やめて、お願い!
若い女性の声がした。
助けを懇願する血塗れの若き女性。
頼む、息子だけは!
子供を腕の中に抱えながら叫ぶ男性の声。
老若男女問わず様々な人々の助けを求める声。
そんな声を無視して、全ての命を奪い続けた自分。
あぁ…また一つ命を奪った。彼は手に握った剣を振り下ろす。
「………は」
どうして生きているんだろうか。
自身の死を願っていたフリード・セルゼンは視線の先にある天井を見て呟いた。
恐らくは自分のために用意された病室。
治療の為の設備を見て、どうやら自分は助けられた事に気づく。
「なんで生きたんですかぁ…俺は…」
目が覚める前に見た最後の光景。
もう忘れたはずの幼馴染が自分を斬り伏せる瞬間、死を受け入れた。
けれど蓋を開ければ自分は生きていて、ずっと自分の思い通りに動かなかった体は自由に動くようになっていた。
「最悪だ」
フリード・セルゼンーー本名アレン・デリットは、そう呟き再び目を閉じた。
巧達がディオドラ騒動を解決して一週間後。
冥界、ソーナ・シトリーの生家でもあり領地のシトリー領。
そこは冥界の中でも治療施設が発達し、人間界の医学レベルと魔力からの治療を併用した病院も存在する冥界屈指の医療レベルを誇る。その為様々な症状の患者達が身を寄せる場所でもあった。
「…んで、アンタらは俺に何してくれちゃったわけ?」
「貴方の意志を矯正していた薬物や凶暴な人格の抑制、そして主人格である貴方の意識の回復に努めていました」
目が覚めた事での健診の最中、自身の体を診察する医師に対し率直な質問をぶつける。対する医師もフリードの眼光の鋭さに気圧される事なく静かに言葉を返す。面白くなさそうに舌を鳴らすフリードに、医師は言葉を紡ぐ。
「ハッキリ言えば、主人格の復活は難しいでしょう。本来の貴方がもう一つの人格を作り出してから年月も経ったますし、その間に投与された薬の影響は我々では完全に元に戻す事はー」
「分かってますよ、今の俺はどうしようもねぇ外道神父ってことだろ?ガキの頃の自分なんてとっくに昔に死んでる」
医師の言葉を待たずにフリードは答えを示した。
その顔には、自分の意思で行った行為を受け止めようとする余りにも幼い少年の色が映し出されていた。
「アレン!!!」
医師の診察から数時間後。
自身に用意された病室で何をするでもなく天井を見つめるフリードの元にもう居ない自分を呼ぶ声が響いた。
「よう、ゼノヴィアちゃん」
「目が覚めたのか?」
入ってきた記憶の片隅にある幼馴染の名前を軽妙な口調で呼びながら軽く手を振って出迎える。その顔には汗が浮かび、急いでここまできた事が伺える。
少しすると複数の足音が聞こえ、さらに多くの姿がフリードの視界に映り込む。
「あらあら悪魔さん達勢揃いじゃないですか。なに、お礼参りでもしてくれる感じ?」
病室に入ってきた悪魔達、オカルト研究部の面々に変わらない口調をぶつけるも相対した彼らは呆気に取られた表情を見せるのみ。
「フリード、セルゼンなの?」
彼らの気持ちを代弁する様に、リアスが問う。
「あぁアンタらも知っての通り…フリード・セルゼンだぜ」
そう答えた彼は以前とは全く異なり、悪意や殺人の快楽に魅せられた者が浮かべるような顔付きではなくなっていたのだ。
「…んで、俺は死刑にでもなるんですかい?」
「いえ、貴方は監視という形で今は落ち着いてるわ」
リアスから今の自分が現状軟禁状態である事を把握して、つまらないと言わんばかりに溜息を零す。
隣ではゼノヴィアが記憶の中との幼馴染とのギャップに驚きながら、彼を横目に捉えていた。その視線に気づいているフリードは居心地の悪さを感じていた。
「一つ、言っとく事がある。アンタの幼馴染はもう居ない」
ゼノヴィアの視線に耐えられなくなったのか、フリードは口を開き彼女に事実を伝える。
「だから、今の俺の中に昔の…アンタにとっての幼馴染を探さないでくれ。そういうのはマジでウザいんすわ」
声をかけようと向き直るゼノヴィアにフリードは残酷な言葉を突き立てる。何秒かして、小さく震える体に力を入れてゆっくりとゼノヴィアは立ち上がる。
「そうか…。でも、やっぱり私はお前が、こうして生きててくれてすごく嬉しいんだ。…それだけでも分かってくれればいい」
いつもの気丈な姿とは打って変わった力の無い背中。
病室に背を向けるゼノヴィアを追う様にリアス達も病室を後にした。
ただ一人、ここまで口を開かずに居た巧を除いて。
「イッセー君一ついいっすか?」
「内容によるな」
数分間の沈黙を破りフリードは巧に質問をする。
腕を組み質問を待つ巧にフリードは願望を口にする。
「俺の事、ころーー」
「やだね」
最後まで言わずに巧は質問にNOと回答した。
あまりの速さに一瞬呆気に取られるフリードではあるが、即座にいつもの砕けた様子を取り戻す。
「やだやだ、全く冷たいねぇイッセー君は」
「お前、なんで…」
死にたいのか。
口にこそしないが聞こえた問いに、フリードは嘲笑う様に答える。
「声が消えねぇんすわ。
ーーなんで、なんで君は命を奪い続けるんだ!!
