超次元インフィニット ネプテューヌ・ストラトス 作:友(ユウ)
無事妹の翡翠を助け出すことが出来た紫苑。
パープルハートによって気絶させられた女は教師たちに連行されていった。
紫苑達が翡翠を伴ってピットへ戻ってくると、そこには千冬、真耶、アイエフ、コンパの他に、有事の際に備えてか、セシリアと鈴音の2人も居た。
そして、アイエフとコンパ以外の4人は微妙な表情をパープルハートへ向けていた。
「あ~………諸君、ご苦労だった。そして月影、妹を助けられて良かったな」
「はい」
千冬の言葉に紫苑が頷く。
「ただし、後で医療室で検査だけは受けさせておけ。非合法組織に居たのだ。どのような扱いを受けていたか分からん」
「分かりました」
千冬は翡翠へ視線を向ける。
翡翠は少しビクついて紫苑の影に隠れるような動作をした。
「そしてお前が月影の妹だな。私の名は織斑 千冬。このIS学園で教師をしている。まあ、自慢ではないが名前ぐらいは聞いたことがあるだろう」
「織斑………千冬………? も、もしかして初代ブリュンヒルデの………!?」
翡翠はその名前に驚き、声を上げる。
「あまりその呼ばれ方は好きではないがな………」
「す、すみません………」
「いい。それと自己紹介をしてくれると助かる」
「は、はい………! つ、月影 翡翠と言います………! こ、この度は皆様にご迷惑をおかけしたようで…………!」
「そんなに硬くならなくてもいい。心配せずとも、お前に責任を求めたりはせんさ」
「あ、ありがとうございます!」
「まあ、テロ組織の所に居た話はあとで聞くとして、今はそれよりも…………」
千冬の視線がパープルハートへ向く。
それと同時に、その場の全員の視線が集中した。
「何かしら?」
パープルハートが首を傾げる。
「お前は………本当にネプテューヌなのか?」
千冬が皆の気持ちを代弁してそう尋ねる。
「………まあ、この姿のネプ子を初めて見る人にとってはそう思うのも当然よね………」
アイエフが頬を指で掻きながら苦笑する。
「この姿のねぷねぷを見た人は皆おんなじ反応をするです」
コンパはいつも通りのニコニコ笑顔だ。
「ええ。私はネプテューヌで間違いないわよ。今はパープルハートだけど」
そう言うパープルハート。
すると、突然光に包まれ姿が縮んでいく。
光が消えると、
「ありゃりゃ………戻っちゃった…………」
元の少女の姿になったネプテューヌだった。
「やっぱりシオンのシェアだけじゃ、出せる力も半分ぐらいだし、時間もそんなに長く変身出来ないみたいだね」
そんな事を言うネプテューヌ。
「…………つかぬことを聞くがお前は二重人格という奴なのか?」
「え~? 違うよ~! 変身してる間の記憶もちゃんとあるしさ」
「いや、でも本当に同一人物かと疑っちゃうわよ」
鈴音が思わず口を出す。
「…………とりあえず今の変身という奴も含めて一から全部説明しろ。もちろん月影、お前のあの異常な身体能力もな」
千冬は有無を言わさぬ目で紫苑達を見る。
「…………わかりました。ですがその前に………」
紫苑はピットの一角を見て、
「出て来いよ、楯無!」
そう呼びかけた。
すると、楯無にしては遠慮がちに姿を見せる。
「あ………」
楯無は翡翠に声を掛けようとしているのか、若干の戸惑いを見せる。
翡翠は楯無を見ると、
「………………もしかして、刀奈ちゃん?」
「…………うん…………ひさしぶり………翡翠ちゃん………」
チラチラと翡翠と紫苑を交互に見るように、視線を合わせたり外したりを繰り返しながら楯無は歩み寄ってくる。
ある程度まで近付いてくると、楯無は遂に我慢できなくなったように駆け出し、
「翡翠ちゃん!」
跳び付くように翡翠を抱きしめた。
「翡翠ちゃん! よかったよぉ~! 生きててよかったよぉ~!」
子供の様に泣き出す楯無。
「刀奈ちゃん…………ゴメンね、心配かけて…………」
抱き着いてくる楯無の温もりを感じるように目を瞑りながら、翡翠は左腕で楯無を抱き返した。
