超次元インフィニット ネプテューヌ・ストラトス 作:友(ユウ)
紫苑がこの世界に戻ってきて一週間。
紫苑は特別補修によりISに関する知識を詰め込み、何とか入学式を迎えていた。
それで、紫苑が所属する1年1組の教室。
この教室にいる全員(-2名)の視線は全て2人のある生徒達に向けられていた。
1人は、世界初の男性IS操縦者である織斑 一夏。
尚、彼は千冬の弟である。
2人目は、同じく世界で2番目の男性IS操縦者である月影 紫苑。
因みに、席の位置が一夏が真ん中の列の一番前なのに対し、紫苑はド真ん中辺りだ。
更に、2人の態度には大きな違いがあった。
一夏は周りの視線に過敏に反応し、ソワソワと落ち着かない様子でキョロキョロとしているが、対して紫苑は視線などには全く動じずに、腕を組んで目を瞑って座っている。
因みに紫苑が平気な理由としては、女神の伴侶である守護者として人々から注目を集めることなど日常茶飯事だからだ。
ようは慣れである。
すると、前の教壇に真耶が立った。
紫苑は目を開けて真耶を見る。
流石に目を瞑ったままでは失礼だからだ。
「皆さん、入学おめでとうございます。私は副担任の山田 真耶です。よろしくお願いします」
真耶は教師としてあいさつするが、
「「「「「「「「「「……………………………」」」」」」」」」」
生徒たちは一夏と紫苑に視線を集中させており、誰も挨拶を返さない。
一夏は言わずもがな奇異の視線に晒され周りの状況に反応できる精神状況ではない。
紫苑は普通に皆が返すだろうと口を閉ざしていたのだが、
「あ、あれ…………?」
結果、誰も挨拶を返さなかったので真耶は焦る。
(誰か挨拶ぐらい返してやれよ…………)
内心そう思いながら、真耶を見ていると流石に可哀そうになったので、
「よろしくお願いします、先生!」
紫苑は1人だけで挨拶を返す。
「は、はい! よろしくお願いします!」
挨拶を返されたことが嬉しかったのか、真耶は嬉しそうな表情でそう言った。
「今日から皆さんはこのIS学園の生徒です。この学園は全寮制。学校でも、放課後でも一緒です。仲良く助け合って、楽しい3年間にしましょうね」
「「「「「「「「「「…………………………………」」」」」」」」」」
(だから誰か返事位してやれって!)
「はい!」
紫苑は大きめの声で返事を返す。
「は、はい、それでは自己紹介をお願いします」
紫苑のお陰で、何とか間を空けずに次の自己紹介に移行する真耶。
紫苑の視線の先では、ソワソワと挙動不審に陥っている一夏の姿。
窓際の席の女子生徒に視線を向けて顔を逸らされたりしている。
すると、先ほどから真耶が一夏に声を掛けているが、一夏は考えに没頭しているのか真耶に気付いていない。
「織斑 一夏君!」
「は、はい!」
大きめの声で呼びかけられて一夏はようやく真耶に気付く。
その慌てぶりを見て周りの女子からは笑いが零れた。
「ごめんね大声出して。『あ』から始まって今『お』なんだよね。自己紹介してくれないかな? 駄目かな?」
真耶は顔の前で手を合わせながら謝り、一夏にお願いする。
「いや、あの………そんなに謝らなくても…………」
困った反応をする一夏。
すると、気を取り直した一夏は立ち上がり、
「織斑 一夏です! よろしくお願いします!」
一夏はそう言うが、周りからはもっと喋ってと言わんばかりの視線が集中する。
(い、いかん………このままでは暗い奴のレッテルを張られてしまう…………!)
迷いに迷った挙句、一息吐いた一夏の口から出た言葉は、
「以上です!」
それだけだった。
その瞬間、紫苑以外の生徒が全員ズッコケる。
(…………そこまでオーバーに反応することか?)
