超次元インフィニット ネプテューヌ・ストラトス   作:友(ユウ)

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第18話 降臨する女神様(アイリスハート)

 

 

 

 

 

タッグトーナメント当日。

紫苑達は更衣室でISスーツに着替えていた。

 

「しかし、すごいなこりゃ」

 

一夏がモニターに映る大勢の観客を見て、声を漏らす。

 

「3年にはスカウト。2年には1年間の成果の確認に、それぞれ人が来ているからね」

 

シャルルがそう説明する。

 

「ふーん、ご苦労なことだ」

 

一夏は、特に興味もないと言った雰囲気でそう言った。

 

「そういえば、紫苑は誰と組むんだ?」

 

一夏がそう聞いてきた。

 

「俺は抽選待ちだ。迫ってきた女子生徒達の誘いを断るには、誰とも組まないという方法しかなかった」

 

「ご苦労さんだな」

 

それだけ聞くと、黙り込む一夏。

 

「一夏は、ボーデヴィッヒさんとの対戦だけが気になるみたいだね?」

 

シャルルが一夏を見てそう言った。

 

「ん? あ、ああ。 まあな」

 

「感情的にならない方がいいよ。 ボーデヴィッヒさんは多分、月影君以外では1年の中でも最強だと思うから」

 

「ああ、分かってる」

 

シャルルの言葉に一夏は頷く。

その時、モニターが切り替わり、トーナメント表が表示された。

 

「あ、対戦相手が決まったね」

 

その言葉に、モニターに向き直る3人。

 

「えっ!?」

 

「なっ!?」

 

「こう来たか………」

 

シャルルと一夏が驚愕の声を上げ、紫苑も意外そうな声を漏らした。

モニターに映し出されたトーナメント表には、

 

『第一試合 織斑 一夏、シャルル・デュノア×ラウラ・ボーデヴィッヒ、月影 紫苑』

 

そう表示されていた。

 

(俺はともかく、示し合わせたかのようなこのクジ運……………一夏も主人公体質持ちか?)

 

ネプテューヌと同じように都合のいい…………もしくは望んでいた状況を手繰り寄せるその体質に紫苑は一夏の事をそう評した。

 

(それに…………俺にとってもこれは都合がいいか…………)

 

紫苑は内心そう思った。

何故なら、この専用機が一度に集まるこの状況をあの女が傍観している筈が無いのだから。

紫苑はそんな思いを表情には出さず、口を開いた。

 

「これはまた面白そうな組み合わせになったな…………」

 

その言葉に一夏が反応する。

 

「し、紫苑…………」

 

「お、お手柔らかにね………」

 

一夏とシャルルが表情を引きつらせながらそう言う。

2人とも紫苑の訓練を見ているので、その実力の高さは承知している。

一年生の中の1位2位を争う2人が組むことになったのだ。

普通に考えれば勝てる気がしない。

 

「どうした? 何もしない内から降参するのか?」

 

紫苑はニヤリと笑って見せる。

すると、一夏はムッとした顔になり、

 

「見くびるなよ。勝負を初めから捨てるほど腐っちゃいない!」

 

そう言ってのける。

 

「その意気だ。そうじゃなきゃボーデヴィッヒとは戦えないな」

 

紫苑の言葉に一夏はハッとなった。

 

「紫苑………お前…………」

 

「クジの結果とは言え、ボーデヴィッヒは俺の仲間になる。お前の味方は出来ないぞ」

 

紫苑はそう言うと、更衣室を出てピットへと向かった。

 

 

 

 

紫苑がピットへ着くと、

 

「やっほ~!」

 

「ぱぱっ!」

 

何故かプルルートとピーシェがいた。

 

「何でいるんだお前達………?」

 

突然の事に呆気にとられる紫苑。

 

「ちふゆせんせーにお願いして~、シオン君の近くで応援できるように~、して貰ったんだ~」

 

「ぱぱ、がんばれー!」

 

その言葉に思わず顔が綻ぶ紫苑。

ピーシェの頭を撫で、口を開いた。

 

「ありがとう2人共。頑張ってくるよ」

 

そう言ってピットの奥へと向かうと、そこには既にラウラが居た。

その表情は不機嫌そうに紫苑を睨み付けている。

 

「まさか貴様がペアになるとはな………!」

 

「そうだな。これも何かの縁だ、よろしく頼む」

 

紫苑はそう言って手を差し出すが、

 

「フン! 慣れ合うつもりは無い! 精々私の邪魔をしないことだ。もし邪魔をすれば、織斑 一夏と共に貴様も叩きのめしてやる!」

 

ラウラは握手には応じず、そう吐いて捨てる。

 

「そんな事言うもんじゃないだろ? クジの結果とは言え今は仲間だ。協力するのは悪い事じゃないと思うが?」

 

「私に『仲間』など必要ない。『仲間』などという馴れ合いをしなければ戦えないのは『弱い』からだ。私は『強者』だ。『仲間』などいなくとも戦える!」

 

眼帯をしていない方の赤い瞳で紫苑を睨み付けるラウラ。

 

「…………………本当にそうか?」

 

紫苑はまるで問いかけるようにそう呟いた。

 

「愚問だな。私はいつでも1人で戦って、そして勝ち抜いてきた。それが答えだ」

 

ラウラはそう言い切り、紫苑に背を向けた。

 

「これ以上無駄な問答をするつもりは無い。さっき言った通り、私の邪魔はしないことだ」

 

そう言い残し、ラウラはISを展開して発進準備に入る。

 

「………………それは、単に気付いて無いだけじゃないのか?」

 

その小さく呟かれた言葉は、ハイパーセンサーによりラウラの耳には届いていたが、ラウラは答える気も無いのか無視をするだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

