超次元インフィニット ネプテューヌ・ストラトス 作:友(ユウ)
「…………う…………あれ……………? 私…………」
モンスターとの戦いの後気絶した翡翠が目を覚ました。
翡翠が身体を起こすと、そこはかなり高級そうなベッドの上だった。
すると、
「気が付きましたか?」
傍らで声がした。
翡翠がそちらを向くと、腰まで届く金髪で包容力がありそうな女性が本を読みながら椅子に腰かけていた。
窓から差し込む日の光に照らされ、金色の髪がキラキラと輝いて見えており、名作の絵画のような雰囲気を漂わせる。
ただ、そんな雰囲気も女性が手に持っていた本がゲームの情報誌でなければ、の話だが。
「えっと、あなたは…………?」
翡翠は見知らぬ人物に首を傾げる。
「初めまして、ですわ。わたくしはリーンボックスの守護女神、ベールと申します。お見知りおきを」
ベールは笑顔で自己紹介する。
「め、女神様!? え、えっと、私は月影 翡翠と言います!」
相手が女神だと知り、慌てながら姿勢を正して挨拶する翡翠。
「ツキカゲ…………? シオンさんと同じ名字ですわね」
「あの、月影 紫苑は私の兄です!」
すると、ベールはパンと手を叩き、
「まあ、あなたが話に聞いたシオンさんの妹さんだったのですね! 羨ましいですわ! シオンさんにもこんなに可愛らしい妹がいるなんて!」
ベールはそう言いながら翡翠の頭をその胸に抱きしめる。
「むぐっ…………!?」
豊満な胸に押し付けられ、呼吸が出来なくなる翡翠。
(お、おっきい……………私も胸は大きい方だけど、私よりももっと大きい…………)
暫く抱きしめられていたので、そろそろ呼吸が苦しくなってきたので手をバタバタとさせると、ベールがそれに気付いて翡翠を開放する。
「あ、ごめんなさい。つい可愛くて」
「けほっ、けほっ、いえ…………」
軽く咳き込みながら大丈夫だというと、ベールが突然佇まいを直し、
「それから翡翠ちゃん。あなたにはお礼を言わなければいけません」
「お礼?」
思い当たることの無い翡翠は首を傾げるが、
「あなたはわたくしの国の国民を助けてくださいました。この国を統べる女神としてお礼申し上げます」
そう言って頭を下げたベールに対し、翡翠は慌てて、
「そんな! お礼なんていいですよ! それに私はモンスターに全然敵いませんでしたし…………」
「いいえ。あなたが戦ってくれなければ、あそこに居た母娘は命を落としていたでしょう。あなたが勇気を出して戦ってくれたお陰でわたくしが間に合うことが出来た。結果、誰も悲しい思いをすることなくモンスターを倒すことが出来たのです」
「あ、いえ………そんな…………」
翡翠は恥ずかしくなって俯く。
「恥ずかしがることはありませんわ。あなたの成した事はそれだけ立派な事なのですから!」
「あ………はい………ありがとうございます…………」
褒め殺しともいえるベールの言葉に翡翠は真っ赤になった。
「ところで、お体の様子はどうですか?」
ベールが体調を尋ねると、
「えっ? あ、はい、ISのシールドバリアのお陰で怪我はありません。ちょっと衝撃で頭がくらくらしてただけで…………」
「それは良かったですわ」
ニッコリと笑みを浮かべるベールに翡翠は何故か嬉しく感じてしまう。
すると、
「ではヒスイちゃん。折角ですのでわたくしの教会をご案内いたしますわ」
「えっ?」
疑問に思う間もなく翡翠はベールに連れ回されることになった。
教会の中を(半ば強引に)案内され、最後に辿り着いたのはシェアクリスタルの間であった。
不思議な空間の中央に、シェアクリスタルが輝きながら浮いている。
「これは…………」
翡翠はそれを見て息を漏らす。
「それはシェアクリスタルです。この国の人々の願いや信仰を集め、それを女神の力にする、わたくし達の力の源です」
「………………綺麗」
翡翠は自然と言葉が零れた。
「あの、もう少し近くで見ても?」
