超次元インフィニット ネプテューヌ・ストラトス 作:友(ユウ)
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>【紫苑の所へ行く】
第15話 落ちてきた
クラス対抗戦から3日後。
「うぐっ……………」
紫苑はベッドで目を覚ました。
「こ、ここは……………?」
紫苑は首だけで周りを確認する。
「………医療室か…………」
IS学園の一区画にある、最先端の病院と同等の設備が整えられている場所だ。
「お、俺は……………ッ!」
意識が覚醒したばかりで記憶が混乱していたが、徐々に気絶する前の事を思い出していき、
「翡翠ッ…………! ぐっ!?」
勢い良く身体を起こすと同時に痛みが走り、紫苑は腹を押さえるように蹲るが、
「ぐぅぅっ………! ひ、翡翠…………!」
痛みを堪えて紫苑は立ち上がり、壁に手を着きながら歩き出す。
「はぁ………はぁ………ぐっ!」
息を切らせながら時折激しく襲ってくる痛みを堪え、紫苑は廊下に出ると校舎の出口に向かって歩き始める。
すると、
「おい、紫苑!? 何やってるんだよ!?」
紫苑の様子を見に来たのか、一夏、箒、セシリア、鈴音の4人と出くわし、4人は慌てて紫苑に駆け寄るとその身体を支える。
ただ、何故か一夏の顔には所々に絆創膏が貼られていた。
「何やってるんですか!?」
「なんて無茶な事を!」
「アンタ自分の状況分かってんの!?」
箒、セシリア、鈴音がそれぞれ声を掛ける。
「ぐ………離せ………! あいつを………翡翠を助けないと………!」
支えてくれる手を振り解こうとしながら紫苑は更に前へ歩き出そうとする。
「紫苑! 気持ちは分かるが今は………!」
一夏がそう言いかけた所で、
「ちょっと!? 何やってるのよ!?」
新たに若い女性の声が響く。
その女性は紫苑の元に駆け寄ってくると、
「シオン! アンタ何無茶しようとしてるの!? 軽く死にかけてたのよ!? 分かってる!?」
その女性は叱るように言い聞かせるが、
「俺の事はどうだっていい!! あいつを………翡翠を助けないと……………!」
妹が生きていたという事実に冷静さを失っている紫苑は、話を聞こうともせずに前に進もうとする。
だが、
「ッ…………!」
次の瞬間、パァァァァァァァァンと乾いた音が鳴り響いた。
その女性が右の平手で紫苑の頬を叩いたのだ
「「「「!?」」」」
思わず驚愕した一夏達。
「………………………!?」
紫苑は叩かれた瞬間何が起こったのか理解していないようだったが、
「……………アンタが死んだら、ネプ子も死ぬのよ…………!」
「ッ……………!」
右手を振り抜いた体勢のまま言った女性の言葉に、ハッとする様に目を見開く紫苑。
「紫苑!?」
身体から力が抜け、崩れ落ちそうになる紫苑を一夏が支える。
そんな紫苑を見て、
「落ち着いた?」
その女性が語り掛ける。
「ああ……………すまない…………………アイエフ………」
紫苑は目の前の女性に謝罪する。
「いいわよ。それよりもアンタがそれだけ取り乱すなんて一体何があったのよ?」
「ああ、それは…………………………………ん?」
その質問に答えようとした時、紫苑は先程自分の口から出た言葉の違和感に気付いた。
もう一度目の前の女性をよく見る。
「………………………どうかした?」
見つめられていた女性はじっと見つめられていたことを不思議に想い、怪訝な表情で尋ねると、
「………………………………………………………………………アイエフ?」
長い沈黙の後、紫苑の口から目の前の女性の名前が零れた。
「なによ?」
そのシオンのよく知る人物でありながらこの世界にいるはずの無い目の前の女性……………アイエフは、訝しむように聞き返す。
「………………………………………………………お前、何でここにいるんだ?」
居るはずの無い人物が居るという違和感にようやく気付いた紫苑は少し呆けながら訊ねた。
「呆れた。今気付いたの?」
