超次元インフィニット ネプテューヌ・ストラトス 作:友(ユウ)
「紫苑さん、イギリスの代表候補生と決闘することになったって聞いたけど、勝ち目ありそう?」
部屋に戻って暫くすると唐突に楯無が紫苑に尋ねてきた。
「何で知ってるんだ…………? って聞くのは野暮だな。女子の噂はあっという間に広がるからなぁ…………」
若干呆れたように呟く紫苑。
「それで? 勝ち目はありそう?」
楯無は面白そうと言わんばかりの表情で聞いてくる。
紫苑は溜息を吐き、
「勝ち目も何も、俺には勝敗すら興味がない。勝とうが負けようがどっちでもいい」
面倒くさそうにそう言う。
「…………私、紫苑さんの頑張る姿が見たいなぁ……………」
まるで甘える様な声でそう言ってくる楯無。
「俺に色仕掛けは通用しないと言ったはずだぞ…………」
特にこれと言って反応を見せない紫苑。
「む~…………!」
その事に楯無は剥れる。
「理由は知っての通り、俺はISが嫌いだからだ。お前も知っての通り…………『2つ』の理由によってな…………」
その言葉に、楯無はピクリと反応する。
「………………いつ気付いたんですか?」
「1週間前にお前が対暗部用暗部と名乗った時だ。お前は政府からの要請で俺を監視していたんだろ? 『白騎士事件』について口外しないかどうか……………」
「………………………」
楯無はバツが悪そうな顔をする。
「お前は俺の監視の為に翡翠と友達になったんだろ? 昔から家に来ることが多いと思ってたんだが、これではっきりした」
「……………確かに、最初に翡翠ちゃんと友達になった目的はその通りです…………でもっ! 私は翡翠ちゃんの事は本当に大事な友達だと思ってます!」
楯無は涙を滲ませながらそう言った。
「分かってるよ。それを疑うつもりは無い」
紫苑はそう言って気にした様子は見せない。
「ま、とにかく試合は適当にやって、代表の座は一夏かセシリアって子に譲るさ」
紫苑はそう言って話を打ち切った。
そして、あっという間に1週間が過ぎた。
この間に一夏は専用機を受け取ることが決まり、それから箒にISの事を教わる手はずだった。
その筈なのだが…………
「………なあ、箒」
「なんだ、一夏」
「気のせいかもしれないんだが」
「そうか。 気のせいだろう」
「ISの事を教えてくれる話はどうなったんだ?」
「…………」
「目・を・そ・ら・す・な!」
現在いる場所は第三アリーナのピットだ。
そこで夫婦漫才ともいえるやり取りをしているのは一夏と箒。
それを欠伸をしながら眺めている紫苑。
因みに予定では一夏がセシリアと先に戦う予定なのだが、その肝心の一夏の専用機がまだ到着していない。
一夏と箒が言い合っていると、
「お、織斑君織斑君織斑君!」
真耶が一夏の名を連呼しながら駆け足でやってきた。
「山田先生、落ち着いてください。 はい、深呼吸」
慌てる真耶に一夏はそう言う。
「は、はい。 す~~~は~~~~、す~~~は~~~~~」
「はいそこで止めて」
「うっ」
一夏がノリでそう言ったら真耶は本気で止めた。
酸欠で顔が赤くなっていく真耶。
「……………」
呆気に取られて黙り込む一夏に息を止め続ける真耶。
やがて、
「……ぷはぁっ! ま、まだですかぁ?」
真耶は限界が訪れたので大きく息を吐いた。
その時、
「目上の人間には敬意を払え、馬鹿者」
パァンと千冬の出席簿が一夏の脳天に炸裂した。
「千冬姉……」
相変わらず公私混同する一夏にパァンと再び出席簿を落とす千冬。
「織斑先生と呼べ。 学習しろ。 さもなくば死ね!」
「そ、それでですねっ! 来ました! 織斑君の専用IS!」
千冬が過激な発言をした後、真耶が続けてそう言う。
「織斑、すぐに準備をしろ。 アリーナを使用できる時間は限られているからな。 ぶっつけ本番でものにしろ」
「この程度の障害、男子たる者軽く乗り越えて見せろ。 一夏」
「え? え? なん………」
「「「早く!」」」
何故か急かされて戸惑う一夏に千冬、真耶、箒の3人は揃って促す。
紫苑はそれを興味無さげに眺めるだけだ。
すると、ゴゴンッという音と共に、ピットの搬入口が開く。
その向こうにある物が、徐々にその姿をさらしていく。
そこには、若干灰色がかった白いISが鎮座していた。
「これが……」
「はい! 織斑君の専用IS『白式』です!」
真耶が一夏にそう言う。
「体を動かせ。 すぐに装着しろ。 時間が無いからフォーマットとフィッティングは実戦でやれ。 出来なければ負けるだけだ。 わかったな」
千冬の言葉に一夏が白式に触れると、何故か一夏は若干戸惑ったような仕草を見せたが、すぐに気を取り直す。
「馴染む……理解できる………これが何なのか…………何のためにあるか…………わかる」
一夏が何やら呟く。
「背中を預けるように、ああそうだ。 座る感じでいい。 後はシステムが最適化をする」
一夏がISに身を任せ、一夏の体にISが装着されていく。