紫苑は周りを見てそう思う。
あれだけ奇異の視線が集中されていれば、並の精神力の持ち主ではまともな自己紹介など不可能だろう。
その時、気配を消しながら一夏の後ろに近付く人影に紫苑は気付いた。
次の瞬間、パァンとけたたましい音を響かせて手に持っていた出席簿で一夏の頭を叩いた。
一夏は頭を抑えて蹲る。
それから恐る恐る後ろを振り向くと、
「げえっ! 関羽!?」
いきなりそう叫んだ。
パァァァン、と2度目の打撃音が鳴り響く。
心無し先程よりもよく響いていた。
「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」
一夏を叩いた人物、千冬は呆れたようにそう言った。
「あ、織斑先生。 もう会議は終わられたんですか?」
真耶が千冬にそう聞く。
「ああ、山田君。 クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」
「い、いえっ。 副担任ですから、これぐらいはしないと……」
そうやり取りした後、千冬が生徒たちの方へ向き直った。
「諸君、私が織斑 千冬だ。 君達新人を、一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。 私の言うことはよく聞き、よく理解しろ。 出来ない者には出来るまで指導してやる。 私の仕事は、弱冠15歳を16歳までに鍛え抜くことだ。 逆らってもいいが、私の言うことは聞け。 いいな?」
(織斑先生、最後の言葉が矛盾してます)
内心そう突っ込む。
すると、突然周りの女子生徒たちが一斉に息を吐いこんだ。
紫苑はその予備動作でこの次に起こる騒動を瞬時に理解し、反射的に耳を塞いだ。
「キャーーーーーーッ! 千冬様! 本物の千冬様よ!」
「ずっとファンでした!」
「私、お姉さまに憧れてこの学園に来たんです! 北九州から!」
「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!」
「私、お姉様のためなら死ねます!」
女子の多くから、黄色い歓声が響いた。
(なんつー声だ…………!)
耳を塞いだにも関わらず、鼓膜がキンキンと痛む様な声に内心驚愕する紫苑。
その様子を千冬はうっとうしそうな顔で見ると、
「………毎年、よくもこれだけの馬鹿者が集まるものだ。 感心させられる。 それとも何か? 私のクラスにだけ馬鹿者を集中させているのか?」
(織斑先生…………その言葉、心からの本心ですね…………)
千冬は呆れるように言っているが、紫苑は千冬の様子から冗談という訳ではないと判断する。
「きゃあああああ! お姉様! もっと叱って! 罵って!」
「でも時には優しくして!」
「そしてつけあがらないように躾をして!」
(今言った女子、変身したプルルートに会わせたらどうなるのかね?)
Mっ気を見せる女子に、過去に知り合った超ドS女神の事を何となく思い出し、そう思った紫苑。
「で? 挨拶も満足に出来んのか、お前は」
そんな言葉を無視する様に千冬は一夏に話しかける。
「いや、千冬姉。俺は……」
パァン、と三度叩かれる一夏。
「織斑先生と呼べ」
「……はい、織斑先生」
叩かれ続けて堪えたのか、一夏は項垂れる。
すると、
「え………? 織斑君って、あの千冬様の弟?」
「それじゃあ、世界で2人だけしかいないIS操縦者っていうのも、それが関係して………」
「ああっ、いいなぁ。 代わってほしいなぁ」
(……………あのやり取りを見て変わって欲しいって思えるって事は…………やっぱりMか?)