暫くして落ち着いたのか、楯無は恥ずかしそうに翡翠から離れる。
「あ、あははは………恥ずかしい所を見せちゃったわね………」
顔を少し赤くしながら乾いた笑いで誤魔化そうとする楯無。
すると、
「なら、説明を始めますけど、初めて聞く人も居るので序に最初から説明しましょう」
そう言って紫苑は話し出した。
3年前のテロ事件で翡翠は右腕を失い、テロ組織に連れ去られた事。
紫苑は残された翡翠の右腕を見て翡翠が死んだと思い込んで絶望し、何の因果かゲイムギョウ界へ転移した事。
そこでネプテューヌ達と出会い、絶望から救われた事。
ゲイムギョウ界とは何なのか、『女神』とは何なのか。
更に、紫苑がネプテューヌの『守護者』となった事も話した。
「ネプテューヌが異世界にいる『女神』の1人で………」
「月影さんが、『女神』であるネプテューヌさんの騎士であり伴侶でもある『守護者』………」
「ISを生身で圧倒できたのもそのお陰なのですね」
それぞれが納得したように頷く。
既に、ネプテューヌが女神であることを疑う者はいない様だ。
まあ、パープルハートの姿を見れば当然だが………
「………それで、お前達はこれからどうするつもりだ?」
千冬が後の行動指針について聞く。
「この後にイストワールと連絡を取って、次元ゲートを開く準備を始めてもらいます。とは言っても、話を聞くに次元ゲートが開くのは3週間ぐらい後になるらしいですけど。ゲートが開いたら俺達はゲイムギョウ界に帰ります」
「「ッ…………!?」」
紫苑の言葉に動揺する様に息を漏らしそうなったのが、一夏と楯無。
「な、なあ紫苑…………本当に帰っちまうのか………?」
一夏が動揺を隠せずにそう聞く。
「ああ。さっきも言った通り、今すぐって訳じゃないけどな…………どうかしたのか?」
「い、いや……………」
そう言いながらも、一夏の視線はチラチラとネプテューヌの方へ泳いでいる。
「? どうかした?」
その視線に気付いたのか、ネプテューヌが一夏に訊ねる。
「あ、いや………何でも…………」
しどろもどろに顔を逸らす一夏。
(………………一夏の奴、まさかな…………)
その反応に疑問を覚える紫苑。
「そ、そうだ! 翡翠の事はどうするんだよ!?」
まるで話を挿げ替えるように一夏はそう質問する。
「…………俺は翡翠の意見を尊重する。翡翠が望むならゲイムギョウ界に一緒に連れていくし、こっちの世界に残りたいって言うのなら、俺は引き留めない」
紫苑がそう言うと、
「もう、お兄ちゃんてば! 折角会えたのにお別れなんて嫌だよ!」
翡翠はハッキリとそう言う。
「お兄ちゃんが、そのゲイムギョウ界って世界に行くのなら、私も行くよ。こっちの世界には、身寄りも無いしね」
「いいのか?」
「うん。まあ、刀奈ちゃんや友達とお別れしなきゃいけないのは少し寂しいけどね」
翡翠はそう言いながらほんの少し寂しそうに笑う。
「そうか………なら決まりだな」
紫苑は皆に向き直ると、
「そう言う訳で、翡翠も一緒にゲイムギョウ界へ行きます」
「そうか…………3週間後と言っていたが、そうなると丁度臨海学校の最中か…………」
千冬がそう呟く。
「残念ですが、俺は行けそうにありませんね。ゲートはネプテューヌを目印に開かれる筈なので、一緒に居ないといけませんから…………」
「…………それなら彼女達も一緒に行けばいいだけの話だろう? こちらの世界での最後の思い出作りに丁度いい」
「…………よろしいので?」
「構わん。その位の権限は私にもある」
「………では、お言葉に甘えて………」
千冬の提案に紫苑は乗ることにした。
確かにネプテューヌ達にもこちらの世界で少し位思い出を作って欲しいという思いもあった。
「あと言っておくが、このIS学園にいる限りお前は私の生徒だ。途中で中退することが決まったとはいえ、最後まで授業には出席すること」
千冬は凛とした態度で最後に教師としての言葉を付け足す。
「あはは………了解です」
