ハイスクールFaiz〜赤い閃光の救世主〜   作:シグナル!

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もう少し早めの投稿になる予定だったのに…。
原作の4巻を家の中で紛失するという珍事件勃発。
はてさてどうしようか…。

【悲報】猿渡一海、推しに看取られながら逝く。




変わらない関係

 ギャスパーの引きこもり問題が前進した日から一週間ほどが経過した。学校の授業も終わった巧とアーシアの二人は、神社に続く階段を上っていた。

 

「ギャスパー君も少しづつ登校し始めるみたいですよ。小猫ちゃんがクラスの人達との間の役をしてくれてるみたいで。それに眼の特訓もしてるみたいでして」

「…あいつ、あの格好で学校に行ってるのか?」

 

 巧の頭には、女装が無駄に似合うギャスパー。そして、人と話す事の難しさからの脱却を目指し、ゼノヴィアが考案した紙袋を被さった姿がチラつく。修行中はそんな格好でも問題は無いが、いざ日常生活となると話は変わってくる。

 

「流石に教室では外してるみたいです。少しづつ改善していけばいいんですけど…。いえ、これはきっと主の与えられた試練!主よ、ギャスパー君の事を見守りくださ…痛っ!!」

「お前も懲りないな」

 

 いつもの流れで、頭痛に見舞われるアーシアを苦笑を浮かべる巧。顳顬の辺りを抑えるアーシアの頭を、少し力を込めて撫でる。彼女にとっての自慢の髪が少しばかり乱れるが、彼女の顔は少しばかりほんのりと朱に染まる。

 

「さっさと行くぞ。早くしないと日が暮れるぞ」

「はっ、はい!!」

 

 せっせと階段を登る巧の背中に、追いつかんとすべくアーシアも頭痛の事をすっかり忘れて、そこから歩き出した。

 

 ーーこいつ(アーシア)あいつ(ゼノヴィア)って、しょっちゅう頭痛になってるな…。

 

 なんて、ボンヤリと考えながら、目的の神社が見え、階段を登りきったところで足を止める。

 

「イッセーさん?」

 

 急に巧が止まったところで、アーシアも同時に足を止める。そして気付く。巧の視線の先にいた存在を。

 

 そこにたってるだけで肌がピリピリと痛みを受け取る。体の内から外へ漏れ出す神々しさにも似たオーラ。人よりも何かの作品とすら思える容姿。極め付けに頭の上には光の輪が浮かぶ。

 

「……天使」

 

 こちらに気づいていたのか、または今気づいたのか。天使の男性は、ニッコリと、正に天使の笑顔を浮かべながら軽く会釈する。その会釈にアーシアは、ハッとなって返す。一方の巧は、特に反応せずにいた。すると、男性の体が上手い具合に壁になった為か、彼が動いた際に一人の女性が姿を見せた。

 

「朱乃さん!?」

 

 どうして天使の近くに…。そう言わんばかりに驚いたアーシア。しかし巧も同様にーーしかし、表情は変えずにーー驚く。朱乃は一言二言、男性と会話を交わした後で二人の元へ。

 

「お待たせしてしまってごめんなさい。今、明日の会談に向けての話し合いを行っていまして。そこで、天使の代表のミカエル様との打ち合わせを」

「なるほど、貴方が噂の【ファイズ】ですか」

 

 いつのまにかいたのか、巧の目の前に天使ーーミカエルが。優しい笑顔を浮かべていてた。

 

「天使の代表として、コカビエルを討伐してくれた貴方にお礼を申し上げたいと思っていましてね」

「あんたらの為に戦った訳じゃ無い。…俺は、俺だ」

 

 一つの勢力のトップに立つ男に対しても、いつも通りのぶっきらぼうで愛想のない言葉を正面からぶつかる。普通ならば、周りも絶句しなければならないが、既に巧の性格を把握している二人なので、苦笑いを浮かべるだけ。

 一方の天使の長とも言える男性は、目の前の少年にとてつもない興味を抱いた。彼の言葉には嘘がなく、飾り気もない。つまりは、本当に彼が他を守る事を己の為と言える人物であると納得できた。

