超次元インフィニット ネプテューヌ・ストラトス   作:友(ユウ)

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第17話 力を求める少女(ラウラ)

 

 

 

その夜、紫苑はプルルートとピーシェと一緒に食堂へ向かっていた。

すると、曲がり角から箒とセシリアに両腕を組まれて歩いていた一夏達と鉢合わせた。

 

「よ、よう紫苑」

 

「一夏…………」

 

両手に花状態の一夏を見てやや呆れた視線を向ける紫苑。

しかし、一夏と同室のシャルルの姿が見えないことに気付いた。

 

「シャルルは如何したんだ? 姿が見えないようだけど?」

 

すると、一夏の表情が焦りを見せた。

 

「シャ、シャルルはちょっと風邪っぽいから部屋で休んでるんだ! で、でも症状は軽いみたいだから明日には治ってるんじゃないか!?」

 

若干どもり気味の言葉でそう言う一夏。

 

(………………………一夏の奴、明らかに様子が変だな。シャルルに関して秘密にしておきたい事が出来たって感じか……………何となく予想は付くけど…………)

 

紫苑はそう察しながらも、自分の周りに被害が無い限り手を出すつもりは無かった。

 

「そうか…………それにしても両手に花だな、一夏」

 

紫苑は茶化し半分、箒とセシリアへの援護のつもり半分でそう言う。

 

「は? 何言ってるんだ? さっきから歩きにくくて仕方ないんだけど…………」

 

と、そう言った瞬間、

 

「うごっ!?」

 

両側から脇腹に肘鉄を喰らっていた。

 

「この状況で他に言うことは無いのか…………」

 

「自らの幸福を自覚しない者は犬にも劣りますわ」

 

2人の言葉に紫苑は内心激しく同意した。

 

「苦労してるな、2人共…………」

 

2人に同情する様にそう言う紫苑。

 

「月影さんは分かってくれるのですね?」

 

「一夏さんは月影さんの爪の垢を煎じて飲むべきですわ!」

 

2人は思わずそう言うと、

 

「お、俺の心配はないのか、紫苑?」

 

肘鉄を喰らって蹲る一夏がそう言ってくるが、

 

「自業自得だ。もう少し女心を理解する努力をしろ、この唐変木」

 

紫苑は一夏の言葉を切って捨てる。

 

「いや、意味わからんぞ?」

 

一夏の反応に紫苑は、はぁ、と溜息を吐く。

 

「よしよ~し、痛かったよね~」

 

と、何故か子供を相手にするような口調と態度で一夏の頭を撫でるプルルート。

 

「天使はここにいた!」

 

唯一優しくしてくれるプルルートに一夏は感激する。

 

「天使じゃなくて~、女神だよ~」

 

訂正の言葉を入れるプルルート。

すると、一夏はプルルートが腕に抱いていた物に目が行く。

 

「あれ? それって……………」

 

一夏が声を漏らすと、

 

「あ~、これ~?」

 

一夏の視線に気付き、プルルートは腕に抱いていた物を皆に見えるように差し出す。

 

「じゃ~ん、いちか君人形だよ~!」

 

それは、プルルートの手作りのデフォルメされた一夏のぬいぐるみだった。

 

「おお、俺だ!」

 

一夏の特徴をしっかり捉え、デフォルメされても一夏だとわかる出来栄えに、一夏は感心した声を漏らす。

 

「あたし~、お友達のぬいぐるみを作るの、好きなんだ~」

 

プルルートはニッコリと笑いながらそう言う。

 

「た、確かに良く出来てはいるが…………」

 

「このようなものを作るとは…………もしやプルルートさんも一夏さんの事を…………?」

 

一夏のぬいぐるみを作った意味を深読みして怪訝な表情になる箒とセシリア。

 

「ああ、その心配は無いぞ」

 

紫苑は2人の考えを否定する様にそう言った。

 

「プルルートがぬいぐるみを作るのは普通に趣味だからだ。俺やピーシェも作ってもらったことがあるし、この学園に来てからも、一夏の物を作る前に同室の楯無のぬいぐるみを先に作ってる。だからプルルートがぬいぐるみを作る意味に、友達以上の感情は持ち合わせていない」

 

「ぴーもつくってもらった!」

 

「そ、そうですか………」

 

紫苑とピーシェの言葉に明らかにホッとした箒とセシリア。

相変わらず一夏は何も理解していないようだが。

彼らはそのままそろって食堂へと向かって行った。

 

 

 

