ハイスクールFaiz〜赤い閃光の救世主〜   作:シグナル!

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久しぶりの投稿になりました。
またコツコツ投稿したいです。
感想ください!


赤と青の衝突

 裕斗と巧の目に映るのは、裕斗は勿論巧すらも知らないライダースギアを用いて変身した青年の姿。

 彼は、巧を一瞥した後加速した。仲間内でも動体視力はトップの二人すらも捉えられない動きで、青年は悪魔たちの元へ。

 

「おのれぇぇぇ!!!」

 

 正気とは言えない声を張り上げ、悪魔は青年ーーサイガへ魔力を放とうと手を突き出す。突き出された手を軽く折り曲げた。鈍い音と共に関節の可動域には含まれない変化が生じる。

 

「あぁぁぁ!?」

 

 自身の体への痛みとショックは彼の体を駆け巡るも、サイガは手を緩めない。半狂乱な悪魔の首筋を白い素体に青いラインの入った腕が掴み上げる。

 手に持ったペットボトルを掲げる様に、悪魔の体を持ち上げる。

 持ち上げられた悪魔は、その場から離れようと体を動かすも、わずかに体が揺れるだけ。

 その顔には、死への恐怖が映し出されていた。

 仮面の下で、その表情を浮かべる悪魔を笑い、青年ーー奏は、静かに問う。

 

「どんな気分ですか。殺されるかもしれないっていうのは」

 

 静かな口調、されどそこには計り知れない怒りを孕んでいる。その声にジタバタしていた悪魔の動きが固まる。まるで蛇に睨まれた蛙のように。

 

「貴方はそれを僕の仲間にしたんだ。だから、こうなる」

 

 何かが折れる音が聞こえた。

 サイガは掴んでいた悪魔の首から手を離した。すると掴まれていた悪魔は呆気なく倒れていく。

 

 既に悪魔のリーダーは事切れていた。

 

 そのことに気づいた一人が、眼前に立つ仮面の戦士に戦慄。咄嗟に転移用の魔法陣を展開した。

 逃亡しようとする悪魔を前に、サイガは何故か追い討ちをせずに彼らの逃亡を見逃した。

 

 襲撃者の悪魔たちが一人もいなくなり、後には変身を解除した奏と、目の前の光景に圧倒されていた巧と裕斗だけが残った。

 

 

 

 

 

「おいおい、マジかよ……」

 

 私の隣で、アザゼルの小さな声が聞こえた。

 今、私達の前には裕斗と巧さんがファイズとは違うベルトを使って変身した青年と相対しているのを映す画面が。

 

「朱乃。アレはデルタではないのよね?」

「えぇ」

 

 朱乃に確認を取り、二人の前にまた新たな敵が現れた事を実感する。私はお兄様ーーサーゼクス様の元へ向かう。

 

「サーゼクス様、あの二人の救助はどうなっていますか」

「あぁ、先程の報告で、既にゲームへの介入者は殺されていたと報告を受けた。皆、灰にされていたのようだ」

 

 現場の状況を聞き、私や朱乃達は顔を見合わせた。その現象は、オルフェノクによるものと決定づける証拠。

 同時に裕斗と巧さんへの不安をより掻き立てられる。

 

「あと十分もすれば救援部隊を送る事が可能になる。それまでは彼らに耐えてもらうしかない」

「そう、ですか」

 

 その言葉を聞き、私は退がる事しかできない。

 救援部隊を送るのを早めることも、ましてや私自身が彼らの元に行くほどの力を持ち合わせないない事が何よりも悔しかった。

 

 

 お願い、二人とも絶対に帰ってきて。

 

 

 

 

 

「イッセーくん」

 

 自分を呼ぶ裕斗の声で、巧自身も取るべき選択を考えていた。目の前に居る四本目のベルトの持ち主を前にどうすべきか。

 

 戦う、逃げる。

 

 少なくとも巧にはこの二つの選択肢しか思い浮かばない。隣で剣を構える裕斗も仕掛けるべきか否かと迷いが生じていた。そんな裕斗と巧を見て、四本目のベルトーーサイガのベルトの持ち主、天城奏は感情の乏しい表情で二人と向き合う。

 

「ここに来たのは、旧魔王派の処理の為です」

 

 短く簡潔に伝えられた言葉は敵意の無さを示すものではあった。その言葉を聞いたからと言って油断出来る相手ではない。

 

