ハイスクールFaiz〜赤い閃光の救世主〜   作:シグナル!

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久しぶりの投稿になって、原作の数ページ分しか進めていないとは…。


疫病神

 私は目の前の状況を、まるで空から俯瞰して眺めていた。

 この違和感に私は気づく。

 

 ーー夢、ね。これは

 

 夢ということに気付いても、目の前の状況から目を逸らさない。

 

 百、千という数では聞かない程の兵隊、まるでファイズに似たベルトや装甲を纏う戦士たちがたった二人を囲っていた。

 

 一人は、見たことない女の子。顔立ちからして私たちとそこまで離れた年齢では無いと思う。

 もう一人は、今の私や仲間たちならとても信頼できる戦士、ファイズ。その立ち姿や佇まいが今の巧さんに、私には重なって見えた。

 

 やがて兵隊たちは痺れを切らしたかのように、一斉に二人にというよりかはファイズに向かって突進した。

 あまりにも差がある戦力。夢の中であるというのに加勢したくなるがやはり何も出来ない。

 何も出来ないまま、ファイズの孤独な戦いを見守ることしか出来なかった。

 

 ファイズは一人であるというのに、無数の兵隊に立ち向かい続けた。それでも相手は、その力を超えるほどの『数の暴力』をファイズに、巧さんに振るう。

 

「……っ!?」

 

 バイクを巧みに操る兵隊達が持っていた銃の様なものから光弾を放つ。何回も続いた光弾の雨は、ファイズを何度も捉えた。

 続けざまに振り続ける光弾の前にファイズの体からベルトが外される。

 

 赤い光がファイズの体から消えて、私や朱乃よりも少し年上の青年の姿へ。男性にしては長い茶髪、裕斗とは違ったタイプの、けれど整った顔立ち。見たことはないけれど、彼が乾巧。私の知るイッセーではない、本当の彼。

 

「ぁぁ!!!」

「巧っ!」

 

 変身を解除された巧さん。次の瞬間、巧さんの肩の辺りをバイクが通り過ぎる。痛みを堪えきれず唸る様な声が出る。そんな巧さんを見て思わず叫んだ女の子。彼女は敵から逃れるために荒野の様な場所で、泥まみれになりながらも逃げていた。

 

「真里……!」

 

 体にある痛みを堪えながら、地面を這って巧さんは女の子ーー真里さんの元へ。

 

「巧……」

 

 真里さんもまた、巧さんの元へゆっくりと、同じく這う様にして近づいていく。

 

 やがて二人の伸ばした手が、繋がった。

 互いの存在を確かめ合う様に、確かに繋がれたその手。二人は何があっても離れない様に繋がれたその手を見つめていた。

 

 そんな時間は長くは続かない。

 兵隊の一人が、巧さんの元へ向かい、その足を鎖の様なもので巻きつける。

 咄嗟の事で抵抗も出来ない。加えて、先程の戦闘による疲労もあってか巧さんは呆気なく拘束される。

 ここでも私は何も出来ない。自分の力を、二人を守るために使えない。

 

「巧!!」

 

 巧さんを拘束した兵隊達は乗っていたバイクをそのまま発進させて、真里さんの視界から外れる様な形で、消えていった。

 

 

 

 

「……たく、み……」

 

 ただ一人、そこに残された真里さんは巧さんの名前を呟く。

 そんな光景を見ている私の意識が、徐々にクリアになっていく。

 

 あぁ……目が、覚める。

 

 

 

 

 

「リアス、どうかしたの?」

「えぇ、少し嫌な夢を見て」

 

 巧さんの奇妙な夢を見た日の放課後、私は嫌な予感ばかりしていた。最近巧さんの事で騒がれる事、ディオドラからアーシアへの突然の求婚。それらの矛先が全て、巧さんに向かうのでは。という荒唐無稽な私の予感。

 

「どんな夢だったの?」

 

 紅茶を淹れるカップを机に置いて、私と向き合う位置に移動した朱乃。彼女の気遣いに感謝して、私はこの気持ちを吐き出すことにした。

 

