ハイスクールFaiz〜赤い閃光の救世主〜   作:シグナル!

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一万字久しぶりに行きました。
五巻はかなり長くなりそう
感想ください。評価も、できれば理由も添えてください。

励みになります!


灰色の狼と白い猫

 アザゼルの指示もあり、一旦グレモリー家に戻ることになった巧。ボロボロだった運動着から着替えの私服へ。夏用の薄めのジーンズ、白のTシャツの上にベージュのYシャツを着て、初日に泊まった部屋で時間を潰していた。

 

 少しするとノックの音が部屋に響く。

 ドアを開くと、ヴェネラナが立っていた。

 

「お久しぶりですね、一誠さん。少しお時間をいただけませんか?」

 

 その問いに首を横に振ることが出来なかった巧は、彼女を部屋に招き入れる事になった。

 ヴェネラナからは小猫の経過と今の体の状態を伝えられ、取り敢えず問題が無いことは分かった。話が一段落つき、会話が止まりかけた所でヴェネラナは話を切り替える。

 

「一誠さん、貴方に不信感を抱かせるような態度を取ってしまった事を夫婦共々謝らせてください」

「いや、別に……そんな事しなくても、いい」

 

 この本邸に着いた時から、巧は自身に向けられる視線に違和感を感じていた。けれど、今の彼女からはそう言った物は感じられなかった。

 短くも辿々しい返事ではあったが、巧の本心そのもの。

 悪意や敵意のあるものでは無いのも分かりきっていたから。

 

「ただ、期待してしまったの。貴方ならあの子の夢を守り、そして叶えてくれるかも……と。そのせいで手を出しすぎてしまったわ」

 

 立ち上がったヴェネラナは部屋の外に向かうこともせずに、巧を少しだけ見つめる。

 

「あの子と……あの子の眷属(仲間)をこれからもお願いします」

「あぁ、分かった」

 

 そのリアスに似た顔立ちは、彼女の優しい笑顔を巧の脳裏に浮かばせる。

 

 

 何があったとしても、その約束だけは守り抜いてみせる。

 

 

 巧はそんな自分の決意を胸にしまった。

 

 

 

 ヴェネラナが部屋を出た数分後、リアスが飛び込んできた……文字通り。どうやら巧の一時的な帰還を知らされ、レーティングゲームの勉強部屋から走ってきたらしい。

 

「お前のお袋から、小猫の事は聞いた」

「そう……。また私のミスだわ。自分の修行の事で頭が一杯になってたわ」

 

 自身を責める言葉を吐くリアスに慰めの言葉一つ掛けられない巧。とはいえ、リアスは慰めの言葉を待ってる訳では無い。元々掛ける必要もないのだが。

 巧はふとした疑問を取り上げる。

 

「あいつは何で倒れるまで無茶したんだ。……そんなキツイことしてたのか」

「えぇ……それもあるけど、どちらかと言えば精神的な事もあるの。巧さんも気付いてるかもしれないけど、あの子にも辛い過去があるの。朱乃や裕斗のように」

 

 アザゼルが修行前に小猫に掛けた言葉。それを考えれば、小猫にも何かしらの事情があるのは予想していた。

 

「そうか」

「いいの? 知らなくて」

「あいつが自分で話したら、聞くかもな」

 

 ゼノヴィアの時とは違い、今回は本人自身の秘密だ。なにより巧自身、秘密を抱えている。人には話したくない過去があって当然。小猫にどんな秘密があろうと、巧の中で小猫が後輩で、仲間である事に変わりはない。

 

 見えづらい優しさを持つ巧。その優しさが今だけは、リアスの目に真っ直ぐで明るい光のように映った。

 

 

 

 そんな感じで、二人の会話を楽しんだ後。巧は再び修行に戻ろうとするが、リアスの提案──小猫に一目会う事──を受け入れた。リアスに連れられ、小猫の部屋に入った。

 部屋の構造は巧の部屋と大した変化はなく、リビングに該当する場所には巧の部屋にあるベットと同じものが置かれていた。

 

「イッセー君……」

「部長……。なんでイッセー先輩が」

 