そして、準備が整い、一夏、シャルルペアとラウラ、紫苑ペアがアリーナの中央部分で睨み合う。

 

「一回戦目で当たるとは………待つ手間が省けたというものだ」

 

ラウラが一夏に向かってそう言う。

 

「そりゃあ何よりだ。 紫苑に聞いたけど、お前はセシリアと鈴を叩きのめそうとしていたらしいじゃねえか?」

 

一夏もそう言い返した。

 

「フン、調子に乗る雑魚共に身の程を教えてやろうと思ったまでだ」

 

その物言いに、一夏は怒りを募らせる。

試合開始のカウントダウンが開始され、0になる瞬間、

 

「「叩きのめす!!」」

 

一夏とラウラが同時に叫び、一夏が一直線に突撃した。

だが、ラウラの発生させたAICで動きを止められる。

 

「くっ!」

 

「開幕直後の先制攻撃か。 わかりやすいな」

 

「……そりゃどうも。 以心伝心で何よりだ」

 

「ならば私が次にどうするかもわかるだろう?」

 

ラウラがそう言うと、肩に装備されたレール砲が、一夏に向けられる。

だが、レール砲が放たれる寸前、一夏の頭上からシャルルが飛び出し、アサルトライフルを撃つ事で狙いをずらし、一夏へ放った砲弾は空を切った。

シャルルが高速切替で武装を呼び出し、両手にアサルトライフルを装備する。

 

「逃がさないっ!」

 

ラウラへ向かって発砲。

ラウラは何発か貰った後、回避行動をとってその場を離脱する。

シャルルは追撃を掛けようとしたが、後退するラウラの前にシールドを構えた紫苑が割り込み、弾丸を防ぎながらシャルルへ接近する。

 

「まずっ!」

 

紫苑がブレードを持っているのを見て、シャルルは慌てて後退した。

紫苑は無理に追撃せず、その場に留まって剣を構える。

 

「仲間をそう簡単にやらせるわけにはいかないんでね」

 

が、次の瞬間瞬時加速(イグニッション・ブースト)で斬りかかった。

すると、一夏が示し合わせたように前に出て紫苑の一撃を受け止める。

そして紫苑の動きが止まった瞬間、後方からシャルルがアサルトライフルを構えた。

一夏とシャルルがニヤリと笑い、シャルルが引き金を引こうとした瞬間、

 

「…………フッ」

 

紫苑が不敵に笑うと僅かに足をズラした。

すると、ラウラが後方から放っていたワイヤーブレードが先程までシオンの足があった場所を通り過ぎる。

さらに次の瞬間、紫苑はそのワイヤーブレードを蹴り上げた。

 

「くっ!?」

 

軌道を変えられたワイヤーブレードは一夏の肩を掠め、体勢を崩すと、そのまま後方のシャルルに向かって行く。

 

「ッ!?」

 

それに気付いたシャルルは攻撃を中断してそれを避けた。

更に紫苑がその場から上昇すると、ラウラが両手にプラズマブレードを発生させて切り込んできた。

それに気付いた一夏は慌てて体勢を立て直し、その攻撃を受け止める。

すると、

 

「ナイス援護」

 

紫苑がラウラに声を掛ける。

 

「……………チッ!」

 

だが、ラウラは不快そうに表情を険しくするだけだ。

何故なら、先ほどのワイヤーブレードは紫苑を援護したわけでは無く、一夏を叩きのめす邪魔になる場所にいたので、放り投げようと紫苑に向けて放ったものだからだ。

だが、紫苑はそれをあっさりと見切ったばかりか、逆に自分の有利になるように利用した。

ラウラにとって先程の言葉は皮肉にしか聞こえていなかったのだ。

試合は続行していくが、その中でも紫苑は飛び抜けていた。

ラウラは紫苑とはコンビネーションをする気などは全く無いのだが、一夏とシャルルの連携攻撃の前にピンチになったかと思えば、紫苑がシールドで防ぎピンチを脱する。

ある時は紫苑諸共レールガンで撃ち抜くつもりでも、まるで示しわせたかのように紫苑は絶妙なタイミングで退避、結果は相手のみにダメージを与え、またある時はラウラの攻撃を利用し、更には紫苑自身の攻撃をもラウラに利用させ、絶妙な連携攻撃となる。

一夏とシャルルの連携も見事なものだが、紫苑とラウラのペアの連携は、結果的にその上を行くように見えていた。

 

 

 

「凄いですねぇ………織斑君とデュノア君の連携も見事な物ですけど、月影君とボーデヴィッヒさんの連携はその上を行きますよ」

 

教師だけが入ることを許されている観察室で、モニターに映し出される戦闘映像を眺めながら、真耶が感心したように呟く。

 

「…………あれは連携などではない。ラウラが単独で戦闘している所に月影の奴が無理矢理乱入して結果的に連携の様になっているだけだ。月影の奴がその気になれば、あっという間に決着がつく」

 

千冬がそう言う。

 

「月影君は手を抜いてるって事ですか?」

 

「積極的になってないという意味ではその通りかもしれんが、私にはこれが『指導』に思える」

 

「『指導』…………ですか?」

 

「ああ。ラウラに『仲間』の大切さを教えるための…………な」

 

千冬はそう呟いてモニターを注視した。

 

 

 

 

 

 