「ISのハイパーセンサーは問題なく動いているな。 一夏、気分は悪くないか?」
「大丈夫、千冬姉。 いける」
「そうか」
紫苑は千冬が一夏を名前で呼び、一夏も千冬の事を姉と呼んだことに気付いた。
(なんだかんだで、織斑先生も弟の事が大切なんだな…………)
内心そう思う紫苑。
近くにいた箒が何か言いたそうにしていたが、
「箒」
一夏が箒に声をかけた。
「な、なんだ?」
「行ってくる」
「あ……ああ。 勝ってこい」
突然の言葉に箒は戸惑ったが、気を取り直して一夏に激励の言葉を贈った。
そうして、一夏はカタパルトに移動し、ピットから飛び出していった。
結果から言えば、一夏は負けた。
最初こそ操縦に不慣れな事で一方的に追い込まれていたが、途中から相手の動きを見切り、BT兵器と呼ばれる遠隔操作型の小型機動兵器を次々と破壊し、更には
だが、白式の『零落白夜』という
戻ってきた一夏を千冬が出迎えると、
「よくもまあ持ち上げてくれたものだ。 それでこの結果か、大馬鹿者」
辛辣な一言を放つ。
「武器の特性も考えずに使うからああなるのだ。 身を持って分かっただろう。 明日からは訓練に励め。 暇さえあればISを起動しろ。いいな」
「………はい」
分厚い資料を渡され、項垂れる一夏
千冬が一夏になぜ負けたかを説明する。
簡単に言えば白式の能力は、シールドエネルギーと引き換えに相手のシールドを無効化する能力で相手の絶対防御を発動させ、大ダメージを与えるというもの。
ただし、絶対防御すら無効化してしまうので、素人が扱えば非常に危険な能力だ。
今回は残りのシールドエネルギーの量が少なかったために、攻撃が決まる前にシールドエネルギーがゼロになり、一夏が負けてしまったという事だ。
すると、
「織斑先生、オルコットさんから補給が終わったとの報告が」
「わかった。月影、準備に入れ!」
千冬の言葉と共に、紫苑が使うISが運ばれてくる。
紫苑は予め、ラファール・リヴァイヴを頼んでおいたのだが運ばれてきたのは、
「…………………織斑先生。なんで『打鉄』なんですか? ラファール・リヴァイヴを頼んでおいたはずですが……………」
紫苑の言葉通り、運ばれてきたのは打鉄だった。
「私の判断だ。試験時のお前の戦い方を見て、お前にはラファールよりも打鉄の方が合っていると判断した。それに、お前は銃器よりも剣の方が使いやすいだろう?」
「……………………………」
紫苑は黙り込む。
確かに性能的には中、遠距離主体のラファール・リヴァイヴよりも、近距離主体の打鉄の方が剣士である紫苑の戦い方には合っているだろう。
紫苑が剣の使い手というのも、紫苑の毎日の鍛練を見たか、もしくは紫苑の体の動きや重心のブレの無さを見て気付いていたのだろう。
しかし、紫苑がラファール・リヴァイヴを選ぶのはそのような性能面の理由ではないため、
「……………………俺は棄権します。打鉄は嫌いなんですよ…………」
そう発言した紫苑。
「な、何言ってるんだよ紫苑!?」
驚愕する一夏。
「そうです! 男が敵を前に背中を見せるなど!」
箒もそれは許せないのか声を荒げた。
「打鉄だけは使いたくないんだよ…………」
紫苑はそう呟く。
「そのような理由での危険は認められん! いいからやれ! これは教師としての命令だ!」
有無を言わさぬ千冬の言葉に、紫苑は軽く溜息を吐く。
「…………どうなったって知りませんよ」
紫苑はボソッと呟くと、仕方なく打鉄に向かって行く。
紫苑が打鉄に身体を預けると、紫苑の身体に打鉄が装着された。
「よし、直ちに発進を……………!」
千冬がそう言いかけた所で、真耶が確認していたデータ端末に、ピーっという異常を知らせる警告音が鳴り響いた。
「ッ!? 月影君のバイタルに異常!? 呼吸数と心拍数が急激に上昇しています!」
「何だと!?」
千冬が紫苑の方に振り向く。
「はぁっ………! はぁっ………! はぁっ………!」
紫苑は見てわかるぐらいに呼吸を荒げていく。
「月影!?」
「お、おい紫苑! どうしたんだよ!?」
「月影さんっ!?」
「月影君!?」
千冬、一夏、箒、真耶の4人が声を上げた。
次の瞬間、
「うぐっ……!? うぷっ……! うげぇぇぇぇぇぇぇぇっぇっ!?」
紫苑が口を押えたかと思うと、そのまま嘔吐し、ISを纏ったまま前のめりに崩れ落ちる。
「「「「月影(さん)(君)!?」」」」
4人は駆け寄るが、紫苑はそのまま気を失ってしまった。
その後、緊急事態につきセシリアと紫苑の試合は中止となり、他の生徒達は解散させた。
紫苑は保健室に運ばれ、保険医の診察を受けている。
途中で、突然棄権したことが気になったのか、セシリアも保健室にやってきた。
まあ、いきなり一夏に謝った事に一夏と箒は驚いていたが。
それからベッドで眠る紫苑に視線を向け、
「月影さんは一体どうされたのですか?」
そう聞いてきた。
