ハイスクールFaiz〜赤い閃光の救世主〜   作:シグナル!

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ようやく投稿できました。ごめんなさい!!!
ここからぼちぼち投稿を増やしたいです。
今回で4巻は終わります。


赤と白〜加速する世界〜

 私ーーリアス・グレモリーは、目の前で起きてしまう戦いを見守る事しか出来ない。

 

 かつて、三大勢力の間で起こった戦争。その最中、戦場をかき乱す様に現れた二匹の龍ーー赤龍帝(ドライグ)白龍皇(アルビオン)。その内の一匹を肉体に宿す存在と戦おうとする彼の背中を見つめるだけだ。

 

「たく…ッ、イッセー!」

 

 彼の本当の名前を呼びそうになるのを押しとどめ、今の彼の名前を呼ぶ。けれど、彼は振り返ってはくれない。

 無意識の内に足が動き、彼のもとに向かおうとしたことに気づいたのは、お兄様に止められたから。

 

「ダメだ、リアス。…彼を信じるんだ」

「でも、もしっ…」

 

 いつも、彼だけが戦う。コカビエルの時も巧さんが居なければ、私達に勝ちは無かった。そう、今だって。

 本当は彼と一緒に戦わないといけない私達は、また守られてる。

 

「リアス…大丈夫ですわ」

「朱乃…」

 

 お兄様の手を振りほどき、彼を止めようと思った。例え、ワガママと言われてもいい。主人としての矜持など捨てても構わない。それでも、彼には生きて欲しい。

 私の手を優しく握る朱乃の手は、いつもより少しだけ暖かく思えた。

 同い年の彼女は私に落ち着かせる様に、けれど確かな口調で言葉を続けた。

 

「だって、イッセー君ですから」

 

 そんなシンプルな言葉を受けて、何も言葉を返せない。私は、不安になる気持ちをなんとか押し込めて、これまでで一番の強敵に向かって走り出す彼の背中を見つめ続けた。

 

「死なないで、巧さん」

 

 

 

 

 

「らぁぁ!!」

 

 先制の一撃目は、ファイズの右ストレート。ファイズショットも取り付けられてはいないが、並みの敵には十分な攻撃。

 対するヴァーリは晒していた鎧のマスク部分を再び収納。軽くステップを踏む様に躱す。同時にカウンターの一撃を加えるべく、一歩前に踏み込む。打撃が来ると想定していたファイズは、ヴァーリの攻撃に耐えるべく防御の姿勢を取る。

 

 けれど、カウンターとしてファイズを襲ったのは打撃でも斬撃でもない。魔力弾による衝撃だ。

 

「…ッチ」

 

 ヴァーリクラスの相手ともなると、小さな魔力弾でも十分にこちらにダメージを与えてくる。

 さしもの巧も、オルフェノクではなく悪魔や堕天使といった存在と戦う経験は薄い。それも格上の相手は。

 

「悪いがこちらも手加減はしなくない。せっかくの戦いがつまらなくなるからね!」

「知るかッ!」

 

 ヴァーリは後方に下がりファイズとの距離を置き、右手を前に突き出す。掌の前方の空間に魔法陣が展開され、そこから複数の魔力弾が放出される。

 

「ちっ!」

 

 自身に向けて射出された魔力弾を、横っ飛びの形で回避。そこから、最大の膂力を以って、ヴァーリに突貫。

 向かうヴァーリも、動揺することなく迎え撃つ。ヴァーリがファイズの間合いに入った途端、右ストレートを放つ。危なげなく、その一撃を回避し、手首を掴み取る。

 

「いい一撃だ。やはり俺の見立ては間違いでないな」

「勝手に決めんなって、言ってんだろっ!!」

 

 掴まれた右手首を振り払い、その動作に繋がるように左のフックを放つ。その一撃はヴァーリの後退で空を切る。どこか余裕すら感じられるヴァーリに巧は違和感を抱く。

 

「悪いが俺も少し本気を出させてもらうよ」

『Divide』

 

 鎧の背中から生えている翼ーー白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)が一瞬、強い光を放ち、その能力を解放する。

 

