超次元インフィニット ネプテューヌ・ストラトス   作:友(ユウ)

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第14話 悲劇の中の再会(マイ シスター)

 

 

 

 

 

紫苑が鈴音を慰めた時から暫くして…………………

 

「ちょっと紫苑聞いてよ!!」

 

ある日紫苑が楯無と部屋にいると、鈴音がノックもせずに勢いよくドアを開け、入ってきたと同時に叫んだ。

 

「ん?」

 

紫苑が顔を向けると、

 

「一夏の奴私の事『貧乳』って言いやがったのよ!?」

 

「それをなんで俺に言いに来る!? つーか、何で俺の部屋を知ってる!?」

 

突然言われた言葉に紫苑は思わず突っ込む。

 

「そんなのその辺の生徒に聞けば普通に答えてくれたわ!」

 

「む…………」

 

鈴音の即答に、紫苑は悔しくも納得してしまった。

IS学園に2人しかいない男子生徒の情報など、いくらでも出回っているだろう。

 

「因みに前者の質問については、アンタぐらいしか相談できる相手が思いつかなかったからよ!」

 

ズビシッと紫苑を指差しながら鈴音は言い放った。

 

「すっかり懐かれちゃってるわねぇ、紫苑さん?」

 

楯無がベッドに寝っ転がりながら言う。

その後、紫苑は鈴の愚痴を延々と聞かされる羽目になった。

 

 

 

 

 

 

 

更に時が流れてクラス対抗戦当日。

 

「………………………」

 

紫苑はピットのモニターで一夏と鈴音の試合を眺めていた。

因みに紫苑がピットにいる理由として、このクラス対抗戦は噂の男性IS操縦者の一夏と代表候補生である鈴音が出るという事もあって、観客席は満員だ。

それでもし紫苑が観客席に現れるとなると、いつも顔を合わせているクラスメイト達はともかくとして、別のクラスや別の学年の生徒達は紫苑の周りに殺到するだろう。

そうなると面倒な事この上ないため、紫苑は千冬の許可を貰ってこのピットで観戦しているのだ。

因みにこの場には千冬、真耶の他にセシリアと箒がいるのだが、何故いるのかは紫苑も知らない。

試合が始まり、鈴音が連結させた青龍刀を振り回し、序盤から積極的に攻めに入る。

一夏も何とか凌いでいたが、一旦距離を取ろうとして………

 

『甘いっ!』

 

鈴音の言葉と共に、一夏が何かに殴り飛ばされたように吹っ飛んだ。

 

「何だあれは…………?」

 

箒が呟く。

 

「『衝撃砲』ですわね。空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で生じる衝撃それ自体を砲弾化して打ち出す、わたくしのブルー・ティアーズと同じ、第3世代型兵器ですわ」

 

答えたのはセシリアだった。

箒は心配そうにモニターの向こうの一夏を見つめる。

その一夏は、乱射される衝撃砲の嵐を何とか凌いでいた。

 

『よく躱すじゃない。衝撃砲『龍砲』は砲身も砲弾も見えないのが特徴なのに』

 

モニターの向こうの鈴音がそう言う。

一応褒めてはいる様だが、圧倒的優位に立っていることは確信しているらしく、その表情には余裕が伺える。

 

「………………月影、お前は何故織斑が持ちこたえているか理解しているか?」

 

突然千冬が紫苑に話しかけてきた。

 

「…………鈴の衝撃砲とやら自体は確かに砲身も砲弾も見えません。ですが、鈴は目標に真っすぐ向く癖があるみたいですから、何処を狙ってくるかは視線で分かります。あと、発射の瞬間に身体を踏ん張る癖もあるみたいですね。よく見れば体の力みで発射のタイミングも先読み出来ます。まあ、一夏は頭ではその辺理解してはいないようですが、無意識の内に違和感を感じて攻撃を避けてるって感じですね。一夏の戦闘センス自体は目を見張るものがありますからその為でしょう」

 

「……………私も同じ意見だ」

 

千冬は満足そうに口元に笑みを浮かべる。

すると、モニターの向こうでは一夏が一旦距離を置いた。

 

『鈴』

 

『なによ?』

 

『本気で行くからな』

 

『な、何よ………そんな事、当たり前じゃない………とっ、とにかくっ、格の違いって奴を見せてあげるわ!』

 

(………………なんだかんだ言って鈴の奴、一夏の真剣な表情に見惚れて、狼狽えてるじゃねえか)

 