女子生徒の言葉を聞いてますますその疑いが強くなる紫苑。
「静かに! それでは自己紹介を続けろ!」
その言葉で自己紹介が再開する。
暫くして、
「月影君、自己紹介をお願いします」
紫苑の番になり、紫苑は立ち上がる。
すると、
「あの子、ちっちゃくてカワイイ!」
「年下? 特別に飛び級でもしたのかしら?」
等々、紫苑の背の低さに関心が集まる。
確かに紫苑の身長は小学生高学年~中学一年生程度の身長なので仕方ないと言えば仕方ないのだが。
そんな言葉に紫苑は溜息を吐き、
「月影 紫苑です。こんな形ですが、歳は17です」
そう言った瞬間、
「「「「「「「「「「17歳っ!!!???」」」」」」」」」」
クラス全員が声を揃えて驚愕した。
「…………皆さんより年上ですが、普通に接してくれて構いません。ですが、子ども扱いはしないでください。これでも気にしているので……………」
若干哀愁漂う雰囲気に、何も言えなくなるクラスメイト達。
「それから好きな事は大切な人と過ごす時間。嫌いなものはISです。以上です」
嫌いなものがISと言った時点で、違う意味の静寂がクラスに広がったが、紫苑は気にせずに話を終わらせ、席に着いた。
そのまま自己紹介が進み、恙無くSHRは終わる。
廊下には、世界で2人だけの男性IS操縦者を見ようと他のクラスの生徒が集まってきていた。
紫苑は何かするでもなく席に座っていると、
「あ、あのー…………」
一夏が遠慮がちに声を掛けてきた。
「織斑 一夏だったな」
「は、はい………あなたは紫苑さん………で、いいんですよね?」
一夏は紫苑が年上の為か、敬語で話しかけてくる。
「俺の事は紫苑でいい。口調も普通で構わない」
「そ、そっか…………助かるよ。敬語は苦手だからな…………俺の事も一夏でいいよ」
「了解だ。それで? 何か用か?」
紫苑がそう聞くと、
「いや、用って言うか………男は俺以外には紫苑しかいないからさ、仲良くしようと思って………」
「そうか…………友達になりたいって言うのなら拒否する理由はないさ。よろしく頼む」
紫苑は手を差し出す。
「ああ! こっちこそ!」
一夏はその手をしっかりと握った。
すると、
「きゃー! 織斑君と月影君、手を握ってるー!」
「これは織斑君が攻めでちっちゃな月影君が受け?」
「いいえ! ここは敢えて月影君が攻めで織斑君が受けよ!」
何やら不穏な言葉が紫苑の耳に届く。
「何騒いでるんだ? あの子達」
「気にしない方が良い…………」
因みに一夏はともかく紫苑には女子たちの言っている意味はハッキリと理解している。
主に隣国の廃人オタク女神の影響で。
その時、
「ちょっといいか……………」
黒髪をポニーテールにした女子生徒が話しかけてきた。
「箒…………」
一夏が呟く。
「知り合いか?」
「ああ、俺の幼馴染の篠ノ之 箒だ」
紫苑が聞くと、一夏はそう答える。
「初めまして、篠ノ之 箒です。月影さんですね?」
箒はそう言って頭を下げる。
「月影 紫苑だ。一夏にも言ったが俺には普通に接してくれていい。名前も呼び捨てでも構わない」
紫苑がそう言うと、
「いいえ、目上の人には礼儀を尽くすのが当然なので…………」
箒はそう言って態度を改めたりはしなかった。
「そうか、それなら構わないんだが………何か用があったんじゃ?」
「はい、一夏をお借りして構いませんか………?」
「ああ、幼馴染って言ってたな。積もる話もあるだろうから構わないよ」
紫苑がそう言うと、2人は教室から出ていった。
教室に残された紫苑は生徒たちの視線を一身に受けることになったのだが、まるで気にせずに授業の準備に入るのだった。
IS学園は通常の高校の授業に追加してISの授業があるため、普通の高校よりも授業日数に余裕がないため、入学初日から授業がある。
紫苑はこの一週間の特別補修で知識を詰め込んだため、一応授業には付いていけている。
すると、
「織斑君、何か分からないところがありますか?」
授業を担当していた真耶が、困っている様子だった一夏に声を掛けた。
一夏は言い出しにくそうにしていたが、
「分からないところがあったら効いてくださいね。 何せ私は先生ですから」
真耶のその言葉で腹を括ったのか口を開く。
「先生!」
「はい! 織斑君!」
真耶がどんと来いといった雰囲気で応える。
だが、
「ほとんど全部わかりません!」
この一言で真耶の顔が引きつった。
「え………ぜ、全部ですか…………?」
唖然とする真耶。
「え、えっと………織斑君以外で、今の段階で分からないっていう人はどれぐらいいますか?」
教室を見回しながらそう質問する。
しかし、普通の生徒はもちろんの事、紫苑も手を上げない。