アイエフは言葉通り呆れた表情でそう言う。
「ま、それだけ取り乱してたって事なんでしょうけど…………」
アイエフはそう言うと紫苑に背を向け、
「ついて来なさい」
そう言うと歩き出す。
「……………………」
紫苑は一夏達に支えられながらその後を追った。
案内されたのは、応接室のような部屋だった。
長方形のテーブルを中心に、ソファーが向かい合うように配置されており、部屋の出入り口の正面側のソファーに千冬が、相対する側にもう一人座っていた。
すると、千冬が入室してきた紫苑達に気付き、
「む、目が覚めたのか、月影」
どことなくホッとした声色で千冬がそう言うと、千冬の正面に座っていた人物が振り向き、
「あっ、シオ君! 目が覚めたですね~。良かったですぅ~!」
間延びした声でそう言ったのはアイエフと同じく紫苑もよく知る人物の一人でありながら、この世界には居ない筈の人物。
「コ、コンパまで…………!」
紫苑は目を見開きながら驚きを露にする。
「やはり知り合いか…………」
紫苑達の様子を見て、千冬は息を吐きながらそう呟く。
「……………どうして2人がここに………?」
「あ~…………それはね…………」
紫苑の言葉にアイエフが口を開こうとした所で、廊下からパタパタとせわしない足音が響いてきた。
「あいちゃん! こんぱ! 大変だよ! シオンが居なくなっちゃった!」
そう叫びながら部屋に駆け込んできたのは、薄紫の髪を持った少女。
「「あ………………」」
紫苑はその少女を見た瞬間に固まり、その少女もまた紫苑の姿を見た瞬間に固まっていた。
「…………………ネプテューヌ」
「…………………シオン」
紫苑とその少女………ネプテューヌは互いの名を呟く。
紫苑は支えてくれる一夏の腕から身体を放すと、少し覚束無い足取りでネプテューヌへ一歩踏み出す。
ネプテューヌもまた呆けた表情のまま紫苑へ一歩踏み出した。
そして、
「………ネプテューヌ!」
「………シオン!」
互いにハッキリと名を呼び合い、紫苑は前に崩れ落ちそうな足取りで。
ネプテューヌは紫苑に向かって一直線に駆けだす。
足がついてこずに倒れそうになる紫苑をネプテューヌが正面から抱き留める。
「シオン!」
「ネプテューヌ!」
それでも互いをしっかりと抱きしめ合い、その存在を確かめ合う2人。
「シオン! 会いたかった!」
涙を浮かべながらそう言うネプテューヌ。
「ああ………! 俺もだ………!」
ネプテューヌほどあからさまでは無いとはいえ、涙を浮かべつつ喜びの表情を露にする紫苑。
感動的な再会のシーンではあるものの……………
「あ~~…………ゴホンッ!」
それを間近で見せつけられる方にとっては堪ったものではない。
千冬の咳払いで今の状況を思い出し我に返る2人。
「感動的な再会を邪魔して悪いのだが、せめて時と場所を考えてくれると助かる」
千冬はそう言いながら表情を取り繕って、視線を泳がせる。
見れば、一夏達はポカーンとした表情で呆気に取られており、
「まあ、気持ちは分かるけどね…………」
アイエフは苦笑し、
「ねぷねぷ、シオ君に会えて元気出たです!」
コンパはネプテューヌの元気が出たことを喜んでいた。
「……………………………」
紫苑は恥ずかしかったのか少し顔を赤らめ、
「む~! もう少し感動の再会に浸らせてくれてもいいじゃん! 久しぶりに会ったんだよ!」
ネプテューヌは剥れながらそう言う。
因みに久し振りとは言うが、会っていない期間は約1ヶ月である。
そこで紫苑はハッとなり、
「そう言えば、聞きそびれたんだが何でネプテューヌ達がこっちの世界にいるんだ?」
先程気になっていた質問を投げかける。
「あ~、それはね……………」
―――3日前 ゲイムギョウ界
「私は……………シオンに会いたい」
ネプテューヌはハッキリとそう言った。
その言葉にネプギア達は微笑む。
「決まりね」
「ですぅ~」
「分かりました」
アイエフ、コンパ、イストワールが頷いた。
