超次元インフィニット ネプテューヌ・ストラトス   作:友(ユウ)

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第18話 降臨する女神(パープルハート)

 

 

 

 

 

 

学年別トーナメント当日。

あの日以来、一夏は少し考え込むことが多くなったようだが、今は殆ど持ち直している。

紫苑、一夏、シャルルは、男子専用に宛がわれた更衣室でISスーツに着替えていた。

 

「しかし、すごいなこりゃ」

 

一夏がモニターに映る大勢の観客を見て、声を漏らす。

 

「3年にはスカウト。 2年には1年間の成果の確認に、それぞれ人が来ているからね」

 

シャルルがそう説明する。

 

「ふーん、ご苦労なことだ」

 

一夏は、特に興味もないと言った雰囲気でそう言った。

 

「そういえば、箒は誰と組むんだ?」

 

一夏はふと呟く。

今回のトーナメントは例年よりも特殊で、タッグマッチ方式となっているのだ。

その為、一夏はシャルルが女と言う事実を隠すためにシャルルと組み、紫苑は誰かを選ぶと収拾がつかなくなるため、恨みっこなしの抽選でという選択を取った。

更に先日、セシリアと鈴音が訓練していた所、ラウラに挑発され、挑んだ結果返り討ちにされた。

しかし、ラウラはセシリアと鈴音が動けなくなっても執拗に攻撃をつづけ、大怪我しそうになるところを一夏が乱入。

一悶着あって千冬が両者を止めたということがあった。

セシリアと鈴音は、その時の戦闘が原因でISのダメージレベルがCを超えているので、今回のトーナメントには出場しない。

すると、残る箒は誰と組むか気になったのだ。

 

「ペアが決まってない人は、抽選で決まるらしいが………」

 

紫苑がそう言う。

実際紫苑も抽選待ちだ。

 

「一夏は、ボーデヴィッヒさんとの対戦だけが気になるみたいだね?」

 

シャルルが一夏を見てそう言った。

 

「ん? あ、ああ。 まあな」

 

「感情的にならない方がいいよ。 ボーデヴィッヒさんは多分、1年の中でも最強に近いと思う」

 

「ああ、分かってる」

 

シャルルの言葉に一夏は頷く。

その時、モニターが切り替わり、トーナメント表が表示された。

 

「あ、対戦相手が決まったね」

 

その言葉に、モニターに向き直る2人。

 

「えっ!?」

 

「なっ!?」

 

シャルルと一夏が驚愕の声を上げる。

モニターに映し出されたトーナメント表には、

 

『第1試合 織斑 一夏、シャルル・デュノア×ラウラ・ボーデヴィッヒ、篠ノ之 箒』

 

そう表示されていた。

 

「まさか一戦目で当たるなんて…………しかも、ペアが篠ノ之さん………」

 

「丁度いいぜ……勝ち進む手間が省けたってもんだ!」

 

一夏は勇ましくそう言う。

因みに第2試合には紫苑の名前があった。

 

 

 

 

 

 

 

そして、準備が整い、一夏、シャルルペアとラウラ、箒ペアがアリーナの中央部分で睨み合う。

 

「一回戦目で当たるとは………待つ手間が省けたというものだ」

 

ラウラが一夏に向かってそう言う。

 

「そりゃあ何よりだ。 こっちも同じ気持ちだぜ」

 

一夏もそう言い返した。

 

試合開始のカウントダウンが開始され、0になる瞬間、

 

「「叩きのめす!!」」

 

一夏とラウラが同時に叫び、一夏が一直線に突撃した。

が、ラウラの発生させたAICで動きを止められる。

 

「くっ!」

 

「開幕直後の先制攻撃か。 分かり易いな」

 

「……そりゃどうも。 以心伝心で何よりだ」

 

「ならば私が次にどうするかもわかるだろう?」

 

