ハイスクールFaiz〜赤い閃光の救世主〜   作:シグナル!

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3話です。
何気に10000字を超えました。


新たな仲間

「ふぁ……眠い。 ったく、リアスの奴…」

 

早朝、巧は欠伸を噛み殺しながら、小声でリアスへの小言を口にして駒王学園に向かっていた。

既に兵藤一誠の体は悪魔になっているという事実を聞かされた。その後、悪魔の仕事として人間の願いを叶えるという仕事に駆り出されたのだった。

この街でリアスたちの使い魔と呼ばれる者達が人間に変化して、小さな紙を配っており、その紙を受け取った人物がその紙に願いを念じると、その願いに呼応して、魔法陣に変化して、そこから悪魔が現れ、召喚した人間の願いを叶えるという仕組みである。

それに則り、巧もやる気はなかったが、リアスには借りがあり、それから逃げるのも癪だと感じ、その仕事を引き受けたのだが…。

結果は惨敗だった。

呼び出されて、魔法陣で向かったはいいが、そこからの会話を繋げることが出来ずに…呼び出した人間も巧も両者無言のまま帰還した。

その事実をリアスにそのまま伝えると、溜息をつかれ、リアスにビシビシと指導を喰らった。

それが思いの外長く、寝る時間が少ないまま、登校の時間となった。だからこんなにも機嫌が悪いのであった。

 

「でも…こいつはあの紙に願ったから…リアスの眷属になれたのか…」

 

巧は呟きながら、自分の掌を見つめ、ぎゅっ!と握りしめる。

その言葉通り、死する前に一誠は先程の願いを叶える紙を受け取っていたようで、堕天使に腹部を貫かれ、死する直前にその紙にリアスを呼ぶような願いを念じ、その願いに呼応して、リアスが現れて、そのまま一誠を眷属にする事に成功した…。

これが巧の知る、兵藤一誠の最期。

その後は何故か、そんな一誠に自分が憑依して、今の状態に至ったという事だった。

それに巧にはもう一つの疑問があった。

自分の今の体についてだ。

今の巧はオルフェノクの姿にもなれるが、悪魔でもあると言う状態だ。

そんな巧の疑問を駆り立てた一幕を思い出す。

 

『気がつかなかった。もう既に悪魔になっていたなんて…』

 

『ここまで悪魔としての存在が希薄になるとは気が付きませんでしたわ』

 

『…気がつきませんでした』

 

祐斗、朱乃、小猫の三人は、巧が既に悪魔であると言う事に気づいてはいなかった。

3人とも事実を聞いて、驚きを隠せてはいない様だった。

朱乃の口ぶりからして、悪魔になると他の者が悪魔かどうかなどを理解できる様になる、と言ってるようにも聞こえた。

 

ーー俺がオルフェノクだからなのか?

 

巧は握りしめていた掌に込めていた力を抜いていく。

力を抜いた指はじわじわと広がっていき、数秒後には掌を広げた状態に近いものになった。

オルフェノクとは短命という運命を背負っている。

人間からの異常なレベルでの急激な肉体の進化。

それらは人間ベースの体では到底ついて来られないような進化。

人間としての体がオルフェノクとしての力についてこれず、やがては体が持たなくなり、そのまま命を落とす。

これがオルフェノクの運命だった。しかし悪魔の体は人間の何倍も強い力を有し、人間では耐えることの出来ないオルフェノクの力も悪魔ならば、耐えられるのかもしれない。

それでもオルフェノクの力は強いため、悪魔としての存在が希薄に思われるのではないだろうか?と仮説を立てるがそれが正解かとは分かるはずもなく、巧は空を仰ぎ見る。

巧が見た空は青く、どこまでも広がっているような美しい空。

こんな綺麗な空を見たからか、難しい事を考えないで無心になって空を見てた。

そんな巧の背後から聞いたことのない声が聞こえる。

 

「うう! なんで、何もないところで転んでしまうのでしょうか。 これも主の与えてる試練なのでしょうか?」

 

