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彼女達が水着に着替えたら
「暑い…」
夏の到来。それを告げるように、空からは強く日差しが降り注ぐ。
そんな太陽の下で、体操着姿の巧はボヤく。その他には掃除用のブラシを握りしめていた。
その理由は、駒王学園のプール掃除をオカルト研究部で担当することになったからだ。
話は一ヶ月以上前ーーコカビエル戦にまで遡る。あの時、基本的な戦いはオカルト研究部が担い、生徒会は学園の外に被害が及ばないように結界を貼り続けていた。そのおかげで、街の外には被害は無しという結果に終わる事ができた。しかも、その後の破壊された学園の修復を担当させてしまった為に、リアスがせめてものお礼として、プール掃除を担当する事にしたのだ。勿論その案に、オカルト研究部のメンバーはーー巧を除いた全員がーー快諾した。
巧とて、生徒会のメンバーが何もしてないなど思ってはいない。むしろ、彼女らのお陰で被害がほぼゼロで済んだのだから。けれど、こんな休日に暑い日差しを浴びて、広いプールを掃除しなければならないのもまた面倒だった。
「が、頑張りましょうイッセーさん!さらにこの後は遊べるんですから!」
「…あぁ」
やけに気合が入ったアーシアは、巧のやる気を引き出す様に応援する。けれど、暑い日差しが消える事もない為に、声からやる気は感じられない。それでも掃除する手は止めない。何だかんだで、律儀な男なのだ、乾巧は。
「そう言いながらも、キチンと掃除するのがイッセー君だよね」
「確かに。後、アーシアには言動が3割増優しい」
「ツンデレなイッセー先輩ですから」
ニコニコとした笑顔で巧を評した祐斗とその隣で揶揄うゼノヴィア。最後にオチを作る小猫。強く睨むが、3人は特に反応を見せずにそのまま掃除を再開する。
巧は掃除を丁寧に行う小猫を見て、この前の小猫の謝罪を思い出す。
ーーごめんなさい、イッセー先輩。私、酷いこと言って
ーー気にすんな、大した事じゃないさ
あの時の小猫は普段の落ち着いた様子ではなかった。年相応の、高校一年生らしい女の子がそこにいた。
「あら、小猫に熱い目線をむけて、どうしたの?」
「…んな訳ねぇだろ」
後ろから囁くリアスに、デコピンをお見舞い。そして、掃除を再開し始めた。
「ありがとうございます、イッセー先輩」
「意外だな、お前が泳げないなんてな」
掃除をし終えたオカルト研究部の面々は、生徒会との約束通り、掃除し終えたプールを一番最初に使用していた。
そんな中で、巧は小猫の手を引いて水泳の指導をしていた。リアスからアーシアと小猫が泳げない事を聞いて、巧は驚いた。アーシアはともかく、戦闘中に機敏に動ける小猫と泳げないというのが繋がらなかったからだ。
謝罪の一件から、小猫は巧に対しては年下らしい振る舞いをーー無意識なのかは分からないがーー取っていた。
巧としてもそんな小猫を無下に扱うわけにもいかなかった。
「うぅ…。いや、小猫ちゃんは泳ぎを教えてもらってるだけなんです!!あぁ…小猫ちゃんを疑う罪深い私をお許し下さい…はうぅ!」
プールサイドで頭痛に苦しむアーシアの隣で、苦笑したゼノヴィアは彼女を介抱。少しすると何故か二人揃って神への祈りを。そしてまた頭痛に襲われる。巧から見ればコントの様な風景が繰り広げられていた。
「大丈夫ですかね」
「別にいいだろ、放っておいても」
二人の間には、全く険悪な雰囲気はない。その事を理解してるからこそ、放置という結論を出す。巧と小猫は、案外周りに目を向けるタイプなのであった。
「ねぇ、イッセー君」
不意に掛けられた声。振り向けば、巧同様に水着姿の祐斗。彼のファンである女子生徒からしたら嬉しい姿であろう。
「何だよ」
「勝負しない?50メートル競争で。買った方がジュースの奢りって事で」
「…まぁ、いいぜ」
比較的素直に巧は、この誘いに乗った。隣の小猫に頑張ってくださいと応援されれば、いよいよ負けられない。いや、元々乾巧は負けず嫌いな男なのだ。つまり、売られた勝負は買うタイプ。
「あら、面白そうね。じゃあ、私がスターターをやってもいいかしら?」
「なら、私は審判を」
どうやら、リアスや朱乃も二人の勝負に興味がある様で、ウキウキした様子でいた。
数分後には、準備は完了。スタート地点には、飛び込む姿勢の巧と祐斗がいた。
スターターのリアスは、勢いよく腕を振り上げた。
「スタートッ!」
リアスの声は、休日の駒王学園にとても響き渡った。
「クソ…」
額から少しばかりの汗を流しながら、悪態をつく巧。彼らの前には、ゴクゴクと冷たいジュースを飲むリアス達の姿が。祐斗との勝負に負けてしまい、この暑い中一人で6人分のジュースを買ってきた。
「君のおかげで、美味しいジュースを飲めてよかったよ」
「皮肉かよ…」
プールサイドで座り込む巧の隣にゼノヴィアがお礼を告げに来る。水着姿のゼノヴィアは、普通の男子高校生なら唾を飲んでしまうほどのスタイルと美貌を誇っていた。
「この間は大変みたいだったらしいね」
「俺よりもあいつだろ。大変なのは」
大変、そう言って巧はリアスに目を向けた。
この間、というのは一週間ほど前に起きた一件を指す。
巧のお得意様でもあった男性が自ら堕天使の総督ーーアザゼルと正体を明かしたのだ。