「貴方達……そして悪魔と事を構える気はありませんよ」

「だからと言って、君が敵ではない証明にはならない」

 

 天城の言葉に、裕斗もすかさず言葉を返す。巧の視線は一切の気の緩みも見せずに天城を捉え続ける。

 天城自身も立場と状況から自分への態度に納得していたのか、特に焦る様子を見せることはない。

 

「そうですね、木場裕斗君。より正確に言えば、君は僕の標的ではない。君の標的は」

「俺だろ」

 

 巧は裕斗よりも一歩前に出て、依然として変わらない態度で天城と向き合う。

 天城もそんな巧に対して驚きはしないものの、微笑を浮かべて一歩前に出る。

 

「一つ、君に聞いてみたい事があります」

「なんだよ」

 

 天城は敵に聞くような事ではありませんが。と前置きをしてから、特に間を空けるでもなく淡々とした様子で言葉をつなげる。

 

「君はなぜ、人間を守るのですか。悪魔である君が」

 

 一瞬、裕斗は構えた剣を下ろしてしまいそうになった。巧に尋ねた天城の表情はおよそ自分から標的と称した者に向ける物ではなかった。どこにでもいる10代後半の青年がそこに居た。戸惑いを隠してれてはいなかった。

 

「既に君はリアス・グレモリーにより悪魔としての生を受けた筈です。つまり、君は人間ではなく悪魔だ。それなのに、ファイズの力を以って我々とーーオルフェノクと戦い続けている。ファイズの力を、悪魔の敵に対して用いるのならまだしも。貴方は悪魔でありながら人間の守護者でもある。それが僕には分からない」

 

 先程までの感情に乏しさのある表情よりは、幾分か困惑という感情を滲ませて巧に問いかける天城。そんな彼に対して、巧は少しの間も置かずに答える。

 

「んなもん、人間を守るって決めたからだ」

 

 アーシアを助け出す際にも告げた言葉。

 それは彼が乾巧である時から、兵藤一誠に憑依してからも変わらない決意。

 

「その決意だけで。……」

 

 巧の信念を感じ取った天城は、素直に感嘆してしまう。この目の前の宿敵に思わず尊敬の念を抱いてしまいかねない。そんな、甘い考えをした自分自身を軽く嗤って現実を見据える。

 

「僕は禍の団(カオス・ブリゲード)に所属するオルフェノク派の一人、天城奏。旧魔王は今の冥界そして三大勢力の転覆を目論む様に、僕達にも目的がある。人間界及び人間の制圧と殲滅だ」

 

 裕斗の背中に寒気が走る。思わず眼前の青年に斬りかかろうとしてしまうほどに。白と黒の髪を持つ青年の目は、ひどく冷たい。その言葉にも同様の冷たさを感じる。

 

「だがその目的はあくまで人間で、悪魔・天使・堕天使は標的に含まれない」

 

 裕斗も、そして勿論巧と彼の言葉の真意を分かっていた。

 

 ここで退け、と。この青年は告げていた。

 悪魔である巧と裕斗がわざわざ標的と見据えていないと言外に告げているのは、婉曲した彼なりの優しさとも取れる。

 

 仮に裕斗と巧がここで退けば、天城にとって巧を殺す理由がなくなる。ファイズがオルフェノクと戦う必要がなくなる。悪魔とオルフェノクがぶつかり合う必要はない。

 そうなれば後はオルフェノクの独壇場だ。

 カオス・ブリゲードの元で暗躍を続ければ、人間界は容易く堕ちるだろう。そうなれば多くの人間がオルフェノクと化し、それよりも更に多くの人間が命を、夢を失う事になる。

 

 そんな事を、巧が……いや、『仮面ライダーファイズ』は許す筈がない。

 

「俺も裕斗もお前も同じ人間だ」

 

 裕斗を指差しながら、天城をしっかりと見据えたまま巧は彼の言葉を遮る。一方の天城は、巧の言葉を心底分からないといった表情で受け止めていた。

 

「違う、君達も僕も、人間じゃない。ただの化け物だ」

 

 僅かに溢れた感情は怒り。その怒りの矛先は巧か、はたまたこの残酷な世界なのか。

 向き合う天城と巧を他所に、裕斗もまた巧の言葉を図りかねていた。種族としては自分と巧は悪魔に。そして眼前の青年はオルフェノクになる。そんな事を巧と分かりきっている。それなのに、なぜ巧は自分たちを人間と称したのか。

