相変わらず短い。
感想、くれ。頼みました。
ディオドラとの邂逅から一日が過ぎた。巧は自分の中にあったモヤモヤした気持ちと向き合うことが出来ないままだった。自動販売機の前にバジンを停車させて、持っていた小銭を入れてから冷たいお茶のボタンを押した。
ゴクゴク、と音を鳴らしながら一気にお茶を流し込む巧は背後に突然現れた2つの気配に向けて視線を向ける。
「おっと、流石だね。兵藤一誠」
「勝負なら受けねぞ」
「んなアホしねーよ。だよなヴァーリ」
ああ、と爽やかな声が巧にも届いたが警戒は緩められない。スラックスの上に白いワイシャツを着たヴァーリは友人に声をかけるように巧に近づく。タンクトップを着た美猴はウキウキとした様子であり、そこからは以前戦った時とは違い闘気や殺気の類は感じない。とりあえずこの場での戦闘は巧も望んではいない。
ため息を一つ零してから、いつも通りの仏頂面でヴァーリと向き合う。
「何の用だ」
「そう邪険にしないでくれ。一応、君への警告さ」
警告と言われても、いまいちピンとこない巧。一瞬の間を置いてから、ヴァーリは静かにその名を口にする。
「ディオドラ・アスタロト。彼には気をつけた方がいい。奴自身に力はないが、奴の立場は厄介な物でね。つまらない事で君に手を出されるのは俺としても本意ではない」
「おい……!」
詳しい事を尋ねようと声をかけるも、すでに二人は巧に対して背を向けていてこれ以上の情報提供はしない意思表示にも見えた。
二人が去ってからも、巧はその場を動かず、その手のひらの中にあったお茶は少しだけあったかくなっていた。
翌日の放課後
巧は昨晩のヴァーリの事をリアスとアザゼルに伝えた。
二人とも驚きこそしたが、ディオドラの事が主だった事もあり、いつの間にかオカルト研究部全員での討論となっていた。
部室の中央のソファーとテーブルに皆が集まり、リアスを議長とした形での話し合いが進む。
「あのディオドラ・アスタロトのイッセーくんへの敵意は異常です。それにあのヴァーリが直接忠告してきたことから言えるのは……」
「えぇ、奴はテロリスト側に関与してる可能性があるってことですね」
朱乃と裕斗が弾き出した1つの仮説に皆が頷く。勿論、壁に背中を預けながら渋い味のコーヒーを飲んだように顔を顰めながらもアザゼルも。
「ディ、ディオドラ・アスタロトの目的はアーシア先輩ってことなんですかね?」
「あぁ、そう見た方がいいだろうね」
「それかイッセーくんをその……倒す、方かも」
ギャスパーとゼノヴィアとイリナもいつにない真剣な表情でこの状況を把握しようと話を進める。
「大丈夫ですか、アーシア先輩」
「はい。心配要らないですよ、小猫ちゃん」
アーシアの隣に座る小猫が少し震えるアーシアの手に、自分のそれを重ね合わさる。少しして震えが止まり、アーシアは堪らず笑みを溢す。
「リアス、分かってはいるが……」
「ええ。このことはお兄様はともかく、上層部には伝えられないわ」
誰かが漏らした、小さな動揺の息。皆の視線を受けて、リアスは内側から滲み出てくる悔しさを出来る限り抑えた上で、冷静を装いながら続ける。
「この情報提供者が、ヴァーリという点が最大の問題なの。確かにディオドラはアーシアに異様な執着心と恋愛感情。イッセーには私達に隠さないほどの嫌悪……いえ、敵意を持っていたわ。だからといって彼がテロリストに関与している事の直接的な証拠にはなり得ない。それに加えて……」
「奴は、現魔王の一人を輩出した家の次期当主。そんな奴がテロリスト側だと知られてたら、悪魔陣営は民の信頼を落としかねない。つまり、今の奴は下手に叩く事が出来ねぇ安全地帯にいるって事だ」
リアスとアザゼルの言葉は三大勢力の内側にいるオカルト研究部の面々なら痛い程に分かる事情だ。
先の大戦で多くの純血の悪魔が失われた今、ディオドラはその貴重な一人。仮にこの仮説が正しければ良かったが、そうでない場合もまた波乱を呼びかねない。
