「分かったわ、朱乃達も気をつけてね」
そう言って、私ーーリアス・グレモリーは、通信用の魔法陣を切った。
ディオドラとのレーティングゲーム用に用意された、恐らくはディオドラ達の本陣であろう神殿の階段をアーシア元へ辿り着く為に再び走り出す。
「部長、それで朱乃さん達は?」
「フリードを引き渡して、こちらに来るわ。少し時間がかかるとは思うけれど」
先ほどまで朱乃と話をした内容をそのまま、祐斗やギャスパー…そして、巧さんに伝える。
私たちの先頭を走る彼の顔は見えないけれど、取り敢えずみんなの無事を安堵している事は声から分かった。
「あとは、アイツらをぶっ飛ばして…アーシアを助けられればいいってこったな」
「えぇ、そうよ」
「見えました!!」
女子の制服で必死に走るギャスパーが前方を指差す。
その先には恐らくこの神殿の唯一にして、巨大な扉が鎮座している。
そして、アーシアがそこにいる事など想像に容易い。
「はぁぁぁ!!」
私は神殿の扉に魔力結界が貼られていることに気づき、前方の空間に手を突き出す。
立ち止まった私に三人が何をするのかと視線を集めるも、巧さんはすぐに目的に気づき、私の前方にいた位置から少し動く。
「っ!!!」
「す、凄いです部長」
私の突き出した手の僅か前方の空間で形成される魔力を感じたのか、ギャスパーが感嘆の声を呟く。
この魔力はこれまで私の放ってきたものはレベルが違っている。
そう、私は弱い。
本来『王』である私は、いざという時に眷属を守らなければならない。
勿論『王』が一番強ければならないわけではない。それでも、私にお兄様やグレイフィアの様な力があればと、この数ヶ月で何度も考えたのだろう。
強くならないといけない。
今私の隣で、本来であれば戦うことが難しいほどに体力を消耗した大切な『眷属』を守る為に。
「っっ!!』
放った滅びの魔力は100mはあった筈の距離を即座に飛び越えてから扉へ衝突した。
扉に施された魔力とぶつかり合いながらも、滅びの魔力は扉を容易に穿つ。
「さぁ、行きましょう」
扉が完全に破壊されたのを確認し、前を歩き出す。
今、私が放ったのはこれまでよりも滅びの力を高めた一撃。
私だって、あの一ヶ月レーティングゲームの理論を学んでいただけじゃない。
その証明が、私の前に結果として現れていた。
「きゃぁぁ!!」
突然起こった扉の爆発に、私ーーアーシア・アルジェントは驚きの声を隠せませんでした。
それは、私だけでなく。
「あらあら、随分と派手な登場ね」
「そうみたいですね。…アーシア、これから君の最後の希望を打ち砕こうじゃないか」
私をこの神殿に連れてきたディオドラさんとその隣に立つ日本人の女性も私ほどではないけれど、びっくりした様子を見せます。
ディオドラさんの隣にいる女性は、一見普通の女性に見えるのに…私に『過去』の話をしたディオドラさんよりも怖い人に見えます。
「そういえば、貴方ファイズの恋人か何かかしら?」
「えっ」
女性を見ていたからか、向こうも私の視線に気づき、体が自由に動かない私の前に彼女はニコニコと不自然なまでの笑顔で近づきます。
突然の質問に、私は返す言葉が見つかりませんでした。
私は、イッセーさんのことが好きです。
確かに、あの人は不器用で一見冷たい人に見えるかもしれないけど、確かな優しさを持った純粋な人なんです。
そんな私の想いを見抜いてたのか、女性は突然背中を翻しました。
「答えは要らないわ。…だってもう、来たもの」
その言葉と共に、私の前にイッセーさんが、部長さんが、木場さんがギャスパー君が神殿の中に着いたんです。