「え~っと………月影君は大丈夫ですか?」
同じ男子生徒の紫苑にも心配そうに声を掛ける。
「大丈夫です。一週間補習をみっちり仕込まれましたから。って言うか、担当したのは山田先生じゃないですか」
「あはは、そうでしたね」
苦笑する真耶。
「………織斑、入学前に貰った参考書は読んだか?」
千冬が一夏に質問する。
すると一夏は、
「古い電話帳と間違えて捨てました」
と、信じられない事をのたまった。
(……………電話帳は無理あるだろ………)
内心呆れる紫苑。
その瞬間、パァンと乾いた音を立てて出席簿が一夏の頭に炸裂する。
「必読と書いてあっただろうが馬鹿者。 後で再発行してやるから一週間以内におぼえろ。 いいな」
「い、いや、一週間であの分厚さはちょっと………」
千冬の言葉に一夏が抗議するが、
「やれと言っている」
「………はい。 やります」
千冬の人睨みで一夏は黙らされ、頷くしかなかった。
次の授業の合間の休み時間に、一夏がまた紫苑の席に来て話をしている。
すると、
「ちょっとよろしくて?」
金髪碧眼の女子生徒が話しかけてきた。
「へ?」
「ん?」
一夏と紫苑は声を漏らしながらそちらを向く。
「まあ! 何ですの、そのお返事。 わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」
「…………………」
一夏は呆気に取られて無言であり、
「……………面倒くさそうなタイプが来たな………」
紫苑は横を向いてボソッと呟いた。
すると一夏が口を開いた。
「悪いな。 俺、君が誰だか知らないし」
そう言うと、
「セシリア・オルコット…………イギリスの代表候補生だって自己紹介で偉そうに言ってただろ?」
紫苑がそう言う。
「そうだったか? 俺は他の人の自己紹介聞いていられる状況じゃなかったからなぁ………」
「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを!?」
一夏の言葉か癇に障ったのか、そう捲し立てるセシリアと言う女子生徒。
その時、
「あ、質問いいか?」
一夏がそう発言する。
「ふん、下々の者の要求に応えるのも貴族の務めですわ。 よろしくてよ」
「代表候補生って、何?」
その言葉に、周りの女子数名がズッコケて、紫苑もまた溜息を吐く。
「あ、あ、あ、貴方っ! 本気でおっしゃっていますの!?」
セシリアが驚愕しながら叫ぶ。
「おう。 知らん」
ハッキリとそう言う一夏。
「信じられませんわ! 日本の男性と言うのはこうも知識に乏しいのかしら? 常識ですわよ! 常・識!」
「そうなのか? 紫苑は知ってたか?」
何故か紫苑に振る一夏。
「代表候補生という立場がある事は知らなかったが、その名前から大体の予想は付く」
「え? どういうことだ?」
「国家代表の候補…………国に選ばれたエリートって事だろ?」
紫苑は興味無さげに答える。
「おお、なるほど………!」
本気で感心したように言う一夏。
「そう! その通り! エリートなのですわ! 本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくする事だけでも奇跡……幸運な事なのですよ。 その現実を、もう少し理解していただける?」
「そうか。 それはラッキーだ」
何故か棒読みで言う一夏。
「……馬鹿にしていますの?」
流石にそう取られても仕方ないだろう。
「あなたISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。 世界で2人しかいないISを操縦できると聞いていましたから、少しくらい知的さを感じさせるかと思っていましたけど、期待外れですわね」
「俺に何かを期待されても困るんだが」
「ふん。 まあ、でも? わたくしは優秀ですから、あなたのような人間にも優しくしてあげますわよ。 ISの事で分からないことがあれば、まあ、泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。 何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」
セシリアは得意げにそう言う。
すると、
「あれ? 俺も倒したぞ。 教官」
唐突に一夏が言った。
「は………?」
呆気にとられた声を漏らすセシリア。
「まあ、倒したというか、突っ込んできたから咄嗟に避けたらそのまま壁にぶつかって動かなくなっただけなんだけど…………」
一夏のその言葉にセシリアは固まっている。
「わ、わたくしだけと聞きましたが?」
「女子ではってオチじゃないのか? 紫苑はどうだった?」