 半減と吸収。

 10秒ごとに触れた相手の力を半減させて、その半減した力を自分のものとして吸収する。それが、この神滅具(ロンギヌス)の力。

 文字通り、神をも滅ぼせる力。

 

 その力が、ファイズにも牙を剥くーーーー

 

 

 

 

「……なんだよ」

「驚いた…。神以外に効かないのは初めてだよ」

 

 ーーーー事は無かった。

 

 機械音が聞こえ立ち止まったファイズだったが、すぐさま動き出す。

 

 

 ファイズに変身した際には、神器の効果は得られない。これは、アーシアの神器による回復が得られない事から分かった事実だった。ひいては、このヴァーリの力の効果が無効になるのは、リアス達も分かってはいた。しかし、それだけではないと分かっている。

 

 エンジン音が聞こえた。

 ヴァーリとファイズの間にバイクが止まる。

 オートバジンは主人の状況を鑑みて、自身が必要と判断。自動でここにきた。

 

「サンキュー、な」

 

 少しばかり傷がついた車体を軽く撫でて、右ハンドル部分の窪みにミッションメモリーを嵌め込む。

 

『Ready』

 

 ファイズエッジを換装し、構える。切っ先をヴァーリに向けて、ジリジリと間合いを詰める。

 数秒間の睨み合いの果て、ファイズは駆け出した。

 先ほど同様に、掌を前方の空間に突き出す。そこから射出された魔力弾は一つだが、その大きさは先程の比ではない。自身は翼を利用し、上空を舞う。その高さは、ファイズの全力跳躍でもギリギリ届かない高さを計算して、滞空していた。

 

『Exceed Charge』

 

 聞き覚えのある音が聞こえ、一瞬。ヴァーリの、その場にいた全員の視界が光に包まれる。忘れられた音が、爆発と共に訪れる。次の瞬間、ヴァーリの視界には拳を振りかぶるファイズの姿が。

 

 

 

 

 

 ヴァーリの放った一撃に対し、ファイズエッジを構えたファイズは前方に駆け出す。

 強い風を受けながら、向かう先には魔力弾。それなり…いや、並みの悪魔ならば避ける事が出来ない速度の攻撃。けれど、迷う事なく突っ込むファイズ。

 

『Exceed Charge』

 

 ドライバーに装填されてるファイズフォンを開き、enterキーを押す。いつもの音声が流れ、フォトンブラッドがファイズの手元、ファイズエッジに集約される。

 キィィン、と甲高い音は完了の合図。より一層強い光を放つ剣を振りかぶる。

 

 

「やぁぁぁぁぁ!!!」

 

 気合いと共に振り下ろされた光剣は、巨大な魔力弾を縦に真っ二つに。まるで、豆腐を切るように見事に割れる。

 一瞬の静寂の後、爆風と軽い爆発がファイズを襲うものの、そんな事知ったもんかと言わんばかりに、光剣を地面に突き刺す。

 そのまま、地面に突き刺した剣を足場に、その場で跳躍。

 ファイズエッジの分の長さと爆風による風圧により普段よりも高い到達地点にファイズは向かう。

 

 背負い鎧を纏った敵に向かい、力強く振り絞ったストレートを顔面部分に叩き込んだ!!

 

 

 

 

 ヴァーリは自身の頰を襲った痛みに驚く。よく見ると鎧の仮面の一部がパラパラとカケラになっていた。

 感情的になる間も無く、次の一撃が来た。

 

「…ははっ、いいぞ」

 

 打ち込まれたのは胸の中心部分。一瞬、呼吸すら忘れかけた一撃の重さにヴァーリは笑うしかなかった。

 これを待っていた。自身と並ぶ強さを誇るライバル。その一撃を受けてたからこそ、ヴァーリは笑えた。

 鎧の胸部分に付けられていた青い宝玉にはヒビが入り、仮面部分は一部が破損。

 ゆっくりと地面に着地してみせたファイズを素直に褒める言葉しか出てこない。

 身体中は痛く、特に地面からの落下のせいで背中部分は特に大きい。自身にそんな痛みを与えられる存在はそうはいない。だからこそ、

 

「君は、本当に面白い」

「知るかよ…」

 