 

「貴方とはもっと語らいたいのですが、今日は時間がもうありませんので。それでは皆さん、明日の会談で」

 

 そう一言だけ言って、ミカエルは光と共に転移した。他の目的の所に向かったのだろう。元々、教会の人間だったアーシアは、一番圧倒されていた。

 

「…それで、なんで俺らを呼んだんだ」

 

 巧は、ミカエルとの邂逅というイベントを前に進展しそうにない空気を察し、朱乃に尋ねる。巧達は朱乃に呼ばれて、ここにきたのだ。

 

「伝えなければ、ならない事があるんです。お二人に」

 

 付いてきてください、と朱乃は神社に入っていく。二人も、それを追う形で歩き出す。

 朱乃以外の住人がいないであろう事を、朱乃の後ろで歩きながら巧はこの神社の人気の無さから感じ取った。

 

「どうぞ」

 

 朱乃は、一室の前で立ち止まると横引きの襖を開き、二人に部屋に入るように促す。室内は勿論、和室になっていた。部屋の中心には二つの座布団が置いてある。それと対になる形でもう一つ座布団があり、朱乃が座るための物。

 

 

 

 

「それで朱乃さん、私たちにお話って?」

 

 3人が座ったところーー巧は胡座をかいているがーーアーシアが早速本題へ。隣の巧も、朱乃に目線を向けて、話をするように催促していた。

 

「えぇ…。この前のコカビエルとの戦いでの事を覚えますか?」

 

 突然の質問に、巧もアーシアも思い出すような仕草を見せる。何秒か経つと、巧が思い出したように小さく口にする。

 

「お前の親父の攻撃を知ってるとか…って所か?」

「はい。その通りです。コカビエルと、私の父は同じ組織に在籍しています」

 

 それは、意味することはつまり

 

「あ、朱乃さんのお父様は…堕天使ですか…?」

「雷光の名を称する堕天使、バラキエル。それが私の父です」

 

「貴方達、二人の経緯を知り…伝えなければ、と思いまして」

 

 自身をーーいや、この体の本来の持ち主、兵藤一誠は堕天使のレイナーレにより、命を奪われた。アーシアも、巧や裕斗らの救出により命は落とさなかったものの、殺されかけた経緯を持つ。

 二人が、この経緯から堕天使、ひいてはその血を引いた自分を恐れて、嫌う事も朱乃は予想している。だからこそ、巧に時折敢えて女性を意識させる行為を行うなどして、嫌われまいとしていた。そんな自分がいた事すら、朱乃は嫌悪感を抱いていた。

 

 

 姫島朱乃にとって、兵藤一誠(乾巧)は不思議な男子に見えた。

 最初は、本人と出会う前から噂で人となりを耳にはしていた。 曰く、最低の覗き魔、性欲の権化、変態3人組の一人。数々の通り名が存在していたが、いざ対面するとそのイメージは払拭された。リアスが、彼を眷属にした際にどういう理由かは不明だが、記憶がなくなってしまったらしい。その事を後から聞かされ、彼女は納得もしていた。周りにはリアスを事故から庇った際に頭を強く打った影響で記憶喪失となったとしている事も。

 

 一般人離れした戦闘能力。咄嗟での判断能力の高さ、決して折れない精神力。

 彼を知れば知るほど、朱乃は巧を無意識の内に目で追っていた。彼を慕ってるであろう友人のリアスや後輩のアーシアに申し訳なさを感じながらも、朱乃は自分の気持ちを殺そうとしてきた。けれども、そのダムは決壊してしまった。

 今、朱乃は自分の事を明かす覚悟で巧たちの前に居る。

 

「お、おいっ!?」

「何をしてるんですか、朱乃さん!!」

 

 沈黙の中、朱乃はすくり、と立ち上がって、着ていた巫女姿を脱ぎ始める。突然の行動に巧は咄嗟に背中を向け、アーシアは巧との間に入る事で視線を塞ぐ。肩から胸元にかけての部分を開けた所で、二人に対して背中を向ける。