声から聞こえるのは少女の声で、どうやら道に躓いて転倒してしまった様子。

主…この言葉が神を指す言葉とは知らずに、その少女の方を振り向く。

巧の目に映ったのは、道端で手に持っていたであろう、大きめのバッグの中身を地面に散らかしており、その少女は天に向けて両手を合わせ、祈りを捧げていた。

見るからに宗教信者だと気付いた巧は、足早にその場から立ち去るか、少女の荷物を取るべきか?という二択を考えてきたが、ここで彼女を見て見ぬフリするのは、後味が悪くなりそうなので、取り敢えず彼女の散らかった荷物を纏める為に、彼女に向けて歩きだす。

巧が近づいても気づかない様なので、先に荷物を纏める事にした巧は、腰を降り、そっと彼女の散らかった荷物を一つに纏める。

服などが主に入っていた為に彼女はこの街の観光客か何かなのかという考えが頭を過ぎったが、彼女の服装を見てみると明らかにキリスト教系の信者である事を察した。

シスター服に顔を覆うようなローブ。

ローブの先からは少しだけ綺麗な金髪を覗かせる。

ーーあん時の帰り道に…教会があった様な…。

巧が思い出していたのはスティングフィッシュオルフェノクとの戦闘の帰りに自分が通った道の近くに教会があった事だった。

この少女がいるという事はあの教会はまだ使われているという事になる。

 

「…おい、お前」

 

「きゃっ!!」

 

荷物を纏め終えたが、一向に祈りを止めない少女に後ろから声をかける。

いきなり巧の声が聞こえた事により、体を震えさせて、少し大きめの悲鳴に似た声を上げる。

とはいえ、巧も後ろからいきなり声をかけたので、驚かれたことに関してはなんとも思わなかった。

無言で少女に荷物を手渡したので、そのまま学園に向かおうと、足をまっすぐに伸ばして、そのまま立ち去ろうとした瞬間ーー

 

「ありがとうございます」

 

「別に、気にしなくていい」

 

後ろの少女からのお礼の声が聞こえ、思わず振り返る。

その瞬間、風が強く吹き、巧の少し長めの茶髪は風に靡く。

目の前にいたシスター服の少女が被っていたローブはその風により、彼女の手元を離れてゆき、そのまま地面をコロコロと転がって、何処かに行ってしまいそうになる。

 

「まっ、待って! ……きゃっ!」

 

そんなローブを追いかけて少女は、その場から駆け出すが、運動に慣れていない。そう主張するような走り方でローブを追いかける。けれど風に靡くローブの方が早く移動をして、彼女の元を去っていこうとする。

少女は必死で走るも追いつかず、自分の前に出した足と、後ろの足が縺れてしまい、前のめりになって倒れそうになり、目を瞑るが…前から、誰かが支えてくれる感触がして目を開ける。

 

「あ…」

 

「これ、あんたのだろう?」

 

「二度も助けてもらい、ありがとうございます」

 

目を開けると、そこには巧がおり、自分の前に倒れそうな体を左手で支え、もう片方の右手には飛んで行ってしまっていたローブを握りしめていた。

巧からローブを受け取った少女は、それを再びシスター服に取り付ける。

巧は目の前に現れたのは長く綺麗な金髪の髪、ライトグリーンの瞳を持った可愛らしい少女。そんな少女のおっちょこちょい振りを見て、かける言葉が見つからなかった。けれど、特に要件はなかったのでその場から離れようとする。

 

「じゃあな…」

 

短めに言葉を伝え、その場から離れようとするが、そっと自分の制服の袖を掴まれた様で振り返ると、先程の少女が巧の制服の裾を掴んでいた。

 

「二度も助けてもらって悪いのですが…。 教会までの道が分からないんです…助けてもらえませんか?」

 

少女は顔からして、困ったと言わんばかりの様子で巧の顔を見つめる。

少女の顔を見て、足を半歩引く。

 

「俺はこの辺の道をあまり覚えてない。そんなに日本語が喋れんなら、他の奴に聞けばいいさ」

 

そう言って、その場から立ち去るつもりが、次の言葉で巧は足を止める。

 

「あの…? 私は日本語は喋れる事が出来ないのです…?」

 