しどろもどろになる鈴音の言葉を聞いてそう思う紫苑。

次の瞬間、鈴に向かって一夏が猛スピードで突っ込んだ。

瞬時加速(イグニッション・ブースト)と呼ばれる高等技術で簡単に言えば爆発的な急加速。

入学試験で紫苑も無意識で使ったそれを一夏が使ったのだ。

鈴音が不意を突かれ、一夏の刃がその身に届きそうになった。

その瞬間……………

ドゴォォォォォンと言う音と共にアリーナ全体に衝撃が響いた。

 

「何事だ!?」

 

千冬が叫ぶ。

 

「わ、分かりません! ですが、何かがアリーナのシールドを突き破って侵入した模様!」

 

真耶はそう言うとすぐに一夏達に通信を繋げる。

 

「織斑君! 凰さん! 今すぐアリーナから脱出してください! すぐに先生たちがISで制圧に行きます!」

 

『いや、先生達が来るまで俺達で食い止めます』

 

一夏がそう発言する。

それは、シールドを突破してきた相手から観客の生徒達を護るための判断だ。

 

「織斑君!? だ、ダメです! 生徒さんにもしものことがあったら………」

 

真耶はそう言うが、相手から仕掛けてきたらしく2人は戦闘を開始した。

 

「もしもし!? 織斑君聞いてます!? 凰さんも! 聞いてますー!?」

 

真耶が通信で呼びかけるものの、既に返事は返ってこない。

 

「本人たちがやると言っているのだから、やらせてみてもいいだろう」

 

「お、お、織斑先生! 何呑気なことを言ってるんですか!?」

 

千冬と真耶が話し合っている中、箒は誰にも知られずにピットを出た。

かに思えた。

 

「何処へ行くつもりだ?」

 

とある場所へ向かおうとしていた箒を紫苑が呼び止める。

 

「そ、それは……………」

 

「当ててやろうか……………? 中継室だ」

 

「ッ……………!?」

 

見事に図星を突かれ、息を呑む箒。

 

「何で分かったのかって顔してるな? 簡単な話だ。お前の性格からして一夏に発破でも掛けに行くつもりだったんだろう? そうなるとアリーナ内に声を届けるために必要な物は、織斑先生たちが使っている通信機の他には、中継室にある実況や館内放送用の放送機器ぐらいだ」

 

「う…………………」

 

思わず言葉に詰まる箒

 

「けどな…………今の状況においてそれは単なる邪魔にしかならない」

 

「なっ!?」

 

紫苑の言葉に箒の顔が怒りで真っ赤になる。

しかし、それでも紫苑は淡々と言葉を続ける。

 

「確かに声援が力になる時もある。それは俺も認める」

 

「それならば…………!」

 

「だが、それは命の危険が無い場合。もしくは、これ以上の逃げ道が無い場合だ」

 

「えっ…………?」

 

紫苑の言葉の意味が分からなかったのか、箒は声を漏らす。

 

「例えばお前が一夏に発破を掛けたとして、敵がお前を狙わない保証が何処にある?」

 

「ッ!?」

 

「そうなれば、一夏はお前に気を取られ、逆にお前を庇いながら戦わないといけなくなり、一夏の戦闘の中の選択肢をかなり狭めることになる。それは、一夏の勝率を下げることに他ならない」

 

「そ、そんなはずは…………!」

 

「こういった命の懸かった状況の場合、戦っている者にとっては戦う力の無い者は一秒でも早く安全な場所に避難して貰いたいものなんだよ。そうすれば、後ろを気にすることなく戦えるからな」

 

紫苑は現実を語る。

 

「…………それでも………それでも私は一夏の力にっ…………!」

 

だが、箒の想いもまた本物。

このまま話は平行線を辿るかに思われた。

しかし、

 

「これ以上言って聞かないのなら、力尽くでもお前を止めるぞ…………!」

 

紫苑から殺気に似た威圧が放たれる。

 

「うあっ……………!?」

 

剣術を嗜んでいるとはいえ、命の懸かった戦いも知らない普通の女子高生である箒には耐えられるものではない。

身を震わせ、腰が抜けたようにその場に跪いてしまう。

 

「………………脅すようなことをしてすまない……………けど、一夏達には俺と同じ思いを味わってほしくないんだ」

 

「ッ…………………!」

 

紫苑の言葉に箒はハッとなった。

今の一夏の状況は、かつて紫苑が妹を失った状況に似ている部分がある。

脅してまで箒を止めた理由もそれが原因であった。

 

「今は安全な場所に………それが一夏の為だ…………」

 

