ハイスクールFaiz〜赤い閃光の救世主〜   作:シグナル!

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今作はおっぱい的なシーンがないのであっさりした部分が多いです。
因みにそういうシーンを作ろうとすると頭の中のたっくんにボコボコにされます。
相手の女の子も痴女扱いしそうだし…。


体育祭に向けて

 ビートルオルフェノクとの戦闘から数日。

 持ち前の元気さとコミュ力を以って、イリナは既にクラスに馴染んでいた。ある意味、巧よりもクラスに馴染んでいる彼女は、今日も元気。今は二学期始めに行われる体育祭の種目決めの時間。担任の教師も特に指示をする事はないが、代わりに学級委員長が取り仕切る。赤組となった巧のクラス。クラス内で決めた数人がその競技の赤組代表メンバーの一員として点数を競う。一度目の高校生活と同じ形式の体育祭ということもあってか巧の熱は極めて低い。

 

「はい! 私、借り物レースに参加したいです!」

 

 そんな巧と対照的なのは、栗色のツインテール少女イリナ。

 近くの席で、何に出場するかを決めているアーシアとゼノヴィア。二人もイリナ程ではないが、体育祭というイベントへの熱はある模様。それは他のクラスメイトとて同じだ。

 

 ーーまぁ、残ったのに出ればいいだろ

 

 そんな気持ちで続々と決まる種目を眺めていると、不意に巧への視線が向けられた。

 こちらを見ているのは、黒板に種目に出場する生徒の名を書き込む桐生愛華。その他にも、なぜか怒りの形相を浮かべる松田と元浜。

 意味が分からないと首を傾げそうになる巧に、桐生は横を見るように指差した。釣られる形で横を見ると、頰を赤く染めたアーシアが手を挙げていた。他には男子生徒が何名か。黒板を見ると、アーシア達が出場したいと手を挙げたのは『二人三脚』

 

 どうやら、彼等はアーシアの相手に巧を沿えようとしている。そんな思惑など知らず、巧は一応挙げた手を下げようとしていた。

 元々どの競技に出たい訳ではない。あぶれた競技をやればいいというスタンスなので他にやりたい人がいる競技に参加するつもりもない。

 巧なりの気遣いから、手を下げようとする彼を睨むのは桐生、ゼノヴィア、イリナら。

 

「アーシアは、初めての体育祭なのよね」

「は、はい。こういう事は今までやった事がないので」

 

 アーシアの過去を悪魔や教会関係の事を誤魔化した上で知ってる桐生はほぼ自動的にアーシアを二人三脚の代表の一人へ。無論、巧を除いた男子達もそれに異論はない。むしろ、それが目的だ。

 

 アーシアの人気は、学年を問わずに高い。このクラスにはゼノヴィアやイリナといった人気のある生徒がいるが男子への人気ではアーシアが一位だろう。

 そんなアーシアと競技を通じて仲良しなりたい男子は少なからずいる。そんな彼等の共通のライバルは兵藤一誠ーー乾巧だ。

 

「なら、あとのパートナー役は」

 

 手を挙げた男子達へ女子生徒らの冷たい視線が刺さる。

 まぁ、要するに空気を読めやお前ら。という訳だ。

 アーシアが巧を慕っているのは、ある程度二人を見ていれば分かる事。アーシアは基本的に誰に対しても分け隔てない態度を取るが、巧へのそれは見れば分かるほどに違う。距離感などもクラスの男子とは比較にならないほどに近い、といった形で。

 問題はその相手ーー巧にあった。基本的に恋愛事に関しては戦闘中に見せる機敏さや洞察力は全く感じさせない。そんな朴念仁を振り向かせようと必死になるアーシアの背中を押してあげたくなるのは、もはや自然な事だった。

 

「兵藤ね」

 

 巧は自分が指定された事に驚き、先程まで手を挙げていた男子達が手を涙ながらに下ろしていた事に気付いた。

 聞くのも憚られた巧はクラスの面々により、アーシアとの二人三脚による体育祭の出場が決定した。

 

 

 

 

「いち、に、さん、しっ!」

「いち、に、さん、し」

 

 可愛らしいアーシアの声の後に巧の実に気怠そうな声が続く。巧達は今、体育祭本番に向けて二人三脚の練習をしていた。

 実を言うと、巧はこの競技の相手がアーシアで良かったと思っていた。個人種目ならいざ知らず、団体競技への参加となると、リレーなどを除いてはどうしても団結力が必要になる時もある。その時に、自分が居ると水を差しかねないと考えたからだ。

 

「イッセーさん、私もう少しなら速くできますよ」

「そうか」

 

 共に競技を行う相手が、気の知れた仲間ならば巧も幾分かは楽になる。常時、いつもの仲間を除いては松田や元浜や桐生意外とはほとんど会話をしない。そんな自分といきなり組まされる相手も大変になると、変な気を遣っていた部分もある。

 

「じゃ、行くぞ」

 