ーー決まってるでしょーが。愉しいから。ちゅーかそれ以外ないっしょ!
「きっとアレンの奴も気づいちゃったのさ、自分が生み出した存在が抱えきれない程の罪ってのを抱えてることに。そして、自分自身が生まれた事が罪ってジレンマに襲われて消えちゃった。その結果生まれたのが、フリードでもアレンでもない俺ってわけさ…アンダースタンド?」
だから俺に死という償いをさせて欲しい。
言葉にこそしないものの、その眼はそんな懇願と共に巧を射抜いていた。
一つ呼吸をして巧がフリード向き合う様な形で、口を開いた。
「だとしてもゼノヴィアはお前が生きる道を選んでほしいはずだ」
「許されるわけねぇーでしょうが。アンタ話話聞いてた?それともバカァ??」
何処ぞのサードチルドレンの様な罵倒を軽くスルーして、巧は肩にかけていたナップザックからあるものを取り出し、ベットテーブルに置いた。
「お前がどうしたいのか、もう少ししっかり考えろ」
巧の言葉に耳を貸しつつも、視線はベットテーブルに置かれたそれに注視される。フリードにとっての罪の象徴でもあるデルタドライバーとデルタフォン。
デルタギアに触れるフリードに背を向けて、巧もまた病室を後にしようとする。
「でもな、少なくても生まれた事に罪はないって思うぜ。…俺はな」
そう言い残して、巧もまた病室を後にする。
ただ一人残ったフリードはベットテーブルに置かれたデルタギアにゆっくりと手を触れながら、静かに呟いた。
「畜生。どうすりゃいいんか、俺は」
そんな問いに答えてくれる相手も居ない。
病室には、自らを外道神父と名乗る少年の後悔と罪悪感の涙と啜り泣きが小さく響いた。
ゼノヴィア達との邂逅から数週間が経ち、フリードの体は大分回復の傾向を見せていた。
劣悪な環境と薬物による人格の改変は魔力と治療により矯正され、身体的な部分も問題はないとされ一応の退院の目処も経ち始めた頃。
「…で、んで俺がアンタらと買い物なんざしなきゃならねぇんスカ?」
「俺が知るか!…たくっ、せっかく会長達と楽しく過ごせると思ってたのによ」
「あははは…」
「………」
入院していた病院から冥界の列車に揺られて30分ほどのシトリー領の首都には周囲の目を引く四人の若者達。
不機嫌というより怪訝な顔つきのフリードに同行するのは、巧と祐斗と匙の三人。
この奇妙な男子四人組の組み合わせの理由は。
「仕方なさいさ。君は退院をしたら駒王学園に編入するんだからその準備の為に色々と用意しないとならない物もあるしね」
ふと宥める様に補足を加え祐斗から視線を外し、フリードは頭をガシガシ掻きながら尋ねる。
「随分とお優しいですなぁ、色男君。俺は、アンタと何度かやり合った相手なんですけど?」
「それはもちろん分かってるさ、でも今の君からは僕達に対する敵意や殺意は感じられない。…僕も出来る事なら仲間の大切な人を傷つたくはないからね」
祐斗の言葉にそうですか、と軽く返事をすることしか出来ない。
居心地の悪さを感じるフリードはいつも通り口数の少ない男に話を振る。
「てか、イッセー君も来るなんてこれまた驚き」
「…アイツらに押し付けられたからな」
フリードの頭に、オカルト研究部の女性陣らが浮かび上がる。彼らに自分の監視を押し付けられる巧の姿を思い浮かべて思わず吹き出す。
「ぷっ!無敵のファイズさんも女には弱いって訳かよ!」
「ほっとけ」
ケラケラと笑うフリードに巧も短く返して前を向き直る。
その後も軽口を叩くフリードを主に匙が対応し、目的の店を転々と回っていく。
「あっソーナ様の『兵士』の人だ!!」
「ファイズもいるーー!!」
フリードの新生活に必要な物を抱える四人の前に、何組かの親子が飛び出した。親子達の視線の先には巧や匙。
「あれって、木場さんじゃない?」
「えっ、ならサイン欲しい!!」