ラウラがそう言うと、肩に装備されたレール砲が、一夏に向けられる。

だが、レール砲が放たれる寸前、一夏の頭上からシャルルが飛び出し、アサルトライフルを撃つ事で狙いをずらし、一夏へ放った砲弾は空を切った。

シャルルが高速切替で武装を呼び出し、両手にアサルトライフルを装備する。

 

「逃がさないっ!」

 

ラウラへ向かって発砲。

ラウラは何発か貰った後、回避行動をとってその場を離脱する。

と、その時箒が割り込んできて銃弾を防ぎながらシャルルに突進しブレードで攻撃、シャルルの攻撃を中断させる。

 

「私を忘れてもらっては困る!」

 

箒はそう言うと2人に向かって行くが、一夏が示し合わせたように前に出て箒の一撃を受け止める。

そして箒の動きが止まった瞬間、後方からシャルルがアサルトライフルを構えた。

 

「はっ!」

 

箒が気付くがもう遅いとばかりに一夏とシャルルがニヤリと笑い、シャルルが引き金を引く。

瞬間、箒の足にワイヤーが絡まり、上空へと引っ張り上げられ、シャルルの弾丸は外れてしまう。

 

「何をするっ!?」

 

しかし、引き揚げられた箒はそのまま後方へ勢いよく投げ捨てられてしまい、変わって今のワイヤーを操っていたラウラが両手にプラズマブレードを発生させ、一夏に切り込んでいく。

一夏も負けじと切り結ぶが、ラウラの方が若干上手の様だ。

 

 

 

「ちょっとラウラちゃん、今のは酷いんじゃないかなぁ~…………」

 

その様子をピットで見ていたネプテューヌが呟く。

 

「今の、ホウキを助けたわけじゃなく、邪魔だったから退かしたって感じだったわね………」

 

アイエフも不快感を露にしながらそう言い、

 

「ラウちゃん、どうしてホーキちゃんと仲良く出来ないですぅ?」

 

コンパも疑問を口にする。

因みにネプテューヌ達がピットにいる理由として、紫苑が次の試合の為に、ピットで準備しているため、千冬の許可(事後承諾)を得てこの場に居たりする。

 

「今までのラウラの性格を鑑みるに、ラウラは1人で戦っているつもりになっているな。初めから箒は勘定に入れていない。いつでも1人で戦えるという勘違いを起こしている」

 

「1人で戦えるなんて、あるわけないのにね…………」

 

「ああ、ラウラは戦う事だけが目的になってしまっている。何の為に戦うのか? それを分からなければ、力を得たとしても『暴力』にしかならないのにな…………」

 

そう言いながら紫苑達はモニターを見つめる。

箒は既にシャルルによって沈黙させられており、現在はラウラとの2対1で戦っている。

個人的な実力はラウラがずば抜けているのだが、2人のコンビネーションは戦いを互角に、いや、僅かに優勢に持って行く。

相手の動きを止めるラウラのISの第三世代兵装、『AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)』も、停止させる対象物に意識を集中させなければならない為、2人相手では効果を十分に発揮できない。

一方が動きを止められれば、もう一方がラウラに攻撃を仕掛け、追撃を許さない。

試合は一進一退を続けていたが、ある時、状況が動いた。

一夏の白式が、『零落白夜』の発動しすぎでエネルギーが尽きてしまった。

ここぞとばかりに反撃に出るラウラ。

シャルルが応戦するも、1対1ではラウラが勝っている。

しかし、一発の銃声が鳴り響き、ラウラの動きを止める。

それは、シャルルのアサルトライフルを、一夏が使って撃ったものだった。

一夏が銃を使ったことに驚くが、その隙にシャルルがラウラの懐に飛び込む。

すると、シャルルのシールドの外装がはじけ飛び、中から巨大なパイルバンカーが姿を見せる。

シャルルがそのパイルバンカーをラウラの腹部に押し当て、一気に炸裂させた。

その威力に一気に吹き飛ばされ、シールドエネルギーを激減させるラウラ。

歓声が沸く会場。

シャルルが追撃をかけ、アリーナの塀にラウラを押し付け、パイルバンカーを連射する。

見る見る減っていくラウラのシールドエネルギー。

このままシャルルと一夏の勝利と思われた。

しかし、突然ラウラが叫び声を上げると共にISに電光が走り、装甲が溶け出すように形を変えて行った。

その姿は、全身が真っ黒で、ISを纏った女性の姿だった。

 