 二人に反応したのは小猫ではなく、ベットの隣に椅子を置いて看病をしていた朱乃だった。数秒遅れて、小猫も朱乃と同様の反応を見せる。

 

「……お前、なんだそれ」

 

 驚いた巧の視線の先にあるのは白い猫耳。しかしその部位は、ネコ科の動物ではなく、一学年下の後輩の頭に付いていた。

 

 猫耳姿の小猫は特に語る事もなく、朱乃とリアスの二人も静かにすること五分。それなりの時間が流れ、小猫の小さい呼吸音が部屋に響いた。

 

「私は猫又と呼ばれる妖怪なんです」

 

 

 かつての自分──リアスの眷属になる前は、姉と二人で生きてきた。今よりは貧しくも苦しい生活ではあったが、家族と幸せに暮らせていた。そんな二人の転機。姉が上級悪魔の眷属になった事。それにより家族と共に過ごせる幸せと、金銭的な意味での幸せが成り立った様に見えたが、そんな幸せは長くは続かなかった。姉が悪魔になった事により、戦闘の才能が更に開花。猫又の中でも最上位とされる種族、猫魈。魔術のみならず仙人が扱える力をも持つと言われる種族。成長した力は、彼女の精神すら飲み込んだ。力を扱いきれず、主の悪魔を殺し、その果てにはぐれ悪魔という烙印が押される結末を迎えた。

 その結果は小猫にも刃を向けた。上層部の悪魔は姉と同じ力を秘めている可能性が高いとの理由で小猫の死を求めた。そこに待ったをかけたのがサーゼクス。彼を介して、リアスの眷属となり、今の名前を与えられた。

 

「悪魔になってから、私はずっと怖かったんです。姉様のようになりたくないから」

 

 彼女も、ギャスパーや朱乃と同様に自身に秘められた力に怯えていた。それは勿論、巧とも同じ。

 

「血の雨を降らせ、その雨の中で恍惚した笑みを浮かべたあの人と同じ力を……私は使いたくなかったんです」

 

 その気持ちを、巧は痛い程理解できるつもりだ。巧はオルフェノクへの変身能力を好んではいない。しかし、必要な物であるとは考えている。その力がなければ、ファイズへの変身能力も喪失するのだから。

 

「無理して使うことなんてねぇだろ、別に」

 

 そんな巧だからこそ、今の小猫の辛さが分かる。小猫には背負うべき罪も想いも殆どない。ここで引き返したとして、遅くはないだろう。

 

「イッセー先輩。私は無理してでも、強くなりたいんです。イッセー先輩みたいに。部長の夢を叶えれるくらい」

 

 修行前にアザゼルに言われた言葉。

 自身の力に尻込みしているうちに、仲間の誰かを失うかもしれない。小猫に起こりうる最悪の未来を提示され、自身の恐怖心よりも更に恐ろしい事に気がついた。

 

 起きてしまった事象は変えることは出来ない。だから、そうならない為に……後悔などしない為に。

 

 小猫は、前に進めた。自分の意思と足で前に踏み出せた。

 

 彼女の目の前にいる青年を、一人で戦わせない為にも。

 

「私、必ず追いつきますから。イッセー先輩」

 

 普段の無表情からは一変した、満面の笑みを浮かべた小猫がそこにいた。

 その笑顔を巧は勿論、朱乃とリアスも驚いた顔で見つめていた。

 

 

 巧はその日のうちに授業再開の為にリアスたちと別れ、再び修行場に戻った。

 

 

 

 

 

 

 タンニーンの背に乗り、グレモリー家本邸から飛んできた巧。時刻は既に夜の為薄暗い。けれども、夜空には満点の星空が浮かび、かすかな光を振らせる。

 

「助かった、タンニーン」

「気にするな。明日から修行を再開するか。……どうやら着いたようだな」

 

 意味深な言葉。

 

 タンニーンの視線の先に、人影があった。

 

 その人物はどうやら焚き火をしていたのか、その炎により影が地面に写っている。

 

「君が……兵藤一誠、いや仮面ライダー555(ファイズ)か」

 

