三巻の途中までは毎日投稿が続きます。
朝の日差しが空から降り注ぐ。
その光は真っ直ぐに駒王町を照らしている。
「はぁ……」
この空の上にいるかもしれない神さまでさえも陽気な気分になっているやもしれない天気の中で巧はただ一人ため息をこぼす。
乾巧が兵藤一誠に憑依してからはや数週間。
その間に様々なことが巧の周囲で起きていた。
主な出来事といえば、今ため息をついている巧の隣で雪解けの春の如き笑顔を浮かべている少女、アーシア・アルジェントが巧の家にホームステイする事になった事はその一つ。
遡る事数日前、日が昇り始めの時間にリアスに叩き起こされ、家の外に連れ出されるとそこにいたのは…ボストンバッグを肩に下げ、多くの段ボールと共に立つアーシア。
巧は寝起きの体に鞭を打ち、アーシアの荷物の段ボールを家の中に運び込み、その後にはリアスが兵藤一誠の両親二人にアーシアをこの家にホームステイさせてもらえないか?という交渉に付き合わされた。
もちろん、アーシアに関するお金は全額負担するという条件、何よりもアーシアの人柄に惚れ込んだ兵藤夫妻はアーシアのホームステイを承諾したのだ。
それだけでなく、アーシアは駒王学園の生徒として巧と同じクラスに編入したのはつい昨日の事だ。
『私の名前はアーシア・アルジェントです。今は兵藤一誠さんのお家にホームステイさせて頂いてます。花嫁修行も兼ねて頑張ってます!!』
自己紹介の際にはこんな事を言ってしまい、巧は多くの男子の怒りや妬みなどが込められた視線を受けるが、無愛想さが功を奏し、巧が睨みを効かせると二人の男子を除いた全員が一斉に押し黙った。
因みにアーシアから花嫁修業と冗談を吹き込んだのはリアスと聞かされ、この日の放課後、リアスは巧からデコピンを受けたのは当人しか知らないお話…。
クラスメイトの女生徒たちとも一日では打ち解けられないかと思っていた巧だったが、アーシアの持つポワポワめぐりん☆オーラによって男子はもちろん、女生徒たちでさえもアーシアと打ち解ける事に成功した。
一部の女生徒は巧ひいては兵藤一誠の家にホームステイと聞いて、気をつけるように注意を促すが…。
『イッセーさんは…私を助けてくれたんです。私、日本に来て少ししたら悪い人たちに襲われたんです。
そこで死んでしまうと思ったんですけど、イッセーさんが私を助けに来てくれて、こう言ってくれたんです。「こんなところでお前を死なせやしない…」って。だから、私はイッセーさんの事、信じてます』
顔を赤くして巧の事を話すと、多くの女子生徒は顔を赤くして、また男子生徒もアーシアを危険から助け出した巧に尊敬の視線を向けていた。
「はぁ…」
今日までの劇的な出来事を思い出し、本日二度目のため息をつく巧。
そんな巧の隣にいるアーシアは満開の花のような笑顔を巧みに向けて、声を掛ける。
「どうかしたんですか? イッセーさん」
「…別になんでもねぇよ」
ぶっきらぼうな言い方ではあるが、アーシアにむけた表情は笑顔であった。
笑顔を見せた巧にアーシアも笑顔を返した。
ーー少しばかり面倒な事があっても…いいか。
こんな風に自然な笑顔のアーシアを見て、多少の面倒事ならば頑張ってみよう。
柄にもなくそんな事を思う巧と誰よりも楽しそうな笑顔を浮かべるアーシア。
そんな二人を祝福するように太陽から陽気な光が二人を照らしていた。
「イッセー、きさまぁぁぁ!!!」
「我々の彼女いない同盟はどうなったのだぁぁ!!!」
ーーヤバい…もう面倒だ。
先ほどの決意が巧の心中で早速崩れかけていた。