「何なの、あれ?」

 

アイエフがモニターを見て声を漏らす。

 

「あれはまさか………『暮桜』?」

 

「くれざくら?」

 

紫苑の言葉にネプテューヌが首を傾げる。

 

「現役時代の織斑先生が使っていたISだ。どうしてラウラのISがそんなものに………」

 

 

この時点で、アリーナには警戒態勢が敷かれ、シェルターが降りる。

すると、突然一夏がその相手に向かって斬りかかった。

だが、あっさりと剣を弾かれ、逆に一撃を受けて地面を転がる。

その際に白式もエネルギーが尽きたのか、強制解除された。

それでも一夏は、何を考えたのか、素手で殴りかかろうとして箒に止められている。

しかし、それでも一夏は諦めようとしない。

その時、シャルルが自分のISのエネルギーを白式に渡す方法を取った。

一夏がシャルルからエネルギーを受け取り、白式が右腕と武器だけを展開する。

一夏が相手に向かって構える。

 

「俺の本当に護りたいものはまだ分からない…………だけど、絶対に譲れないものは分かっているつもりだ!」

 

それに反応したのか、相手も一夏に向かって突っ込んできた。

一夏はその一撃を往なし、返す刀で相手の胴部を袈裟懸けに切り裂いた。

その切り口から、ラウラが力なく倒れてくる。

そのラウラを一夏が抱きとめた。

 

「ま、ぶっ飛ばすのは勘弁してやるよ」

 

一夏はラウラの様子を見て、そう呟いた。

 

 

 

 

 

「ま、鈍らが付け焼き刃程度にはなったかな………」

 

今の一夏の一刀を見て紫苑はそう評する。

すると、紫苑はカタパルトの方へ向かって行く。

 

「シオン? どこ行くの?」

 

「……………今の状況、以前にアイツが出てきた時にそっくりだからな…………」

 

そう言い残し、紫苑は再び歩き出した。

 

 

 

 

 

アリーナで一夏がラウラを抱き上げながらピットへ戻ろうとしていた。

その際、箒とシャルルにジト目を向けられていたが、一夏は気付きもしない。

一方、ISを纏った教師部隊が事後処理の為に行動を起こそうとしていた。

だがその時、バチィッという放電するような音が上空から聞こえてきた。

更に、ドン! ドン! ドン!と重い銃声が連続で鳴り響き、教師たちが突然吹き飛ばされていく。

 

「な、何だ!?」

 

一夏が目の前で起こった出来事に叫ぶ。

すると、

 

「あはははははははははははははっ!!」

 

一夏にも聞き覚えのある耳障りな女の笑い声が響いた。

 

「どうかしら? ウチの組織の開発したIS用ウイルス弾の味は? その弾を受けると暫くISはまともに動かなくなるのよ!」

 

そう言いながら降りてきたのは、以前無人ISが襲い掛かってきた後に奇襲をかけてきた女。

そして、

 

「……………………………」

 

無言のままその女の横に降り立つバイザーを付けた黒髪で右腕が機械の義手となっている少女。

 

「お前はあの時の!」

 

「久し振りね。どうやら私の事は覚えていたようね」

 

その女はそう言う。

 

「一夏、この人知ってるの?」

 

シャルルが一夏に問いかけると、

 

「ああ。以前にも襲撃をかけてきた女だ…………そして………」

 

一夏は黒髪の少女―――紫苑の妹の翡翠へ視線を向ける。

 

