゼノヴィアの体を貫くことはなかった。

 

 彼女の背中は、何十本もの魔剣により守られていたからだ。

 

「悪いが、君の持つその剣を…破壊させてもらう」

 

 フリードの視界に映るのは、後から合流したもう一人の存在ーー木場祐斗。

 聖剣を…エクスカリバーの破壊という夢に呪われた少年だった。

 

 

 

 

 

 

「木場…祐斗…」

 

 一瞬、死を覚悟したゼノヴィアは、自分を守るようにフリードと向き合う少年の名を呟く。

 しかし、彼の目は以前とは異なる色をしていた。ゼノヴィアの記憶の中にいる祐斗の瞳は、怒りと憎しみの入り混じった色をしていた。

 けれども、今の彼からはそんな物を微塵も感じなかった。

 

「何が、あったんだ?」

「頭が冷えたのさ。……彼のおかげでね」

 

 静かに微笑みながら、祐斗は神器により生み出した魔剣を握りしめて呼吸を整える。瞼を閉じて、頭に浮かぶのは実験の果てに命を落とした同志達の姿。

 

 ーー君は、生きろっ!

 

 ーー早く、逃げるんだっ!

 

 毒ガスの影響もあり、一人…また一人と倒れていく。その中で、祐斗は仲間達の言葉と共にただ走り抜けた。…そして、生き残った。悪魔として。

 

「僕は…」

 

 ずっと、分からなかった。彼らを犠牲にしてまで生き残った自分に出来る事は、復讐しかないと思っていた。けれど、今の仲間を悲しませたくはない。

 

「なぁーに、しょぼくれてんのさイケメンく〜んっ!!」

「…っっ!?」

 

 突如、視界前方に躍り出てきたフリードの一撃を、咄嗟に前に突き出した剣で受け止める。

 キィィィンという甲高い音が皇帝に鳴り響く。祐斗は、腕と足に力を込める。鍔迫り合いとなる両者。しかし、その表情はまるで正反対だ。

 

「この前の復讐鬼っぷりは、何処に行っちゃたのー??」

「…っ、黙れっ!」

 

 言葉と共に、フリードの持つエクスカリバーは妖しく光る。その光に嫌悪感を露わにする表情と言葉を返す。

 

 また、心がぐらつく。あの光を見ると、怒りと悲しみがこみ上げてきてならなかった。

 

 あの光を求めた自分たちは命を落としてしまった。

 どうする事が、彼らの為にも…リアス達の為にも、自分の為になるのだろうか。自分の選ぶべき道が分からない。

 

「だから、そんな顔して…俺の前に立ってんじゃねぇっすよー!!」

 

 今度は、背後からの横薙ぎの一撃を跳躍する事で躱し、地面に着地を決める。そして一瞬の間に地面を強く蹴りたてて、フリードとの距離を詰める。

 

「はぁぁ!!」

「うひょょょい!!」

 

 天閃の聖剣も取り込んでるエクスカリバーを持つフリードは、祐斗にも負けない速度を持つ。祐斗とほぼ同時に突進。

 叫びと共に、交錯する二人。一瞬のすれ違いざまにお互いが最速の一撃を繰り出す。 通り過ぎて、二人の距離はまた離れる。

 

「…くっそ…」

「あれれ。なまくら魔剣じゃ、この最高仕様のエクスカリバーちゃんには敵いませんぜ」

 

 膝をついた祐斗の魔剣は、砕け折れた。対して、フリードの手にあるエクスカリバーは、傷一つなかった。

 

 その事実に、祐斗は膝をつく以上の痛みを感じた。自分が、仲間の犠牲の果てに手にした力は、自分達を殺したエクスカリバーには勝てない。

 

「哀れなものだな。お前のその力では4本分のエクスカリバーを合わせたあの剣には勝てない」

「バルパー…ガルレイっ!」

 

 膝をつく祐斗を嘲笑う様に、目の前に現れたのは初老の男性ーーバルパー・ガルレイ。祐斗の目は、複雑といった色をしていた。目の前の男が、自分達を殺した元凶。そんな男を前に何をすればいいのか、分からなかった。

 

「…悪魔になって、生き延びるとはな。……まぁ、それでも貴様に渡した方が連中も喜ぶか」

 

 そう言って取り出したのは、青白い輝きを放つ宝石の様な物。祐斗はそれが最初は何か分からなかった。しかし、その石の放つ光は祐斗に懐かしさを覚えさせる。

 