巧は自分の耳を疑った。

今こうして聞こえてくる声は日本語の筈。

しかし、目の前の少女は日本語を話せないと言った。

勿論、巧も英語が達者に話せる訳ではない。

結果として巧は悪魔の力があるのでは?という結論に至る。長めの茶髪の襟足を掻きながら、口を開く。

 

「分かった。おれもうろ覚えだけどなんとかなるだろ」

 

ファイズフォンで時間を確認。現在の時間からして遅刻する事も覚悟しつつも、目の前の少女を自分の記憶を頼りに送り届ける事に決め、その場から歩き出そうとした。

 

「あっ…ありがとうございます!わ、私はアーシア・アルジェントと言います」

 

一歩を踏み出した瞬間に、アーシアは自分の名前を巧に伝えた。それを聞き、顔をアーシアに向ける。

 

「兵藤一誠だ」

 

そう短く、アーシアに名前を伝えた。

アーシアは歩き出した巧に追いつくように歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセーさんは、この近くにお家があるんですか?」

 

「ああ…」

 

教会を目指し始めて十分程が経ち、巧達は目的の教会に向かって確実に近づいていた。

アーシアは歩きながらではあるが、巧との会話を行っていたが、巧自身は、コミュニケーション能力の低さを分かっている為か、あまり自分から話しかけはしない。

逆にアーシアが巧に聞きたいことを聞いて、それに答える。そんな形で二人は歩いていた。

 

「うぇぇぇん!!! 痛いよ?!!」

 

二人の耳にこともの鳴き声が聞こえてきた。

どうやら、二人の歩いている道の右側にある公園で、子供が泣いているようだった。

よく見てみると、膝からが擦りむいており、そこから血が出ている。

どうやらこの子供はその痛みにより、涙を流していたのだ。

 

「男の子がこんな事で泣いてはダメですよ? ……ほら、これで治りましたよ」

 

アーシアはその子供を見た瞬間に、その場を離れ、子供の側に駆け寄り、その場で座り込み、子供に顔を近づけながら、慰めの言葉をかける。

次の瞬間に巧は言葉を失った。

アーシアは少年が足を擦りむいた部分に両手を翳す。数秒するとアーシアの両方の中指から指輪が出現。彼女の瞳と同じ色のライトグリーンの光を放出させ、子供の怪我は数秒たらずで消え去り、完治したのだ。

 

「ありがとう! お姉ちゃん!!」

 

その子供は怪我が消えてから、笑顔でアーシアに向けて礼を告げる。

しかし、その子の後ろから保護者が現れ、その子供の手を引っ張って、何処かに行ってしまった。まるでアーシアから急いで離れる為に。アーシアに向けられた視線。

それは巧にも覚えのあるーー化け物を見るような目。

明らかに人間を超越した力を持つアーシアと、オルフェノクである巧。

この二人が出会ったのは必然なのか、またまた偶然かーー

 

 

「イッセーさん、いきなり止まってしまってごめんなさい」

 

アーシアは保護者の視線が刺さって、その場で立ち尽くす。

数秒間、彼女は立ち尽くしたままだっが、すぐに巧に顔を向ける。

巧はアーシアが自分に向ける笑顔にぎこちなさを感じていた。

 

「ああ…。 そろそろ着くからな」

 

そのぎこちなさを口には出さず、そのまま歩いて行く。

この後、二人は一言の会話も交わさなかった。

 

 

 

 

 

「着いたな…。 彼処が教会だ」

 

道を先導して歩く巧の視線には山の中から顔を覗かせる教会が建っていた。

アーシアはその事実に顔を笑顔に変えた。

 

「イッセーさん。ありがとうございます。 その…御礼などをさせてもらえませんか?」

 

アーシアからの提案だったが、巧はこれを断るつもりでいる。

大体、悪魔である自分がシスターのアーシアに関わる事は良いことではないだろう。

それに時計を見ると、そろそろ急がなければ学園に遅刻してしまう時間帯に入りつつあった。

これらを理由に巧はその場から去る事にした。

 

「…別にお礼が欲しかったわけじゃない。それに俺もこの後に用事があるからな。 じゃあな」

「ありがとうございます、イッセーさん!