 その声は低く、巧の細かに響いた。

 影の主──男性の放つ威圧感に、巧はこれまで感じた事のない緊張を体に走らせる。

 

「そんな風に名乗った覚えない」

 

 いつも通りの返答。しかし、その声には僅かな緊張が含んでいた事にタンニーンと男性は気付いた。

 

「あんたは……何者だ」

 

 巧の問いに、男性はゆっくりと立ち上がり、巧の顔を見据えてしっかりと答えた。

 

「私は──本郷猛。仮面ライダー1号だ」

 

 

 修行期間はあと一週間。

 巧にとっては忘れ難い一週間の幕開けとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見極めが甘い……っ!」

「……っち!」

 

 甘さや優しさの篭ってない拳を横合いから放った掌底で軌道を逸らし、自身の顔面への直撃を防ぐ。

 一撃を防いだ掌底を放った右手は、硬い石を殴ったかのような感覚に見舞われる。

 

「はぁっ!」

 

 低く響いた気合いと共に放たれた蹴りは、巧の腹を腕を十時に構えてた防御の姿勢の上から捉える。魔力による防御力の上昇を施したのにもかかわらず、その一撃はまるで体の内部を通り、巧の体を内側から攻撃する。

 

「……っ!」

 

 オルフェノク、悪魔とて人体急所は鍛えられない。けれど、この一週間で何度も味わった痛みに屈するつもりもない巧は確かな意志を持ち、男性──本郷猛を睨む。

 

 そんな視線を受けても全く動じない本郷猛は、まさに巧よりも何枚も上手としか言えない。巧とて目の前の男性が自分よりも格上と分かっている。しかしながらそれを認めるのは癪な為か、自然と本郷を観察し、彼から学ぼうとしていた。あくまで無意識的にだが。

 

 再び彼に接近しようとする巧の真上に現れようとする存在を感知、その場から後方に下がり、咄嗟に距離を取る。

 一瞬後には、巧がいた場所は炎に包まれる。

 

「威力こそ抑えたが、他の速さや炎の放出速度は手を抜いてはいない。あの一撃を咄嗟に感知したのは流石だな……兵藤一誠」

「あぁ。一週間前よりも一回りもふた回りも大きく成長した」

 

 教師役二人(本郷とタンニーン)の言葉と同時にジリリリ、と拠点とする場所から時間を告げる鐘の音が。その音を聞いて、巧はようやく肩の荷が下りたように思えた。

 

 

 本郷猛が、二人目の教師役として現れて一週間。巧はかつて逃避していた修行というものを図らずも全力でこなしていた。睡眠時間や食事を除いてはぶっ続けで二人と実戦形式の修行。

 巧の下級悪魔としては飛び抜けた戦闘センスと実戦経験、なにより体力と負けん気が無ければ成り立たない。

 一週間という短い期間ではあったものの、並みの悪魔では一秒でも保たないであろう別格クラスを相手に出来るほどにまで成長していた。

 

 

 

 

 巧はタンニーンの背に乗り、グレモリー本邸を目指していた。アザゼルの連絡でシトリー家とのレーティングゲームの前に、三大勢力によるパーティーが開かれる。巧もそれに参加することになった。当初はアザゼルに断りを入れるつもりだったが、オカルト研究部──主に一部女性陣──の反対により、棄却された。

 めんどくさい、そう言わんばかりの巧の視界に一台のバイクが映る。

 本郷猛とその愛車、サイクロン号。本郷も巧の見送りをするべく、本邸まで一緒に移動している。

 

 

 

 

「世話になった」

「いや、私に出来るのはこれくらいだ。気にしないでくれ」

 

 グレモリー本邸前。巧は本郷と向き合い、別れの言葉を交わす。

 

「短い期間ではあったが、君と出会えて良かった。また、会おう」

 

 

 本郷猛はサイクロン号に跨り、何処かへ去っていく。

 彼の行き先は、分からない。けれど彼は現れる。人類の自由を守るべく。そんな男の背中を、巧は視界からバイクが見えなくなっても追いかけ続けていた。

 