今度は人間界であれば中学生くらいの少女達が祐斗の前に。
ふとフリードは三人の立場を思い出す。
三人とも冥界では屈指の名家の次期当主の眷属。しかも直近では自分を含めたテロリスト達との戦いにも身を投じ、その名前を知らしめている。そんな若者達が冥界内で不人気なワケがない。
納得したフリードはしょーがないと人だかりの輪から外れ、落ち着くまで静かにしてるかと視線を巧達から外す。
そこに広がるの日々の営みを過ごす人達。
家族の為に働く男性、友人と共に買い物をする若い少女達、手を繋ぎならがら歩く親子。
様々な人々はささやかなではあるが確かな幸せを噛み締めて生きている。
「…ハッ、人格が元通りになったて帳消しになるワケねぇよね」
この景色を幾度となく破壊してきた罪の重さを更に実感していた。
確かに今の彼の意思ではない。教会による無理な人体実験により生まれた人格は多く者の命を奪った。そう言った点を考慮され、今自分は監視の名目でのうのうと生きている。
何が償いになるのだろうか。
見つからない答えを前に、フリードはいまだ人だかりの中にいる三人に背中を向けて歩き出した。
「…って黄昏た俺に追いかけてきたのがあんたなの?」
「ゼノヴィアさんでなくて悪かったな!」
フリードが人だかりを避けて向かった先は公園。
公園の中心には噴水があり、子供たちがはしゃぐ姿が見受けられる。
その背後には親たちがその様子を微笑みを浮かべつつ見守っていた。
そんな場所に似つかわしくない雰囲気を醸し出すのはベンチに腰掛けたフリードと走って追いかけてきた為、息の上がった匙だった。
「なんで一人で行動しようとするんだよ。一応お前監視対象って立場なんだぞ」
「わかってますよ、自分の立場は。…恐らくアンタらよりもな」
自嘲気味に呟かれた言葉は匙にも届いていた。
下を向くフリードの横顔には後悔と喪失感の色が濃く現れていた。こうして向き合ってはいるものの、匙はフリードと多く言葉を交わしてきた訳ではない。むしろこの数週間での会話の方が圧倒的に多く、敵対していた時期は何度か顔を合わせた程度だ。
「だからこうして悩んでるっすよ。…殺した連中の関係者には何をしてやればいいのかって」
「それなら、ずっと考えてればいいんじゃないか」
ふとフリードは匙の言葉に僅かに反応を見せる。そんな彼の反応に気づかないまま匙は偽らない本音を伝える。
「そうやって苦しんで、苦しんで…俺たちとココで苦しめ。だからそう簡単に死なせるかよ」
「ハッ、生きて苦しめってか。文字通り悪魔だねぇ…匙くんも」
「あぁ、お前も知っての通り、立派な悪魔さ…俺もな」
ーー苦しめ、か。悪くないなぁ。
心の中で反芻する言葉を噛み締めて、空を仰ぐ。
その空は彼の知る世界の空とは異なるものではあるが、彼の決意を受け止めるには広すぎる色が広がっている。
「フリードセルゼンだな」
「「っ!?」」
突如二人の前方に現れた魔法陣。
そこからは二人組のローブを纏う男たちが現れる。
顔を覆うフードから誰かはまでは分からないが、その正体を悟ったフリードは男に声をかける。
「旧魔王か、あの女のお迎えかな?…でもまぁ、アンタらの所望のベルトちゃんは今お手元にございません」
「そうか、ならば…」
「貴様を殺し、回収させてもらう」
そう言い放った男達がローブを外す。
風に靡くローブから解放された男達の体に灰色のラインが走る。
その現象の意味を知ってる匙が咄嗟に神器を解放し、男達を拘束する為にラインを放つ。
「シトリー眷属の『兵士』よ。今の貴様の力では我々を拘束は出来ん」
「あぁ…そうかよ!!」
男達がライオンオルフェノクに変身したと同時に匙の放ったラインがライオンオルフェノクAの腕に巻き付く。
相手の力を吸い取る効果のある匙の神器でも、ライオンオルフェノクAの力が強い為かあまり効果は見受けられない。