彼女達がやってきたのは、紫苑が行方不明ななったと思われる遺跡。
「いーすん…………この場所って…………」
その事に気付いたのかネプテューヌが声を漏らす。
「はい。シオンさんが行方不明になった場所……………そして、紫苑さんを始めて見つけた場所でもあります」
イストワールが続ける。
「調査の結果、この遺跡はどうやら巨大な転送装置のようなのです」
「転送装置?」
ネプギアが聞き返した。
「はい、私の予想ではこの転送装置が誤作動を起こした所為で、シオンさんは別の場所に転送されたのではないかと思われます。そして、シオンさんが初めてこの世界に来た時も…………」
「なるほど…………」
アイエフが相槌を打つ。
「ではネプテューヌさん達は、そこの祭壇のような場所に立ってください」
イストワールが指示すると、ネプテューヌ、アイエフ、コンパの3人がその場所に立つ。
イストワールとネプギアは、少し離れた所にある制御盤と思わしき機材で何やら操作すると、ネプテューヌ達が立つ祭壇の床が光り始める。
「これより転送を開始します。ネプテューヌさん、アイエフさん、コンパさん、お気を付けて」
「お姉ちゃんが居ない間、プラネテューヌは私が頑張って支えるから、安心して行ってきて。お兄ちゃんによろしく」
2人の言葉にネプテューヌさんは瞳を潤ませる。
「いーすん…………ネプギア…………」
すると、ネプテューヌは涙を拭って顔を上げると、
「行って来るね! 2人とも!」
紫苑が居なくなっとき以来に見る、久しぶりの笑顔だった。
それと同時に転送が開始され、3人の姿がその場から消える。
2人はその光景を笑顔で見送った。
学園に現れた謎の女と、紫苑の妹の翡翠が去ってからすぐ後。
「い、一体どうしたというんですの?」
飛び去る2人を見つめながらセシリアが呟く。
「確かに気になるけど今は紫苑よ! さっきISのパワーで思いっきり殴られてたのよ! 無事じゃすまないわ!」
「そうだ! 紫苑!!」
鈴音の言葉で一夏がハッと我に返り、一夏に駆け寄ろうと足を踏み出す。
その時、
「……………ねぷぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ………………!」
「あら?」
セシリアが何かに気付いた。
「セシリア? どうしたんだ?」
立ち止まったセシリアに一夏が問いかける。
「いえ、今何か声が聞こえたような………」
「えっ?」
セシリアの言葉に鈴が声を漏らす。
「……………あぶなーーーーい! どいてどいてーーーーーーー!」
「…………確かに聞こえるわね………って言うかどんどん声が近付いてるんじゃ………」
そこでその声が上から聞こえてくることに気付き、3人が上を向くと、
「どいてーーーー! どいてどいてーー!! ぶつかるぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」
すると、視線の先には一直線に落下してくる3つの人影。
「「「へっ?」」」
ISを纏っているセシリアと鈴音は代表候補生と言う事もあり、反射的に2つの人影を受け止めたのだが、
「のわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」
一夏は成す術無く、ドゴーーーンと言う音と共に1人の人影が直撃した。
「きゃぁあああああっ!? 一夏さぁぁぁぁん!?」
「一夏ぁぁぁぁぁぁっ!? ちょ、今直撃………!?」
その状況に慌てる2人。
すると、
「いやあ………助かったぁ………てへへ………」
能天気な少女の声がその場に響いた。
因みに一夏はその少女の下でうつ伏せに敷かれている。
「いっ、一夏さぁぁぁん! 大丈夫ですの!?」
セシリアがそう言うが、
「………………おかしい」
鈴音が凄まじく真剣な顔で声を漏らした。
「何がですの………?」
鈴音の表情にただ事では無いと感じたセシリアが気を引き締める。
そして、