試合は終盤に入っていた。

紫苑のSEは8割ほど残っているが、ラウラのSEは約半分。

一夏のSEは先程『零落白夜』が使えなくなったのであと僅か。

シャルルも3分の1残っているかどうかという所だろう。

それでも一夏達には諦めの色は無かった。

一夏とシャルルは2人がかりでラウラに向かい、ラウラもそれを迎撃するために動く。

斬りかかってきた一夏を軽くあしらい、シャルルに対してAICを発動させようとした。

だがその瞬間、紫苑にも予想出来なかった事が起こった。

何故なら、銃声と共に紫苑とラウラが銃弾を受けたのだ。

ご丁寧に紫苑を先に攻撃して援護に入らせないというおまけ付きで。

その銃弾を放ったのは、シャルルのアサルトライフルを構えている一夏だった。

一夏の白式には射撃武器が無い。

その先入観が紫苑にも油断を産ませたのだ。

そして、最後のチャンスと言わんばかりにシャルルがぶっつけ本番でモノにした瞬時加速(イグニッション・ブースト)でラウラの懐に飛び込む。

紫苑のラファールにも装備されているパイルバンカーをラウラに叩き込み、ラウラを大きく吹き飛ばした。

 

「ラウラ!」

 

紫苑は思わずラウラの名を呼び、援護に向かおうとするが、

 

「行かせるかよ!」

 

シャルルのアサルトライフルを構えた一夏が牽制で撃ってくる。

 

「一夏っ!」

 

紫苑はライフルを呼び出して引き金を引く。

放たれた弾丸はアサルトライフルに命中し、破壊した。

 

「うわっ!?」

 

爆発に思わず怯む一夏だが、その間にシャルルがラウラをアリーナの壁に押し付け、パイルバンカーを連射していた。

 

「くっ!」

 

紫苑はラウラを助けようとシャルルに向かってライフルを構えた瞬間、

 

「ああああああああああああっ!!!」

 

ラウラのISが紫電を放つと共に衝撃が発生し、シャルルが吹き飛ばされた。

 

「何だ!?」

 

紫苑は思わず声を上げる。

すると、彼らの目の前でラウラの『シュヴァルツェア・レーゲン』がまるでドロドロと溶ける様に姿を変えていき、ラウラの姿を飲み込んでいった。

 

 

 

 

 

(一体、何が起こったのだ!?)

 

ラウラは溶けたISに飲み込まれようとする刹那、必死に考えていた。

こうなる寸前、ラウラには声が聞こえた。

 

『願うか………? 汝、自らの変革を望むか………? より強い力を欲するか………?』

 

シャルルの猛攻の前に敗北の2文字が見えていたラウラは、その瞬間には迷わずにその声に縋り付いた。

敵を倒すために。

何よりも憧れである千冬を、強く、凛々しく、堂々としている千冬の表情を優しい笑みに変えてしまう一夏の存在を叩き潰すために。

だが、その求めた力が間違いであることにはすぐに気付いた。

 

(ち、違う…………私の求めた『強さ』は……………織斑教官の『強さ』は決してこんな醜悪なものでは無い!)

 

黒く液状化したISに呑まれゆく中、ラウラは必死に打開策を考える。

 

(思い出せ! 私は今までどうやって危機を乗り越えてきた!? 私は今まで1人で危機を乗り越えてきたのだ! 今回だって……………思い出せ! ラウラ・ボーデヴィッヒ!)

 

ラウラは刹那の中、その答えを探そうとする。

そして……………

 

『隊長!』

 

(……………え?)

 

その答えに思い至ったとき、

 

『大丈夫でしたか? 隊長!』

 

(………………あ)

 

自分の愚かさを思い知った。

 

『『『『『隊長!』』』』』

 

思い出したのは、自分が隊長を務める特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』、通称『黒ウサギ隊』の隊員達。

ラウラは今まで1人で戦っている気になっていた。

部下に助けられた時も、

 

『余計な事をするな! あの程度私1人でも如何とでも出来た!』

 

そう言って碌に感謝の言葉も言わずに怒鳴りつけていただけだった。

 

(…………………私は…………なんて愚かな……………)

 

ラウラは不意に、試合前に紫苑に言われた言葉を思い出した。

 

『………………それは、単に気付いて無いだけじゃないのか?』

 

紫苑(あの男)の言う通りだった…………私は気付いていなかった………いや、気付かない振りをしていただけだった……………認められなくて………自分が『弱い』と認めてしまうのが嫌で認めたくなかった……………私は………1人で戦っていたわけでは無かった………)

 

ラウラは視界が黒いモノに覆われていく中、不意に一夏とシャルルの姿を捉えた。

 

「…………た、助け…………」

 

助けてと言おうとしたその言葉を飲み込む。

 

(私は何を言おうとしていた…………? 勝手に目の敵にして、容赦なく襲い掛かり、その友人たちにも牙をむいた私を助けるとでも…………?)

 

僅かに視界に移る一夏の表情は飲み込まれていくラウラ自身よりも変化していくISの方に驚愕し、気を取られ、ラウラの表情には気付いていない様だ。

ラウラはもがき苦しむが、それを嘲笑うかのように変化したISはラウラを呑み込んでいく。

体、頭と変化していくISに呑み込まれ、最後に助けを求める様に虚空に伸ばした手も呑み込まれようとしていた。

 

(嫌だ…………こんなのは嫌だ…………!)

 

意識も闇に沈もうとするラウラは、僅かに見える光に向かって必死に手を伸ばそうとする。

だが、意識は闇に沈むばかりで僅かに見える光も闇に呑まれようとしていた。

 

(………誰か…………お願い……………)

 

ラウラは闇の中年相応の少女の様に涙を流す。

そして遂に僅かに見えていた光も闇に呑まれ、意識も沈んでいき、伸ばしていた手も諦めた様に力を失っていく。

 

(………………………………たすけて)

 

誰にも聞こえない小さな願い。

簡単に闇に呑まれる弱々しい思い。

だが、その瞬間、最後に伸ばしていた手が不意に誰かに掴まれた。

 

(えっ………………?)