 

 

 

 

 その後、本邸に戻った巧は既に集合していた他のメンバーと合流。二週間以上ぶりの全員集合となった。

 本邸の一室に集まったオカルト研究部の皆の顔つきなどから成長を感じたアザゼルは軽く笑む。

 

「どうやら全員、ある程度の成長はしてきたとみて間違いないな」

 

 アザゼルの指示で、部員全員に何を修行してきたのかを報告形式で発表し、最後に巧の番となる。ちなみに発表の前に自分だけ異様に厳しいレベルでの修行となっていた事に気付いた。本邸の外で修行していた裕斗やゼノヴィアは近くの別荘に泊まっており、野宿はしていないらしい。一方の巧は……。

 

 

 誤魔化す事なく自身の修行内容を伝えたところ、部員は勿論アザゼルも驚いた。……いや、引いた表情をしていた。 そんな目で見られる筋合いは無いと言わんばかりにムスッとした顔になってしまう。

 

「まぁ……なんだ。あの二人をファイズにならずとも相手に出来れば、お前は合格点どころか百点満点だ」

「アザゼル。アイツは、一体何者だ」

 

 既に二人目の教師、本郷の存在をその場にいる全員が知ってる為、特に気にする事なく直接尋ねた。

 

「本郷猛……アイツがまだお前くらいの若い時に出会ってな。三大勢力の大戦以降、久しぶりにマジで戦った男の一人でな。今では堕天使というより、俺個人の協力者の一人だ。お前と同様にベルトを使って『変身』する男だ。だから、今回お前の修行を引き受けてもらうように俺から頼んだ」

 

 巧を除いたリアスたちは、ファイズの他に仮面ライダーがいる事を聞いて驚く。対称に巧は、納得した表情。

 同時に彼の言葉の深み、その強さの一端を垣間見た気がした。

 

「細かい話は明日のパーティの後だ。ほれ、今日はもうゆっくり過せよお前ら」

 

 休むのもトレーニングだ! アザゼルはそう言って修行後初の顔合わせは終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 翌日の夕方。グレモリー本邸の客間で巧は他のメンバーを待っていた。その隣には裕斗が座る。

 高校生にとっての正装、学校の制服ではなく、スーツを着た二人。白のシャツの上に黒いジャケットを羽織る裕斗。紺色のジャケットの下にはより青みの強いワイシャツ。黒いスキニータイプのズボン。更に靴は高級な革靴。これらをグレモリー家の使用人から着るように言われ、今に至る。髪型も普段の伸ばしっぱなしではなく、冥界の都市から美容師を呼ばれ、うまくセットされている。

 つまりイケメンと呼ぶに相応しい男子二人がそこにいた。

 女性陣とギャスパーも同様にパーティの為の準備をしている。

 

 そんな巧たちの元に三人目の男子が現れる。

 

「おっ、ここか……って、マジかよ」

 

 入ってきたのはシトリー眷属の一人、匙元士郎。その服装は巧や裕斗と同じスーツ姿。しかし、匙には巧と裕斗の二人がカッコいいと素直に思えてしまったようだ。

 

「あれ、匙君。どうして君がここに?」

「リアス先輩から聞いてないか? 俺たちも一緒に行こうって誘われたんだよ」

「なるほど。席空いてるから、座ったら?」

 

 おう、と短く答えた匙は巧の隣に座った。巧も特に気にすることなく、三人に沈黙が続く。

 

「お前たちはどうだったんだ……修行は?」

 

 その空気に耐えかねたのか、匙が裕斗と巧に話を振る。

 

「まだまだ、かな。イッセー君に比べたら。でも、少しは強くなったつもりだよ」

「そっか。なら、俺もだ。それなりにキツイ修行だったからな。兵藤はどうだったんだ?」

「変な強いおっさんとドラゴンに追いかけ回された」

 

 あまりに搔い摘んだ説明で匙の頭の上に? のマークが浮かぶように見えた裕斗。それでも匙は、言葉よりも巧自身を見つめ、その成長や強さを肌で感じ取る。

 