「……………………こんな状態なのに一夏のラッキースケベが発動しないなんておかしいわ!」
「はいっ!?」
鈴音の言葉にセシリアは思わず素っ頓狂な声を漏らす。
「いつもの一夏だったら、今みたいな事があれば女の胸に手を触れるなんて当たり前! 百歩譲って下敷きになるとしても、スカートの中に顔を突っ込むとかそういう状況になるのが普通なの! それがただの下敷きにされるだけなんてありえないわ!!」
「あの………鈴さん? その可能性の方があり得ないと思うのですが………?」
「アンタは昔の一夏を知らないからそういう事が言えるのよ! ホントワザとやってるんじゃないかってぐらいには当たり前にあったわよ!」
「え~っと………ほら、私って主人公だから!」
2人のやり取りにそう突っ込む薄紫の髪の少女。
「主人公ってなんですの!?」
色々と混乱の極みにいるセシリアが爆発しそうになる。
因みにその間、一夏はずっと少女の下敷きのままである。
すると、
「ッ………! シオン!?」
その少女が何かを感じ取った様に振り返る。
その視線の先には血を流して倒れている紫苑の姿。
「シオンッ!!??」
その少女は血相を変えて紫苑に駆け寄った。
「シオン! しっかりして! シオンッ!!」
その少女は紫苑に何度も呼びかける。
「こんぱ! お願い! シオンが!」
「はいですぅ!」
その少女に呼びかけられた、セシリアが受け止めた女性がその腕から飛び降り、紫苑の元へ駆け寄ってくる。
その女性は何処からともなく医療セットを取り出すと、紫苑の治療を始めたのだった。
「……………って感じで、なんやかんやあって今に至る………ってこと」
「なるほど……………」
紫苑は一夏の方を振り向いた。
一夏の顔にある絆創膏はネプテューヌが墜落した際にできた傷の様だ。
尚、一夏が軽傷で済んだ理由として、3人が転送された先がそこまで高くなかった事と、一夏が着ていたISスーツによるところが大きい。
ISスーツは薄着の様だが拳銃の銃弾を防ぐ位の防御力はあるのだ。
尚、ネプテューヌに関しては女神と言う事もあり元々頑丈なので無傷である。
「一夏」
紫苑が一夏に呼びかける。
「ん?」
「命拾いしたな。もしネプテューヌに不埒な真似してたら俺が殺してた所だ」
「……って、言うに事欠いてそれかよ!? せめて俺の身体の心配をしろよ!」
一夏の答えに紫苑は軽く笑う。
「心配するな。本気だ」
「なお悪いわ!」
2人のやり取りにその場の空気が軽くなったように思えたが…………
「……………………」
紫苑は何か思いつめたような表情で俯いてしまう。
「シオン………?」
ネプテューヌは紫苑の顔を覗き込む様に首を傾げる。
「月影…………あの時に何があったのかは大まかに織斑達から聞いたが、あの時現れたのは本当にお前の…………」
千冬がそう言いかけた時、ピピピッと着信音のような音が鳴る。
「むっ?」
千冬が言葉を中断し、辺りを伺うと、
「私のだわ」
アイエフがポケットからスマホのような物を取り出し、通話ボタンを押すと、そのスマホからイストワールの立体映像が浮かび上がった。
「り、立体映像!?」
真耶(実は初めからいた)が驚いたように声を上げる。
「イストワール様」
アイエフが応えると、立体映像のイストワールは辺りを見回し、紫苑で視線が止まる。
「イストワール………」
『シオンさん、ご無事で何よりです。そしてネプテューヌさん、アイエフさん、コンパさん。無事シオンさんと合流できたようですね? それから初めてお目にかかる皆さん、初めまして。私はプラネテューヌの『教祖』イストワールと申します』
「ああ、久しぶりだなイストワール」
紫苑が答える。
『こちらとしてもネプテューヌさんの追跡には成功していたのですが、思った以上にそちらの次元が遠くて通信を繋げるのに3日掛かってしまいました』
「そうか…………」
『ですが、そちらの次元の位置は既に把握出来ましたのでもう大丈夫です。これより、次元ゲートを開く準備に取り掛かります』
