ハイスクールFaiz〜赤い閃光の救世主〜   作:シグナル!

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アーシアの夢

「イッセー、今日こそはキチンと契約を取ってきなさい!」

 

「何度も言わなくても分かってるってーの」

 

エレファントオルフェノクの討伐から一日が経ち、巧は放課後のオカルト研究部にて、リアスに今度こそ悪魔としての契約を取ってくるように催促されていた。

あしらう様に答えるが、その答えを聞いたリアスの顔が一瞬、恐怖を醸し出すような物になり、寒気を感じる。

 

「…まぁ、契約とかいうのを取ってくれば文句は無いだろ」

 

寒気を感じたのと、リアスの顔から焦りに似た物を感じ取り、リアスを落ち着かせるためにもやる気はある事を示す言葉を返す。それを聞いたリアスは少しホッとした顔を見せ 、巧を見つめながら、こう返した。

 

「そうよ。イッセー、貴方の力は上級悪魔に匹敵する…いえ、最上級クラスのものよ。後は、悪魔としての契約をきちんと取って来れれば、いつか貴方も上級悪魔になれるのだから、頑張りなさい。それと、何かあった時はあなたの携帯に入っている番号に連絡して頂戴」

「ああ」

 

リアスの言葉にあった上級悪魔になる。その言葉に大した関心を持たなかった巧は、急いで悪魔を呼び出した人間の元に向かう為に、呼び出した場所とオカルト研究部を繋げる魔法陣の上に移動する。

 

 

「準備いいぞ」

「分かりましたわ。 それでは、イッセー君、いってらっしゃい」

 

魔法陣に魔力を送り込む役目を果たす朱乃に、自分の準備が整った事を伝え、朱乃も巧の準備が整った事を確認し、魔法陣に魔力を注ぎ込む。

巧の足元にある魔法陣から赤い光が発生し、そのまま自分の体が魔法陣ごと何処かに向かって行くのが分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……雰囲気作ってんな」

 

巧は魔法陣での移動から目を開け、最初に見えた景色は自分の視界を覆い尽くすように暗い空間だった。

真っ暗とはいえ、悪魔になった影響で強化された視力とオルフェノクとして強化された体の二重効果により、部屋の明かりこそ付いてないが、巧がこの家を移動するには十分な視界情報があった。

 

周りを見渡すと、自分の足元に靴が複数置いてあったり、一歩先には段差がある。

この二つからここが玄関である事に気づき、自分の履いている靴を脱いで、玄関からリビングに向かう廊下に足を乗せる。

リビングまでの距離はそう遠くはない。

一歩、足を前に出し後に、何かがこの家を覆った。

自分がこの空間から出られなくなった。

そんな奇妙な予感が頭の中を過ぎった。

 

ーーリアスに連絡を入れるか?

 

懐にしまってあるファイズフォンに触れる。

ファイズフォンはファイズに変身する為に必要な物だが、それ以前に、携帯電話としても利用が可能。そのファイズフォンに入ってあるリアスの連絡先に電話を入れるか、迷ったが今のはあくまで自分の予感である為、余計な事でリアスの心配を仰ぎたくない。

ただでさえ、リアスは眷属を大事に思っている。

その眷属が危険な目にあうと知れば、勝てないと分かってるオルフェノクにも戦いを挑みかねない。

ひとまずは、様子見として連絡を入れる事はしないと決め、ファイズフォンに触れた手を下ろす。

 

 

「ふぅ……行くか」

 

部屋の前に立ち、落ち着いてない心臓。

血液が循環し、その際の鼓動が巧の体に響き渡る。

それらを落ち着かせる為に、大きく呼吸を行う。

肺から二酸化炭素を排出し、口から新鮮な酸素が入り込んで、巧の体に僅かながらに残っている緊張を解きほぐす。

 

ドアノブを握りしめ、力を込めてドアを開く。

しかし、そこに移るのは僅かな光だけだった。

どうやら呼び出した人間は悪魔が来るという事で、雰囲気作りをしていたようだ。部屋の四隅の近くにロウソクを部屋の明かりとして立てていただけ。そのロウソクの火が巧の視界に映る。