また教会に来てくださいね!!」

 

立ち去ろうとする巧にお礼の言葉を掛けるアーシア。

振り返る事もなく、巧は歩きながらそっと右手を上げて、その場を立ち去った。

この風景を一匹の小さなコウモリが監視をしていた事に巧は気づく事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く…巧さん。 貴方は悪魔なのよ? それを自覚して頂戴」

 

放課後のリアスたちの根城ーーオカルト研究部部室では、リアスに説教をされる巧という風景が広がっていた。

 

「別に…道に迷ったアイツを俺が適当な場所まで送っただけだ。 お前に文句を言われるような事はしてない」

 

部室には二人しかいない為、リアスは巧をそのままの名前で呼んでいた。

リアスにアーシアを送った行動を咎められ、巧なりの反論で返す。

 

「巧さん。 教会には悪魔祓いを使える者がいるのよ。

もしも、私達が悪魔祓いを受ければ…死は免れないわ。人間の死しか知らない貴方にとっては、わからないかもしれないけど…。悪魔祓いを受けると、何も感じずにその場で死ぬの」

 

人間としての死…。

巧はリアスに自分がオルフェノクである事だけは話してはいなかった。けれど、巧は多く人の死を目の当たりにしていた事を知ってたリアスはこの言葉を使ったのだった。

巧も自分の身を案じてくれるリアスに何か言うつもりもないが、一つだけ聞きたいことがあった。

 

「リアス…。人間なのに、人間業じゃねえ事が出来る力を知ってるか?」

 

アーシアのあの力に関することだった。

傷を元どおりに直すなんていうのは医者でも難しい事だ。

それをあっさりとやってのけるアーシアの指輪の力は一体なのか?という謎を知りたい巧は顔をリアスに向けて、質問をする。

 

「それは神器ね。 神が人間に与えた力よ。その能力は様々な物があるわ。特にその中でも神をも消し去ることのできる上位クラスの神器を神滅具と言うわ。それがどうかしたのかしら?」

 

「……いや、何でもない」

 

セイクリッド・ギアーー聞いた事のない単語だったが、それがアーシアの力の秘密である事は理解でき、巧はその場から立ち上がろうとした瞬間のことだった。

突然扉が開き、黒髪の少女ーー朱乃が入ってきた。

 

「部長、この町にはぐれ悪魔が侵入してきました」

 

朱乃のいつもよりも少し低めの声が部室に響き、リアスの顔を真剣な物に変わっていた。

 

「……はぐれ悪魔ってなんだよ…スライムみたいなもんか?」

 

巧はなんとなくの適当な予想を口に出してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ。やはり人間の肉は美味しいねぇ…」

 

先日のスティングフィッシュオルフェノクとの戦闘を行った建物で、何かを口にしている咀嚼音が響く。

それはまるで食事を行っている時の様だ。

はぐれ悪魔のバイザーは、口に入れた人間の死体を飲み込んで、一息ついた。

はぐれ悪魔…元は、自らの主人を持っていた下僕悪魔だったが、主人を殺したり、主人の元を去り、その後人を襲うような悪魔を指す言葉。

バイザーは、次なら獲物を捕らえようとその建物から、出ようとした瞬間のことだった。

 

「あら? もう、こんなに人間を食べてしまったのね。

私たちの仲間を増やす機会を潰すなんて…バカな娘」

 

バイザーの視界に入ってきたのは、一人の人間の女性。

長い黒髪をもち、服装はジーンズにワイシャツのみという服装だが、それは自分のスタイルの良さを引き立てる為のものであり、スタイルだけでなく、その女性は顔も整った美人と言えるだろう。

 

「新しい餌が自分から来てくれるなんて…ありがとうねぇ!!」

 

現れた新しい餌に食いつこうと、体を前に寄せる。

バイザーに近寄られた女性は一歩も引かずにその場で立ち続ける。

その顔からは恐怖なんて物を一片も感じられない。

自分の姿を見ても驚かずに、恐怖心を抱かない目の前の女性に怒りが現れる。

まるで自分を見下したような笑みを浮かべ続ける目の前の女性を殺そうと、自分の大きな前足を振り上げた時ーー

 

「私たちの実験に付き合ってもらうわ。 果たして悪魔が我々、オルフェノクの器として使えるのかーーそれが王の復活に繋がるのかを」

 

女性の顔から笑みが消え、冷たい物となった。

バイザーはその微妙な変化に気付かずに、そのまま足を振り下ろす……が、相手を踏み潰せた感触はせず…次の瞬間には自分の前足から激痛が走った!!!

