超次元インフィニット ネプテューヌ・ストラトス 作:友(ユウ)
新作の投稿です。
インフィニット・ストラトスに関しては原作全巻とアニメもみましたが、ネプテューヌの方についてはアニメとゲームのVⅡRのみなので、オリジナル設定だったりこれは違うんじゃと思う所があるかもしれませんが、生暖かい眼で見逃してくれるとありがたいです。
それではどうぞ。
プロローグ 失意の中の
白騎士事件。
何者かによるハッキングにより、日本に向けて発射された二千発以上ものミサイルをたった一機の白いISが過半数を撃墜し、その後に捕獲しようとした軍隊も犠牲者無く無力化させた事件。
この事件は、一般には犠牲者がゼロという奇跡的な事件として知られているが、真実は少し違う。
何故なら、僅か二人ではあるが犠牲者は出ていたのだ。
それをISの力に目をつけた日本政府が、ISのイメージダウンを防ぐために犠牲者ゼロという偽りの情報を世に広めた。
その真実を知るのは、政府高官のごく一部。
そして…………………
白騎士事件の犠牲者である二人の息子。
月影 紫苑…………………
―――白騎士事件から七年。
「お兄ちゃん! 早く早く!」
14歳にしては、やや小柄な身長の少年―――紫苑―――に向かって手を振る黒髪の少女の名は、月影 翡翠。
紫苑の一歳年下の妹だ。
手を振る右手には花柄のブレスレットが通されている。
紫苑が誕生日にプレゼントしたものだ。
彼女は両親の死の真相については何も知らない。
ミサイルの爆風に飛ばされたショックか精神的なショックかのどちらかが原因で、事件があった日の記憶が丸ごと消えているのだ。
ただ、家族で事故に巻き込まれて自分と紫苑だけが生き残ったと教えられていた。
紫苑は政府の人間から両親の死の真相を口にしないことを条件に、自分と妹の生活費や学費などの援助を受けている。
紫苑は当時七歳だったため、詳しいことまでは理解できていなかったが、両親がいなくなり、これからは自分が妹を護っていかなければいけないという事だけは理解していた。
事件の後、二人は唯一の肉親である祖父母の下に引き取られ、生活を始めたが、紫苑は祖父母に頼み込んで近くの剣術道場に通わせてもらうことにした。
幼い紫苑なりに考えた結果、翡翠を護るために強くなると決意したその答えだ。
祖父母も紫苑の気持ちを汲んでくれたのか、特に反対はしなかった。
紫苑は翡翠を護るという決意の下ガムシャラに鍛練を繰り返した結果、十四歳になった現在ではその道場の師範すら歯牙にも掛けないほどの強さにまで辿り着いた。
紫苑は、紫苑なりにずっと見守ってくれた祖父母に感謝していた。
だが、その祖父母もこの一年の間に相次いで他界している。
「そう急がなくてもいいだろ、翡翠」
紫苑は両手をポケットに突っ込みながらやれやれと言わんばかりに歩いていく。
現在二人がいるのは、ISが関係したイベント会場で、ISの実物の展示や、ISの適性判定なども行われている。
紫苑は両親の死に少なからず関係しているISはあまり好きではなかったが、翡翠がどうしても行きたいと駄々をこねた為、渋々付き添いで一緒に来ていた。
だが、楽しそうにあちらこちらに行き来している翡翠の笑顔を見て、まあいいかと気を取り直す。
暫く展示物を見回った後、翡翠は最後にISの適性判定を受けていた。
すると、突然その周囲が騒めいた。
紫苑が何があったのかとひょっこり顔を覗かせると、
「お兄ちゃん! 見て見て~!」
翡翠が嬉しそうな表情をしながら一枚の紙を見せてきた。
その紙はIS適性の判定結果が記された紙で、その内容は、
「IS適性……………Sランク!?」
紫苑は思わず叫んだ。
一般人のIS適性はB~Cランクが平均だ。
それがSランクともなれば驚くのも無理はない。
それを聞きつけたIS企業の関係者らしき人達が挙って翡翠の周りに押し掛け始めた。