またもやいきなり紫苑に話を振る一夏。
「俺は試合に勝って勝負に負けた感じだ」
「は? どういうことだ?」
意味が分からなかったのか聞き返す一夏。
「試合のルール上先に勝利条件を満たしたのは俺だけど、本当の試合で最後までやってたら負けていたのは俺だったって事」
一夏にも分かりやすく説明する紫苑。
「なっ!? あなた方も教官を倒したって言うのですか!?」
凄い剣幕で一夏に迫るセシリア。
「お、落ち着けよ………な?」
「これが落ち着いていられ…………!」
と、そこまで言った所で始業ベルが鳴る。
「っ………! また後で来ますわ! 逃げない事ね! よくって!?」
セシリアはそう言い残すと自分の席へ戻っていき、一夏も気付いたように慌てて自分の席へと戻っていった。
次の授業では千冬が教壇に立った。
「それではこの時間は、実戦で使用する各種装備の特性について説明する」
千冬はそう言ったが、途中で何かを思い出したようにハッとして、
「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」
そんな事を言い出した。
「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会への出席………まあ、クラス長だな。 因みにクラス対抗戦は入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。 今の時点で大した差はないが、競争は向上心を生む。 一度決まると一年間変更はないからそのつもりで。自薦他薦は問わない」
紫苑はそれを聞いてこの後の大体の展開が予想できた。
「はいっ! 織斑君を推薦します!」
「私もそれが良いと思います」
まずは一夏が推薦され、
「じゃあ、私は月影君を!」
「私も!」
続いて紫苑が推薦された。
その事を予想していた紫苑は軽くため息を吐く。
そこでどうやって一夏にクラス代表を押し付けるか考えようとしたところで、
「待ってください! 納得がいきませんわ!」
セシリアがそう叫びながら立ち上がった。
「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」
セシリアは興奮してきているのか言葉が荒くなっていく。
「実力から行けば、わたくしがクラス代表になるのは必然。 それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスする気は毛頭ございませんわ!」
遂には日本人を侮辱するような言葉まで出てくる始末。
「いいですか!? クラス代表は実力のトップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」
(自信があるのは結構だが、下手すると国際問題になるって事理解してるのかね………?)
セシリアの言葉を聞いて、そんな感想を抱く紫苑。
「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で…………!」
「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ!」
「………なっ!?」
(…………売り言葉に買い言葉………だな)
内心呆れる紫苑。
幾ら罵倒されているからと言って相手を罵倒しては、それは既に双方共に低レベルの争いだ。
「あっ、あっ、あなたねえ! わたくしの祖国を侮辱しますの!?」
セシリアの言葉に、一夏は無言で睨み返す。
すると、セシリアは一夏を指差し、
「決闘ですわ!」
「おう。 良いぜ。 四の五の言うより分かりやすい」
「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い……いえ、奴隷にしますわよ」
「侮るなよ。 真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない」
「そう? 何にせよ丁度良いですわ。イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね………! それから……………あなたもですわよ!」
そう言ってセシリアが指差したのは紫苑だ。
「は?」
なぜ今の流れで自分にも飛び火するのか理解できなかった紫苑が声を漏らす。
「織斑さんはともかくとして、あなたはここまで祖国を侮辱されてよく黙っていられますわね! 少し位悔しいと思わないのですか!?」
(ああ…………侮辱してるって自覚はあったのね………)
「………………はぁ」
セシリアの言葉に、紫苑は明らかに分かる態度で溜息を吐いた。