「では、この場は解散とする。月影妹はこの後医療室で精密検査を受ける事。ラウラも連れていく。では、解散!」
千冬の一拍が合図となり、その場は解散した。
だが、一夏は何か思いつめるような表情をしていたことに気付いたのは、紫苑以外には誰も居なかった。
1週間後。
翡翠の精密検査の結果が出たという事で、紫苑は放課後に翡翠と共に医療室に結果を聞きに来ていた。
検査の結果、翡翠の身体には多少の薬物反応が見られたものの、それは洗脳の補助が目的で使われた物らしく、それほど強い薬ではないため、このまま日常生活を続けていれば、やがて体から抜けていくという事だ。
保険医の先生の話では、テロ組織もIS適性Sランクと言う貴重な人材を無駄に浪費したくなかったため、それほど無茶な事はされなかったのだろうという見解らしい。
とりあえずは異常無しと分かっただけでも朗報なので、紫苑は先生に礼を言っておく。
まあ、内心プラネテューヌに戻ったら向こうの最新機材で念のためにもう一度検査を受けさせると考えていたが。
2人は医療室を出ると、ネプテューヌ達が集まっているであろう食堂へ向かって歩き始めた。
因みにこの一週間で、シャルルが改めて女子生徒であるシャルロットとして転入し直して来たり、ラウラが一夏にキスをして嫁宣言をしたりがあった。
だが、紫苑はそれ以上に一夏の態度が気になっていた。
妙にネプテューヌに話しかけようとするし、紫苑に対して仇を見るような目で見られることもあった。
まあ、紫苑としてはその理由に大体の推測は出来ているのだが。
すると、廊下を歩く2人の前に一夏が現れた。
「一夏……………」
「一夏君?」
紫苑と翡翠が呟く。
紫苑は一夏が纏う尋常ではない雰囲気を感じ取っていた。
むしろ、何も言わなくてもその視線が紫苑に対して敵意を剥き出しにしている。
「……………どうかしたのか?」
紫苑は敢えてそう聞く。
「………………紫苑!」
一夏は少しの沈黙の後口を開く。
そして紫苑を指差し、
「ネプテューヌさんを賭けて…………勝負だ!」
そう言い放った。
「…………………」
その言葉に紫苑は少しの間沈黙し、軽く溜息を吐いた。
「まあ、もしかしてとは思ってたけど、お前、ネプテューヌに…………というかパープルハートに惚れたな?」
「ッ……………………!?」
紫苑の言葉に一夏は顔を赤くして動揺する仕草を見せた。
「まあその気持ちは分かるが…………一応聞くけど、お前、あいつが俗にいう人妻だってこと分かってる?」
紫苑はそう尋ねる。
一夏は悔しそうに歯を食いしばると、
「分かってるさ、そんな事! だけど、どうしようもないんだ! あの人にはお前が居るって………何度も何度も自分に言い聞かせても、この気持ちは日々大きくなるばかり………! どうしても諦められなかった……………だから!」
「それで勝負を持ち掛けたと……………女を掛けた決闘って………大昔の貴族かよ…………」
紫苑としては、自分がその勝負を受ける義務もなければ、仮に勝ったとしてもネプテューヌの気持ちを完全に無視している一夏に突っ込みたい所は沢山あった。
しかし、
「………………いいだろう。受けて立つ!」
紫苑はその決闘を了承した。
「お兄ちゃん!?」
翡翠が驚いた表情を見せる。
「お兄ちゃん………どうして…………」
「仮にもネプテューヌを賭けた戦いから、俺が逃げるわけにはいかないからな…………!」
紫苑は鋭い眼光で一夏を睨み返す。
その眼光に一夏は一瞬息を呑むが、
「ッ…………! 第三アリーナの使用許可を貰っている。そこでやろう」
「分かった」
一夏の言葉に紫苑はハッキリと頷いた。
その少しあと、2人はアリーナの中央で向かい合っていた。
翡翠は観客席で2人の戦いを見ている。
一夏が白式を展開しているのに対し、紫苑は生身のままだ。
「これはネプテューヌを賭けた戦いだ。俺は『守護者』として戦う。異論は無いか?」
紫苑はそう聞く。
「ああ…………望むところだぜ…………!」