 その答えを裕斗は、自分の記憶から見つけ出す。

 

「誰かを大切に想える気持ち。それがあれば、僕達は『化け物』にはならない。いや、なれない」

 

 今の仲間、オカルト研究部や生徒会メンバー。クラスメイトや、松田や元浜や桐生と言った面々の顔が自然に頭に浮かべられた。それは今の木場裕斗を創ってくれた大切な人。

 過去の仲間。今もういないけれど、それでも自分を確かに想ってくれている大切な人。決して忘れ得ぬ人達だ。

 

 裕斗の確たる答えを、巧もまた同様に見つけ出していた。オルフェノクの中にも他者を、人間を思い遣る事が出来た者達は確かに居た。人間の中にもオルフェノクを思い遣る事の出来た者は確かに居た。そこに壁なんて、種族なんてものは存在しない。

 

 悪魔であろうと、オルフェノクであろうと、心そのものが変わらなければ、人で有り続けられる。

 だから乾巧は、立ちはだかる。他者を、種族なんてものを超えた光を持った持つ者達を護りたいから。

 

 

「…………。完敗ですね」

 

 自分の言葉に全く屈しない二人を見て、天城は紫色の空を仰ぎ見る。

 

 ーーあぁ、なんでまっすぐなんだ。

 

 一人は、自分と比肩する強さを他者を護るために振るおうと。

 一人は、そんな彼と共に有りたくて並び立とうとしている。

 

 どちらも自分にはない『強さ』を持った二人。

 どこまでいっても、自分はあんな風な選択はできないだろう。

 既に自分は選んでしまった。真っ直ぐ光の下を歩くような旅は出来ない。自分にあるのは、歪んだ闇の下を這い蹲る様な旅。

 だからこそ、引き返しはしない。

 

 

「……見せてください。その人間の力を」

「あぁ。俺は戦う。『人間』として……『ファイズ』として!」

 

 居るべき世界が変わろうと。乾巧は、その決意を、覚悟を、曲げる事なく貫き続ける。新たな決意を静かに胸に秘めながら、その言葉を叫ぶ!! 

 

『『Standying By』』

 

「変身ッッ!!」

「変身」

 

『『Complete』』

 

 異世界の空間にて、赤と青の光が混ざり合った。

 

 

 

 

 

 

 仮面ライダー。

 この世界にて、そう呼ばれる戦士がいる事を巧は最近知った。そしてそう呼ばれている戦士の中に、自分が含まれている事も。

 

 巧に修行をつけたあの男ーー本郷猛こそが原点。

 始まりのライダー、仮面ライダー1号である事を、修行中の際にアザゼルから伝えられた。

 巧は、自分はそんな柄じゃない。と返したが、彼の胸には、本郷猛と同じ意思が秘められている。

 

 大切な人を、笑顔を、自由を、愛を、そして夢を護る。

 

 その為に悪と戦うその心そのものを、人はこう呼ぶ。

 

 

 仮面ライダー、と。

 

 

 

 

「くっ!」

 

 巧と天城。いや、ファイズとサイガの衝突を至近距離にいた裕斗は思わず苦しげな声を漏らす。

 

「らぁぁぁ!!!」

 

 ファイズの怒涛の連打。その全てを躱す、又は捌き続けるサイガ。時折サイガから放たれるカウンターを難なく避けるファイズ。互いに格闘センスは他を圧倒する物がある。

 避けた筈のファイズのハイキック。その蹴りにより生じた風圧でサイガの身体は思わず後退する。その一瞬で、懐へ入り込む高速のステップイン。

 

「おらぁ!!」

 

 上半身を捻って、下半身に踏ん張りを効かせたアッパーカットは、サイガの仮面の下、顎を捉える。

 顎は人体急所の一つ。ボクシングといった格闘技においてもそこに来る一撃は注意しなければならない。

 その一撃に、仮面の下の巧は不満気、というよりも違和感を感じていた。

 

「はぁぁ!!」

 

 その不安は、全身を使った一撃の後だからこそ起こる一瞬の硬直を突いたカウンターにより現実に。鋭いという表現ですら足りないほどの威力を秘めたサイガの横蹴りは、しっかりとファイズを捉える。サッカーボールを蹴ったようにファイズの体は飛んでいき、ショッピングモールの柱に叩きつけられる。