 

闇に呑まれた光が強く輝き、同時に手が強く引かれて光へと引っ張り上げられる。

そして、一気に開けた視界に映ったのは、

 

「ラウラぁあああああああああああああああっ!!!」

 

助けを求めるために伸ばした手をしっかりと掴み、電撃を放ち続ける得体のしれないISからラウラを引っ張り出そうとする紫苑の姿だった。

 

「…………月影………紫苑…………何故………?」

 

ラウラは自分を助けようとしている紫苑に対して驚愕の表情を浮かべる。

 

「今は………『仲間』だからな」

 

紫苑はそう言って笑って見せる。

その笑顔を見た瞬間、ラウラの心臓が一度強く高鳴った。

すると、紫苑は表情を引き締め、

 

「一気に引っ張り出す! 苦しいかもしれないが我慢してくれ!」

 

「あ、ああ!」

 

一瞬呆けたが、すぐに頷くラウラ。

 

紫苑は意識を集中し、ラウラの背中に反対側の手を回す。

 

「行くぞ!!」

 

掛け声と共に、一気にラウラを変化したISから引っ張り出した。

紫苑はラウラをそのISから庇うように抱きしめた。

その際、ラウラは赤面したが紫苑にはその事を気遣っている余裕は無かった。

 

「ラウラ、お前は『仲間』が居る理由が『弱い』からだと言っていたが、俺はそうは思わない」

 

紫苑はラウラに言い聞かせるようにそう言う。

 

「何故なら、『仲間』とはその者が持つ『強さ』の一部だからだ…………!」

 

紫苑はラウラを左腕で抱きしめつつ、右腕のパイルバンカーを装填する。

 

「そして今はお前も俺の『仲間』だ。つまり、お前は俺の『強さ』の1つであり、同時に俺もお前の『強さ』の1つだ!!」

 

紫苑はそう叫びながら、振り向き様にパイルバンカーをシュヴァルツェア・レーゲンだったものに叩き込んだ。

それが止めとなり、そのISは沈黙する。

そして今気付いたが、いつの間にか警報が発令されていたようでアリーナのシェルターは閉まっていた。

そんな事は関係なく紫苑の腕の中にいたラウラは紫苑の顔を見上げていた。

あれ程までに突き放したのにも関わらず、紫苑は自分を助けてくれた。

そして仲間だと言ってくれた。

だが、今のラウラの心の中にはそれだけではない想いが溢れていた。

 

(………………これは何だ…………教官に対する憧れとも違う、この身を焦がすような熱い想いは…………これが惚れるという事なのか?)

 

真剣な表情を浮かべる紫苑の横顔。

それを見ているだけでラウラは顔から火が出そうなほど。

しかし、同時におかしいことに気付いた。

 

(どういう事だ? 何故警戒を解いていない?)

 

シュヴァルツェア・レーゲンだったものは完全に沈黙している。

それなのに紫苑は警戒を解いていない。

むしろ、ますます警戒心を高めているように思える。

ラウラは疑問に思ったが、それも次の瞬間には理解できた。

紫苑は瞬時に上を向いたかと思うと、ラウラを抱きかかえてその場を離脱する。

次の瞬間、バチィッという放電するような音が上空から聞こえてきたかと思うと、つい先ほどまで紫苑達がいた場所に弾丸が撃ち込まれた。

 

「やはり来たか…………」

 

紫苑は呟く。

すると、

 

「あはははははははははははははっ!!」

 

耳障りな女の笑い声が響くと共に、上空から2つの影がアリーナに降り立った。

それは以前無人ISが襲い掛かってきた後に奇襲をかけてきた女。

そして、

 

「……………………………」

 

無言のままその女の横に降り立つバイザーを付けた黒髪で右腕が機械の義手となっている少女。

 

「…………………翡翠」

 

紫苑は翡翠を見ると拳を握りしめる。

すると、

 

「良く避けたじゃない。褒めてあげるわ!」

 

「別に? お前は漁夫の利を狙うハイエナみたいな奴だからな。以前と同じようなこの状況なら現れる可能性が高いと踏んでいただけだ」

 

紫苑は冷静を装いながら言い返す。

 

「お前はあの時の!」

 

一夏が叫ぶ。

 

「一夏、この人知ってるの?」

 

シャルルが一夏に問いかけると、

 

「ああ。以前にも襲撃をかけてきた女だ…………そして………」

 

一夏は黒髪の少女―――紫苑の妹の翡翠へ視線を向ける。

 

「あっちの子は…………紫苑の妹だ」

 

「えっ!? 月影君のっ!?」

 

一夏の言葉にシャルルは驚き、ラウラも目を見開く。

 

「説明どうも! だけど、私達はお喋りに来たわけじゃないのよね」

 

女はライフルを向ける。

 

「さあ、あんた達のISを渡してもらおうかしら? 碌にSEも残ってないんでしょ?」

 

女の言葉に、紫苑はブレードを展開することで答えた。

 

「あら? もしかして私達と戦うつもり? こっちにはアナタのカワイ~イ妹がいるのよ?」

 

女は紫苑の動揺を誘うようにそう言ってくるが、紫苑はラウラを地面に降ろすと、

 

「戦うさ。翡翠を助けるために、翡翠を倒す!」

 

迷いなくそう言い切った。

 

「ッ!?」

 

女が驚愕した瞬間、紫苑は瞬時加速(イグニッション・ブースト)で翡翠に向かって突っ込む。

 

「まずはISを強制解除させる! 洗脳を解く方法を探すのはその後だ!」

 

紫苑はブレードを振りかぶる。

 

「反撃しなさい!」

 

女の命令で、翡翠はライフルを呼び出しそれを構えた。

 

(洗脳されている翡翠の意識の隙間を突くのは難しい…………ここは敢えて真っ向勝負!)