「イッセーが負けてしまう夢。相手は前に裕斗とゼノヴィアからの報告にもあった、ファイズやデルタに似た兵隊達。夢の中なのに、私はあの子を助けることすら出来なかった。……それが、怖くて」

 

 思ってもない私の思いに、流石に朱乃もすぐに言葉を返すことはしない。けれど、その顔は私とは違い不安を感じさせない。

 

「確かにそんな風になってしまうのは怖いわ。だから、私達も彼と一緒に強くなる。少なくとも今はこの気持ちがあればいいんじゃないかしら」

「そう、ね。それしかないわね」

 

 掛けられた言葉をゆっくりと飲み込んで、私は朱乃の淹れてくれた紅茶を飲む。

 他のみんなが来るのを待っていた時、一つの魔法陣が部室に展開される。その紋章が私や朱乃は誰を示すのか、即座に分かってしまった。

 

「……やぁ、リアスさん。アーシアに会いに来ました」

「ディオドラ」

 

 現れたディオドラの優しげな笑みは、今の私には不安を感じさせるモノにしか映らなかった。

 

 

 

「で、今日は何の用かしら」

 

 一応ディオドラを、来客用としても使っているソファーに座らせ、朱乃には私の後ろの壁側に待機してもらうと同時に、アザゼルやソーナへの連絡を任せる。私は、ニコニコと不気味なまでに笑顔を絶やさないディアドラの相手をする事に。

 

「先程も言いましたが、アーシアに会いに」

「そう。でも、この前貴方断られたじゃない」

 

 そう、この男はアーシアに唐突な求婚を申し込んだが、アーシアは困った顔こそしたが、丁寧に断りの返事をした。

 一言で言ってしまえば、あっさりとフラれたという事ね。

 

「あの時はいきなりの事でアーシアだった驚いてただろうし、何よりあの男が居ましたから」

「あの男、ね」

 

 恐らくは巧さんの事を仄めかすディオドラ。細めていた目を僅かに開き、そこから彼に対する侮蔑を覗かせている。

 

「残念だけど、貴方の行動は目に余るわ。これ以上、アーシアへのアプローチ……いえ、迷惑行為を続けるのなら、それなりの対応を取る事になるわ」

 

 私なりの威嚇も含めて、僅かに魔力を漲らせてディオドラに叩きつける。

 この行為に特に反応を示さず、むしろディオドラも私に向けて一瞬だけ魔力を瞬間的に高める。それはまるで、反抗の意を示すかの様。

 

 ここで終わらせるべきなのかもしれない。

 このまま問題を先送りにして、巧さんが動くことになるよりは……。

 言葉を続けようとした時、まだ来てなかったアーシアや巧さん達が部室に入ってきた。

 

 一瞬、ディオドラの口元が歪んで見えた。

 あの夢を思い出し、寒気がする。

 

 どうか私の杞憂に終わって欲しい。

 そんな願いを胸に秘めながら、私はアーシア達にここまでの経緯を伝えることにする。

 

 

 

 

 

 

 

 巧達が来てから十分後、リアスの指示を受けた朱乃はアザゼルとソーナとその眷属らに連絡を入れた。

 その連絡を受けて、彼らが到着すると共に一時的に止まっていた交渉が再び始まる。

 

「一応、彼らにも来てもらったわ。話し合いの公平さのためね。構わないかしら?」

「えぇ。特に疚しい話ではありませんから」

 

 さらりと軽い笑顔を浮かべるディオドラに、気味悪さを覚えつつもリアスは朱乃の淹れた紅茶を口に含んだ。

 巧達はライザーの時と同様にリアスの座るソファーの後ろで待機。ソーナ、シトリー眷属の代表として同行した匙と椿姫、アザゼルはディオドラの後ろ側に。

 つまり、彼らがリアスに不用意な肩入れをしないと目に見える形で示している。

 