 

「っ……」

 

 ファイズは40メートルは蹴り飛ばされたと推測し、その威力はまだ全力でないと判断する。先ほどの一撃は自分の隙をついたカウンターであり、自分のペースで行われる攻撃ではない。

 ファイズやデルタをも上回るスペックにより攻撃に、さらに警戒を強める。

 

「イッセー君、避けるんだ!」

 

 不安そうな裕斗の声。即座に、自身に向けて追い討ちを掛けるべく間合いに入り込み、ハイキックのステップを踏むサイガがいた事に反応。

 

「おおぉぉぉ!!」

「なにっ!?」

 

 咄嗟に出た行動は防御ではなく突進。サイガも防御を取ると踏んでいたのか、自身に向かってくるファイズに攻撃のタイミングをずらされる。それでもなお放った攻撃はファイズの腹部へ。同時に前に出たファイズの拳はサイガの仮面を捉える。

 両者、その場に留まる。互いの攻撃はその威力を半減された状態で繰り出された物であった為に。

 

「いつまでも、腹蹴ってんじゃねぇ!」

 

 ファイズが自身の腹部を突き刺すように駆り出されたサイガの足首を掴み、振り上げる。当然サイガはバランスを崩すも、空中にて一回転。視界を地面から正面にいる筈のファイズを捉えるべく正面を変えるが。

 

「……!?」

 

 そこには既に、ファイズの姿はない。サイガの、天城の巧にも劣らない戦闘経験の賜物か、即座に上空へ視界を向ける。そして捉えた。

 ファイズの全力を込めて振りかぶった一撃が自身の胸を捉えるのを。

 

「……くっ!!」

 

 一瞬、呼吸器が停止して酸素の供給が止まる。視界が歪み、意識も飛びそうなる自分を叱咤し、反撃に移させる。

 

『Burst Mode』

 

 サイガドライバーからサイガファンを取り出し、ファイズ同様に銃形態へ。そのまま銃口をファイズの胸部ーーフルメタルラングに添える。

 

「!?」

 

 その感触に気付き、距離を置こうとしたファイズの反応も虚しく。銃口からフォトンブラッドの光弾がゼロ距離でファイズの胸に被弾。

 

「〜っっ!」

 

 サイガは、ファイズ、カイザ、デルタといったライダーとは一線を超えたスペックを誇る。当然、その武装品も同様に。今の攻撃も並みのオルフェノクであれば既に灰に還していたであろう威力を持つ。

 痛みの為に何メートルか後退したファイズ。対照的にサイガはダメージはあるもののまだまだ余力を残し、尚も余裕さえ見える。

 

 ーーくそったれ。

 

 仮面の下で巧は舌を打つ。この感覚はかつての戦いでもあった。その代表例は、巧が戦ってきたオルフェノクの中では最強クラスのドラゴンオルフェノクーー北崎。ドラゴンオルフェノクは、数いるオルフェノクの中でも最も硬い防御力と強い攻撃力を誇るオルフェノクだ。三原修二、かつてのデルタと共に戦った際も二人のライダーの攻撃は殆ど通用しなかった。

 

 シンプルなスペックの差。それが何よりも硬い壁として巧の前に立ちふさがる。

 

「貴方ならまだ上げられる……」

 

 天城の呟いた言葉が聞こえた途端、ファイズの前にサイガの拳が。胸部を捉える筈のそれを、両手で無理やり押さえつける形で受け止める。膠着状態にある二人だが、徐々にサイガの腕力でファイズの防御が崩れ始める。

 

「……マジ、かよっ!」

「……」

 

 無言で、力を更に込めてくるサイガを前にファイズは最後の切り札を切るべく防御の手を敢えて緩める。その瞬間、均衡が破られてサイガの拳は放たれるものの、体を逸らしたファイズの前に失敗に終わる。

 ファイズアクセルに取り付けられたミッションメモリーを抜き取るべく、指を添えた瞬間。二人のライダーの上に影が生まれた。

 影の主、オートバジンは既にバスターホイールを構えており、その意図を察したファイズはそこから横っ飛びで距離を置く。バジンもまた、主人が射程範囲外にいる事を感知してから、主人の敵に向けて容赦の無い弾丸の雨を浴びせる。

 何秒間か続いた弾丸の雨は止み、更に続け様に地面から剣の華がサイガを襲う。地面から突然生えた剣はサイガを囲う檻のようであり、そのうちの何本かはサイガの体を捉える。

 