同時にこの情報元がヴァーリと知られると、現状は最も危険なテロリストと繋がりがあると突きつけられる可能性もあった。元々、ヴァーリはアザゼルの元にいた為に、今アザゼルが面倒を見ている巧達に疑いの目が向けられてもおかしくはない。
「それじゃ、このままでいいんですか?」
裕斗の現状に対する怒りを染み込ませた言葉に、今の今まで黙っていた巧が小さく呟いた。
「いいだろ、別に」
「どうして、ですかイッセーさん」
なんとか紡がれたアーシアの小さな声に、背を向けながらいつも以上にぶっきらぼうで、冷たさすら感じさせられる声で応えた。
「あいつの狙いが俺だからな」
その一言に、リアスが立ち上がった。その顔は巧が見たことまでに怒りに満ちていて、その矛先が自分であった為に更に巧を驚かせる。
即座に巧の前に立ったリアスは彼の右頬を強く叩いた。
リアスの行動に皆が呆気に取られ、叩かれた巧の顔色はいつもと変わらない様子。
「ふざけないで……。私は、私達は貴方に守られるだけのお姫様じゃないのよ。貴方と……イッセーの隣に立つ、仲間なの。だから、お願い」
その後の言葉が出ずに、大きな瞳から零れ落ちそうな涙を留める様に巧の胸に顔を押しつける。
縋るかのようなあまりに哀しい抱擁を前に、巧も何も出来ずにいると、無意識の内に、自分の手が彼女の紅の髪が集約された頭を優しく撫でてていた。
オカルト研究部全員がほっこりとした気持ちになり、話が落ち着きかけていた瞬間のことだった。
部室のドアから勢いよく見慣れた少年と少女達が飛び出す。
この学園の生徒会長とその部下達だ。
「どうしたお前ら、んなに血相変えて」
「たっ、大変です。リアス、こんな情報が冥界……いえ、あらゆる勢力に向けて発信されました。私達もたった今受け取って」
呆れたように尋ねるアザゼルの視線の先にはソーナ達生徒会役員ら。普段の冷静沈着なソーナだが、その冷静さを欠いた様子で、一通の手紙と新聞紙を差し出す。
リアスが涙を拭いながら、その手紙と新聞紙を受け取り、文面を読んだ瞬間……呼吸が止まった。
その様子に思わず巧らも詰め寄り、その文面を注視。
「まじ……かよ」
一通の新聞紙は──招待状。
新聞紙には目を疑いたくなる事実として書かれた情報が大きな文字で書かれていた。
『冥界の次世代を担う、ディオドラ・アスタロトと謎の戦士ファイズ。一人の女性を巡って一対一のレーティングゲーム開催か!?』
「えぇ、あの記事についての話で。はい、分かりました」
冥界にいるグレモリー家の者に連絡を入れるリアスを前に、祐斗は机の上に置かれた新聞紙を今一度手に取り、その文を目で追いかける。
その記事を追えば、追うほどに新聞紙を掴む手に力が入り、いつの間にか新聞紙はその形を変えてしまっていた。
「恐らくはディオドラの差し金でしょう。あの男は、部長同様に冥界のメディアには注目される存在。メディアへのパイプが太くても、不思議ではありません」
「副部長の言う通りだが……それにしてもこれは」
この場にはいないディオドラに対する侮蔑の目を隠さない朱乃とゼノヴィア。祐斗が形を変えてしまった新聞紙にはディオドラの元でねじ曲げられた情報が記載されていた。
『ディオドラ・アスタロトが求婚した女性、アーシア・アルジェントがその求婚に応じかけた時、ファイズこと兵藤一誠が待ったをかける形で割り込み、ディオドラ氏の求婚を取り止める様にした』
あの場に居たものが見れば、不愉快な一言では済まされない程に捏造された情報に当然リアスが憤慨。今、この情報を記載した新聞社に抗議の連絡を入れるようにグレモリー家への連絡を行なっている。
オカルト研究部は勿論、その場にいたソーナらも事が事だけに全面的な協力を約束してくれている。
そんな中、相変わらず浮かない顔をして、椅子に座るのが巧だ。
今回の騒動を不愉快そうな顔一つせず、受け入れている。まるでそれが当然の事の様に受け流す巧に、祐斗らも疑問を隠せない。
「おい、どうしたんだよ兵藤」
耐えきれずに、匙が声を掛ける。
巧は基本的にオカルト研究部や生徒会含めても、言葉を交わす事は少ない。巧以外のメンバーは彼を仲間として見ている。勿論、巧も彼らの事を仲間と思ってはいる。その中で巧に最も声を掛けるメンバーの一人は匙だ。