「君っ! 是非ウチの会社のテストパイロットに!」
「いや、ウチに!!」
「何を言っている!? ウチに決まっているだろう!」
次々と翡翠の周りに群がる人々。
Sランク適性と言えば、かのブリュンヒルデにも匹敵するレベルだ。
IS関係者からすれば、喉から手が出るほど欲しい人材だろう。
「お、お兄ちゃ~~ん…………!」
翡翠が困った顔で紫苑に助けを求める。
紫苑は苦笑しながら翡翠を助け出そうと歩き出した。
その瞬間、
「……………ッ!?」
ドゴォォォンという爆発音と共に爆発がおき、建物が揺れて辺りが爆煙に覆われる。
「翡翠っ!」
紫苑は咄嗟に翡翠を庇うように抱きしめ、爆風から翡翠を護る。
直後に響き渡る人々の悲鳴。
爆風が収まり、紫苑が顔を上げると、そこには瓦礫が散乱した光景が広がっていた。
「…………一体、何が…………?」
紫苑達の周りでは、慌てて逃げ回る人々。
紫苑は現状が掴めない為に、暫く身を屈めたまま動かないことにした。
「お、お兄ちゃん…………」
翡翠が不安そうな表情で紫苑を見上げる。
「大丈夫だ。お前は俺が必ず護る」
紫苑は翡翠を安心させるために笑みを浮かべてそう言う。
だが次の瞬間、耳を劈く様な銃声が鳴り響き、逃げようとしていた人々が次々と真っ赤に染まり、倒れていく。
「きゃっ!?」
「見るな翡翠!」
思わず悲鳴を上げる翡翠と、それを見せないように体で光景を覆い隠しながら翡翠を押し倒すように伏せる紫苑。
やがて銃声が止み、紫苑は顔だけを起こして周りの様子を伺うと、大勢の人々が血だまりの中に伏せっており、その光景はさながら地獄だ。
「くっ…………!」
紫苑は声を漏らしながらその元凶となった存在へ振り返る。
そこには、
「あははははははは! 最高だわ! これがIS! これが力! 人がまるでゴミの様! あはははははは!」
現在の国産最新鋭量産IS『打鉄』を纏った女性が高笑いを響かせていた。
紫苑はこのままやり過ごそうかと思い、翡翠に動かないように呼びかけながら死んだふりを続ける。
その女性はしばらく笑い続けた後、
「さーて、それじゃあお目当ての物を頂きましょうか…………あら?」
展示されていたISへ向かおうとしていたが、気付いたように紫苑達の方に振り返った。
「なぁんだ、まだ生きてる奴がいたの?」
紫苑は死んだふりでやり過ごそうとしたが、流石にISのハイパーセンサーは誤魔化せなかった。
紫苑は一瞬でどうするべきか考えると立ち上がり、
「翡翠、俺が奴の注意を引く。お前はその間に逃げろ!」
転がっていた鉄パイプを拾い上げながらそう言った。
「そんな! お兄ちゃん!」
翡翠は心配そうな声を上げるが、
「心配すんな。俺も死ぬ気はない。お前が安全なところまで逃げ切ったら俺も逃げるさ」
紫苑はそう言って笑いかける。
そして打鉄を纏った女性に向き直ると、
「行け!!」
強い口調で翡翠に呼びかけた。
翡翠は一瞬躊躇するも、その言葉に従い背を向けて走り去っていく。
「あら、逃げられると思ってるの?」
女は翡翠に向かって銃口を向けようとして、
「待てよ」
その前に紫苑が立ちはだかった。
鉄パイプを剣のように構え、紫苑は女を見据える。
それを見た女は、
「あははははははっ!! そんな原始的な武器でISに敵うと思ってるの!?」
紫苑を馬鹿にしたように大笑いする。
しかし、紫苑は冷静に女を見据え、
「確かに鉄パイプじゃ『IS』には敵わないだろうな………」
そう口にする。
「分かってるじゃない! それなら…………」
「だけど…………!」
女の言葉を遮るように紫苑が口を開く。
その時、女の視界から紫苑が消えた。
そして次の瞬間、ガァンという打撃音が鳴り響き、ISのシールドが自動発生した。
「ッ!?」
女は驚愕しその場所を確認すると、紫苑が鉄パイプを振り抜いていた。
「『アンタ』自身に対してはいくらでも出し抜けると思ってるぜ………!」
