超次元インフィニット ネプテューヌ・ストラトス 作:友(ユウ)
IS学園の短い夏休みが終わった新学期。
この間にも心配されたマジェコンヌやドルファの目立った動きは無く、紫苑達も無事に新学期を迎えることが出来ていた。
そんな中、生徒会長でもある刀奈は早々に千冬に呼び出されていた。
「話とは何でしょうか?」
刀奈が千冬に訊ねると、
「ああ。実は春万の事なんだが………」
「春万君…………ですか?」
千冬の言葉に刀奈は首を傾げながら聞き返す。
「実際の所、お前から見て春万のIS操縦者としての実力は如何だ? 率直な意見が聞きたい」
「ん~~~~…………」
千冬に言われて刀奈は少し考える仕草をすると、
「実際の所、才能はとびっきりにあると思います。未熟だったとはいえ、1試合で代表候補生であるセシリアちゃんを凌駕するまでに成長したわけですから…………ただ、その才能を自覚している所為か、才能に胡坐をかき過ぎですね。そのため相手を前にしても余裕を超えて油断してます。だから実力が下だった鈴ちゃんにいい様に翻弄されてました。夏休みの間の事は知りませんが、一学期が終わった時点での実力は、代表候補生上位からギリギリ国家代表レベルぐらいじゃないでしょうか? 真面目に訓練をしていたのなら、今頃学園内でもトップどころか世界でも通用するIS操縦者になっていたかもしれないのに…………」
「そうか……………それで、お前に頼みたいことがある」
「春万君のコーチをしろ………ですか?」
「………そうだ」
少しの沈黙の後に千冬は頷く。
「あいつは今色々な組織から狙われる立場だ。本人もそれを承知はしている様だが如何せん考えが甘い。本気になった裏の組織の怖さを分かってはいない」
「あ~…………」
刀奈は呆れるように声を漏らす。
「それで、最低限自衛が出来るように私が彼のコーチをしろと………?」
「そうだ………頼めるか?」
「…………気が進まないですね」
刀奈が頭を掻きながら答える。
「む…………」
刀奈の答えに若干の驚きを見せる千冬。
「まず最初に彼の性格から素直にコーチの言う事を聞いてくれそうにない事。それから、彼は普段猫を被ってますが、その本性は正直褒められたものではありません」
「…………やはりそうか………?」
「織斑先生にも猫を被っていますからね」
「家族に対しても本心を見せないとはな…………」
「自分の才能を十分理解しているので他を見下しているんです。織斑先生は格上と判断しているので言う事を聞くふりをしているんでしょう。もし格下と判断されていれば、今頃一夏君と同じように……………」
「弟の本性に気付けないとは姉としての自信を無くすな」
千冬ややや自嘲気味な笑みを浮かべる。
「まあ、それだけ春万君が本性を隠すことを徹底していたという事でしょう。頭も回りますしね」
「一度春万のプライドを圧し折るべきか……………」
「彼のプライドは形状記憶合金製なので圧し折っても元通りになりそうですけど」
「…………………」
「一番手っ取り早いのはプルちゃんに調教してもらう事ですけどどうします? 下手をすれば廃人ですけど…………?」
「何とか矯正できんのか?」
「一先ずコーチの件は了解しますが、性格については自信ありません」
刀奈はきっぱりとそう言った。
そして二学期初めての授業。
それは1組と2組の合同授業だった。
現在は授業の締めに鈴音と春万の模擬戦が行われている。
「いい加減くたばれぇぇぇぇぇぇっ!!」
春万が
「うっさい!」
鈴音は最小限の動きでその一撃を躱すと、後ろ回し蹴りを繰り出してカウンター気味にヒットさせる。
「ぐふっ!?」
腹部に直撃を受けた春万は軽く咳き込む。
「くそっ! 鈴の癖に!」
「だからいい加減鈴って呼ぶな!」
怯んだ隙に右ストレートを叩き込む鈴音。
「ぐはっ!?」
鈴音は戦姫になった時の影響か、最近ではISに乗っても徒手空拳を好むようになっている。
『鈴、ISでの格闘戦はこちらのシールドエネルギーも減ってしまいます』
ソウジから注意が来る。
「いいのよ。こっちのシールドエネルギーが尽きる前に向こうのシールドエネルギーを削り切ればいいんだから」
すました顔で鈴音はそう言う。
「このっ………ふざけやがってぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
再び真正面から斬りかかってくる春万。
「はい、ドーン!」
そんな春万に鈴音は衝撃砲で応戦した。
頭に血が上っていた春万はそれを諸に受けて吹き飛ぶ。
「がぁああああああっ!?」
「頭に血が上ると行動が単純になるのは相変わらずね」
鈴音はニッと笑って見せる。
「くそっ! くそっ! くそっ! 何で俺が!? 鈴なんかにっ!?」
「はっ! そうやって悪態を吐くだけで努力を怠った自業自得でしょ!」