「…………………イストワール、ゲートはすぐに開くものなのか? それと、こちらの世界との行き来は可能なのか?」
『えっ………? 色々と準備があるのでゲートを開くのには恐らく3週間ほどかかると思われます。行き来については一度ゲートを開くのにかなりのシェアを消費しますので、行き来は出来ないことは無いですが、そう軽々しくは…………』
「そうか……………」
その言葉を聞くと紫苑は俯く。
『シオンさん………? 何か気になることでも…………?』
イストワールが尋ねると、紫苑は覚悟を決めたように顔を上げ、
「イストワール、すまないがゲートを開くのは少し待ってくれないか?」
「「「シオン(シオ君)?」」」
ネプテューヌ、アイエフ、コンパが驚いたように声を漏らす。
『何か理由があるのですか?』
「ああ……………………翡翠が………妹が生きていた………」
『「「「ッ!?」」」』
4人は再び驚いた表情を見せる。
「妹は今、テロ組織の下で洗脳されて戦わされてる…………俺は妹を助けたい…………! 頼む………!」
紫苑はイストワールに頭を下げる。
『頭を上げてくださいシオンさん…………それほどの理由ならばこちらとしても断る理由はありません…………では、ゲートを開く準備に取り掛かるのは、シオンさんが妹さんを助け出すことが出来てから………と言う事で』
「…………ありがとう」
『いえ…………これからも定期的に通信を行います。気になることがあればいつでも聞いてください。それではシオンさん、ネプテューヌさん、アイエフさん、コンパさんお気をつけて』
そう言い残して通信が切れる。
すると、
「…………シオン、今の話、本当なの?」
ネプテューヌが心配そうな表情で尋ねてくる。
「……………ああ」
紫苑は頷く。
そしてそのまま俯いていると、
「紫苑………その………なんていうかさ…………」
「その………き、気を落とさないでください………!」
「妹さんの事は………」
「えっと………その………」
一夏達4人が紫苑を励まそうとしているが、うまく言葉が出てこない。
気持ちは嬉しいが、逆にその事で妹の事を思い出し、紫苑の気持ちがどんどんとネガティブに傾いていこうとしていた。
だが、
「シオン!」
明るい声でネプテューヌが紫苑の名を呼ぶ。
その声に紫苑がネプテューヌの方を向くと、
「………………良かったね!」
満面の笑顔でネプテューヌがそう言った。
「ちょ、何言ってるんだよ!?」
「なんてこと言うんですの!? 月影さんは妹さんを………!」
「少しは空気読みなさいよ!?」
ネプテューヌの言葉に一夏達が声を上げようとした時、
「……………………そうだな………! 良かった………!」
「「「「えっ?」」」」
紫苑から漏れた言葉に、一夏達は驚愕して紫苑を見た。
「妹が……………翡翠が生きていたんだ…………今はそれだけでとても嬉しい………!」
顔を上げた紫苑は瞳に涙を溜めながらそう言った。
その涙は歓喜の涙だ。
「そう! そして、生きてさえいるのならっ…………!」
「…………助け出すチャンスは必ず来る!」
ネプテューヌの言葉に繋げるように紫苑が力強く言い放つ。
紫苑は既に完全に立ち直っていた。
紫苑はネプテューヌ、アイエフ、コンパを見ると、
「だから皆、翡翠を助けるのに協力してくれ!」
「はいです!」
「当然よ!」
「もちろん! それに紫苑の妹って事は私の『義妹』でもあるって事だからね!」
ネプテューヌは腰に手を当てながら胸を張って答える。
それを見ていた一夏達は、
「な、何なんですのかあの方は…………あれほどまでに沈んでいた月影さんをあっという間に立ち直らせましたわ!」
ネプテューヌに驚愕の視線を送るセシリア。
「もしかして、彼女が前に紫苑が言ってた………?」
紫苑とネプテューヌの間にあるただならぬ関係の雰囲気を読み取り、そう漏らす鈴音。
「あれ程までに絆が強いとは…………」
2人の絆の強さに憧れにも似た感情を覚える箒。