紫苑は不敵に笑って見せる。
「このっ………!」
女は腕を振り回すが、紫苑は身体を逸らしただけで、紙一重でその腕は空を切る。
「はっ!」
袈裟懸けに振り下ろされた鉄パイプの先が、女の顔面に向かって迫る。
「きゃあっ!?」
女は反射的に目を瞑る。
鉄パイプは先程と同じように自動発生したシールドに阻まれるが、紫苑にしてはそれで十分だった。
「思った通りだな。アンタ、戦いに関しちゃ素人だろ?」
「くっ、この、男の癖に!」
女は完全に頭に血が上り、紫苑に向けてアサルトライフルを向ける。
だが、
「おっと!」
紫苑は巧みに銃口の射線軸上に入らないように動き、発射される弾丸を全て躱して見せる。
ただ躱すだけではなく、時折相手の懐に踏み込み、一撃を与える。
いくら剣術の達人である紫苑でも、ISのハイパーセンサーを振り切る動きは出来ない。
だが、女の『意識の隙間』を突くことにより、女には紫苑の動きが消えたように見えるのだ。
(時間稼ぎも十分か?)
紫苑はそう考え、そろそろ自分の逃走の事も頭に入れ始めていた。
力関係はともかく、今の戦いの流れは紫苑に傾いているのは確かだろう。
このまま行けば……………のはずだった。
その時、紫苑に予期せぬことが起こった。
「お兄ちゃん!」
その場に逃げたはずの翡翠の声が響いた。
「翡翠っ!?」
紫苑は思わず振り返る。
そこには、息を切らせた翡翠の姿があった。
翡翠は途中までは避難していたのだが、後から聞こえてくる銃声に紫苑の事が心配となり、戻って来てしまったのだ。
「馬鹿ッ! 何で戻ってきた!? 早く逃げッ………!?」
女への注意を怠ってしまった紫苑は、背後から殴られ、吹き飛ばされた。
「がっ!?」
瓦礫に叩きつけられる紫苑。
全身に痛みが走り、気が遠くなっていく。
「ひ、翡翠…………!」
気が遠くなる紫苑が最後に見た光景は、
「お兄ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
必死に叫び、自分に向かって右手を伸ばしながら駆け寄ってくる翡翠。
その伸ばされた右腕が銃声と共に鮮血をまき散らせながら宙を舞う光景だった。
「うっ…………!」
身体中に走る痛みと共に意識が覚醒する紫苑。
頭から血を流し、体中が軋みを上げる。
視界がぼやけているが、徐々にピントが合ってはっきりしてくる。
その視界に最初に映ったのは、見覚えのある花柄のブレスレットが手首に付けられた右手。
それと同時に紫苑の意識は完全に覚醒し、
「翡翠っ…………!?」
紫苑の起き上がりながら叫んだ言葉は途中で止まった。
何故なら、そこにあったのは肘から先の無い右腕だけだったからだ。
その右腕も、断面から流れ出た血だまりに沈んでいた。
「あ………あ…………!」
紫苑は震える手でその右手を拾い上げる。
その右手にあったブレスレットをそっと外し、細部まで確認した。
「うあっ………あっ………!」
そのブレスレットは、紫苑が翡翠にプレゼントしたものに間違いなかった。
紫苑はゆっくりと辺りを見回す。
周りには、大勢の血で真っ赤に染まった床と大勢の死体。
そして、誰ともわからぬ数々の肉片。
「あ…………あああああっ……………!」
紫苑は理解する。
翡翠は“死んだ”。
翡翠が“殺された”。
翡翠を“護れなかった”。
その現実を。
「うあぁあああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」
紫苑の慟哭がその場に響く。
全てを失い、全てに絶望した少年の嘆き。
その嘆きに反応したようにその場の空間に変化が現れる。
空間がゆがみ、まるでブラックホールのような黒い穴がその場に発生した。
その穴は一瞬で紫苑を飲み込み、その直後に何事も無かったかのように消え去った。
警察や救急隊がその場に駆け込んできたのは、その直後の事であった。