「いや、俺達にも分からないんだ。ISを纏ったら、急に呼吸が荒くなって、いきなり履いて気を失ったんだ」
そういう一夏。
と、その時保険医が診察を終えたのか一同に向き直る。
「身体的にはここで調べる限り何の異常もありません…………強いて言うなら以前ここに運び込まれた時と、全く同じ状態でした。一体何をしたらこんな事に?」
保険医が千冬に尋ねる。
「……………月影に打鉄に乗るように指示をしたら、『打鉄が嫌いだから』という理由で乗ることを拒否したので、教師権限を行使して少々無理に乗るように指示をしました…………そうしたら……………」
千冬が少し言いにくそうに説明した。
すると、その保険医は溜息を漏らす。
「織斑先生…………ここは軍隊では無く学園です。そこで、『嫌だから』と理由で乗ることを拒否した月影君を無理に乗せるのではなく、何故嫌なのかを聞くことが教師として最初にすることではないのですか? 理由も聞かずに教師権限を行使するのは早計に思えます」
「はい…………面目ありません………」
申し訳なさそうに千冬は頭を下げる。
「私の予想では、その『嫌な理由』が月影君の精神に多大なストレスを掛け、嘔吐して気を失う事態に陥った原因ではないでしょうか…………?」
と、保険医がそこまで言った所で、
「うっ……………」
紫苑が気が付き、身体を起こす。
「ここは…………?」
紫苑は辺りを見渡した。
「月影君、ここは保健室です。何が起きたか理解していますか?」
保険医がそう尋ねると、
「保健室…………って事は、やっぱ気を失ったんですね、俺」
紫苑は全てわかり切っていたという感じでそう呟く。
「やっぱり………という事は、こうなることは予想していたと………?」
「可能性は高いと思っていましたね」
紫苑はそう言うとベッドから出て立ち上がる。
「お、おい紫苑! もう立って大丈夫なのかよ!?」
「ああ、身体には異常は無いから平気だ。吐いた所為で口の中が気持ち悪いけどな」
紫苑がそう言うと、千冬が一歩前に出る。
「月影………」
「織斑先生?」
「すまなかった………」
「はい!?」
突然頭を下げた千冬に紫苑は困惑した。
「理由も聞かずにお前を無理に打鉄に乗せた事………今思えば教師としてあるまじき行為だった…………謝罪する」
「……………まあ、あそこで理由を言えと言われても答えなかったでしょうから別にいいですよ。結局はこうなってたでしょうし………」
「ならばそれを承知で敢えて言わせてもらう…………理由を話してはくれないか………?」
「……………………」
その言葉を聞いて、無言になる紫苑。
「あまり人に知られたくない理由なら、私は席を外しますよ」
保険医の先生がそう言う。
「知られたくないというか、聞いて気持ちのいいもんじゃないですから、興味本位で聞くというのならお断りさせてもらいます」
「そんな事言わないでくれ!」
一夏が叫ぶ。
「俺はお前の事を友達だと思ってるし、友達が困っているのなら少しでも手助けしてやりたい!」
一夏は真っすぐな目をして叫ぶように言った。
「わ、私とてクラスメイトが困っているのを黙って見過ごすほど人でなしではないつもりだ」
箒が、
「そもそもこのような事態に陥った根本的な原因は、わたくしが変な意地を張って決闘を申し込んだことが原因なのです。わたくしに出来る事なら協力させてください」
セシリアが、
「私も教師として生徒が困っているのなら力になってあげたいです!」
真耶がそう言う。
「はぁ…………お人好しですね」
呆れと笑いが混ざった表情で紫苑は言った。
すると、
「話す前に………織斑先生にお願いがあります」
「何だ?」
「俺と戦ってください。生身での模擬試合、1対1の真剣勝負を…………!」
紫苑の言葉に驚く全員。
「……………何故だ?」
「強いて言うなら…………確認と八つ当たりですかね…………」
「それはお前がISを嫌いな事に関係がある事か…………?」
「3割ほどは…………」
「時折私に殺気を向けてくる理由もか………?」
「「「「!?」」」」
その言葉に全員が驚愕する。
「……………はい」
「……………いいだろう」
紫苑の言葉を聞いて、了承の意を示す千冬。
「では、早速………」
模擬試合は剣道場で行われることとなり、一同は移動する。
因みに保険医は遠慮することとなった。
道場は既に剣道部の部活は終わっており、チラホラと自主練に励む部員が数名いるだけだ。
その部員に千冬が断りを入れ、道場の一角と木刀を借りることにする。
「ぼ、木刀で行うのですか?」
剣道部である箒が驚いたように訪ねる。
「竹刀じゃ脆過ぎてあっという間に終わっちまうからな」
紫苑はそう言いながら木刀を2、3度振って感触を確かめる。
道場の真ん中で紫苑は千冬と向かい合った。
2人の服装はいつもと同じ制服とスーツ姿だ。
「勝敗は?」
千冬が簡潔に問う。
「致命的なダメージを受けたとされる状況、もしくは戦闘不能な状態に追い込まれる。後は本人の降参で」