「何ですのその態度は!?」
怒りを露にして机を叩きながら叫ぶセシリア。
「…………単に俺は子供の低レベルな言い争いに介入する気が無かっただけだ」
紫苑は微塵も態度を崩さずに冷静な口調でそう言う。
「なっ!? 子供ですって!?」
セシリアが更に激昂しようとしたところで、
「それに、俺は日本を生まれた国だとは認識しているが、既に故郷だとは思っていない。俺の故郷は別にある」
紫苑は続けてそう言った。
「ぐっ………フッ………例えそうだとしても、あなた程度の男性がいる国など、どちらにしても大した国ではないのでしょうね?」
セシリアは声を荒げそうになったが佇まいを直して優雅な態度で見下す言動をした。
だが、
「あの国を知らない奴が何を言った所で何も感じない。的外れな戯言を言っている滑稽な奴だと思うだけだ」
紫苑はプラネテューヌの事を本当にいい国だと思っている。
その国の事を何も知らないセシリアが罵倒した所で、的外れも良い所なので紫苑にとっては何の痛痒も感じなかった。
すると、
「そこまでにしておけ! これ以上授業の時間を割く訳にはいかん! 一週間後の月曜の放課後、第三アリーナで今の3名で代表決定戦を行う。異論は認めん! 3人はそれぞれ用意をしておくように!」
千冬は埒が明かないと言わんばかりにやや強引に話を纏めて決めてしまう。
「それでは授業を始める!」
千冬の号令で授業が始まった。
放課後。
紫苑が寮へ向かって歩いていると、
「おーい! 紫苑!」
後ろから一夏が駆け足で追い付いてきた。
「一夏?」
紫苑は立ち止まって振り返る。
一夏は紫苑に追い着くと、
「寮に行くんだろ? 一緒に行こうぜ」
「…………お前って暫くホテルから通学するって言ってなかったか?」
「ああ、その筈だったんだけど、急遽部屋割りを変更して今日から寮に入れるようにしたらしいんだ」
「なるほど、安全面を重視したのか………」
紫苑は一夏を寮に入れることを優先した目的を察する。
一夏が横に並ぶと紫苑はともに歩き出した。
「それにしても、あのセシリア・オルコットって言ったけ? 俺はあの子には絶対負けたくないな!」
「そうか………」
「そうか……って、あの時も思ったけど、何でお前ってそんなに冷静なんだよ? 少し位頭に来ないのか?」
「あの時にも言ったが、あの程度子供の言い争いと大差無い。そんな事に付き合っているのは時間の無駄だ」
「そうは言っても、あれだけ日本の事を馬鹿にされたのに………」
「それも言ったが、俺にとって日本はもう故郷じゃない。何を言われようと俺の知った事じゃない」
「お前………日本の事嫌いなのか?」
「別に………もう興味がないだけだ」
「紫苑…………一体何があったんだよ…………?」
「まあ、いろいろだな」
そこまで言うと、2人の間に少しの沈黙が流れる。
「なあ紫苑」
一夏が口を開いた。
「俺達、世界で2人だけの男性IS操縦者になったわけだけどさ…………紫苑はそれで何かしたい事ってあるか?」
「別に何も」
紫苑は即答する。
「俺はISなんぞには欠片も興味がない。俺がこの学園に居るのは身の安全の為だ。それ以上の理由は無い」
紫苑はそう言いきる。
「そっか………………俺はあるぜ」
一夏はそう言う。
「俺は………『護れる』ようになりたい………」
「…………………」
「俺は今まで千冬姉に護られてきた…………今度は俺が『護る』側に立ちたい………誰かを………『護れる』ようになりたい………」
「……………そうか」
紫苑はそう言うと足を速める。
「紫苑?」
「一夏、お前の志は立派だと思うし、否定するつもりもない……………けどな、俺の前では軽々しく『護る』という言葉を使わないでくれ…………特にISに関係することでは……………!」
「ッ!?」
そう言いながら振り向いた紫苑の眼は、底冷えする程に冷たい眼差しだった。
「『護る』という事は…………お前が思っている以上に難しい事なんだ…………俺はその難しさを、身をもって知っている…………」
「紫苑………」
一夏の足が止まるが、紫苑は歩みを止めない。
「『護れなかった』俺には……………な……………」
最後に呟いたその言葉は、誰にも届くことは無かった。
またもや一日で書き上げてしまった。
でも、次話はおそらく来週です。
さて今回からISの原作に突入しました。
いつでもどこでも冷静な紫苑君。
全く動じていませんでした。
まあ、楯無会長のお色気にも動じなかったぐらいですからこれぐらいは………
感想にもありましたがロマンチストな一夏とリアリストな紫苑の差も出てきたと思います。
さて、次は代表決定戦…………になるのかなぁ…………?
感想お待ちしています。