「ええ、構いませんわ」
ベールに許しを得てから翡翠はシェアクリスタルに歩み寄る。
より近くでシェアクリスタルを見つめる翡翠は、何故か吸い込まれる様にその輝きから目が離せない。
「…………………………」
翡翠は導かれる様にシェアクリスタルに左手を伸ばす。
「ヒスイちゃん?」
翡翠の様子がおかしい事にベールは声を漏らす。
「……………………あったかい…………」
本来はその輝きに温度など無い。
しかし、翡翠はその光を温かく感じている。
それと同時に、翡翠は自分の中に何かが流れ込んでくるのを感じていた。
(これは何…………? このあったかい『何か』は……………この国の人達の心………?こんなにあったかいんだ……………)
翡翠がその温もりにもっと踏み込もうとした時だった。
「グリーンハート様! 大変です!」
「ッ!?」
リーンボックスの衛兵の1人が部屋に駆け込んでくる。
その声で翡翠は我に返った。
「どうしましたか?」
その様子にベールは真剣な表情で問い返す。
「接触禁止種と思われるモンスターが街の北側から接近中。衛兵も対応していますが食い止められません!」
「ッ!? 分かりました! 直ぐにわたくしも向かいます!」
衛兵の報告にベールはすぐに返事を返す。
「ヒスイちゃん、わたくしは少し出てまいりますのであなたは心配せずここに居てください」
ベールは翡翠に対してそう言うと部屋から駆けだしていく。
「ベールさん……………」
翡翠はその後姿を心配そうに見送った。
グリーンハートに変身したベールが現場に辿り着いた時には、既にモンスターに街への侵入を許してしまっていた。
そのモンスターは、コウケイキと呼ばれる巨大ロボット型モンスター。
その周りには、無残に破壊された建物の残骸が転がっていた。
「ッ…………! よくもわたくしの国を………! 許しませんわ!」
その事実にグリーンハートは怒りを覚え、モンスターに突撃する。
「はぁあああああああっ!!」
槍による一突き。
ギィンと甲高い音を立てて、装甲の表面に傷を付けるが致命傷には程遠い。
「くっ! 硬いですわね!」
グリーンハートは苦い顔をする。
グリーンハートにとって耐久力のある敵はあまり得意な相手ではない。
グリーンハートはスピードを活かした手数で攻めるタイプ。
一撃の攻撃力が低いため、耐久力や防御力のある敵には攻撃が効き辛いのだ。
とは言え、普段であれば長期戦を覚悟で挑めば倒せないことは無い。
しかし、今は街中だ。
時間を掛ければ掛けただけ被害が広がってしまう。
「時間を掛ける訳には…………!」
力押しの戦法は得意でないにしろ、被害を抑えることが優先だ。
「はぁああああああっ!!」
グリーンハートは正面から何度も攻撃を繰り出す。
一撃では効かなくとも、10発、100発と何度でも攻撃を繰り出す。
攻撃を紙一重で躱し、更に攻撃を重ねる。
グリーンハートにも多少のダメージは入っているが、全体的にはグリーンハートが優勢と言えるだろう。
だが、
「ううっ…………」
微かな声がグリーンハートのその耳に聞こえた。
グリーンハートが振り向くと、瓦礫が体の上に乗り、身動きできないお爺さんの姿があった。
「逃げ遅れ!? ッ!?」
そのお爺さんに気を取られた瞬間、背後から攻撃を受ける。
「くっ! やってくれますわね!」
守護女神としてグリーンハートに見捨てるという選択肢は存在しない。
グリーンハートはコウケイキをお爺さんがいる方向とは別の方向へ誘導しようとしていた。
だが、コウケイキが侵入した場所から狼型のモンスターが数匹侵入してきたのだ。
「ッ!? いけませんわ!」
グリーンハートはすぐに救援に行こうとしたが、まるでその前を遮るようにコウケイキの攻撃が繰り出される。
「邪魔を………しないでください!!」
何とか弾こうとするものの、パワー不足は否めない。
グリーンハートのスピードでも間に合わず、狼のモンスターがお爺さんに襲い掛かろうとした。