紫苑はそう言い残し、ピットへと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして、侵入してきた謎の無人ISと一夏達の戦いは佳境に入っていた。

鈴音の衝撃砲を利用した瞬時加速(イグニッション・ブースト)で一夏が『零落白夜』で無人ISの右腕を斬り落とした。

だが、反撃で繰り出された左腕に一夏は殴り飛ばされ、さらにそこからビームの標準を合わされた。

しかし、一夏はニヤリと笑い、

 

「……狙いは?」

 

『完璧ですわ!』

 

次の瞬間、無人ISが4本のレーザーによって撃ち抜かれた。

セシリアのブルー・ティアーズによる一斉射撃だ。

遮断シールドは、さっきの『零落白夜』の一撃で破壊した。

それによって、外部からの援護を可能にしたのだ。

無人ISは、セシリアの攻撃によって機能停止したのか、地上に落下する。

 

『ギリギリのタイミングでしたわ』

 

「セシリアならやれると思っていたさ」

 

『そ、そうですの………と、当然ですわね! 何せわたくしはセシリア……………』

 

「まだだっ!! まだ奴は生きているぞ!!」

 

プライベート・チャネルではなく、生身の声でその場に大声が響く。

 

『ッ!?』

 

その声で一夏の後ろで左腕のビームの砲口を一夏に向けようしている無人ISにセシリアが気付いた。

 

『やらせませんわっ!!』

 

セシリアがレーザーライフルで即座に無人ISの左腕を撃ち抜く。

更に、

 

「うぉおおおおおおおおっ!!」

 

一夏が振り向き様に無人ISに向かって突っ込み、最後の一突きを与えて今度こそ完全に機能停止させた。

 

「はぁ………はぁ………」

 

その事を確認して一夏は先程声がした方を振り向く。

 

「紫苑…………」

 

セシリアの横にいつの間にかいた紫苑を確認して、一夏が呟く。

 

「月影さん………どうしてここに?」

 

「お前たちは実力はあっても『実戦経験』は少ないんじゃないかと思ってな。案の定詰めが甘かったわけだ」

 

「うっ…………!」

 

紫苑の指摘にセシリアは言葉を詰まらせる。

実際に紫苑の指摘が無かったらどうなってたかは分からない。

しかし、ようやく終わったと一夏達が気を抜こうとした。

その瞬間だった。

 

「ッ!?」

 

紫苑の背筋に悪寒が走り、紫苑はバッと上を向いた。

紫苑の視線の先にあるのは太陽。

だが、その太陽の光に隠れるように黒い影が僅かだが見えた。

その瞬間、紫苑は叫んだ。

 

「一夏! 鈴! すぐにその場を離れろ!!」

 

突然のその言葉に、

 

「へっ…………?」

 

完全に呆ける一夏と、

 

「ッ!?」

 

代表候補生の訓練の賜物か、紫苑の言葉に只ならぬものモノを感じた鈴が即座に動いて一夏を抱えるとその場から飛び退く。

次の瞬間、ドゴォォォォンと先程まで一夏がいた場所に何かが着弾し、爆発を起こした。

 

「こ、今度は何だ!?」

 

それに気付いた一夏が声を上げる。

すると、

 

「あはははははははははははははっ!!」

 

耳障りな女の笑い声がその場に響いた。

それと同時に、着弾地点にISを纏った何者かが下りてきた。

 

「IS学園の監視なんてつまらない任務だと思ってたけど、何か面白そうな状況になってるじゃない!」

 

「誰よアンタ!? さっきの無人ISの仲間!?」

 

鈴が問いかける。

 

「はぁ? 知らないわよさっきのなんて。ただ、一気に3機も専用機が手に入るチャンスが巡ってきたのよ。命令違反だけど、それを手土産にすれば、幹部入りも夢じゃないわ!」

 

見下す態度で頭言ってのける女。

 

「ッ…………!」

 

鈴は言葉を詰まらせる。

鈴の冷静な部分は現状を分析していた。

一夏の白式のSEは残り僅か。

鈴の甲龍も、白式ほどではないにしろ心もとない。

2人で掛かったとしても、勝率は決して高くないだろう。

しかし、

 

「ッ!?」

 

その女の目の前にレーザーライフルが撃ち込まれた。

 

「アナタが何者かは知りませんが、このわたくしを忘れてもらっては困りますわ! イギリスの代表候補生セシリア・オルコット。あなたのような礼儀知らずに後れを取るほど弱くはありませんわ!」

 