「イッセーさん」
自分の名前を呼ぶアーシアを見て、握っていた拳の力を更に強める。
体は恐らくはディオドラが施したであろう魔法陣で拘束されて可憐で優しげな顔は泣き疲れたのか目元は腫れて、表情は憔悴しきっている。唯一、良かった点は着衣に乱れがなかった点だ。
あの時のディオドラの表情からいきなり凶行に及ぶ可能性すらあったのだから。
「ディオドラ、貴方アーシアに」
「あぁ、そうさ。全てを話したさ。そう、全てね」
雄弁に語るディオドラを前に、反吐を吐きそうな気分になる巧たち。
「それにしても君達とはつくづく縁があるみたいだ。レイナーレを倒したと思ったら、アーシアを掠め取り、僕の『女王』さえも葬ってくれたんだから」
「「「っっ!!」」」
ディオドラの発した言葉に、リアスを除く三人は過剰に反応。
三人の様子に、リアスは先ほどの会話と状況を思い出す。
「そういえば貴方の眷属がオルフェノクになっていたわね、あれは?」
「あぁ、それは彼女達との契約だからね。彼女達の力を借りるのに、サンプルを提供したに過ぎない」
サンプルーーそれはつまり自身の『眷属』を差し出したのだ。
悪魔をオルフェノクに変える為の実験に。
「そんな事の為に、貴方は!!」
「そんな事とは言ってくれるじゃない。あの子たちのお陰で、私たちはまた一歩偉大な計画を前に進められたわ」
ディオドラへ無意識的に足を進めるリアスを止めたのは、ディオドラの隣に立つ影山冴子。
「まぁ、半分以上はオルフェノクにならずに死んでしまったけれどね。その代わりの新しい女の子はそこにいるわけだし、問題ないでしょ?」
「勿論さ。もうあの子たちには飽きてたし、アーシアが僕のモノになってくれるならお釣りが来る程さ」
勝手な物言いに今にも二人に飛びかかりそうなリアスの横に、巧達が並び立つ。
「部長、ここは僕たちも」
「一緒に戦います!」
「ボケっとしてんじゃねえよ、リアス」
『Standing By』
ぽん、とリアスの肩を軽く叩きながら変身コードを入力。
ファイズファンをいつも通りに高く掲げる。
「変身!」
『Complete』
巧の体を赤い閃光が包み込み、その体をファイズへと変身させる。
二人の敵を見据えながら、ファイズは手首をスナップさせる。
カシャ、と響きのいい音が開幕の合図となる。
「はぁぁ!!」
開幕の一撃は、ファイズだった。即座に距離を詰めて、一足飛びと共に拳を振り上げて全力の右ストレートをディオドラへ。
一方のディオドラも、ファイズの一撃目に目を丸くするも特に防御もカウンターの姿勢も見せない。
「貴方の相手は、私よ」
全力のファイズのストレートを、死角から現れたロブスターオルフェノクがパリィ。
行き先をずらされた一撃は完全に空を切り、重心が乱れる。ロブスターオルフェノクが一瞬で膝を前に突き出した。腕を交錯させて防御を見せるがその上から叩き込まれた一撃はファイズを大きく吹き飛ばす。
「くそっ…!」
ロブスターオルフェノクの強さに、そんな言葉を吐かずにいられない。
余裕満々の様子で、距離を詰めるロブスターオルフェノクの姿を改めて見据える。
エビを模したロブスターオルフェノクいや影山冴子は、本来は力で押すというよりも技巧に長けた印象だった。
常に勝機の見えた状態で戦いに臨み、こちらの嫌な部分を突いてくる。
そんな印象とは少し異なるパワーやスピード。
「ようやく気づいたのね。私は祝福を受けたのよ、『王』によってね」
