多分、今年最後の投稿になりそうです。
次回あたりから、話が長くなる予定です。
アンケート募集してます。活動報告にて
冥界へ向かう電車の車内。
巧は、出発前にリアスから受け取った紙を手に取った。
紙は五センチ四方で、その中心には悪魔に馴染みのある魔法陣。その内容は今、後方にある荷物を置く車両に待機させてあるオートバジンを召喚する物。リアスが、巧の為に用意した物だった。
そのリアスは、アザゼルとの予定の打ち合わせや主が眷属と同じ車両には乗らないしきたりに基づいて待機していた。
「それがバジン君を呼び出す召喚用の紙ですか?」
「らしいぜ、…って、近いんだよ!」
巧の視界を遮る艶のある黒髪。朱乃は、自身の顔を巧の肩に乗せる様な姿勢に。巧自身は、急に近寄られて驚く感情の方が強いらしい。
「リアスやアーシアちゃんはもうバジン君には乗りましたか?」
「乗ってねえが、それがなんだよ」
「うふふ…。それでしたら、私が一番乗りではいけませんか?折角、『免許証』が見つかったのですし」
免許証。それが巧が平常時にバジンを運転したがらない理由だった。本来の体の時には持っていた運転免許証だったが、まだ高校生の一誠は所持して居ないと思い込んでいた。
しかし、夏休みに入る直前。リアスやアーシア達による一誠の部屋の大掃除の最中に、巧が憑依する前の一誠が取ったであろう運転免許証が見つかったのだ。後から一誠の母ーー涼子から聞いた話では、高校一年の夏に兵藤一誠は女の子にモテたいという理由から、短期アルバイトで貯めたお金で、バイクの免許を取りに行ったらしい。結果は免許を取っても惨敗に終わり、その免許は役目を果たすことなく部屋の片隅に眠っていた。
因みにアーシアは、以前一誠の父ーー真司に、バジンに乗せてもらう事を薦められた理由がはっきりしたらしい。
これにより巧はファイズに変身せずともバジンを乗れることになった。それ以降、リアス達からやたらとバジンに乗りたいと言われる様にもなる要因ではあったが。
「まぁ、そのうちな」
「えぇ、楽しみにしてますわ」
短い返答に、朱乃は嬉しそうな声で答える。
車内の椅子に座る巧、その隣で微笑む朱乃。
専用の机で、剣についての考察を話し合う剣士組。
ギャスパーの持ってきたゲームを一緒に楽しむアーシア。
そして、誰かと言葉を交わすでもなくただ窓の外を見つめる小猫。
消えゆきそうなその姿を、巧は意識の外に持っていくことが出来ずにいた。
アザゼルとの打ち合わせを終え、眷属のみんなの本人確認をする為にみんなのある車両に向かった私の前に嫌な光景が。
「ごめんなさい、リアス。彼、今寝てしまってるのよ」
「うぅ〜!イッセーさん、私だって言ってくれれば…」
車両に備えられた椅子に座る朱乃。その隣には彼女の太腿を枕にして眠る巧さんがいた。
「なんのつもり…朱乃」
「なんのつもりもありません。ただ眠そうな彼に枕を提供しただけですわ。可愛い後輩の世話をしただけのことです」
「先輩…。そう来るのね。分かったわ、取り敢えずはイッセーを起こして頂戴」
「分かりましたわ」
そう言った朱乃は、皆に普段の仏頂面とは違う優しい表情の巧さんの肩をゆっくり揺らし、眠気を払う。
起こされた巧さんは自分が朱乃に膝枕をされていた事に気付き、目を開けてからすぐに体を起こす。
その顔はほんのりと赤く染まっていて、そんな巧さんの顔を見て朱乃はまた少し嬉しそうに笑う。
そんな二人の空気に、私は耐えられなかった。
「お楽しみの所悪いけれど、本人確認をさせて頂戴」
普段よりも少しばかり低い声で私は皆に、立ち上がるように伝えた。
その言葉で、巧さんやアーシア、ゼノヴィアを除いた皆は立ち上がる。
三人も釣られる形で立ち上がり、私は車掌のレイナルドに目を向ける。
「それでは失礼いたします」
モニターを搭載した認証機器を手に、みんなの事を移す。
あれは、皆の中にある
「完了いたしました」
当然、不審な点などない為に認証はあっさりと終わる。
ここで、アーシア達がレイナルドに視線を向けていたので、少し遅めの自己紹介をする。
「紹介が遅れてしまったわね。彼は、レイナルド。昔から、この列車の車掌を務めてもらってるの」
「ニューフェイスの方は初めましてですね」
「「初めまして」」
「…ども」
レイナルドの挨拶にアーシアとゼノヴィアは二人同時に応え、巧さんは言葉短く、小さな声で応える。
そんな対応を取っても、レイナルドの顔色は特に変わらない。
「本人確認と同時に皆様の入国手続きも完了させました。そろそろ、次元の壁を突破しますので私はこれで」