一夏は雪片を正眼に構えながら答えた。
すると、
「シェアリンク!」
紫苑がその手に剣を呼び出す。
「勝敗は、一夏がSE0。俺は致命的なダメージを負う。もしくはそれに準ずる状況になった場合」
「OKだ」
そう確認し合ってお互いに構えると、
「はぁああああああああっ!!」
「ふっ!」
一夏が勢いよく飛び出し、紫苑がそれを迎え撃った。
その少し前。
今日は珍しくネプテューヌ達も食堂で食事することにしていた。
ネプテューヌ達は、翡翠の検査の結果を一緒に聞きに行った紫苑の到着を待っている。
「シオンまだ~?」
ネプテューヌは机に突っ伏してそうボヤく。
「ネプ子、行儀悪いわよ!」
「でも~!」
「あ、あそこにホーキちゃん達がいますよ~。シオ君達が来るまでお話にまぜてもらうですぅ~」
そう言ったコンパの視線の先には、何やら神妙な表情で話し合う、箒、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラの5人がテーブルを囲んでいた。
「先程から申し上げている通り、これは由々しき事態ですわ!」
セシリアが力強くそう言う。
「うむ………確かに。最近の一夏を見ていると様子がおかしい………」
箒も腕を組んで真剣な顔で頷く。
「っていうか、あれって完璧にネプ子に惚れてるじゃない」
鈴音が頭を抱えながらそう言い、
「我が嫁のくせに、他の女に目移りするとは………!」
ラウラがギラリと目を光らせる。
「って言っても、そこまで心配することも無いんじゃないかな?」
シャルロットが楽観的にそう言う。
「どうしてですの!?」
セシリアが叫ぶが、
「だって、ネプテューヌさんって月影君と結婚してるんでしょ? いくら一夏でも相手がいる人に対して変な真似はしないんじゃないかな?」
シャルロットがそう言ったとき、
「私達がどうかした?」
ひょっこりとネプテューヌが顔を出した。
「わあっ!?」
突然の事にシャルロットが驚く。
「ネ、ネプテューヌさん! 突然顔を出されるビックリしますわ!」
「あはは、ごめんごめん。なんか私達の話をしてるみたいでさぁ」
セシリアの言葉にネプテューヌは笑って謝る。
「で、何を話してたの?」
ネプテューヌがそう聞くと、全員が困った様に顔を見合わせた。
すると、
「いえ、やはりここはハッキリとさせるべきだ!」
箒が握り拳を握りながら立ち上がる。
「ネプテューヌさん! 単刀直入に聞きます! 一夏の事はどう思われますか!?」
箒がそう尋ねた。
「ふぇ? イチカ? まあ、いい子じゃないかな………?」
「い、いえ、そう言う事では無く………何と言うか……その………」
言い淀む箒の様子を見て、何が言いたいかを察したアイエフ。
「ああ。要はイチカが変身したネプ子に惚れちゃったから、ネプ子はイチカをどう思ってるかが気になるわけね」
「「「「「うっ!」」」」」
ズバッと5人の要点に切り込んでいった。
「えっ? そーだったの?」
とぼけた顔でそう言うネプテューヌ。
「ネプ子………アンタって普段鋭いくせにこういう恋愛事には疎いわよね。シオンの時もそうだったし………」
呆れた様に言うアイエフ。
「や~ん! 私って罪な女。ねぷぅ~~~~~~!」
いやんいやんと言わんばかりに身体をくねらせるネプテューヌ。
その顔は笑っているが。
アイエフはハアと溜息を吐く。
「そ、それで一夏の事はどう思ってるのよ!?」
鈴音が改めてそう聞くと、
「どうって言われても、私はシオンの友達としか思って無かったし、何よりも私はシオン一筋だし」
その言葉を聞いて、明らかにホッとした表情を見せる5人。
すると、
「……………あれ?」
ネプテューヌが何かに気付いたように声を漏らした。
「ねぷねぷ? どうしたですぅ?」
コンパが尋ねると、
「シオンがシェアリンクを使ってる………」
胸に手を当て、紫苑との結び付きが強くなったのを感じた。
「また女子生徒から逃げるために使ってるんじゃないの?」