影山冴子は巧がこの世界に来る前の最終決戦の折に、オルフェノクの王ーーアークオルフェノクより、死の運命を乗り越える程の力を分け与えられたたった一人の存在。
それにより、巧の知らないパワーアップをしていたのだ。
「だとしても…アンタに、負けるわけにはいかねぇんだよ!」
「いいわ、そろそろ貴方を終わりにしてあげるわ」
例え眼前の彼女が以前よりも強かろうが、彼女を倒さなければならない事に変わりはない。
決意と共に駆け駆け出すファイズを、いつの間にか出現させたレイピアを持って待ち構える。
ファイズの渾身の一撃がロブスターオルフェノクに向けて放たれた。
「イッセー先輩…!」
「ギャスパー君、今はこっちに集中するんだ!」
ファイズの戦いに思わず目を向けるギャスパーに祐斗は諌める様に声を掛ける。
ギャスパーが注意が戻った事を確認し、祐斗は前に躍り出る。
聖魔剣を携えながら、悪魔の羽を展開し空中に浮かぶディオドラに向けて一撃を放つ。
「聖魔剣…か。残念ながら、そんなモノ今の僕には効かないよ」
刃がディオドラに届かず、彼が展開する魔力障壁とぶつかるのみ。
ならばと言わんばかりに着地した途端に地面を強く蹴り、多方向からの斬撃を見舞うもその全てが防がれてしまうばかり。
「くそっ…!」
「祐斗先輩の斬撃が効かないなんて」
「二人とも下がって!」
主の声が聞こえ、祐斗はギャスパーを抱えてその場を離れる。
その直後、リアスが放った滅びの魔力が二人のいた場所を駆け抜けディオドに到達する。
「凄まじいなぁ、確かに以前の僕ならこれで終わってたさ。でも、今の僕にはオーフィスからもらった『蛇』があるからね!」
昂った声で、リアスの魔力を障壁で受け止める。ディオドラの体からは魔力が溢れ出し、徐々にその量を増加させる。
時間こそ掛けたものの、ディオドラは自身の魔力でリアスのそれを相殺してみせた。
「…悔しいけど、強いわね」
「そのようですね。でも…」
「あの人、何かおかしくありませんか?」
祐斗の斬撃を物ともせず、リアスの魔力を相殺して見せたディオドラに思わず本音を溢すもギャスパーがふと疑問を口にした。
事前に聞いていたディオドラの力とはかけ離れているのだ。
元々、アスタロト家の次期当主でもある為決して弱いわけではない。けれどここまでの強さをあの男が隠していた点も腑に落ちない。
「それにさっき言ってたオーフィスの蛇って…」
「戦闘中におしゃべりかい?随分と余裕そうだね!」
「部長!ギャスパー君!」
呟いたリアスの頭上に魔力を放出するディオドラ。
それを視認した祐斗が咄嗟に二人の体を抱えて距離をとる。
通常であれば難なく避け切れていた一撃だが、二人を抱えていたからかその威力を体で受け止める事になる。
「祐斗先輩!」
「祐斗、背中が…!」
30m以上は距離を取った祐斗が苦悶の表情で膝を着く。
着ていた制服は破れ、爆発によるダメージで背中は爛れていた。
「大丈夫、です。それよりもディオドラを!」
心配する二人に警戒を促す祐斗。その警鐘を示す様にディオドラが追撃の為に三人の前にーー
「やめろぉぉ!!」
魔力を放たんと手を翳すディオドラの動きをギャスパーが止まる。
完全な静止、とまではいかないまでのその動きは先ほどのそれとは大きく異なる。
「吹き飛びなさいっ!!」
リアスが先ほどの扉への一撃よりも更に、滅びの力を高めた魔力をディオドラへ。
その一撃は、敵に放つというにはスピードはないもののギャスパーの能力で足掻く事しか出来ないディオドラには十分な一撃になる。
ーーこの僕が、こんな奴にぃぃ…!!