「俺も協力するぜ! 紫苑!」
そして2人の間柄を全く理解してない一夏。
すると、
「あ~………ここで聞くのも野暮だと自覚しているのだが…………月影、そろそろ彼女達が何者かを話してほしいのだが…………いや、彼女達からも話を聞いているのだが、ゲーム業界だの何だの訳の分からないことばかり言っているからな………」
千冬がそう言う。
紫苑は少し困った表情を浮かべると、
「………と言われましても、おそらくネプテューヌ達が言ったことと同じことしか言えませんよ。と言うより、別次元の存在を認めてくれない限りは話が前に進みません」
「別次元………と、言われてもな…………俄かには信じられん………」
「そう言われるとどうしようもないんですが…………あ、そう言えば、先ほどの通信で立体映像が使われてましたけど、今の地球で、片手サイズの機器で手軽に使える技術がありますか?」
「む…………確かに………だが、絶対に無い……とは言い切れん」
千冬は僅かに渋ったようだが、まだ認めてはいないようだ。
「……………あ、じゃあこれならどうです?」
紫苑が前に手を翳すと、その手に刀をコールする。
「ッ!?」
千冬は僅かに驚いたようだが、何とか耐えた。
「これはインベントリって奴です。ゲイムギョウ界じゃ有り触れたものですけど、地球にはこんなものありませんし、量子変換とは明らかに違うでしょう? まあ、俺もこっちの世界で使えるとは思って無かったので、あの時まで試そうとも思って無かったんですけど………」
「むう………………まあいい。とりあえずは、本当の事だと仮定して話を進めよう」
千冬はどうやら半信半疑の様だ。
「今はそれでいいです。で、ネプテューヌ、アイエフ、コンパはその世界、ゲイムギョウ界の出身です」
「…………なるほど、それで先程の通信相手は………? 確か『教祖』とか言っていたが…………」
「えーっと………ゲイムギョウ界には4つの国があるんですがそれらの国は、こちらの世界でいう宗教国家みたいなものなんです。それぞれの国が信仰する4人の『女神』を頂点に、『女神』を補佐する『教祖』という役職に就いている人物が居ます」
「『女神』…………? いや、今は良いだろう。では、先ほどの者は…………」
「イストワールは俺達が所属する国、『プラネテューヌ』の『教祖』になります」
「ほう…………つまりは実質のNo.1と言う事か?」
「いえ、先ほども言いましたがあくまでも国の頂点は『女神』ですから、No.2が正確ですね。プラネテューヌに限って言えば、No.3かもしれませんが……………女神候補生も居ますから実際の所その辺は曖昧です」
「理解できんこともあったが、その別世界からこちらの世界へ来た理由は?」
「それは俺を連れ戻すためです」
「何?」
「前にも言ったと思いますが、俺は元々こちらの世界の生まれです。ですが、3年前のテロ事件のあの日、俺は何の因果かゲイムギョウ界へ転移しました。そして、あちらの世界のプラネテューヌで暮らす内に、俺はプラネテューヌが故郷だと思えるようになったんです。ですが、1ヶ月前のあの日、どういう訳か依頼で訪れた遺跡の事故で、再びこちらの世界に転移してしまったんです。その俺を連れ戻すために、イストワールがネプテューヌ達をこっちに送ったんですよ」
「つまり、本来なら月影が見つかった時点ですぐに戻るつもりだったと?」
「準備が必要みたいなので、今すぐとはいかなかったみたいですけどね。一応、妹を助け出すまではこちらに滞在することは許してもらえましたが…………」
「ふむ……………」
千冬は腕を組んで何やら考える仕草をすると、
「月影、つかぬ事を聞くが、お前はそのプラネなんとかと言う国では重要なポストに就いているのか?」
「はい?」
「いや、只の一国民の為に、国のNo.2ともいえる『教祖』という役職が動くのも考えにくいと思ってな…………」
「あ~~、その~~~、重要な役職と言うか何と言うか…………」
事実をこの世界で言っていいのか少し悩んでいると、