 アーシアに合わせていた足の速度を、巧は少しだけ上げた。すると必然的にアーシアは巧に合わせる形となり、元々近い二人の距離がさらに縮まる。自然な形で縮まる距離。巧は頰を赤く染めるアーシアには気付かずにグラウンドを走っていく。

 

 

 

 

 その日の放課後。巧達ーー巧、アーシア、ゼノヴィア、イリナはどう言う訳かアザゼルに呼ばれた生徒会メンバーの一人、匙と共に部室へ向かった。

 部室に入ると、既に巧達を除いたメンバーが集合しており、自分達が最後と気づく。巧達の入室を察知していたアザゼルは立ち上がり、全員の顔が見える位置へ。

 

「お前らに報告しておく事がある。今後の若手悪魔同士のレーティング・ゲームについてだ」

 

 途端に、皆の顔が厳しい物へ。皆、襲撃時の事を思い出していたのだろう。そんな皆を落ち着かせる為にアザゼルは話を進める。

 

「まぁ、分かってるとは思うが暫くの間、若手悪魔同士のレーティング・ゲームは中止になった。勿論、その間にプロのゲームは問題なく行われるがな」

 

 アザゼルの発表にリアスとソーナは納得した表情。他の皆も異論はない様子。特にリアスはまた同じ事が起きた時、誰がその対処をさせられるのかが容易に想像できていたから。

 

「それで、中止期間というのはどれくらいになるのですか?」

「具体的な時期が定まらないってのが上層部の本音だ」

「では、貴方の本音は?」

 

 ソーナの追求に思わず溜息を吐くアザゼル。どうやら、上層部が隠したい本当の部分を察知しているらしい。

 

「内通者が捕まるまで、だ」

 

 内通者、レーティング・ゲームの運営する者達を襲撃させて一時的にゲーム空間をテロリスト達に支配させる事に助力した者の存在。その存在にソーナは襲撃時の時点で気付いていた。

 それも内通者がそれなりの身分を持ち合わせている事も。

 

「やはり、そうなのね。内通者はテロリストと通じてる、と捉えるべきかしら」

「あぁ。それもそれなりに冥界に根付いた奴がな」

 

 リアスの推測にアザゼルが言葉を足して、より現実味のある話に。自分達の敵が、自分達の身内の中にいる事になる。より一層の警戒が必要になってくる、とアザゼルが締めくくり、その話は終わりを迎えた。

 

 話が変わり、体育祭に向けての話が行われる中で、巧の元に裕斗が近寄る。

 二人にのみ聞こえる声で、裕斗は呟く。

 

「僕は、この前の人の主が内通者だと思ってるんだ」

 

 先日、巧達が斃したビートルオルフェノクだった少女。元々悪魔だったであろう彼女がオルフェノクに自然に変異するとは考えづらい。けれど、アザゼル達の言う内通者が、あの少女の主人ならば辻褄は合う。テロリスト、延いては影山冴子らと繋がっている事にもなるからだ。

 

「あぁ……俺もだ」

 

 巧のその目には、まだ見ぬ内通者への確かな怒りが灯っていた。

 

 

 

 

 

 翌日の朝、巧はいつかのようにリアスに叩き起こされ、学園のグラウンドに居た。そこにはまだ眠気が残る巧と脚を二人三脚用の紐で繋がっているアーシア。他にはリアスと朱乃の二人が。

 二人はスターター役とストップウォッチを切る役を担うらしい。

 

「それじゃ……スタート!」

 

 パンッ! と脚を合わせながら徐々に速度を上げる巧とアーシア。本的な速度はアーシアに任せ、巧がそれに合わせると言う作戦だ。仮に巧に任せるとアーシアが付いてこれなくなり、二人三脚という形は成立しえないからだ。

 アーシアの基本的な身体能力は、悪魔に転生した事もあり平均的なだ男子高校生のそれと然程変わらない物へと上昇。

 その変化により、二人の速度はかなりの早さでゴールへ到達した。

 

「この速さなら問題はないわね」

「えぇ、息もぴったりでした」

 

 二人の褒め言葉に照れるアーシアとは違い、巧は特に反応を示すことは無い。女子三人はそれに何か言うわけでは無いが、変な間が生まれる。

 

「そ、それじゃあ、あと何本かやりましょう!」

 

 リアスの提案にはい! と力強く返答するアーシアと共に巧もスタートの位置へ。

 走る際とは異なり、ゆっくりと進む二人にリアスは溜息をこぼす。そんなリアスの心情を把握している朱乃も苦笑を浮かべる。

 

「アーシアちゃんの事ですか?」

「えぇ。あの時アーシアが断ったにも関わらず、ディアドラから何度もアプローチの手紙や品物が送られてきてね。イッセーは何も知らないし、アーシアには殆ど渡してないから」

 

 毎回から駒王町に帰った際でのディアドラのプロポーズ。あの時、アーシアは驚いてはいたものの、巧の顔を二、三度見てから断りの返答を返した。

 恐らくは巧に助け舟を出したつもりなのだろうが、当然巧がそんな事をするわけもなかった。

 どちらにせよ、断ったはずのアーシアの元には頻繁に冥界からの贈り物が届いている。最初の内はアーシアにも知らせていたが、その回数や頻度に女性として危険を感じ、本人には知らせない事にした。