部屋には誰かの気配を感じるが、それと同時に体の内側から、何か嫌な物を除外しようとする動きを感じる。

巧が部屋には一歩、足を踏み入れると同時に冷たいものを踏んだ様に何かが触れる。

 

「…血…。 まさか………おいっ!! あんた!!」

 

巧の足が踏んだのは床に流れている血。

それも少量などではなく、大量な出血だった。

血の流れを目で追って行くと、そこには床に伏している四十代男性と思われる人物がいた。

巧は思わず声を荒げ、駆け足で男性の元に近づく。

 

ーーあの嫌な予感はこれだったのかよ!!

 

声をかけて、服をゆさぶったり、肩を叩くなどの行為を行うと、男性から少しの反応が見えた。

 

「あんた大丈夫か!! 誰にやられた!」

「ハァ…ハァ…。 君が…悪魔君…かい?? ハハ…普通の男の子じゃないか……。逃げ…なさい。 エ…エクソシストが…」

 

男性の声は途絶えつつも、何とか最後まで言葉を伝える。

こうしている間にも彼の命は尽きかけている。

抑えることのできない焦りが巧の中に生まれる。

巧は、これをどうにかできるとは考えずにリアスに連絡を入れようと懐に手を入れた瞬間ーー

 

「あらあら? まだ生きてたのかい、このおっさん!!」

 

巧でも床に倒れている男性でもない第三者の声が聞こえ、その声の聞こえる先に視線を向ける。

そこには灰色の髪、赤い目といった奇妙な出で立ちの少年がいた。

しかし、その目からは常人とは考えられない程の狂気が感じられる。

 

「…お前」

「あらあら?そ・こ・に・いるのは悪魔クン??

いいね、いいね?。本格的に悪魔払いをしちゃいます!っと、その前に自己紹介をしちゃましょう。俺様の名はフリード・セルゼン。 簡単に言うと少年神父。つまりはクソ悪魔共を殺す、ヒーロー。エクソシストでございますぅぅ!!!」

 

相手をバカにした態度と間延びした言葉使いが巧の気を荒立たせる。

自己紹介を終えたフリードは巧から刺さる殺気にも似た視線に顔を喜びに染める。

 

「おっ! やっぱクソ悪魔くんらしいクソみたいな目をしてくれないと盛り上がらないZE☆」

 

舌ベロを少しだして、笑顔を見せるフリード。

巧は男性の体に触れ、その冷たさを確認する。

先ほどから一言も喋らずに目を閉じて、眠りについたようになっている。

そう…つまりこの男性は殺されてしまったのだ。

このフリードの手によって。

巧は男性の遺体を横に倒れた状態から仰向けに直す。

フリードはその巧の行いを見て、大口を開けて笑い出す。

 

「ぶっひゃひゃひゃ!! なになに!? 悪魔呼びだしたクズの為にこの僕ちゃんに背中を見せちゃうの!?」

「……お前、なんで殺した。 なんで殺す必要があった」

 

その言葉から怒りが込められている。

背中を向けていた巧からその本気の怒りを感じたフリードだったが、そのふざけた態度は直ることはない。

 

「何、ヒーローみたいな事言ってんのぶぎゃ!!」

 

フリードの体は言葉の途中で宙を舞った。

巧の力の込められた拳がフリードの顔を抉るように突き刺さり、その力により体は地面から離れた。

地面に背中から落下し、鼻から生じる痛みを感じ、左手で鼻に触れる。

そこには大量の血が染み付いており、それを見たフリードの気分は高揚する。

 

「イイネイイネ!! そういうの待ってたんだよ!! この剣で君の体を突き刺して、この銃で、君のハートを撃ち抜いて、Fall In Love!!!!」

 

倒れた状態から、そのまま体に勢いをつけて立ち上がり、来ていたコートの懐からは剣の持ち手だけを取り出し、右手に剣を持ち、左手には拳銃を取り出した。

右手に持っていた剣の持ち手からは光で出来た刀身が飛び出す。それを見た瞬間に巧の体が一瞬震えた。

体が理解していた。

あの剣は危険ーー触れれば死ぬ。

巧も真正面から突っ込む事は止め、懐からファイズフォンを取り出す。

 