 

「うぎゃぁぁぁぁ!!!! 痛いぃぃぃ!!!!」

 

その痛みから、体のバランスを保てずに後ろに転倒する。

ズシィィィィンという地鳴りが響く。

痛みに耐えられずにのたうち回っていると、自分の足元に居たはずの女性が目に入る。

しかしその女性はすでに人間の姿では無かった。

灰色の基調とした体を持つ怪物ーーオルフェノクに変化していた。

そのオルフェノクの名はロブスターオルフェノク。

 

「あっ…ぁぁぁぁ!!!?!?」

 

次の瞬間、バイザーの意識は奪われる。

ロブスターオルフェノクが手に持ったスピアーで、バイザーの心臓を貫いたからだ。

バイザーはこうして呆気ない死を遂げた。

 

「貴方がオルフェノクになれたら…。王の復活は格段に近づく。 あとはあの堕天使ちゃん達にも伝えないとね…」

 

人間の姿に戻った女性は再び闇の中に紛れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぐれ悪魔っていうのは、僕らみたいに主人を持っているのに、その主人を裏切ったり、殺したりして逃げる悪魔の事を指すんだよ」

 

巧達は朱乃の話を聞いてから、祐斗と小猫を呼び出して、すぐにはぐれ悪魔の居場所に魔法陣を介して移動をした。

巧はそこに見覚えを感じていた。

不意にリアスに視線を向けると、リアスも巧のデジャブを感じ取ったのか、説明口調で話す。

 

「ええ、ここは確かにこの前の所よ」

「…ここに本当にはぐれ悪魔っていうのがいるのか?」

「ええ…。 人間を襲っているという情報もあるわ。急ぎましょう」

 

巧は人間を襲うという言葉を聞いて、ファイズギアの入っているショルダーバックをしっかりと持ち直し、歩き始める。気合いを入れる巧の肩をリアスはそっと触れる。

 

 

「そんなに気負わなくていいわよ、イッセー。 今回ははぐれ悪魔ですもの。貴方には悪魔の駒の説明や特性についての話もしてなかったのだから」

 

イーヴィル・ピース。

巧は、聞いたことない単語で頭を悩ませれるが、小猫に腰の部分を叩かれ、少し遅れていた歩調を速め、前に進んでいたリアス達に追いつく。

 

 

「そうね、悪魔の駒とは、上流家庭の悪魔、爵位のある悪魔に配られる眷属を増やす為の駒よ。 それにより、爵位持ちの悪魔は眷属を増やすの。イッセーは、チェスを知ってる?」

 

建物内を歩きながら、リアスの解説コーナーが始まる。

リアスの質問にうなづく形で答え、説明の続きを待つ。

 

「そのチェスに則って、それぞれの駒の特性をその眷属は手にする事ができる。僧侶ならば、高い魔力、騎士ならば、圧倒的なスピード。戦車ならば、凄まじいパワーに防御力。女王は、全ての駒の特性を扱える最強の駒よ」

 

リアスは、自分の眷属を見つめながら説明を行った。

巧は小猫が戦車である事を初めて知り、彼女にそんな力があるのかを疑ったが、先ほどのパンチの痛さを思い出し、それ以上は口に出さなかった。

 

「…おかしいわね。 この屋敷にはバイザーの魔力が感じられないわ」

 

リアスが最初の部屋の中心部分でそんな事を呟いた。

その一言で皆にも緊張が走る。

そんな中、巧は自分たちの頭上から嫌なものを感じていた。

まるで…自分と同じ何かが生まれようとしている。

何かが空から降ってくる…そんな嫌な予感がして、天井を仰ぎみる。

すると…天井の壁の一部からは亀裂が生まれていた。

ーーまさかっ! バイザーはオルフェノクに!?