「あの実験で死した者から取り出した聖剣を扱える様になる因子だ。これの発明により、今では多くの聖剣使いを量産出来た。しかしこれは今や殆ど残りカスの様な物だ。これから死する者へのせめてもの餞別だ」

 

 バルパーはそう言って、聖剣の因子を祐斗の足元にわざと投げる。コロコロと転がる因子をゆっくりと手を伸ばす。因子が放つ光を受けて、祐斗は彼らの存在を感じとる。

 

 ーー怖がらないで。僕達が一緒だよ。

 

 ーー僕達を、受け入れて

 

 ーー神様が見てなくても…

 

 ーー僕達の想いは、一緒だ。

 

 

 祐斗の頭に流れ込んでくるのは、希望と優しさに満ちた声だった。周りを見れば、因子の放つ光で形作られた仲間達の姿があった。奇跡の様な現象に、祐斗は涙を堪えられない。

 

「まさか…いや、聖剣の因子に込められた想いが具現化したのか」

「…こんな奇跡が」

 

 バルパーは、研究者らしく目の前の信じられない光景を科学的に解析しようと頭の中で計算を組み立てていた。

 対して、ゼノヴィアは、目の前で起きる奇跡が神からの贈り物の様に捉えていた。

 

 

「祐斗…」

「こんな事も…いえ、きっと」

「綺麗…」

「聖歌が聞こえます」

 

 悪魔の四人も、このあまりにもありえない光景を素直に受け止めて、アーシアは目に涙を浮かべ、静かに微笑む。リアスはそっと立ち上がり、彼の名前を呼ぶ。

 

「祐斗ッ!彼らの想いに応えてっ!!そして…あの聖剣を砕きなさいッ!!」

「リアス部長…」

 

 主人の力強い叱咤を受けて、祐斗は覚悟を決めて、答えを見つけた。そんな表情を浮かべる。彼らの周りを囲む青白い人影は、ゆっくりと祐斗の元に集まり…彼に吸収されていく。

 

 それは、まさしく同志と一つになった。その瞬間だった。

 

 

「僕は、もう二度と僕や…同志達の様な人を生み出さない。その為に、貴方と貴方の生み出した剣を僕の…いや、僕達の生み出した剣で超えるっ!!」

 

 

 その表情は、もう夢という呪いを振り切った男の顔。

 

「僕の魔と、仲間達の聖。それが、一つになった…聖魔剣」

 

 祐斗は創造した剣を、構えてバルパーに向ける。後ろに後退しようとするバルパーの前に、またしてもフリードが躍り出る。

 

「ようやく振り切ってくれちゃって。まぁ、その方が面白いですけどねぇ〜」

 

 笑顔を浮かべるフリードだが、その表情は、一瞬だけ崩れる。祐斗の隣にはゼノヴィアが立っていた。

 

「…戦えるのかい?」

「あぁ。私達の共同戦線は、まだ生きてるからね。君にだけ、闘わせるわけにはいかない」

 

 祐斗の言葉には、ゼノヴィアのフリードに対する動揺も含まれていた。詳しい事を知らないが、二人の間には何かある事は分かっていた。だからこそ、彼女がフリードと戦えるのかが心配だった。けれども、それも杞憂に終わった。なぜなら、今の彼女からは、動揺の色は消えていたのだから。

 

「あれは、…壊さなければならない」

 

 何を、とは聞かなかった。二人は、それ以上は言葉を交わす事も無く、同時にフリードに向けて突貫した。

 二人は同時に前に駆け出したが、悪魔でもある祐斗の方が、スピードでは分がある。ゼノヴィアよりも早く、フリードに接近した祐斗は、先制の一撃として真上からの振り下ろしを浴びせる。

 

「速い、な。でも、そんなんじゃ通用しないぜっ!」

「分かってるさ」

 

 これまでの攻防で、祐斗のスピードは、牽制にはなり得ない事を分かっていたので、この一撃目が避けられるのは分かっていた。後退して避けるフリードを、祐斗は深追いしない。むしろ、後ろに下がる祐斗にフリードは一瞬の疑問を抱く。

 

「…っっちっ!」

 

 背後から迫る何かに咄嗟に反応。振り向きざまに聖剣を振るう。イリナから奪った擬態の聖剣の能力を駆使。剣の刀身が、鞭の様に伸びて背後にいるであろう敵に備える。その刀身に、透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアラー)の効果を上乗せ。見えない攻撃が、背後の敵を襲う、が。