「あっちの子は…………紫苑の妹だ」

 

「えっ!? 月影君のっ!?」

 

「彼女がそうなのか………」

 

何も知らなかったシャルルは純粋に驚き、話だけは聞いていた箒は納得したように頷く。

 

「説明どうも! だけど、私達はお喋りに来たわけじゃないのよね」

 

女は一夏達にライフルを向ける。

 

「さあ、あんた達のISを渡してもらおうかしら? 知ってるのよ、全員エネルギー切れなんでしょ?」

 

嘲笑うようにそう言ってくる女。

その言葉通りなので、言い返せない。

下手に動けば即ハチの巣だろう。

 

「本当はドイツの専用機も手に入れたかったところだけど、あんな変なシステムが組み込まれてたんじゃ、使い物に成らないわよね? まあ、コアだけは頂いていくけど」

 

すでに原型を留めていないラウラのシュヴァルツェア・レーゲンを一瞥すると、再び一夏達に視線を向ける。

 

「く…………」

 

「い、一夏…………」

 

「一夏………」

 

一夏は箒とシャルルを庇うように前に出る。

ラウラを抱くその腕にも力が籠る。

 

「あ~ら、カッコいいじゃない。女の子を庇って前に出るなんてね」

 

一夏に対して馬鹿にしたような笑みを向ける女。

 

「………箒、シャルル。ラウラを頼む」

 

一夏は腕に抱いていたラウラを2人に託す。

すると、

 

「俺があいつの気を引く。その間に2人は避難するんだ」

 

「な、何を言っている!?」

 

「無茶だよ一夏!」

 

「無茶でも何でもやるしかないんだ! このままだと皆殺されちまう!」

 

一夏がそう言うが、

 

「だが………!」

 

「駄目だよ一夏!」

 

2人は一夏を引き留めようとする。

すると、業を煮やしたのか、

 

「何をごちゃごた言ってるのよ? もういいわ、あまり時間を掛けられて応援を呼ばれるのも拙いし、専用機は殺して奪う事にするわ」

 

女はそう言ってライフルを突きつけ、狙いを定める。

 

「ッ…………!」

 

死を実感し、背筋に冷たいモノが走る一夏。

 

「ぐ……………!」

 

だがそれでも一夏は箒とシャルル、そしてラウラの前から逃げようとはしなかった。

 

「さよなら」

 

女のその言葉と共に引き金が引かれようとした…………その時だった。

 

「マジカルエフェクト………『バーン』………!」

 

一夏達の後方から2発の火球が飛来し、女に直撃する。

 

「きゃぁっ!?」

 

突然の事に女は驚愕し、思わず悲鳴を上げた。

 

「い、今のは………!?」

 

一夏達は思わず振り向いた。

すると、ピットの出入り口に立つ紫苑の姿があった。

 

「紫苑………?」

 

今の火球は紫苑の仕業なのかと一夏は不思議に思ったが、今の紫苑の雰囲気を感じてそんな疑問は引っ込んだ。

紫苑はピットの出入り口から飛び降り、アリーナの地面へ着地する。

そしてそのまま、一夏達の元へ歩み寄ってきた。

 

「紫苑…………」

 

「一夏…………この場は俺に任せてもらうぞ…………!」

 

冷静な言葉。

だが、その心の内の激情を抑え込む紫苑に対し、一夏は道を譲ることしか出来なかった。

それでも、

 

「し、紫苑………!」

 

「何だ?」

 

「だ、大丈夫なのか………?」

 

一夏のその言葉を聞いて、紫苑はフッと笑う。

 

「安心しろ。ネプテューヌが見ている前で、無様な姿は晒さないさ」

 

そう言うと、紫苑は右手を前に翳して目を瞑る。

そして息を大きく吸い込むと、目を見開き、

 

「シェアリンク!」

 