 

「リアス! 三人を連れて逃げろ!!!! 」

 

巧の声が建物に響くと同時に天井が壊れ、空からはエレファントオルフェノクが降ってきた。

エレファントオルフェノクが、地面に落下し、その衝撃に足をシビレさせる。

いきなりのオルフェノクの登場に、祐斗や小猫や朱乃は顔を困惑に染めていた。

 

「うぐわぁぁぁぁ!!!」

 

エレファントオルフェノクの体がバイザーの体に一瞬、戻ると再びエレファントオルフェノクに変化した。

その後もこれが交互に行われる。

光が点滅するようにバイザーの体とオルフェノクの体が入れ替わっている。

 

ーーこいつ、まだ完璧にオルフェノクには変化できないのか?

 

苦しみながら、今なお変化を続けるバイザーを見て巧はこれを使徒再生と予想していた。

オルフェノクには二種類がいる。

一種類目がオリジナルと呼ばれ、人としての死を迎えた後にオルフェノクに覚醒するという種類。

もう一種類が使徒再生と呼ばれる物。

オルフェノクに殺された者が、その後オルフェノクに覚醒することを指す。

オリジナルは使徒再生よりも強いが、オリジナルは数が少なく、使徒再生によりオルフェノクになる者が多い。

目の前のバイザーを殺したオルフェノクが何処かにいる。

しかし、今そんな事を考えている時間はない。

巧は急いで、バッグに入れてあるファイズギアを取り出そうとショルダーバッグに手をかけた、その時だった。

 

「危ない、イッセー君!!!」

 

自分に危機を知らせる祐斗の声が聞こえ、前を向く。

するとそこにはエレファントオルフェノクの巨大な尻尾が迫っていた。

飛び越える事は不可能と判断し、体を前に転がして、尻尾の軌道上よりも下を潜り抜け、一息ついた瞬間だった。

 

 

 

エレファントオルフェノクの尻尾の攻撃により、腰を右から左に動かしたことにより、右足が巧を狙う様に向かってきており、その距離はすでにゼロに近い。

流石に巧もこの距離は避けることが出来ない。

ならば、と巧は行動を取った。

回し蹴りの要領で向かってくる右足と自分の体が接触を起こす前に、両足に力を込めて、後ろに向けて跳んだ。

前ではなく後ろに跳躍し、一秒後に巧の体とエレファントオルフェノクの右足はぶつかり合い、その体を壁に叩きつける。

壁に叩きつけられはしたが、自分を襲う衝撃を和らげていた事により致命傷は避けられた。

手を壁に添えながらも立ち上がる。そこで巧は今の自分の体の異変に気付いた。先ほどの攻撃による痛みが少ないのだ。

オルフェノクである巧の体でもそれなりの痛みがあると覚悟していたが自分の体の痛みが数秒で取れたことに驚く。

 

「…喰らえっっ!」

 

「魔剣創造!!」

 

エレファントオルフェノクの猛攻を許した小猫と祐斗だったが、二人は巧が難を逃れた事を確認した後に、自分のいた場所から走り出した。

祐斗は右足、小猫は左足にポジションを取る。

朱乃はエレファントオルフェノクの陽動を引き受け、悪魔の羽を生やし、できるだけの視線を集めていた。

リアスもまた、朱乃と同じように出来るだけ、攻撃が直撃しない間合いをギリギリ保ちながら、エレファントオルフェノクの注意を引きつけていた。

 

「今よ! 三人とも!!」

 

リアスの声が三人の耳に聞こえた瞬間、攻撃が放たれる。

祐斗は炎を生み出す魔剣を両手で持ち、右足に出来るだけの衝撃とダメージを与えられるように、一撃目に水平切りと、二撃目には上段切りを放つ。

炎を纏った攻撃であった為に、エレファントオルフェノクの体にうっすらと十字架の跡が残る。

 

「吹っ飛べ…」

 