「いいだろう」
そう言い終えると、紫苑はいつもの霞の構えに。
千冬は正眼に構える。
「『霞の構え』? 珍しい構えを使うんだな月影さんは………」
「『霞の構え』………というのは?」
セシリアが尋ねる。
「相手の目を狙うための構えだ…………正直、実戦にはあまり向かないと思うのだが………ッ!?」
箒がそう言った所で息を呑んだ。
その場の空気が張り詰める。
「な、何だこの空気は………?」
一夏が何とか声を漏らす。
「こ、呼吸するのも一苦労ですわ………!」
「ま、まさかこれは2人の剣気のぶつかり合い………!? 気迫だけで他人にもこのような影響が出るものなのか………!?」
剣を嗜む箒にとって、この状況は信じられないものであった。
「こ、こんな先輩は滅多に…………」
真耶も目を見開いて驚いている。
暫くの静寂が流れ、カチコチと時計の秒針の音だけがその場に響く。
そしてある瞬間、紫苑の姿が全員の視界から消えた。
「き、消えっ…………!?」
一夏が声を上げようとした時、
ガァンとけたたましい音が鳴り、観戦者が気付いた時には千冬が自分の首のすぐ左に木刀を立てて添えており、千冬の背後から首を狙って斬りつけられた紫苑の一撃を止めていた。
「…………容赦なく首を狙ってきたな………」
千冬が冷静な声色でそう言う。
「そりゃ首は最も分かりやすい人体急所の1つですから………」
そう言った瞬間、紫苑の剣が弾かれ、千冬が振り向きざまに剣を横薙ぎに振るう。
紫苑は軽く飛び退いてその剣を紙一重で躱すと同時に再び踏み込む。
次の瞬間にはガガガガァンと木刀同士の激突音が何重にも重なって聞こえるほどの連撃が2人の間で応酬される。
「ち、千冬姉と互角…………?」
「あ、あれ程の腕前を…………」
「な、何が起こっているのかさっぱり分かりませんわ…………」
「あ、あわわ………」
4人が呆然と見守る中、ガァンとひと際大きな音がして2人の間合いが離れる。
「「……………………」」
2人は再び霞の構えと正眼の向かい合っているが、
(織斑先生…………変身前の女神クラスの身体能力に俺と同等以上の剣技…………今は何とか食らいついてるけど…………嫌になるね全く…………)
本当に人間かと思える千冬の強さに、紫苑は内心呆れと感心が半分半分だった。
シェアリンクだけでもできれば互角になるだろうが、ネプテューヌが近くに居なければそれも無理なので紫苑は普通の人間としての身体能力で戦うしかない。
以前、変身前のノワールには勝ったが、それは紫苑が技量で上回っていたからに過ぎず、身体能力も技量も勝る千冬相手では劣勢になるのも当然であった。
(ま、それでも……………)
「簡単に負ける気はないっ!」
紫苑は一気に間合いを詰めて斬りかかる。
当然だがそれは千冬に軽々と受け止められ、鍔迫り合いの状態に入った。
が、身体能力は千冬の方が有利の為、このまま続けるのは愚策だろう。
紫苑は自分から力を緩めて千冬の体勢を崩そうとする。
しかし、千冬も瞬時にそれに気付いて体勢が崩れるのを防ぐ。
だが、それでも千冬の重心は前へ移動した。
紫苑はその隙を見逃さず、千冬の剣を滑らせるように受け流すと、そのまま流れるように重心が移動した前足に向かって剣を振った。
「ッ…………!」
前に重心が傾いているので後ろに飛び退くのは不可能と判断したのか、やや強引に千冬は真上に跳んでその剣を避けたが、
「ここっ!」
空中で上手く身動きが取れないところに紫苑が突きを繰り出す。
「くっ…………!」
ここに来て初めて千冬が一瞬焦りの表情を見せた。
だが、そこは元世界最強。
点の攻撃である突きの軌道を見切って自分の剣を添え、その切っ先を逸らす。
その切っ先は紫苑の狙いからズラされるが、それでもその切っ先は千冬の顔に向かっていく。
このままでは確実致命傷となる判定の一撃となる。
しかし、
「ッ………!」
千冬は首を傾けて、その切っ先を躱す。
そのまま千冬は空中で剣を振ってきたため、紫苑は飛び退いた。
床に着地する千冬。
しかし、顔を上げた千冬の頬には先程の突きを完全には避けることが出来ていなかったのか、僅かだが蚯蚓腫れが出来ていた。
「ち、千冬姉に………当てた………!?」
それを見た一夏が驚愕している。
「…………………………」
千冬は無言でその場所を右手の親指でなぞる。
「私に傷を負わせたのは…………アイツ以来か…………」
そう言いながらも、千冬の口元は吊り上がっている。
それから構えなおすと、
「行くぞ…………!」
今度は千冬から仕掛けた。
「ッ!」
見るからに威力のある袈裟斬りを紫苑は真面に受けようとはせず受け流す。
だが、
「くっ!?」
受け流した剣が跳ね返るように切り返され、切り上げとして迫ってくる。
紫苑は咄嗟に一歩下がることによって紙一重でそれを避けた。
「まだだぞ!」
更に千冬は踏み込んで唐竹に打ち込んでくる。