「お前ら……」

「ごめんイッセー君。でも、やっぱり僕はここで見てるだけなんて出来ない!」

 

 ファイズの前に揺るぎない覚悟を持って立つ裕斗。その隣には世界を変えても自分と共に戦うものオートバジン。一人と一台の相棒を前に、巧も言葉が出てこない。こんな自分と共に戦おうとしてくれる仲間がいてくれることが嬉しくて堪らなかった。

 

「あぁ、サンキューな」

 

 巧は差し出された裕斗の手を取り、立ち上がる。二人と一台は改めてサイガと向かい合う。今度こそとファイズアクセルに指を添えた瞬間、サイガは変身を解除した。天城奏の肉体に戻り、周囲を見回し始める。その様子は巧には何かを危惧しているように見えた。

 

「時間切れですね。……また会いましょう」

 

 ズボンのポケットから一枚の紙切れを取り出して、指でその紙切れの中央に触れると眩い光が。

 

「待てっ!」

「くそっ!」

 

 ファイズと裕斗は、それが今日何度も見せられた魔法陣による転移と察知して、その場から駆け出す。裕斗の剣とファイズの拳が、天城に届く一歩手前で、天城の肉体を転送の光が包んだ。

 天城が転送を終えた直後、サーゼクスの送り出した救援部隊が到着した。

 巧と裕斗、オートバジンの保護という結末により、今回の異例だらけのレーティングゲームは終わった。

 

 

 

 旧魔王派とオルフェノクによるレーティングゲーム襲撃、そして巧すらも知らないベルトとライダーの出現。これらの濃すぎるイベントを持ってオカルト研究部、そして生徒会役員の悪魔としての夏休みは一先ずの終わりを迎える。

 

 巧はまだ知らない。今回の一件が、彼をさらなる混乱に巻き込むその一因である事に。

 リアス達はまだ知らない。自分達が望まない形で巧の運命と向き合う事になるとは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 冥界への滞在最終日。

 巧達は、行きと同様に列車により駒王町へ向かう。そんな彼らを見送る形で、グレモリー夫妻やグレイフィア、ミリキャス、そして魔王でもあるサーゼクスが。魔王という立場を一旦忘れて、リアスの兄という立場で見送りたいからと護衛の者達も付けてはいなかった。

 

 

「それでは皆さん、お体に気をつけてお過ごしを。リアス、これからも手紙をおねがいね」

「えぇ、分かりましたお母様」

 

 リアスとベネェラナが母と娘らしい会話を交わす。その様子にグレモリー卿も満足げな笑顔を浮かべている。ふと、巧と目が合った。逸らすのも失礼だが、見続ける事も出来ない巧は明後日の方向に目線を。今更、巧の態度は分かっていたらしく、まるで捻くれた息子を持つ優しい父親のような笑顔で巧に声をかける。

 

 

「イッセー君。娘を、リアスをよろしく頼む。何かと迷惑をかける事もあるだろうが」

「……うっす」

 

 周囲の皆が思わず苦笑してしまうほどの下手な敬語で、巧は小さく頷いた。

 会話も深まる所だったが列車の出発時間が迫ってきた。車掌から乗車するように指示があり、巧達は電車に乗り込む。

 一人一人電車に乗り、最後となった巧の背にサーゼクスの声が響く。

 

「君は一人じゃない。確かに、君が立ち向かう事になる敵は強大だ。それでも君には私達もいる。そして何よりもリアス達が君と共にいる」

 

 言葉を切って、一瞬の間を開けてからサーゼクスはその名を呼んだ。

 

「だから負けないさ。『仮面ライダーファイズ』」

 

 

 列車は高らかに汽笛を鳴らして冥界の空を駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆! 夏休みの間、本当にご苦労様!」

 

 リアスの号令で各々が解散となった。とは言え、基本的な方向は大体同じの為に一緒に帰宅する事になる。駅のホームを出た途端、巧と裕斗は集団で歩くオカルト研究部のメンバーよりも前に飛び出す。皆が警戒した先には、1人の人物が。

 その人物は、夏だというのにロープを羽織り、顔は見えない。

 

「何の用だ……」

 

 巧の声が牽制の為にぶつけられる。目の前の相手は一般人というにはあまりにも強い魔力を放っている。既にリアスは巧のバックからファイズドライバーを取り出し、準備は万端。