祐斗の斬撃が左足に強襲した、一秒後。

小猫は両手で右足を持ち上げて、戦車の力を最大限に引き出す。生み出した力で巨大な体を誇るエレファントオルフェノクの体を一瞬浮かせる事に成功した。

そこから身体の重心移動と相手に体制を整える時間を与えないように素早く手を離す。

小猫のハンマー投げにも似た攻撃により、体の重心が地面に近くなり、そのまま巨大な体を残った後ろ足の二本の足で支えることは出来ず、地面にひれ伏す。

 

「あらあら、うふふ! これで終わりですわ!!」

 

「吹き飛べっっ!!」

 

先ほどまで、自分たちの視界の殆どを奪っていたエレファントオルフェノクは地面にひれ伏している。

悪魔の翼を生やし、空を飛んでいる朱乃とリアスは、それぞれの魔力攻撃の準備を始める。

しかしリアスには一つの不安があった。

 

ーー私の魔力でこのオルフェノクを倒せるの?

 

先日のスティングフィッシュオルフェノクにはドッチボール程度のサイズではあったが、自分の滅びの魔力は致命傷には至らず、ただの火傷程度で済まされてしまっていたという事だ。

けれど、今の目の前にいるのは巨大な敵だ。

これならば最大の力を込めて撃てる。

五メートルをゆうに超えている目の前の敵が地面に倒れている以上、外す訳がない為に朱乃とリアスの二人はエレファントオルフェノクにむけて手を向ける。

二人の魔力が最大限まで上がると、リアスからは先日とは比較にならないほどの大きさの魔力攻撃が、朱乃は巨大な雲から生まれた雷を魔力により創り出し、それらは見事に混ざり合い、そのまま地面にひれ伏しているだけのエレファントオルフェノクの体に命中し、火花を散らす。

 

「朱乃! 全力を込めて!!」

 

「分かりましたわ!」

 

自分から少し離れた距離にいる朱乃に声をかけて、消滅の魔力に込める力を強める。

朱乃もそれを見て、自分が放つ雷の威力を強める為、さらに魔力を注ぎ込んだ。

それから数秒が経ち、二人は息を途絶えさせながら、天井から地面に着地する。

 

「部長、お疲れ様でした。 それとイッセー君がまだ…」

 

 

「あっ…そ、そんな…」

 

地面に着地すると、祐斗はすぐに自分に駆け寄り、声をかける。

しかし、リアスは祐斗の後ろにいる、エレファントオルフェノクが立ち上がろうとするのを見て言葉を失う。

リアスの様子を不審に思った祐斗が後ろを振り向く。

朱乃や小猫も、自分たちの全力攻撃を食らっても倒せないエレファントオルフェノクに驚きの表情だったが…。

 

「お前ら、下がってろ!!」

 

こちらに向けて、前足を利用し、踏みつぶそうとしてくるエレファントオルフェノクに身構えるが、後ろからは巧の声が聞こえた。

 

『Standing By』

 

「変身!!!」

 

『Complete』

 

自分たちに向けて振り下ろされたエレファントオルフェノクの前足を変身を完了させたファイズが受け止める。

両手を交差させ、力を込めて踏ん張る。

そんな力を込めていても支えるのが精一杯であった。

 

「お前ら…っっ!! 下がってろ!!」

 

巧の必死な声からリアスは悔しいながらも、じぶんたちでは足枷にしかならない。

その事実を受け止め、朱乃達と共にその場から退く。

巧もリアスたちが移動し終えたのを確認し、巨大な前足を支えていた両手の力を抜いて、体を前に倒し、前転により移動を行う

支えを失った右足の前足は勢いよく地面に突き刺さり、クレーターを作り出していた。

リアスはもしもあのまま巧が受け止めてくれなかったら…と考えてしまい、頭を横に振る。

そしてあの赤い閃光の勝利を願う事しか出来ない自分を情けなく思った。

 

 

 

 

 

 

「グォォォォン!!!!」

 

未だ自分の意識を保っていないエレファントオルフェノクはただ自分の力のままに体を動かし、目の前の敵であるファイズを踏みつぶそうとしていた。

 

「……」

 

ファイズは自分の力に飲み込まれ、ただ暴れているエレファントオルフェノクに視線を向ける。

 

ーーこいつも…力に飲み込まれなきゃ普通に生きたかったのかもな…。

 