「くぉっ!?」
紫苑はそれを何とか受け止め、受け流す。
そこから続くのは千冬の息を吐かせぬ連続攻撃。
紫苑はそれをギリギリだが受け流し続ける。
「あ、あれ程の攻撃を続ける織斑先生も織斑先生ですが、それに食らいついていける月影さんも月影さんですわ!」
千冬は言わずと知れた元世界最強のIS乗りだが、紫苑は無名の男。
それなのに千冬に食らいついていく紫苑にセシリアは驚きを隠せない。
「なあ箒………?」
「何だ?」
一夏が箒に話しかける。
「お前だったらあれ、凌げるか?」
「無茶を言うな。私程度では初手で木刀を圧し折られて終わっている。あれ程千冬さんの剣を受け続けていられるだけで、月影さんの技量が並外れて高い証拠だ」
「…………………あれだけの力があって、何で『護る』ことが難しいなんて言うんだよ………」
「…………なんの話だ?」
「あ、いや、何でも…………」
自分を遥かに超える力量の紫苑に対し、一夏は以前紫苑が言っていた言葉を思い出していた。
暫くの間剣戟の音が鳴り響いていたかと思うと、再び一際大きな剣戟の音が鳴り響くと共に間合いが開く。
その2人の様子には、大きな差があった。
「……………すぅ……………ふぅ………………!」
千冬が落ち着いたリズムで呼吸を落ち着けているのに対し、
「はぁ………はぁ………はぁ…………!」
紫苑は息を大きく乱し、何とか呼吸を落ち着けようとしている。
その原因は、
(……………織斑先生も手を抜いている訳じゃないだろうけど…………ペース配分を考えての全力だな……………一方、俺はペース配分なんて考えずに常に全力を出し続けた状態で何とか食らいついているのが現状……………)
紫苑は自分が不利と分かっていながら冷静に状況を見極める。
(……………元より格上と分かっていた相手………長引けばそれだけ体力を消耗する俺が不利……………となれば、これ以上の手合いは無駄! 次の一手で決めなければ俺の負けだな………!)
今まで以上の集中力をもって千冬を見据える紫苑。
(……………力の差を見せつけられてもその目に諦めの色は無い………か…………強いな…………月影)
内心そう褒める千冬。
(そしてあの眼………何かを狙っているな……………)
紫苑の眼を見て千冬は悟る。
今までの手合いで紫苑は油断のならない相手だという事は身に染みている。
故に千冬はそれ相応の態度で紫苑に臨む。
正眼の構えを解くと木刀を腰に添え、居合の構えを取った。
『一閃二断の構え』。
一手目で相手の攻撃を弾き、二手目で相手を断つ。
千冬も得意とする返し技だ。
これならば、多くの技に対抗できる。
「…………………ッ!」
にもかかわらず、紫苑は真っすぐに千冬へと向かってきた。
しかし、紫苑が繰り出したのは左からの薙ぎ払い。
千冬の構えた右の居合いでは、弾くことは非常に難しい。
だが、
「…………フッ!」
千冬は迷わずに剣を振った。
相手の左の薙ぎ払いを右の居合いで弾くためには正確な剣筋と、非常にシビアなタイミングが必要になる。
だというのに、
「ッ!?」
千冬はそれをあっさりと成し遂げてしまう。
紫苑の木刀が手を離れてクルクルと回転しながら宙を舞った。
千冬は一閃した剣を流れのままに頭上で構え、
「終わりだ………!」
それを振り下ろした。
「……………ッ!?」
いや、振り下ろそうとした。
しかし、今弾かれた紫苑の剣は左手のみで放たれていた。
右手は紫苑の後方に残されたまま。
そして右手は強く握り込まれ、左手を振った反動で身体に捻りが生まれ、その力は右腕に伝わる。
紫苑が一歩踏み出すと共に、その拳は放たれた。
「うおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
紫苑の気合と共に、拳が千冬の無防備な腹部に叩き込まれる。
「ぐっ!?」
その拳の威力は千冬の身体を浮かし、後方へ吹き飛ばす。
そのまま千冬は壁に激突し、木造だったその壁に罅を入れて陥没させた。
千冬は一瞬後に床にずり落ちて座り込む様な体勢になる。
「千冬姉っ!?」
吹き飛ばされた千冬に一夏は思わず叫んだ。
「はぁ………はぁ…………」
今の一撃に全てを込めた紫苑は、かなり疲労していた。
「紫苑! 今のは卑怯だぞ!! 剣を飛ばされた時点でお前の負けじゃないのか!?」
一夏が紫苑に食って掛かろうとする。
だが、
「言ったはずだ…………この試合は真剣勝負…………剣の勝負じゃない…………そして勝敗の取り決めは、『致命的なダメージを受けたとされる状況、もしくは戦闘不能な状態に追い込まれる。後は本人の降参』だ。剣を飛ばされただけじゃ致命的なダメージを受けたとは言えないし、俺は降参もしていない………あの時点ではまだ試合は続行していた………」
「だけど………!」
一夏がまだ何か言いたげだったが、紫苑はその事を意識の外に追いやる。
何故なら、