 

「甘いっ!!」

 

 ゼノヴィアは、気合いと共に己を襲う聖剣を自身の持つ破壊の聖剣で受け止める。高い金切り音を立てながらも、攻撃を受け流す。そのままフリードに向けて駆け抜ける。

 

「ちっ!」

 

 舌打ちを響かせて、伸ばしきりのエクスカリバーを元の状態に戻して、距離を取ろうと避けようとするフリードに祐斗は突っ込む。

 

「これで…おわりだっ!!」

「くそ…がっ!」

 

 咄嗟の一撃に、フリードも対応しきれなかった。せめてもの足掻きとして己の目の前にエクスカリバーを突き出す。

 けれど、祐斗の気合いと共に放たれた一撃は、エクスカリバーを正面から斬り裂いた。

 

 

 エクスカリバーが砕け散るその瞬間に、フリードーーいや、本来の人格であるアレンは静かに微笑み、祐斗に言った。

 

 

「ありがとう」

 

 

 そう言い残し、地面に倒れこむ。呼吸を整えながら、地面に倒れるフリードに疑問を抱きつつも、祐斗は自分が握る剣に…祈る様に呟く。

 

「僕達の想いは、エクスカリバーを超えたんだ」

 

 

 

 

「祐斗…」

 

 リアスは、自身の過去に巻きつく呪いを振り切った騎士の姿に、どう言葉を付ければいいか分からなかった。これで一段落…とは、いかない状況だったが。

 

 

 

 

「ハッハッハッ!!!まさか、4本分の力を合わせ持つエクスカリバーを超えるとはな。これは、予想外だ。面白い、面白いぞ!」

 

 上空にて座すコカビエルは、高笑いを響かせる。無論、その様子からは圧倒的な強さゆえの余裕が見えた。

 

 

「あ、ありえん。いくら被験者たちの因子を取り込んだとはいえ、所詮は残りカス。4本分のエクスカリバーを超えることなど…。いや、奴は自身の剣を聖魔剣といった。聖と魔のバランスが崩れていたのなら」

 

 コカビエルとは対照的に、バルパーは、祐斗の勝利が自身の立てた計画に大きな影響を与えたとして目に見える動揺を露わにしていた。

 

 その時、バルパーの胸に光が走った。

 

 文字通り、堕天使の光の矢が彼の体を貫いたのだから。

 

「えっ…??」

 

 あまりにも呆気なく、バルパー・ガリレイという男は、この世を去った。

 

「お前は、知りすぎた。まだその秘密は漏らす訳にはいかなくてな」

 

 特に悪びれる事もなく、コカビエルはそう言って玉座から降り、ゆっくりと地面に降り立った。

 

「どうした、リアス・グレモリー。聖魔剣の小僧。俺の首を獲りにこないのか?」

 

 二人も…いや、朱乃や小猫やゼノヴィアも戦闘態勢を取っていた。回復役であるアーシアも己を奮い立たせていた。けれど、そんな努力が無駄に思えるほどのプレッシャーを目の前の堕天使は放っていた。

 

 攻める様子を見せないリアス達に痺れを切らして、コカビエルは攻めなければならない理由を伝える。

 

「お前達にいい事を教えてやる。先ほどのバルパーが使っていた、エクスカリバーの融合。その際に起こるエネルギーは、全てこの街に還る。つまりは、この街は崩壊するという事だ。時間は後、三十分。止める方法は、ただ一つ。…俺を倒す事だ」

 

 その発言を聞いて、その場にいた全員は息を飲む。魔王の援軍も、間に合わない。つまり、ここにいる者達だけでコカビエルを倒さなければならない。

 

 理解した時、リアスは悪魔の羽を広げ、滅びの魔力を手に纏う。

 

 コカビエルに攻撃を開始しようとした時ーー。

 

 

 一つの音が聞こえた。

 

 

 

 聞こえた音はーーバイクのエンジン音。

 

 

 

『リアス、彼が…到着しました』

「えぇ、そのようね」

 

 小型の会話用の魔法陣が、リアスの右耳の隣に展開。彼の到着を伝える。

 

 リアスの目に飛び込んで来たのは、銀色のバイクに跨る青年。

 

 

 乾巧の姿だった。




次回が三巻の最終回。

なんかコカビエルさんが強く思えます。…実際は強いんだけどね。
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