力に飲み込まれる前のバイザーを知らない巧は、ここで倒さなければ、今よりも大きな犠牲が出る事だけは分かっていた。

だから、自分が倒す。

その罪はリアスや他の者には背負わせない。

戦うという罪は自分が背負う。

そう決意を込めて、右手首をスナップさせて、前に駆け出した。

助走を付けて、勢いよく跳躍を行う。

エレファントオルフェノクが上の階から落下してきたことにより、天井に穴が開きっぱなしだったので、跳躍をして体が天井にぶつかる心配もない。

ファイズは最高地点まで飛ぶと、そこで一瞬の静止ののちに再び落下をし始める。

エレファントオルフェノクは空から降りてくるファイズが視界に入らずに、自分の体に乗り込んできた際に、ファイズの居場所に気づき、ファイズを落下させる為に体を大きく揺らすが、全力でしがみついているために中々、地面への落下はしなかった。

 

「うらぁ!! 」

 

背中に乗った状態から、全力の力を込めて、背中を殴る。

それも一度や二度ではなく、何度も何度も殴る。

 

「グォォォォン!!!! グギァァァ!!!」

 

先ほどまで、同じような鳴き声だったものが、少し変化して、ファイズ自身も自分の攻撃が体の内部にまで届いた事に気がついた。

そこで一瞬、エレファントオルフェノクの体にしがみつく為の両手に込める力が弱まり、その際に、体を揺さぶられてファイズの体は地面に落下する。

 

「痛っ!!」

 

思ったよりも痛みがあったようで、思わずそう言ってしまうが、座り込んだ体制のまま、ファイズドライバーの側面についているファイズポインターに手を掛ける。

カシャという金属音と共にベルトから解除し、横向きに換装されているファイズフォンの中央に位置する部分にある、ファイズの顔を思わせるマークで出来たメモリーを抜きとり、ファイズポインターにある窪みに差し込む。

 

『Ready』

 

ファイズポインターはデジタルトーチライトの形から、先端部分が前に突き出たような形となり、右足首についている固定部分に取り付ける。

ファイズはそこで立ち上がり、横に向きになっているファイズフォンを開き、Enterボタンを押す。

 

『Exceed Charge』

 

その音声と共にファイズドライバーの縁から、ファイズポインターに向けて、フォトンブラットが伝わる。

何時ものように、溜めの動きを行い、勢いよく駆け出し、そのまま天高く跳躍。

その場で一回転をし、その際に足を前に突き出す。

ファイズポインターからは赤い光、ポインティングマーカーが飛び出し、エレファントオルフェノクを捉える。

 

「やぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

そのまま必殺のクリムゾンスマッシュがエレファントオルフェノクに突き刺さる。

数秒後に、地面に着地を決め、そっとエレファントオルフェノクがいた方向を向く。

体の崩壊と共に古代ギリシャ文字のφが赤く示されており、何時もとは違い、青い炎を発生はさせずにそのまま灰となってエレファントオルフェノクーーバイザーは今度こそ本当にこの世界から消えた。

 

 

「ふぅ…」

 

一息ついてから変身を解除し、そのままショルダーバックにファイズギアを押し込む。

その際にリアスたちはただただ、呆然としながら、巧をみつめていたが…。

 

「イッセー君」

「…ヒーローみたいでした…」

 

 

小猫や祐斗がその場から帰ろうとする巧を離さないと言わんばかりに話しかけてくる。

巧は彼らとはそろそろ関わりを絶つべきだとも考えていた。

オルフェノクとの戦いでは、彼らも危険にさらす。

先程のリアスたちの攻撃の際に何もせずにいたのも、オルフェノクに対する諦めのようなものを持って欲しかったのかもしれない。そうすれば、自分には関わってこない。巧はそう考えていた。そういう考えでいたが、リアスたちは離れるどころか、こうして近づいてきたのだ。巧はそんなリアス達の存在を嬉しく思っている自分がいる事に、気付く。少しだけ口元が上がるのを止めずに少し不器用だが、確かに笑顔を浮かべている巧がそこにいた。




ガイムの方の投稿すらしてないのに…。

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