ライフルをその女に向けながら言い放つセシリア。

 

「月影さん、ここは危険です。月影さんは早く避難を…………」

 

と言いかけた所で紫苑は無言で飛び出した。

 

「ちょ、月影さん!?」

 

慌てて呼び止めようとするが、

 

「お前は…………お前はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

鬼気迫る表情で紫苑は観客席を駆け下り、アリーナ内へと飛び込む。

アリーナ内の地面に着地すると、紫苑は一気に駆け出した。

 

「紫苑!?」

 

「ちょ、アンタ!? 何やってるのよ!?」

 

一夏と鈴が驚いて声を上げるが、紫苑はそれらを無視する。

いや、本当に耳に入っていないのかもしれない。

そう思わせるほど、紫苑の表情はすさまじいものだった。

 

「ああああああああああああああっ!!!」

 

紫苑は感情のままに叫び、左手を横に伸ばすと刀をコールする。

この世界でインベントリが使えることは知らなかったが、今の紫苑にはそんな後先を考えている余裕は無かった。

最早感情に流されるままの行動だった。

紫苑はそのまま刀を抜き放ち、その女へ斬りかかった。

 

「はぁあああああああああああああああっ!!!」

 

振り下ろす刀が、女のISのシールドバリアによって防がれる。

 

「な、何よアンタ…………!?」

 

攻撃こそ届かなかったが、女は紫苑の表情に気圧される。

 

「お前は………お前だけはぁっ………!!!」

 

紫苑はそう叫びながら刀を持つ手に力を籠める。

 

「なんなのか良く分からないけど…………!」

 

女はアサルトライフルを展開し、シオンに向ける。

 

「ッ!?」

 

紫苑は引き金が引かれる寸前に意識の隙間を突いて女の視界から消えた。

次の瞬間、女の後ろにシールドバリアが展開され、紫苑の剣を止めていた。

女が振り向こうとしたところで紫苑は飛び退いて、ISの近接武装が届かず、遠距離武装の際には一瞬で懐へ飛び込める位置を保つ。

すると、

 

「紫苑! 今行く!」

 

「ISも使わずに何無茶な事してんのよ!」

 

一夏と鈴音が紫苑の元に掛けつけようとしたが、

 

「余計な真似をするなっ!!」

 

有無を言わさぬ紫苑の声が響いた。

 

「「ッ!?」」

 

その言葉に2人は足を止めてしまう。

 

「こいつはっ…………この女だけは俺がっ……………!」

 

そして紫苑は驚愕の一言を言い放った。

 

「俺が『殺す』……………!」

 

「「「ッ……………!?」」」

 

憎悪を込めて紡ぎ出されたその言葉に、一夏、鈴音、セシリアが絶句する。

 

「殺すなんて物騒な事言うのね。男の分際でこの私に勝てるとでも…………?」

 

「………………………」

 

紫苑は黙って女を睨み続ける。

 

「……………もしかして月影さん………? この人が“そう”なんですの?」

 

一夏達の傍に降り立ったセシリアが紫苑に問いかけた。

その言葉に、一夏もハッとなる。

 

「え? え? どういう事よ?」

 

唯一紫苑の事情を知らない鈴音は意味が分からず声を漏らした。

 

「………………紫苑は3年前にテロ事件に巻き込まれて妹を失っているんだ…………」

 

一夏がそう言うと、鈴音は驚愕の表情を見せる。

 

「そして………いつも冷静な紫苑さんがここまで感情を露にして怒る相手ともなれば、おそらく……………」

 

「この女が、紫苑の妹の仇だっていうの…………!?」

 

その言葉に紫苑は何も答えなかったが、真っすぐに女を睨み付ける姿がその事を肯定しているかに思えた。

 

「……………3年前? そう言えば、どっかのイベント会場にISを奪うために襲撃を掛けに行ったっけね………………そういえばその時にも無謀にも鉄パイプ1本で私に歯向かってきた馬鹿なガキが………………」

 

と、そこまで言って女の見ている紫苑の姿と、かつて自分に歯向かってきた男子の姿が重なる。

 

「…………ぷっ! あはははははははははははははっ!!」

 

女がそのことに気付くと思わず吹き出し、笑い声を上げた。

 

「思い出したわ! あなた、あの時のガキね!! あなた生きてたの!? 傑作だわ!」

 

何が面白いのか笑い転げるような勢いの女。

 

「……………………」

 

紫苑は、心は激情に駆られながらも、頭は冷静に状況を判断していた。

 