(今のが女性の腹を殴った感触かよ………!? 大型トラックのタイヤを殴ったかと思ったぞ……………)
拳から伝わってきた感触にそんな感想を思う紫苑。
その視線の先で、千冬がゆっくりと顔を上げた。
「やれやれ…………教師を躊躇なく殴るとはな……………」
それから立ち上がりつつ殴られた腹をパッパッと払う仕草をする。
その動きには違和感は感じられない。
そして、
「まだやるか…………?」
千冬はそう問いかける。
それに対し紫苑は一瞬の思案の後、姿勢を正し、
「参りました」
一礼しつつ降参の意を示した。
その事に驚愕する一夏達。
「ふむ………もういいのか?」
「はい。不意打ちで全力攻撃したにも関わらず、行動不能に出来なかった時点で俺の負けは確定しています。それに…………確かめたいことはもう済みましたから………」
「そうか…………」
千冬も剣を下げた。
「これで話してくれるか?」
ISが嫌いな理由を聞かせて欲しいと紫苑に伝える。
「はい…………ですがその前に………」
紫苑は道場の出入り口の方に視線を向けると、
「居るんだろ、楯無!」
そう呼びかけた。
すると、道場の出入り口の影から楯無が姿を見せる。
「更識…………」
千冬が呟いた。
楯無は紫苑達の方へ歩いてくると、
「誰だ…………?」
一夏がボソッと呟く。
その言葉に楯無はニッコリと笑って、
「一夏君達には初めましてね。私は更識 楯無。この学園の生徒会長よ」
「「「せ、生徒会長!?」」」
生徒会長と聞き、一夏、箒、セシリアは反射的に背筋を伸ばした。
「何故更識さんが………?」
真耶は首を傾げる。
すると、
「楯無…………話すけどいいな?」
「………………」
「少なくとも、織斑先生には聞く資格はあると思うぞ」
紫苑がそう言うと、
「おい、今のは一体どういうことだ? 何故更識に許可を取る必要が………?」
会話の流れに疑問を持った千冬がそう問いかけた。
「楯無は監視役なんですよ………」
紫苑が答える。
「いや、だがそれは…………」
自分の指示だと千冬は言おうとしたが、
「日本政府からのね……………それも、ずっと昔から………」
「!?」
その言葉に千冬が驚愕の表情を浮かべる。
「な、何故お前が日本政府に監視される………!?」
驚愕しながらなんとかそう問いかける千冬。
「まあ、それを言っちゃいけないから監視されてるんですけどね」
紫苑は苦笑する。
「で、どうする?」
紫苑は再び楯無に問いかける。
「………………これから聞くことを、他言無用と誓えるのなら」
楯無はそう言う。
「後は、他人が聞かないように何処かの個室で…………」
「それならば私の部屋が良いだろう。夜中に私の部屋に尋ねる馬鹿は居ないだろうからな」
千冬がそう言う。
紫苑はその言葉を了承したが…………
「千冬姉の部屋…………?」
一夏が訝しむ様な声を漏らした。
とりあえず紫苑、楯無、千冬、真耶、一夏、箒、セシリアの7人は千冬の部屋にやってきたのだが…………
「「「「「…………………………」」」」」
唖然とする千冬と一夏を除く5名と、
「千冬姉………………」
呆れた声を漏らす一夏。
目の前には、ゴミが散乱し、洗濯前と思われる衣類が一塊に積み上げられ、どうひいき目に見てもごみ溜めとしか言えない部屋の惨状が広がっていた。
「な、何だ一夏…………これでも以前よりはマシなんだぞ」
そう弁明する様にいう千冬。
「いや、これより酷いって言うのが信じられないんですが…………」
紫苑が呟く。
それから辺りを見回し、
「こりゃ話をする前に掃除だな」
そう呟いた。
すると、
「一夏と女性陣は、まずあの衣類の塊をどうにかしてくれ。多分、他人の男が触っちゃいけない様なものがあるだろうから」
紫苑が言っているのは言わずもがな下着類の事である。
「わ、わかった」
返事をする一夏と、呆気に取られていた表情から復帰した女性陣も一夏に続く。
すると紫苑は腕まくりして、
「ちょいと久々に本気出すか………!」
真剣な顔で掃除に取り掛かった。
洗濯班が衣類を洗濯カゴに移していると、やはり下着類も一緒になって固められており、流石の一夏も姉のズボラさに恥ずかしくなって小さくなっている。
洗濯物を一通り片付けて一夏達が部屋に戻ってくると、
「「「「………………嘘」」」」
その瞬間に思わず声を漏らした。
何故なら、たった30分足らずの間にゴミは可燃、不燃、資源ゴミに仕分けられてそれぞれがゴミ袋に詰められて固められており、ゴミが散乱していた床は常に掃除していたと言わんばかりの綺麗な状態となっていた。
因みに紫苑は掃除の仕上げの拭き掃除に取り掛かっている。
「月影君………家事スキル高いですねぇ……………」
真耶が思わずポツリと呟いた。
「まあ、3年間続けてればこの位は…………」
千冬に勝るとも劣らぬ私生活のズボラなネプテューヌと一緒に生活してきたのだ。
この位は容易い事である。