数日後。

紫苑は再びセシリアと鈴音に模擬戦の相手を頼み、現在アリーナで向かい合っていた。

紫苑の機体の慣らし運転兼、セシリアと鈴音の学年別トーナメントへの特訓である。

 

「準備は宜しいですか?」

 

「今日こそ吠え面掻かせてやる!」

 

この数日の間に何度か模擬戦を行っているが、セシリアと鈴音は全敗を喫しているため、今日こそはと意気込みを感じさせる。

3人がメインウエポンを構え、模擬戦を開始しようとした時、

 

「「「ッ!?」」」

 

超音速で砲弾が飛来し、地面に着弾した。

その砲弾の発射地点に視線を向けると、

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ…………」

 

専用機である『シュヴァルツェア・レーゲン』を纏ったラウラがレールガンをこちらに向けていた。

 

「…………どういうつもり? いきなりぶっ放すなんていい度胸してるじゃない」

 

青龍刀である双天牙月を肩に担ぎながら、不機嫌そうな表情を隠さずに鈴音がそう言う。

 

「中国の『甲龍』にイギリスの『ブルー・ティアーズ』か…………ふん、データで見た時の方がまだ強そうではあったな」

 

いきなりの挑発的なラウラの言葉にセシリアと鈴音はカチンときた。

 

「何? やるの? わざわざドイツくんだりからやってきてボコられたいなんて大したマゾっぷりね。それともジャガイモ農場じゃそう言うのが流行ってるの?」

 

「あらあら鈴さん、こちらの方はどうも言語をお持ちでないようですから、あまり虐めるのはかわいそうですわよ? 犬だってまだワンと言いますのに」

 

2人は言葉で言い返そうとしたが、

 

「はっ………2人がかりで量産機に負ける程度の力量しか持たぬ者が専用機持ちとはな。よほど人材不足と見える。数位しか能の無い国と、古いだけが取り柄の国はな」

 

更なるラウラの言葉で一気に血が頭に上った。

 

「ああ、ああ、わかった。わかったわよ。スクラップがお望みなわけね…………セシリア、どっちが先にやるかじゃんけんしよ」

 

「ええ、そうですわね。わたくしとしてはどちらでもいいのですが…………」

 

「はっ! 2人がかりで来たらどうだ? 1+1は所詮2にしかならん。下らん種馬を取り合う様なメスに、この私が負けるものか」

 

最後のラウラの言葉が止めとなり、2人の堪忍袋の緒が切れた。

 

「…………今なんて言った? あたしの耳には『どうぞ好きなだけ殴ってください』って聞こえたけど?」

 

「場に居ない人間の侮辱までするとは、同じ欧州連合の候補生として恥ずかしい限りですわ。その軽口、二度と叩けぬようにここで叩いておきましょう」

 

「とっとと来い」

 

「「上等!」」

 

ラウラの言葉を切っ掛けにセシリアと鈴音が飛び出す。

その瞬間、

 

「はいストップ!」

 

今まで傍観していた紫苑がセシリアと鈴音の脳天にブレードのみね打ちでそれぞれ一撃ずつ喰らわせて、強制的に止めた。

 

「あっ!? 痛ぅ~…………!?」

 

「な、何をなさるのですか、月影さん………!?」

 

思わぬ衝撃に鈴音とセシリアは蹲り頭を押さえる。

 

「簡単に煽られてんな! 頭を冷やせ!」

 

紫苑はそう注意する。

 

「で、ですが一夏さんを馬鹿にされたとあっては………!」

 

「そうよ! 挑発ってわかってたって乗るしかないじゃない!」

 

2人はそう言うが、

 

「挑発と分かって敢えて乗る場合と、頭に血が上った感情のままに挑発に乗る場合とじゃ天と地ほどの差があるからな?」

 

前者は余裕を持っているが、後者は挑発によって感情が高ぶっているので余裕は無く、正常な判断が出来なくなる。

 

「「うっ…………!」」

 

そこを指摘され、言葉に詰まる2人。

 

「それに、随分偉そうな事を言っているが、ボーデヴィッヒの奴は見た限り隙は少ない。かなりの実力を持っていると考えていいだろう。そんな奴に2人がかりとはいえ、どんな能力があるかも分からない第三世代のIS相手に勢いのまま突っ込んだら、あっさりと返り討ちになる可能性も少なくないと思うが?」

 

「「ううっ………!」」

 

更に何も言えなくなる2人。

ズーンと落ち込む2人を他所に、紫苑は前に歩み出てラウラと対峙する。

 