 

「そうですわね。アーシアちゃんもそうですが、イッセー君には」

 

 なぜ知らせないのか、という質問を朱乃は途中で飲み込んだ。リアスや朱乃から巧に言えば、なんとか動くことはあるかもしれないが、相手が相手なだけに、巧の立場を悪くする可能性もある。今の巧は、冥界でも名前が知られていると同時に、一部の冥界メディアーー上層部の年齢の高い悪魔らーーからは非難の声も出ている事を、リアスはアザゼルから聞かされていた。

 

「それに今回の相手なら、私が表立って相手にした方が都合がいいわ」

「分かりました。では、私も『女王』として全力のサポートをさせていただきますわ」

 

 三年生二人は、もう一度走り出そうとする後輩の男女が共に居られる時間を守るために動き出す事になる。

 

 

 

 

 

「へぇ、イッセー君とアーシアさんで二人三脚か」

「まぁな。で、お前は」

「僕は学年対抗のリレーに。確かゼノヴィアも出場するって聞いたけど」

 

 放課後、同じクラスの面々や偶々廊下で合流した裕斗らと共に部室に向かう最中。裕斗と巧は体育祭の話となり、今朝起こされた話をしていたところだった。

 二人の前を女子三人組が歩き、三人の会話を他所に男子は男子で会話を続けていた。

 

「あぁ、そう言われればな」

 

 悠人の言葉でゼノヴィアがクラスの女子に頼まれて、リレーのクラス代表の一人になった事を思い出した。

 因みに巧は、アーシアとの二人三脚が無ければ、リレーに強制的に参加だった、と桐生に言われた。

 それはそれで気が楽だったが、二人三脚も相手がアーシアだった事もあり、悪く無いと素直に思えるようになっていた。

 自然と柔らかくなる表情は、普段の仏頂面もあって、何倍も魅力的な物に映る。隣を歩く裕斗は、この顔をリアスや朱乃やアーシアにも見せてあげればいいのに、なんて感想が出てくる。

 

 下駄箱で靴を履き替えて、旧校舎は向かう五人。

 その中で、裕斗と巧だけが違和感を察知。

 旧校舎のある方向に感じたことのない魔力と、感じたことのある魔力の増大が。

 その一つはリアスの物だった。

 

「まさか」

 

 即座に裕斗と巧が旧校舎へ駆け出す。

 それを見た女子三人も二人を追う形になる。

 獣の如き反射神経を誇る巧と仲間内では最速を誇る裕斗は、ものの数秒で旧校舎前に到着。

 ここで二人は一息つけた。

 この中で、何か危険な事が行われていないとかを把握できたからだ。

 一瞬、敵ーーそれもオルフェノクによる物を想定した二人。特に巧は、ファイズである自分やその周囲の者たちは襲われる可能性が高いと考えていた為に、その反応も大きかった。

 

「どうしたの二人とも!」

「急に飛び出して」

 

 イリナとゼノヴィアの指摘に、裕斗が敵かと思ったと素直に答える。

 

「イッセーさん、大丈夫ですか?」

「問題ねぇよ。……気にすんな」

 

 戦闘は無い筈なのに、嫌な予感が拭いきれない巧を見上げる形でアーシアが問う。漠然とした不安のために、下手に煽る様な事も言えなかった。アーシアから見れば、丸わかりの誤魔化しの言葉を使う。

 巧が先頭に立って、旧校舎に入り、部室へ向かう。

 

 部室の扉の前に立って、深呼吸をしてから扉を開ける。

 その先には巧の嫌な予感が的中する出来事が。

 

「……アーシア、よく来てくれたね」

 

 巧たち、というよりもアーシアを歓迎する様に立ち上がってから歩み寄る美少年。

 その美少年からは、どこか執着心にも似た何かを纏った視線がアーシアに注がれる。

 

「ディアドラ、話は終わってないし……何より、アーシアに近づくのは辞めなさい」

 

 美少年、ディアドラの動きを止めるべく、いつもよりも怒気を含ませた低いリアスの声が部室に響いた。

 いつも優しい落ち着いたリアスとは異なる態度や言動に唾を飲む、イリナとゼノヴィア。

 部屋の温度がいつもより低く感じた巧の手を、そっと掴む小さな手。

 手の持ち主、アーシアはいつかとは違い、不安で折れそうになる自分を奮い立たせるべく、巧の手を掴んでいた。

 

「イッセーさん、私に勇気をください」

 

 巧にのみ聞こえた声。その手から少しの震えを感じる巧は、アーシアの手を離すことはしなかった。

 

 繋がれた二人の手を、ディオドラは細めていた目を軽く開き、捉えていた。

 そして、巧に確かな怒りと嫌悪の視線を向けていた。




今回はあっさりしてますね。
次回はディアドラ君とのご対面。今作はゲームが中止になってるが故の展開が!?
以前から話していた原作コラボのお話の時期が決定しました。
その辺も、予告編的な物を作るのでお楽しみに!

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