 

紫苑はそう思うと両肩のシールドを展開して放たれる弾丸を防ぎながら近付く。

すると、翡翠は一瞬で武器をグレネードに変更する。

 

高速切替(ラピッド・スイッチ)!? 僕と同じ技能を!?」

 

シャルルが驚愕する。

その瞬間グレネード弾が放たれ、紫苑のシールドに直撃。

爆発に呑まれる。

だが紫苑は直後に爆煙を切り裂き止まることなく姿を見せる。

片方のシールドは破損していたが、そんな事で紫苑は怯まない。

 

「うおおおおおおっ!!」

 

紫苑はブレードを振りかぶり斬撃を放つ。

その一撃はグレネードランチャーを切り裂き、破壊する。

翡翠はすぐに手を離し、爆発に巻き込まれるのを避けたが、

 

「ここだ!」

 

紫苑が左腕を振りかぶり、翡翠の腹部に向けてパイルバンカーを撃ち込もうとした。

だが、その一撃が叩き込まれる寸前、パイルバンカーが撃ち込まれる部分の前に、ミサイルランチャーが展開され、パイルバンカーの杭はそのミサイルランチャーに突き刺さる。

 

「何っ!?」

 

紫苑が驚愕した瞬間、そのミサイルランチャーが爆発し、お互いを押しやる。

 

「くっ!」

 

お互いにダメージは受けたようだが、ミサイルランチャーに直接突き刺さっていた左のパイルバンカーの杭が破損していた。

 

「こっちはもう使えないか…………」

 

紫苑はそう呟くと迷うことなくパージし、身軽になることを優先する。

 

(我が妹ながら、戦闘センスは抜群だな………翡翠にこれ程の才能があったなんてな…………しかも俺と同じような手を使うとは………)

 

「…………だが!」

 

紫苑は叫ぶと共に飛び出す。

翡翠はブレードを展開し、紫苑に対抗する。

ブレードとブレードがぶつかり合い、火花を散らす。

しかし、紫苑の熟練された剣技の前では、たった数年の訓練の………しかも洗脳された状態の翡翠の剣は児戯に等しい。

紫苑は翡翠のブレードを弾き、空いた隙に攻撃してダメージを蓄積させていく。

 

「洗脳されている分、動きはどうしても単調になる!」

 

再び紫苑がブレードを弾く。

 

「故に読みやすい………!」

 

そのまま右腕のパイルバンカーを押し当てると、轟音と共に翡翠を吹き飛ばした。

アリーナの壁に叩きつけられ、衝撃によりバイザーに罅が入り、一部が欠けて翡翠の右目が覗く。

その時、バチッとバイザーを頭に固定している固定部品が一瞬放電した。

紫苑はそれに気にすることなく追撃を掛けようと翡翠に向かって飛び掛かり、

 

「う…………え…………………お兄ちゃん…………?」

 

翡翠の口から洩れたその言葉に思わず動きを止めた。

バイザーから覗くその眼にも理性の輝きが見える。

 

「翡翠…………?」

 

「お兄ちゃん……………」

 

紫苑の呼びかけに応える翡翠。

 

「翡翠っ!」

 

紫苑は反射的に翡翠に向かって近づこうとして、

 

「がはっ!?」

 

翡翠が突如展開したスナイパーライフルによって撃ち抜かれた。

吹き飛ぶ紫苑。

 

「えっ……………? お兄ちゃん………………? 私…………何を……………?」

 

翡翠は自分が起こした行動が理解できずに呆けた声を漏らす。

すると、再びバイザーの固定部品が放電を起こし、

 

「いやぁああああああああっ!? 何これ!? やだやだやだ! こんなことしたくない! 止めて! もう止めて!」

 

翡翠が頭を抱えて苦しみだす。

 

「チッ! あの研究者共! 何が完璧な洗脳よ! 簡単に解け始めてるじゃない!」

 

女が愚痴るようにそう言う。

紫苑は何とか体を起こし、翡翠を見る。

スナイパーライフルの直撃を受けたが、SEは僅かに残っていた。

 

「そうか…………あのバイザーが洗脳装置…………!」

 

そのことに気付いた紫苑は力を振り絞って立ち上がる。

翡翠は頭を抱えて苦しみながら紫苑を見ると、

 

「助けて…………お兄ちゃん…………!」

 

その言葉を最後に、再び翡翠の眼から理性の色が消える。

紫苑は翡翠を見据え、

 

「ああ…………必ず助ける…………!」

 

その思いを胸に、紫苑は翡翠に飛び掛かろうとした。

すると、

 

「悪いんだけど、今日はこれで下がらせてもらうわ! 撤退よ!」

 

女がそう命令すると、翡翠は紫苑に背を向けて飛び立とうとする。

しかし、それを黙って見ている紫苑ではない。

 

「逃がすか!!」

 

紫苑は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動させようとして…………

 

「なっ!?」

 

ボンッという音と共に、紫苑のラファールのスラスターが爆発を起こした。

 

(くっ………! ラウラを助けた時の無理が祟ったか!? くそっ! 肝心な時に!)