しかし巧は全く動揺を見せなかった。
『そうか』
正体を明かしたアザゼルに、そう一言だけ返した。
以前からこの男性が只者ではない事を察していた。巧の人生経験や、オルフェノクとしての感覚がそれを感じ取っていた。そして、決め手となったのはコカビエルとの一戦。あの戦いで巧が感じた堕天使としての巨大な力。自身のお得意様でもある男性からも同質のものを感じていた。
故に、納得した様な表情で言葉を返せた。
「あの時は、笑ってしまったよ。普通、悪魔が堕天使…それも、総督に遭遇しても何もなかった様に話すとはね」
「別にいいだろ。実際、何もなかったんだからな」
それはその通りだが、それでゼノヴィアは、笑いを我慢できずにいた。
笑われた巧もムッとした表情でそっぽを向く。
「そういえば、お前…なんで悪魔に」
「…そうだね、君にも言うべきだね」
思い出した様に、巧は訊ねる。今でこそ軽口を叩く関係ではあるが、少し前ならあり得なかった事だ。そうならざるを得ない理由があったのだろうか。
その時、年相応の笑顔から一転。一人の戦士としての顔つきへ。その一瞬の変化を感じたり、巧も聞く姿勢を取る。
他のメンバーは、プールでボールを使った遊びに興じる。そんなメンバーを眺めながら、ゼノヴィアは語り始める。
「私は…元々、アーシアと同じように孤児院で育った。その時、私と同じ孤児院にフリード…いや、アレンという少年がいたんだ」
その時、あのはぐれ神父とゼノヴィアに繋がりがある事を知った。あの男が何かを抱えているのは分かっていたが、ゼノヴィアに繋がるとは思ってもみなかったのか、巧は驚いた表情を浮かべていた。
「アレンは、私とは違って落ち着いていた少年で、孤児院の皆のリーダーみたいなものだった。いつも楽しく、こんな生活が毎日続くのかと思っていた。けど、私が10歳の時にそれは壊れた。教会の研究者がアレンにエクソシストにならないか、と話を持ちかけた。アレンはその提案を受け入れて、孤児院を離れた。その時は、気付けなかった。その男が教会の闇に通じているなんてね。悪魔に対抗できる程の力を持った強化人間を作り出す。その適性にアレンは適応し過ぎていたらしい。その後、私も教会の戦士になる事を決意した。そして聖剣使いとして教会の戦士になった」
けれど、まだ話は終わりではない。巧は、それに気づき、無意識のうちに続きを促す言葉を吐いていた。
「それで…アイツは?」
「聖剣使いになった時には遅かったんだ。何もかも。彼に実験を行った派閥の人間は、教会を全員追放されていた。彼と同じ様に実験をさせられていた者に話を聞いた。その場にいた研究者を皆殺しにして、出て行った…と」
そこからの経緯は、巧でも分かった。はぐれ神父を名乗り、様々な場所を流れ続けた人生だったのだろう。しかし、合点がいかないところもある。
「なんで、アイツはフリードって名乗ってるんだ?」
「…教会に属する医者の話を基にした私の推測だが、彼に施された実験は、まだ幼かった彼の精神では耐えられないものだった。その痛みにアレン自身が耐えられないと脳が判断。もう一つの人格を作ってしまった。…つまり、多重人格になってしまったんだ。それも、人に痛みを与える事に何の躊躇もない冷酷な人格を」
「それで、お前は…」
「彼を、助けたい。教会に追放されたのもあるが、聖剣使いの立場では、彼を殺せても…救う事は出来ないからね。悪魔の身でもそれは変わらないが、リアス部長にも好きな様に生きろ、と言われたからね。好きにさせてもらうさ」
「そうか」
あまりの話に、巧は掛ける言葉がなかった。いや、元々口下手な巧にこの状況でゼノヴィアに掛ける言葉が探せる筈もなかったが。
「すまない、リアス部長にだけのつもりだったが…」
「聞いたのは、俺だ。お前に頼んでな」
沈黙が二人を覆い、時間が経つのすら遅く感じる。そんな二人を突然、水が襲った。
「「………」」
水着を着ているとはいえ、突然水を掛けられるのはいい気分ではない。
けれど、掛けた本人ーーリアスは、変わらない態度を振る舞い続ける。
「二人とも何で怖い顔してるのよ、楽しいプールなのよ!」
「お前……」
反撃の為にも、巧は勢いよくプールに飛び込んだ。巧に釣られて、ゼノヴィアも勢い良くプールに向かって行った。
「楽しかったわね!」
「えぇ、そうですわね…」
上級生のリアスと朱乃は、いつもと変わらない余裕のある様子で、その後ろを巧達が歩く。
「まさかイッセー君があんなに必死になるなんて」
「意外とお子様…」
「ふふ、随分な言われようだね、イッセー」
小猫や祐斗のいつも通りの言葉に上乗せするゼノヴィア。相変わらずの態度の巧の隣にいるアーシアは、苦笑いをするしかなかった。
普通の、学生生活を謳歌している彼らの前に、非日常を齎す存在が現れた。
「ここは、いい学校だね」
プールを抜けて、校舎を出た巧達に声をかけて来た一人の青年。巧を除いた全員が警戒する事はなかった。
巧は、知っていた。この青年が普通の人間ではない事を。
「何の…用だよ」
「そうだな、一言で言えば君に会いに来たんだ、兵藤一誠」
巧の前には、アザゼルが義理の息子と紹介した青年ーーヴァーリが立っていた。
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