「やめなさい!」
グリーンハートが叫ぶが、そんな事でモンスターは止まらない。
狼の牙がお爺さんに食らいつこうとした時、
「てやぁああああああああああっ!!」
真上から投擲された槍が狼を貫いた。
「あれはっ!?」
グリーンハートと同じ形の槍だが、それはグリーンハートが投げた物ではない。
「お爺さん、大丈夫ですか?」
上空から緑心を纏った翡翠が降りてくる。
だが、緑心は自己修復が完了しておらず、各部が損傷している。
シールドエネルギーも心許ないだろう。
「ヒスイちゃん!?」
「こっちは任せてください!」
驚くグリーンハートを他所に、翡翠は狼モンスターを倒していく。
ISならただの雑魚モンスターを相手にするのは容易い。
直ぐに雑魚モンスターを全滅させると、
「大丈夫ですか? 直ぐに助けます!」
翡翠はお爺さんの上に乗っている瓦礫を退かしていく。
「すまんのう、お嬢さん」
「いえ、気にしないでください」
瓦礫を退かし終えると、
「立てますか?」
「な、何とか大丈夫じゃ………」
膝が震えながらも立ち上がるお爺さん。
「ここは危険です。早く避難を」
「うむ…………むっ!? いかん! お嬢さん後ろじゃ!」
「えっ?」
お爺さんの切羽詰まった声に振り向けば、水色の毛皮を持った大型の狼型モンスターが物陰から襲い掛かってきた。
アイスフェンリルと呼ばれる危険種モンスターだ。
「あぐっ!?」
翡翠は肩に食らいつかれその部分の装甲を喰い千切られる。
「このっ!」
翡翠は槍で反撃するが、一撃では倒せない。
「お爺さん、ここは私が食い止めます! 早く逃げてください!」
「じゃ、じゃが………」
「早く!」
「わ、わかった」
翡翠の強い言葉にお爺さんは避難を始める。
「後は私が…………」
翡翠はアイスフェンリルと相対する。
しかし、アイスフェンリルが飛び掛かってきて爪の一撃を受けた瞬間、シールドエネルギーが尽きてしまった。
「しまった! ISが!?」
強制解除されるIS。
押し倒され、そのまま食らいつこうとしてくるアイスフェンリルに、翡翠は咄嗟に右腕の義手でガードすると、その義手に食らいつかれた。
「うぐ……………」
「ヒスイちゃん!」
グリーンハートは助けに行こうとするものの、コウケイキが執拗に邪魔をしてくる。
翡翠の義手がメキメキと軋みを上げ、その牙によって義手がひしゃげていく。
そして遂に、バキィという音と共に義手が喰い千切られた。
その際に、待機状態となったISも砕かれてしまう。
「あっ!?」
翡翠が声を上げるが、そのままアイスフェンリルは翡翠の頭に食らいつこうとして、
「そりゃ!」
突如顔に受けた衝撃に怯んだ。
その際に翡翠の上から退いてしまう。
そして、その一撃を放ったのは、
「お嬢さん、早く逃げるんじゃ!」
先程のお爺さんだった。
お爺さんは杖を剣のように構えている。
「お、お爺さん!」
「お嬢さんはこんな所で死ぬべきではない! 犠牲ならこの年寄り一人で十分じゃ!」
お爺さんが翡翠の前に出て杖を構える。
「だ、駄目です! お爺さん!」
それでもお爺さんはアイスフェンリルへ立ち向かっていく。
「ダメ…………ダメェーーーーーッ!!!」
翡翠が思わず叫んだ。
その瞬間、教会のシェアクリスタルが翡翠の叫びに呼応する様に光を放ち、その光が空へと立ち昇る。
そして、その光が翡翠へと降り注いだ。
その光によってアイスフェンリルが怯む。
「何………? この光…………?」
その光の中で翡翠は感じていた。
この国の人々の思い、願い、そして心を。
そして同時に、それは問われているような気がしていた。
「うん………そうだね…………私は護るよ………この国を………人々を………皆の思いを…………!」
そして、その問いの答えに迷いは無かった。
翡翠は立ち上がり、目を見開くと、その瞳に女神の証が浮かび上がった.