「あなた、私に復讐するために今まで生きて来たとかいうクチ? 今時B級小説のネタにもならない理由ね」

 

「……………………自惚れるな、クズ」

 

調子に乗って笑い転げていた女を、紫苑の冷徹な言葉が切って捨てた。

 

「俺は別に復讐なんて考えてなかった。妹を殺したお前を許す訳はないが、それでも俺は復讐以上に大切なものを見つけたんだ。その大切な物の前には、お前の存在など塵芥に等しい…………そのために貴重な時間を無駄にするものか」

 

その言葉に、女のこめかみに青筋が浮かんだ。

しかし、紫苑は言葉を続ける。

 

「だが、こうして目の前に現れた以上、我慢する理由も無い。妹の無念はここで晴らす………!」

 

すると、その言葉を聞いた女が怒りを引っ込め、薄く笑った。

 

「『妹』の無念…………ねえ……………」

 

意味ありげな言葉を呟く女。

 

「これ以上の問答は無用だ」

 

紫苑がそう言うと、女の視界から消えた。

 

「ッ!? また!」

 

女が気付いた時には側面から斬りかかった紫苑の刀がシールドバリアによって止められている。

 

「相も変わらず手品みたいに消えるやつね!」

 

女がアサルトライフルを向けようとするが、紫苑は既にその場に居ない。

 

「ッ!?」

 

次は後頭部にシールドバリアが発生する。

 

「そう言うお前は相変わらず戦い方が素人だな」

 

余裕の表情で言ってのける紫苑。

 

「ふざけるな! 私はあれから訓練を繰り返してきたのよ! 3年前と同じはずがないわ!」

 

腕を振り回すが、紫苑は紙一重であっさりと避ける。

 

「…………まあ、確かに武器の扱いは多少うまくなってはいるが、それだけで勝てるほど『戦い』は甘くないんだよ」

 

そう言いながら再び刀の一撃を繰り出し、シールドバリアに阻まれる。

 

「お前は同等以上の相手との『戦闘』経験が全くないんだろう? やってることと言えば、『力』を持たぬもの相手にISを使って嬲るだけの『蹂躙』だ。違うか?」

 

「このガキッ!」

 

新たに展開され、怒り任せに振るわれた剣も紫苑は容易く受け流した。

 

「だからこうやってISも纏っていない相手にも簡単におちょくられるんだ」

 

脳天に向かって振り下ろされる刀。

それもシールドバリアに阻まれるが、女への精神的ダメージは一押しだろう。

その光景を、外から眺めていた一夏、セシリア、鈴音の3人は唖然としていた。

ISを纏ってない人間がISを纏っている人間に対し、優勢に戦っている。

操縦者の技量の問題もあるだろうが、その程度で埋まるほどISと生身の人間のさは小さくない。

それを易々とやってのける紫苑の技量が異常なのだ。

因みに、紫苑が優勢に戦える理由はもう一つある。

それは、紫苑の使っている武器だ。

紫苑の武器は、一見普通の刀だが、その中身は地球の文明よりも何歩も先へ進んだ技術を持つプラネテューヌで作られたものだ。

もし紫苑の刀が地球で作られた物だったら数回の斬り結びで刃毀れや罅などが入り、使い物にならなくなっていただろう。

一方、プラネテューヌの刀は性能的に言えばビームソードにも引けを取らない能力があるので、女神の使う武器には及ばないとはいえ、地球のISとならある程度は戦えるのだ。

 

「くそっ………!」

 

女は焦っていた。

シールドエネルギーを確認すると、少量とは言え確実に減らされている。

まだまだ余裕があるとはいえ、ISを纏ってこの様では女のプライドが許さないのだ。

 

「……………………」

 

戦いの間が空き、女は紫苑を見据える。

 

「……………ねえ、この状況3年前を思い出さない?」

 

いきなり女は紫苑に話しかけてきた。

 

「ああ、お前が今と同じように俺におちょくられ続けられてたよな?」

 

紫苑は挑発する様にそう言う。

女は一瞬怒りの表情を見せるがすぐに落ち着き、

 

「ああ、それでアナタが妹に気を取られた隙にアナタを殴り飛ばしてあげたのよ」

 

女は嘲笑うようにそう言う。

 

「……………今回は妹は現れないぜ」

 

紫苑は睨みながら言うと、刀を構える。

すると、女はニィィっと口元を吊り上げ、

 

「さあ、それはどうかな?」

 

そう言った。

その瞬間、

 

「ッ!?」

 

紫苑は悪寒を感じてその場を飛び退く。

次の瞬間、紫苑が立っていた場所に上空から銃弾の嵐が降り注いだ。

 

「くっ!」

 

紫苑はバンスを崩すが地面に手を突いてすぐに持ち直す。

そして前を見た。

 

「新手っ…………ッ!?」

 

その瞬間、紫苑は思わず固まってしまった。

上空から女の隣に降りてきたIS.