そうたいした時間も掛けずに紫苑は掃除を終わらせると、今までの掃除が無かったかのように皆で集まり、話を続けた。
「さて、これから俺がISが嫌いな理由を話すわけだが…………」
紫苑は一度楯無に視線を向ける。
「これから紫苑さんが話すことは、日本政府からも口止めされている機密事項……………もう一度言うけど、絶対に口外しないと誓えないなら今すぐ部屋を出ってた方が良いよ」
楯無は念を押してそう言うが、誰も動こうとはしない。
紫苑は一度溜息を吐き、
「俺がISを嫌いな理由は2つある。1つは10年前の『白騎士事件』…………」
「ッ!?」
紫苑の言葉に、千冬は強く反応したように思えた。
『白騎士事件』はこの世界の人物ならだれもが知っている歴史的な大事件。
そして、ISが一気に世に知れる事にもなった出来事でもある。
「『白騎士事件』の死者は皆無だと世間には知られているが、実際には少し違う」
「「「「「えっ?」」」」」
紫苑と楯無以外の漏らした声が重なる。
「実際には、2人だけだが犠牲者は出ていた…………」
「なっ!?」
「その2人というのが…………………俺の両親だ」
「「「「ッ!?」」」」
「そ………そんな……………!?」
4人は驚愕しただけだが、千冬だけはショックを受けたように目を見開き、呆然としている。
「俺と妹は少し離れた所にいたから助かったけど、当時の俺は7歳…………正直何が起きたのか理解しきれてなかった…………ただ、両親が突然いなくなった事、これから妹を自分が護っていかなきゃいけないことだけは理解できた……………その後、ISの力に目を付けた政府の人間から両親の死の真相を秘匿する代わりに、俺達の生活の援助をするという話が来た。当時の俺に、選択肢は無かった……………」
「「「「「…………………………」」」」」
紫苑はそこで話を区切り、千冬に視線を向ける。
「ここまでで何か言いたいことはありますか、織斑先生? いえ、『白騎士』の操縦者、織斑 千冬さん?」
紫苑は確信を持った目でそう問いかける。
「「えっ!?」」
真耶とセシリアが声を上げ、
「ッ……………!」
千冬が目を見開く。
一夏、箒に関しては驚いていたようだが、千冬やIS開発者の篠ノ之 束に近い事もあり、千冬が『白騎士』の操縦者という事には目星がついていたのだろう。
「何故分かったのかと言いたげな目ですが、簡単な話です。『白騎士事件』の動画は今でもネットで検索すればいくらでも出てきます。そして、あなたの第一回
「…………………その…………知らなかったとは言え………謝って済む問題ではないが……………申し訳なかった」
千冬は誤魔化す気が無いのかそう言って頭を下げる。
「……………俺もガキじゃありませんし、両親の死を織斑先生に当たるのは筋違いと理解しています。戦う前に言ったでしょう? 八つ当たりも含んでいると…………まあ、思う所がない訳ではありませんが、これ以上織斑先生を責める気はありません」
「……………すまない」
謝罪と感謝の両方の意味を込めた一言と共にもう一度頭を下げる千冬。
すると、
「まあ、これは俺のIS嫌いの理由の3割程度なんですけどね」
紫苑はあっけらかんとそう言った。
「い、今のでたった3割の理由なんですの!?」
直接は関係ないとはいえ両親を失った事はIS嫌いになるには十分だと思っていたセシリアだったが、それが3割だという事に驚愕の声を漏らす。
「その7割を占める理由が2つ目だ……………3年前…………ISのイベント会場で起きたテロ事件は知ってるか?」
紫苑は少し遠い目をしながら皆に問いかける。
「3年前…………展示されていたISが強奪されたと共に、多数の死傷者が出た大事件ですね…………」
真耶が覚えがあったのかそう漏らす。
「ああ、それならテレビで見て知ってる」
一夏も頷き、箒、セシリアも同様だ。
「そのイベント会場に……………俺と妹は居たんだ」
「「「「「!?」」」」」
「俺は乗り気じゃなかったんだが、妹が行きたいと駄々を捏ねてな…………仕方なく行ったんだが、そこでテロに巻き込まれた………」
「「「「「………………………」」」」」
「犯人はISを纏った女だった。アサルトライフルで周りの人間は次々に肉片に変えられていったよ……………」
「「「「「………………………………」」」」」
唖然としている一夏達。
「俺と妹は早めに気付いて伏せたお陰でその時は大丈夫だったんだが、流石にISのハイパーセンサーは誤魔化せなくて、すぐにバレた」
「「「「「ッ!」」」」」
「そこで俺は妹を逃がすために、妹を先に行かせて俺は鉄パイプ片手にその女と対峙した」
「てっ、鉄パイプでISに挑んだんですの!? なんて自殺行為を!?」
セシリアは単身ISに挑んだ紫苑を自殺行為と言って驚く。
「いや、別に死ぬつもりは欠片も無かったぞ? 実際に動きを見て、その女は戦いに関しては素人同然だって事が分かってたし……………事実、攻撃は効かなかったが、おちょくって時間を稼ぐことは簡単だった。一発当たれば死ぬが、別に負けるとは思わなかったな」