「あらあら??携帯なんて取り出して、何のつもり??」

 

フリードはいきなり携帯を取り出した巧に質問を投げかけるが、その質問に答えずに、ファイズフォンを開き、「106」と番号を押し、Enterキーを押す。

 

『Burst Mode』

 

ファイズフォンから音声が発せられる。

音声が聞こえた後に、巧はファイズフォンを縦に開いた状態から左に傾け、銃の形に変形させる。

この光景を見ていたフリードは思わず声をあげる。

 

「なんなんですかっ! その面白ケータイはっ!」

 

声を上げながら、光剣を上から下に振り下ろし、その軌道上に巧をしっかりと捉えている。

巧の後ろには男性の遺体があり、巻き込むわけにはいかない為、自分の右側に向けて体を転がして、光剣の軌道上から体を外すが体のバランスを崩さないように立ち上がりフリードを視界に捉える。

 

「あらあら、剣じゃなくて、銃で死にたいのね!!」

 

巧に光剣を避けられた事に少しばかり怒りを燃やしていたフリードは体を転がして、立ち上がろうとした瞬間を狙って左手で持っていた拳銃の照準に巧を捕らえようとしたが、赤い光線が自分の拳銃を撃ち抜き、その先にいる自分に向かってきており、咄嗟に顔を直ぐに曲げられる範囲で曲げると拳銃を撃ち抜いた光線が自分の頰を擦る。先ほどまで自分の顔があった位置の背後の壁には穴が作られていた。

 

「そのケータイおもちゃとかじゃないんだね?。いいね、君とは全力で遊びたいから…。まさか、あのお姉さんのくれた力がこんなに早く使えるなんてね…」

 

フリードは自分の背後に作られた穴を見て、武器をその場に放り投げる。

巧はそれに疑問を持ちながらも、右手に持ってファイズフォンでいつでもフリードを撃ち抜く覚悟であった。

睨み合う二人。

そんな殺し合いの空間には不釣り合いな綺麗な声が巧の耳に入る。

 

「きゃぁぁ!! 」

 

フリードよりも奥の方から聞こえる声。

しかし、それは初めて聞こえる声ではない。

巧が脳裏に描いたのは先日出会った少女。

この街の教会に行こうとしていたが、道が分からず巧に助けられた少女。

 

ーーな、なんで! なんであいつがここ!?

 

焦る巧の視線の先にいたのは…すでに動かなくなった男性の遺体とそこから流れ出る血に怯え、恐怖の声を上げるアーシアだった。

 

「助手のアーシアちゃんじゃ、あっりませんか!」

 

フリードはアーシア見て、助手と言った。

対するアーシアはそんな声が聞こえないのか、未だ遺体を見て体を震わせている。

 

「…フリード神父、これは一体どういう事ですか…?」

 

そんなアーシアから出る声はとても震えたおり、フリードにこの現象を…誰が見ても明らかなこの状況が嘘であってほしいと願うようなものだった。

 

「これが俺たちの仕事…そう、シ・ゴ・ト!!

悪魔に頼るなんて既に人として終わってる証拠なんです!

だから、そこのクソ悪魔と一緒に殺してやるのが…今夜の我々のやるべき事なんですよね?!」

 

「えっ……悪魔…。そ、そんな…だってあそこにいるのはイッセーさんですよ?」

 

アーシアはずっと床に向けていた視線を前に向けると、自分の目を疑った。

そこにいるのは、駒王学園の制服を着てフリードと向き合い、ファイズフォンを握りしめている巧だったから。

 

「だから、彼は悪魔なんだよね。あれ??まさか、まさかの因縁フラグあったの?? でも、俺たちは既に堕天使様のご加護が無いとダメな半端モンなんだぜ…」

 

フリードは近寄ってアーシアの耳元で囁く。

目から溢れ、地面に零れ落ちそうな涙をなんとか堪え、巧を捉える。

嘘だと、その一言を期待したアーシアの希望は砕かれる。

 

「俺は悪魔だ…」.