「なんかいつもと違って黙ってるからよ」
「なんでもねぇよ。いちいち気にすんな」
言葉を続けられるのを避ける様に巧は立ち上がり、部室を出た。相変わらずのことだが、今回は少し違和感を感じる。それはこの場にいる全員の感想。
「僕が行きます」
「じゃあ、私も」
即座に朱乃と祐斗が立ち上がる。リアスも肯く形でGOサインを出して、二人に追いかける様に指示を出す。
部室を出る前に、匙から小さな声で頼む、と小さな言伝を受け取る。祐斗は勿論と言葉を返してから、朱乃と共に部室を出る。
いつぶりだろうか。
こうして、一人で帰ろうとするのは。
部室を出た巧は、部活動に励む生徒達を眺めながら校内を出ようとした。
そんな彼の隣には誰も居ない。
「疫病神か」
ディオドラの来訪の際に言われた多くの言葉の中で、最も自身に響いた言葉を無意識のうちに反芻していた。
全くもってその通りだ。あんな風に多くの仲間に迷惑をかけて、あの場にないリアスの家族らにも面倒をかける自分をそれ以外と形容できるのだろう。
そんな自分の隣に歩こうとするアーシアやリアス達。
そんな自分と共に戦おうとする祐斗や匙やギャスパー達。
そんな自分に価値があるのだろうか。
兵藤一誠の人生を奪ってしまった、空っぽな自分に。
「…………」
罪悪感と迷いが体を支配して、動かなくなりそうな体。仲間達からの信頼や好意は素直に嬉しい。こんな口下手で愛想のカケラも無い自分を仲間と言ってくれる彼らを出来るだけ危険から遠ざけたいのに、自分の所為で巻き込んでしまうくらいなら、いっそのこと──。
「……朱乃、祐斗」
突然、温かい感触が巧の手を包み込んだ。驚きと同時に視線を向けると自分の手を掴む朱乃と祐斗が、そこに居た。
「悪い、面倒かけて……」
三人は、よく昼食を皆で取るときに使うグラウンド前の土手の様な場所に座り込んだ。
巧は軽く呟くように謝罪の言葉を二人に掛ける。けれど、二人は巧の予想とは異なる反応を見せた。
「そんな、迷惑なら僕の方が多くかけてるよ。……君が居なければ、僕は今ここに居ないかもしれないからね」
「私も祐斗くんと同じです。貴方が、居てくれたから、誰一人欠けずにここまで、新しい仲間に出会えたのよ」
軽く風が吹いて、巧は一瞬だけ無心になれた。何故か、兵藤一誠に憑依してからの事が頭に浮かび、一つの景色が見えた。
ここから見える、駒王学園の風景。
何処にでもある普通の高校だ。それでも、巧には多すぎるほどの思い出がここに詰め込まれてる。そんな巧の隣にはいつも誰かが、居て笑っていた。
「イッセーくん? どうかしたの?」
「いい加減グズグズ考えるのも飽きたからな」
誰にいいかせるでもなく、自らに誓うかの様に巧は呟いた。
そんな彼の表情からは一切の迷いは見受けられない。
「……その、一緒に頼む」
「あぁ、勿論!」
「えぇ、安心して任せて」
「リアス、いいか?」
「イッセー!? どうしたの?」
部室に戻った巧は、出版社への抗議を入れるべく手続きを整えていたリアスに声を掛ける。
集中していたリアスは、巧が戻ってきたことに気づいていなかったので、少々驚いてはいたが、すぐに気持ちを切り替えて真剣な面持ちで言葉を返す。
「俺は、……奴とレーティングゲームで勝負する」
その巧の決意の言葉に、流石のリアスも驚かざるを得なかった。
「……今、兵藤一誠からゲームの打診があった」
「あら、まさかこんなに早くくるなんてね。あのお姫様が巻き込まれたからかしら?」
「これで奴を消せば、アーシアは僕の物、そして貴方達は厄介払いが出来る……ですね」
「えぇ、そのためならライオトルーパ隊も貸し出すわよ。ディオドラ君」
「それは有難い提案です。こちらも旧魔王のエージェントらを投入して、それなら一万は超えますね。貴方の願いもようやく叶いそうですね、Miss.影山」
次の回は完全なオリジナル展開。
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