静止したディオドラは喋る事も儘ならない状態で、刻々と迫るリアスの魔力を待つのみだった。
そんな彼の視界に、自身が拘束したアーシアが映り込む。
幼い頃にその存在を知り、興味を持った聖女。
神に祈りを捧げる美しい少女達。
輝く存在を前に、彼が抱いたのは悪魔としての欲望なのかーー醜く汚して自分の物にしたい。
これまでの中で、最も心惹かれた存在。
自身を癒した可憐な聖女。
「ぁーしぁ」
静止したディオドラはもう手は届かない存在の名前を呼びながら、滅びの力によりその体を包まれていった。
「おら!!」
「ふふふ、あっちは終わりみたいね」
ロブスターオルフェノクがファイズの右フックを軽くステップを踏んで避ける。彼女の呟いた言葉に、ファイズも一瞬目を向ける。
その先には手傷を負いながら地面に膝をつく祐斗と彼の体を支えるギャスパー。最後に傷だらけのディオドラの身体を魔力で拘束するリアスが確認できた。
「なら、こっちも終わらせてやるよ」
『Exceed Charge』
ミッションメモリーを装填したファイズショットを構えながら、ファイズファンのenterを押す。
フォトンブラットがファイズショットに集約され、一瞬赤く光るのを確認したファイズが駆け抜ける。
「やぁぁぁぁ!!!」
渾身の力を込めたファイズの一撃は、ロブスターオルフェノクの不敵な笑みを前に空を切った。
避けられた感覚すら抱けない。一体どういう事かと答えを探すファイズの背後にレイピアを振りかぶる影が現れる。
「イッセー君、後ろ!!」
「!?」
祐斗の声に咄嗟に振り向いたファイズ。それと殆ど同時にレイピアが振り切られ、フルメタルラングから火花が散る。
巧の声が響くよりも先に、第二撃が打ち込まれる。右斜め上からの一撃を咄嗟に立てた腕で受け止める。
カウンターの一撃を腹部に見舞うものの、効果は見受けられない。そこからの乱撃を打ち込むがーー
「だから言ったじゃない。『祝福』を受けたって」
ダメージで怯む様子すら見せない様子に巧は、かつての敵を思い出す。
ドラゴンオルフェノク、北崎。
彼は巧にとって苦戦した敵の一人であり、デルタとの同時必殺技さえも耐え切ったことすらある。
今の彼女には北崎に追随する耐久力を感じ、以前からの違和感に答えを見つける。
「だからアンタ、前より強いんだな」
「えぇ。ハッキリ言って今の貴方達をなんて容易く殺せるわ」
足音を神殿に響かせながら、ゆっくりとファイズとの距離を詰める。
その最中、ロブスターオルフェノクの足が止まるーー否、静止する。
ロブスターオルフェノクの背後に、能力を解放するギャスパーがいた。
その一瞬でファイズは切り札を切る。
アクセルメモリーを抜き取り、ファイズフォンを換装。
『Complete』
ーーありがとうな、お前ら。
このタイミングまでアクセルフォームを使用せずに乗り切れたのはリアス達や匙達の力無くしては難しかった。
巧は『仲間』達への感謝を呟きながら加速する。
『Start Up』
ファイズアクセルのボタンを押し込み、10秒間音速の世界へ。
既にこの時、ロブスターオルフェノクはギャスパーの能力を跳ね除けファイズと同等の速度へ加速している。
ーーここで、コイツを倒す。
ファイズはギャスパーの『神器』を跳ね除けてアクセルフォームと同等の速度を誇るロブスターオルフェノクに驚嘆しつつもここで負けるわけにはいかないと1秒にも満たない速度で肉薄し、アッパーを振り抜く。
その一撃はクリーンヒットし、ロブスターオルフェノクの体が宙に舞う。
「やぁぁぁ!!!」
宙に浮いた体を複数のポインティングマーカーが突き指す事で放たれる現状のファイズにとって最強の技ーーアクセルクリムゾンスマッシュ。
その一撃目が突き刺さらんとした正にその時の事だった。
「悪いわね、もう効かないわそれ」
ファイズの、巧の耳朶に響いた呆れにも似た嘆きの声。
複数回にやるクリムゾンスマッシュの波状攻撃、その初撃をなんと真正面からレイピアに青い炎を纏わせる事で盾にして耐えてみせた。