 手首をスナップさせるファイズ。

 寧ろ、ここからがスタート。彼のギアは上がり続ける。

 これまでの戦闘経験により培われた勘は、ヴァーリの脳裏に一つの予測を立てさせる。

 ならば、こちらもそれなりの対応をしなければならない。

 

「行くぞ…」

 

 小さく呟くような声とは裏腹に強く風を切り裂く音が駒王学園響いた。

 第二幕の先制攻撃はヴァーリだった。

 ファイズは仮面部分に向かってきたヴァーリの拳を、とっさに避け後方へ。その攻撃の威力と速度に背筋に寒気が。

 

「らぁっ!!」

 

 お返しだ、と言わんばかりに距離を詰め、今度は得意の右ストレートを放つ。その一撃も、ヴァーリは慌てることなく対応。体を反らして難なく回避。

 そこから、連続技につながるもののクリーンヒットせず、ファイズは攻撃の手応えを掴めない。

 

「…っっ!」

「今度はこちらの番だ!」

 

 鎧の脇腹めがけて放った右フックを、手首を掴まれる形で塞がれる。当然ファイズの動きは鈍り、そこに隙を生む。

 右手首を掴む左手の力は尋常ではない。拘束を解くのに一瞬気を取られ、普段よりも遅れてから気づく。

 空いたもう片方の手から、魔力を放出させている事に。

 

「終わりだっ!!」

 

 一撃喰らえば、大ダメージは否めない。いや、勝負は決まるであろう一撃が、一秒もせずにファイズに迫る。

 それでもなお、ファイズはーー巧は、終わらない。

 

「あぁぁぁっ!!」

 

 咆哮、叫びに似た声と共に、足を振り上げーー蹴りを放つ。

 対象は、ヴァーリの胴体ではなく、魔力を放出せんと纏っている右手。

 風を切りように鋭い一撃は、見事に右手に直撃。掌の向く方向を、ファイズではなく上空へ。

 それだけでは終わらない。振り上げられた足ではなく、地面で踏ん張る右足で地面を強く蹴りたてて、軽く宙を舞う。その体勢から、軽く横軸回転。回転の威力を持った右足はヴァーリの鎧、仮面部分を直撃。

 一部破損した仮面は、今度は完璧に破壊。鎧越しに巧を、ファイズを見ていたヴァーリを襲ったのは、続く連撃として放たれた力強さを持った拳。

 

 

 

 久しぶりの生身の痛み。ファイズの一撃を、生身の頰に受けたヴァーリは、自分が横たわっていた事に気づく。

 よく見れば、鎧にもヒビや傷がつけられており、すでにボロボロ。

 痛みと喜び、そして屈辱にも似た感情を抱えながら、ゆっくりと立ち上がる。前方にはファイズが。

 仮面をして、鎧を纏う姿では表情が見えない。しかしヴァーリは巧が今の自分とは正反対の感情と表情をしている事は分かる。

 

 

「悪いけれど、もう少しだけ…続けさせてもらうっ!」

 

 言葉と共に、ヴァーリは強い光に包まれる。何秒かすると、鎧は最初の時のように傷はなく、仮面に関しても完璧な状態でヴァーリの端正な顔を覆う。

 思わぬ再生的行為に、ファイズも一瞬呆気を取られる。しかし何度目かの魔力放出にはキッチリと対応を取れていた。

 芸のない動きに見えたが、片手で魔力を放出させながら、もう片方の手で何かを操作するような手つきを見せる。

 その動作に目を奪われそうになるも、気持ちを切り替えて、前へ。

 

 ファイズが距離を詰める間、攻撃を仕掛けないヴァーリ。その違和感は、ファイズがヴァーリに対しての一撃を放ったと同時に一発の攻撃に昇華される。

 

「…っく!」

「悪いが、俺も一芸だけではないんでな…っ!」

 

 背中を襲った痛み、ファイズの装甲越しでも煙が上がり、その威力は並大抵のものではないことを示す。

 痛みに苦しむ間も無く、ヴァーリの鋭い蹴りがファイズの胸部を襲う。呼吸が止まる一撃に意識が持っていかれそうになるが、ギリギリの所で踏ん張りを利かせ、踏み留まる。

 