紫苑が叫ぶと、その手に機械式の剣が具現される。

紫苑はそれを掴み、一度振ると、

 

「行くぞ!」

 

翡翠へ向けて一直線に駆けだした。

 

「チッ! 私を無視するとはいい度胸じゃないか!」

 

すると、そう言いながら女が紫苑と翡翠の間に立ちふさがる。

しかし、

 

「邪魔だ…………!」

 

紫苑はシェアリンクによって上がった身体能力をいかんなく発揮し、軽く跳ぶだけで女の頭上を取った。

 

「はっ………?」

 

普通に考えて生身の人間がISの高さよりも高く跳べるはずがないため、女は素っ頓狂な声を漏らした。

その隙を紫苑は逃すはずがなかった。

武器の形態を変形させ、ナックルグローブとして手に装着すると、

 

「はぁあああああああああっ!!」

 

女の顔面に向かって右の拳を放った!

 

「ッ!? きゃぁああああああああああっ!?」

 

呆気に取られていたことと、生身の人間の攻撃だと高を括って油断していた女は、その想像以上の攻撃の衝撃に踏ん張ることが出来ずに殴り飛ばされる。

しかし、紫苑はその女を一瞥もせずに翡翠へ向かって再度駆け出した。

 

「翡翠っ! 今度こそ助けるぞ!」

 

その言葉と共に、紫苑は再び武器を剣へと変形させる。

翡翠には、予め自己防衛の命令が下されていたのか、紫苑の動きに反応し、アサルトライフルを呼び出す。

紫苑は瞬時にサイドステップを踏み、その射線軸上から逃れる。

次の瞬間には、先ほどまで紫苑が居た場所に銃弾が撃ち込まれ、砂煙が舞う。

 

(我が妹ながら正確な射撃だな。洗脳されているとはいえ、その戦闘力はあの女よりも遥かに高い。IS適性Sは伊達じゃないか………だが!)

 

続けて紫苑にライフルを向けようとした瞬間、紫苑は一気に踏み込み、すれ違いざまにライフルを剣で切り裂いた。

 

「自分で考えられない分、動きはどうしても単調になる!」

 

翡翠は破壊されたライフルを見ると、新しくグレネードを展開し、紫苑に向ける。

だが、それが放たれる寸前、銃声と共にグレネードが爆発した。

見れば紫苑が武器を銃に変形させ、撃った体勢でそこにいた。

次に翡翠はブレードを呼び出し、接近戦を仕掛けてくる。

しかし、そこは紫苑の最も得意とする間合い。

武器を剣へと戻すと、振り下ろされるブレードを受け流し、切っ先を地面へと向ける。

ブレードの切っ先が地面へと突き刺さり、一瞬その動きが止まった。

紫苑は剣を振りかぶり、

 

「アクス!」

 

剣を斧へと変形させ、ブレードに向かって振り下ろし、それを圧し折った。

その様子を見ていた一夏達は呆然となる。

 

「紫苑………スゲェ…………」

 

一夏は純粋にその感想しか出てこない。

 

「迷いが………欠片も無い………」

 

箒はその心の在り方に驚き、

 

「月影君………武器破壊を狙ってる?」

 

シャルルは紫苑の狙いを察する。

シャルルの言う通り、紫苑は翡翠の展開する武器を次々と破壊していく。

そして、10個近くの武器を破壊した時、ようやく打ち止めなのか新たに展開することは無くなった。

 

(………さあ、ここからだ…………!)