「一つ聞いていいか……。おまえ、ゲームでは変身しないのか?」

「あぁ」

 

 聞かれた質問に嘘やカマを掛ける気など一切ない巧は、素直に答える。返ってきた答えに相手が納得するかは別として。巧の回答を聞いて、匙の表情は悔しそうな物へ。

 

「お前、俺たちをバカにしてるのか!?」

「俺が使うか、使わないかは俺の自由だ。お前に関係無いだろ」

 

 匙からしてみれば、巧の行為は自分たちを見下した上での行動とも解釈できてしまう。同時に自分への怒りも芽生える。事前にソーナから聞いていた事ではあったが本人の口から言われると、更に酷だ。巧にそんな考えを芽生えさせた自分の弱さが悔しくて堪らない。

 匙をそこまで駆り立てる理由は、人間らしくシンプルな物。

 

「俺には……夢があるんだよっ!!」

 

 夢、その単語に巧はピクリと反応を示す。隣の裕斗もそれに気づいたが二人の間に入る事はしない。

 

「俺は、教師になりたいんだ」

 

 巧の様子に気付かない匙は、そのまま語り続ける。

 巧の目には、匙が何処にでも夢を持つ者として映り続けるだけ。

 

「会長が前に言ってたレーティング・ゲームの学校で俺は先生になって生徒達に教えたいんだ。誰にだってチャンスはあるって事も。昔から俺バカやってたから……そんな俺がこの無茶を叶えて、未来の冥界の子供に伝えてやれるんだ」

 

 匙の夢は、ソーナの夢を共に叶える事。変革の時期を迎えた悪魔といえど未だに下級悪魔は下に見られる風潮は変わらない。そこを危惧したソーナは、悪魔であれば誰もが通えるレーティング・ゲームの学校の創立を掲げた。その夢を笑われようと、彼女は前に進もうとしている。匙はそんな彼女と共に夢を叶え、未来へ繋ごうと輝いている。

 

「頑張れよ、匙」

 

 巧が思わず口にした一言と表情に匙は拍子抜け。先ほどまでの怒りを抱えた表情から一変、力強い笑みを浮かべる。

 

「おう!」

 

 裕斗はそんな二人を、いつもの笑みを持って見つめていたが、巧の優しさに一抹の不安を抱いてもいた。

 少しすると、グレモリー眷属とシトリー眷属の女性陣とギャスパーの支度が終わったのか、リアス達の声が客間の外から聞こえる。

 

 客間を出た巧達は外で待っていたリアス達と合流。女性陣は皆、それぞれのセンスで選んだであろうドレスを着ている。駒王学園の誇る美しい少女達。そのうちの一人、リアスは部屋を出た巧達に声を掛ける。

 

「三人ともごめんなさいね。待たせてしまって…………」

 

 謝罪の言葉の途中で、リアスはドレスコードされた巧を見て、言葉が止まる。普段とは異なるスタイリッシュな巧に目を奪われてしまった。そこへ、朱乃やアーシアも加わる。

 

「あら、イッセー君。スーツ姿もお似合いですわね。……私のドレスどうかしら?」

 

 和服のイメージの強い朱乃ではあったが、西洋式のドレスも難なく着こなせている。

 

「どうですか……? 変じゃないですか、イッセーさん」

 

 元々ヨーロッパ系の血を引くアーシアは、西洋式のドレスが似合っており、絵から飛び出したお姫様と言える。

 

 そんな三人の少女の視線を受け、巧の返事は。

 

「ンな事いいから、さっさと行くぞ。……たくっ」

 

 いつにも増して愛想のない答えだ。

 一人でそそくさと本邸の外へ向かう巧。その背中に三人の小さな怒りのこもった視線が突き刺さるのを、当の本人を除いた皆が気づいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パーティ会場の隅。そこで巧は壁に寄りかかる。本人の醸し出す雰囲気は気怠さと帰りたい気持ちが相まってこの場においては異端だ。

 

 冥界関係者や、リアスやソーナを含む若手悪魔、上級悪魔、そしてその眷属達。これらのメンバーが集まった場で巧は徹頭徹尾一人を貫いた。

 