既に複数のポインティングマーカーがその体を拘束しているにも関わらず、その上から防ぐという事すらやってのける。
「なに!!」
「今度はこっちの番よ」
一撃目を防がれたファイズは地面に着地し、残りカウントが6秒と確認。ならばと再度攻撃を仕掛けようとするファイズに刺突の雨が降り注ぐ。アクセルフォームと同等の速度から繰り出される斬撃に防戦一方になるのみ。
「ぐぁぁぁ!!!」
均衡が突然崩れる。
一撃がファイズの体を襲う。二撃目はファイズの体か宙に浮く最中で放たれる。その後は三撃、四撃と続く。
『Time Out』
ロブスターオルフェノクの斬撃に倒れるファイズに、無情にも伝えられたのはアクセルフォームの時間制限を伝える機械音。
リアス達も、アクセルフォームからノーマルファイズに戻った状況とロブスターオルフェノクが健在な状態に驚くばかり。
「頼みの綱も使い切ったみたいね」
「なん、だと…!」
体勢を崩しながらも今までと変わらない様子で睨みつけるファイズを他所に標的をリアス達に変えるロブスターオルフェノク。
左手に持ったレイピアに青い炎を纏わせて、横に振るうと斬撃が実体化しリアス達へ。
「やめろぉぉぉぉ!!」
痛みに支配される体をなんとか動かして、体を前に運ばせる。
目の前で倒れる仲間達の姿が幻視した。
そんな結末など、こっちから願い下げだ。そんな独り言を呟きながらファイズは斬撃とリアス達の間へ突き進んだ。
ギャスパーは凄まじい速度で肉薄する斬撃に、神器の力を発動させようとするも無意味に終わる。
リアスは祐斗とギャスパーの前に立ち、魔力障壁を展開。
「「部長!」」
自身を呼ぶ声にリアスは微かに母笑みながら前を向いた。
この攻撃からこの二人を守り抜いたみせると。
覚悟を決めたリアスの目には、そんな自分さえ守ろうと身体を投げ出したファイズの姿だった。
「イッセーさん!!!」
未だ拘束されたままのアーシアの前で、ロブスターオルフェノクの攻撃を正面から受け止めドライバーは体から離れて変身解除した巧の姿が映る。身体中傷だらけで、このままでは死に至るのは誰の目にも明らかだった。
「イッセー!!」
「先輩!!」
「イッセー君!」
リアス達が倒れ伏す巧を呼ぶが、その声に反応し僅かに体が動くだけ。
そんな巧を殺さんとロブスターオルフェノクが足音を響かせながら近づき始めた。
「みなさん、逃げてください!!!」
アーシアの注意でリアスはロブスターオルフェノクの接近に気付き、三人の前に立つ。
手のひらに魔力を集中させ、滅びの魔力を放つものの青い炎を纏うレイピアの前では相殺されて意味を成さなかった。
「イッセー、さん…!!」
拘束された状態で巧の名を呼ぶ。いつもなら短いながらも確かな返事をくれた彼が今は僅かに呼吸をするだけ。
そんな彼を救うのは自分にしか出来ない。短いながらも、確かに身につけた力で大切な人を救う。
「お願い、あの人をーー守りたいんです」
拘束された状態で、アーシアの『神器』
本来相手に触れる事で癒しの力が発動される筈だったが、アザゼルの助言によりもう一段階の上の進化を果たしかけていた。
遠距離からの治療。
アザゼルから提唱されたアイデアは、言うは易し行うは難しといった物だった。結果としては離れた距離からの治療の実施は可能ではあったもののその精度は触れた時のそれとは大きく差があった。
「……っ!!」
それでも、今この場で彼を癒せるのは自分しかいない。
強い決意に呼応して指輪から離れた光は巧の体を照らしていく。
その光景に思わずロブスターオルフェノクも足を止めて、アーシアに目をやる。
少しすると先ほどまでみんなの声に微かにしか反応できなかった巧の体かは傷が減っていく。
「イッセー!!」
「…んだよ…!」
光が消えると巧は意識を取り戻して体を起こす。
癒しの体は傷を癒すものの、体力や流れていった血液までは戻らない。