軽くお辞儀をした後、レイナルドは車両を出た。
次元の壁を越える…、そろそろ到着ね。
「そろそろ到着ね。みんな、準備しておいてちょうだい」
私たちを乗せた列車が、人間界と冥界を繋ぐ異次元を突破。
先ほどまでの暗がりから一変。紫色の空が広がる大地へーー。
「すごい、すごいです!」
「…あぁ」
「ここが冥界か…」
巧さん達三人は初めてきちんと形で見る冥界の空に驚きの声を漏らす。そんな三人の反応が新鮮で、私は軽く微笑んだ。
特に巧さんが、普段の仏頂面な顔から少し驚いた様な表情になったのだから。
「イッセー、アーシア、ゼノヴィア。少しこっちに来てちょうだい」
机の物を一旦片付け、私はグレモリー領を示す地図を広げて三人を呼んだ。呼ばれた三人は開けていた窓を閉め、私の元へ。
「貴方達に、グレモリー領の一部を与えたいと思っているわ。赤い印がつけられた所以外で欲しい所があれば、是非言って」
「土地ですか…。どうしましょう」
「部長、手にした土地は何をしてもいいのか?」
「えぇ、勿論。何を建てても、構わないわ」
二人からの質問があるなか、巧さんは特に口を開かない。
私は堪らず、彼に声をかける。
「イッセー、貴方はどう?何処か欲しい所とかはある?」
「俺はいらない。他の奴らに回してやれ」
何の迷いもなく、そう言い切って巧さんは座っていた座席に戻ってしまった。
私は彼のある部分が少しだけ、怖かった。
彼は、あまりに自分に無頓着だ。自分に対する欲も少ない。戦う理由や戦い方も自己犠牲的な面が目立つ。
一人で窓の外を眺める彼の姿が、今にも消えそうな儚さを抱えている様に見えた。
「それじゃあ、お前ら。また後でな」
「えぇ。アザゼルも、お兄様の会談でサボらないでよ」
無事に目的地の駅に着き、別の場所で降りるアザゼルは列車に残り、私達は列車を降りる。
駅の構内を歩いて、ホームを出る寸前。パンッ!と花火が鳴る音が聞こえた。聞きなれた音に私は笑みを隠せなかった。
だってこれはーー。
『おかえりなさいませ、リアス様。眷属の皆様!』
ホームを出た私たちの前には、私たちの帰省を歓迎してくれる人達が多くいた。
鉄砲を空に向けて放つ兵隊。楽器を鳴らし、綺麗な音を奏でる楽団。
このグレモリー領を支えてくれる人達が私たちを迎えてくれる。
「ひ、人がいっぱいますぅ…」
私たちの中では飛び抜けて人見知りのギャスパーは、巧さんの隣で巧さんの着ている制服の裾を握りしめていた。そんな様子のギャスパーに巧さんも文句が言えなかったのか小さく溜息をつくだけ。
同時に、この歓迎方法が初めてのゼノヴィアとアーシアも唖然とした様子。それでも少し時間が経つと、演奏に耳を傾ける程に余裕が生まれたみたい。
「おかえりなさいませ、リアス様。眷属の皆様」
一列に並んだメイドと執事の中で、一人だけ前に出ているメイドーーグレイフィアが私たちに挨拶の言葉をくれる。
「ありがとうグレイフィア」
「何事もなくて良かったです。それでは皆様、こちらで用意した馬車にお乗りください。本邸にて旦那様や奥様がお待ちです」
そう言って彼女が示したのは移動用の馬車。と言っても、人間界の物とは異なり、体躯も大きく眼光は鋭い。そんな馬車を見てるうちに、メイドにより私たちの荷物を回収されたのを確認。
私はみんなを先導する形で馬車に乗り込もうとすると…。
「す、すいません!あの、列車の中にこの様な鉄馬がございまして…眷属のどなたかの物ですか?」
まだ若い、私たちと同年代であろう執事見習いが、押してきたのは巧さんの相棒でもあるバジンだった。
巧さんも一人で重そうに引く彼を見て、咄嗟に近づく。
「俺のです…。その、すいません」
「いえ!こちらこそ、その…なんというかカッコよくてつい触ってしまったので」
何処かぎこちない二人の会話。冥界の悪魔と元人間の悪魔でも、男の子という点では似た趣味を持つのかもしれない。
「リアス、俺はこいつに乗っていく」
「そう、分かったわ」
巧さんが優しそうにバシンを撫でる姿を見て、私は馬車に乗ってとは言えなかった。彼も、時々は自由に乗りたいのだろう。普段は、オルフェノクなどの荒事に近い要件でしか乗れないから。
「それでしたら、私もご一緒しますわ」
私の隣を通り過ぎ、バジンの座席に跨ったのは朱乃。私は先ほどまでの感慨を返して欲しかった。
「…おい、降りろ。お前はあっちに乗ればいいだろ」
「いやですわ。イッセー君たら、いつまでも私を『朱乃』と呼ばないから意地悪したくなりました」