打鉄の改造機だと思われるそれを纏っていたのは黒髪を腰辺りまで伸ばした少女。

女子高校生と思われる年齢の彼女の顔にはバイザーが付けられ、目は確認できない。

しかし、更に目を引くのが右腕だった。

彼女の右腕は、二の腕の途中から無骨な機械の義手が取り付けられており、冷たい雰囲気を醸し出している。

その彼女を見た瞬間、紫苑の心臓はドクンと一際強く鳴り響いた。

 

「そ………そんな…………ま、まさか…………………」

 

紫苑の表情が驚愕に染まる。

驚愕の余り、うまく言葉にできない。

 

「………………………ひ……………翡翠……………?」

 

紫苑の記憶にある姿よりも成長していたが、そこに居たのは紛れもない自分の妹、翡翠だったからだ。

 

「ど、どういう事だ!? 翡翠はあの時にっ!」

 

紫苑は思わず女に問いかけた。

女は紫苑の慌てぶりを見ると満足そうな笑みを浮かべ、

 

「ククク、いいわ。教えてあげる。あの時あなたを気絶させた後、割り込んできたこの子も殺そうと思ったんだけど、偶々この子が持っていたISの適性用紙が目についてね…………」

 

そこで紫苑はハッとした。

確か、翡翠のIS適性はSランクだった。

 

「丁度あの時組織も結成して間もない頃だったから丁度いい人手が欲しかったのよ。だからこの子は連れて帰ったの。手駒として扱うためにね」

 

その言葉を聞いて、紫苑はギリッと奥歯を噛み締める。

 

「だけどその子、適性はピカ一だったんだけど、正確に問題があってね。全然人を傷付けようとしないのよ。そのままじゃ使い物に成らなかったから仕方なく洗脳して手駒として扱っているの。洗脳してる分若干戦闘力は墜ちるけど、それでも十分な『武器』として役立ってくれているわ」

 

「貴様っ!!」

 

妹を道具としてしか見ていない女の発言に、紫苑はとうとう我慢できなくなった。

一直線に女へ向かう。

 

「私を護りなさい!」

 

だが、女がそう命令すると、翡翠が紫苑の前に立ちふさがる。

 

「ッ! 翡翠っ!」

 

翡翠は容赦なく紫苑へライフルを向け、発砲する。

 

「くっ!」

 

動揺していた紫苑は反応が僅かに遅れ、左腕に掠めた。

IS専用のライフルは相当な威力を持つため、掠っただけでも紫苑は相当の深手を負った。

 

「ぐ…………」

 

紫苑の左腕から血が流れ、力が入らないのかダランと垂れている。

 

「紫苑!」

 

一夏達が我慢できずに駆け寄ろうとした。

だが、

 

「あら? 面白くなってきた所じゃない、邪魔しちゃダメよ」

 

女が命じると、翡翠が腕だけを一夏達に向け、発砲した。

3発放たれた弾丸は、一夏、セシリア、鈴音に寸分違わず着弾する。

 

「ぐっ!?」

 

「きゃぁっ!?」

 

「くっ!」

 

3人は怯み、更に既にSEが残りわずかだった一夏の白式が強制解除されてしまう。

セシリアと鈴音は、一夏をかばう様な位置取りに着いた。

 

「翡翠! 目を覚ませ!」

 

紫苑は翡翠に呼びかける。

だが、翡翠は再び紫苑にライフルを向けた。

 

「翡翠っ!」

 

紫苑の呼びかけも虚しく翡翠は引き金を引く。

 

「があっ!?」

 

銃弾は右足の太腿を掠った。

右足から力が抜け、紫苑は左足だけで身体を支える。

 

「ひ、翡翠…………」

 

紫苑はもう一度翡翠に呼びかける。

そんな紫苑に対し、翡翠は義手である右腕を振りかぶると、容赦なく紫苑の胴体にボディーブローを叩き込んだ。

 

「がはっ!?」

 

「「「紫苑(月影さん)ッ!!!」」」

 