 

巧の答えを聞き、フリードは切っ先を巧に向ける。

それを見たアーシアは急いで巧とフリードの間に立ち塞がった。

その行動に巧は驚き、フリードは目を細める。

 

「何のつもりですか…アーシアちゃん。 ふざけてると君の命を奪っちゃうよ……いいのかな?」

「イッセーさんは優しい人です…!! フリード神父、どうかこの方を見逃してください!」

 

アーシアの言葉でフリードの顔は悍ましい表情に変貌し、先ほど地面に放り投げた光剣を拾い上げ、アーシアのシスター服を切り裂いた。

腹部の一部と、胸元の肌が露わになるが、アーシアはそれでも立ち塞がった。

その場から退かないアーシアを見て、フリードは怒りをあらわにし、アーシアの体に触れようとするが……。

 

「らぁぁ!!!」

 

自分が突き出した右手を巧の左手が弾き飛ばし、防御の姿勢を全く取っていない状態で再び顔面に巧の拳を食らってしまった。

 

「ぐぼぉぉ!!! ……やっぱあんたぶっ殺す!」

 

巧のパンチにより、リビングの中心にあるテーブルに体を激突させる。

怒りの表情を巧に向けるが、巧はそれをなんともない顔で受け流す。

巧の体に光剣を突き刺そうと、フリードは体を起こすがそんな二者の間に、突然、魔法陣が出現する。

 

「 おい、これ着てろ」

 

この状況でリアスたちが来たことにより、巧は安堵の顔を見せ、隣に立つアーシアに自分のブレザーを手渡す。

流石に彼女の服が破けたままでは、困るだろう。

巧の気遣いと恥ずかしさからブレザーを受け取るアーシア。

 

「その…イッセーさん。 助けてくれてありがとうございます…」

「いや、お前のおかげでなんとかなった」

 

互いに礼を告げる両者。

その二人の前にリアスたちが魔法陣に乗り、現れた。

 

「良かったわ…イッセー。 はぐれエクソシストを相手によく生きていたわ。というか、心配は無用の様ね」

 

巧の前に現れた、リアスは心の底からの笑顔を巧に見せ、巧に圧倒されていたフリードを見て安堵の声を漏らしていた。

 

「なんですかい、この悪魔の軍勢は。 だったら、俺も堕天使様をお呼びしまーす!!!」

 

フリードはそう叫ぶと、天井に近い空間から歪みのような物が生まれる。

それを見て、小猫が何かを感じ取ったようだった。

 

「堕天使が複数来てます…」

 

堕天使ーー巧はその言葉を聞いて、アーシアの手を引く。

自分の手を引かれたアーシアは少しばかり驚いた顔を見せる。

 

「おい、お前はリアスと一緒に逃げろ。俺が連中を引きつける。おい、リアス…」

 

こいつを頼む。

そう言おうとした巧だったが、突如自分の体を何かに押さえつけられる。

 

「何してんだ…離せっ!」

 

自分の体を押さえつけている二人ーー小猫と祐斗はそれぞれが巧の服を引っ張り、アーシアと自分を結ぶ手を離させようとしていた。

 

「イッセーさん。本当にありがとうございました。

また…きっとまた会えますだから…今は」

 

アーシアは目尻にほんの少しの涙を浮かべながら、自分と巧を繋ぐ手に込める力を抜いた。

スルリと離れていく自分と巧の手。

自分の手にはまだ、巧の手の暖かさと感触が残っていた。

 

「朱乃、ジャンプの用意を」

「はい、分かりましたわ」

 

リアスは堕天使達と戦う事はせずにその場から部室に戻ろうと魔法陣を引くように朱乃に命じる。

早々と魔法陣の準備を済ませ、グレモリー眷属にのみ使える魔法陣を巧やリアスたちの足元にも届くように広げる。

 

「おい…!あいつが…堕天使に捕まっちまうんだよ!!」

「駄目だよ、兵藤くん。 今は堕天使とぶつかり合うことは出来ないんだ!」

「今は逃げる方が大事……」

 