 

 その一撃にホッとするのもつかの間。今度は、ヴァーリの番だ。

 

 ファイズに向けて放たれる乱打。

 鋭さや正確さではファイズ…いや、巧の方が上だが、その一撃の破壊力はヴァーリが上を行く。

 肉体自体のスペックの違いや、アルビオンの力といった要素が混ざっているからだ。

 その一撃ーー魔力も練り込められているためーーを、己の反射神経と戦闘により培われてきた直感を頼りに、何とか回避し続ける。

 

「このままでは、ジリ貧だぞ」

「知るかっ」

 

 巧を煽るように言葉を浴びせるヴァーリではあるが、基本的に戦闘においては冷静な巧に大した効果は望めない。

 次の手を考えながら放った一撃、腹部を狙った右フックは、ファイズの無駄の無い動きにより空を切る。

 それだけではなく、空を切った拳を引き戻そうとした所で、ファイズに手首を掴まれる。

 

『Ready』

 

 機械音が響き、ヴァーリの胸元に閃光が走る。

 バァン、と軽い衝突音と火花が散った。その原因は、ファイズが握りしめるバイクの右ハンドルーーファイズエッジ。

 先程、空中でヴァーリに浴びせた一撃の前に、ジャンプの最高到達点を増やすために足場にしたファイズエッジを、ヴァーリの連撃回避をしながら回収した。

 否、ファイズエッジの落ちてる地点に誘導しながら回避したと言った方が正しい。

 

 ーーまずいっ!あの光剣はっ!

 

 ゾクリッ。

 本能的にファイズが握る剣に危機感を抱き、後方に下がって距離を取るも、ファイズは距離を詰めて間合いに到達した途端、剣を勢いよく振り下ろす。

 体を半身にして、上段振り下ろしを回避する。しかし、第二撃目の横薙ぎがヴァーリの横脇腹を狙う。

 接触する直前で、小型の防御魔法陣を展開させて、魔法陣とファイズエッジの接触に終わる。

 

「ハッハッハァッ!!」

 

 ファイズとヴァーリの距離が開いた時、ヴァーリは突然笑った。

 あまりにも急なことに、巧と仮面の下で驚いた表情を見せる。

 

「君に敬意を表する。ここまで俺を追い詰めてくれた宿敵だ。俺にはまだ上がある。…君に、その一つを見せる」

 

 まだ上がるのか。

 

 彼の実力にはまだ上がある事に、打ち拉がれたいがそんな余裕はない。そんな間があれば彼は、ファイズを殺せてしまうのだから。

 警戒の糸を決して切らずに、ヴァーリの一挙手一投足に意識を向ける。

 

『Half Dimension』

 

 鎧の背中に生えた二翼の翼が光り輝く。

 

 次の瞬間、異変は起きた。

 

 ヴァーリが前方のーーファイズがいる場所に向けて手を伸ばす。

 伸ばされた手と開かれた掌が、何かを掴むような仕草を見せる。

 

 すると、空間は圧縮されたように歪んでいく。

 勿論、その場所から見て背後にあった学校の校舎も半分に縮んでいく。

 巧は咄嗟の反応で、横っ飛びで空間の歪みに巻き込まれる事なく一難を避けられたが…。

 

 

 

「空間を歪めるなんて」

 

 ファイズとヴァーリの二人から離れた場所で見守るリアスはヴァーリの起こした現象に息を飲むしかなかった。

 

「まぁ、ドラゴンを宿した奴は大概そんなもんさ」

 

 アザゼルは不安に包まれるリアスにあっけらかんとした声で返し、前に出た。他人事のように振る舞うアザゼルにリアスは言葉を返そうとするが、止まる。

 彼が握りしめていた何かが見えたからだ。

 

「…今のは…」

 

 一瞬だけ見えた何かは時計の様なものだった。それも、この状況を打破できるほどのデバイスである事を、リアスは知らなかった。

 

 

 

 

 

 

「流石だな、この攻撃を何度も避けられるとはね。君ほどのテクニックタイプはまだいたとはね」

 