「重要も重要! なんて言ったって、シオンはこのプラネテューヌの『女神』である私の旦那様なんだからね!!」
ビシッと三本指のピースサインを決めながらそう言い放つネプテューヌ。
「「「「「「……………………………」」」」」」
その発言に、地球側のメンバーが固まる。
紫苑は明後日の方向を向いて溜息を吐いた。
「ネプテューヌさんが『女神』………?」
「…………………っていうか、旦那様……………?」
セシリアと鈴音が呆然と声を漏らす。
「「「どういうこと(だ)(ですか)!!??」」」
箒、セシリア、鈴音が同時に叫んだ。
因みに一夏はどういう意味だったのか全く理解していない。
「…………どういう事って言われても、そのまんまの意味だが…………」
紫苑はそう呟く。
「そんまんまってどういうことですか!?」
セシリアが問いかける。
「ネプテューヌの言った通り、ネプテューヌはプラネテューヌの『女神』で俺はその伴侶って事」
「だからネプちゅ………言いにくいから私もネプ子って呼ぶわ! ネプ子が『女神』ってどういう事よ!?」
「ネプテューヌは、4つの国の頂点に立つ4人の女神の内の1人だ」
「つまり、『女神』っていう役職に就いてるって事?」
「とりあえずそれで構わん」
細かく言えば色々と問題が出てくると思ったので、紫苑は適当に頷いておく。
「それで…………旦那様と言うのは?」
箒がそう聞いてくる。
「めんどくさいから色々省くが、俺とネプテューヌは結婚していると考えてもらって構わん」
「け、けっこ…………で、ですが月影さんはまだ17歳の筈では………」
「国が違えば法律も違う…………現に日本でも昔は15歳で成人だったろ?」
強引に納得させるためにそのように言う紫苑。
「い、いや、それでも彼女は見た限り…………」
「因みに言っておくが、ネプテューヌは俺よりも年上だからな」
かなり年下と言おうとした箒の言葉を遮ってそう言う紫苑。
「「「「「「年上っ!?」」」」」」
さらに驚く一同。
正確な年齢は紫苑も知らないが。
「この話はここまでな。余り人のプライベートに突っ込むものじゃない」
「そ、そうですわね………驚き過ぎて思慮に欠けていました。申し訳ありません」
セシリアが頭を下げる。
「それで? 彼女らはこれからどうするつもりだ?」
千冬が尋ねる。
「…………行く当てもありませんので出来ればIS学園に留まらせて欲しいんですが………」
「………IS学園は宿泊施設ではないぞ?」
「でしたら、IS学園の臨時職員として雇ってはどうでしょうか? アイエフは用務員として。コンパは看護師ですから保険医としての能力はありますよ。ネプテューヌは………もっぱら荒事専門なんで出番があるかは分かりませんが………」
一瞬ネプテューヌの役目について詰まるがそう言い切る紫苑。
「ふむ…………」
「お願いします」
紫苑は改めて頭を下げる。
「まあいい。私から上に掛け合ってみよう」
「ありがとうございます!」
紫苑はもう一度頭を下げた。
「さあお前達! 夜も遅い! 早く寮に戻れ! 月影は医療室だ! 月影の関係者は先日と同じ部屋で! 解散!」
千冬がそう言って手を一度叩く。
紫苑はたった今気付いたが、窓を見ると外は真っ暗だ。
千冬の言葉に各自が部屋を出ていく。
すると、残った千冬に真耶が声を掛けた。
「よろしかったのですか? 先輩。正直私はまだ信じられません。別次元の世界なんて………」
「私も正直半信半疑だ……………だが、月影も含めて危険人物ではないだろう」
「ですね。皆いい子達ですから!」
「それにだ…………この3日間、ネプテューヌというあの少女の月影へ向けていた顔を見て、非情な判断がとれるものか……………」
千冬は思い出す。
ずっと紫苑に付き添っていたネプテューヌの、安堵や傷ついた事による悲しみ、出会えた喜びなど、いろいろな感情が混じったあの表情を。