 

怒りと焦りの篭る声を出しながら、自分の体を抑え込む祐斗と小猫を何とか引き剥がそうと体を揺らし、アーシアの手を掴もうと手を伸ばす。

自分を止めようとする祐斗と小猫の声は耳に入ってこない。

 

「! 」

 

魔法陣による移動が行われ始める。

自分の視界が召喚による移動の時同様に、赤い光に包まれる前。その瞬間に巧が見たのは……

 

「ありがとう…イッセーさん」

 

涙を流しながら、自分にお礼を告げるアーシアの顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅れてごめんなさい…イッセー」

 

部室に転送を完了し終え、巧の体を押さえつけていた小猫と祐斗の拘束も外れる。

巧はおぼつかない足取りだった。

 

ーー俺のせいで、あいつもあのおっさんも…。

 

巧は先ほど、遺体と化した男性と涙を浮かべるアーシアの二人の顔が頭に浮かんでいた。

そんな巧に謝罪の言葉を小さく、顔をうつ向けて口にするリアス。

ごめんなさいーーそれは、遅れた事に対することではなく、アーシアを救う判断をしてあげられなくてごめんなさい。

巧にはそう聞こえていた。

 

「お前ら…何も悪くない。 俺の…俺の責任だ」

 

リアスたちに責任はない。

彼女たちは自分を助けるためにあの場に来て、自分だけを回収し、この場に舞い戻る。それが彼らのやるべきことだっただから。下手に他種族に攻撃することが良いこととは言えないのは巧も知っていた。

けれど、自分の迷いが、あの男性を死に至らしめアーシアを再び堕天使の元に送ってしまった。

あの時、フリードと対峙した際に巧はウルフオルフェノクに変身し、フリードを倒すことだって出来たはず。

それをしなかったのは、自分が怖かったからだ。

その自然の責が体を押しつぶしそうになったのはきっと勘違いではなく、真実。

そう受け止めて、そのまま部室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……。俺は何やってんだよ」

 

一晩明けた土曜日は休日の為、学校は休みとなり、巧は近くの公園のベンチに座り込み、熱々の缶コーヒーを飲んでいた。

普段ならば、こんな熱々の缶コーヒーは飲まないが、今は何かが狂っており、巧の行動には今ひとつキレがない。

 

「……熱っ!!!!」

 

缶コーヒーを口に含んだ瞬間、それを吐き出す。

ボッーとしていても猫舌は直らず、そのままで、巧は吐き出した缶コーヒーが地面に染みるのを焦点の合わない目で見つめていた。

 

「イッセー…さん?」

 

巧がその声を聞いて、ベンチから立ち上がる。

声の持ち主ーーアーシアは、涙を流しながら巧に歩み寄り巧の体を抱きしめた。

 

 

 

 

「なんで、ここにいんだよ?」

 

昨晩、堕天使が現れた事により教会に連れ帰られてしまった筈のアーシアはこうして、巧の目の前にいる。

 

「その…今は、お昼休みで休憩していいって言われたんです」

「そうか。なら、ここに居ればいい」

 

巧はアーシアの言葉を嘘と見抜いたが、それを言う必要は全くない為、何も言わずに彼女にここで休憩すればいいと勧めた。

 

「イッセーさんにお願いがあるんです…。 私、この街のいろんな所に行きたいんです。だから…一緒に行きませんか?」

 

突然のアーシアからの誘いに巧は驚くが、すぐさまベンチから立ち上がる。

それを見たアーシアは、自分とは居たくないのかも…。そんな不安を醸し出すと、次の巧の言葉に驚いた。

 

「そろそろ昼だな。 昼飯でも食いに行くか…。…お前も来るか?」

「…は、はいっ! 」

 

アーシアは嬉しそうな笑顔で応えた。

そんなアーシアの笑顔を見て、自分も吊られて笑いそうになるが、その顔を見られたくない巧は先に歩き出した。

 

 

 

 

 

「これはなんですか? イッセーさん」

「ラーメンっていう食いもんだ」

 