 ファイズは翼を広げ、空で滞空するヴァーリを見上げている。ファイズのスーツは傷が少なく、息も上がっていない。しかし、状況はヴァーリに圧倒的に分がある。

 

 二人の差は攻撃の間合いだ。

 ファイズの基本的な攻撃は近距離。強いて挙げれば、ファイズエッジを用いたスパークルカット、クリムゾンスマッシュは中距離に該当する。この二つは相手の動きを拘束した上で放つため、結局相手の元に向かわなければならない。

 ただ一つの例外として、最強形態のブラスターファイズがある。

 あの形態は銃を用いるため、遠距離からの攻撃も可能となる。

 

 しかし、今のファイズの手元に形態変化の為のツールは存在しない。無い物ねだりはしても仕方ない。それでもこの状況を打破できる策は巧の頭の中にはなかった。

 

 いや、より正確に言えばひとつだけ除外したい策はある。

 

 変身を解除し、ウルフオルフェノクとなる事だ。

 ヴァーリのハーフディメンションは発動までの僅かなタイムラグが存在している。その一瞬を、ウルフオルフェノクの脚力を以って突く。

 

 今のノーマルファイズで戦闘を続けるよりは、勝てる確率が高いだろう。しかしそれは、周囲の者達に自身の正体が露見する事が大きなデメリットだ。

 勿論、それも覚悟の上だ。いや、いつかは伝えなければならないだろう。

 巧の脳裏に、自身の秘密を伝えた朱乃の姿が浮かび上がる。少しばかり怯えた様な表情をした少女。自分だけが、伝えるべき秘密を抱える事は、自身を信頼してくれる彼ら達に…顔向けできない。

 

 

 明確な答えが出せず、次の行動に移らない巧…ファイズの背中から声がした。

 

「兵藤一誠っ!!」

 

 呼ばれた声に反応し、振り返った先には手に何かを持った堕天使の男性ーーアザゼルが。

 

「ウチの『バカ息子』の世話の礼だ」

 

 手に持った何かを、巧に向けて放り投げる。受け取った巧は、仮面の下で大きく目を見開く。

 

 それは、この世界に来てからは手元に存在しなかったデバイス。

 

 ファイズの強化形態ーーアクセルフォームに至る為の時計型デバイス、ファイズアクセル。

 

「…っ!!あんた、これ!」

「詳しい話は後でしてやるさ」

 

 そういったアザゼルは、前方を指差す。当然、その先に戦いの続きを待ちわびるヴァーリが。

 ため息を一つ落とし、受け取ったファイズアクセルを手首に巻きつける。

 

「それは逆転の秘策かな?」

「あぁ…」

 

 右手首に巻きつけたファイズアクセルから赤い瞳のファイズの顔を模したミッションメモリーを抜き取る。

 そのミッションメモリーをファイズフォンに換装。

 

『Complete』

 

 変身完了の音声が今一度鳴り響き、ファイズの体が再び変身する。

 ファイズの胸部装甲ーーフルメタルラングが展開。装甲の下にあった内部装甲が露わになる。

 同時にファイズのスーツを巡っていたフォトンストリームの色が、より高い破壊力を示す銀色へ。仮面の瞳の色は、黄色から赤へ。

 

「なるほど、それが君のもうひとつ上の姿か」

 

 新たな姿を披露したファイズにヴァーリは嬉しさを隠さない。掌をファイズに向け、魔力を込める。

 ほんの僅かな時間の経過と共に、ファイズが居た筈の空間が歪み始める。歪み始めた空間を見て、ヴァーリは目を見開く。空間と共に歪む筈のファイズは既にそこにはいなかった。

 

『Start Up』

 

 響いた機械音。

 一瞬、腹部に強烈な痛みを覚えたヴァーリは苦悶の表情を浮かべる事しかできない。

 その一撃を受けて、気づく。この一撃は。

 思考が纏まる前に、次の一撃がヴァーリの顎を仮面越しに捉える。その一撃により、仮面の顎の部分は破壊される。

 

 避ける間もなく、今度は頰を襲う高速の一撃。

 一秒にも満たない僅かな時間の中で、ヴァーリの目は音速の一撃の正体を捉える。

 

