結城友奈は勇者である〜無限の造花〜   作:タンスの人

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すげぇ時間空いたんで初投稿です。
あと短い。
園子ファンの方まじでごめんなさい


11話 極限

 園子は勝利を確信していた。何をもって勝利とするかは分からないが、彼女は目的を達成できるという喜ばしさで胸踊っていた。

 目の前の目的の彼は既に手痛い攻撃を受け瀕死であり、尋問するには丁度いい。

 

「♪さてさてさーて、どういう感じで聞こかっなー☆。」

 

 これから起きることやることになんの疑問を抱かない、抱けない乃木園子は身体中白い包帯に巻いたまま補助リボンでスキップするかのように彼の元へ笑顔で向かう。まるで入院中できなかった彼氏との久しぶりデートを楽しみにする無垢な少女のように。

 余程楽しみなのか、思わず口に出てしまっているがここには自分と彼しかいないためそれを咎める者はいなかった。

 しかしその包帯には、頬と肩あたりには、傷つけ吹っ飛ばした彼の血が少なからず付着していて、恋する少女のような笑顔と合わせるとあまにミスマッチ故に猟奇的な印象を抱かせる。

 何より─────

 

(痛みで無理矢理喋られせるのもいいけど、精霊で洗脳するのも面白そう♡。あっ、そうだ☆。悪夢をみせ続けたらいいかな?それも延々と)

 

 その内面はどうしようもないほど、精霊の使役により歪められていた。

 

(うーんどうしよ。迷うなぁ。ミノさんやわっしーがいたら色々聴けるのに2人ともいなくなっちゃったし、悲しいなあ。でもあの二人なら私のすることを肯定してくれるよね、私リーダーなんだし。)

 

 今の彼女は論理も常識も記憶も汚染されている。彼女の友人たちがこの彼女を見たら、本当に怒り、悲しみ、慟哭するだろう。

 普段の乃木園子ならそのくらい言われずとも分かっていた。たとえ汚染されていようと。

 なるべく彼の前でも冷静でいようとした。

 しかし、実際に彼─高嶋士郎は何度も彼女を袖にした。すぐに彼には話せない訳があると察した。しかしそれで頭は納得出来ても、心はそうはいかなかった。

 そして彼女は彼のことを考える度、次第に冷静さを失いその狂気(情動)が暴れ出すようになった。

 だから、目的と手段が逆転し始めている。

 全く話そうとしない、答えようとしない男を喋らせるという『目的』ため、暴力的な『手段』にでたというのに、話し合いという『手段』で暴力をふるうという『目的』になってしまっている。

 ふと。唐突に。彼女は持っていた槍の穂先を士郎に向け、伸ばした。

 別に追撃の必要はもうない。それほど相手は重傷を負っている。これは意味の無い行動。

 強いて動機を上げるならば、

 

 何となく。

 

 雑草を引っこ抜くような感じで伸ばされたその凶槍は、しかし彼には届かなかった。

 穂先が届く寸前煙幕がはられたのだ。

 もちろんこの程度彼女には、取るに足らない無駄な足掻きに映っただろう。感触だってあった。

 しかし、そこに彼はいなかった。

 確かに感じた感触は布の塊。

 人を刺したことがないためすぐに気づけなかったのだろう。

 

「ちぇっ」

 

 舌打ちは仕損じたことにだけではなく。

 手に伝わった感覚にギョッとしたこと。

 それが杞憂だったことに心がほっとしているのを。

 この気持ちについて考え、答えが出ないことについて。

 彼女はイラついた。否、焦っていたのかもしれない。

 

 

 ─────────────────────

 

 乃木園子からそう離れていない根の影。

 瀕死の体に鞭打ち、ギリギリ躱して姿を彼女から隠し休んでいる男がいた。

 隠れながら止血しつつ、切り札を切る覚悟を、決めていた。

 

(もうなりふり構ってたら万に一つも勝ち目はねぇ……。一か八か詠唱してやるっ……!)

 

 今まではこの詠唱こそ最大の隙であり、相手もそれを理解していたからこそこの手は打てなかった。

 しかしもう安牌をとって勝てる相手ではないことははっきり分かった。

 絶対に勝てる保証はないが、

 されど結界を展開し手数を増やさなければ万に一つも勝ち目はない。

 

 目を閉じ、拳を握り胸に置く。

 

「────身体は剣で出来ている。」

 

 身体中に鳥肌が立つような感覚。

 全身の魔術回路が更に暴力的なまでに活性化、ショート上等の暴走ギリギリの所。

 呪文とは自己暗示の為のもの。自己暗示とはイメージ。

 イメージする。自分という器が足から冷水が溜まっていく感覚。

 変わっていく。己が変革していく。

 

 何かって?

 

 そんなのは決まっている。

 

 それは常に最強の己自身。

 

「───血潮は鉄で、心は硝子。」

 

 自己暗示という目的さえ達成出来ればフルで唱える必要は無い。あとは受け継いだ刻印がやってくれる。

 

「──幾たびの戦場を越えて不敗。」

 

 この極限状態。皮肉にも精神は落ち着いていおり、呪文の効果を何倍にもしていた。

 血が更に静かに早く循環、それどころか同じ所を短距離走の如く身体中をグルグル回っている。

 全身の魔術回路が全開で魔力を回しているのだ。

 

「─ たった一度の敗走もなく、」

 

 刻印が更に熱くなる。まるで燃えてるようだ。

 熱に呼応するかのように空間が更に歪む。

 炎天下の陽炎のように。

 これでもう隠れられない。

 居場所はもうバレた。

 彼女はきっとその武器で隠れてる根ごと撃ち抜いてくるだろう。

 

「たった一度の勝利もなし。 」

 

 ────けれど逃げる必要はあらず。

 

 気付いた園子が嬉嬉として高速で接近する。

 周りに展開する武具一つ一つが生身の自分にとって必殺。

 縦横無尽に飛び回るそれは。

 隠れる自分を物陰ごと撃ち抜くだろう。

 飛び出てきた所を押しつぶすだろう。

 生きるため策を弄するのを突き穿つだろう。

 

 ──どう来ようと、瀕死の彼は逃げることしか、否、それすらできないだろう。

 

 それが園子の予想だ。

 けれどそんな予想は全てハズレ。

 士郎の取った行動は至ってシンプル。

 

「────、──────────」

 

 詠唱しながらの接近。

 園子の前に躍り出る。

 これは予想外でも余裕で対処できる、園子はそう思った。

 それが狙いとも知らず。

 

 もとよりショートカット版の詠唱。

 余裕で対応出来るのはむしろこちらの方だ。

 そして唱える。その言葉を。

 

「それでもこの呪われた剣の体は、

 無限の造花で出来ていた─────────」

 

 そして世界は塗り変わる。

 




誤字今更修正しました。遅れてすいません。

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