二人の向かった先は、近所のラーメン屋だった。

猫舌の巧は、以前店主につけ麺は無いかと聞いたところ……返答で、つけ麺はあることを知っていた為、今回もそれを注文し、アーシアの分は普通のラーメンを用意した。

そこで巧は、アーシアのラーメンを見る目に何処か見覚えを感じた。

まるで苦手な物を見るようで……。

 

「なんか、嫌なもんでも入ってるのか…?」

「いえ!! むしろ美味しそうです!!」

 

語尾を強くし、明らかに怪しい態度を取る。

周りのお客さんの食べる様子を見て、アーシアも自ずと食べ方を理解したのか、利き手で箸を持ち、おぼつかない様子で苦戦しつつも麺を掴み取り、自分の口元に持っていくが…。

 

「フ〜フ〜フ〜」

 

自分の口元の近くで動きを止め、フ〜と息を吹いて、ラーメンの麺に籠る熱を冷ます。何回も、何回も。

これを見て、巧は先程の視線の意味を悟る。

 

「お前、猫舌なのか?」

「は、はい。 折角、作ってもらったのにすいません…」

 

巧の視線にやられ、素直に猫舌であることを認める。

目の前の巧に対して、そして作ってくれた店主に対して、失礼かと思い言い出せなかったのだろう。

 

ーーしょうがない…か。

 

巧はアーシアが一口も手をつけていない、ラーメンを取り上げ、自分のつけ麺をアーシアに差し出した。

 

「フー、フー、フー、フー。……熱っ。…俺もだ」

 

熱々のラーメンをフーフーして、口に入れるが、そこからは今だに熱が籠っているため、猫舌の巧には堪える。

それらをなんとか堪え、麺を飲み込んで、アーシアに向けて普段の仏頂面からは考えられない程に優しく、魅力的な笑顔を見せる巧。

 

「はい!!」

 

アーシアは、巧から受け取ったつけ麺をスルリと口に入れ、美味しそうですと感想を口にしつつ。

こちらも巧以上に優しい笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセーさん、私こんなに楽しい日は初めてです!」

「初めてって…。そんな大層なことをしてないさ」

 

 

ラーメンを食べ終えた二人は、その後様々な場所に向かい、思い出を作っていた。

アーシアが猫舌と分かると、巧は自分も驚くほど素直になれた。

巧は冷たい飲み物を買うために自動販売機にお金を入れ、冷たい飲み物を買う。

販売機の下に受け取り口があり、そこに手を伸ばした際にアーシアは呟いた。

 

「いいえ…生まれて初めてでした…」

 

アーシアの言葉に重みを感じ、巧は掴みかけていた飲み物を落としてしまったが、もう一度つかみ直し、そっと受け取り口から手を出した。

 

 

 

 

「私は、元々教会で育てられた孤児でした。八つの時に死にかけていた子犬を主に助けてくださいと祈りを捧げていると、奇跡が起きました。それからすぐに大きな教会に連れられて、世界中から訪れる信者の怪我を治すように言われました。それから多くの人が私を訪れる様になりました。嬉しかったんです。私の力で誰かを笑顔にできるなら…私はこの力を大事にしたいって。そんなある日の事でした、偶然出会い、治療をした男の人が悪魔だったんです。それから私は異端者として教会を追われ…」

 

「もういい…」

 

巧はそこで話を切り終えた。

アーシアの目から涙が溢れ出しそうになるのを見たから。

彼女に罪はない。

ただ、自分の力で目の前の苦しむ者を救おうとした。

それだけのことだ。

そして巧は決意する。

彼女を……あの教会に連れ戻させはしない。と

 

「でも…私は主への感謝を忘れたことはありません。

今は苦しいけど…いつか、いつかきっと。主は私の『夢』を叶えてくださると…信じてます」

 

夢。

巧はその言葉を聞いて、かつての仲間、園田真理を思い出す。

真理には夢があった。美容師になるという夢が。

しかし、彼女はそのために努力をしていた。

それはきっと主…何てものが叶えてくれるものではない。

 

「夢っていうのは叶えてもらうんじゃなくて、自分で叶えるもん…なんじゃねえの?」

 