「さて、邪魔して悪いな。お前の狙いとしては、これを機に中国とイギリスの専用機のデータを収集しておきたかったって所か? ついでに2人を倒しておけば、ドイツの方が格上だと箔を付けることも出来る」

 

紫苑の言葉にセシリアと鈴音はハッとする。

 

「……………………」

 

ラウラは無言で紫苑を睨み付けているだけだが、否定はしなかった。

 

「まあ、それとは別にお前の個人的感情も混ざっている様だが…………」

 

紫苑はむしろこっちの方が主であると感じていた。

 

「2人を狙ったのは、一夏への見せしめか? お前は相当に一夏を目の敵にしている様だからな」

 

「……………何が言いたい?」

 

ここで初めてラウラが紫苑の言葉に答えた。

 

「簡単に言えば、お前が織斑先生の教え子だというのなら、織斑先生の評価を下げざるを得ない」

 

紫苑の言葉を聞いた瞬間、ラウラの表情が怒りに染まる。

 

「ふざけるな! 教官を愚弄するか!?」

 

「そうなる原因はお前にあるって言ってるんだ」

 

「なんだと!?」

 

「ハッキリ言って、お前の行動は目に余るんだ。模擬戦を申し込んで断られたからと言って無理矢理戦わせようと戦闘態勢に入っていない相手に攻撃する。他者を見下す言動。直接かかわりの無い相手を叩きのめそうとするその意思……………普通の一般人の目から見れば、そいつを育てた奴は何を教えたんだと誰もが思うが?」

 

「ぐ…………あの人の素晴らしさは凡人には理解できるものでは無い! そして、この学園の生徒など教官が教えるに足る人間ではない!!」

 

ラウラは言葉に詰まりながらも紫苑に何とか言い返そうとする。

 

「何故?」

 

「意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしている! そのような程度の低い者達に教官の教えを受ける資格などあるものか!!」

 

ヒートアップするラウラとは対照的に、紫苑は淡々と返していく。

 

「なるほど……………まあ、お前の言う事にも一理ある」

 

あっさりと認めた紫苑に対し、ラウラは少し呆気にとられた。

 

「確かに今年この学園に入学した生徒の多くはお前の言う通りだろう。ISに対する危険性も、意識の甘さも、勘違いもその通りだ」

 

「ならば………!」

 

「けどな…………だからこそ織斑先生がこの学園にいるんだろう」

 

「何っ?」

 

「お前は軍人…………兵士としての心得を基準に考えているに過ぎない。この学園の生徒の多くは一般人だ。それこそ戦いとは無縁のな」

 

「………………………」

 

「そういう生徒たちにISの有用性、危険性、心構えを教えるのが織斑先生を始めとした先生たちの役目だろう? それにISの行きつく先が兵器とは限らない」

 

「ッ!? どういう意味だ! ISは最強の兵器だろう!?」

 

「確かにISは兵器としても優秀だ。女性しか動かせないという事を除けば、圧倒的な汎用性、機能、操縦者の安全…………………だが、なにもその有用性が活かされるのは戦いだけじゃない。災害救助、危険地帯の調査、何よりも元々の目的である宇宙進出。戦い以外にも沢山の利用方法がある。兵器という事も、ISの1つの側面でしかない。危険性を教えるのは大事だが、生徒全員に兵士の考えを押し付けるのはどうかと思うな」

 

「…………………ッ! 黙れッ! ISは最強の兵器だ! それは歴史が証明している!」

 

「ISが世に出てきてまだたったの10年。それで歴史とか言われても困るが…………と言うより、最新の物の殆どが最強になるのは当然だと思うぞ。古いものより劣ってたら新しく作る意味も無いし。ISと言う存在が今までの技術進歩を10歩ぐらいぶっ飛ばしただけで…………」

 

「もういい! 貴様の屁理屈は聞き飽きた!」

 

ラウラは有無を言わさぬ剣幕でレールガンの砲口を向ける。

そして、直後に轟音と共に砲弾が発射された。

しかし、紫苑は1歩も動かず、

 

「………………フッ!」

 

その場で剣を振り上げた。

砲弾は真っ二つとなり、左右に分かれて後方に着弾する。

 

「貴様ッ…………!」

 

ラウラは悔しそうに歯ぎしりをする。

 

「感情で人を攻撃するのは軍人として失格じゃないのか?」

 

「煩い! 貴様に私の何が分かる!?」

 

ラウラは両手にプラズマブレードを発生させ、紫苑に斬りかかってくる。

紫苑はその攻撃を剣で受け流しながら後退する。

 