鈴音はそう言いながら青龍刀を投げつける。
「こんなものっ!」
春万はそれを剣で弾くが、
「なっ!?」
目の前には鈴が接近してきていた。
「おららぁっ!!」
右、左とコンビネーションパンチを繰り出すと、即座にしゃがんで蹴りの連打。
「うおりゃぁあああああっ!!」
更にアッパーで浮かすと流れのままに1回転。
そのまま渾身のアッパーカットで追撃した。
「ぐはぁあああああっ!?」
それによって春万のシールドエネルギーはゼロになった。
「くそ! くそ! くそ! 何で鈴ごときに勝てないんだ!?」
春万は更衣室でロッカーを殴りつけながら叫ぶ。
ロッカーの扉は春万の拳によってへこんでいる。
その時、
「だ~れだ?」
「ッ!?」
突然目隠しされ、一瞬困惑するが、
「誰だ!?」
春万は振りほどきながら腕を振り回し、後ろにいる何者かを攻撃する。
だが、
「あっぶないな~、も~………私じゃなかったらケガしてたよ?」
余裕の声色でそう言うのは水色の髪にルビー色の瞳をした少女、刀奈。
「お前は…………!」
見覚えのある刀奈に春万は睨み付ける。
しかし、刀奈はそんな春万の威圧を受け流すと、
「こんな所で物に当たってないで、早く授業に行った方が身のためだよ~」
そう言い残してその場を立ち去っていく。
刀奈の言葉の意味が分からなかった春万だったが、次の授業の開始時間が過ぎていることに気付き、即行で戻ったものの、結局は出席簿アタックを受ける羽目になった。
翌日。
学園祭の説明の為の全校集会が終わり、春万が廊下を歩いていると、
「や」
柱の影から刀奈が姿を見せた。
「またアンタか………何の用だ?」
春万は不機嫌そうに聞き返す。
「仮にも先輩にそんな言い方は無いんじゃないかなぁ?」
刀奈は扇子で口元を隠しながらそう言う。
その扇子には、上下関係と書かれていた。
「ふん! 格下の相手に媚び諂う必要が何処にある?」
「格下ねぇ…………?」
刀奈は含み笑いをしながら呟く。
「何が言いたい!?」
「その割には昨日も鈴ちゃんに負けてたみたいだけど?」
「ぐっ………偶々調子が悪かっただけだ!!」
春万はそう叫ぶ。
「負けず嫌いが悪いとは言わないけど、少なくとも自分の未熟さを認めないと今以上には行けないよ?」
「俺が未熟だと!?」
「うん未熟。技術的な事はもちろんの事、精神的にも未熟未熟」
「ふざけるな! 俺は天才なんだ! その俺が未熟だと!?」
「そうだね。むしろ天才だからこそ未熟が際立ってる感じかな?」
「何ッ!?」
「未熟っていうのは漢字で『未』だ『熟』してないって書くよね? キミは『才能』っていう果実をほったらかしにして腐らせようとしているんだよ」
「くっ、俺を馬鹿にするのもいい加減にしろ!」
「そこで怒るって事は少なからず自覚があるんじゃないのかなぁ?」
「ぐぅぅ…………何が言いたいんだ! アンタは!?」
「じゃ、率直に言うけど、私が君のコーチをしてあげる」
「は?」
「今の君の実力じゃ、自分の身を守ることも不十分。だから私がコーチをして、少しでもマシにしてあげようって事」
「ふ、ふざけるなぁ!!」
それが許せなかったのか、春万は拳を振り被る。
「短気だねぇ」
刀奈は静かにそう言うと、
「なっ!?」
突然春万の視界が1回転し、
「がはっ!?」
背中から床に落ちた。
「な、何が………?」
何が起きたのか理解できなかった春万は咳き込む。
「まあ、認めたくないのは分かったけど、こっちも織斑先生からの依頼だからね。じゃあ簡単に賭け試合をしようか。君が勝ては何も言わない。でも私が勝ったら大人しくコーチを受けて貰うからね」
刀奈がそう言うと、
「それじゃあ賭けとして成立しない! 俺が賭けを受けるメリットが無い!」
春万は堂々とそう言う。
「ならどうしたいの?」
「そうだな…………」
刀奈の言葉に春万は刀奈の体を舐め回すように見ると、
「俺が勝ったらあんたが俺のモノになれ!」
春万は刀奈を指差しながらそう言う。
すると、刀奈は一瞬呆気にとられた後、
「あっはっは! そこまで下半身に直結する台詞が出てくるなんて、呆れを通り越して清々しいねぇ!」
刀奈は声を上げて笑った。
一通り笑うと、
「…………いいよ。その条件で賭け試合をしましょう!」
刀奈は気負うことなく了承した。
「フッ………今からアナタを鳴かすのが楽しみだな…………」
「捕らぬ狸の皮算用だね……………ああ、そうそう。これだけは最初に言っておくけど………」
刀奈は一呼吸置くと、
「私、生娘じゃないからね」
「なっ!?」
刀奈のその言葉が意外だったのか春万は思わず声を漏らしたのだった。
第41話です。
いきなり時間がすっ飛んで二学期開始です。
今回は刀奈が春万はヘ宣戦布告?です。
次回は刀奈VS春万です。
お楽しみに。