 先ほどまでとは異なる姿をしたファイズの姿を。

 そして、次の一撃がヴァーリの腹部を貫かんばかりに放たれた。

 

 

 

 

 そこからは最早ファイズの独壇場だ。

 アクセルフォームの発動時間は僅か10秒。

 

 その10秒を持って、ファイズの高速の攻撃は何度も、何度もヴァーリを襲った。

 ノーマルファイズとは攻撃力のスペックが大きく異なる。

 おまけに、攻撃を避ける隙も与えずに次の攻撃が敵を襲う。

 さしものヴァーリもこれには堪えた。

 普通の蹴りや拳でも、アクセルフォームでの乱打は必殺技になりうる。

 既に鎧はボロボロでそこから覗く素肌や整った顔立ちは血で汚れていた。

 

『3』

 

 残り秒数を告げる機械音。

 

『2』

 

 その音声をどこか他人事のようにヴァーリは受け止めていた。

 

『1』

 

 あぁ、そうかこれでーー終わりか。

 

『Time Out』

『Reformetion』

 

 

 最後の一撃ーー胸部を穿つように放たれた拳を受けて、体が宙を舞う。地面に倒れこむまでの数秒間、ヴァーリは信じられないほどの幸福感に満ちていた。

 

 

「君の、勝ちだーー」

 

 自分に敗北を与えた借り物のライバルを、本物のライバルにすることに決めたのと同時に、ゆっくりと地面に倒れこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝ったの……??」

 

 呟いた私の言葉に、部員のみんなは顔を見合わせる。

 お兄様やグレイフィアの顔を見れば、ホッとした顔をしている。

 

 そうだ、彼がーー巧さんが勝ったんだ。

 

「まさかここまでとはな…想定外だぜ、まったくな」

 

 近くにいたアザゼルの呟き。確かに彼が巧さんに投げ渡したデバイスでファイズは進化いや、加速したと言った方が正しいのかもしれない。

 そんな事を考えるのもを放棄して、私ーー私たちは、彼の元に駆け寄り、その名前を呼ぶ。

 

 

「イッセー!!」

「…おう」

 

 いつも通りぶっきら棒な彼。ファイズの姿から変身を解除し、いつもの彼の姿へ。その姿を見て、私は強く…強く、彼を抱きしめる。

 

「おいっ!?何だよ、いきなり」

「少しだけ…このままがいいの」

 

 彼の少し嫌がるような、恥ずかしがるような声を無視して、私は巧さんを強く抱きしめる。何秒か経つと、諦めたのか溜息をつく彼。それを確認して、私はもっと強い力を込めた。

 

「あらあら、部長ったらイッセー君を独り占めなんてズルいわ」

「そうですっ!!私だって、負けないくらい心配してたんです!」

 

 アーシアと朱乃の声が聞こえ、私も彼の体から離れる。私の正面には少し涙目のアーシアはいつも通りの笑顔を浮かべる朱乃。その後ろには小猫と裕斗とゼノヴィア、そして意識が戻ったギャスパーが苦笑いを浮かべていた。

 ここで私は隣に立つ巧さんに視線を向けると、彼は既に立ち上がっていたヴァーリを見つめていた事に気付く。

 

 まだ続ける気なの!?

 

 当然、その相手をする事になる可能性が高いのは巧さんだ。

 私達は咄嗟に巧さんを庇う様に戦闘態勢を取る。

 警戒心を解けない私たちの前に、翼を広げたアザゼルが降り立つ。

 

「落ち着けよ、ファイズがアイツを倒したのは見ただろ。それに今のアイツじゃまともな勝負は出来ねぇさ」

 

 その言葉に納得出来る私ではない。なぜなら彼は巧さんを戦う気にさせる為に叔母様や叔父様、さらにはアーシアを殺そうとしたのだから。

 

 私たちの緊張の糸を切ったのは、結界の破れる甲高い音。

 同時に、私達とヴァーリの間に割って入ってきた第三者の男。

 

「よっ、ヴァーリ…って、随分とまたやられちまったな」

「あぁ…。こちらが試すつもりが、このザマだ」

 

 軽口を叩き合うところを見ると、この男はヴァーリの仲間といったところかしら。つまり、テロリスト。

 