アイエフがそう聞くと、
「ううん。シオンの精神状態も戦闘意識が高まってる! 誰かと戦おうとしてるのは間違いないみたい!」
ネプテューヌがそう言うと、
「どういう事?」
シャルロットが首を傾げる。
「ええっと………シオンとネプ子が魂でリンクしてるって事はもう知ってると思うけど、お互いの大まかな精神状態も何となくわかるのよ。それで、今のシオンは誰かと戦おうとして戦闘意識が高まってるって感じたのよ。それでネプ子、場所は?」
「ちょっと待って………うん、こっちだよ!」
アイエフが説明した後、ネプテューヌが駆け出し、アイエフとコンパも続く。
箒達5人も顔を見合わせた後、共に後を追った。
ネプテューヌの先導で一行は第三アリーナに辿り着くと、
「はぁああああああああっ!」
一夏が紫苑に向かって突っ込み、
「見え見えだ…………!」
一夏の斬撃を簡単に往なして反撃する紫苑の姿があった。
「ちょ、ちょっと、何で一夏と紫苑が戦ってるのよ!?」
鈴音が叫ぶ。
その時、ネプテューヌが2人の戦いを見ている翡翠に気付いた。
「あ、ヒスイちゃーん!」
呼びかけながら駆け寄ると、
「ヒスイちゃん、これって今どういう状況? もしかして私を賭けた決闘とか? いや~ん! 2人とも私を賭けて争わないで~!」
冗談を交えながらそう尋ねる。
すると、翡翠は少し困った顔をして、
「え~っと………簡単に言うとネプお姉ちゃんに惚れちゃった一夏君が、お兄ちゃんにネプお姉ちゃんを賭けた決闘を申し込んで、お兄ちゃんがそれを受けたって感じかな?」
「ねぷっ!? 冗談だったのに!?」
まさかの予想的中にネプテューヌは驚愕する。
「まあ、それで2人は戦ってるんだけど………」
一夏は何度も果敢に攻めているが、その全ては簡単に受け流されている。
「実力の差は歴然ね」
アイエフが事実を言う。
「「「「「…………………」」」」」
その様子を見つめる箒達5人は、
「ま、まあ複雑な気持ちですが、これなら心配することは無さそうですわね……」
セシリアが代表してそう言う。
一夏に負けて欲しくないという気持ちもあるが、勝ってしまうとそれはそれで困ったことになってしまうので、見るからに優勢な紫苑にホッとする。
しかし、その中で箒だけは一夏の姿を見て複雑そうな表情をしていた。
「くそっ! 何でだ!? 何で届かない!?」
一夏は悔しそうにそう吐き捨てる。
「一夏…………お前の剣には全てが足りない…………」
紫苑がそう言う。
「『心』・『技』・『体』………………その一つすら今のお前は持っていない。…………普通の学校生活を送ってきたお前には『体』は無い。同じ理由で『技』も無い…………残る『心』も、以前言った通り『芯』が無い。それでは俺に勝つことは不可能だ」
「違うっ! 『体』も『技』も無い事は認める! だけど、『心』だけは持っている!!」
一夏はそう叫びながら渾身の力を込めて斬りかかるが、カァンと軽い音を立てて、その剣はあっさりと弾かれる。
「これが『心』の籠った剣だと…………? 笑わせるな!」
紫苑は剣を上段に大きく振りかぶった。
一夏はその剣を受け止めようと防御態勢を取る。
紫苑の身体能力はシェアリンクのお陰で上がっているとはいえ、それでもISの方がパワーもスピードも上だ。
紫苑はその差を圧倒的な技量で覆してはいるが、単純な力比べなら白式を纏っている自分の方に利があると一夏は解釈していた。
だが、振り下ろされる紫苑の剣を受け止めた瞬間、ズシリとISのパワーアシストを超える重みが一夏の腕に伝わった。
「なっ!?」
一夏はその剣を受け止め切ることが出来ず、地面に這いつくばるような体勢になってしまう。
さらに驚くべきは、一夏の周囲の地面が今の一撃の重みに耐えきれず、クレーターの様に凹みが出来ていた。
「な、なんだ今の剣の重みは………?」
地面に這い蹲った一夏は一瞬呆けるが、すぐに気を取り直して剣を構える。