オルフェノクであり悪魔の巧と言えど体の構造には勝てない。ふらつく巧の体をリアスが支えて、改めてロブスターオルフェノクと向き合う。
「まだ続ける気?もう私には勝てないことは分かったでしょ?」
諭すような声は諦める様に促す様に聞こえるが、巧にとってそれは承服しかねる結末。
「あぁ。アンタに負けるわけにはいかないんでね」
ロブスターオルフェノクが、レイピアに青い炎を纏わせる。10メートルを超える距離でもヒリヒリとその威力を感じ取れる。
「やっぱり貴方にはまず心から折れてもらうわ」
そう言ってロブスターオルフェノクはレイピアを振るったーーアーシアのいる方向に。
「アーシア!!」
「アーシア先輩!」
リアスが青い炎が向かう先にいるアーシアの名を呼び、ギャスパーが炎を止めようと『神器』を発動するも止められない。
祐斗が足を前に運ぶの体のダメージがそれを許さない。
皆がアーシアの名を呼ぶしか出来なかった…巧を除いて。
「あぁぁぁぁぁ!!!」
叫びとも猛りとも言える咆哮と共に、アーシアの前に立った巧の身体は青い炎を受け止めながら変化を遂げた。
巧の正体、狼を模したウルフオルフェノクに。
「イッセー…さん?」
自身に迫る青い炎を前に、思わず目を瞑ったアーシアが何秒かした後にゆっくり目を開くとそこには思ってもいない光景が飛び込んだ。
「ハァ…ハァ…ハァ…!!らぁぁ!!!」
呼吸が乱れながらも、地面を強く蹴ってウルフオルフェノクの身体を加速させる。ロブスターオルフェノクの懐に飛び込んでから、拳での乱撃を叩き込む。
ウルフオルフェノクのスペックはノーマルファイズのそれを大きく上回り、主な長所はアクセルフォームに追随する速度。速度自体はアクセルフォームには敵わないながらもスタミナが切れるまでは維持できるアドバンテージがある。
更にはファイズの時には使用できなかった魔力の行使も可能となり、以前までのウルフオルフェノクとは比べ物にならない程の強さとなっていた。
「さっきよりも、こっちの方が手強いわね!」
「知るか!!…今度こそケリをつける!!」
一瞬、自分の正体に驚いている仲間達に目を向けるもそんな余裕をひけらかせる相手ではないためすぐに向き直り、ハイキックを見舞う。
スウェーのみで交わしたロブスターオルフェノクが刺突を繰り出すもの赤い魔力を纏った拳がレイピアを弾く。
そこから一歩距離を詰めた巧は。
「やぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
強く光った赤い魔力を纏いながら全力の右ストレートをロブスターオルフェノクの腹部へと叩き込んだ。
その身体はくの字に折れ曲がり、神殿の壁へと叩きつけられたーー。
「…イッセーさん!!」
漸くディオドラの魔力が効果を失ったのかアーシアを拘束していた魔法陣が消え去る。
解放されたアーシアはそのまま駆け出す。巧を呼びながら両手を広げながら彼の元へ辿り着くと灰色の肌を優しく包み込む。
「…怖くないのか?」
「ビックリはしました。けど、怖くないです」
なんで、と続けようとする巧の背中をより一層強く抱きしめながらアーシアは彼への変わらない気持ちを素直に伝える。
「だって、イッセーさんはイッセーさんですから」
以前巧が朱乃に伝えた言葉を今度はアーシアが巧に向けて伝える。
言葉とは裏腹に微かに震えるアーシアの手は、かつての仲間『園田真里』を巧に思い出させる。真里もまた巧がオルフェノクという事実を前に恐怖したもののそれでも巧が巧であることを信じたいと、隣にいる事を選んでくれた。
きっとアーシアも、いやアーシアだけではない。この世界で新たに出会えた仲間達もきっと同じであってほしいと願う。
言葉と共に微笑むアーシアと向き直り、ウルフオルフェノクから兵藤一誠の姿へ。
「そうか…。悪いな、遅くなって」
巧は自身を信じてくれた少女の手を握りながら、仲間達の元へと戻っていった。
こうしてアーシアを巡る戦いは一応の決着を見せた。
けれど、後の調査でリアス達が拘束したはずのディオドラと巧が退けた影山冴子の姿は確認されることはなかった。