「自分で…ですか。私は友達とお話をしたり、一緒にご飯を食べたり、本を買ったり、お花に水をあげたり…。そんなことを一緒に友達としてみたいんです。それが…私の『夢』なんです。イッセーさんの夢は何ですか?」

 

アーシアは空を見上げながら、夢を告げた。

それはあまりにも普通の『夢』だった。

巧は乾巧として最期に見つけた筈の『夢』を言葉にしようとしたが…

 

『ーーーーーーーーーーーーーーように…』

 

記憶にエフェクトが掛かり、言葉を思いだす事ができなかった。

一瞬、怪訝な顔をしたが、それでもこのことをアーシアには悟らせずに少し申し訳なさそうに謝罪の言葉が出た。

 

「悪い。俺には夢が無えんだ。でも、お前の『夢』は簡単に叶いそうだな」

 

「えっ??」

 

「お前の言葉通りならな…。 俺もこんなんで良ければいつだって付き合ってやる」

 

その先は言わなくても分かった。

アーシアは巧の言葉足らずな言葉でも理解できた。

『友達ならここにいる』

アーシアにむけて巧はそう言ったのだ。

 

「な、なら…お願いがあります。良いですか?」

「内容によるな」

「そ、その。私のことを名前で呼んでくれませんか?…教会にいる時は名前で呼んでくださる人は居なかったもので」

「んなことかよ。いいぜ、アーシア」

 

巧の何気ない一言に、アーシアはまた嬉しそうに微笑む。巧はそんな笑顔がやけに眩しく思えた。恥ずかしさもあった為か、彼女から目をそらす。

休日の街中にあるどこか初々しい男女。そんな二人を切り裂くようにそれは、現れた。

 

「あらあら、教会を抜け出して男とデートなんて、あなたも女なのね、アーシア」

 

空から聞こえる女の声。

その声に反応したアーシアは、体を震わせ、巧は空を注視する。

そこには背中から黒い翼を一対に生やした者達-ー堕天使がそこにはいた。

 

「アハハ! 私たちから逃げようなんて、無理無理!」

「面倒をかけさせるな。人間如きが」

「隣の男…いや、あれは悪魔か? あれは頂いても構いませんか?レイナーレさま」

「ええ…よく生きていたわね、イッセー君。 まさか穢れた悪魔に成り下がっていたなんて」

 

堕天使の中でも中心人物と思われる、レイナーレと呼ばれた女は巧に視線を向ける。

当然ながら、巧はレイナーレのことを知らない。

 

「お前ら二人痴女かよ。 というか誰だよ」

 

レイナーレともう一人、女の堕天使--カラワーナは肌を多く露出させた格好をしているが為に巧は痴女と呼んだ。

レイナーレとカラワーナはその言葉で怒りを爆発させる。

 

「下級悪魔如きが…っっ!! レイナーレ様とこの私を侮辱するなぁぁぁ!!!」

「死になさい、イッセー君!!!」

 

二人は手のひらで、悪魔にとっては大変な弱点である光をベースに作り出した槍を創生し、片手で持ち、狙いを巧に定め、投げつける。

勢いを持って、巧の元に向かって行く槍。

地面との接触を果たすと、その場で爆発と同じ現象が起こり、爆風で軽く吹き飛ばされたアーシアは何もできずにその場で座り込む。

死んでしまった…。

自分を守る為に堕天使に立ち向かった巧が…。

受け入れがたい真実は、ジワジワとアーシアを飲み込んでいく。

 

「弱いものね」

「所詮は下級悪魔よ」

 

レイナーレとカラワーナの二名もまた、巧の死を疑わずに喜びの声を上げる。

 

「人を勝手に殺すな」

 

巧は、土煙の中から現れ、レイナーレたちを強く睨みつける。

 

「なっ…!? いいわ。 カラワーナ、ミッテルト、ドーナシーク。あの悪魔を消しなさい。私がアーシアを連れて行くわ」

「「「はっ!」」」

 

三人は、3つの方向からそれぞれ、枝分かれして巧に向かって行く。

ドーナシークと呼ばれた男の堕天使は巧の正面から現れ、光の槍を巧の体に向けて突き刺そうと刺突を放つ。

 