「剣の重みは『力』や『技』だけじゃない…………剣に込められた想いの強さも剣の重さになる………!」
今度は紫苑から斬りかかり、一夏はそれを受け止めるがあまりの衝撃に大きく後退する。
「ぐっ………! だけど、想いの強さなら俺だって!!」
一夏は威勢よく叫んで斬りかかるが、その一撃は再び軽い音を立てて弾かれた。
「もう一度言うぞ………! お前の想いには『芯』が無い! 『芯』が無い想いなど容易く圧し折れる!!」
紫苑は武器をナックルグローブに変形させ、一夏に強烈なボディーブローを見舞う。
「がはっ!?」
大きく吹き飛ばされた一夏は膝を着いた。
「何でだ………? 俺は『仲間』を護る為に…………それじゃ足りないのか………?」
一夏は膝を着いたまま自問する様に呟く。
「俺から言わせてもらえば、『仲間』を護ることは当然の事なんだよ」
「えっ…………?」
「『仲間』を護りたい、『友達』を護りたい…………そんな事は自然に思う事だ。けどな、その全てをかなぐり捨ててまで俺には『護りたい者』がいる…………」
一夏の目には、紫苑の姿が大きく見えていた。
「『ネプテューヌを護る』。それが俺の想いの『芯』だ………!」
その姿に、圧倒的な想いの大きさに、一夏の心は敗北を認めそうになった。
剣を握るその手からも力が抜けていき、剣を取り落としそうになった瞬間、
「立て! 一夏!!」
観客席から声が響いた。
「ほ、箒さん!?」
セシリアが驚く。
「お前は………! お前はその程度で屈する男ではあるまいっ!? 立て! 立て一夏!!」
必死に叫ぶ箒。
「ちょ、何言ってるのよアンタ!? 万一にも一夏が勝ったら………!」
鈴音も箒の行動が理解できずにそう言ってしまうが、
「そんな事は分かっている! 分かってはいるが…………私はそれ以上に………あんな格好の悪い一夏は見たくないんだ………!」
箒のその言葉、その姿に他の4人はハッとなる。
「…………そう……だよね…………あんなカッコ悪いの、一夏らしくないよね!」
シャルロットがそう呟く。
そして、
「一夏! 頑張れーーーッ!!」
シャルロットが一夏を応援し始めた。
「いつまで座り込んでんのよ! さっさと立ってバシッとやっちゃいなさい!!」
鈴音も握り拳を握ってそう叫ぶ。
「私に向かってきたあの威勢は何処に行った!?」
ラウラも、
「お立ちになって一夏さん! 負けないでくださいまし!」
セシリアも。
「一夏! 勝て!」
そして箒も。
それぞれが自分の損得を考えずに想い人を応援する。
それを一夏は呆然と見ていた。
「箒………セシリア…………鈴…………シャルロット…………ラウラ…………」
その声援を聞いていると、剣を取り落としそうになっていたその手に力が戻る。
「ッ! うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
一夏は表情を引き締め立ち上がると、再び紫苑に向かって突っ込んだ。
紫苑はその剣を受け止めようとしたが、
「ッ!?」
先程とは比べ物にならない剣戟の強さに、紫苑は思わず弾かれるように後退した。
「紫苑! 俺は………お前に何を言われようとこの想いを曲げるつもりは無い! 俺は『仲間』を護る! それが俺の想いの『芯』だっ!!」
一夏がそう叫んだ瞬間、白式が光を放った。
「ッ!?」
紫苑はその光に思わず目を庇う。
「えっ!? 何々!? もしかしてピンチな時にありがちな仲間の声援を受けてパワーアップって奴!?」
ネプテューヌが冗談交じりにそう言うが、
「この光は………!」
「もしかして
ラウラとシャルロットがそう言う。
光が収まると、一夏は姿を変えた白式を纏っていた。
第二形態『雪羅』。
一夏の前に表示されたモニターにそう表示されていた。
ウイングが大型化して4機に増え、左腕が右腕よりも大きく、多機能武装腕とも言える装備になっていた。
「…………行くぞ!」
だが、今の一夏は剣だけで全てを決めるつもりだった。