「何も分からないさ。お前は他人に自分を知ってもらおうとも思って無いだろう? それじゃあ誰にも分かるはずもない」

 

「ならば教えてやる! 私が目指すのは『最強』だ! 『最強』でなくては意味が無い!」

 

ワイヤーブレードが射出され四方から紫苑に襲い掛かる。

が、紫苑は剣で弾いて僅かに軌道を逸らし、身体を少し傾けるだけでその全てを避け切って接近する。

 

「あの人の存在が…………! その『強さ』が私の目標であり、存在理由だ!!」

 

すると、ラウラが右手を前に翳すと、突如として紫苑の動きが止まった。

 

「これは…………?」

 

身動きが出来なくなった紫苑は僅かに驚く。

 

「この私とシュヴァルツェア・レーゲンの前では、誰であろうと敵ではない!」

 

動けない紫苑に向けてレールガンの砲口を向け、発射した。

爆発に呑まれる紫苑。

 

「紫苑!?」

 

「月影さん!?」

 

それを見ていた鈴音とセシリアが叫ぶ。

 

「偉そうな事を言っていた割には大したことは無かったな…………ISは最強の兵器! これでそのことが証明された!」

 

ラウラは高笑いをしそうな勢いでそう言う。

だが、

 

「………………一つ聞きたいが…………」

 

爆煙の中から聞こえてきた声に、ラウラは驚愕した表情を向ける。

すると、爆煙の中から両肩のシールドの片方を失い、全身に爆発によるダメージを負ったものの、まだ戦闘可能と思われる紫苑の姿があった。

紫苑はあの一瞬でシールドを前面に展開。

更にその前にミサイルランチャーを呼び出して誘爆させることで強引に拘束から脱出。

直撃を避けたのだ。

 

「お前は『最強』になって『何』がしたいんだ?」

 

紫苑はそう問いかける。

 

「何だと?」

 

「もう一度聞く。お前は『最強』の『力』を得て『何』がしたいんだ?」

 

「『何』が…………だと?」

 

「『力』とは手段であって目的じゃない。仮にその『力』で『最強』に辿り着いたとして、その矛先は何処に向く?」

 

「そ、それは……………」

 

「お前はさっき織斑先生の『強さ』が目標であり存在理由だと言ったが、お前は織斑先生の事を何も理解してないんだな」

 

「そんな事は…………!」

 

「今のままじゃ絶対に織斑先生の『強さ』にはたどり着けない。それどころか、俺にすら勝てはしない」

 

紫苑はそう言うと剣を構えてラウラに突進する。

ラウラは反射的に手を前に翳し、紫苑の動きを止めようとした。

それは『AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)』…………別名『慣性停止結界』と言い、対象を任意に停止させることが出来るシュヴァルツェア・レーゲンの第三世代兵装だ。

だが、その瞬間紫苑はラウラの視界から消える。

 

「なっ!?」

 

ラウラが驚愕して目を見開いた瞬間、後方からラウラの首筋に刃が添えられた。

紫苑がいつの間にか後ろに回り込んでおり、ラウラに剣を突きつけたのだ。

 

「ボーデヴィッヒ。確かにお前の実力は高い。一年生の中でも恐らくトップクラスだろう……………だけどな、お前の『強さ』には中身が………『心』が無いんだ。そのままではお前の『力』は『暴力』にしかならない…………織斑先生のような『強さ』を身に着けたいのなら、まずは自分の戦う理由を探すことだ。まあ、例え見つけたとしても、お前は織斑先生にはなれないがな」

 

紫苑はそう言うと剣を引く。

 

「何のつもりだ!?」

 

ラウラはその行動を怪訝に思い振り返った。

 

「俺にはお前と戦う理由も無ければその気も無い。今回は先に手を出してきたのがお前だったから反撃しただけの話だ。まあ、これ以上織斑先生の評価を下げたくなければ暫く大人しくしておくことだ。心配せずとも一夏とは学年別トーナメントで戦えるだろう」

 

紫苑はそう言って剣を引くと、背を向けて歩き出した。

ラウラは一瞬その背を撃ち抜いてやろうかという考えが頭を過ったが、

 

(これ以上は、織斑教官の迷惑になりかねない…………)

 

その可能性に思い至り、ラウラは黙って紫苑を見送った。

 

 

 

 

 

 




第17話の完成。
ちょっと中途半端に終わったかもしれない。
まあつなぎ回なので勘弁。
ラウラヒロインになるとか言っときながら結構険悪な雰囲気になってます。
まあ、次回は盛り上がると思いますんでお楽しみに。
そして遂にあの女神様が…………?



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