 

紫苑は翡翠を見上げる。

既に翡翠はアリーナの中ほどまで上昇しており、このままでは追い付けない。

 

「くそっ! ここまで来て…………! 翡翠っ………! 翡翠――――――っ!!」

 

紫苑は届かぬと分かっていながら翡翠に向かって手を伸ばす。

そのまま翡翠は飛び去ると思われたその時、

 

「…………さっき言ってたわよね? 『仲間』っていうのは自分の『強さ』の一部だって………」

 

何処からともなく声が聞こえた。

 

「ならば、わたくし達も月影さんの『強さ』の一部だという事ですわ」

 

翡翠の前に立ちふさがる2人の影があった。

 

「なっ!? きゃぁあああっ!?」

 

翡翠と共に離脱しようとしていた女が見えない衝撃に叩き落とされ、アリーナの地面に墜落する。

それは『甲龍』を纏った鈴音と、『ブルー・ティアーズ』を纏ったセシリアだった。

 

「鈴!? セシリア!?」

 

紫苑は思わず叫ぶ。

すると、

 

「行くわよセシリア!」

 

「ええ! 了解ですわ!」

 

2人は離脱しようとしていた翡翠に向かって行くと、そのまま翡翠の両腕を拘束し、地上に向かって加速する。

翡翠は抜け出そうともがくが、いくら『打鉄』の改造機とは言え、専用機2機の出力の前には成す術もなく押されていく。

 

「でぇえええええぃっ!」

 

「はぁああああああっ!」

 

そのまま2人は勢いよく翡翠を地面に押し付け、動きを封じる。

 

「月影さん! 今です!」

 

「早くしなさい!」

 

セシリアと鈴音の言葉に紫苑は駆け出す。

スラスターが故障したので全力疾走だ。

セシリアと鈴音に押さえつけられながらもがく翡翠の元へたどり着くと、

 

「翡翠! 今助ける!」

 

左手を翡翠の肩に置き、右手でバイザーを掴むと、バイザーを引きはがしながら握りつぶす。

それと共に軽い爆発音を上げながら固定部位が翡翠の頭から外れ、

 

「…………………………お兄ちゃん………?」

 

「俺が分かるな………? 翡翠」

 

その言葉に、翡翠はこくりと頷く。

 

「遅くなって………ごめんな………」

 

翡翠に対して優しい微笑みを浮かべながら抱きしめる紫苑。

セシリアと鈴音も空気を読んでその場を離れようとして……………

 

「ああもう! ムカつくわね! この役立たず!!」

 

その存在を忘れかけていた女が起き上がり、アサルトライフルを紫苑達に向けた。

躊躇無く引き金を引く女。

 

「翡翠!」

 

紫苑は咄嗟に翡翠を抱きしめ、その背で放たれる弾丸を全て受けた。

 

「お兄ちゃん!?」

 

翡翠の悲痛な声が響く。

やがて銃弾の嵐が止むと紫苑のISが強制解除され、紫苑はその場で膝を着く。

 

「お兄ちゃん………!」

 

翡翠は慌てて紫苑を支える。

 

「………大丈夫だ………今度は必ず………お前を護るから…………」

 

そう言ったとき、セシリアと鈴音が2人を庇うように前に出た。

 

「ったく! 空気読まないオバサンね!」

 

「せっかくの再会に水を差すとは失礼極まりないですわ!」

 

2人は紫苑達と女の射線軸上に陣取り、常に2人をカバーできる状態を作り、女を注視する。

すると、

 

「…………って、プルルート!?」

 

鈴音が突然驚いた声を上げた。

何故なら、その女の前にはいつの間にかプルルートが立っていたのだ。

やや俯き気味で立っており、目は前髪で隠れてその表情は窺い知れない。

右手には一夏のぬいぐるみが無造作に掴まれている。

 

「プ、プルルートさん!? いつの間に!?」

 

「………じゃなくて! 何でそんな所にいるのよ!? 早く逃げなさい!」

 

セシリアと鈴音はそう叫ぶ。

すると、女もプルルートに気付き、

 

「何よアンタ? 丸腰で何しに来たの?」

 

ライフルの銃口をプルルートの頬に押し付けた。

 

「………………………」

 

だが、プルルートは何も反応しない。

 

「どうしたのぉ? もしかして威勢よく飛び出してきたのは良いけど、やっぱり怖くなって動けなくなっちゃったぁ?」

 

動かないプルルートをそのように解釈し、気を良くしていく女は銃口を更にぐりぐりと頬に押し付ける。

その時、

 

「や、やめろぉっ!!」

 

女の行動に気付いた紫苑が焦りを隠せない表情と声色で叫んだ。

 

「それ以上プルルートに手を出すなっ!!」

 

必死に手を伸ばしながら女に制止を呼びかける。

 

「あらぁ? もしかしてこの子ってアンタの大事な子?」

 

女は必死になっている紫苑を見てますます調子に乗り、プルルートの頬に銃口を押し付け続ける。

 

「た、頼む! それ以上は…………!」

 

懇願にも見える紫苑の言葉。

 

「紫苑…………そこまでプルルートの事を…………」

 

仇ともいえる相手に対しそのような態度を見せる紫苑を見て、一夏はそんな事を呟いた。

しかし、女はそんな紫苑を眺めながら歪んだ笑みを浮かべ、今にも引き金を引きそうな振りを繰り返す。

その時、今まで反応の無かったプルルートが一夏のぬいぐるみを持っている右手をゆっくりと持ち上げ始めた。

 

「た、頼む…………! 頼むから……………!」

 

紫苑は震える声で女に呼びかける。

女はニヤニヤと笑みを浮かべながら紫苑を見ており、右手を持ち上げていくプルルートに気付いていない。

そして遂にプルルートの右手は頭上へと掲げられた。

その右手には、左腕を掴まれた一夏のぬいぐるみがぶら下がっている。

そして、

 

「頼むからそれ以上プルルートを刺激するなぁっ!!!」

 

紫苑の渾身の叫び。

 

「「「「「………………へっ?」」」」」

 