「ヘルメットが一つしかないんだ、怪我すんぞ」
「イッセー君の運転技術を信用してますわ」
年相応の少女の様に想い人に甘える朱乃の姿。私は出会った頃の彼女と今の彼女を重ね、少しだけ嬉しさを感じる。
「…よろしいのですか、リアス様」
「どういう意味、グレイフィア」
「その言葉通りです」
つまり、朱乃に譲ってもいいのかと。そう、これは既に女の勝負。気になる彼のバイクの後ろなどあまりにも大きな特権だ。
「裕斗、小猫、ギャスパー。ゼノヴィアと一緒の馬車に乗ってあげて」
「はい」
「分かりました」
「あ、あの…。部長とアーシア先輩は」
「無粋な事を聞くな、ギャスパー。あの二人は今から戦場に向かうんだ」
何か後ろでボソボソと話す三人の会話はよく聞こえなかった。けれど、私の隣でアーシアも覚悟を決めた顔をしていた。
「イ、イッセーさん!私もバジン君に乗りたいです!」
「そうよイッセー、先約は私の筈だわ」
強く宣言する私たちに対し、巧さんはより強い溜息をするだけ。一方の朱乃は、私たちの視線を受け、負ける気のない表情だ。
「あらあら、部長もアーシアちゃんも普段からイッセー君に構ってもらってるじゃないですか。…少しくらいいいじゃない」
「ダメよ。朱乃、貴方がそこに乗ると言うのなら私やアーシアが手を挙げても不思議ではないでしょう」
「そうです!こういうのは平等な筈なんです!」
ぶつかり合う視線。いつのまにか座席を降りた朱乃はいつものニコニコな笑顔で私とアーシアを捉える。
ここで退く訳にはいかない。むしろ、ここが天王山!!というのかしら…日本では。とにかく、絶対に負けられない戦いがここにある!
「「「じゃんけーん ポンッ!」」」
この国では、こう言った時にこのじゃんけんで決めるのだと。
「……っく!!」
「…そ、そんな…」
その結果ーー私と朱乃は敗れた。つまり、勝者はーー。
「わ、私ですっ!!い、イッセーさん…後ろに乗っていいですか」
「…たくっ、決めるのが遅いんだよ。さっさと乗れ、置いてくぞ」
巧さんの手で、一つしかないヘルメットを受け取ったアーシア。
初めてつけるヘルメットに勝手が分からないのか、戸惑うアーシアを見て、巧さんが堪らずに行動に出る。
「お前、こんな事も出来ないのにバイクに乗りたいのかよ」
呆れた様な声でアーシアの頭に手を伸ばし、慣れた手つきでヘルメットを彼女の頭に被らせる。
こんなシチュエーションにアーシアも動揺せずには居られない。なぜなら、私が同じ状況になったら動揺しない筈がないのだから。
こうして巧さんの後ろをかけた戦いは多くの人に見られる場所で繰り広げられ、一番文句のない人物の勝利に終わった。
「兵藤一誠様は、ああいった方なのですか?」
「えぇ。酷く不器用でしょ?」
本邸に向かう馬車。私と同じ馬車に朱乃とグレイフィアが乗り、他のメンバーはもう一つの馬車へ。
この馬車の中で、グレイフィアは少しだけ巧さんに関する事を私と朱乃から尋ねてきた。
「リアス様、彼は…」
「分かってる」
彼女が何を言おうとしたのかが分かった。
この冥界では、一夫多妻制が普通の常識として存在する。人間界にはある場所とない場所もあり、日本は後者に該当する。
巧さんの隣に、恋人になれるのはたった一人だけ。もし、巧さんが複数の女の子とも付き合いたいと望み、女の子の方もそれでもいいとなった時には、彼に想いを寄せる私達は三人同時に恋人になれる。
けれど、彼の性格的にそれは難しい。彼はライザーを嫌悪していたし、なによりそんな器用な事ができる人じゃない。きっと巧さんは一人の人をずっと愛してしまうような人だ。私の勝手なイメージだけど。
「そんな彼だから、私も…朱乃も、アーシアも、好きになれたんだと思うわ」
「その通りね、リアス」
女王としての顔ではなく、一人の友人として、朱乃は言葉を返してくれた。
そんな私達を乗せて、馬車は本邸への道を進んでいく。
2話かけてまだ本邸にすら着いてないとは…。
ぶっちゃけ、リアス達の二人乗りじゃんけんを描きたかっただけの今回。ちなみに免許書の件は、伏線を張ったつもりでした。
お父さん、アーシアに巧と二人で乗る事を進める。→いや、無免許運転になるやん→実は一誠が一年前に取得してましたよ。
こんな感じです。…これは、伏線なのか…??
平成ジェネレーション フォーエバー 見ました。
個人的にはかなり鳥肌モノな映画でした。アノ先輩ライダーが出てくるとは。調べたら、あの人の出演はかなりのサプライズだったらしいです。初日に行った友達は女性ファンの悲鳴が聞こえたらしいです。