巧達の戦いと同時に行われていた
サーゼクス・ルシファーが旧魔王の幹部クルゼレイ・アスモデウスを討伐。
アザゼルが同じく幹部のシャルバ・ベルゼブブを討伐。
この間にアザゼルが首魁でもある無限を司るドラゴン、オーフィスと接触。
オーフィスの目的が空間と空間の境目でもある次元の狭間で静寂を得る事であり、そこに存在している夢幻を司るドラゴン、グレードレットを排する事が根底にあることも発覚。
この結果、旧魔王派は統率力を失い組織内でもその地位を下げていく事となった。
だが依然として組織としての
戦いから何日か過ぎた頃、駒王学園体育祭当日。
体育着の巧はよく皆で昼食を取るグラウンド前の校庭で座り込む。
クラスメイト達が競技に夢中になる中、巧の少し後ろでスーツ姿のアザゼルから今回の事の顛末を聞かされていた。
「っていうのが、今の時点でハッキリしてる事だ」
「…そうか」
巧からしてみれば、オーフィスだのグレートレッドだのと言われてあまり理解できない。それでも、世界を揺るがす出来事の現場に居合わせていた事を実感していた。
「まぁ、お前らにしてみればそんな事より、お前の告白の方が衝撃的だったか」
アーシアを救助した後、朱乃達やシトリー眷属達と合流した巧は改めて皆に自身の正体をーーウルフオルフェノクである事を伝えた。
皆、驚きはしたものの匙の発した一言がその場を落ち着かせた。
『お前がオルフェノクだからなんだってんだ!俺たちは【悪魔】だ。お前が化け物なら俺たちだって化け物なんだよ』
その言葉に皆も同意し、改めて巧はこの世界で出会えた仲間達に感謝をしなければと考えていた。
「アザゼル、俺はアイツらに出会えて良かった」
「あぁ、良かったな」
グラウンドからアーシアがこちらに向かってくるのが見え、小さく笑ったアザゼルは巧の肩を叩く。
「ほら、さっさと行ってこい!」
「いきなり押すなよ!」
アザゼルに押された巧は、向かってきたアーシアと衝突しそうになるも直前にアーシアの体を受け止めて正面衝突を防ぐ。
思わぬ距離の近さに二人の息が止まる。
「悪い…」
「こちらこそ、止まらなくて…」
会話の続かない二人に告げられる放送部のアナウンス。
次の種目は巧がアーシアと二人で行う二人三脚である事を通知。
二人は選手入場の入り口まで向かい、数分後競技開始の告げる空砲の音がグラウンドに響き渡った。
「アーシア、イッセー。お疲れ様」
競技を終えた二人を祝福する様にオカルト研究部が勢揃いで出迎える。
結果としては、巧とアーシアが走る組では一位を獲得。特にリアスが二人に感激をし、他の面々も一緒になって健闘を讃えるため今に至る。
素直に喜ぶアーシアの隣で、大した事じゃないと悪態をつく巧。
「そろそろ外すぞ」
「はい」
巧がアーシアと自分の足を固定する紐を外そうと手を添える。
スルスルと紐が解けて、足が自由に。
その時、巧は気づかなかった。アーシアが意を決した表情をして、そこから起こす行動を。
「イッセーさん」
「なんだーーっっっ!!!?」
名前を呼ぶアーシアの声。振り向いた巧の唇に、自分の唇を重ねるアーシア。
アーシアからの突然のキスに、いつもの過敏さを一切感じさせない重い動きの巧にアーシアは更なる追い討ちをかける。
「私、イッセーさんの事が大好きです!!」
オカルト研究部全員の前で宣言するように告白するアーシアを前に、巧は思わずアクセルフォームを使用して逃げ出したい気持ちに駆られた。
ここから兵藤一誠が歩む世界とは異なる物語が紡がれる。
そして、乾巧の文字通り二度目の旅にしてオルフェノクとの最後の戦いが展開される。
ついに6巻が終わりまして、ここからは原作を絡めながらも基本はオリジナルの話にしていければと思います!
そしてついに原作コラボの話に行ければと思います。
だ、だれか案を下さい…。
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