 

紫苑は内心そう思う。

そして、紫苑が変身しない理由もここにある。

 

(翡翠は以前、変わらない俺の姿を見て反応していた。つまり、変身してその姿が昔と掛け離れてしまえば、洗脳を解くことが難しくなってしまうかもしれない。少々危険だが、これに掛けるしかない)

 

紫苑は気を引き締め、翡翠を見据える。

すると、翡翠は義手の右腕を振りかぶり、瞬時加速(イグニッション・ブースト)で突っ込んできた。

以前、紫苑に重傷を負わせたボディーブローが放たれる。

しかも、今回は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使っているため、威力は以前よりも遥かに上だろう。

しかし、それを紫苑は敢えて動かずに受け止めた。

 

「ぐっ…………!」

 

歯を食いしばり、衝撃に耐える。

そして……………

 

「捕まえたぞ………!」

 

紫苑はニヤリと笑った。

よく見ると、翡翠のボディーブローは紫苑の腹に決まる前に、紫苑の右手によって掴まれていた。

 

「翡翠…………俺を見ろ! 翡翠!」

 

紫苑は翡翠へ呼びかける。

 

「………………ッ!?」

 

翡翠は一瞬動揺した仕草を見せる。

だが、空いている左腕を振りかぶり、紫苑に打ち付けた。

 

「ぐっ!」

 

紫苑はその一撃を受けるが、その右手は決して離そうとはしない。

 

「ッ……! ッ……!」

 

翡翠は何度も左手を紫苑に打ち付ける。

だが、紫苑はそれでも右手を離さずに黙って耐えていた。

 

「はっ! 何を狙っているかは知らないけど、あんたの妹の洗脳は完璧よ! 前みたいに簡単に解けるとは思わないことね!」

 

女はそう言い放つ。

だが、紫苑はそれを聞くと笑った。

 

「そうか………よかった…………お前達が完璧な洗脳を目指してくれて…………!」

 

「はぁ? 何言ってるの? 頭でもおかしくなった?」

 

紫苑の言葉を怪訝に思ったのかそう言う女。

しかし、紫苑は洗脳に関して昔マジェコンヌに言われた言葉を思い出していた。

 

『洗脳というものは完璧を求めれば求めるほど難易度が高くなり、それ故に僅かな切っ掛けで目を覚ましてしまうことが多い』

 

即ち、今の翡翠の洗脳はパープルハートの時とは違い、簡単に解ける可能性があるという事だ。

 

(その為には…………翡翠の心を揺さぶる何かを…………)

 

紫苑はそう考える。

それでも右手は離さないように意識は向けているが。

だが、そこで紫苑はふと自分が右手に着けている者を思い出した。

 

(それに…………そう言えば今日は…………)

 

その事に思い至ったとき、紫苑は迷わずに行動に出た。

打ち付けられる左手を構わずに、翡翠に語り掛ける。

 

「翡翠…………今日が何の日か覚えているか…………?」

 

「ッ…………!?」

 

その言葉に僅かに反応を見せる翡翠。

しかし、再び振り下ろすために再度振り上げられる。

 

「翡翠……………」

 

紫苑は自分の右手に付けられているブレスレットを左手で外し、翡翠に見せるように目の前に持つ。

 

「あ…………あ…………」

 

振り下ろされようとしていた腕が止まり、翡翠の身体が震え出す。

紫苑はそんな翡翠を見て、怯えている子供をあやす様に語り掛けた。

 

「大丈夫だ………翡翠……………」

 

紫苑はそのブレスレットを翡翠の義手の右手首に着けると、

 

「…………誕生日おめでとう…………翡翠………」

 

その言葉と共に、翡翠のバイザーが外れた。

そのバイザーの下からは、涙が溢れたその瞳が露になる。

 

「お…………お兄ちゃんっ!」

 

「翡翠っ!」

 

翡翠は無意識にISを外し、紫苑へ向かって抱き着く。

紫苑もしっかりと受け止め、その背中を抱きしめた。

 

「ごめんなさい………! ごめんなさいお兄ちゃん………! ずっと………ずっと謝りたかった………!」

 

「いいんだ………いいんだよ翡翠………お前が生きていた………それだけで俺は十分だ」

 

「お兄ちゃん…………!」

 

抱き着く力を強める翡翠。

だが、

 

「洗脳が解けただと!? くそっ! 使えない奴ね!! だったら兄妹諸共あの世へ送ってあげるわ!!」

 