巧とアーシアは学園に着くと自分のクラスに向かう。
教室への入り口を開けると涙を流し、血反吐を吐きながらまるでゾンビの如く巧に迫る二人の男子生徒。
そんな二人を見て巧の表情はさらに硬くなる。
「そんなの知るかよ。鬱陶しい」
胸ぐらを掴む男子生徒二名の手を振りほどき、自分の席に座り込み、頬杖をかく。
アーシアは自分の席の周りにいる女子生徒達との談話に花を咲かせていた。
対して巧は…。
「何故だぁぁ! 何故お前の周りにフラグがぁぁ!!」
「うぉぉぉ!!! 俺のエロ細胞がトップギアだぁ!!」
巧の机に一秒もしない間に接近し、巧の制服にしがみつく先ほどの男子生徒達。
「ああっ! もうウザいんだよ、お前らっ! あっち行け!」
「何を言っているんだイッセー!」
「お前が記憶を失う前は我々、松田、元浜、兵藤といえばこの駒王学園で知らぬ者はいないほどのエロの探求者ではなかったか!!」
この二人の男子生徒、松田と元浜という生徒は巧が憑依する前の本来の兵藤一誠の友人だ。
一誠が変態であったが、この二人も相当の変態だ。
三人はいつも女子更衣室や様々な着替え場所を覗いていた事を巧は直接、この二人から聞いた。
いや聞いたというよりはこの二人が勝手に巧に話しかけ、その事を大声で豪語し、女子達から引かれただけだったが…。
因みにこの二人はアーシアの転校初日の際に巧の睨みでも視線をそらさなかった二人でもある。
「うぉぉぉ!!!お前をエロに戻してやるぅぅ!!」
「もう一度、女子の魅力について語り合おうぞぉぉぉ!!」
「うるせぇ!! いいから離せよ!!」
涙ながらに巧の体にしがみつく二人をなんとか振り解こうとして体を揺らし、大きな声を叫ぶ巧だった…。
「使い魔…?」
放課後のオカルト研究部室。
巧は部室にある長いソファーに座りながら、朱乃の淹れた温めの紅茶を口に運ぶ。
隣に座るアーシアも巧と同じ物を口に運んでいる。
「ええ、貴方達もそろそろ使い魔を持っておいた方がいいと思って。
使い魔は情報伝達や相手の追跡、様々な事で役立ってくれるの。 大抵悪魔は使い魔の一匹は持つものよ」
「…ああ。アイツみたいなもんか」
リアスの使い魔の説明を聞いて、目を窓の外に向ける。
巧の視線の先にあるのは旧校舎の入り口に停めてあるオートバジン。
リアスの説明でオートバジンと似たものである事に気付き窓の外に視線を向けたのだろう。
「確かにバジン君は使い魔さんみたいですね!」
「バジン君はしかも強い使い魔だしね」
「……パワフル」
オートバジンの戦闘の様子を知っているアーシアと祐斗と小猫はバジンに対する感想を一纏めてで口にする。
「あの子、そんなに強いの…。 イッセー、今度見せてもらっていいかしら?」
「そうですわね、私も見せてもらっていいかしら?」
「そのうちな」
リアスと朱乃の願いを適当に返答し、再び紅茶を飲み込む。カップの部分は少し熱いため、丁寧に触れる。
朱乃は少しオドオドとした巧を見て、笑みを浮かべ、リアスも戦闘の時とは違う巧を見て笑みをこぼす。
「それで部長さん、その使い魔さん達はどうやってお友達になれるんですか?」
アーシアは自分の使い魔を想像し、ウキウキする気持ちを表情に出してリアスに質問する。
不意に巧はこの部室に誰かが近づいてくるのを感じ取った。それも一人などではなく複数人だ。
その一人一人から感じられるのは自分と同じ悪魔の様なもので、警戒する必要もないと判断する。
「失礼します」
「どうぞ」
ドア越しに聞こえるドアをノックする音と凛とした声。