その言葉の内容のおかしさに気付いた一同が声を漏らした瞬間、プルルートの右手が振り下ろされ、一夏のぬいぐるみが地面に叩きつけられた。

ドゴォォォォンと爆発音のような音を響かせ、陥没する地面。

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

紫苑以外の全員が目を見開き、女に至っては衝撃で少し吹き飛ばされた。

思わず動きが止まり、プルルートに視線を集める一同。

プルルートの周りの地面は、プルルートを中心に半径2mほどのクレーターとなっていた。

 

「…………なんかぁ~、むかつくぅ~…………!」

 

そう言ってプルルートはゆっくりと顔を上げると、目を僅かに細めて女を睨み付ける。

 

「ッ!?」

 

睨み付けられた女は僅かに怯む。

次の瞬間、地面に叩きつけられた一夏のぬいぐるみが地響きと共に踏みつけられた。

 

「はっ!?」

 

その迫力にたじろぐ女。

更に続けて一夏のぬいぐるみが踏みつけられ、続けて踏みにじられる。

可愛いクマさんスリッパで踏みにじられる一夏のぬいぐるみ。

シュールな光景だが、逆にそれが周りの恐怖を駆り立てる。

 

「なんで~………?」

 

また2回踏みつけ、踏みにじる。

 

「シオン君と妹さんの感動の再会を~…………!」

 

「ひぃっ!?」

 

「「「「ひゃあっ!?」」」」」

 

「うおおっ!?」

 

恐怖の声を漏らす女と、プルルートの迫力に思わず声を漏らすセシリア達専用機持ちと翡翠。

更に自分のぬいぐるみが踏みつけられてるとあってか、恐怖も一押しな一夏。

 

「台無しにしちゃうのかなぁ~…………?」

 

プルルートの問いかけに、女はハッと気を取り直し、

 

「そ、そいつは私の道具だ! 使えなくなった私の道具を好きに処分して何が悪い!?」

 

女は強がるように翡翠を指差してそう叫ぶ。

それを聞いたプルルートは、更に顔を上げた。

 

「そういうこと言うんだ~……………」

 

その顔に浮かべた表情は『嘲笑』。

 

「じゃあ…………!」

 

そう言うと共に、プルルートは光に包まれた。

少女の身体が大人の女性へ。

三つ編みが解け、菫色のロングストレートとなり、服装は黒いボンテージを思わせるボディスーツを纏い、その手には連節剣を持つ。

背中には4枚の菱形の翼。

これが、プルルートが女神化した姿。

 

「ハッ!」

 

変身したプルルートは、一度連節剣を鞭の様に振り回し、剣状にして構える。

 

「アタシも好きなようにやらせてもらおうかしらねぇ~!」

 

その姿、口調共に元のプルルートからはかけ離れていた。

 

「えっ………? プルルート?」

 

「プ、プルルートさんにいったい何が………」

 

鈴音とセシリアが変身したプルルートに困惑する。

 

「……………変身しちまった………」

 

紫苑はゲンナリとして項垂れる。

 

「知ーらね………! 俺、知ーらね!」

 

この後に起こる惨劇を予想して、紫苑は匙を投げた。

 

「あ、アンタ何なのよ!?」

 

同じように変身に驚愕していた女がプルルートを指差しながら問いかける。

 

「アタシぃ~? 『アイリスハート』よぉ~。でもぉ~、覚えなくていいわぁ~………!」

 

アイリスハートはそう言うと後方に円陣を発生させ、それを足場に一気に飛び出す。

 

「体に刻み込んであげるからぁっ!!」

 

その言葉と共に剣を切り上げた。

 

「きゃぁああああっ!?」

 

猛スピードで接近し、振り上げられた剣に女は成す術無く空中へ打ち上げられる。

更にアイリスハートは地面を蹴って打ち上げた女の後を追う。

アイリスハートはすぐに追いつき、

 

「もしかして、見た目の割には淡白なタイプぅ?」

 

「ひぃっ!?」

 

女は恐ろしくも美しい………いや、美しくも恐ろしいアイリスハートの姿に恐怖を覚え、悲鳴を零す。

だが、次の瞬間アイリスハートが剣を振りかぶって女を地面に向かって叩き落す。

叩きつけられた女はよろよろと起き上がるが、

 

「ヒィ!?」

 

目の前に降りてきたアイリスハートに怯えた声を漏らす。

肩に剣を担ぎながら女を見下ろすアイリスハート。

 

「無駄に歳食ってないとこ、見せて欲しいわ……ねっ!」

 

女に容赦なく攻撃を加えていくアイリスハート。

 

「ウッフッフッフッフッフ! アッハッハッハッハッハ!」

 

笑いながら楽しむように痛めつけていく姿は見ている物にも恐怖を与える。

 

「ししし、紫苑!? プルルートにいったい何が起こったの!?」

 

「あ、あれは本当にプルルートさんなんですの!?」

 

理解できない鈴音とセシリアが紫苑に説明を求める。

同じように状況が理解できない一夏達も状況を把握するために紫苑の所へ移動してきていた。

 

「あれはプルルートが女神化した姿だ。女神アイリスハート。性格は見ての通り超ドS」

 

そう言って紫苑が説明を続けようとした所で、

 

「ぱぱっ!」

 

ピットの方からピーシェがこちらに走って来ていた。

 

「ピーシェ!」

 

紫苑がピーシェを呼ぶ。

その時、

 

「この糞がぁ!」

 

「うゆ?」

 

女が偶々ピーシェの近くに吹き飛ばされてきたため、女はピーシェに気付き、即座にピーシェを左腕で捕まえるとライフルを突き付ける。

 

「ピーシェ!」

 

一夏が叫んだ。

 

「動くな!」

 

そう叫ぶ女。

 

「動くなよ! 下手に動けばこのガキの頭が吹っ飛ぶわ!」

 

すると、アイリスハートは円陣を発生させるとそれに腰かけ、つまらなそうな表情を向けた。

 