故に細かい説明には目もくれず、紫苑を見据える。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
ウイングが大型化し、そのスピードも増した勢いで紫苑に斬りかかる。
ガキィッ!と先程までは明らかに違う剣のぶつかる音が響き、一夏は紫苑を弾き飛ばした。
紫苑はその勢いに逆らわず、空中で上手く体勢を立て直して着地する。
だが、その頬からは一筋の血が流れだしていた。
一夏は油断なく剣を構える。
「シオンに傷を………!」
アイエフが驚いた声を上げた。
「………………」
紫苑は無言でその傷を親指で拭う。
(そうか…………一夏はそういうタイプだったのか………………自身の想いは弱くとも、『仲間』の想いを束ね、重ね、自分の剣に乗せられる……………想いの『芯』は弱くとも、『仲間』達の想いがその『芯』を鍛え上げ、強い『刃』と化す………………剣に例えるなら一夏はしなやか『芯』と硬い『刃』を併せ持つ『日本刀』か…………それが俺とは違う、一夏の出した『心』の答え…………)
紫苑は油断なく身構える一夏を見据える。
「一夏…………認めよう、お前の『強さ』を!」
紫苑は剣を横向きにして前に突き出しながら言う。
「そして同時に非礼を詫びよう。俺は今までお前を『対等』には見ていなかった。あくまで自分よりも『下』にいる未熟者だと……………だが、それは間違いだった。お前は『仲間』が居てこそ強くなれる『強き者』だった……………だから、ここからは俺も今出せる全力でお前と戦おう!」
「ああ…………ここからが本当の勝負だ!」
紫苑の言葉に一夏も応える。
「…………行くぞ!」
紫苑は剣を切り上げを放つような体勢で振りかぶる。
「来い! 紫苑!」
一夏がそう言った瞬間、紫苑は突然剣を空高く投げ放った。
「ッ!?」
その行動に、思わず一夏も、観客席にいた全員もその剣を視線で追う。
そして、
「シェアライズ!!」
紫苑が叫んだ瞬間、回転しながら宙を舞っていた剣の向きが突然変わり、一直線に紫苑へと向かって行く。
そしてそのまま紫苑を剣が貫いた。
「なっ!?」
一夏は一瞬その行動に驚くが、次の瞬間紫苑を中心に炎の柱が立ち昇った。
何が起こっているのか理解できない一夏だったが、その目は油断なく紫苑が居た所を見つめる。
少しすると、その炎の柱は四散する様に消え去り、
「『騎士』バーニングナイト…………推参…………!」
その中から、赤いプロテクターを身に纏い、顔にヘッドギアを付けた青年の姿があった。
「なっ…………まさか…………紫苑………?」
一夏が何とか絞り出したその言葉に、
「その通りだ。女神パープルハートの騎士、バーニングナイト。これが『守護者』としての俺の姿だ」
一夏の言葉にバーニングナイトとなった紫苑が答える。
「一夏、ネプテューヌを手に入れたいというのなら、俺に勝たなければそれは不可能だ」
バーニングナイトは冷静な声でそう言う。
その声で一夏も冷静さを取り戻したのか、剣を構えなおした。
「ああ…………そのつもりだぜ…………!」
一夏は目を瞑って精神を集中する。
「この一撃に………俺の全てを込める!」
一夏は目を見開き、
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
一夏は全力で剣を振り下ろす。
「…………………………ッ!」
バーニングナイトはそれを一歩も動かずに見据え、
ガキィィィィィィィィィィィィィィィンっとアリーナ中に響き渡るほどの剣戟の音が鳴り響いた。
バーニングナイトは剣を横に構えて一夏の剣を受け止めていた。
だが、その足元には数メートルほど後退した跡が残されている。
「………………………一夏…………いい一撃だった……………今度は…………俺の番だ!」
バーニングナイトがそう言うと、受け止めていた一夏の剣を弾き、その身に炎を宿らせる。
「なっ……………!?」
一夏はその炎に目を見開く。
「フレイムアサルト…………!」