その感動の再会に横槍を入れる女が1人。

女はライフルを紫苑達へ向ける。

 

「あぶねえ紫苑!」

 

一夏が叫ぶが、女は躊躇なく引き金を引いた。

放たれた無数の弾丸は、紫苑と翡翠を瞬く間に巻き上げる砂煙で覆い隠した。

 

「紫苑!」

 

「月影さん!」

 

「月影君!」

 

一夏、箒、シャルルの3人が叫ぶ。

 

「あははははは! 折角兄妹で会えたのに残念ね! でも、仲良くあの世に送ってあげたんだからそこは感謝してほしいわ!」

 

「て………てんめぇ…………!!」

 

一夏は握り拳を強く握りしめ、怒りに震える。

 

「よくも紫苑達を!!」

 

一夏が叫ぶ。

 

「心配しなくても、あんた達もすぐに後を追わせてあげるわ」

 

女はそう言いながらライフルを一夏へ向けようと………

 

「勝手に殺さないでくれないか?」

 

した時、信じられない言葉が聞こえ、女は驚いたように振り向く。

砂煙が晴れていくと、そこには右腕で翡翠をしっかりと抱きしめ、突き出した左腕の先に赤い魔法陣のシールドを発生させて銃弾を防いだ紫苑の姿があった。

 

「な、なんだそれは!?」

 

女は初めて見る魔法陣のシールドに驚愕する。

 

「さてね」

 

紫苑は説明の必要は無いとばかりに切り捨てる。

すると、

 

「ちぇすとーーーーっ!!」

 

若干気の抜ける掛け声と共に、何かが女に襲い掛かった。

 

「きゃあっ!? な、何!?」

 

思いがけない衝撃に女は後退し、そちらを振り向くと、

 

「やっほーい!」

 

スタッと太刀を持ったネプテューヌが地面に着地した所だった。

 

「ネ、ネプテューヌ!?」

 

「どうしてここに!?」

 

「っていうか、今ISを後退させた!?」

 

突然現れたネプテューヌに一夏達が驚愕する。

するとネプテューヌは立ち上がり、

 

「ちょっとそこのオバサン!」

 

女に向かって言い放った。

 

「オ、オバッ………」

 

その言葉に青筋を立てる女。

しかし、

 

「何で感動の再会シーンの最中に茶々入れちゃうのかな~!? そこは一段落するまで待ってるのがデキる悪役ってもんでしょ~!? 話の途中で攻撃しちゃう悪役なんて、萎えちゃうよ? 三流だよ? 一昔前で言うKYだよ~!」

 

何故か女の行動に文句を言い出すネプテューヌ。

 

「ネ、ネプテューヌ…………一体何言って………」

 

一夏が注意しようとしたが、

 

「あ、シオーン! 良かったね、ヒスイちゃん助けられて。後でちゃんと紹介してね!」

 

クルッと紫苑に向き直ると、これまたその場の空気に似合わない発言をするネプテューヌ。

そんなネプテューヌに、紫苑は思わず笑みがこぼれ、

 

「ああ………」

 

安心したように頷いた。

その時、

 

「何訳の分からないことを言っている、このチビガキがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

堪忍袋の緒が切れたのか、女がブレードを振りかぶってネプテューヌに襲い掛かった。

 

「ネプテューヌ!!」

 

「拙い! 逃げろ!」

 

「駄目っ! 間に合わない!」

 

3人が叫ぶ。

だが、ネプテューヌは特に慌てることも無く、ガキィィィンと言う音と共に、振り下ろされたブレードを太刀で受け止めた。

 

「な、何ぃっ!?」

 

一見ただの少女にしか見えないネプテューヌがISの攻撃を受け止めたことに女が驚愕する。

しかし、それは一夏達とて同じだった。

口をあんぐりと開けたまま固まっている。

 