「小者が起こす行動なんて、何処の世界も一緒ねぇ~…………つまんないわぁ~」

 

そう言いながら女を見下ろすアイリスハート。

 

「煩い! このガキ殺されたくなかったら、アタシが逃げるまで動くんじゃないわよ!」

 

女はピーシェを見せつける様に叫ぶ。

 

「アンタ! そんな小さな子を人質にとるなんて恥ずかしくないの!?」

 

「同じ女性として恥ずかしいですわ! ピーシェさんを即刻開放しなさい!」

 

鈴音とセシリアがそう言う。

 

「黙れ! それ以上余計な事を言えば、この引き金を引くわ!」

 

女は最早体裁を取り繕う余裕も無いらしい。

どんな手を使ってでもこの場を逃げるつもりだ。

 

「はぁ~…………小悪党の代表みたいな物言いねぇ~。アナタ、一ついい事を教えてあげるわぁ」

 

「は?」

 

アイリスハートの言葉に女が声を漏らす。

 

「そ~いう小悪党に限って自分の行動が墓穴掘ってることに気付いて無いのよねぇ~」

 

意味深にそういうアイリスハート。

 

「な、何を訳の分からないことを………!」

 

その女の言葉には答えず、アイリスハートはピーシェを見ると、

 

「そう言う訳だからピーシェちゃん。遠慮なく思いっきりやっちゃっていいわよぉ~」

 

アイリスハートがそう言うと、ピーシェは右の拳を握りしめ、

 

「ぴー………ぱーーーんち!!」

 

女の顎に強烈なアッパーカットを放った。

 

「ぐふぉぁっ…………!?(ぐふぉぁっ…………!?)(ぐふぉぁっ…………!?)(ぐふぉぁっ…………!?)

 

その衝撃はシールドバリアを貫き、女を怯ませる。

その隙にピーシェは女の腕から脱出すると、

 

「とうっ!」

 

光に包まれながらその場で飛び上がった。

幼い姿が女性の姿へ。

明るい黄色の髪を靡かせ、白いボディスーツを身に纏い、両腕に光の爪のクローが装着される。

ピーシェが女神化した、女神イエローハートが降臨した。

 

「ぱぱを虐める奴は許さない!」

 

イエローハートは女に飛び掛かると、腕のクローで攻撃する。

 

「きゃぁあああああああああっ!?」

 

吹き飛ばされる女。

 

「ピーシェちゃんまで!?」

 

シャルルが驚いたように叫ぶ。

 

「ああ、ピーシェも女神だよ。言ってなかったっけ?」

 

「初耳よ! って言うか、ピーシェもプルルートも仲間だと思ってたのに…………」

 

そういう鈴音の視線が向かう先は、何か行動するたびにたゆんと揺れるイエローハートの大きな胸。

更にイエローハートほどではないにしろ、十分に巨乳といえる大きさを誇るアイリスハートの胸。

 

「裏切者ぉーーーーーーーーーっ!!」

 

叫ぶ鈴音。

別に同盟を組んでいたわけでは無いのでその言葉は言いがかりだが。

すると、

 

「「はぁあああああああああああっ!!」」

 

「きゃぁあああああああああああああああああっ!!??」

 

アイリスハートとイエローハートの同時攻撃により、遂にSEが尽きてISが強制解除される女。

そんな女にアイリスハートが歩み寄った。

 

「ひっ!?」

 

座り込んだまま後退る女。

 

「さぁ~、どうやってお仕置きしてあげようかしらぁ~?」

 

何処からともなく鞭を取り出し、片手に先を巻き付け、もう片方に取っ手を持つと、ビシッと引っ張って鞭を張った。

 

「ヒィィィッ!?」

 

女は恐怖に駆られ、その場で土下座をした。

 

「お、お願い! 許して! 私はただ組織の命令で………!」

 

「言い逃れなんて見苦しい真似………アタシの前でよくできるわねぇ?」

 

「ひ、ひぃぃっ! ど、どうかこの通りです! ど、どうかお慈悲を………女王様!」

 

女は形振り構わず許しを請い始める。

しかし、アイリスハートはそんな甘い女神では無かった。

 

「女王様ぁ~? 男に尻振っても相手にもされないメス豚の分際で…………! アタシの事はぁ…………………クスッ…………! 『女神様』とお呼び!!!」

 

その言葉と共に鞭を振った。

 

「ヒィィィィィィッ!!」

 

「ほらっ! ほらっ! もっといい声で鳴きなさい!!」

 

「ヒィィッ!? ヒィィィィィィィィィィィッ!?」

 

「ほら! あなたはメス豚なんでしょぉ? 豚は豚らしく泣きなさぁい!」

 

「ヒィィィィィッ! ブヒッ! ブヒィイイイイイッ!!」

 

「ハッハッハ! アーッハッハッハッハッハ!!」

 

「ブヒィッ! ブヒィィィィッ!?」

 

「ほらっ! ほらっ! ほらぁっ!!」

 

「ブヒヒッ!? ブヒィィィィィィィッ!?」

 

バシーン、バシーンと、鞭で叩かれる音がいつまでも響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブヒじゃ分かんないわよ! ほらぁ! ほらぁっ!!」

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ! ブヒィィィィィィィィィィッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 






第18話の完成です。
色々詰め込み過ぎた所為で長くなり、更新が遅れました。
本来なら半分ぐらいで一度切るべきだったな…………
でも、女神様を出すといった手前、引くに引けなくなり…………
まあ、今回はラウラのフラグが立ったとか、妹が助かったとかいろいろあると思いますが、結局は最後のアイリスハートが全部持ってくだろうと思います。
アイリスハートのドSっぷりは上手く表現できましたかね?
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