 ちなみに他の眷属たちは……。

 

 リアスは会場に着いた際に、他の上級悪魔、ひいては貴族の立場にあるもの達への挨拶回りに向かったが既に終えたらしく、今は朱乃と共に同世代の女性悪魔達と談笑していた。

 

 裕斗は、会場に着いた途端、女性悪魔達から声を掛けられていた。彼の周りには四、五人の女性がいるのがいい証拠だ。

 

 ゼノヴィアは、どうやら特訓をしたとはいえ未だにパーティ会場という人混みに慣れないギャスパーの隣にいた。二人ともドレス衣装の為、時折若い悪魔に声を掛けられるものの、ゼノヴィアが盾の役目を果たしていた。

 

 小猫は、巧のすぐ近くで食事を食べまくっていた。本人曰く、一人でいるのもなんですから、と巧に気を使う様な物だ。巧は好きにしろと返し、特に拒絶もしなかったが。

 

 最後にアーシア。彼女もこの会場にいる同世代の女性悪魔、特に眷属悪魔との交流を図ろうとしていた。ただ、時折顔を赤めて巧を見つめるのでそこに関しては首を傾げざるを得ない。

 

「いいんですか、イッセー先輩」

「あれ……か」

 

 窓の外を眺める巧の隣で、小猫が軽く袖を引っ張る。かけられた言葉と共に視線を送るとアーシアと、先程まで一緒にいた女性悪魔ではない男が並んでいた。

 

「いいだろ、別に。あいつだって他の奴らと仲良くしたいって言ってたからな」

 

 パーティに入る前に、『他の悪魔の方と仲良くなりたいです』と言っていたアーシアを思い出し、特に気にする事もない巧。自分はアーシアに指示や命令を出せる関係ではないし、本人の意思が何よりだ。そう言わんばかりの巧。その隣で小猫が、男の行動に怒りを露わにする。

 

「っ痛!! お前何すんだよ」

「あれが、仲良くしてる二人に見えますか……唐変木先輩」

 

 小猫に言われ、視線を送る。

 男性悪魔はアーシアの肩に手をやり、無理やり自分に体を寄せさせる。そんな男性にアーシアも嫌悪感を抱いているのか、引き離そうとするものの力では叶わない。男性は怯えた様子のアーシアに、満足した様子。

 

 

 周りに助けを求めるアーシア。

 しかし、この場はパーティ会場。殆どの者がアーシアのSOSには気付かない。そう、一部の者は。

 

 男の肩を、気怠さとほんの少しの怒りを顔に馴染ませる男が掴んだ。

 

 

 

 

 

「……あの方、前にも同じ事してませんでしたか?」

 

 私──リアス・グレモリーは突然、同年代の子が不審そうな顔つきをして、その視線の先を追う。

 その先にいたのは……。

 

「アーシアちゃんじゃ、ありませんか?」

 

 隣の朱乃は即座に気付き、私に確認を取る。背中しか見えないがあの金色の綺麗な髪とドレスの組み合わせは、あの子だ。隣にいるのは、アーシアが想いを寄せる巧さんではない男性。着ているスーツを軽く着崩して、軽薄な印象を与える。

 

「あの時の男ね……」

 

 一瞬見えた横顔だけで、私は即座に思い出す。以前もこういったパーティの場で、あの男に声を掛けられた事を。その時は、馴れ馴れしく肩に触れたきた。あまつさえその時も隣にいた朱乃にも不愉快な視線を向けてきた。その時は二人で上手く立ち回ったが、アーシアにそんな真似が出来るとは思えない。むしろ騙されてしまうかもしれない。

 そんな不安が胸をよぎるが……。

 

「あらあら、みんな凄いわね」

「何言ってるの、朱乃。早くアーシアを……って」

 

 ニコニコ笑う朱乃。その理由は。

 ナンパ男に対し、凄まじい目線を向けるゼノヴィアと神器を発動しそうなギャスパー。

 いつも私たちに見せてくれる優しい笑顔の筈の裕斗。無表情で拳を鳴らす小猫。

 