「そろそろ主人公である私の力、見せちゃおうかな!」

 

ネプテューヌはそう言うと、受け止めたブレードを弾き返した。

 

「なっ!?」

 

女が驚いた瞬間、

 

「刮目せよ!!」

 

ネプテューヌが光に包まれた。

その光の中でネプテューヌが姿を変えていく。

少女だった姿が美しき美女へ。

正に女神と名乗るに相応しきその姿。

その名は、

 

「女神パープルハート! ここに見参!!」

 

この世界に、女神が降臨した瞬間だった。

その姿に驚く一夏達。

 

「え………あ………え………? ネプテューヌ…………さん?」

 

一夏は思わずさん付けで呼んでしまう。

だがそれも仕方ないだろう。

今のネプテューヌはまさしく女神なのだから。

 

「イチカ、ホウキ、しゃるるん。この女は私が相手をするわ。あなた達はシオンと一緒に居て」

 

女神化したネプテューヌは一夏達にそう呼びかける。

 

「く、口調も変わってる…………」

 

「い、一体何がどうなったというのだ? ネプテューヌさんが大人になった?」

 

「どうでもいいけど、僕は相変わらずしゃるるんなんだね………」

 

一夏達は困惑しながらも紫苑の元へと移動する。

 

「し、紫苑………一体ネプテューヌ………さんに、何が起こったんだ?」

 

一夏が驚愕しながら紫苑に問いかける。

 

「あれはネプテューヌが女神化した姿だ。女神パープルハート、それが女神としてのネプテューヌだ」

 

「女神………様…………?」

 

翡翠が呆然とパープルハートを見上げている。

光の翼で空に佇むその姿は、初めて見る者にとってはとても神秘的に映ることだろう。

 

「た、確かに女神って言ってたけど………あれってそう言う役職じゃなかったのか………」

 

「説明が難しいからそう言う事にしておいただけだ。まあ、あの姿を見れば、ネプテューヌが女神だってことも信じられるだろ?」

 

「あ、ああ…………そうだな…………」

 

一夏は気の抜けた声で呆然とパープルハートを見上げ続けている。

 

「さあオバサン。覚悟は良いかしら?」

 

パープルハートは刀剣を構え、女に宣言する。

 

「な、舐めるな! どんなISか知らないけど、ちょっと大きくなったぐらいで………!」

 

女はそう言い返すが、

 

「そう…………反省する気は無いようね………まあ、例え反省したとしても、ヒスイちゃんを利用してシオンを苦しめた罪を許すつもりは無いわ。精々自分の罪を認め、悔いることね!」

 

パープルハートはそう言うと後方に円陣を発生させ、それを足場にして力を溜める。

そして次の瞬間一気に飛び出し、女へと接近した。

 

「なっ!?」

 

女は予想以上のスピードに対処が間に合わない。

 

「ふっ!」

 

袈裟斬り。

 

「はっ!」

 

薙ぎ払い。

更に大きく刀剣を振りかぶり、

 

「クロスコンビネーション!!」

 

必殺の一刀を放った。

 

「きゃぁあああああああああああああああああああああああああっ!!??」

 

女は成す術なく3連撃を受け、悲鳴を上げながら墜落していく。

地面に激突した女のISは強制解除され、女は気絶していた。

パープルハートはそれを確認すると、紫苑達の方に振り向き、微笑みを向ける。

紫苑も微笑みを返し、一休みしようと腰を地面に降ろした。

しかし、

 

「ッ………………!」

 

パープルハートを見上げていた一夏の妙な反応に気付き、紫苑は怪訝な視線を向けるのだった。

 

 

 




第18話の完成。
少し最後が手抜きになったかもしれないがこんな所でどうでしょう?
最後の一夏の反応は一体…………?(すっとぼけ)
まあ、前半は過去作のほぼコピペでした。(手抜き)
それにしても、ネプテューヌのシリアスブレイカーがうまく表現できないなぁ………
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