その声は部室内にも響き、朱乃がその場で返答する。
一秒ほどの間が空いてからドアノブに手をかける音がして、部室の入り口が開かれる。
そこから入ってきたのは何人もの駒王学園の生徒達。
この部室に入ってきた全員から悪魔と同じ気配を巧は感じ取り、彼らの戦闘に立っていたメガネをかけたショートヘアーの少女はリアスと同じレベルの強さと気配を持っていた。
いきなり部屋に入ってきた生徒達に声をかける事もせずにその場で気にせずに紅茶を口にしようとカップに手をかけるが、既にカップの中には紅茶が入っていない事に気付いた。
「イッセーさん、あの方達は…??」
「多分、悪魔だろうぜ。 姫島、紅茶をもう一杯頼む」
「イッセー、貴方知ってたの?」
巧が口にした何気ない一言に反応したリアス。
朱乃は巧の呼びかけで、カップの中には再び紅茶を注ぐ。
「…少し熱いな。 フー、フー、フー」
リアスの一言を聞いていない巧は朱乃の注いだ紅茶に熱が篭っているのを感じ、フーフーと息を吹きかける。
カップから立ち込めるほんのりとした紅茶に熱が篭っている証拠である湯気をかき消す様にして何度も息を吹きかける。
「聞いてるの、イッセー??」
「熱っ!! 何すんだよ、リアス!!」
巧がフーフーするのに集中しているため、リアスは巧の肩をポンと叩く。
コーヒーカップに小皿を乗せた状態でフーフーしていたのでリアスが肩を叩くと巧の舌がまだ冷まっていないコーヒーの中と接触する。
その際の熱さでリアスが声を掛けたことに気がつく。
「貴方…ソーナが悪魔って知っていたの?」
「あ……いや、なんとなくだ」
オルフェノクとしての感覚で調べたらわかった。
などと言える訳もなく、適当に答えを考えて口に出す。
リアスはその一言で納得し、来客の少女達と顔を向かい合わせる。
「あの…この方達は一体??」
「いまここにいる方々はイッセー君の言う通り悪魔です。
あちらの方は支取蒼那さん。この駒王学園の生徒会長…ええとつまり、学校の為に頑張る方々のリーダーといえばいいのかしら。ですが、本当は部長と同じ純血悪魔の一人で本来の名前はソーナ・シトリー様ですわ」
朱乃はアーシアの為に生徒会長を噛み砕いた形で説明し、アーシアも朱乃の説明でソーナに頭を下げようとソファーから立ち上がる。
「あっ、あの! 何も知らずに、すみません!!」
「アーシア・アルジェントさん。気にしないでください。
貴方もこの駒王学園の生徒として楽しい学園生活を送ってください」
「あ、ありがとうございます!!」
上級悪魔という事もあるのか、すこし緊張していたアーシアだったが、ソーナの優しい態度で緊張が解けていた。
「………」
先ほどから紅茶と睨めっこしていた巧だったが先ほどから嫌な視線の様なものを感じていた。
巧に視線を向けていたのはソーナと共に入ってきた生徒の中で唯一の男子生徒。
そこからは様々な感情の混ざった視線を向けられて、いい気分はしないだろう。
ーーはぁ…また面倒なのに絡まれんのかよ。
朝の松田や元浜といい…面倒ばっかりだ。
心中でそうぼやきながら、立ち上がる。
「なに見てんだよ」
「お前、変態三人組の一人、兵藤一誠だろ。
会長や生徒会のメンバー、他の生徒。ましてや眷属の女の子になんかしてみろ、お前をぶっ飛ばしてやるからな」
男子生徒の答えに巧はその場でズッコケそうになる。
つまりこの男子生徒は…巧の憑依事情を知らない為に巧の事を変態と思っている。
そんな変態がアーシアのような美少女と仲が良ければ不審に思うのは当然…か?