吹き飛ばされる紫苑に3人は声を上げる。

地面を数回バウンドし、転がった紫苑は仰向けに倒れた。

紫苑は口元から血を流し、あまりのダメージに身動ぎするだけで精いっぱいだ。

 

「ははっ、良かったわねガキ。最後は妹の手で逝かせてあげるわ!」

 

女が何か命じると、翡翠はその手にブレードを呼び出した。

そして、ゆっくりと紫苑に近付いていく。

 

「紫苑!」

 

一夏が叫ぶ。

セシリアと鈴音も下手に動けば一夏を危険に晒すため、動けないでいる。

翡翠が紫苑の前に立つと、紫苑にブレードを突きつけた。

 

「さあ、殺せ!」

 

女が命令すると、翡翠は一旦ブレードを引き…………

一気に突き出した。

紫苑の胸に向かって繰り出される凶刃。

 

それを虚ろな目で見つめていた紫苑の口から、

 

「……………翡翠…………」

 

翡翠の名が零れた。

一瞬の静寂。

 

「………………………」

 

紫苑は、何時まで経っても襲ってこない凶刃に紫苑が翡翠を見ると、

 

「あ…………うあっ……………お…………お………」

 

ブレードの切っ先は紫苑の胸の前で寸止めされており、その切っ先はプルプルと震えている。

 

「………翡翠………?」

 

紫苑はもう一度翡翠の名を呟く。

すると、

 

「お………お…………お兄ちゃん…………」

 

その言葉が漏れた瞬間、紫苑は思わず目を見開いた。

 

「翡翠ッ……! ぐっ!」

 

紫苑は起き上がって翡翠に手を伸ばそうとしたが、ダメージにより起き上がることが出来ない。

 

「ちっ! まだ洗脳が完璧じゃなかったの!?」

 

女は余裕の表情を一変させると、すぐに翡翠の元へ飛んでいく。

そして後ろから翡翠を抱えると、

 

「この子にはまだ利用価値があるわ。運が良かったわね」

 

紫苑にそう言い残すと、女は翡翠を抱えて飛んでいった。

 

「ひ………翡翠……………」

 

遠ざかる影に向かって紫苑は手を伸ばすが、意識が薄れていき、紫苑は気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を少し遡る。

 

―――ゲイムギョウ界

 

 

 

「はぁあああああああああああああっ!!」

 

パープルハートがモンスターを切り裂く。

 

「ギャアァッ!?」

 

切り裂かれたモンスターは粒子となって消滅した。

パープルハートはそれを確認すると、

 

「次、行くわよ!」

 

ネプギアに呼びかけた。

 

「お姉ちゃん、そろそろ休まないとお姉ちゃんが………」

 

ネプギアはそう言うが、

 

「平気よ」

 

パープルハートはそれだけ言って背を向ける。

その時、ネプギアがパープルハートの腕から血が流れていることに気付く。

 

「お姉ちゃん! 腕が!」

 

ネプギアにそう言われ、パープルハートが腕を見ると、

 

「さっきの戦いの時かしら? この程度なら問題ないわ」

 

そう言って気にすることなく次の場所へ向おうとする。

 

「駄目だよ! ちゃんと治療しないと!」

 

「平気よ、全然痛くないもの」

 

パープルハートはそう言うと、すぐに次の場所へ向って飛んで行ってしまう。

 

「そう…………こんなの、痛みの内に入らない…………」

 

「お姉ちゃん…………」

 

パープルハートの不安定さを気に掛けるネプギアは不安そうな表情を浮かべると、すぐに後を追った。

 

 

 

 

 

クエストを大量にこなした後、2人が教会へ戻ってきたのは夜になってからだった。

ネプテューヌは教会に着くなり晩御飯も食べずに部屋に閉じこもってしまう。

そんなネプテューヌの事を気に掛け、ネプギア、イストワール、アイエフ、コンパの4人は今後の事について相談していた。

 

「ネプギアさん、ネプテューヌさんの様子はどうですか?」

 

イストワールの言葉にネプギアは首を振る。

 

「駄目です、全然無茶を止めようとしません」

 

「イストワール様、シェアの状況は………?」

 

「あれだけクエストを熟しているにも関わらず、減少の一途を辿っています。理由として、『最近の女神様は女神様らしくない』、『最近の女神様は怖い』などが挙げられます」

 

「前にピーシェちゃんがいなくなった時にも似たようなことがあったですけど………」

 

「今回は、その時にも増して酷いわね。これ以上はネプ子の精神が潰れかねないわ」

 

「いーすんさん、何かいい方法はありませんか…………?」

 