「先程も話したように……僕が望んでいるのは僧侶(ビショップ)のトレードです」

 

 トレード。

 毎回のレーティング・ゲームは人間世界の野球やサッカーと同じようにチーム間での選手の移籍を可能としている。

 つまり、この場合ではディオドラは自身の眷属を対価にリアスの眷属の一名を欲している。

 

「……っ」

 

 ふと巧は、自分の隣に立つギャスパーがディオドラに対し、敵意のような物を向けている事に気づく。

 彼も分かっているのだ、目の前の男が何のためにここにいるのかを。

 

 人見知りで、緊張しいな後輩の思わぬ部分での成長に口元が緩みかける巧は、そんな気恥ずかしさを隠すようにギャスパーの頭をクシャリと髪型を崩す様に撫でた。

 そんな巧とギャスパーの目の前で、交渉は前がかりになっていた。

 

「僕は、アーシアをトレードで、我が眷属に迎え入れたい」

 

 偽ることのない自身のリアスに伝えた。

 そう、伝えただけだ。いくら真摯に語ろうと、いい条件を提示してこようとこの交渉はリアスが首を縦に振らなければ全く持って意味をなさない。

 そもそも、リアスはこの交渉をするメリットがないのだから。

 

「そう。なら残念ね、私は眷属をトレードする気は全くないの。話は終わりよ。文句があるから、私一人で話を聞くわ」

 

 言うが早いか、朱乃や裕斗に視線を向けると二人は非常に丁寧な姿勢で扉を開けてから、どうぞ、と声を掛ける。

 つまるところ、早く帰れと言われてる事にディオドラも察していた。

 

 ソファーから立ち上がると、裕斗と朱乃の開けた扉……ではなく、何故かアーシアの元に向かうディオドラ。

 二人の間に立ちはだかるのは咄嗟に反応して見せたリアスと巧。

 

「……退いてくれませんか、リアスさん」

「貴方こそ、求婚を断られた女性に不用意に近づこうなんて、何のつもりなの?」

 

 やはり自分と同じ立場の人間だからか、丁寧な言葉遣いで動くように頼むディオドラ。けれどそれで退くようなか弱い少女では、リアスはなかった。

 妹同然に想っているアーシアに異常な程の執着を見せる男を差し出せる訳がない。

 

 リアスの説得は諦め、ディオドラの視線と標的は、ここまで一切口を挟もうとすらしなかった巧へチェンジ。

 

「たかが下級悪魔の君が、僕とアーシアの真実の愛に横槍を入れる気かい?」

「真実……ね」

 

 どこか嘲笑うように吐き捨てた巧の呟きを、ディオドラは見逃せなかった。

 

「あぁ、そうさ。たとえ世界中の誰が僕とアーシアの仲を引き裂こうと僕は必ず、君の愛を勝ち取ってみせる。彼女は君のようなカスとは違う世界で、僕と幸せを育んでいくのさ」

 

 もはや妄言と言えるディオドラの告白に、この場にいる全ての女性陣は寒気を催し、アーシアを守るように朱乃と小猫が隣に寄り添う。

 何故か自信満々なディオドラに対し、巧は周囲……というか女性陣を見て、一言。

 

「まだ気付かないのかよ」

 

 巧から見て、ディオドラとアーシアというカップルは一体どんな風に見えるのか、端的にその一言で纏めた。

 

「似合わねぇんだよ、お前とアーシアじゃあな」

 

 特に気にしていないが、アーシアの隣を幸せそうに微笑む男の役は少なくても目の前の男でないことは巧でも、分かっていた。

 トドメを刺された筈のディオドラは細めていた目を一瞬、僅かに開いた。

 

「なら、自分なら似合うとでも言いたいのかい? 救世主気取りの疫病神である君の方が?」

 