「って、堕天使の総督に魔王が二人、天使の長まで。こいつは、退散するしかねぇな」

 

 こちらの面子を見て、男は退散しようとする。手に持った棒を巧みに操り、転移の術を発動させる。

 強い光が放たれて、光が止むとそこに二人の姿は無かった。

 

 敵に逃げられた。

 

 その事実よりも私は、眷属のメンバーが誰も欠ける事なく、この一騒動を乗り越えられたことの方がずっと嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回の協定ーー駒王協定で、三大勢力は文字通り手を取り合う事に。

 

 

 けれど、これは始まりに過ぎない。

 降りかかる苦難と彼の最期の運命と向き合う事になる。

 旅はまだ途中なのだからーー。

 

 

 

 

 駒王協定から一週間程経ったいつものオカルト研究部の部室。

 私は部長席に座り、冥界から送られてきた資料に目を通す。

 

「というわけで!!この俺が、お前たちの実力アップも兼ねてオカルト研究部の顧問になることになった!」

 

 教師らしいスーツ姿のアザゼルは自慢げなポーズをとって宣言。どうでもいいと決め込んでいた巧さんは、朱乃の入れた紅茶をフーフーしている。その姿は猫みたいで可愛らしい。

 

「アーシア、今度私に漢字を教えてくれないか。少し今日の授業で分からないところがあってね」

「はいっ!任せてください。きっと、主も私たちの努力を見守ってくださってますから!」

 

「「あぁ…主よ!!」」

 

 元協会出身のアーシアとゼノヴィアは、いつもの様に祈りを捧げる。けれど、今までとは異なるのはダメージを受けない事だ。

 ヴァーリとの戦いの後で、巧さんはミカエルに尋ねた。どうして、アーシアとゼノヴィアを破門にしたのか。

 尋ねられたミカエルは、他の信徒の祈りと信仰を乱す要素となるゼノヴィアとアーシアを異端として排除するしかなかった。残酷ともに言える言葉を使って答えた。

 その言葉を聞いて二人は、今が幸せだから充分だ、と返した。

 巧さんも二人の言葉を聞いて、何も言わなかったが、一つの願いを呟いた。

 二人が祈りを捧げることの許可。

 本来通るはずのない願いを、ミカエルは叶えると約束してくれた。

 

 

 

「って!!お前ら、ちっとは顧問の言うことを聞けっ!」

 

 部員の全員から軽く無視されていたアザゼルが大きな声を出して、みんなもようやく注目する。

 

「知ってると思うが、今回の協定でお前らの名前は多くの連中に知られる事になる。敵にも…な。そこで、まだまだ未熟なお前らを、俺が鍛える事になった。特に、木場、ギャスパー、アーシア。お前らは俺が研究の知識を叩き込んでやるから覚悟しておけよ」

 

「はいっ!!」

 

 部員のみんなの声が元気よく返ってきて、アザゼルは軽く笑う。

 私は紅茶を飲みながら僅かに微笑んだ巧さんの横顔がチラリと目に入った。

 

 

 

 あと少しで、夏休みが始まる。

 

 今年の夏は、いつもより楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デルタはしばらく動けないわ。貴方の出番ね…。ファイズを排除してちょうだい」

 

 冥界のとある場所。

 影山冴子は、とある青年の肩に手を置く。

 青年は、憎しみを隠しきれない表情で小さく言葉を漏らす。

 

「ですがどうやって」

「協力者の手引きがあるわ。ファイズを処理して、とある女の子が欲しがっているの」

 

 言葉に反応するように影から一人の青年が。

 優しい笑みが似合う青年だが、その瞳からは憎しみと薄汚れた欲望が滲み出ていた。

 

「よろしく、僕はーー」

 

 自身の前髪で敢えて視界を塞いだ。

 青年ーー天城奏(あまぎ かなで )は心で呟く。

 

 どうでもいいんだよ。あんたの事なんか…。

 目の前の青年の名前を忘れて、頭の中はファイズを倒す事を目的にしていた。。

 奏の手には、デルタのベルトとは異なるベルトが握られていた。




次回から5巻です。
最後のあれは一応伏線のつもりです。

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