「ネプちゃん、ずっと月影君の手を繋いだまま離そうとしませんでしたからね…………今日は遂に限界が来て眠ってしまったようですが、その手だけは離そうとしませんでした。お陰で別の部屋に連れていくのに一苦労でしたよ」
「それもそうだが、山田君も聞いていたか? ネプテューヌが『女神』だという話を………」
「ええ………おそらく『女神』という役職だと思いますが………」
「実際にそうとも言い切れんと言う事は、山田君も分かっているだろう?」
「……………月影君の異常な『回復力』の事ですね…………?」
「ああ。月影の怪我はどう贔屓目に見ても重傷だった。アバラは何本も折れ、内臓にも少なくないダメージを負い、左腕と右足は抉られて後遺症が残ってもおかしく無い………いや死んでいてもおかしくないダメージだった…………そうでなくとも、常人ならば最低でも1ヶ月はベッドの上から動けない筈だった…………それなのに、アイツはたった3日で動けるほどにまで回復した」
「普通なら信じられないことですよね…………あのコンパさんが持っていた今の医学レベルの何歩も先を行った医療器具のお陰もあるかもしれませんが…………」
「それでも応急処置レベルだろう……………私が気になるのは月影の治療の際に言っていたことだ。“『女神』であるネプテューヌがより近くに居た方が『守護者』である月影の治癒力が高まる”。要約すればこのような事を言っていたことを覚えている。当初は気休めの言葉だと思っていたのだが…………」
「月影君の回復力を見る限り、あながち眉唾とは思えませんよね…………」
「危険だとは思わんが、与り知らぬところで問題を起こされるより、目の届く所に居た方が対処も早く出来る。それに月影の精神的にもそちらの方が安定するだろう」
「月影君………もしネプちゃんが居なかったとしたらどうなってたか…………考えただけでもゾッとしますね?」
「正直予想がつかん。真面目にベッドに縛り付けておかなければならない事態になっていたかもしれん」
「否定出来ない所がまた何とも………ですね」
「まあ、今私が月影にしてやれることは、彼女達がこの学園に居られるようにしてやる事ぐらいだ」
「もしかして、月影君への罪滅ぼしって考えてますか? 先輩」
「否定はしない」
千冬の紫苑に対する負い目を知る真耶はそう聞くと、千冬は意外と素直に答えた。
紫苑が医療室のベッドで横になっていると、
「…………シオン」
「ん? ネプテューヌ?」
医療室にネプテューヌが入ってくる。
「どうした? こんな時間に?」
紫苑がそう聞くと、ネプテューヌは何も言わずにベッドに潜り込んできた。
「ネプテューヌ?」
様子のおかしいネプテューヌに紫苑が身体を向けると、ネプテューヌは紫苑の胸に縋り付いてきた。
「シオン…………! シオン…………!!」
ネプテューヌは身体を震わせ、涙を浮かべながら紫苑の胸に縋り付く。
「ネプテューヌ………………」
ずっと我慢してきたんだろうその想いを感じ取り、紫苑はネプテューヌの身体を抱きしめる。
「心配かけて済まなかった…………」
その温もりを感じるように、紫苑はネプテューヌを抱きしめ続けた。
その医療室の前で、
「…………………紫苑さん………」
悲しそうに紫苑の名を零した少女が居たことに、2人は気付くはずもなかった。
第15話完成!
やっと再会させることができたネプテューヌです!
その登場シーンはやっぱり落下ネタ。
序にその前のアイエフの平手打ちも大分前から構想してましたので書けて満足です。
落下の犠牲者はやはり一夏。
しかしラッキースケベが発動しない所はネプテューヌの主人公(ヒロイン)補正が勝ったって事で。
鈴にとっては青天の霹靂です。
もし一夏にアイエフかコンパが直撃していたらもちろんラッキースケベが発動してました。
その前に重傷かもしれませんが。
まあ、あとはどうやってIS学園に居させるかという問題でしたがあんな感じでどうですかね?
さて、あとは女神化ですが、出番はちゃんと考えてますので今しばらくお待ちを。
では、次も頑張ります。