「それならこいつはどうだい!」
次第に大きく聞こえる声と共にドロップキックを見舞うフリード。
空中を舞う一撃はライオンオルフェノクAの体を捉えて、その体を吹き飛ばす。
たまらずライオンオルフェノクBが突き出した掌から魔力を射出。
その行先には地面に着地したフリード。
咄嗟に防御の構えをするフリードの前方に複数の剣が地面から咲き誇り彼を守る。
「…って事は色男君とイッセー君か」
振り返る先にはすでにファイズに変身を完了した巧と聖魔剣を構える裕斗が。
ふと巧が手に持っていた物が目に止まり、フリードの動きが止まる。彼の持っていた物は今のフリードにはとても使う気にはなれない物だった。
「使え」
ぶっきらぼうな言葉と共にデルタドライバーとデルタフォンが宙を舞う。フリートにはとっては1分以上にも感じられた浮遊の後に彼の手元に収まる。
「ちょっと待て、なんでこれを」
「今のお前なら、そいつを『正しく』使えるって事なんじゃねぇのかよ」
戸惑うフリードに匙は、ライオンオルフェノクの攻撃を避けながら背中越しに声を掛ける。
攻撃をかわしつつ、カウンターを見舞う匙の姿を見てフリードは空を仰ぐ。
「あぁ…そうかい。だったらまぁご期待に応えちゃいますか!」
ガチャリと響きのいい音が鳴り、デルタフォンを口元に添える。
僅かな呼吸の後、彼は宣言した。
新たな自分へと【変身】する事を。
「変身!!」
『Standing ByーーComplete』
白いフォトンストリームがフリードの体を走り、彼をもう一つの姿へと変身させる。
一際強い光が放たれた後、そこには一人の戦士がこの世界に誕生していた。
「頼れるもう一人の仮面ライダーが仲間になったね」
「かもな!」
その戦士の姿をみて、ファイズと裕斗は同時に匙の加勢に向かう為駆け出した。
「ぁぁ…やってるやりますよ。…それが、俺の…
そう言って、デルタは仮面ライダーとしての第一歩を駆け出した。
巧たちの戦闘が終わり、シトリー家の悪魔たちが現場に現着。
幸いにも巧たちが直ぐに駆けつけたこともあり、市民に死亡者はおろか怪我人すら出ずにこの騒動は幕を閉じた。
すぐにソーナを通じて、リアスたちにも連絡が届きすぐにこの場に向かうと巧が連絡を受けた頃。
「アレン…」
「…ん?」
ベンチに腰掛けるフリードを、静かな声が呼ぶ。
声の主を分かりきっている為か特に驚く様子もなくその声に応じた。
「いや、すまない。フリードだったな」
声の主ーーゼノヴィアは落ち着かない様子でフリードの様子を伺うように掛ける言葉を探していた。
「悪いのはこっち。…本当はあんたのツラも、声も、全部覚えてた。なのにあんたを遠ざけた。…あんたが待ち望んだ、【俺】じゃないから」
素直な謝罪と悔恨の言葉を返すフリードに更に掛ける言葉が見つからなくなるゼノヴィア。だから彼女は偽らない本当の気持ちを伝えることに決めた。
「確かに…あの頃とは違う形で、求めてた再会でもないのかもしれない。それでもやはり私は生きててくれたのが一番嬉しいんだ」
年相応の笑顔と目元に浮かぶゼノヴィアの涙を前に、フリードは自分でも意識していないうちに彼女の事を抱きしめていた。
「…あぁ、暫くはハーデスの元に行く予定はないんで」
「あぁ、そうして欲しい」
「これで一件落着って形かしら」
「そうだな」
抱擁の後で互いに赤くなるフリードとゼノヴィアの様子を巧とリアスは遠目から見守りながら、二人の時間を壊さないようにその場から離れていった。
というわけで本作のデルタはフリードになります。
正直言えば候補は匙君やぎゃー君でしたが二人では相棒というよりも巧の後についてくるキャラになりそうで、対等っぽいところでいったらフリードの方がいいかなぁ…と思いそうなりました。
後は中の人的にもヒーロー役も似合いそうなので…。