 

「悪いけど、君たちに用は無いよ」

 

 その人物は顔を覆っていたローブを取り、その素顔を晒す。同時に巧と裕斗の間を縫って、『彼女』の元へ向かう。

 

「あなたは……ディオドラ!?」

 

 リアスの声で、巧がローブの男がリアスと同世代の若手悪魔の一人だと思い出した。隣の裕斗は、ここにいる理由が分からないといった様子。

 

 ローブの男ーーディオドラは、『彼女』の前に立つと膝を地面につけてから手を差し出し、その名を愛おしそうに呼んだ。

 

「アーシア。……僕はかつて君に助けられた悪魔なんだ」

 

 言うが早いか。ディオドラは来ていた服を捲る。その下には痛々しい傷が体を走り、その深さを物語る。その傷を見て、癒した本人アーシアも該当する記憶を見つけたのか驚きの表情を。

 

「貴方が……あの時の?」

「あぁ。何年も君を探していたんだ。……あの時、冥界で君を見つけた時に思ったんだ。これは、運命なんだと」

 

 言葉と同時に、アーシアの手の甲にそっと唇を落とした。その行為にリアスやゼノヴィアはキスされた当人以上に怒りをぶつけそうになる。けれどそんな事が吹き飛ぶ程の火薬を、ディオドラは爆発させた。

 

「僕と結婚して、妻になって欲しい」

 

 一難去ってまた一難。

 そんな言葉が似合う巧の二度目の高校生活は、夏の空の下で新しい局面を迎える事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある日付、とある時間。冥界にて。

 

「あぁ〜。せっかくのファイズに勝つ所見れたと思ったのに」

「それはちょっと無理……かな」

 

 1組の男女が、夜の闇が満ちた山の中にいた。

 男は、黒と白の髪をした青年ーー天城奏。

 女は、美しい黒髪をした美女ーー黒歌。

 

「ふ〜ん。本当のこと言わないなんて、奏は性格悪いにゃん」

「本当さ。彼は強い。油断なんてしてたら、こっちが負けてた」

 

 巧との戦いの際には決して見せなかった落ち着いた表情。場所が違えば、どこにでもいるカップルだ。

 

「君だって、彼を認めてるんでしょ? だから、妹さんを彼と彼の仲間の元に居られるようにしてる。……違う?」

 

 天城の指摘に、どこ吹く風と言わんばかりに口笛を吹き、答えを有耶無耶にする黒歌。こんな態度も慣れたものなのか。天城は苦笑を浮かべるものの楽しげな様子だ。

 

「あぁー!! 黒歌お姉ちゃんと奏兄ちゃん、また一緒だ!!」

「ずるーい! 私も奏お兄ちゃんと一緒がいい!」

 

 2人の間に、聞き慣れた幼い声。天城の仲間でもあり、家族とも言える存在のソラとハナ。自分に駆け寄ってくる2人をキチンと受け止めて、その頭を優しく撫でる。表情は僅かに動く程度だが、黒歌にはしっかりと伝わっていた。その喜びと、僅かな哀しみを。

 

 

 

 

 

「やっぱりファイズの事、気に入ってるでしょ」

「うん、そうだよ」

 

 ハナやソラと同じタイミングで来た他の仲間達のどんちゃん騒ぎを、少し離れた場所で見守る2人。黒歌の太ももにはソラが。天城の太ももにはハナが。

 

「今日、2人が一緒に居られるのは彼のお陰だ。彼は、僕なんかとは違う本物の英雄だ」

 

 そんな英雄に殺されるのなら、それはそれで構わない。そう言いたげな天城の表情を、黒歌の爪が捻る。

 

「必死こいて、奏も生きるの。……いい?」

「分かった。かっこ悪くても、それが僕だからね」

 

 改めて、天城奏は決意する。

 

 目の前にいる大切な女性を。

 紡いでいきたい未来を担う子供を。

 自分を慕い、付いてきてくれる大切な仲間を。

 

 どんなにかっこ悪くても、歪んでいても、正しくなくとも。護り通してみせる、と。

彼もまた心に『仮面ライダー』の心を宿す『人間』である事を目の前の笑う黒歌は分かっていた。




感想や評価をお待ちしております。
また、オリジナルのオルフェノクの募集もしたいな…、なんてね。
よろしくお願いします。
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