「やっぱり彼は、ヒーローですわね」

「えぇ、そうみたい」

 

 アーシアの助けに応じる様に、巧さんは男の肩を掴み、力づくでアーシアに触れていた手を無理やり引き離す。男が驚いている間に、巧さんはアーシアを連れて会場の隅へ。

 

 

 因みにその後、巧さんが私の眷属と女性悪魔に知られると、色々なことを聞かれた。

 ……私がアーシアを助けに行けば良かったわ。

 

 

 

 

 

「あの、イッセーさん。助けてくれて、ありがとうございます」

「本当だ。あんなのに絡まれたら無視しとけ」

 

 巧は、これ以上の面倒は厄介は御免だ、とアーシアに自分や小猫の近くにいる様に言ったら、特に文句のない返答が返ってきて内心驚いていた。

 

 先程まで自分がいた所まで戻ると小猫の他に二人の女性が。その二人に見覚えを感じる巧だが答えが見つからない。すると、小猫と会話をしていた少女がこちらに軽く会釈。アーシアも会釈を返すが、巧は気にする事なく小猫や二人から少し離れたところへ。

 

「相変わらず無愛想な態度ですね、ファイズ」

「誰だ」

 

 自分を知ってる風に話しかけきた金髪の少女に対し、巧も自分流で対抗。嫌なムードが流れるかに見えたが。

 

「まぁ、仕方ありませんわね。会ったのはあの時だけですし。レイヴェル・フェニックスです」

「…………」

 

 名前を聞いてもピンとこない巧。その巧になんとなく勘付くレイヴェル。今度こそ──。

 

「ライザー・フェニックスとのレーティングゲームの際にいた『僧侶』です。バジン君や部長と一緒に居た子です」

 

 今度は小猫が二人の間に入り、補足を加える。その説明を聞いて、該当する記憶を検索。その中に彼女(レイヴェル)が居た事をようやく思い出せた巧。

 

「あいつ……の妹、か」

「えぇ。貴方に負けたライザー・フェニックスの妹ですわ」

 

 台詞だけなら嫌味にも取れるが、口調と表情はそう語っていない。

 

「貴方のおかげで、お兄様は変わりました。貴方に負けた後、私や他の眷属の者へ謝罪をしました。今では、すっかり修行をする様にもなりました。貴方に負けないように、だそうです。本当でしたら今日はこのパーティに参加するつもりでしたが、貴方やリアス様が来ると知って、イザベラ以外の眷属を連れて修行に行ってしまわれたので。今は私もフリーの『僧侶』です。フェニックス家の代表としてここに」

「……そうか」

 

 気に入らない、そう評価した男ではあるが、話を聞く限りではその限りではないようだ。

 

「だ、だから、あ、貴方にお礼を……、と思って」

 

 途端に顔を赤くするレイヴェル。どうやらお礼を言うのが目的らしい。しかし巧は。

 

「要らねえよ。あいつが変わったのと、俺は関係ないからな」

 

 視線を逸らし、窓を……その先にある森を見つめる巧。瞬間、背中に嫌な寒気が走る。何か邪悪な者が近づいているような予感。咄嗟の防衛反応か、巧は近くにいた者に視線を向ける。

 

 そして、気づく。

 

「小猫……っ!」

 

 先程までいた白髪の少女が音もなくこの場を去っていった事に。

 

「どうしましたの……?」

「悪い、コイツを頼む」

 

 巧の顔色の変化に気付き、声をかけるレイヴェルとその後ろにいるイザベラにアーシアの事を任せる。

 

「分かった」

「……ええっ!」

 

 二人は、多少驚いたものの、巧の頼みに応じてくれた。

 そして巧は、小猫を追ってパーティ会場から外へ向かった。

 

 

「イッセーさん……」

 

 既に見えなくなった巧の名前を呟くアーシア。隣に立ったレイヴェルが優しく肩を叩く。

 

「あの二人が戻るまで、もし良ければ……お話でもしませんか?」

「それはいいな。あの男の話でも聞かせてくれないか?」

 