その時の事を思い出して言う。
「月影の腕前なら可能だろう。私も並の学生程度ならISが無くとも十分に渡り合える」
真顔でそう言う千冬。
「俺には織斑先生程の身体能力はありませんので攻撃は効きませんでしたけどね………」
そう言うと紫苑は続ける。
「それで時間稼ぎも十分だと思って、そろそろ逃げようかと思ったときに…………妹が戻ってきちまったんだ」
「「「「「えっ?」」」」」
「アイツは優しい奴だった。俺の事が心配で途中で引き返してきちまったんだろうな…………」
紫苑はそう言いながら顔を伏せる。
「俺は一瞬妹に気を取られた隙に殴り飛ばされた。それで気絶した俺が次に気が付いた時、目の前にあったのは妹の右腕だけ…………後は誰ともわからない肉片と大量の血溜まりだった…………」
「「「「「………………………」」」」」
絶句する5人。
「だ、だがその腕が妹のモノだとは限らないだろう? もしかしたら、無事に逃げ果せたのかも…………」
箒が気休めとばかりにそう言おうとしたが、その前に紫苑は右手を掲げる。
「それはコイツだ…………」
右手首にあるブレスレットを見せた。
「これは俺が妹の誕生日にプレゼントしたもの…………これがその右腕に通されていた…………………それに俺が気を失う寸前、俺に手を伸ばしながら駆け寄ってくる妹の右腕が鮮血と共に宙を舞う光景を目撃している…………気を使ってくれることは嬉しいが、俺は現実から目を逸らすつもりは無い……………」
「「「「「…………………………」」」」」
再び絶句している5人。
「そして……………その犯人の女の纏っていたISこそ……………『打鉄』だった……………」
「「「「「!?」」」」」
その瞬間に全てを悟る5人。
紫苑があれ程ISを嫌がる理由も、『打鉄』に対して拒否反応を起こすほどに拒絶する理由も。
暫くの沈黙が続く中、
「な、なあ紫苑………」
一夏が遠慮がちに声を掛けてきた。
「ん?」
「お前が前に日本を故郷と思っていないとか、興味が無いとか言ってた理由も…………」
セシリアもその事を思い出し、少しバツが悪そうな顔をしている。
「まあ、半分の理由ではあるな」
「半分?」
「日本以上に故郷だと思える場所を見つけた…………それがもう半分の理由だ」
「そう………なのか…………」
再び黙り込んでしまう一夏。
すると、
「月影…………」
千冬が声を掛けてきた。
「はい」
「お前は絶望しなかったのか?」
それほどの出来事があったにも関わらず、今もこうして普通に生きている紫苑を不思議に思ったのか、千冬がそう聞いてきた。
「そりゃもちろんしましたよ。あのままだったら、俺は当の昔に死を選んでいたか、そうでないにしろ、生きる気力は無かったので何処かで野垂れ死んでいたでしょうね」
「ならば何故?」
「俺を絶望から救い出してくれたヤツがいるんですよ。アイツがいなかったら、俺は今頃…………」
「その者は…………?」
千冬がそう問うと、紫苑は意味ありげに笑みを浮かべ、
「……………俺の愛する女神様です!」
「「「「「「はい?」」」」」」
「これ以上はプライベートな話なのでノーコメントで」
最後に気になる一言を残しつつ話を打ち切る紫苑。
どこか釈然としない雰囲気を残しながらも、その場を解散する一同。
「………………………」
すると、自室に1人残った千冬は、
「………………ぐっ!」
突然腹を押さえて蹲った。
「はぁ………はぁ…………本当に不意打ちで喰らえば………危なかったかもしれんな……………」
紫苑の一撃を受けた時を思い出す。
千冬は正確には、不意打ちを受けたわけでは無い。
紫苑が何か狙っていることは予測出来ていたため、ワザと大きく隙を晒すことによって、紫苑の攻撃を誘ったのだ。
最大限力を入れて防御したのだが、それでも千冬の身体に大きなダメージを残した。
平然な顔をして立ち上がったのは、言わばハッタリだ。
あのまま続けていれば、負けるつもりは無かったが、それでも苦戦することは間違いなかった。
余裕の表情を見せることで、紫苑に降参を促したのだ。
これは、千冬が一枚上手だったと言えよう。
千冬はゆっくりと立ち上がると、
「あれ程の絶望を味わった月影を救った人物…………か。一体どのような者なのだろうな………………」
そう呟いた。
どうも、第十二話です。
色々と必要ないイベントを端折ったのに、めっちゃ長くなった。
テンプレ万歳とか言いつつ、テンプレじゃないことをしようとして、それでもやっぱりテンプレの域をでないテンプレな話でした。
セシリアをボコるのは既に見飽きてますので少し位違う事をしようとして、何故か千冬との戦いに。
主人公は強めですけど最強じゃないので千冬には勝てません。
変身できれば話は別ですが………
それにしても、早く書きたいところまで行きたい。
それでは次もお楽しみに。