ネプギアがイストワールに尋ねると、イストワールはしばらく目を瞑って何かを思案した後目を開ける。

 

「……………………仕方ありません。ネプテューヌさんをシオンさんの所へ送り出しましょう」

 

その言葉に3人が驚愕する。

 

「お兄ちゃんの居場所が分かったんですか!?」

 

ネプギアが声を上げる。

因みに『お兄ちゃん』とは言わずもがな紫苑の事である。

 

「いいえ、そうではありません。ですが、ネプテューヌさんをシオンさんの元へ送るだけならさほど難しい事では無いのです」

 

「それはどういう………?」

 

「知っての通り、ネプテューヌさんとシオンさんは魂のリンクで繋がっています。現在もごく僅かですがリンクは繋がっていて、その繋がりは切れていません。余りにもその繋がりが薄いために、こちらからでは紫苑さんの居場所は掴めませんが、その繋がりを辿る事なら可能です」

 

「でもそれって…………」

 

「はい、ネプテューヌさんをシオンさんの元へ送りだせば、リンクという唯一の手掛かりを失う事になります。ですが、ネプテューヌさんの反応を追跡することで、シオンさんの居場所が詳しく分かる可能性もあります」

 

「イストワール様の見立てでは、ネプ子の追跡の成功確率はどのぐらいですか?」

 

「何分初めての事ですので詳しくは…………よくて五分五分と言った所でしょうか?」

 

「五分五分……………ですか………」

 

「はい。そして、同時に連れていけるのは、ネプテューヌさんを除いて2人………と言った所ですね」

 

「そうなると一緒に行くのはネプギアと私かコンパのどちらかですね」

 

アイエフがそう言う。

 

「ですぅ~」

 

コンパも頷いた。

 

「…………………待ってください」

 

その時、ネプギアが口を開く。

 

「残るのは私です。お姉ちゃんが居ない間、この国を護らないと………」

 

「ギアちゃん…………」

 

ネプギアも紫苑に会いたいのは同じはずだが、その想いを我慢してそう言う。

 

「それに何処に行くかもわからないんですから、お2人の力はきっとお姉ちゃんやお兄ちゃんに必要だと思うんです」

 

「ネプギア…………」

 

アイエフはネプギアの思いを受け取る。

 

「分かったわ、ネプ子の事は私達に任せて」

 

「お願いします」

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日。

 

「いーすん、話って何~? 私クエスト行かなきゃいけないんだけど~」

 

ネプテューヌはいつもと変わらぬ調子でそう言っているが、それがやせ我慢だとこの場にいる全員が気付いている。

すると、イストワールが神妙な顔をして口を開いた。

 

「単刀直入に聞きます。ネプテューヌさん、シオンさんに会いたいですか?」

 

「ッ!?」

 

予想外の言葉だったのか、取り繕っていた表情が見る見る崩れていく。

瞳に涙が溜まり、身体を震わせる。

 

「シオン…………シオン……………!」

 

涙を潤ませながら紫苑の名を呟くネプテューヌ。

 

「ネプテューヌさんが望むなら、シオンさんの所へ送ることが可能です」

 

「えっ?」

 

イストワールは先日話したことをネプテューヌへ伝える。

 

 

 

 

「……………以上です」

 

「シオンに………会える…………」

 

イストワールの説明を聞き、実感が湧いていないのかネプテューヌは呟く。

 

「何を迷ってんのよ、ネプ子」

 

「この国の事なら、私が護るから!」

 

「ねぷねぷ、一緒に行くです!」

 

3人に背中を押されるネプテューヌ。

 

「あいちゃん………ネプギア…………こんぱ……………」

 

3人の思いに涙を潤ませるネプテューヌ。

そして一度目を瞑り、

 

「…………………………決めたよ」

 

そう言って目を開けた。

 

「私は……………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 選択肢

 

>【紫苑の所へ行く】

 【紫苑の所へ行かない】

 

 

 

 

 

 






はいテンプレだらけの14話です。
テンプレ中のテンプレ。
死んだと思っていた家族が生きていて敵として現れるパターン。
王道と言えば聞こえはいいですが、やっぱりテンプレですな。
因みに最初の翡翠の名前は『紅』にしようと思っていたのですが、とあるネタが舞い降りてきたので『翡翠』に変えました。
予想できる人も居るかもしれませんが、とりあえずお楽しみに。


あと、最後の選択肢は別にリクエストという訳では無く、両方のルートをやるつもりですので悪しからず。(最初にやるルートは福音戦まで)
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