 

「…っっ!!!」

 

 一瞬の逡巡を表情に浮かばせたものの、朱乃の意思は変わる事はない。バザッ、鳥が羽ばたくかの様な音が部屋に響き渡るのと同時に、その音に反応し、振り向いた巧とアーシアの視線は黒に奪われる。

 

 二人の視線の先には、相反する種族の翼を背中から生やす朱乃が。彼女の白く、シミひとつない肌から異なる形の黒い二翼は幻想的な絵画にも見える。駒王学園の生徒たちが見たら、学園の二大お姉様ーーちなみにもう一人はリアスーーの艶姿に唾を飲み込むであろう状況にも関わらず、巧は全く表情を変えなかった。

 隣に座るアーシアは、巧とは対照的に表情を驚きに染める。

 

「…この翼は、私の醜さの象徴。父から受け継いだ翼を捨てるが為に、私はリアスの『女王』になった。けれど、その結果生まれたのは悪魔と堕天使の翼を持った醜い存在(姫島朱乃)

 

 朱乃の独白は、一旦終わりを迎えた。言葉を控え、巧とアーシアの言葉を待つ朱乃。アーシアは掛けるべき言葉を探すも、これといった物が見つからない。どう言葉にすればいいのかが分からない。

 堪え難い沈黙の中で、巧はすくりと立ち上がる。当然、二人の視線は巧に向かう。

 

「話は終わりか?」

「えぇ…。イッセー君は、何も思わないのですか?貴方を殺し、アーシアちゃんの事を殺そうとした堕天使の血を引いてる私の事を」

「……」

 

 髪の毛を掻いて、巧も少しばかりか言葉を選んでいた。

 といっても、巧自身はそれほど堕天使に悪感情を抱いては居なかった。かつての世界でも、人間の中にも悪人と善人がいた。オルフェノクの中にも、人として生きようとする者もいた。つまり、この世界でも同じことが言える。個人の行動で種族を否定する様な感情を、巧は持たなかった。

 

「俺は別に殺されたってつもりはない。その事をお前が気にしてんなら、余計なお世話だ」

 

 この体の本来の持ち主、兵藤一誠ならば別だが、巧は殺されたという感覚はない。つまり、

 

「お前が堕天使の娘とかそんなのはどうでもいい。お前は…お前だからな」

「私は…私…?」

「…だからな、お前が何処の誰の娘だろうが、俺が知ってるのは…姫島朱乃だ」

 

 朱乃の父親など、巧にとっては関係ない。父親が誰であれ、巧やアーシアと朱乃の関係が変わるわけでは無い。これまでも、これからも。

 巧はそう言い切ると、ピャシャリと引き戸の襖を開けて、出て行ってしまった。

 

 部屋に残った朱乃は、何処か呆然にしてるアーシアに向けて微笑む。

 

「彼は不器用な人、ですね」

「はい。とっても」

 

 金色に輝く髪を揺らしながら、アーシアは頷いた。

 朱乃は、短く言葉を紡ぐ彼の背中を思い出し、白い頬を赤に染める。

 

「私も…参戦します。本気にさせられてしまったわ」

「ふえぇ…!?」

「…いいかしら、リアス?」

 

 その名に呼応するように、リアスは襖の向こうから現れた。

 現れた、といってもリアスは朱乃達の会話を聞いて、部屋の外で待っていたのだ。

 

「…ダメ、と言いたいけれど。選ぶのは、イッセーよ」

 

 その言葉とは裏腹に、リアスの目は強い光を宿す。つまりは、負ける気はないらしい。その強い瞳に射抜かれても、朱乃はいつもの調子を崩す事なく、落ち着いた様子だ。

 

「そうね、悪いけれど私が一位を頂きますわ」

「わ、私も負けません!!」

 

 一人の朴念仁の隣を巡る少女たちの戦いの火蓋は、神社の一室で切って落とされた。




最近短めだなぁ…、と思います。

そろそろバトルに突入できたらいいなぁ。

相変わらず、感想を募集してます。励みになるんだよー。

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