 一瞬、空気が静まる。

 ディオドラの放った巧への蔑称の本当の意味を把握してるのは、リアスや朱乃を含んだ5名ほどだけ。

 けれど、その言葉が彼を蔑んだ物であるのはその場にいた全員が把握できた。

 リアスは、巧に掛ける言葉を探しているその間。思考が止まりかけたその時に乾いた音が部屋に響いた。

 音の鳴った方向を見ると、アーシアと頰の一部を赤く腫らしたディオドラが居た。

 恐らく……というかほぼ確実にアーシアがディオドラの頰を叩いた事に気付いたリアスは、アーシアが人に手をあげるという出来事に驚いていた。

 

「イッセーさんを、悪く言わないでください」

 

 金色の髪が少し揺れ、涙声が小さく響く。殴られたディオドラは一瞬、呆気にとられていたが即座に意識を切り替えて、優しく諭すように巧への悪意を撒き散らす。

 

「そうか、アーシアは君は知らないんだよね。そこの彼が、冥界でどんな風に称されているのかを」

 

 アーシア、そしてこの場にいる全員に言い聞かせるように、ディオドラは続けた。

 

「そこの下級悪魔君がオルフェノクという薄汚い獣から人間を守るとか、人間として戦うなどと触れ回った所為で多くの悪魔がその余波を受けて命を落としている。彼の発言は、我々悪魔やそれを援助する者達が戦うと言外に言ってるような物だからね」

 

 ディオドラは何も言わない、いや言えない巧を見て嬉々として、追い込むべく、言葉という狂気を突き立てる。

 

「そして、僕が何故アーシアへの求婚をしてるのかは……君を守る為だ。たしかに、今回の一件は僕が事を急いでる様に見えるのは確かだ。そんな僕に不信感をリアスさんが抱くのも当然の事さ。でも、それは全て、君の幸せの為なんだよ」

「それは、どういう意味かしら」

 

 言葉こそ納得できる物ではないと思ったリアスだが、内心では自分を責めていた。

 今のディオドラの言葉を、巧は明確に否定出来ない。むしろ、その通りと受け入れてしまいかねない。

 自分の行動で、他者に不幸が降りかかっている。勿論、悪魔が巧の一言で動いてるわけではない。冥界の上層部や兄のサーゼクスを始めとした魔王達も、オルフェノクを冥界と敵対するテロリストの一部捉えている。

 それらを差し引いても、巧を中心にオルフェノクによる問題が蠢いているのは今のリアスにも否定しきれない。

 何よりも、それらの問題を自分には関係ないと割り切れたり、目をそらす様な真似を乾巧が出来ない人間なのが一番苦しかった。

 

「分かったかい、兵藤一誠。君は英雄でも救世主でもない。ただの疫病神なのさ」

「あぁ、そうかもな。……そっちの方が気楽でいい」

 

 そう返した巧の言葉こそいつも通りのものではあるが、最後の一言を呟いた時の表情は責任感と罪悪感に満ちた物だった。

 

「だから、アーシア、彼の近くから離れた方がいいんだ。いずれ、彼は救世主として戦う時がくる。君がわざわざ巻き込まれる必要はないんだ」

 

 救世主、という言葉に嘲りの意味が込められた物だ。思わず、ディオドラを引っ叩きたくなる衝動を堪えるリアスの前で、アーシアが動いた。

 

「ごめんなさい。私は、貴方と結婚も出来ません。それに眷属になる事も出来ません」

 

 いつも穏やかな彼女とは思えないほどの冷たく事務的な声。

 全員が分かっていた彼女の答えーー明確な拒絶。

 

「これ以上、私の大切な人を侮辱するのはやめてください。それに、私はここを、この街を離れたくありません。この街には、大切なお友達や家族や……眷属の皆さんが居ますから」

 

 最後に、今日一番の冷たく……それでいて美しい笑顔でこの交渉を終わりへ向かわせた。

 

「もし、イッセーさんが疫病神なら、私はイッセーさんの隣で不幸になっても構いません。……ディオドラさんと共にいるよりも、きっと幸せになれると思います」

 

 その笑顔を見て、ディオドラは今日の所は帰るという捨て台詞を吐いて……今回の交渉は終わりを迎えた。




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