 巧への心配を隠せないがアーシアは巧を信じる。

 心の中で、彼を呼び。

 

 ────気をつけてくださいね、イッセーさん。

 

 

 

 

 

 

 

 もしもの時の保険(・・・・・・・・)を掛け終え、巧は内ポケットにファイズフォンをしまう。

 既に小猫の気配は、この会場からは感じない。つまり、森へ向かったと言える。

 

 先程感じた敵の気配は特に大きなものが三つ。つまりは、三対一の構図が成り立つ。

 それでも構わない、と会場の外に出る巧の背後から聞き馴染みのある声が。

 

「イッセー君」

 

 振り返ると、裕斗、ゼノヴィア、ギャスパー、朱乃の四人が居た。

 

「お前ら、なんで」

「君とアーシアを見てれば分かるさ。……さぁ、小猫の所へ行こう」

 

 既に臨戦態勢の四人に、巧は反論できずにそのまま同行する事に。

 

 

 戦闘になる事だけは、と巧は心中で願っていた。

 

 

 

 

 パーティ会場敷地内の森を四人で駆ける四人。ドレスを着た三人は、既に魔力で服装を変化させていた。

 数分間、走り続けた所で、裕斗と巧の二人が止まり、三人も止まる。

 

 闇夜の中でも問題なく行動できる悪魔の目は、その先にある光景を捉えていた。

 

 

「一体なんのようですか……黒歌お姉様」

「この黒猫一匹を送っただけで、血相を変えて私の所に来てくれるなんて、嬉しいわ──白音」

 

 聞こえてきた会話、森の少しひらけた場所に立つ小猫の視線の先には黒歌と呼ばれた美女が高い木の枝に座っていた。その頭からは猫耳が生え、尻尾も付いていた。その風貌に巧は、先日の小猫を重ねる。

 

「彼女は黒歌。小猫ちゃんの姉で、はぐれ悪魔よ」

 

 朱乃の耳打ちに改めて黒歌を見つめる。姉妹だけあり、小猫が成長したらあんな感じになるのか、と納得。

 

「そうね、今日はあんたを……」

「それよりも、後ろの連中はいいのか?」

 

 森の中から突然現れた男性。古代中国時代の鎧を身につけてた男は巧たちが隠れている場所を呼びさす。

 

「美猴、ヴァーリの仲間の一人だね。どうするイッセー君」

 

 その答えを、行動で示す巧。

 バレてるなら仕方ないと立ち上がり、小猫の元へ向かう。後に続く形で四人も同様に小猫の隣へ。

 

「うっひょ〜、グレモリー眷属がこんなに居るとはな。特にファイズが居るなんて、これはラッキーだぜ」

 

 無邪気な笑顔を浮かべる美猴。彼はどうやらヴァーリ同様に戦闘狂らしい。

 

「どうしたイッセー、そんなに周りを」

 

 周囲を確認する巧にゼノヴィアが尋ねるが、その言葉は続けられない。

 

 巧が警戒していたのは、もう一人の敵。

 先程感知したの、三人の厄介な敵の存在。

 最後の一人は、森の陰からユラユラと踊りながら、クツクツと小さな笑みを浮かべてやって来た。

 

「これはこれは、いつかのイケメン君やハーフヴァンパイヤ、クソビッチ幼馴染ちゃん、そしてそして〜!!! イッセー君では、あっりませんか──ー!!」

 

 夜の暗さでも小さく光るデルタギアを腰に巻き、デルタフォンを指でクルクルと回しながら、ゼノヴィアの幼馴染(フリード・セルゼン)は彼女の前に記憶の中の笑みとは全く異なる物を浮かべて現れた。




というわけで、1号の登場でした。一応今後も出て来るかもしれません。一応前回に、もう一人の教師役がいるように伏線を張ったつもりです。

四巻の天才物理学者などから察していた方もいるかもですが、一応本作にはファイズ以外のライダーがいる世界…かも。
それは都市伝説になってるから…かも。

原作からの変更。
森に小猫を探しに行くのが、リアスからリアス以外のメンバー。
べつにおっぱいドラゴンにならないからね…。

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