よく見るとソーナと彼女の隣にいる黒髪ロングの女子生徒を除いたほぼ全員から嫌な視線を向けられている事にいま気がついた巧。
こんなところで自分の憑依した兵藤一誠に文句を言いたくなってきていた。
「匙、兵藤君はもうそんな生徒ではありません。彼はリアスを助ける為に記憶喪失になってしまいましたがその結果はいい方向に向かっているのですから」
匙…そう呼ばれた男子生徒は顔を下に向けてから後ろに下がった。
「それで今日はどうかしたのかしら?」
「ええ、新人の匙に使い魔を持たせようと思いまして」
「あら、私達もよ…どうしましょう? 」
リアスとソーナは互いの目的が同じであった事に驚き、その場で考える。
ーー帰る…。って言ったら面倒か…。
本日何度目かのため息はすぐに消えていった。
木々が生い茂る森。
周囲の景色が赤く見える奇妙な森。
通称ーー使い魔の森。
そんな場所に巧達、グレモリー眷属は魔法陣を介して転移してきた。
シトリー眷属との勝負(ジャンケン)に勝利し、先にこの森に詳しい使い魔マスターなる者に案内の予約を入れ、この森にやってきた巧達。
「ううっ! すこし怖いですぅ!!」
近くの方向から聞こえる奇妙な鳴き声を聞いて体を震わせるアーシア。
その際に巧の手を握り、巧の腕にしがみつく。
巧もアーシアに抱きつかれ悪い気分はしなかったが、気恥ずかしい気持ちになる。
「おいアーシア。 その…近いぞ」
「あっ…、い、いきなりごめんなさいイッセーさん」
冷静になり、自分のやった事を思い出したアーシアは巧の腕から距離をとって手を大きく振る。
すこしばかりラブコメような一幕を見ていたリアス達。
「使い魔ゲットだぜ!!!!」
突如聞こえる大きな声。
その声の元は巧達の目の前にある大きな樹に登っていた中年の男性。
しかしその服装はまるで夏休み中の小学生と称するような服であった。
「あれなんだ?」
「彼が使い魔マスターよ。 安心して見た目は変かもしれないけど腕は確かよ」
「本当かよ」
目の前の使い魔マスターを見て、そう思えるのかどうか。
すこしばかり不安が生まれる巧であった。
「キュー! キュー!!」
「うふふ、くすぐったいですよ」
アーシアは小さな蒼い体色をした可愛らしい小さなドラゴンを抱きしめていた。
使い魔マスターのザトゥージの案内の元、巧達は複数の使い魔候補を見て回った。
ものすごく筋肉のついたウンディーネ、毒蛇のヒュドラなどを見て回り、ザトゥージは巧に最強クラスのドラゴンを勧めてきたのを一蹴したりなど様々な体験をした。
結局、巧は使い魔を見つけるつもりは元々無かったので捕まえなかったが、アーシアは先ほど出会った着ている服を溶かすという力を持ったスライムに襲われた際に助けてくれた小さなドラゴンを気に入り、使い魔にした。
「良かったわね、アーシア」
「はいっ! それじゃ…この子の名前はラッセーくんです!」
とても嬉しそうに名前を呼ぶ。
ラッセーという名前を聞いて巧はアーシアに抱きかかえられているラッセーを見つめる。
対するラッセーも睨んでいる巧に対してふてぶてしそうな目で返してくる。
正に似た者同士と呼ぶべきであろう。
「そのこの子は雷撃を放ったりしますけど…イッセーさんみたいに強くて優しい、そんなドラゴンになってほしいから、ラッセーという名前にしました。ダメですかね?」
雷撃を放った。
それはアーシアの体にまとわりついていたスライムを消し去る際にラッセーは電撃攻撃を行ったのだ。
そのことを思い出している巧は急な不意打ちに顔を赤くする。
この顔をアーシアやリアス達に見られたくないからか体を後ろに向ける。
「俺は優しくないが…まぁいいんじゃねえのか。お前がそれで納得してるならな」
顔を背けているが、巧の答えにアーシアは微笑み、ラッセーに抱きつく力が強くなる。
顔の赤みが引いてから、体の向きを直してラッセーとアーシアに向かいあう。
じっとラッセーに強く視線を向ける。
見てみると確かに可愛らしい所もある。
恐る恐る、手を伸ばすと…。
「キュー?」
聞いてるだけで上機嫌とわかるような声で鳴く。
それはアーシアに撫でられている時と同じレベルで喜んでいる時といえよう。
「すごいな。 基本的にドラゴンは他の生物のオスが嫌いなのに…」
ザトゥージは巧に撫でられて喜ぶラッセーを見て、顔色を驚きに染める。
「きっとそれはイッセーの優しさをラッセーは感じたんじゃないかしら?」
「そうかもしれないですわね」
「確かにイッセーくんは素直じゃない所がありますしね」
「……ツンデレ乙」
「っっ??!! もう帰るぞ!!」
皆にツンデレと言われ、顔を赤くした巧は一人でその場から歩き出した。
アーシアはそんな巧に追いつくために笑顔で駆け寄った。
一応次回からは二巻のお話です。
オリジナルは…いつになるのやらって感じです。