「消えろ!」

「どけっ!!」

 

巧はドーナシークが自分を突き刺そうと体の重心を前に寄せる際に、体を屈ませて、ドーナシークの顎に向けて全力のアッパーカットを繰り出す。

身体的な弱点……脳が揺れたことにより、ドーナシークの焦点は揺らぎ、意識も何処かに行きそうになるが、巧をアーシアの元に向かわせない。

その意識のみで、アーシアの元に向かおうとする巧の背中に向けて、光の槍を放とうとするが…。

 

「うらぁぁ!!」

 

殺気に敏感な巧は、僅かながらにドーナシークの意識が残っていた事に気付き、その位置から足を最大限伸ばし、回し蹴りをドーナシークの顎に決める。

二度目の顎に向けての攻撃で、ドーナシークは確実に意識を奪われ、その場に倒れる。

 

「アーシア、手を伸ばせ!!!」

「イッセーさんっっ!!!」

 

ドーナシークが一番早く、巧の元に辿り着いた為に他の二人は巧とアーシアが合流してからでも十分に逃げられるだろう。

しかし、まだ一人、堕天使は残っている。

四人の中で最も力のある堕天使--レイナーレ。

レイナーレは、アーシアの背後から魔力で形作った光を浴びせ、意識を奪う。

意識を奪われたアーシアは必然的にレイナーレに体を預ける形で倒れる。

 

「ミッテルト、カラワーナ。 ドーナシークを、連れて今すぐ教会に戻りなさい!

今夜儀式を行うわ。アーシア…あなたを悩みや苦しみから解放してあげるわ」

 

レイナーレは奇妙なことを口走り、自分とアーシアを黒い翼で体ごと包み、この場から消え去る。

そこには、レイナーレがいた証拠として黒い羽がひらひらと舞っていた。

 

 

「アーシア!!」

 

巧は誰もいない公園で、アーシアの名前を叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけないで!!! あなた、死ぬつもりなの!!あのシスターの所に行くってなんで!?」

「死ぬ気はねえよ。」

 

夕方になり、巧はオカルト研究部にてリアスにアーシアの救出に行くことを伝えた。が、それを猛反発するリアス。

 

「別にお前について来てくれなんて、言ってない。

ただ、俺が一人で行く。そのことを伝えただけだ。もし仮に死んでも、俺は『兵士』なんだろ?死んだときは別の誰かをそれにすればいい」

 

巧の言葉を聞いて、リアスは思わず巧の頰を平手打ちした。

一瞬、巧は時が止まったかのように静止したが、すぐに顔をまっすぐ向き直し、リアスと向き合う。

 

「いまさら、行かない。なんて言うつもりはない」

 

巧はリアスに背を向け、そのまま部室を出て行こうする。

ドアノブに手をかけようとする巧の耳にリアスの声が入ってくる。

 

「あなたはどうしてあの子を…アーシアちゃんを助けようとするの?」

 

それはなぜ巧が戦うのか…。それを問う質問だった。

 

--そんなの決まってる…俺は、俺はだだっ!!

 

「人間を守るってそう決めたから…それだけだ」

 

巧は振り返る事なく、こう答え、ドアノブに手を掛けてオカルト研究部室を後にした。

 

巧の出て行った部室ではーー

 

「巧さん…あなたは…。 しょうがない子ね。 朱乃、行くわよ。 小猫、祐斗。 あなた達はあの子のサポートをして頂戴。それと、伝言をお願い。『兵士はどんな駒にもなれる。プロモーションの力を宿してる』って」

 

リアスは巧の答えが頭の中で何回も反復していた。

 

ーー人間を守る。

 

それの為だけにあそこまでの硬い意志の篭った目を出来るのか?

リアスは巧についてまだ分からないことだらけだったが、これだけは分かった。

 

「みんな、イッセーを死なしてはダメよ! 全員で生きて帰ることよ、いいわね」

 

イッセーいや、乾巧はこんなところで死んでいい男ではない。それだけはリアスは分かっていた。




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