翡翠の身体が光を放つ。
黒く、長いストレートの髪が透き通る翠へと変わり、首の後ろで纏められる。
瞳は紫へと変化し、白いレオタードの様なボディースーツを身に纏う。
右腕の義手も再生すると同時にエメラルドグリーンへと変化し、付属品であったその義手はこの瞬間を持って完全に翡翠の一部へと存在を変えた。
背中には細長い菱形の妖精のような2対の光の羽。
それは、
「グリーンシスター ヒスイ! ここに推参です!」
リーンボックスの女神候補生。
グリーンシスター ヒスイが誕生した。
次の瞬間、目がくらんでいたアイスフェンリル目掛けて一瞬で踏み込むと、
「どっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!!」
鋼鉄の右腕による強烈な拳が叩き込まれた。
堪らず吹き飛ぶアイスフェンリル。
「な、何と………その姿は…………」
「女神候補生、グリーンシスター ヒスイ。たった今、女神になりました」
ヒスイはそう言って笑みを浮かべると、よろよろと起き上がろうとするアイスフェンリルに向き直り、右腕を掲げる。
すると、その拳が巨大化していき、
「ギガンティック…………フィスト!!」
巨大な拳による右ストレートが放たれた。
強烈な衝撃がアイスフェンリルを突き抜け、アイスフェンリルは光の粒子になって消える。
しかし、それだけでは安心せず、未だ戦い続けるグリーンハートの元へと飛び立つ。
「ベールさん!」
「ヒスイちゃん!? その姿は!?」
グリーンハートがそう問いかけると、
「この度私月影 翡翠は、リーンボックスの女神候補生、グリーンシスター ヒスイとなりました。改めてよろしくお願いします!」
可愛らしく敬礼の真似事をする。
その言葉にグリーンハートは一瞬呆然とする。
「話は後です! まずはあいつをどうにかしないと!」
「そ、そうですわね!」
グリーンハートが気を取り直す。
「ですが、わたくしの攻撃では決定打が…………」
「それなら私に任せてください!」
ヒスイが自信を持ってそう言う。
ヒスイがそのまま急上昇すると、再び右腕を掲げ、
「女神の鉄拳………!」
拳が巨大化すると共にそこに凄まじい風が集まっていく。
「受けてみろ!!」
更に拳が巨大化し、拳の直径が10mを超える。
巨大な拳を振り被り、ヒスイは急降下を始める。
「はぁああああああああああっ!!」
さながら隕石とも思えるその光景。
「ゴッド・インパクト!!」
それはモンスターを完全に押し潰し、地面に巨大なクレーターを穿った。
ヒスイは爆発に呑まれないように即座に離脱し、
「ちょっと女神様らしくなかったかな?」
爆発地点に背を向けながらそんな風に笑った。
「ヒスイちゃん…………」
「ベールさん!」
ヒスイはグリーンハートの近くに嬉しそうに飛んでくる。
すると、グリーンハートが突然俯き、プルプルと震え出す。
「…………? あの………」
グリーンハートの様子に怪訝に思ったヒスイが顔を覗き込もうとした瞬間、
「もがっ……………!?」
その豊満な胸に押し付けられるようにヒスイはグリーンハートに抱きしめられた。
「遂に………! 遂にわたくしにも妹が生まれましたのね!!!」
喜びを隠せずに思いっきりヒスイを抱きしめるグリーンハート。
「むぐぐ………!?」
息が出来なくなったヒスイはペチペチと腕を叩くが嬉しさが限界突破しているグリーンハートには届かない。
ヒスイが解放されたのは、グリーンハートがヒスイが気絶していると気付いた後だった。
第35話です。
今回は翡翠が女神候補生となりました。
Bルートよりもあっさりしてるかな?
とりあえずこのルートでは翡翠には元々女神の素質があり、シェアクリスタルに近付いた事でその資質が開花したって事で。
では、また次回。
PS.来週の更新はお休みします。再来週は状況次第では更新できないかもしれません。