バーニングナイトはそう呟くと一気に一夏に接近。無数の乱撃を加え、一夏を宙に浮かす。
そして上段に振りかぶると、宙に浮いた一夏を地上に向かって斬り付けるように飛翔し、地上に激突した一夏は地面にバウントしてもう一度宙に浮かせると、今度はそのまま上空へ向かって切り上げ続ける。
そして、ある程度の高さに来たところで一気に斬り抜いた。
更に蓄えられた炎エネルギーが爆発を起こし、一夏に最後の止めを見舞った。
落下し、地面に倒れる一夏。
それと同時に白式も強制解除された。
バーニングナイトはゆっくりと地面に降り立つ。
「俺の勝ちだ…………一夏」
地面に倒れる一夏にそう宣言する。
「ああ………………」
一夏は頷く。
だが、
「ああくそっ…………悔しいなぁ…………!」
右腕で目を隠しながら震える声でそう言う一夏。
見えないようにしているが、泣いていることが分かった。
「…………………………」
バーニングナイトはそんな一夏を見ると、ネプテューヌへ顔を向ける。
ネプテューヌはバーニングナイトが言いたいことを理解したのか頷くとその場で女神化した。
倒れている一夏が静かに泣いていると、
「イチカ」
聞こえた声に一夏はハッとなって身を起こす。
そこには、ネプテューヌが女神化したパープルハートが佇んでいた。
「ネ、ネプテューヌさん…………!」
一夏はゴシゴシと涙を拭って表情を取り繕う。
「イチカ、何か私に伝えたい事があるんじゃない?」
パープルハートは微笑みながらそう言う。
すると、一夏は少し考え込む仕草をして一度バーニングナイトを見た。
彼は、腕を組みながら一夏とは反対の方向を向いている。
「………………紫苑……」
一夏は呟くと、もう一度パープルハートに向き直った。
そして、
「……………ネプテューヌさん」
一夏はパープルハートに呼びかける。
「なあに?」
その呼びかけに応えるパープルハート。
一夏は一呼吸置くと、
「……………俺は…………あなたが好きです…………!」
その思いを口にした。
「…………………ありがとうイチカ。そう思ってくれるのは、正直嬉しいわ」
パープルハートは一夏の言葉にそう返す。
「………だけどごめんなさい。私にはあなたの気持ちを受け取ることは出来ないわ。私が愛してるのはシオンなの…………この気持ちは未来永劫変わらないわ」
パープルハートはそう言って一夏の告白を断った。
「そう………ですか…………」
一夏は見るからに気落ちした態度になる。
「だけど、それも私の事を想ってくれるのなら、私をこれからも信仰してほしいわ。私は女神…………私を想う心は私の力になるから」
「ネプテューヌさん…………」
「それに、イチカなら直ぐに良い人が見つかるわ。女神である私が保証してあげる」
パープルハートはそう言いながら視線を箒達5人へ向ける。
「案外近くに居るかもね?」
そう言い残してパープルハートは一夏の前から去った。
「……………紫苑」
一夏はバーニングナイトに呼びかけた。
「何だ?」
「…………絶対に………絶対にネプテューヌさんを幸せにしろよ………!」
バーニングナイトはその言葉に一瞬呆気にとられるが、すぐに笑みを浮かべ、
「ああ……………もちろんだ」
そう答えた。
「約束だからな………!」
一夏はそう言いながら拳を突き出す。
「ああ………男と男の………な」
そう言ってバーニングナイトも拳を突き出し、拳同士をぶつけ合った。
19話の完成。
とりあえず一夏の失恋の回です。
色々考えた結果あんな感じに。
一夏の仲間を護る想いは間違っているとは思ってませんのであんな感じに表現してみました。
どうでしたでしょうか?
あと白式も二次移行させときました。
ここしかさせるところが無かったので………
そしてやっとこさ出てきた久々の紫苑の変身。
と言いつつもAルートでの変身の出番はあと一回ぐらいしかないんですよね。
というか、Aルートは後2話………長くても3話で終了予定。
その後は少し戻ってBルートが始まります。
お楽しみに。